もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら   作:人工衛星

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二章の終わりまで書けたので投稿再開



栗鼠に鐘鳴り響く 1

 

 曲がり角の奥から聞こえる音に身構えた二人の前に、『異常事態(イレギュラー)』が正体を現した。

 

「……ム。【剣姫】、それに【九魔姫(ナイン・ヘル)】か」

「お、【猛者(おうじゃ)】か? 何故こんなところに……」

 

 リヴェリアとアイズの前に姿を見せたのは、『ラムトン』ではなく【猛者】オッタルだった。

 予想外の人物の登場に、リヴェリアとアイズはそろって口を半開きにして、ポカンとした表情を浮かべた。

 二人を前にするオッタルもまた意外だったようで、厳めしい顔の筋肉を僅かに歪め、眉を吊り上げた。

 

「貴殿とこのような浅い階層で顔を合わせるとは、珍しいことも、あった――」

 

 『仮想』敵対派閥の長とはいえ、まだ戦端を切っていない現状。加えて相手も意外そうな様子を見せた事から戦闘態勢を解き、挨拶程度に話しかけたリヴェリアだったが、彼が手に持つモノを目にすると同時に声を潜めた。

 

「……貴様、その後ろ手に持った少年を一体どうした。見るからに駆け出しの冒険者の様だが、事の次第によっては見逃せぬぞ」

「……っ」

 

 オッタルが手にしているモノ。

 それはキズの少ない新しい防具に身を包んだ、まだ若い少年だった。

 リヴェリアはオッタルを非難するように睨み、アイズはその冒険者の後頭部、白髪を見つめると表情を引き締め、再び構えをとる。

 

「……お前たちは誤解しているようだが、俺はコレに手を出してはいない」

「ならば、なぜその少年は意識を失った状態で、お前に引きずられていたのだ」

 

 オッタルが掴むその手の先には、少年が身に纏う服の襟首。

 力なく投げ出されている少年の下半身が、オッタルに引きずられながら運ばれる際に地面に擦られた事で、先程までの異音がなっていたのだろう。

 何故少年の意識がないのか、何故その少年が【猛者】とも呼ばれる都市最高峰のファミリアの長に引きずられているのか。

 それらの疑問を前にして誇り高きエルフ、その王族の末裔たるリヴェリアは【猛者】の行いを見過ごすことは出来なかった。

 

 

「コレは後先考えずに魔法を使い続け、精神疲弊(マインドダウン)を起こしただけだ」

「……なに?」

 

 気になるならば好きに()ろ。

 そう言ってオッタルは少年から手を離した。

 ベシャッ、ゴンッ! と少年は持ち上げられていた上半身を倒し、後頭部を強かに地面に打ち付けた。

 しかし精神(マインド)を使い果たした少年の意識は深く沈んでいて、その衝撃を受けても目を覚ますことはない。

 

「……外傷は無し、治療および解毒の必要性も皆無。精神疲弊(マインドダウン)というのは本当のようだな。……疑ってすまなかった【猛者】。謝罪しよう」

「フン……」

 

 目礼を向けるリヴェリアに腕を組むオッタルは鼻を鳴らす。

 リヴェリアが少年を診察している間、じっと少年を見続けていたアイズは首を傾げた。

 

「どうして、この子を連れていたんですか?」

 

 見覚えのある少年と【猛者】の関連性が分からず尋ねるアイズに、オッタルは目を向けずに答える。

 

「ソレは【フレイヤ・ファミリア(ウチ)】の新入りだ。こうなることを予期した我が主神にソレを見張る命を受けたのだ」

「……そう、ですか」

 

 オッタルの答えを聞いたアイズは、僅かに目を伏せた。

 【ロキ・ファミリア】のメンバーが【フレイヤ・ファミリア】のメンバーと接する機会などほぼなく、また、その機会があったとて零細ファミリアの者とする以上に仲間達から強く忠言されるだろう。

