もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら   作:人工衛星

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白兎に雷鳴響く 2

 

 

 

 気が付けば、僕は『僕』と対峙していた。

 

 違う。正しくは『僕』じゃない。これは【僕の絵】だ。

 

 無数の文字から構成された、額から上が存在しない、僕そっくりの顔面体。

 

 違う。()()()()なんて言葉じゃ足りない。そこに在るのは、いっそ醜悪なまでに写し出された、偽ることのできないもう一人の『本心(ぼく)』。

 

 

 【僕の絵】は独りでに動き出す。閉じられていた瞼が上がり、僕の全て見透かすように文字で綴られた紅い瞳が僕を射抜く。

 そして、小さな口は開かれ――僕の声が頭の中で響いた。

 

 

 

『それじゃあ、始めよう』

 

 

 

 その言葉を契機に、僕の中の『僕』を暴き出す尋問が始まった。

 

 

『魔法とは何か』

『魔法とはどんなものか』

『魔法に何を求め』

『魔法に何を望むのか』

 

 

 それらの問いに一切の虚偽は許されず、僕は己の全てを、僕の知らなかった――知りたくなくて目を逸らしていた願望を、渇望を、包み隠すことなく白日の下へと抉り出す。

 

 全ての問いが終わり、意識が暗転する間際。

 暗くなっていく視界の先で、もう一人の『僕』が微笑んだのを見た。

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「……ん、あれ?」

 

 

 目を開けるとシミ一つない綺麗な天井が視界に映る。

 少しぼやける目をパチパチと何度か瞬きして、ふと、頭の裏が温かくて、柔らかいことに気付いた。

 

「あら、起きたの? おはよう、ベル」

「へっ? フレイヤ様? なんで?」

 

 突如頭の上から降ってきた女神様の声に、僅かに頭を動かせば、白い本を手にした女神様が僕を見下ろしていた。

 動かした頭の裏から、柔らかい感触が伝わってくる。

 

 ……もしかして、また、膝枕してもらっちゃってる?

 

 

「す、すすすみませんっ!? 僕、いつの間にか寝ちゃってたみたいでっ、そのっ!?」

「ふふふ、みたいね。慣れないことをして疲れちゃったのかしら?」

 

 慌てて上体を起こした僕に女神様は笑いながら、その手にある白い本を掲げた。

 まさか、本を呼んでいる最中に眠ってしまったのだろうか。

 悪戯っぽく笑う女神様の様子を見るに、どうやらその予想があたってるみたいだ。

 ……は、恥ずかしい。

 

 お尻の下が柔らかい。本を読んでいる時は椅子に座っていたはずなのに、いつの間にか寝台の上に移動していたみたいだ。

 女神様が運んでくれたのかな。ますます申し訳なくなる気持ちでいっぱいだ。

 

「その様子だと、本はあまり読めてないのかしら?」

「え、いえ、ちゃんと全部読んだ……はず、で……あれ?」

 

 女神様の問いに半ば反射的に返すも、確信できない自分に戸惑った。

 そもそも、僕はいつ眠ってしまったんだろう。

 

 白い本の中身は魔法の入門書だったようで、魔法に興味があった僕はすぐにのめり込んだ。

 入門書なだけあって内容が理解しやすかったから、どんどん読み進めていって、それで――

 

 ――それで……僕は、誰かと話していた?

 何かを尋ねられていた?

 何を尋ねられていた? 話し相手は、一体……?

 

「……ぅぐっ」

 

 思い出そうとすればするほど、頭の中がかき回されたみたいにぐちゃぐちゃになっていく。

 あれは、夢だったんだろうか……?

 

 

「……」

「……ふふっ、まだ少し寝ぼけてるみたいね。【ステイタス】更新も済ましておこうかと思ってたけれど、今日は止めておく?」

「い、いえ。大丈夫です。お願いします」

 

 女神様が針を取り出して神血を指ににじませる中、僕は上着を脱いで女神様の寝台に寝そべる。

 ……毎度の事ながら、女神様の寝台はすごくいい匂いがする。

 なんだか変態っぽいから、あまり嗅いだりはしないけど。毎回ドキドキしてしまって落ち着かない気分になってしまう。

 つつ、と背中に触れる女神様の細い指が、肌をなぞる度にそれは増長していく。

 

 は、はやく終わらないかな……なんだかヘンな感じになってしまいそう。

 

「はい、終わったわよ」

 

