もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら 作:人工衛星
【フレイヤ・ファミリア】の
四方を壁に囲われ外と
中央へと行くにつれて、なだらかな
館の外壁から突き出したテラスの見晴らしは素晴らしいもので、丘の下の原野の様子を一望することが出来る。ここで自身の眷属たちがその輝きを高め合う様子を眺めるのが、最近のフレイヤの
「オッタル、あの子。また強くなったわ」
「
「ええ」
キラキラと光を反射する髪と、シミ一つない
その眼差しは、今も眼下で繰り広げられている上級、下級の
「見違えたわ。【ステイタス】がどうこうじゃない。魔法と言うきっかけを一つ手に入れただけで、あの子の輝きが一層鮮やかになった」
今もまた、襲い掛かる戦士たちに立ち向かい、そして打倒していく姿にフレイヤの目は引き付けられている。
少年はフレイヤの眷属の中で最も新参だった。入りたての頃はそれこそ、それまで戦ったことも、武器を握ったこともないと丸わかりな様子で、体格も動き方も
それが今。たった半月足らずで少年の何十倍もの鍛錬と経験を積んできた歴戦の勇士達と対等に渡り合い、そして
「でも、一つだけ……一つだけ、輝きを邪魔する
飛躍ともいえる程の、異常な成長速度。
素晴らしい成果。高まる期待。
それだけに、目につくものがある。
フレイヤの瞳に映る純白の光を、押さえつける様にまとわりつくナニカ。
それを邪魔する存在が、どうにも
そう言わんばかりの表情で、フレイヤは親指の爪をカリ、と甘く噛む。
後ろで待機していた侍女の一人が動き、白磁のカップに淹れた紅茶をテーブルに置いた。
指示もなく目の前に置かれた紅茶に、自身のらしくない
はしたなかった行いを包み隠すように、普段よりもなお一層、優美な動きでティーカップを持ち上げ、紅茶を一口。
ふぅ、と喉を通った熱と、僅かに色づいた頬の赤みを逃がすように息を吐く。
「……そうね。十分に足る器はある。けれど、芯が足りない。いえ芯そのものはある、でもそれが曇って見える」
取り成すように続けられる言葉は、独り言のように侍従たちの耳に届けられていく。
何かが欠けているのか、邪魔をしているのか
ソレが何なのか、原因は、正体は。フレイヤには分からない。
分からない故に手の出しようがなく、その事がどうにももどかしい。
感情が動きにでてしまったのか、ソーサーに戻したティーカップが、チン、と思った以上に大きな音を立てた。
フレイヤはそこで少年から視線を切り、振り返る。
「オッタルは何かわからない? 同じ男の子でしょう?」
己の側で佇む従者に意見を求める。
直立不動を維持している従者は、僅かに考え込む様子を見せた後、主人の問いに答えた。
「
「因縁……?」
「はい。あれが入団してから間もなくの、ミノタウロスとの一件……
「つまりは、トラウマ……本当に子供たちは
フレイヤ、オッタル両人共に、少年本人の口から聞いた、彼とミノタウロスの話。
調子に乗った末の、惨敗という言葉すらも生温い、敗北の記録。
なるほど。とフレイヤは納得してその細い
オッタルの答えはフレイヤの悩みを晴れさせた。それならば少年が抱える淀みにも説明がいく。
「それなら……あの子を縛る
「因縁と決別するというのなら、己の手で断ち切る他に、方法はありますまい」
主人の問いに、従者は自明の理であるときっぱり答えた。
「……さしもの貴方も、
「男はみな同じ
フレイヤの
「男はみな同じ
しかしフレイヤは、ポソリと小さく呟いて、少しだけ、ホンの僅かに眉を寄せた。
それまで抱えていた悩みが解消され、幾分かすっきりとした表情を見せたフレイヤは、まだ温かい紅茶に口付け――背を持たれた椅子の肘掛けに、指でトン、トンとゆっくりとしたリズムを取り始める。
「ねえ、オッタル」
「は」
「あの子ってね、私と居る時いつも貴方の事ばかり話すのよ?」
「……」
従者は口を閉じた。
姿勢は芯が通った直立不動のまま、獣人を証明する猪耳だけが緊張を表すようにピクリと震える。
「いつ、どこで貴方と顔を合わせて、どんなことを喋ったとか、何を教えて貰っただとか、そんな事ばかり」
女神は微笑む。
美しい笑みだ。
曇り一つない、今の空のような透き通ったような笑顔。
規則正しい
「貴方みたいになりたい、なりたいって。そういうところも可愛く思うのだけれど……いずれ、あの子も貴方みたいになっちゃうのかしら?」
「至らぬこの身がお気に障られたのなら、その償いは如何様にも――」
「別に気にしてないけど?」
「……」
「別に、全然、気にしてないけど?」
(((すごく気にされている)))
オッタル他、その場に控えている数名の侍女全てが、繰り返された言葉に心の声を一つにしたが、それを口に漏らす者はいなかった。
オッタルの武人然とした、引き締められた顔が、この時ばかりは僅かに――困り果てたように――揺れた。頭の上のケモ耳もへにゃりと力なく伏せられる。
今も原野で続く大乱闘の音は不思議なほどに遠くなり、ひじ掛けを指が叩く音と、紅茶の入った茶器がたてる音だけが、
「オッタル」
「はい」
「ちょっと、考えたのだけれど」
「御身の願いならば、この身を賭して事に当たりましょう」
「内容は聞かなくてもいいの?」
「御身のお役に立てることが、何よりの喜びにございます」
「そう」
真冬のような――
「じゃあオッタル、貴方があの子を鍛えてあげて」
「……自分が、ですか」
常時
これまでに数度あった、少年への手出しから
「だって、私より貴方の方が今のあの子の事、分かっているんだもの」
それは、
どこか投げやりになったフレイヤが、
主の威厳が、品格がといつも小ウルサイ侍女たちが困った顔を浮かべる中、フレイヤは半ばに開いた瞳で原野で戦う少年の姿を見つめる。
足を抱え、背を丸め。
「まるで通じ合ってるみたいで、嫉妬しちゃう」
口の中で溶かすように、小さく呟かれた言葉と同時に、視線の先の少年は