IS〈インフィニット・ストラトス〉 射手の男 作:運命の担い手
今は三時間目。一夏は昨日ほどではないがやはりまだ教科書とにらめっこや山田先生の話を聞き逃さないようにノートに書いている。
「……ISは常に操縦者の肉体を安定した状態に保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸数、発汗量、脳内エンドルフィンがあげられ―――」
「先生、それって大丈夫なんですか?なんか、体の中をいじられているみたいでちょっと怖いんですけども……」
クラスメイトの一人が不安げに尋ねる。俺はそれほど不安には感じなかった。だが、人によっては不安、違和感する人もいるだろう。
「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出ると言うことはないわけ
です。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、型崩れしてしまいますが―――」
ようやく気付いたのかきょとんとした山田先生が数秒置いてからボッと赤くなった。それはトマトのように。
「え、えっと、いや、その、お、織斑君と弓塚君はしてませんよね。わ、分からないですよね、この例え。あは、あははは……」
山田先生が誤魔化し笑いをしたせいか教室中に微妙な雰囲気が漂う。
しかし、ブラジャーか。まだ更識家にいた時に本音が「ゆーみんに良い物あげる―」と言って渡したのがブラジャーだったからな、びっくりしたな。しかもそれは楯無さんので俺が盗んだだと勘違いして真剣で斬られそうになった。
まあ、その後なんとか誤解が解けて本音が三時間も正座されていたのがいい思い出だ。
「んんっ!山田先生、授業の続きを」
「は、はい!」
織斑先生の咳払いで一気に教室の雰囲気が元に戻り、山田先生が授業を続ける。
「ISには意識に似たようなものがあって、お互いの対話―――つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」
意識に似たようなもの、か。初めて乗ったときのあの感じか。あれ?あの時の声ってISのだったのか?うーん、分からない。
「ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください。ここまでで質問のある人は?」
「はい、それって彼氏彼女のような感じですかー?」
「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験がないのでわかりませんが……えっと、どうですかね……」
山田先生がクネクネして教室では「先生かわい!」とか言って、雑談を始める。この雰囲気は世間でいう女子高って感じだな。
彼女か。俺にはいるという記憶しかない。名前はおろか、顔すら思い出せないとは情けないものだ。
そんなこんなで授業は終わり、織斑先生と山田先生が出ると俺と一夏の席に女子の大半が詰めかける。
「ねえねえ、織斑君さあ!」
「なにか分らないところがあったら聞いてもいいよ弓塚君!」
「今日のお昼ヒマ?放課後ヒマ?夜ヒマ?」
昨日は様子見、今日は実行という風なもんだろうか。昨日はよそよそしかったが、今日は積極的だ。
「この一組に弓塚士郎と言う男子はいる?」
「ん?」
教室の入り口から聞こえた。女子であることには間違いないが俺に用とは。
「あなたが弓塚士郎ね」
「ああ」
「ふーん……」
目の前に来た女子は髪は黒く、腰辺りまで長い。オルコットとは違う品があるような感じがする。
「それでお前の名前は」
「
「……そういうことか」
いつか来ると思っていたが、これほど早いとは。ここでは話しづらい。
「すまないが、屋上でいいか?」
「構わないわ」
「それでは行こう」
久宇美沙夜と共に屋上に向かう。
◇
「で、なんの用だ?」
「そんなに焦ることもないでしょ。休み時間なんだから休んだらどう?」
屋上には俺と久宇しかいない。昼休みになれば人はいるはずだが、休み時間は15分しかないので来る人はそうそういない。
「電話で無鉄のことはそちらの職員に言ったはずだ。となると俺個人に用があるのか?」
「そんな所ね。それよりも他所の人と話しをしているわけでないのだから、もっと楽に話しをしましょ」
「そういうわけにもいかんだろ。自分の立場ぐらいは分かっているさ」
「なんでそんなに余所余所しいのかしらね。私が気に入らないから?
それとも――――――元婚約者の娘だから?」
「………………」
そう、久宇美沙夜は父さんの元婚約者、
無鉄は久宇企業の久宇研究所、つまり久宇家が運営をしていてそこで造られた。
「別にどうこうするつもりはないわ。ただ
「どういうことだ?」
「あなたの父親が私のお母様ではなく違う女と一緒になって生まれた子だということに興味があっただけ。学園で三年間過ごすのだから楽しい方がいいし、仲良くしてしたいしね」
てっきり、何か悪口を言われるかと思ったがそうではないようだな。まあ、三年間同じ学校だからこちらとしても仲がいい方がいい。
「では、改めてよろしく。久宇」
「名字じゃなくて名前でいいわ。あなたも名前で呼んでいいかしら?」
「いいぞ。美沙夜、これから三年間よろしくな」
「こちらこそ。士郎、お互い頑張りましょ」
握手をして教室に戻った。
◇
「で、言い訳はあるか?」
「屋上で話しをしていて遅れてすみません」
教室に戻ると織斑先生が仁王立ちして待ち受けていた。戻ったときに三分ほど遅れた。急いだんだが間に合わなかった。
シュッ!
「はっ!」
バシ!
