もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら 作:人工衛星
てか原作とほぼ一緒だし!
でも読んでくれると嬉しいよ!
「はい、これ」
「ありがとう」
作業衣姿のヘファイストスから渡された白い包みを、紺色のローブに覆われたフレイヤがお礼と共に受け取った。
「ご要望には応えられたかしら?」
「ええ、十分にね」
包みを近くのテーブルに乗せ、巻きつけられた白い布をほどいていくと、中身が顔を出した。
白樺の鞘に納められた、薄鈍色の柄を持つ直剣。
申し訳程度の装飾が
神域の職人が数日の時間をかけて作り上げた新しい武器に、フレイヤの表情も自然と緩む。
「突飛な事を言い出したアンタの要求を、可能な限り叶えたつもりだけれど……もう作らせないでよね、こんな武器」
「ありがとう、ヘファイストス。感謝しているわ」
「はあ……前にも伝えた通り、《それ》はアンタのとこの子と共に成長する武器よ。担い手と共に育ち、共に『最強』に上り詰める。勝手に至高に辿り着く武器なんて、鍛冶師からしてみれば邪道もいいとこよ」
『神の宴』にて、フレイヤが依頼したのは、“駆け出し冒険者に持たせる、一級品の武器”だった。
はっきり言って、無理難題である。
性能の良い武器ならば、それこそいくらでもある。しかし実力の
普通ならそのような依頼は突っぱねて終わりにするものだが、依頼の相手はあの【フレイヤ・ファミリア】。それも主神直々のものだ。
ファミリアとしての
難しい仕事をさせられたヘファイストスの苦言混じりの言葉を聞きながら、フレイヤは鞘から剣を僅かに引き抜く。『
しかし、フレイヤは鍛冶師の腕を疑う事は一切せずに、満足げに一つ頷くと鞘に納めた。
「貴方に頼んで良かったわ。請求は後日送ってもらうとして……ひとまずこの剣の名前を付けましょうか。……そうね、私とあの子の愛の結晶なのだから――《ラブ・ソード》なんて、どうかしら?」
再び剣を白い布で包み直したフレイヤが、顎に指を添えながら呟いた内容に、ヘファイストスの眼帯に覆われていない目が見開かれた。
あんまりな命名に声も出せずにいるが、言葉に表すのならば、『マジかよ、コイツ』と言わんばかりの表情だ。
自身の入魂の一作に、眷属の一人を彷彿とさせるような名づけをされるのは、ヘファイストス的にはかなり嫌だった。
「冗談よ?」
「…………なら、いいケド。それより、聞いていいかしら?」
「あら、何?」
フレイヤのからかう様な一言に、不安そうな目を向けたヘファイストスは、しばし逡巡したあと、目の前で笑みを浮かべる女神に尋ねた。
「なぜ、私にその武器を作らせたの? アンタの【
「だって、彼に同じ事を言っても聞いてくれなさそうだし。彼ったら、私の『お願い』が効かないんですもの」
「…………………………やっぱアタシ、アンタの事キライだわ」
「そう? 私は貴方の事好きよ」
「はいはい。この後ロキと顔合わせるんでしょ? ほら、行った行った」
「ふふっ、それじゃあお
包みを持って部屋を後にするフレイヤを追い払うように、ヘファイストスは手を振りながら、空いた手でカリカリと右目の眼帯を細い指でかいた。
パタリと音を立て扉が閉まった後。ヘファイストスは天井を仰ぎながら、ポソリと呟く。
「久しぶりにヘスティアを呑みに誘おうかしら。あの子の事だから、ロクな食生活を送ってないだろうし」
天真爛漫で自堕落を極める
一仕事を終えた後の充足感と、食えない女神との会話の徒労感に、は、と短く息を吐いていると、窓の向こうから普段とは色の違う喧騒が聞こえてきた。
ヘファイストスの耳にそれが届くと、ふと頭によぎるものが一つ。
「そう言えば、今日は祭りか……」
オラリオの街は、角度を上げる太陽と共に、少しずつ熱を帯びていく。
『
* * * *
【ヘファイストス・ファミリア】のホームを出たフレイヤが次に向かったのは、いつぞやの喫茶店だった。
祭りも近づき、通りを埋めるほどの人が見渡せる窓枠近くの席には、既に腰を下ろすモノが居た。
「待たせてしまったかしら?」
「いーや、丁度さっき来たばかりや」
「なら、良かったわ」
こちらの姿を認めると同時、気軽に手を上げた
向かい合うよう座ろうと椅子に寄れば、座る神を護衛するように、背後に立っていた金色の少女が動き、フレイヤが座りやすいように椅子を引いた。
「ありがとう」
