オマエモプリンニシテヤルノ   作:元大盗賊

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ミヤコさん誕生日おめでとうございます!(2週間遅れ)


    


蓮特製手作りプリン(¥---)

「…ありがとうございました」

 

 23時ぴったりにいつも入店するサラリーマンを見送った後、コンビニの店内を見渡す。

 客は誰もおらず、店内では季節限定の商品の紹介をするラジオ風BGMと、機械音が響き渡っている。

 

「今日はこれでしばらく、…誰も来ないよな」

 

「だな。んじゃ、掃除でもするか」

 

 拓弥も同じことを思っていたようで、既に裏からでっかい清掃用の機械を持ち出していた。

 

 

 本日も変わらず、俺の働くこのコンビニでは客が誰も来ないフリーな時間がやってきた。

 少なくとも、俺が勤務している間は、客は朝まで来ることはない。…こんな経営で果たして良いのか、潰れないのかと心配に思ってしまうほどである。

 

「そうそう、レン! お前が絶対に驚く面白い(ネタ)があるんだけど…」

 

 フライヤーの掃除を終え、雑誌コーナーの確認をしていると、後ろから拓弥が絡んでくる。

 今日の話のネタ振りは拓弥の番だ。きっとその前フリだろう。

 

「なんだよ、…まさか、ソルの塔の登り方でも見つかったか?」

 

「ちげーよ。ふふ、実はな…」

 

 爽やかな笑顔を見せるマッチョマンは俺の肩を組むと、小さな声で俺に囁いた。

 

「会ったんだよ、七冠(セブン・クラウンズ)に」

 

 

 

 拓弥はとても顔が広いやつであるとは、前から思っていた。

 バスケで通じた知り合いが居るのはもちろん、学部外、更には大学外の人たちとも交友があると言っている。

 きっと、気さくに話しかけてくる性格や、鍛えている肉体美を武器としたトーク力が人を惹きつけているのだろう。もちろん、その惹きつけられた人の中には俺も入る。最近だと、社会人サークルにも手を出して、交友を深めていると言っていた。ついに、あの大天才と謳われる七冠とも人脈を広げたのか、と最初は胸を躍らせた。ある人物は有名大学の教授。ある人物は、IT企業の社長。そんなエリート中のエリートが揃う七冠と、こいつならいつか知り合えるだろうと思っていたのだ。

 

 

 だが、一つだけ注意しなければならない事がある。それは、こいつが話を振るネタには共通点がある事。

 彼の話す話題に自分自身は登場せず、どれも彼とつながりを持つ人の話しか出してこないのだ。

 

「なっ! すげぇだろ!?」

 

「確かにすごいね…。その、拓弥の()()()()()()()が」

 

 七冠に会った。確かにそれはすごい話だ。

 きっと俺がそのような人に会ってしまったら、心臓が幾つあっても足りないだろう。だが、話の内容を聞いていくうちに、その感動が徐々に冷めていく感覚があった。

 

「だろ? いやー俺も羨ましいよ」

 

 まるで自分のことのように、拓弥は照れているが、こいつは七冠と会っていない。

 その知り合いというのは、所属するバスケサークルのマネージャーをしている子の弟の同級生なのだそう。もはや、誰とも分からない赤の他人の事になってしまうのだが、拓弥はそんなことを気にせず、嬉しそうにしている。

 ただこういうところも、一緒に居て楽しいところである。

 

「それにしても、外部の人を呼ぶ講演会で七冠の現士実似々花(うつしみねねか)さんを招くなんて…。すごい高校だね」

 

 現士実似々花。

 七冠の一人で、レジェンド・オブ・アストルムではキャラクターデザインを担当している人だ。

 俺たちと同じくらいの年齢にも関わらず、七冠のメンバーとして活動をしている所から、彼女の能力の高さが抜きん出ている事を伺える。

 七冠が呼ばれるのだ。きっと桜庭学院高校のような、すごい金持ちの学校にやってきたのだと思っていたが、拓弥がすぐに否定した。

 

「って思うだろ? 実は、話を聞く限りよくある学校なんだ。椿ヶ丘高校っていうところで調べてみたが、別に金持ちが通うって感じじゃない、普通の高校。まあどちらにせよ、本来話しをする人の代理で講演をしたってことだから、単なる偶然っぽいが」

 

「偶然に七冠が高校に来るのか、羨ましいなあ…」

 

