IS〈インフィニット・ストラトス〉 射手の男 作:運命の担い手
ブン!ブン!ブン!
入試試験から少し過ぎて俺は朝から竹刀を借りて素振りをしている。
「ふう……。なんとかまともに接近戦をできるようにしないとな」
入試試験ではっきりしたのは銃や弓といった射撃武装はうまく扱うことはできるが、剣や槍といった近接武装を扱うのは並みの人より下手だと言うことだ。
「おー坊主。朝から素振りとは元気だな」
「おはようございます、孝司さん。近接武装を扱うのが下手なので素振りでもして少しでもうまくなりたいので」
「ほうー……」
その後、素振りをしているうちに孝司さんはどこかに出かけたそうだ。
「あら?士郎君まだやっていたの?」
「はい。楯無さんは仕事終わったんですか?」
「そうよ。学校は休みでも生徒会は休みじゃないし、書類が多いのよ。それをようやく終わったところなのよ」
「ご苦労様です」
楯無さんは生徒会長をやっているから学校が休みでも生徒会の書類仕事はあるそうだ。ここ数日、籠りっきりだったからあまり見ていなかったな。
「そうだ。稽古付けてあげようか」
「え?」
「意外そうな顔しているな。こう見えてもロシア代表なんだから色んな武術をしているのよ」
「そうですか。……今からでもいいですか?」
「いいわよ。それじゃ、道場に服があるからそれを着て待ってね」
風のように楯無さんは用意するため部屋に戻った。タオルで顔を拭き、道場に向かった。
「そうじゃ、準備はいい?」
「いつでも」
俺と楯無さんは互いに袴である。道場には俺、楯無さんの他に虚さん、簪、本音がいる。ちなみにIS学園の運動着はブルマだそうだ。絶滅したと聞いていたがまさかまだあったのか。
「お嬢様、くれぐれもやり過ぎないように注意してください」
「ケガしないようにね……」
「骨は拾ってあげるよー」
虚さん、それは本当ですか?簪、ありがとう。おいこら本音、死ぬ前提になっているぞそれは。
「その前に質問していいですか?」
「なにかしら」
「なぜ竹刀ではなく木刀なんですか?危険だと思いますし」
「そ・れ・は、より実戦に近くしないといけないでしょ。ISの訓練でもあるのよ」
「せめて防具は付けないと……」
「さて、勝負の方法だけど、木刀が私の体に当たれば士郎君の勝ち」
「人の話を聞いていますか?」
「逆に士郎君が続行不可能になったら私の勝ちね。それでいいかな?」
「無視ですか。まあいいですよ。でも、楯無さんが余計不利になるんじゃ……」
「心配しなくてもいいよ。どうせ私が勝つから大丈夫」
「………………」
いつもの笑顔だが、瞳は絶対的な自信を持った目だ。もしかすると、千冬さんと戦ったあの時のように集中しないと一瞬で負ける。そんな気がした。
「それじゃ、行きますよ」
「いつでも」
顔に浮かべ笑みを崩さない。すぐに消してみせる!
スッ……
俺の一番速い速度で一気に楯無さんまで1メートルまで近づいた。狙うのは腹。取った!
ガッ!!