少女に笑みを向けながら礼を言うが、当の少女はフレイヤから視線を逸らし、返事はなく。それまでと同じように先客の背後に立つ。
「アイズたーん。なんか言ってやらんと、そこのおっぱいが可哀そうやろ? こんな奴でも神やから、挨拶くらいしときぃ」
「……初めまして。……すみません」
「気にしてないわ……この子が【剣姫】ね、可愛い子じゃない。貴方が入れ込む理由が分かったわ」
フレイヤの銀の瞳と、少女の金の瞳が絡み合う。
アイズと呼ばれた少女は、感情の見えない表情のままペコリとお辞儀した後、着席を促す声に従い、フレイヤの斜め向かいに座った。
それからしばらくして、軽い世間話を挟み、フレイヤが店員に注文した紅茶が運ばれてくる。
湯気を立てる紅茶を一口含み、その香りを楽しんだフレイヤは、音を立てずにカップを皿に置いた。
「……それじゃあ、ロキ。ここに呼び出した理由を教えてくれない?」
「んぅ。ちょい久しぶりに
「嘘ばっかり」
深く被ったフードの奥で薄く笑うフレイヤに、ロキと呼ばれた神もニィと口端を吊り上げた。
それまでの雰囲気が一変し、
「――率直に聞く。今度は何を企んどる」
「何を言っているのかしら?」
「とぼけんな、アホゥ」
普段は細められているロキの目が、猛禽類の様に鋭く開かれ、フレイヤを射抜く。
それに対してフレイヤは、悠然と微笑みを返すばかりで、答える様子もない。
「最近動き過ぎやろう、自分。これまではお高いとこから下々を見下しておったくせに、ここしばらくやけにホームに行き来しおって。この前も興味ないとか言うとった『宴』に急に顔出すわ……ちょいと怪しすぎんねや」
「そんな、人聞きの悪い……自分のファミリアに顔を出すのが、そこまでおかしい事かしら?」
「じゃかあしい」
『お前が妙な動きをすると、ロクなことが起きない』――ロキの言葉の端々からそれが伝わってくる。こちらに面倒が及ぶなら叩き潰すぞ、とも。
蛇を射殺しそうな眼差しがフレイヤに注がれ続ける。
そんな視線に晒されるフレイヤは、自分にやましいところなど、何一つとしてないという様に微笑んだまま、ロキの眼差しを真っ向から受け止める。
「男か」
アイズが見守る中、永劫続くかと思われた緊迫の空間は、ロキが一言告げると共に霧散した。
ロキの問いにフレイヤは何も応えず。しかしそれが答えだと理解したロキは、長いため息を吐いた。
「はぁ……まぁたどこぞで新しい子引っかけて、お熱を上げとるっちゅーワケか? アホ臭っ」
けぇーっ、とロキは喉を鳴らす。
向かいのフレイヤへと乗り出していた体を逸らし、椅子の背もたれに体重をかける。作りの良い椅子がぎしっと音を鳴らしてロキの背中を受け止めた。
フレイヤもまた、ふ、と笑みを溢し、冷めたカップに口を付けた。
「で?」
「……?」
「どんなヤツや、今度自分の目に留まった子供ってのは。いつ見つけた?」
余計な気を回させた詫びだと、野次馬根性を丸出しにするロキに、少しの間を置いて、フレイヤは口を開いた。
「……強くは、ないわ。貴方の自慢の子たちに比べても、今はまだ」
開かれた窓から、眼下の通りを過ぎていく者達に目を向けながら、しかしそれを見ていないように遠い目をするフレイヤ。その様子は、あたかも過ぎ去った思い出を回想するようで。
「――でも……綺麗だった」
だから目を奪われた。見惚れてしまった、と。
旧知の仲であるロキでも、うすらと感じ取れるか否か程のかすかな熱が、ソプラノの声に乗せられる。
「見つけたのは本当に偶然。あの時もこんな風に……」
日の光に照らされる、西のメインストリート。
通りの向こうから、あの少年はこちらへとやって来て。
そう、丁度。こうやって上から見下ろす中を、混じりけのない白い色が銀の瞳に入り込む。
「――――」
フレイヤの動きが止まる。
その銀の瞳が、処女雪を想わせる白い髪の少年に釘付けになる。
純白の色は、ひしめく人の群れに埋もれては浮かび、また埋まる。
それを見つめるフレイヤの笑みが僅かに角度を上げた。
「ごめんなさい、この後用事があるの」
「はぁ?」
「また今度会いましょう」
唐突な別れの言葉に、ポカンとするロキを置き去りにして、フレイヤは店を後にする。
残されたロキは、しばらく呆然とした後、不可解な知り合いの行動に首を傾げた。
「なんや、アイツ……ハッ! あの腐れおっぱいっ、自分の分までウチに会計押し付けよったな!?」
「アイズ、どないしたん?」
「……いえ、何も」
主神の問いにそう答えた彼女は、その後も窓の外を眺め続けた。