もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら   作:人工衛星

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灰を被った栗鼠 2

 夜が明けて、しばらく。

 太陽の光が燦燦(さんさん)とオラリオの街に降りしきり、時計の針は朝の十時を少し過ぎたころ。

 青空は眩しい位に澄み渡り、心地よい風が僕等を包む。

 

 ――そう。僕、ではなく、僕等を、だ。

 

「ほらほら、ベル君。腰が引けちゃってるよ」

「いやいやいや、待ってくださいっ! 心の準備がまだ――」

「男の子なんだからぐずぐず言わないの! それっ突撃ぃーっ!」

「せ、せめて手を離して、あっ、ひ、引っ張らないで下さいっエイナさぁん!?」

 

 僕等は今、ダンジョンの目の前にいた。

 正確には、その上に築かれた摩天楼施設(バベル)の前に、だけど。

 

「ギルドが所有する『バベル』の中には、ベル君が良く使うシャワールーム以外にも、換金所や簡易食堂といった、冒険者のための施設もあるって知ってた? 今から行くのはそのうちの一つ。大手鍛冶派閥の【ヘファイストス・ファミリア】が営業するテナントだよ」

「そんなっエイナさん、僕【ヘファイストス・ファミリア】で買い物できるようなお金持ってきてませんよ!?」

 

 昨日、ギルドの面談ボックスで勝手に七階層に進出したことでお説教を受けた後、僕は今も繋いだ手を引っ張ってくるエイナさんから、デートのお誘いを受けた。

 

 ……実際の所は、僕の使っている防具がいまだ初心者用の物である事を気にした彼女が、今のダンジョンの攻略状況に合わせたものに更新しようという提案の内なんだけど。

 今のこの状況を客観的に見ると、内心穏やかではいられない、んだけど……エイナさんからしてみれば、これも担当アドバイザーとしての『お節介』の一つにすぎないんだろうなぁ。

 

 男として見られていない事に消沈しつつも、エイナさんと繋いでいることに、思わず胸がドキドキしてしまう。

 ここまで来る道すがら、彼女と手を繋ぐ僕へ注がれた、冒険者の男の人達の『コロスゾ』という視線も、違う意味でドキドキさせられたけど。

 でも確かに、男性陣からそんな嫉妬を向けられるほどに、私服姿のエイナさんは綺麗で、その……可愛かった。

 レースがあしらわれた白いブラウスに、丈の短いスカート。いつもギルドで目にする制服姿の少し固い印象とは異なり、お洒落で軽い、垢抜けた印象が今の彼女にはあって。

 神様達の言葉で『ギャップ萌え』とか言うソレに、僕は見事に()まってしまっていた。

 そんなこんなで、 握られた手から伝わる彼女の体温と柔らかい感触に、頭が沸騰しそうになっているうちに、いつの間にか『バベル』の四階にある【ヘファイストス・ファミリア】のテナントまで来てしまった。

 

「こ、こんなところが……」

「ふふっ、凄いでしょう? お目当てのお店はまだ上の階なんだけど、せっかくだから寄って行こうか」

 

 そう言って『ヘファイストス』のロゴが刻まれた看板をくぐり、武器と防具がそこかしこを埋め尽くす空間へと足を踏み入れる。

 湧き上がる興奮と興味心のままに、きょろきょろと辺りを見まわせば、ふいに視界に入った値札の数字に目を剥いた。

 

(……さ、三千万ヴァリス!?)

 

 トンでもない価格に、眩暈を覚える。

 額に手をあててよろめく僕に、エイナさんが苦笑しているのが分かる。

 僕が今も腰に帯びている鈍色(にびいろ)の剣。鞘に『ヘファイストス』のロゴの入ったそれを、女神様は世界に一つだけだと言っていたけれど……一体いくらくらいかかったんだろう?

 

「いらっしゃいませー! 今日は何の御用でしょうか、お客様!」

 

 今まで意識して考えないようにしてきたその疑問に、顔を青ざめさせていると、近寄ってきた店員さんに明るく声を掛けられた。

 その店員さんに目を向ければ、幼さげな可愛らしさと、凛とした美しさを見せるとても容姿が整った美しい顔に、完璧な接客スマイルを張り付けた小さな女の子だった。

 紅色のエプロンタイプの制服に身を包み、綺麗な黒髪のツインテールを揺らしてこちらに駆け寄ってくる。

 彼女が小走りする度に、その小柄な体に不釣り合いな豊かさを持った胸が振動で弾み――って、どこを見ているんだ、僕は。

 

 ……というかこの店員さん、なんだか妙に聞き覚えのある声をしているような?

