もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら   作:人工衛星

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天然ジゴロ共め……神(作者)の鉄槌を食らうがいい(暗黒微笑)




白兎は走り出す 3

 西へと傾いた太陽が完全に沈み込んだ夜。

 闇の(とばり)がオラリオを覆い、蒼穹は暗幕に代わる。

 暗幕に開いた穴の様に星々が瞬いて夜空を彩り、真円を描く月が地上を淡く照らしている。

 日が落ち陰るストリートに沿う様に、白光を放つ魔石灯が立ち並び、石畳を明るく照らす中。一両の馬車がとある建造物を目指して進んでいた。

 

 

 それは三〇Mにも届くかという巨大な建造物。その外観は胡坐(あぐら)をかいて座る、頭部が象の巨人像だ。

 【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)、『アイアム・ガネーシャ』である。

 今は無数の魔石灯によって照らされ、下からライトアップされた姿は、見る者に妙な圧迫感を抱かせる。

 何を思ったのか【ガネーシャ・ファミリア】の主神ガネーシャが、それまでの南国の宮殿の如き立派な館を取り壊し、ファミリアの貯蓄から大枚をはたいて建設した巨大施設。威風堂々と胸を張る姿は、『己こそがガネーシャである』と言わんばかり。

 少しは(つつし)みというものを知らないのだろうか。

 

 そんな奇怪極まる建造物の前で馬車は停まる。

 見れば、同じように停められた馬車が何両も並べられていた。

 

「到着いたしました」

「ええ、ありがとう」

 

 御者が流麗な動きで扉を開ければ、中から美しい女性が姿を現した。

 風になびく銀の髪は、芳しい香りを辺りに振り撒き、金の刺繍が(ほどこ)されたドレスに閉じ込められた細く豊かな肢体は、見る者の理性を刺激する。

 超越した美貌の主。神フレイヤである。

 

 馬車から降りたフレイヤは、流れる銀髪を手で軽く押さえながら、楚々とした動作で目の前に屹立(きつりつ)する巨人像を見上げた。

 

「何考えているのかしら」

 

 

 普段は柔和な笑みを浮かべるフレイヤも、今ばかりは真顔で。

 顔見知りと全く同じ外見の建物にある唯一の出入り口は、胡坐をかいた股間の中心だった。

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

「あれ、アンタも来てたんだ。珍しいわね」

「ええ、久しぶりね。ヘファイストス」

 

 御者が頭を下げて見送る中、建物の中に入ったフレイヤは、外側とは異なり落ち着いた内装の大広間に足を踏み入れた。

 丁度同じくらいに会場入りしたのか、かつていた天界でご近所だった知人と顔を合わせた。

 声を掛けてきたのは、燃える様な紅い髪と深紅のドレスを着こんだ麗人。

 線が細くも、鋭い顔立ちには意志の強さが見られ、その髪色と相まって、炎のような美しさを見る者に与える女性は、しかしてその美貌の右半分を黒い布で覆い隠している。

 彼女の名はヘファイストス。オラリオの『鍛冶師』業界の大手【ヘファイストス・ファミリア】の主神。

 そんな大派閥を束ねる彼女の隠されていない左目が、普段よりもわずかに大きく開かれ、彼女の驚きを表していた。

 

「少し思うところがあってね。そうだヘファイストス、後で時間を頂けないかしら」

「アタシの? 別に構わないけど。ますますもって珍しいわね」

「ふふ、ありがとう。でも今は、この宴を楽しみましょう?」

 

 そうして二人の女神は大広間の奥へと足を進める。

 広間を見渡せるように設けられたステージでは、浅黒い肌の美丈夫が、外の建物と同じように真っ赤な象の仮面を被って、宴の挨拶を行っている最中だった。

 

『――本日は良く集まってくれた皆の衆っ! 俺がっ! 俺こそがっ! ――ガネーシャだぁぁああああっっっ!!』

「はいはいガネーシャガネーシャ」

「あ、ちょっとそこの肉取ってくんね」

「はいよー」

『今回もこれほどの者達が息災な姿を見せてくれて、ガネーシャ、超・感・激ッ!! この喜びを、どうかお前達にも伝えたいっ! 今一度言おうっ! 俺g――』

「給仕さーんっワインおかわりーっ!」

「タケミカヅチくぅーん、なぁにタッパーに食べ物詰め込んでるのぉ? ホント貧乏臭いねぇ。ちょっと貸しておくれよぉ」

「や、やめろぉーっ!? それは俺の子たちに持っていく大事なごちそうなんだっ! あっ、汁物と一緒にするんじゃないっせめて仕切りを、この、やめっ……まぜまぜするなぁああああっ!?」

 

 立食パーティーの形式が取られている大広間には、貴族然とした美男美女がガネーシャのスピーチを聞き流しながら、好き勝手に飲み食いや談笑を楽しんでいる。

 この場に集まる来賓すべてが、迷宮都市内に居を構える『神』であり、下界に降り立った神々が顔を合わせるために集まるこの宴は、いつからか『神の宴』と呼ばれ、娯楽に飢える彼らを楽しませる一つとして続けられていた。

 宴の主催に決まりはなく、その時に宴がしたい神が行うもので、今回はガネーシャが主催で宴が開かれていた。

 

