もしもベル・クラネルがフレイヤ・ファミリアに入ったら   作:人工衛星

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白兎は『おう』を仰ぐ 4

 あれから数度の戦闘を経て、ゴブリンの他にもコボルトと呼ばれる二足獣のモンスターを倒し、今はその魔石を取っている所だ。

 今も後ろに立っているオッタルさんは、最初の戦闘後からは一切口を開かずただモンスターを倒す僕を見ているだけだった。

 

「……ここらが潮時か」

 

 魔石を採取し、腰に吊った袋に入れ終えたところで、オッタルさんはそう呟いたのを聞く。

 

「え? まだいけそうなんですけど……」

 

 これまでの戦闘が全て一体ずつだったのに加え、『恩恵』のおかげか、基礎体力も強化されているようで、多少の疲労はあれどまだ余裕があった。

 だからか、その探索の切り上げを意味する言葉に、首を傾げながら反対の意を示すと、そんな僕をオッタルさんは睨んだ。

 

「ダンジョンでは常に余裕を持った行動を心掛けろ。死にたくないのならな」

「は、はい、すみません……」

「今の状態を覚えておけ。今後の目安になる」

 

 そう言って、オッタルさんは踵を返す。

 僕は先達の判断に従い、その背を追っておとなしく来た道を戻って行く。

 

 

 しばらくして、そろそろ地上に上がる階段に近づいた所で、オッタルさんは再び口を開いた。

 

「……お前は、なぜ冒険者を志(こころざ)した」

「え、えっと……」

 

 唐突に聞かれた質問の内容に、僕は口をもごつかせる。

 焦る心情を表してか、頭頂部から背中にかけて、冷汗が流れるのが分かった。

 

 ……どうしよう、バカ正直に『美少女との出会いを求めて!』とか、『ハーレムを作りたくて!』なんて、この人の前で言えるわけがないし……

英雄(あなたのよう)になりたいから』なんて言うのは、もっと言えない……っ!

 

「どうした、言えない様な理由か」

「い、いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

 

 迷った挙句、僕は村を出る時からずっと、胸の内に沈めていた想い(モノ)をさらけ出した。

 

「…………『家族』が、欲しかったんです」

 

 その一言を口に出せば、後は勝手に口が動き出した。

 

「僕を育ててくれたおじいちゃんが、モンスターに襲われて……一人になってしまって、悲しくて。……そんな時、おじいちゃんがよく言っていた言葉を思い出したんです」

 

「『オラリオには何でもある。行きたきゃ行け』って……」

 

「神様の眷属に――【ファミリア】に入れば、そこではみんな家族みたいなものだって。絆が生まれるんだって、そう話に聞いたことがあったから、だから、僕は……」

 

 最後の方になるにつれ、オッタルさんに向かって言うのが気恥ずかしくなって、顔を俯けてしまった。

 目線を下に向けながら進んでいると、僕の言葉を聞いたオッタルさんが足を止めたのが分かった。

 つられて歩みを止めた僕に、オッタルさんの言葉が投げられる。

 

 

「……他はどうか知らんが、俺達のファミリアは、お前の想像しているようなものではない」

「え? それは、どういう……」

「俺達は皆、フレイヤ様の寵愛を争い合う(かたき)同士である、と言う事だ」

 

 それからオッタルさんが語りだした【フレイヤ・ファミリア】の内情に、僕はただ立ち尽くした。

 語られる言葉から思い出すのは、ホームの原野で絶えず行われる団員同士の闘争。

 訓練だと思っていたモノは、高位の回復薬や腕のいい治療士(ヒーラー)を備えてはいるものの、その実ほぼ『殺し合い』のそれだと言う。

 ダンジョンに潜る際は、実力の近い者同士で協力するらしいけど、一旦地上に出ればそれまで生死を共にした者でも本気で剣を向ける。

 

 

 それもこれも、全てフレイヤ様の為。

 

 ――僕の様に、行き場のない時に拾われた人。

 ――孤独の中で、手を差し伸べられた人。

 ――自分ではどうしようもない状況から、救ってもらった人。

 

 ――――『貴方が必要だ』と、言って貰えた人。

 

