俺は今、人生で初めてバイトの面接に来ている。
ライブハウスCiRCLE。ホームページを見てみたらしっかりとバイトを募集してた。だから、すぐに電話をかけてみたんだ。動くなら早めの方がいいと思って。
とりあえず採用するもしないも面接して決めると言われたので、こうして面接に来ているというわけだ。
「入っていいよ~」
「失礼します!」
ドアを軽くノックすると、入っていいという返事がきたので、一声かけてからドアを開ける。俺だって真面目にしなきゃいけないときは真面目なのよ? いつもふざけてるやつだと思ったら大間違いだ。もし失礼なことにそんなイメージを抱いていたという方がいるのなら、今すぐにでもお詫びしてほしいものだ。俺はやればできる子なんだもん(ただしやるとは言ってない)。
「君が長尾直斗くんだね?」
「はい」
「家は近いの?」
「徒歩で来ることができるくらいには」
「楽器の経験は?」
「ないです。もしかして、ある程度経験ないと駄目でしたか……?」
「ううん、大丈夫! 聞いときたかっただけ。採用!」
「……え?」
採用早すぎない?
◆◇◆◇◆
翌日
「今日からよろしくお願いします」
「よろしくね。それと、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
はい、今日からここで働くことになりました長尾直斗でーす。
なんかね、圧倒的人員不足だから基本採用するつもりだったらしい。このスタッフの人、月島まりなさんがそう言ってた。ちなみに面接担当してくれたのもこの人。あれを面接と呼んでいいのかは知らんけど。
CiRCLEの実質的なリーダーがまりなさんらしい。オーナーもいるらしいんだけど、ほとんど表には出てこないのだとか。何それ強そう。
「とりあえず最初のうちは、簡単な仕事からやってもらおうかな。というわけで、掃除! 私も一緒にやるから、どこを掃除すればいいのか覚えちゃってね!」
「わかりました」
まあ、とりあえず働くか。まずは掃除だな。キング・オブ・雑用の掃除だな。でも、雑用も大切だからね。雑用がいないと組織って成り立たないんだよ?
「先にスタジオからやっちゃおうか。スタジオはたくさんの人が使うからね、特にしっかりと掃除してね」
「了解しました」
◆◇◆◇◆
「直斗くんって、大ガールズバンド時代について知ってるかな?」
「テレビで聞いたことくらいなら。確か、ここら辺は特にガールズバンドが多いんすよね」
掃除していると、ふとまりなさんが話しかけてきた。
富、名声、力、この世の全てを手に入れた女、ガールズバンド女王ゴー〇ド・〇・〇ジャー。彼女の死に際に放った一言は、人々をバンドへと駆り立てた。「私のガールズバンドか? 欲しけりゃくれてやる……探せ!この世の全てをそこに置いてきた!」女たちはフェスを目指し、夢を追い続ける……! 世はまさに、大ガールズバンド時代!!
これ、今俺が考えた物語な。実際のところは絶対違うけど。まあ、今が大ガールズバンド時代と呼ばれているのは事実だ。簡単に言うと、ガールズバンドが増えてきているんだ。美咲の所属するバンドだって、立派なガールズバンドだ。薫先輩イケメンだけど。男よりイケメンだけど。
「その通り!CiRCLEも多くのガールズバンドの子が利用してるんだ!」
「なるほど。ちなみに一番可愛いと思うのは誰ですか?」
「単刀直入に聞くね……」
まりなさんが結構ノリ軽くて話しやすい人だから、俺もあっという間に慣れることができた。だからこんなこと普通に言えるわけだ。
「まあ、皆可愛い子ばっかりだよ! もしかするとそこから恋愛に発展したり……!? あ、彼女できたら教えてね!! お祝いしてあげるから!」
「まりなさんは彼氏いるんすか?」
「………………」
「ごめんなさい」
アカン、この人負け組だったわ。俺も人のこと言えないけど。
え? お前には美咲がいるだろって?あれはただの幼馴染であって、決して彼女なんかではない。そのことを忘れるな。
「き、気を取り直して……!」
「ほんとすんません」
「大丈夫! 話し戻すけど、直斗くんと同じ年齢の女の子だと、Afterglowっていうバンドがあるかな」
「アフターグロウ?」
「うん。幼馴染5人で結成したロック風のバンドなんだ! CiRCLEにもよく来てるから、もしかするとすぐに会えるかも」
幼馴染5人かぁ……俺には幼馴染と呼べるのなんて美咲しかいないからな。2人でタッグ組んでコントとかしかできないよ。俺がボケで美咲がツッコミ。ワンチャン売れるんじゃね? 美咲がやってくれるとは思わないけど。
「他にも、最近できたバンドなんだけど、Roseliaっていうバンドもあるよ! 中3~高2の子で作られたバンドなんだけど、皆実力が高くて、本格的なバンドなんだ。もうすぐ初ライブをここでやってくれるの」
「本格派か……」
最近できたのに実力が高いだなんて、相当すごいバンドだな。ロゼリアっていう英語は聞いたことないな。薔薇のローズと関係ありそうだな。
「後は、テレビで話題のアイドルバンド、Pastel*Palettesかな。近いうちにデビューライブもやるみたいだよ」
「あー、聞いたことあります。元有名子役の白鷺千聖も入ってるんでしたっけ?」
「うん」
アイドルとバンドを融合させたというなんかすごいやつもできるみたいだ。アイドルもバンドをする時代。それが大ガールズバンド時代。モン〇ー・〇・ル〇ィの登場も近いか? そもそもゴム人間に楽器は弾けるのか?