 久しぶりに顔を会わせる者も、そうでない者も、みながみな楽しそうに、宴の雰囲気を明るいものにしている。

 そんな楽しさの提供元(ギセイ)となってくれた者達の周りに、また一人と神々が集まっていき、場の盛り上がりは加速していく。

 

「……いや、カオスすぎるでしょ」

「あら、いいじゃない。皆楽しそうで」

「中には楽しめてない奴もいるみたいだけどね……」

 

 神々の哄笑と悲鳴が上がる大広間で、フレイヤとヘファイストスは穏やかに軽食と会話を楽しみ、各所で広げられる騒ぎを眺めていた。

 そんな二人の元へ大きく手を振りながら歩み寄ってくる女神がいた。

 

「おーい! ファーイたーん、フレイヤー、元気しとったかぁーっ?」

 

 朱色の髪と朱色の瞳。いつもは紐で結び簡単にまとめている髪型は、額の中心で分けて固められ、細かい装飾があしらわれた髪留めで、後頭部に集めて垂らしている。

 黒を基調とした礼服を着こなし男装する女神は、その体型(絶壁)からしても、よく似合っていた。

 

「ブッ殺」

「ロキ、いきなりどうしたの?」

「いや、なんか変な電波受信したみたいでなぁ……この感じだとドチビあたりか?」

「相変わらずね、アナタ。……でも、本当に久しぶりね。フレイヤにも会うし、今日は珍しいこと続きだわ」

「なんやぁ、ウチは宴やるっちゅー聞いたらどこにでも飛んで行っとるで? タダ酒呑めるしなぁ……珍しい言うたら、フレイヤ。自分、こぉゆう場に滅多に顔出さんくせに、どういう風の吹き回しや?」

「別に、大したことじゃないわ。ヘファイストスにも言ったけど、少し気が向いただけよ」

「ほーん。ま、ええわ。自分、後でツラ貸してくれへんか? 話あんねん」

「いいけど、私もヘファイストスに用があるからその後にね」

「おう、じゃあ後で連絡入れるわ」

「わかったわ」

 

 糸目がちな瞳を薄く開いてフレイヤを見るロキは、フレイヤの言葉にそう言うと、用は済んだとばかりに二人の下から去って行った。

 

「……それで、アタシに何の用があるのよ?」

 

 宴も半ばを過ぎ、頃合いと見たのか、ヘファイストスが話を切り出した。

 尋ねられたフレイヤが、薄い唇で上品に弧を描く。

 

 

「――私の【ファミリア】の子に、武器を作って欲しいのよ」

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

「エッゾさんっ! また手合わせお願いできませんかっ?」

「は? この前俺にボロクソにやられてただろうが。マゾかお前は」

「……? あの、マゾって……何ですか?」

「…………、……剣構えろよ。やるぞ」

「っはい! ありがとうございますっ!」

 

 ヘスティア様と話した日から二日たった翌朝。

 僕は原野でエッゾさんと手合わせをしてもらい、自分が強くなっていることを再確認することが出来た。

 付き合ってもらっているエッゾさんには、感謝しかない。……また何度も地面を転がされたけど。

 

「イテテ……」

「クラネル君また怪我したの? 見せて、治すから」

「あ、エイルさん。ありがとうございます」

 

 僕が原野の隅で休んでいると、エッゾさんに打ち据えられた箇所が青く腫れているのを見て、エイルさんが近づいてきた。

 エイルさんは僕の傷の程度を診て、魔法は必要ないと判断したのか、シップと包帯を取り出すと、慣れた手つきで治療をしてくれる。

 

「…………君だけは」

「はい?」

「君だけは、まともな人だと思っていたのに……っ」

「え、その……い、痛っ! エイルさんっ包帯を巻くのが強すぎますっ!?」

「これ以上仕事が増えないと思っていたのにっ! なんで三日も連続で怪我してるのぉ!? それもダンジョンじゃなくてホームでっ!!」

「すみませんすみませんっ! だからもう少し緩めて下さいっ!」

「毎日毎日治療治療治療っっっ!! もうイヤァァー――――――――ッ!!!」

「痛い痛い痛いっ! ごっ、ごめんなさぁぁぁいっ!?」

 

 まあその際ちょっとしたアクシデントはあったものの、数多の経験を重ねた彼女の腕は確かで、恩恵のおかげも合わさってすぐに腫れは引いた。

 その後、ダンジョンの五階層に潜った際。うっかりヘマをしてしまって怪我を負った僕は、帰ってすぐ出くわしたエイルさんから、力一杯ポーションを投げつけられた。

 その時の彼女が浮かべていた『いい加減にしろよ。お前』と言わんばかりの“無”の表情が、喉が引き攣りそうになるくらい怖かったのは、僕の内心に秘めたままにしておこう。

 

 

 そしてまた、一日が終わる。

 今日も自分が強くなれたと実感しながら床に就き、襲ってくる睡魔に身を任せる。

 しっかりと体を休め、日の出と共に目を覚まし、軽く運動して体をほぐした後。

 今日は一日ダンジョンに潜ろうと予定して、ホームを出る。

 

 そんな僕を、門の前で待ち続けていた女性が居た。

 

「あ、ベルさん……」

「シ、シルさん……?」

 

 その人はあの日、僕を酒場に誘ってくれた、店を飛び出す僕を呼び止めようとしてくれた――シルさんだった。

 

 

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