 そんな人達がフレイヤ様に恩を返す為に、フレイヤ様に相応しい自分になる為に、強さを求め続けるのだと言う。

 フレイヤ様の眷属としてダンジョンに潜り、このオラリオで名を上げれば、その主神であるフレイヤ様の名声も上がり、モンスターを倒すほど、金銭という形でも恩を返せる。

 そうして強くなればなる程、フレイヤ様からも自身を必要としてもらえるらしい。

 

 そして、フレイヤ・ファミリア最強の者はフレイヤ様により多くの寵愛が与えられ、敬愛する女神の隣に立つことを許される。

 団員の誰もがその隣を欲して己を鍛え、他に渡すまいとしのぎを削り合う。

 切磋琢磨という言葉では収まらない、酷烈なまでの【ファミリア】内競争。

 それが【フレイヤ・ファミリア】での構成員の関係性。

 僕が期待していた『家族(ファミリア)』とは、全く異なる派閥の形。

 

「俺達の間には、団員同士の絆など存在しない。在るとするならば、それはフレイヤ様の寵愛。そしてあの方に与えられる愛に応えるという唯一の目的が、俺達を繋いでいる」

 

 オッタルさんの言葉以外の音が遠ざかり、耳の奥でキーンと音が鳴り始める。

 そして、決定的な一言を告げられた。

 

 

「……(ゆえ)に、お前が【ファミリア】に求める物は手に入ることは無いだろう」

 

 

 その言葉に、胸がきしむような音がして。僕は顔を上げないまま、思わず胸を強く掴んだ。

 村に居た頃の、小さな家でおじいちゃんと共に過ごした温かい思い出。

 (うしな)ってしまったその温かさがもう手に入らないのだと、そう言われた気がした。

 しかし、続くオッタルさんの「だが」という言葉にそれは否定されることになる。

 

「フレイヤ様ならば、お前の求める形の『愛』も与えて下さるだろう」

 

 その一言に、僕は顔を上げる。

 いつのまにかこちらに振り返っていたオッタルさんの視線が、真っ直ぐに僕を貫いていた。

 

「強くなれ。フレイヤ様の期待に応えろ。それがあの方に『愛』されたお前の義務だ」

「……はい」

 

 オッタルさんの目を見上げながら頷きを返す僕に、オッタルさんは再び口を閉じて体を回すと、歩みを再開した。

 

 それからはオッタルさんが喋ることも、モンスターと遭遇することもなく、無事ダンジョンから出た後は、オッタルさんと別れ、ギルドで受付嬢に魔石の換金を教えて貰った。

 初めてになる自分の稼ぎで、露天のジャガ丸くんを小さな女神様から購入する。

 受け取る時に少し世間話をしたところ、その女神様はファミリアを立ち上げるために眷属を勧誘しているらしく、僕にもどうかと聞いてきた。

 既に恩恵(ファルナ)を刻んで貰っていることを告げると、残念そうに項垂れてしまい、その幼げな容姿も相まって罪悪感を覚えてしまった。

 女神様から手渡される温かいジャガ丸くんに応援の声を返し、ホームに戻る。

 顔ぶれを変えながらも、血と雄叫びが飛び続ける原野を遠回りに抜けつつ、自室に入るや否や、戦闘で被った血や埃に汚れた身を清めるのもおざなりに、寝台の上に倒れ込んだ。

 自分で思っていたよりも疲労が溜まっていたのか、直ぐに意識が睡魔に捕らわれ、深い底に引きずり込まれてしまった。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 ……――朝日と共に意識が浮上する直前、僕は夢を見た。

 

 

 目が覚めれば、掌に掬い上げた水の様に、記憶から零れ落ちる泡沫(うたかた)のひと時。

 

 

 

 一面が穏やかな白に包まれた場所に、僕は立っている。

 目の前には、白に浮かぶようにして、そこだけ切り取られたように風景が広がり、その中で二つの人影が寄り添っていた。

 

 

