もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら   作:人工衛星

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灰を被った栗鼠 7

「ごめんねリリ、最近調子が良かったから、ちょっと自惚れちゃってたみたい」

「いいえベル様、謝らないでください。リリの方こそサポーターにあるまじき態度をとってしまいました。お気を悪くしてしまい大変申し訳ないです」

 

 ダンジョンの通路を進みながら、僕とリリはお互いに頭を下げ合った。

 今回はリリのサポーターとしてのお試しとあって、ここらでダンジョン探索を切り上げる事になった。

 リリの先導に従い、他の冒険者達の横をすり抜けながら、安全に階層を上がっていく。

 その手際は慣れ過ぎているというくらい、洗練されていた。

 

 周囲への警戒は怠っていないものの、彼女が導き出したルートではモンスターとの遭遇がほとんどない。たまに遭遇してしまっても、それは群れからはぐれたか生まれたばかりで一匹か二匹と少数のみ。その程度の相手ならすぐに討伐することができ、僕は普段とは比べ物にならないくらい速く階層を上がってこれた。

 戦闘も少なく、あってもすぐに終わる。そんなほとんど移動だけの時間が続けば自然と口数も増える。

 

 命の危険もあるダンジョンで、僕たちは談笑するくらい余裕があった。

 

「――しかし、ベル様の強さには驚きです。本当に冒険者になってから半月しか経っていないのですか?」

「僕なんてまだまだだよ。さっきだって失敗しちゃったばかりだし」

「そんなご謙遜を……まあ、ベル様のお強さは【ステイタス】以外にも、武器によるところも確かにあるのでしょうが。『キラーアント』を一刀両断にしたのにはリリもびっくりです」

「やっぱりそうだよね。僕もこの剣には頼りっぱなしで……ちょっと自分には釣り合ってないんじゃないかなんて、少し思ってるんだ」

「……いえいえ、武器は持ち主に頼られてこそ本懐です。要は武器の力に翻弄されず、御する事が出来ればそれでいいのだとリリは思います」

「そう言うものなのかなぁ。まあでも、そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとうリリ」

 

 僕は微笑みを浮かべながら腰の剣に手を伸ばす。

 柄頭から剣をなぞっていき、鞘に刻まれた刻印に指がかかる。

 

 リリの言葉に気をよくした僕は、彼女の瞳が(らん)と輝き、視線を刻印に定めたのに気付かなかった。

 

「……武器に疎いリリでもベル様のその剣は立派なものだと分かるのですが、一体どうやって手に入れたのですか?」

「これは女神様に――僕の【ファミリア】の主神様に戴いたんだ。僕の力になる様にって。僕の一番の宝物だよ」

「……それは、良い神様ですね」

「うん……僕の大切なヒトなんだ」

 

  自然と会話が途切れ、同時に大穴に繋がる広間に辿り着く。

 地上へと続く階段を昇り、ダンジョンから帰還を果たした後。ギルドの換金所で魔石の換金を済ませると、後ろの方で待っててくれたリリに今回の報酬を渡した。勿論、二人とも平等になる様に金額は山分けにしてある。

 

「お待たせ。換金してきたよ」

「お疲れ様です、ベル様」

「これがリリの分ね。それでさ……」

 

 今回リリと迷宮探索を共にして、彼女のサポーターとしての腕の良さは十分に知ることが出来た。

 会話を通して知ったリリの明るい人柄もあって、人間関係も問題なさそうだとその場で彼女と期限なしの契約を結ぶことを決め、報酬を手渡すと同時に僕の方から申し出た。

 喜びを露わに、無邪気に飛び跳ねる彼女に笑みを漏らしながら、早速明日から探索に行く事を告げて、大きく手を振り続ける彼女に背を向けた。

 

 その後は受付に居たアドバイザーのエイナさんに声を掛け、リリをサポーターとして雇った事を報告し、少しの世間話の後僕はホームに帰還した。

 

 

 

 ――そして、翌日。

 

 本日の探索を終え、ギルドで本日の戦利品を換金した僕たちはパンパンに膨らんだ袋の中身を、おでこがくっつきそうになるくらい身を乗り出して一緒にのぞき込んでいた。

 

「「三七五〇〇ヴァリス……」」

 

 二人同時に袋から顔を上げて、お互い真ん丸にした目を合わせて。

 そろって顔を緩めると、僕たちは一緒に飛び上がって喜び叫んだ。

 

「すごいっ! すごいですよベル様っ! たったお一人でこれほど稼いでしまわれるなんてっ!」

「これもリリのおかげだよ! 一日でこんなにお金が手に入るなんて……ああっサポーター万歳っ!」

 

 すっかり日が落ちて魔石灯が灯されたバベルの簡易食堂で、他に使っている人がいないことをいいことに、僕たちは抑えきれない興奮のままギャーギャー騒いで笑い合う。

 一通りはしゃぎ終えてハイタッチを交わした後、お待ちかねの報酬の分配に移る。

 