 慣れない感覚に内心悶えている内に、【ステイタス】の更新が終わったことを告げられた。

 ほっとしながら体を起こし、赤くなった顔を見られない内に上着を着直していく。

 その間に女神様が共通語に直した【ステイタス】を紙に写してくれるので、それまでには顔の赤みが引いてる様にと、必死になって精神を落ち着ける。

 

 そのかいあってか、【ステイタス】の写しが渡される頃には顔の火照りはすっかりなくなっていて、今回もドキドキしていたのを女神様に気付かれずに済んだ。はず。

 

「ふふっ、はい。これが今回の【ステイタス】ね」

「あ、ありがとうございます」

 

 いや、やっぱり済んでないかもしれない。

 笑顔で僕を見る女神様に、僕は自分の顔が再びじわじわと熱くなるのを感じながらお礼を言って紙を受け取る。そんな僕を見て再び小さく笑みを溢した女神様は、僕に向かって一言、「おめでとう」と言う。

 

「はい?」

 

「魔法、発現したわよ?」

 

 

 

 数秒ほど、その言葉の意味が理解できなかった。

 そして、理解した瞬間。バッと音がなるくらいの勢いで紙に目を向ければ――――あった。

 

 いつも空白だった【魔法】の欄に、それが。

 

 

 

 

ベル・クラネル

LV:1

力:B782 耐久:A881 器用:B738 敏捷:A803 魔力:Ⅰ0

《魔法》

【サンダーボルト】

・速攻魔法

 

《スキル》

【 】

 

 

 

 

「――~~~~~~~~~~っっ……!!」

 

 その単語を目にした歓喜に叫び声を上げそうになるのを抑えるのには、本当に苦労した。

 【ステイタス】の写しを持つ手が震える。自分の顔が紅潮し口元がニヤけているのが鏡を見ずとも分かる。

 

「フ、フレイヤ様ッ! 僕っ、魔法! 魔法が使える様になりましたっ!」

「ふふっ、そうね。おめでとう、ベル」

 

 

 うれしい。嬉しい。嬉しいっ! 本当に嬉しくてたまらない!

 あれだけ望んで止まなかった魔法が使える様になったのだ。

 そう、魔法だ。物語の英雄たちがここぞとばかりに使っていた、切り札の代名詞でもある、あの魔法!

 

 僕は、ベル・クラネルは、念願だった《魔法》を使えるようになった!

 

 

「喜んでくれている時に水を差す様で悪いのだけど、貴方の魔法について気になるところがあってね。少し考察してもいいかしら」

「は、はいっ!」

 

 喜びを噛み締めていると、女神様から声を掛けられた。

 その言葉に我に返ると同時に、年甲斐にもなく、はしゃいでいた自分が恥ずかしくなる。

 でも嬉しいのは本当なんだから、仕方がなかったとも思う。

 

「まず掻い摘んで話すのだけど、魔法って言うのはどれも『詠唱』が必要なものなの」

 

 女神様の説明を要約すると、こうだ。

 

 魔法には専用の『詠唱』があらかじめ設定されており、それを全て経る事で初めて魔法は行使できるようになる。

 『詠唱』の長さはすなわち魔法の威力であり、長ければ長いほど発動した際の効果は大きく、そして発動までにかかる時間が長くなる。そして、魔法を使う場面のほとんどは戦闘中であり、その最中に長々と『詠唱』することは困難極まる。逆に『詠唱』が短ければ魔法の効果は小さいものとなり、その分発動するまでの時間が速くなる。

 魔法の『詠唱』とは、まさに一長一短なのだ。

 

 しかし僕の魔法にはその『詠唱』がない。

 おそらく、僕が自身の魔法名――【サンダーボルト】と口に出すだけで魔法が発動する可能性があるとのこと。

 これは特異的であり、これまで多くの眷属の魔法を発現させてきた女神様も初めて見る魔法らしい。

 

 

「……まあ、詳しい事は実際に使ってみれば分かるわよ。明日にでもダンジョンで使ってみたらどうかしら」

「えっ……明日、ですか?」

「あら、もしかして今からダンジョンに行くつもりだったの? 眠っちゃってたから気が付いてなかったのだろうけど、もうとっくに日が沈んでるわよ」

「え、あ、そうですか……そうですね。明日、ダンジョンで使ってみようと思います」

 

 苦笑を向けてくる女神様に、僕はぎこちなく笑みを返すと、少しだけ会話をしてから女神様の神室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 十数分後、僕はダンジョンの中で初めての魔法に大興奮していた。

 

 

 

 

 

 

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