 少年がいた。

 感情豊かな少年だ。

 笑い、驚き、悲しみ、喜ぶ。

 ころころと表情を変えては、頬を染め、無邪気に破顔する。

 胸の中でもたれる少年が顔を上げれば、それを膝にのせて本を広げる老翁がいて、目を輝かせる少年に笑みを浮かべながら英雄譚を読み聞かせていた。

 

 幼い僕と、今はもういないおじいちゃんとの、なんでもない日常。

 もう二度と味わう事の出来ない、温かな一時。

 目の前の光景に、どうしようもなく心が安らいで、どうしようもなく胸が詰まった。

 

『……ベル。お前は――……』

 

 おじいちゃんの言葉が終わる前に、その光景が遠ざかっていく。

 やがて視界がぼやけ、全てが白に染まる。

 

 意識が、浮上していく。

 

 

 

 

 

 目を覚ました僕は、何故か瞼に溜まっていた水の理由に首を傾げながら、指で拭った。

 窓から差し込む日の光に体を起こし、背を伸ばす。

 身支度を整え、直剣を腰に吊り下げ、扉を開ける。

 

 

 僕が冒険者になってから、三回目の朝が始まった。

 

 

 

 







































おまけ

 ~あったかもしれない、ギルド受付嬢たちの裏話~

狼人(ウェアウルフ)の受付嬢:ローズ「ありゃ早死にするね。間違いないよ」
ハーフエルフの受付嬢:エイナ「ロ、ローズさんっ」
ローズ「見込みがないってアンタもわかるでしょ、チュール? もう何年ここで働いているのよ」
エイナ「……」
ローズ「アドバイザーの要望は?」
エイナ「女性で、エルフです」
ローズ「ご希望はエルフだってさぁ! ソフィやる?」
エルフの受付嬢:ソフィ「結構です。労力の無駄は嫌なので」
エイナ「ローズさん、ソフィさんっ! そうやって決めつけるのは、どうかと思いますっ」
ローズ「ふーん、それなら賭ける? あの坊やがどれくらいもつか」
ソフィ「私は半年で」
他受付嬢「ならあたしは二か月」「半月かなー」「いや、流石に四か月はいくんじゃない?」
ローズ「参加するんなら、私のところに金貨もってきなさいよ!」
エイナ「み、みなさんっ!? 不謹慎です!!」
ローズ「とか言ってチュールもあの坊やが冒険者として食っていけるなんて思ってないんでしょう?」
エイナ「……いいですっ! それなら私が。彼の担当アドバイザーになります!」
ローズ「ちょ、ちょっと、チュール?」
ソフィ「貴方、上層部から他の案件押し付けられて、担当冒険者を持つ余裕なんてないでしょう?」
エイナ「一人くらいなら面倒を見られます! それに、ハーフといっても私もエルフですから!」

   「――私が勝ったら金輪際、こういった賭け事は止めてもらいますからね!」


ローズ「……はぁ、ったく、後悔するんじゃないよ」
エイナ「しません。そんな事にはさせません!」
ヒューマンの受付嬢:ミィシャ「ねえエイナ。ちょっと気になったんだけど、その冒険者さんはどのファミリアに入っているの?」
エイナ「え? ああ、そういえばそこは目を通してなかったかな、ええと……フ、フレイヤ……ファミリ、ア?」

全員「「「……えっ?」」」

ローズ「じょ、冗談だろ?」
エイナ「い、いえ、本当です」
ソフィ「真偽のほどは後で彼のファミリアに確認を取ればいいとして……そういえばローズ、貴方【剣姫】の際も同じ事言っていませんでしたか?」
ローズ「……言ったけど、何だよ」
ソフィ「いえ、特には。……ああ、賭け事でしたか、私は止めておきます。エルフの血に恥ずべき行いはしない主義ですので」
 「あたしも……」「うんうん、不謹慎だしねー」「ホントホント」
ローズ「き、きたねえぞお前等……くそっ、もう後に引けるかっ半年だ、半年っ! それ以内だったらお前等全員から給金一割貰うからな!」
ソフィ「でしたら、半年を越えたらローズが私達全員に奢るということで」
 
 「「「異議なし」」」

エイナ「いや、ですから賭け事は止めて下さいっ!」
ミィシャ「あわわわ……」


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