「なっ!?」
いとも簡単に楯無さんが持つ木刀に止められた。
「狙いは良かったけど、まだまだね♪」
しかも笑顔でだ。逆に俺が腹に決められた。
「ぐっ!」
動作が見えなかった。いや、正確には予備動作を極端に抑えて見えにくかった。
「ふう………」
「まずは一回」
腹をさすって一度楯無さんから離れる。今の攻撃で殺すことが可能だと分かった(まあ、実際殺しはしないはずだ)。
千冬さんと生身で戦ったら読んで字の如く瞬殺されそうだな。実力はおそらく、千冬さんより下。だけどそれでも俺より遥かに強いことは確信している。しかし、困ったな。
迂闊に手を出せないから状況は
「………………」
「ん?来ないの?それじゃ私から――行くよ」
消えたと思ったらいきなり目の前に接近されていた。
これは確か、古武術の奥義の一つ、『
詳しくは知らないがリズムに合わせて行うことだ。つまり、心臓の鼓動であったり、呼吸のタイミングなどのことで、そのタイミングに合わせて一瞬出来る空白の時間を使う技術が『無拍子』だ。
びし、びし、びし、と両肘、両肩、両膝に軽く当てられ、体が強ばり、その内にまた腹に一撃をもらった。
「つぅ…………」
そのまま後ろに倒れた。すぐに体を起こしたが、足元がふらつく。
「これで二回よ。まだやる?」
襟元、息一つ乱さず余裕の笑みをこちらに向ける。
「当然。まだ始まったばかりですよ……!」
一旦目を閉じて集中する。心を落ち着かせて、二度深呼吸し、ふらつきをなんとか抑える。このままではやられるだけだ。
ならどうすればいい…………
せめてイメージだけでも強くなろう。イメージするのは最強の自分。外敵などいらない。戦う相手とは自身のイメージに他ならない。
だが、これだけでも足らない。なにかきっかけになる言葉を思いつかないと……
―――体は剣で出来ている―――
よし!この言葉がしっくりくる!
目を開き、全神経を楯無さんに向ける。
「あら、本気のようね」
「………………………」
道場の空気がしーんとなり耳が痛くなるような静かになる。
先に動いたのは楯無さんでさっきと同じ無拍子で来るがそれに合わせるかのように鋭い一閃を受け流す。
「!」
思惑が外れたのに驚いたのか、楯無さんが一瞬動きが止まり、その隙に仕掛ける。
―――――が
「焦っちゃダメよ。けど、攻め方は良かったわよ」
木刀で阻まれる。
「お姉さん本気で行くわよ」
「望む所です……!」
か、か、か、と木刀同士がが幾度もぶつかり合い、汗がじわりと出てくるが楯無さんは汗一つもかいていない。
「そろそろ限界かな」
「大丈夫ですよ」
とは言ったものの、早々決着をつかないと確実に負ける。負けたくないのは男の意地でもあるからな。
「やばっ!」
「取った!」
ぐらついた一瞬をついて肩に下から上に突きを決めようとしたが少し外して……
「「「「あっ」」」」
「きゃん」
胴着が思いっきり開き、豊満な胸が見え、胸を包むブラジャーは高級感あふれる黒い物で包まれ、よりボリュームがあるように見える。大人の女性と劣らず魅力が……って
まずいだろこれは!
「士郎君のエッチ」
「え!?」
この時、激しく動揺していた俺は弁解しようと思考をめぐらしていた所に再び腹に一撃を浴びた。
で現在俺は道場で隅っこで体育座りをしている。
理由?それはな、あのあと十回楯無さんに挑んで十回負けた。それ以外にも
「甘いです!」
「ぶ!」
虚さんに負けて
「ふ……!」
「ぐ!」
簪に負けて
「いやー」
「認めたくない!へぶ!」
挙句の果てには本音にも負けた。体はまだ動けるが心がもたない。
「だ、大丈夫。士郎君」
「大丈夫じゃありません。本音に負けたのが一番のショックですから………」
「えー!それはひどいよ~!」
虚さんと簪は昼食の手伝いで家に戻っている。
そうしていると道場の戸が開き、孝司さんが来た。
「おーい。ガキ共、飯だぞー!……って士郎。オメー何してんだ?」
「いえ。本音に負けたのがショックになっているだけです…………」
「それはつらいな」
「おじさんも!?」
ともあれ昼なので家に戻ります。
「士郎。午前中は楯無たちと木刀で戦って全敗だったよな」
「うっ……。そうですが、それがなにか?」
「なら、午後は俺と訓練するか?もちろん、防具はなしだ」
「え?」
孝司さんと?なぜに?