『おおおおおおおー!!』
教室中に歓声がなる。それもそうだろう。織斑先生の出席簿を真剣白羽取りをしたからな。
「いい反応だな」
「昨日から一夏が出席簿の餌食になっていましたからね。俺なりに対策をとっただけですよ」
もしものために頭の中でシュミレートしてよかった。
「出席簿を掴んでいますからどうします?」
「それなら―――力を強めるだけだ」
「へ?」
両手で掴んでいるはずの出席簿が動き、頭に直撃する。
ゴッ
「がは!?」
痛い。本当に冗談抜きに痛い。これでよく頭の骨割れないよな。てかあの出席簿はいたって普通のだよな。
「次は遅刻するな。ほら、席に着け」
「はい……」
あれほど痛かった痛みが嘘のように引いていく。どうしたら、こんな事できるだろうか。謎だ。
「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間が掛かるぞ」
「へ?」
「予備の機体がない。だから、学園で専用機を用意するそうだ」
「え、えっと?」
教室がざわめくが、どうやら一夏はまで理解するのに時間が掛かるみたいだ。昨日勉強をしたの思い出せ。
「……あ、そういうことか。なるほどな、うん」
「ほう。なんとか分かったのか」
「えーと、確か……ISのコアは世界中で467機しかなく、その全てが篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスになっているので未だに篠ノ之博士以外はコアが作れない状況である……すいません、これぐらいしか分かりません」
「抜けている部分が多いが要点は求められているな。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前は場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されるようになった」
「つまり、俺はモルモットになってくれと?」
「言い方が悪いがそういうことだ」
やっぱりな。貴重な男のIS操縦者だから専用機がないとダメだよな。お偉いさんはデータ欲しさが目当てだろうが。
「あれ?士郎は専用機持っていないのか?」
「持っているぞ。ほら」
首にかけていた無鉄の待機状態の赤い勾玉を見せた。すると、さらにざわめく。
「クラスで三人も専用機持ちがいるなんてすごいよね!」
「どの学年でもクラスにいるかいないかなのにね」
「一年一組で良かったー!」
そうだよな。専用機持ちで学園にいるのは珍しいものだ。代表候補生でも持っていない人がいるからな。持っているのは大半が国家代表か企業に所属する人だからな。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」
後ろの席にいる鷹月が織斑先生に質問する。多分親戚関係か家族のどちらかだろうな。
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
へえ、篠ノ之博士の妹なのか……て、教師が生徒のプライベート喋ってもいいのか?
「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内が二人もいる!」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよっ」
授業中なのに篠ノ之の次々と席に集まる。みんなよく授業中なのに立てるな。さっき俺が喰らった織斑先生の出席簿が怖くないのか?
ん?なんか篠ノ之の様子がおかしいような……
「あの人は関係ない!」
突然の大声。なぜ大声を出したのか分からないがとにかく嫌がっていることは確かだ。
篠ノ之に群がっていた女子は何が起こったのか分からない様子だった。
「……いきなり大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
そう言って、篠ノ之は窓の外に顔を向けてしまう。
女子は盛り上がったところに冷や水を浴びたような気分のようで、それぞれ困惑や不快を顔にして席に戻った。
「さて、授業を続ける。山田先生」
「は、はい!」
さすが織斑先生。この状況をひっくり返すとは尊敬する。
山田先生も篠ノ之の事が気になる様子だったが、そこはやはりプロの教師。
慌てながらも授業を始めた。
◇
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
休み時間早々一夏の席にやってきてオルコットは腰に手をあてて偉そうなポーズをとってそう言った。
好きなのかそのポーズ。まあいいか。
「まぁ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」
「てことはお前も専用機ってのを持っているのか?」
「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」
「おー」
「世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つ者は全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」
「そんなこと言われなくても分かるぞ」
「親切に教えてあげていますのに黙って聞いてくださいまして!」
「こっちはまだ勉強中なんだ!終わったならどこかに行けよ!」
はあ……口論になったか。喧嘩するほど仲がいいというがこれは違うだろう。
「落ち着け二人とも。昼休みなんだから、喧嘩は止せ」
仲裁に入り止める。せっかくの昼休みなのに気分が悪くなるのは嫌だからな。
「とにかく、このクラス代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであることをお忘れなく」
また別のポーズをとってオルコットは教室を出た。
「一夏、勉強を一旦そこでやめて篠ノ之と一緒に食堂に行け」
「なぜ私が!?」
「放課後、特訓するんだろ。なら、昼休みのうちに決めておけ」
「それもそうだな。よし、箒。飯食いに行くぞ」
「ちょ、い、一夏!?」
一夏が篠ノ之の手を掴みそのまま教室を出た。しかし、よくあんな事できるな。幼なじみとはいえ女子の手を握るとは凄い。
「さて、俺も食堂に行くか」
「ゆーみんー」
本音の声が聞こえ振り向くと谷本に夜竹もいた。
「今からおひるー?」
「そうだ。それがどうした?」
「私たちと一緒にどうかなーと思ってね。いいかなー?」
「ああいいぞ」
俺を含めて計四人でお昼を食べた。和食メニューと朝作ったサンドイッチを食べようとしたが本音、谷本、夜竹のトレーの中身が朝より多いがそれでも少ないのでサンドイッチを三人にあげた。
その際、遠くの席で座っていた一夏と篠ノ之の所に三年生が来て何か話しをしていたが篠ノ之が何か言うと立ち去った。