「はいっ! これがリリの分け前ねっ!」

「わぁー……い? ……あの、ええと、ベル様? 計算を間違えていませんか? これどう見ても半分はある様に見えるのですが……」

「? そんなの当たり前じゃん、リリがいたからこんなに稼げたんだから。僕一人じゃこの半分もいかなかったよ!」

「……ひ、独り占めしようとか、思わないんですか?」

「なんで? そんな事するわけないよ。あ、そうだ! せっかくだしリリ、よかったらこれから一緒にご飯食べにいかない? 僕、美味しいお店を知っているんだ!」

 

 笑顔でリリに手を差し出せば、彼女はなぜかぼうっと僕を見上げ、やがておずおずと手を伸ばす。

 伸ばされた彼女の小さな手をこちらから掴んで、笑顔を向ける。

 

「これからもよろしくね、リリ。今日はありがとう」

 

 リリと出会えて本当によかったよ、と上機嫌で告げる僕は彼女が小さく呟いた言葉を見事に聞き逃した。

 

「………………へんなの」

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「あっ、ベルさん。今日も来てくださったんですねっ!」

「はい、今晩もご相伴(しょうばん)(あずか)りに来ました」

 

 リリの手を引いてやって来たのは、もうすっかり常連となった『豊穣の女主人』。

 お店に入ってきた僕たちを、若草色の給仕服に身を包んだシルさんが笑顔と共に迎え入れてくれた。

 

「さあさ、入ってください。席はいつもの……場所とは別にしますか?」

「ええ。今日はカウンターじゃなくて、テーブルでお願いします」

(うけたわま)りました。今ご案内しますね」

 

 シルさんに案内されたテーブル席に腰を下ろし、注文した料理が来るのを待つ。

 その間、リリと他愛もない世間話をしたり、ダンジョンでの話題で盛り上がった。

 やっぱり、ダンジョンでは彼女に一日の長がある。これまでリリがしてきた経験の多さからもたらされる体験談に僕は感心しきりだった。

 やがて、運ばれてきた美味しい料理に僕たちは舌鼓を打つ。

 

「……リリはここに初めて来ましたが、本当に美味しいですねぇ」

「でしょでしょ? 僕も団長から教えて貰って知ったんだけど、それ以来常連なんだ」

「ふふっありがとうございます、ベルさん。そう言って頂けるとミアお母さんも喜びます」

「あれ、シルさんお仕事の方はいいんですか?」

「はい。ちょうどお客さんのピークも過ぎましたし、少しくらいでしたら」

 

 料理を前に笑い合う僕たちのテーブルにシルさんが顔を出し、一休みと言う様に空いていた僕の隣に腰を下ろす。

 

「そちらの方は初めてですね。お仲間さんですか?」

「はい。新しくサポーターとして雇ったんです。……リリ、こちらはこの店の店員さんで、シルさんって言うんだ」

「リリはリリルカ・アーデです」

「はい、初めまして。私はシル・フローヴァと言います。……今後も当店を御贔屓くださいね、アーデさん」

「え、ええ。機会があれば、ぜひ」

「それにしても、ご新規さんを連れて来て頂けるなんて……常連のベルさんにはお礼を言わないといけませんね?」

「いえいえ、お礼なんて。ただ単にここのご飯が美味しいからですよ」

「そうですか? それなら私がこのお店に誘った甲斐がありましたね」

「あはは……?」

「アーデさんはどうでしょう、料理やお酒は楽しめていますか?」

「勿論ですよ。こんなに美味しい料理を食べたのはリリは初めてです」

「それは良かったです。ウチのシェフは皆腕利きで――」

 

 ……なんだろう、この空気。

 会話の内容はどこもおかしなところはない。なのにシルさんの周りだけ温度が低くなっている気がする。

 リリの事を、あれだ、言い方は悪いけど観察しているみたいな感じがする。

 心なしかリリもシルさんに少し警戒しているような……いや、僕の気のせいだ。そうに違いない。

 

「あ、そうだベルさん。この前リューから聞きましたよ? なんでも、冒険者の方とあわや一触即発の空気だったとか」

「……!」

「ええ、まあ。リューさんには危ない所を助けて頂いて……」

「ふふふっ、ご謙遜を。刃物を向ける冒険者相手に、一歩も引かずに迎え撃とうとしてたって聞いてますよ? だよね、リュー?」

 

 声を張り上げたシルさんが顔を向けた先には、給仕服のエルフの少女の姿。

 こちらの会話が聞こえていたのか、彼女は足を止めるとこちらに顔を向け、小さく会釈をしてくる。

 僕も会釈を返すと、彼女は止めていた足を動かし給仕の仕事を再開した。

 