「なんたって楯無たちに小さい頃から剣道とか武術を教えていたのは主に俺だからな」
「はいぃ!?」
小さい頃から鍛えていたのか。それは納得だな。
「それじゃ、孝司さんは強いんですね」
「まあ、昔ほどではないが楯無にはまだ勝てるぞ」
昔はどれくらい強かったんだろうか。
「とにかく、二時に道場で始めるぞ」
「分かりました」
確実に午後よりきつくなりそうだ。
バンッ!
「く…!」
道場の壁に叩きつけられる。孝司さんとの戦いは楯無さんより話にならなかった。孝司さんは槍を模した木の棒だ。こちらは木刀一本。
さすがは楯無さんたちに教えてきただけはある。ちなみに道場には楯無さん、虚さん、簪、本音がいる。
「根性はいいが、それだけじゃだめだぞ。そんなんじゃ、いつまでも強くはならんぞ。楯無たちだって最初から強かったわけじゃなかったんだぞ。何度も挑んで強くなったんだ」
確かにそうだ。楯無さんたちの実力は積み重ねてきたものだ。最初から強いやつなんていない。
「まだ始まったばっかりだ。これくらいで根をあげるなよ」
「このくらい大丈夫です、よ!」
勢いをつけて孝司さんに接近して木刀を振りかざす。
しかし、なんてこともないように躱し、掠りもしない。逆にこちらが何度も当たる。
「ほらほらどうした!防戦一方だぞ!」
「まだまだ!」
一瞬の隙をつければ俺でも当てられるはずだ。
「そら!」
鋭い一閃が向かって来る。躱せばいいがここはあえて受け止める。
「ぬ…!」
まさか受け止めるとは思わなかったようで一瞬だけ動きが止まる。今のうちに一回ぐらい当てる!
ガッ!
「よくこの短時間で腕を上げたな。そこは褒めてやる――――――だがな!」
だが
瞬時に木の棒で左頬に強く当てられ、その際に木刀を離してしまい、空中で真ん中からきれいに折られた。
「このままだと負け続けるぞ。どうすればいいかよく考えろ。俺はISのことはよく分からんが戦いなら分かる。これでも何度も危険な目にあったことがあるからな」
危険な目にあったことがあるとはどういうことだ?いや、それよりも勝つことに集中せねばなるまい。
だが、どうすれば……
―――いいか攻撃を真正面から受けようとするな受け流せ!攻め込むときも常に退路を頭に入れろ!
「!」
懐かしい声に厳しく言われたことが頭に響く。男の声だったがよく思い出せない。
それよりも考えろ俺。どんな剣なら俺にふさわしい!?
「そら!いつまでも寝っ転がっていると訓練にならないぞ!いくぞ!」
孝司さんが迫ってくる。このままじゃ……!
「?」
目の前にあるのは二つに折られた木刀がある。
……そうだ!入試試験の時のようにすれば!
