もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら 作:人工衛星
これからも『オタ×ベル』をどうかよろしくお願いします。
o^)┐
あれから僕は、オッタルさんと共に大通りにある喫茶店。その二階に身を移していた。
僕を縛っていた何重にも巻かれた包帯を、オッタルさんはなんてことないように素手で引きちぎり、「ついて来い」とだけ言うと、その後は一言も喋らずに僕をこの喫茶店まで先導した。
店内は木目調で温かい雰囲気を感じさせる内装で、しかしそれなりに高級指向なのか、所々に上品な飾りや、綺麗な絵が掛けられている。
そんな店に用意された席の一つ。階下の通りを一望できる窓際に置かれたテーブルの椅子に、彼女は座っていた。
その顔を、いやその白皙の肌を極力人目に曝さないよう、長い紺色のローブを羽織っている。
が、そんな布一枚では彼女の『美』を抑え込むのは到底出来やしないだろう。
証拠に、フードを深く被り顔を隠しているにも係わらず、店内の視線という視線が彼女の下に集まっていた。
僕も類に漏れず、二階に上がった時からその視線を注いでいる内の一人に入っていた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。フレイヤ様」
そんな僕を置いて、オッタルさんは迷うことなくその視線の下へ歩み寄り、
店の外の通りに視線を落としていた女性が、その声に顔を上げ――こちらに振り向いた。
瞬間、店中の息を呑む音が重なった。
フードで覆われた横顔ですらその場にいる者を魅了していた彼女が、その貌を正面に向けた為だ。
銀色の双眸。雪を想わせるきめ細やかな白い肌。スラリととおった鼻筋に、ふっくらとした桃色の唇。
思わずゾッとするくらい美しい、その美貌を向けられた僕は心臓が痛くなる程鼓動を打つのが分かった。
――このヒトは、きっと神様だ。
フレイヤ様――そう呼ばれた彼女の持つ、人を超越した美しさに僕は、誰に聞かずとも理解した。
そんな『神』が僕を“視て”、艶然とした笑みを浮かべると、その口を開いた。
「貴方の名を教えてくれないかしら?」
紡がれた高く澄み渡るその声に、僕の鼓動が際限なしに速まっていく。
「……あ、ああのえっと、――ぼっぼくのなま、えは……その……」
過去最高の緊張で、急激に乾いた口が
自分が何を喋っているかも分からなくて、もう頭が真っ白になってしまっていた。
混乱して右往左往する兎のような僕の様子に、『神』はクスリと笑みをこぼす。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ? 落ち着いて、まずは深呼吸をしてみたらどうかしら」
いっぱいいっぱいになっていた僕は、その言葉に飛びついた。
スーハー、スーハーと息をして、ぐちゃぐちゃになっていた思考が少しだけ平常を取り戻す。
「ぼ、僕の名前はベル・クラネルです。女神様」
「そう、ベル。……貴方、私の
「えっ」
礼を欠かない様――既に盛大な醜態を晒したけど――目の前の女性をまっすぐに見て、名を名乗る。
僕の名乗りに頷きを返した彼女は次いで、僕にそう言った。
見ているだけで全身が震えそうになる美しさに耐えていた僕は、その言葉に目を丸くする。
このヒトは今なんて言った?
眷属にならないかと言ったのか、……この僕に?
目の前にいる存在は『神』。地上から遥か高き天界から降臨せし
――遠い昔。『神様達』は僕たちの暮らすこの地、下界に降り立った。
その際、神様達は自身が持つ多くの権能、『
しかしいくら神様といえど、僕たちと同じように生きていくには衣食住は勿論、お金が必要になってくる。
そこで、神様は僕たち下界の者の力を借りることにしたのだ。
『
『恩恵』を得た者は、どんな人でも下等なモンスターなら撃退することが可能になり、与えられた力を磨いていけば、常人では想像もつかない様な力を持つことすら出来る。
つまり、神様は僕たちに『恩恵』を。そして僕たちは、それを授けて下さった神様に、下界で暮らしていく糧を献上することで、双方に利がある関係を築き上げていったのだ。
そして今、僕はそんな神様の一人に「眷属にならないか」と誘われている。
その上誘っているのは、あのすごく強いオッタルさんが跪くほどのお方だ。
きっと僕なんかよりも、もっと優れた人たちが既に眷属に居るだろうに、それでもお声を掛けてくれているのだ。
嬉しかった。
この上ないほどに栄誉あるお言葉だ。
これまで幾度となく、他のファミリアに断られ続けた僕にとっては、遮二無二に飛びつきたいほど美味しい話に他ならない。
けれども、僕は直ぐに首を縦に振らなかった。
一つだけ、そう一つだけ。どうしても聞いておきたい事があったからだ。
「あ、あの……その前に、ですけれど……そこにいる人は、その」
「オッタルの事? 私の眷属の一人よ。ファミリアの団長をしてもらっているわ――」
「入ります」
「――……え?」
「僕を貴女のファミリアに入れて下さい女神様っ!!」
その言葉を聞いた瞬間、僕は腰を直角すら通り越すほどに曲げて彼女に頭を下げ、心の底からファミリアの加入を
「え……ええ、よ、よろしく、ね……?」
なんだか戸惑っている雰囲気が頭の裏から感じるけど、そんな事気にもならなかった。
(――オッタルさんと同じファミリアに入れるっっ……!!)
