IS〈インフィニット・ストラトス〉 射手の男 作:運命の担い手
「良かったですね。一時はどうなるかと思いました」
「そうだな。全身ずぶ濡れで体温が三十度以下になっていたからな」
話しの内容は先日の漂流してた男のことである。あの後、救急車を呼び病院に運ばれたが体温が三十度以下で低体温症になっていたのだ。
低体温症で三十度以下は重症である。余談だがロシア遠征時にナポレオン軍の兵士が多く死んだのも低体温症である。かなり危険な状態だったが今は体温が三十五度以上になり命の心配はない。
男は病院で眠っており、千冬と真耶はこれから病院を訪ねるところである。
「それにしても彼は一体どこから来たんでしょうか?」
「それは起きて聞いてみなければ分からんな」
男は服以外は何もなかったので調べても分からずじまいになっている。
二人は病院に入り、受付をして男の担当医師に向かった。
「これはこれは織斑さんに山田さん。よくいらっしゃいました」
「いえ、今日は彼の見舞いに来ました」
男の担当医師は男で年は中年位でベテランの医者である。腕はそれなりの実力者で難しい手術を幾度もしている。
「彼ですか。ちょうど良かった。そろそろ目を覚ます頃だと思いますよ」
「そうなんですか。タイミングばっちりですね織斑先生」
「そうだな」
「しかし、少し問題が分かりました」
「問題?」
担当医師はレントゲンを見せながら解説を始めた。
「低体温症の治療中に頭にどこかでぶつけた跡が発見されました。幸い、脳に障害はなかったのですが記憶が無くなっている可能性が高いことが分かりました」
「記憶喪失ということですか?」
「はい」
記憶喪失は一時的なものであるがいつ戻るかが分からない。個人差があって一ヵ月すると記憶が戻るものもいれば、生涯記憶が戻らないものもいる。
「まあ、それは後で考えてそろそろ目が覚める頃ですから行きましょうか」
「「はい」」
◇
「う…ここは…」
ここはどこだ?それよりも俺はなんでここにいるんだ?
「目を覚ましたのね。まだ横になっていないとだめだよ?」
「え?」
首を横に動かすと看護婦がいた。
「なんで俺はここにいるのですか?」
「君はIS学園の浜辺で倒れていたの。結構危なかったけど、早く発見されたから助かったのよ」
「俺が?」
なんで浜辺に倒れていたんだ。……ダメだ。全然思い出せない。それどころか記憶のほとんどがない。
「どうしたの?」
「記憶がないです。どこから来たのか。今まで何をしていたのかも」
「じゃあ名前は」
「名前は……」
俺の名前は……
「
「今はそれだけかな?」
「はい。名前以外は思い出せません」
今は名前だけしか思い出せないがそのうち、思い出すだろうな。気長にゆっくりと時間をかけて思い出そう。
今後の事を考えているとドアが開き中年位の男性と黒髪と緑髪の女性が病室に入ってきた。
「おや、目を覚ましたのかね。気分はどうだい?」
「えっと、あなたは?」
「おっと、これは失礼。私は君の担当医だよ。後ろにいるのは君を見つけてくれた人だよ」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
頭を下げて、感謝を表した。あ、名前を聞いてないな。
「あのすみません。名前はなんて言いますか?」
「私はIS学園で教師をしている織斑 千冬だ」
「同じくIS学園で教師をしている山田 真耶です」
黒髪の人が織斑 千冬さんで 緑髪の人が山田 真耶さんか。この二人が俺の命の恩人か。感謝してもしきれないな。
「ところで君の名前は言えるか?」
「はい。さっき看護婦さんにも言いましたが俺は弓塚 士郎です。今はこれしか思い出せません」
「いや、いいんだよ。名前だけでも憶えているのだから、あとはこっちで調べるから気にしないでくれ」
「はい」
警察とかに連絡して調べるんだろうな。……………なんだか、眠くなってきたな。
「すみません。眠くなってきたので寝ていいですか?」
「ああ、いいとも。ゆっくり休みなさい」
すぐに瞼を閉じて意識が遠くなり、眠りについた。
「織斑さん、山田さん。彼の事について分かりました」
「そうなんですか?」
「して、彼は何者ですか?」
ここは病院の会議室で中にいるのは担当医、千冬、真耶の三人だけだ。あれから担当医は友人に調べてもらい、一時間でパソコンに資料が届いたのだ。その資料を読んだ担当医は首を傾げた。
「資料を見た方が早いですのでこれをどうぞ。資料をコピーしたものです」
担当医は千冬と真耶に資料を渡して目を通した。
資料にはこう書かれている。
弓塚家。戦国時代から代々由緒ある家系である。歴代の当主は皆、弓を使い、どんな遠い的(まと)の真ん中にいとも簡単に当てる事が出来るとして有名である。
最後の当主、弓塚 悟郎は過去最高の名手であったが、考古学者の彼女と共に駆け落ちをして行方が分からなくなる。
数年後、発見できた時は事故で死亡していた。しかし、彼と彼女の間には一人息子がいることが分かり警察が必死に探したが、捜索は難航し、数ヶ月後に打ち切りになった。
なお、名前は弓塚 士郎と言う。
資料を読み終えた二人は唖然とした。彼は行方不明になっていて、十年後の今になって発見されたからだ。
「彼には親戚は?」
「もういません。最後の彼の祖父にあたる人は三年前に亡くなっています。駆け落ちした彼女は孤児院育ちで親戚はいません。事実、彼にはもう肉親も親戚もいないのです」
「そんな!」
彼には肉親も親戚もいない。最後の彼の祖父にあたる人は三年前に亡くなり、彼は天涯孤独になっている。どこに引き取られるか分からないのだ。
「彼を施設にしか預けるしかないと私は思います。それが医者として現実的だと思います」
必然的に施設に預けるのが当たり前だ。だが、千冬は何かを考えていた。
「…いつ預ける予定ですか?」
「体はもう大丈夫ですが、念の為三日ほど検査してそれから施設に預けようと考えています」
「………………」
千冬が何を考えているかは誰にも分からない。ただ、士郎に何かさせてあげたいと真耶と担当医はそう思っている。
「三日後、彼を一日だけ連れて行ってもいいですか?」
「まあいいですがどこに連れて行くのですか?」
「それは彼に聞かなければ分かりません」
「そうですね。あまり無茶はさせないで下さい」
その後、千冬、真耶、担当は士郎に今分かることを伝え、三日後の事を言った。
「どこかにですか?」
「そうだ。施設に預ける前にどこか行きたいところはないか?」
「んー……」
士郎は記憶はないが一般常識は覚えている。しかし、急にどこかに行くと言われても見当がつかなかったが、一つだけ興味を持つ場所があった。
「IS学園を見学してもいいですか?」
「なぜIS学園だ?」
「千冬さんと真耶さんはIS学園の教師をしていますし、ISに興味があるので行ってみたいなーと思いまして、ダメですか?」
「構わん。見学というなら入ることは可能だ」
時間は夕方になったので千冬と真耶はIS学園に戻った。千冬と真耶はIS学園に戻ってすぐに三日後に士郎が見学できるように準備にかかった。
「千冬さん。誰かに似ているような……ダメだ。思い出せない。それより今はゆっくり休んで三日後に備えよう」
士郎は千冬の顔が誰かに似ているような気がしたが思い出せないのであとで考えることにして眠りについた。
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