「ぬ!」
二つに折られた木刀で槍を模した木の棒を弾いた。
「ハッ!とっさに二刀に構えたか!だがそんな付け焼き刃で……!」
あの時のように二刀で構え、襲い来る孝司さんに立ち向かう。
「うそ!?」
「これは……」
「お父さんと渡り合っている……」
「ゆーみんすごーい!」
十回ほど打ち合ったあとお互い距離を置く。
「………なるほど。その型は…」
何か思い出すかのように孝司さんは考え込むがすぐに構え直して臨戦態勢になる。
「いいねぇ。これなら少しは楽しめそうだ……!」
今までよりも道場の空気が重くなるが不思議と心地よく懐かしくも思える。
「少々本気でいくぞ…!!」
この後みっちり夕食までの六時まで続いた。
本当は五時までだが午前の楯無さんとの訓練の時の事故(決して行為ではない)のことを本音が喋ったせいで時間延長になった。
「はあ……」
夕食を食べ終えて私は虚ちゃんを部屋に呼んでいる。
「どうしたのですか?」
「ねえ。道場でお父さんと士郎君の訓練どう思う」
「そうですね。……よく付いて来ておられていますね」
「やっぱりそう思うよね。けど、おかしいのよね」
「おかしい?」
さっきのこと話してみようかしら。
「さっきね。士郎君と訓練のことで話していたんだけどね。驚いたことがあってね」
「なにをですか?」
「お父さんが途中まで槍の「突き」をしていないことに気付いた?」
「はい」
「でね。突きは軌道が見えないし一瞬の攻撃で見てから対処は間に合わないでしょ」
「そうですね。お嬢様が使う蒼流旋はランスですが突きは槍と同じですから」
「まあね。士郎君は何が大事って聞いたら凄いのよ。分かる?」
「いえ」
やっぱりそうよね。普通は離れるとか近づかないとかだけど。
「こう言ったのよ。「大事なのはいかに敵を見てその"予兆"を読むかってことだったんだな」って」
「!失礼ですがその発想は……」
「うん。常人の発想じゃないよね。それにまだ気付いていないみたいだけど一応お父さんの動きに対応できていたのよ。私でも何年かしてようやく対応できたのにね」
「そういえばそうでしたね。あまりにも自然だったので気付きませんでした」
それにあの双剣。とっさにしたって言うけどそんなに思いつきで出来ることかな?
あれ?本音ちゃんに入試試験の時も士郎君が双剣をしていたって聞いた気がするわ。
「一つご報告がありました」
「何かしら?」
「士郎君が行方不明になっていた十年間についてです」
「何か分かったのかしら?」
家に士郎君を招き入れてから虚ちゃんに士郎君に関することを調べてもらうように言っていた。
「はい。まだ確証がありませんが世界中で目撃されていることが判明しました」
「え?」
なんで世界中で目撃されているの?
「まだ調査中ですが目撃されている国はドイツにイギリス、中国の三つです。今後、増えるかもしれません」
「はあー……」
一体彼は十年間何をしていたのか分からないわ。一つの国に留まっていたのなら分かるけど。
「紅茶お持ちしますね」
「ありがと」
今はきれいな月を見ながら虚ちゃんの入れる世界一おいしい紅茶を待ちますか。
「沙織これを見てくれ」
寝室で妻の沙織にある映像を見せた。
「これは今日あなたが士郎君と訓練している様子ですね」
「ああ」
訓練の前に簪に誰にも見えないようにカメラで撮影するように言っていた映像だ。
「お前に見てもらいたいのはこのあとだ」
そう、士郎が二刀に構えたところだ。
「この構えは……!」
「驚いたろ。あいつはとっさに構えていたと言っていたが、どうも納得がいかないんだよな」
あいつが構えた二刀は弓塚流のものだ。
弓塚家は代々剣の才能に恵まれない者が多くそれを補うために手数が多い二刀流にしている。剣で落とし、いならし、避けられない攻撃は最小限にする。それが弓塚流だ。
「それに俺の動きに対応できていたからなおさら納得がいかないんだよ」
「うーん。そうなると記憶を失う前はどこかで鍛えていたのかな?」
「それが妥当だな。まああいつは記憶がないがな」
昔、士郎の父、悟郎の二刀流をビデオで見たことがある。剣道の達人との試合だったな。確実に負けると思ったがなんと勝っちまったんだからありゃ驚いたぜ。
最初は押されていたが後半は逆に押してきたから相手もさぞ驚いただろうな。
「さて、話しはこれで終わりにしましょ。明日は総会でしょ」
「ああそうだな」
この頃、更識内部で不穏な動きがあると噂されている。更識は裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部だ。いつどこで狙われるか分からない。
だから、楯無たちには昔から鍛えている。
それに今は士郎がいる。関係のないあいつが狙われないためにも頑張らねえといけねえからな。
「おやすみなさい、あなた」
「ああ、おやすみ」
とにかく明日は総会だ。しっかり寝ないとな。