この時の僕の頭には、それだけしか浮かんでいなかった。
こうして
* * * *
見上げれば、吸い込まれそうなほどの青空。
活気に満ちたオラリオの、南方に位置する繁華街の一角に、ソレはあった。
広大な敷地の四方の全てが壁で覆われた、【フレイヤ・ファミリア】の
「お、大きい……」
見上げなくては天辺が見えないほど高い壁。
蒼穹に境界を引くような壁が視界一面を支配するその光景に、僕はただただ飲み込まれていた。
そんな巨大な壁にふさわしい、これまた大きな門をくぐると、そこには白や黄色の小さな花が揺れる、美しい原野が広がっていた。
外界を壁で仕切られた原野の中央はなだらかな丘になっていて、その上には『神殿』、あるいは『宮殿』と呼ぶべき巨大な屋敷が立っている。
門から眺める光景は、都市の中にあって周囲と切り離された空間という事もあり、まるで一枚の絵画の様でさえある。
そんな場所で、ヒューマン、エルフ、獣人と言った多種多様の人種が入れ混じり、雄叫びと鮮血を飛ばしながら激しい剣戟を繰り広げていた。
斬られ、斬りつけ、血を吐きながら闘争を続ける彼らは、まるで互いに殺し合っているのではと思わせられる。
僕はこの時点でちょっと、いや大分腰が引けてしまっていた。
しかしそんな過激すぎる訓練(?)が続いたのは、彼女が門をくぐる前までであった。
フレイヤ様がその美しい原野に一歩、足を踏み入れた瞬間。それまで怒号を上げて武器を振るっていた彼らは、一糸乱れぬ動作でその場に膝をついた。
『『お帰りなさいませ、フレイヤ様っ!!!』』
「ええ。みんな、頑張っていて偉いわね」
『『勿体無きお言葉にございますっ!!!』』
先程まで相手を殺さんとばかりに争い合っていた人たちが、異口同音に声を
「そうそう、今日から貴方達と同じ、私の眷属になる子を紹介するわ。――ベル」
「……へっ? あっ、ハイッ! ベル・クラネルですっ、冒険者になりたくて村から来ましたっ、よ、よろしくお願いします!」
『『――……チィ――ッ!!!』』
話を振られ、慌てて挨拶をした直後。
なんだか揃って盛大に舌打ちする音が、聞こえた気がシタ。
移動を再開したフレイヤ様達の後を追って、丘の上の屋敷に向かうと、両開きの扉が閉まる寸前に、それまで以上の怒号が僕の耳に届いた。
扉が閉まり、外の音が遮断された後も、僕は扉に顔を向けていると、後ろから声を掛けられた。
「こちらにいらっしゃい。ベル」
その声に振り返り、謝罪の意味を込めて頭を下げた後、僕はフレイヤ様の後ろを追う。
しばらく屋敷の中を進み、扉の前で足を止めたオッタルさんをその場に置いて、一室に入るフレイヤ様の背に続く。
その部屋では、最低限の調度品――それでもその一つ一つに見たことないくらい豪華な装飾がされている――が部屋の隅に追いやられ、その代わりに天幕に覆われた巨大な
「なっ――えっ……えええっ!?」
綺麗なお姉さんと二人きり。それも寝台のある部屋で。
年頃のたくましい妄想力が、僕の顔を急速に紅潮させる。
そんな僕を視て女神様はクスクスと笑い声を上げて、寝台に上がっていった。
「ほら、もっと近くに来て?」
「は、はいぃっ」
これはなにかの間違いか、もしやこれまでの全てが夢だったんじゃないのか。そう不安になりながらも天幕をくぐると――服を着たままの女神様が寝台の中央で、シミ一つ見えない綺麗な足を崩して座っていた。
「さあ……服を脱いで、ベル」
「……っ!」
嗚呼、天界のおじいちゃん。僕は今日、大人の階段を昇ります……っ!!
「私達の『
…………………………あ、やっぱりそうだよね。
うん、知ってた。期待なんかしてなかった。
もしかしたら『そういう事』になるんじゃないかな。なんて――
コレッポッチモオモッテナカッタ。
「…………」
「ふふっ、どうしたの? 耳が真っ赤よ」
静かに上着を脱いで、畳み終えた後。女神様に言われるままに寝台に乗ってうつ伏せになる。
体が沈み込むほど柔らかい敷布団を小さく弾ませながら、近寄ってきた女神様は僕の背中に指を触れさせた。
「それじゃあ、貴方を私の
そして僕は数分の後、正式にフレイヤ・ファミリアの
* * * *
「ありがとうございました! 失礼します!」
そう言って新たな眷属は部屋の外へと姿を消した。
まだ誰の手も付けられていない、純白の無垢な魂。
それを手に入れ――自身を刻み込めたのはただただ喜ばしいことだ。
【ステータス】を刻む前に少しからかってみれば、その魂同様、おかしくなってしまうほど
あの様子を見るに、『あちらの方』もまだ経験がないのだろう。フレイヤは
「ふふ……本当に綺麗だった」
その透き通った透明な色は、間近で見ても――いや、近くで見れば見るほど美しく、どこまでも純粋であった。
あれほど素晴らしい魂は、永遠不滅のフレイヤをして、見たことがない。
「それよりも……」
そう、今はなによりも、彼の【スキル】。
その者の積み重ねた【
【
・早熟する。
・
・
すでにベルの魂に深く刻み込まれていた【
フレイヤは己の
この希少な【スキル】がなぜ発現したかを、フレイヤは考えるまでもなく察した為である。
「…………むぅ」
そして、今日から三日間。オッタルはフレイヤの側付きから外されることになった。