それと、白鷺千聖というのは、超有名子役だ。現在は子役ではなく女優だけど。芸能の話に疎い俺でも知ってるレベルの有名人。会えたら超ラッキーってレベルだ。東京に住んでるらしいからもしかすると会えたりしてね。世界って狭いし。
こんな感じで、俺の初バイトは進んでいき、無事に終了した。
◆◇◆◇◆
「じゃあ、バイトは上手くいってるわけなんだね」
「そーいうことだな」
ある日の学校の帰り道。俺はいつも通り美咲と一緒に帰っていた。
いい職場だ。まりなさんも他のスタッフの人たちも、皆いい人だもん。働きやすそうだ。人間関係ってほんと大事だからね。
……親を失った身としては、それが痛いほどわかるの。
「高校生活始まってからまだ1ヶ月も経ってないけど、かなり生活変化したよな。特に美咲」
「あはは……もうすぐ初ライブだってさ」
「頑張れ」
「ありがと」
美咲は大変そうだな。気が付いたらキグルミ着てバイトとバンドすることになってるんだもん。何事もほどほどを望む美咲としては考えもしなかった展開だろうね。俺も幼馴染が熊になるなんて思ってなかったもん。逆にそれ予想できてたらただの未来予知。
「…………直斗」
「どうした?」
「今、楽しい?」
「……もちろん」
「生きてて良かったでしょ?」
「だな。そこんところは感謝してもしきれないな」
「そう思うんだったらもうちょっと優しくしてほしいかな」
「え? いつも優しいだろ? 何回ファミレス奢ってやったと思ってるんだ」
「それは大体直斗のせいでしょ。女子に太るとか言ってさ」
「え?」
「え?」
今の状況、かなり充実した生活が送れているんじゃないかな? 俺の財布の中身と美咲から受ける鬼畜の所業によって削られるメンタル以外は。ちなみに財布の中身は給料入ったら多少解決するぞ! 来月が楽しみだ。
「はぁ……こいつに何言っても無駄だよね。3バカみたいに」
「お前には花音先輩がついているじゃないか」
「あの人はほんといい人だよ~。花音さんいなかったらもうバンド辞めてるもん」
「そう言ってさ、実は楽しんでたりしない?」
「しないから!」
「やーいツンデレ素直になれよー……危なっ!?」
「チッ、避けられた」
「今蹴ろうとしたよね!? 暴力反対!! 暴力変態!! ってわけで俺は逃げる!!」
「逃げるなー!!」
これでも一応美咲には感謝してます。行動に現れてないだけで。
この先何があるかなんてわからないけど、美咲に救われたこの命、有効に使わせてもらおう。それが、美咲への、そして、俺を生かしてくれた両親への最大の恩返しになると思うから。
「やべっ!?」
「え!? 直斗大丈夫!?」
「まさか転ぶとは……痛かったけど、咄嗟に手が出たから問題ないね」
「良かった」
「だな。それと、美咲さん? なんで俺の首根っこ掴んでるんですか? 俺怪我人ぞ? 今怪我したんだぞ?」
「今、家に誰もいないんだ。もし良かったらさ、寄ってかない?」
「うんそれってそういう展開……じゃねえよな!? 俺殺されるよね!? 助けて神様!!」
「あたしとするの、嫌?」
「言い方それっぽくしても誤魔化せてないからな!? 完全に殺しにきてるよね!? 命有効に使う前に死にそうなんですがそれは」
「あ、家に誰もいないのは事実だから」
「そーなのかー。てかさ、そういうセリフ知ってるのってやっぱり美咲、そういうお年頃だったりする? あ、馬鹿にしてるわけじゃないぞ。もう高校生だもんな。そういうことに興味出てくる年齢だもんな。お兄さんわかるよ」
「……今度黒服の人に制裁用の武器貰えないか聞いてみようかな?」
「怖いっすよ美咲さん」
死ぬかと思ったけど、無事生還できたというご報告だけさせていただきます。長尾直斗が悪い自業自得だバーカという意見は一切受け付けておりませんので、ご了承くださいませ。
最後のシーンより
美咲ってよくも悪くも普通だから、そういうことも知ってると思うの。主人公の前だと多少そういうネタも言える。それがこの2人、幼馴染かなって。