 いつかの日、優しい夢を見せてくれた白い兎と言葉を交わし合う事は難しいのだと、アイズは知ってしまった。

 

 

「もういいだろう。俺は先に行く」

 

 少年の瞳孔反応などを見る為、頭部横に膝を着いていたリヴェリアにオッタルはそう告げると、リヴェリアの横を通り過ぎ少年の足首を掴んだ。そしてそのまま引きずっていく。

 

 ……ズリズリ、ゴンッガンッ。

 

 引きずられると同時に頭を打ち続ける少年の哀れな姿に、リヴェリアは流石に、とオッタルの背に声を掛けた。

 

「……せめて背負ってやったらどうだ。それではあんまりすぎるぞ【猛者】」

「…………ヌゥ」

 

 

 

 

 

 それから、アイズとリヴェリアはその場に留まったまま、【猛者】と少年の二人が視界から消えるのを見送った。

 

「やれやれ。【猛者】のヤツは相変わらずのようだな。さて、私達も帰路に就くとしよう。……アイズ?」

 

 リヴェリアが【猛者】と話している間、ずっと静かだったアイズの様子を窺えば、親しい者には分かる程度にしょんぼりとした表情をしていた。

 そこからの道中、リヴェリアは気落ちするアイズに理由も分からないまま慰めの言葉をかけ続ける事になった。

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

「いらっしゃい……おや、お前さんかい」

 

 迷宮都市の片隅に(たたず)む小さな骨董品店『ノームの万屋(よろずや)』に、今日も一人の客が訪れた。

 

「お願いします」

「はいよ」

 

 客は言葉数も少なく、バックパックから袋を取り出すとカウンターに置いた。

 カウンターに乗せられた際、袋からジャラリと金属同士が擦れる小さな音が、狭い店内の壁に響く。

 赤い帽子と白い髭が特徴の土精霊(ノーム)の店主は、袋の中から一枚づつ硬貨を取り出し数えていく。

 背丈の小さな老人の、細い枯れ枝のような指は淀みなく動かされ、程無くして袋の中の硬貨は全て無くなった。

 

(しめ)て二十一万七千ヴァリスじゃな。またいつものかい?」

「ええ。全て『ノームの宝石』に換えて下さい」

「ほいほい」

 

 二人にとっては幾度も重ねてきた事なのか、淡々とやり取りが進んでいく。

 

「しかし、お前さんは随分顔色が良くなったのう。前までロクに食べておらんかったのか、あおーい顔しておったのに、今では見違えるほどじゃ」

「……」

「前まで装備の換金がほとんどじゃったのに、最近は現金との交換ばかりじゃし」

「……この店では客の詮索は無しだと記憶していたのですけどね」

「いやまあ、そうなんじゃけど……常連を気に掛けるくらい良いじゃろ? 正直な、ジジイちょっと嬉しい」

「は?」

「最近は聞かんくなったが、ちょいと前まで手癖の悪いパルゥムの娘に金品を掠め取られたなんて噂があってな、被害にあったって聞いた品物ほとんどジジイが目利きしたもんとおんなじじゃったから……のう?」

「さっきから、何が言いたいんですか?」

 

 長い眉とたっぷりに蓄えられた髭に覆われていない目尻を下げ、ニコニコと笑みを向ける老人に、パルゥムの()(いぶか)しげに表情を歪める。

 

「悪いお友達から離れる事が出来たんじゃなぁ。今のお友達とは離れたらだめじゃよ? 無駄に長生きしとるジジイからのお節介」

「……余計なお世話です」

 

 老人からの言葉に表情を苦い物に変えたパルゥムの男は、渡された宝石を懐に入れると骨董屋を後にした。

 

 

「………………本当に、余計なお世話ですよ」

 

 

 小さく呟かれた少女の言葉は、誰の耳にも入ることなく、薄暗い路地へと落ちて消えていった。

 

 

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