「しかし、サポーターですか。ベルさんの【ファミリア】って、駆け出し相手のサポーターっているんですか?」

「いえ、リリは別の【ファミリア】所属で、名前は確か――」

「リリの所属は【ソーマ・ファミリア】ですよ」

「……ソーマ、ソーマ――ああ、あそこですか。確かお酒の販売もしているところですね? 何度かうちで取り扱ってた覚えがあります」

 

 とある女神様がそれを呑んで、あまりの美味しさに大騒ぎしてミアお母さんにお店から叩き出されちゃってました、と笑うシルさん。

 エイナさんも【ソーマ・ファミリア】の扱うお酒は絶品だって言っていたけど、神様相手にも通用する味だなんて、一体どれくらい美味しいんだろう

 

「でも、ベルさんもこれでソロから卒業ですね。サポーターといえど、パーティーを組むのとソロとでは負う危険も段違いだそうですし」

「ええ、リリと組むことが出来て本当に良かったと思っています。ダンジョン内での手際もいいし、知識は足元にも及ばないほどで」

「ベル様は謙虚が過ぎますよ。今日だってLv1の五人パーティーが一日かけてやっと稼げる金額を、たった一人で優に超える働きをしたばかりじゃないですか」

「だからそれはリリが居てくれたおかげであって、僕だけの成果じゃないって」

「そもそも、ベル様の実力あっての結果なんですから、もっと自信を持ってもいいとリリは思います」

「いやいや、それを言うならリリこそ――」

 

 ベル様が、ベル様が。リリが、リリがと二人して言い合っていると、コロコロと笑う声が上がる。

 

「お二人とも、仲がよろしいんですね」

 

 シルさんに僕たちのやり取りを笑われてしまい、なんだか恥ずかしくなった僕とリリは共に口を噤んだ。

 

「……でも、意外でした。ベルさんの所属する【フレイヤ・ファミリア】では、他所(よそ)の【ファミリア】の方だと気後れしてしまって、あまり組みたがる人がいないってよく聞いてましたから」

「……………えっ?」

「シ、シルさんっ!」

「……あれ、もしかして私、またやっちゃいました?」

 

 シルさんが不意に溢した言葉に、ポカンと口を半開きにするリリと慌てだす僕。

 僕たちの様子にシルさんも自分の不手際を悟ったのか、首を僅かに傾げて苦く笑った。

 

「コラァッそこの馬鹿娘っ! いつまでサボってるんだい、さっさと仕事にもどりなッ!!」

「あっ……と、というわけで、私はこれで失礼しますねっ。それじゃあごゆっくり~」

 

 女将のミアさんの怒鳴り声に、シルさんはさささっと足早に給仕の仕事に戻って行ってしまった。残された僕たちの間に流れる空気は、何ともいえないモノになっているのに。

 

「……」

「……」

「あ、あの、ごめんね? 下手に僕の所属する【ファミリア】の名前が広まると、危ない目に合うかも知れなくって……決してリリを騙してたわけじゃないんだ。そこだけは信じて?」

「……で、では、ベル様の【ファミリア】は……本当に?」

「う、うん。僕の主神はフレイヤ様なんだ。やっぱり、驚くよね?」

「ソ、ソウナンデスカー。ビックリデスー」

 

 やっぱり、【フレイヤ・ファミリア】の名前が持つ力は大きいんだなぁ……。

 動揺を隠せずにいるリリの様子に、僕は改めて自分が所属している派閥の影響力を知る。

 

「(…………やばいですヤバイですヤヴァイですとんでもないのに手を出してしまいましたというかあの時手を出せなくて正解でしたリリはよくやりました褒めてやりたいですなんでこのウサギに目を付けたんですかリリのおろかものこれゼッタイ少しでも疑われたらそこで終わりですよねああぁぁやばいヤバイこれからリリはどうすれば――)」

 

「――あの、リリ?」

「ひゃいっ!? な、何ですか、ベル様?」

「その、隠していた僕が悪かったけれど……これからも僕と一緒にダンジョンに潜ってくれないかな?」

 

 ……我ながら、都合のいいことを言っていると自覚している。

 それでも、僕はまだ彼女と一緒にダンジョンで冒険していたかった。

 彼女を()()()に、したくなかった。

 

「……と、当然じゃないですかー。やだなーベル様ってばー」

「そ、そっか! 良かったぁ、ありがとうリリ!」

「お礼を言うのはこっちの方ですよーベル様ぁ。アハ、アハハッ、アハハハハ…………

 

 秘密が暴露した後も、変わらず関係が続くことに安心した僕は、リリと一緒に笑い合って、食事を再開した。

 二人で食べる酒場の料理は、いつもよりも美味しく、何よりも楽しく感じることが出来た。

 

「美味しいね、リリ」

「ソーデスネーベルサマー」

 

 

 ソロではなく、パーティーとして。これからのダンジョン探索が楽しみになる夕食だった。

 

 

 

 




 
リリ「もう料理の味なんかわからねぇよ」
 
 
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