 

「もしかして、ヘスティア様ですか? なんでここに……?」

「へ? 確かにボクはヘスティアだけど……って、冒険者君!?」

 

 僕の問いかけに、ヘスティア様の接客スマイルにヒビが入ったように引き攣った。

 

「な、な、なんで君がここにいるんだい!? ここはまだ君みたいな駆け出しが来るには早いだろう!?」

「いや、ちょっと寄っただけでして……じゃなくて、ジャガ丸くんのバイトはどうしたんですか?」

「あ、ああ、あそこも続けているよ。掛け持ちしているんだ。この前の『怪物祭』の後、ヘファイストスの誘いで飲みに行ったんだけど、そこでヘファイストスの奴に僕の食生活に口を出されてしまってね……」

 

 いやまあ、それはそうでしょうよ。

 流石に三食ジャガ丸くん(廃棄品)では、神様相手には気が引けて出来なかったけど、僕でも口を出したくなる。

 

「あれよあれよという間に言質を取られてしまったボクは、こうして身を粉にして働かされているんだっ! お給金は凄くいいケドッ!」

「いや、滅茶苦茶いいヒトじゃないですか」

「うるさーいっ! 大体キミ、こんなところで油を売ってていいのかい!? 隣にそんな美人を侍らせちゃってさっ! ダンジョンで名を上げて、ボクを手助けしてくれるって言葉は出まかせだったのかい!?」

「いや、そんな――「おいっ! 新入りぃ、こんなところとはどういう意味だ、コラァッ! 遊んでねーで仕事しろやぁっ!!」

「ひぃぃっ、すみませーんっ!」

「あっ、ヘスティア様ーっ!?」

 

 店の奥から聞こえてきた怒鳴り声に、ヘスティア様が顔を真っ青にすると、すぐにぴゅーん! と音をたてて店の奥へと消えていってしまった……。

 

「……」

「……」

「……上にいこうか」

「そうですね……」

 

 何とも言えない空気の中、エイナさんの言葉に頷いて、僕たちは店を後にした。

 

 

 

 

「はい、到着」

「しちゃいましたね……」

 

 バベルの八階まで移動した僕たちを、先程の四回と同じように武器と防具が所狭しと並べられた光景が出迎える。

 

「あれ……?」

 

 先程のお店とは違うのは、お客さん、つまりは冒険者の数がこちらの方が多いことと、陳列する品に付けられた値札に書かれた桁の数だった。

 

「おっ、ベル君も気付いたみたいだね?」

「はい、さっきのお店と違って、ここにあるものはどれも値段が低いですね。これなら僕にも買えそうです……でも、どうして?」

「こんなに安いのかって? それはね、ここにある作品は、【ヘファイストス・ファミリア】でも末端の――言ってみれば、駆け出しの鍛冶師の手によって作られたものだからなんだよ」

「えっ、それって、大丈夫なんですか?」

「勿論、熟練の鍛冶師の作品とくらべると、どうしてもグレードが下がってしまうけど、その分安く手に入れることが出来る。それに、ここにあるものは全て経営陣がしっかりと検品して、商品として問題ないと判断した物しか置かれてないから、品質はどれも安心していいよ」

「なるほど……」

「まぁとにかく、ここならベル君でも買える【ヘファイストス・ファミリア】の商品があるってこと。駆け出しとは言ったけれど、中には掘り出し物なんかもあったりするんだよ。さっ、行こう、行こう!」

 

 張り切っているエイナさんに先導されて店の中に入った僕たちは、二人で広く探した方がいい物が見つかるというエイナさんの言葉に従って、手分けして僕に見合った防具を探すことにした。

 

 それから、いくつかの鎧なんかを手にとっては見るものの、何か違う様な気がして元の場所に戻すのを繰り返し、奥へ奥へと進むうちに、いくつものボックスが乱雑に並ぶ区画まで来てしまった。

 木製のボックスの中身は、パーツが部位ごとに分解されたアーマーが入れられている。その一つ一つに値札が付けられているのを見るに、これらも売り物なんだろう。

 それまでの等身大の人形(トルソー)に纏わせて展示してあった物たちに比べて、壁際に追いやられて、ガラクタ同然の扱いをされている作品たちが、妙に気になった。

 

 

 ……思い出す。期待に裏切られた田舎者が独り、路地裏で膝を抱える光景を。

 華々しい表通りから、逃げる様に足を運んだ日陰の冷たさを。

 

 棚に飾られ、見通りのよい場所に並べられた防具たちとは違い、目立たない店の片隅に、押しやられたソレ等が、オッタルさんに助けてもらう前の自分と重なった。

 

 目線を下に向けたまま、ボックスの列に沿う様に足を進める内に、僕の視界にある防具が現れる。

 それに視線を向けた瞬間、まるで鷲掴みされたように目が離せなくなった。

 引き寄せられるように近づき、僕はボックスの中身を手に取った。

 

 ボックスの中から持ち上げたのは、白いライトアーマー。手に持って初めに思ったのは、予想以上に軽いという事。それでいて、防御力が損なわれている感じはなく、しっかりと保証されている、そんな気がした。

 ボックスの中を隅々まで見渡せば、手に持った胸部を保護するブレストプレートに、肘、膝、小手、腰部と、部位ごとに分かれた軽装。サイズもおそらくピッタリ。

 

 強く、惹かれた。

 何より、彩色の施されていない、素材そのままの無骨な姿が、先日まで僕を支えてくれた直剣を思い浮かばせる。

 

 ……『これ』にしよう。――いいや、『これ』がいい。

 

 

 そうして僕は、新しい防具を手に入れた。

 

 

 




17巻読んだ!

すごかった!
もうホントッッすごかった!!(著しい語彙力の減少)







治癒師の子の名前どうしよ……
もうオリキャラにしていいかな…?
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