 七冠と言われるが彼らは、ウィズダムに招集された先鋭であり、本来どこかの企業や団体に属する人間。多忙を極めるはずの身でありながら、どこにでもある、ごく普通のありふれた学校の為に講演をしたのだ。実は母校だったというような、よほどの理由がない限り、普通は実現しない。その僅かな可能性を手にできた、椿ヶ丘の生徒たちは幸運に恵まれているだろう。

 

「ちなみになんだけど、現士実さんってどんな話をしたんだ?」

 

「ああ、それならネット上での情報の取り扱い方? みたいな話をしたらしいぞ。元々、そういう講演をする予定だったからな。別に七冠だからって変な話をしたわけじゃなさそうだ。んで、マネの弟さんの同級生が七冠の人に目をつけられて、SNSとかの書き込みから個人情報を暴露されたんだってさ」

 

 七冠に目をつけられたが運の尽き。七冠にかかれば、広いネットの海に広がる膨大な情報から個人情報を見つけ出すなど容易いだろう。

 …それにしても、なんで現士実さんがその同級生の情報を、講演を聴く学生に話したのだろうか。その理由詳しい話を聞こうとしたが、拓弥はそこまで聞いていないと返した。

 

 

 こうして、七冠に会った話を聞き終えて雑誌の確認を終えた時だった。

 

「そういえばお前…」

 

 掃除機を倉庫に仕舞い終えた拓弥は何かに気がつき、俺のそばに寄ってきた。

 そして眉をひそめ、注意深く俺の顔をじろじろと見つめ始める。

 

「…なんだよ、急に」

 

 滅多に難しい顔をしない拓弥がそんな表情をするのだ。

 俺としても、急に気味が悪く感じる。

 

「なんか顔色悪くないか?」

 

「え?」

 

「いや、前見たときよりも覇気がないというか、やつれているというか…。仕事しているときも時々身体がふらついていたから、心配になったんだよ。ちゃんと飯食っているか?」

 

 端的に言うと元気がない。そう拓弥は伝えたいのだろう。

 こいつの心配する通り、俺はここ1週間まともな食事をしていない。食事は一日の始まりに、栄養補助食品のゼリーを喉に流し込むのみ。最近はそのような生活を過ごしている。

 

「ちょっと金欠でな…。あんまり食べてない」

 

「いやいや、金が無いからっていくらなんでもレベルが違うだろ! 俺の話をしている間は目が朧気だったし…。ほら、おにぎりあげるからとりあえずこれ食え!」

 

 拓弥は慌てた様子で、棚から何個か取り出したおにぎりを俺に押し付ける。こいつの表情はいつになく真剣そのものだった。身にまとう雰囲気が一変し、硬いヴェールに包まれているような近寄りがたい雰囲気を与えた。

 

「とりあえずそれ食って、足元がふらつかないようになってから仕事に戻れよ。バイト中にぶっ倒れて病院送りになんてなったら、俺だって嫌だからさ」

 

 俺の肩をがっちりと掴むとそのまま、拓弥は事務所の入り口へと誘導する。

 バイト仲間が金欠でふらついているのだ。心配にならないはずがない。どういう事があったのか彼は聞いてきた。

 

「変な女にでも引っ掛けられて、貢いでいるのか?」

 

「違うよ。…ちょっと買い物をしすぎただけ」

 

「そっか。それならいいんだけどさ…。何を買ったのか知らないけど、生活を切り詰めてまでバカスカ買うものじゃないぞ」

 

「…全くそのとおりだよ。今度から気をつける」

 

 変な女に捕まっていないなら良かったと、拓弥は胸をなでおろす。

 女っ気のないやつが、急にお金を使い込み始める。そこから女に貢いでいるというおかしなロジックを考えていた拓弥は、俺の言葉を聞いて安心してくれたようだ。

 事務所にある長椅子まで案内をしてくれた拓弥は、落ち着いたら言ってくれと言い残し、店内へと戻っていった。

 

 

 誰もいなくなった事務所に取り残された俺は、おぼつかない足取りで椅子に腰掛けると、口からため息がこぼれる。

 

()()()()買い物をしすぎた…ねぇ」

 

 天を仰ぎ、煌々と光る蛍光灯を見つめながらぼやく。

 そう。俺は買い物をしすぎた。常識の範疇を超える買い物をしすぎたのだ。きっとその度合いというのは、彼女と俺とでは乖離しているのだろう。

 

「あの神様、買い過ぎなんだよ…」

 

 今、俺の家計はプリンによって火の車になっている。

 

 

 

 ***

 

 

 

 それは6日前ことだ。

 

「ミヤコさん。お話があります」

 

 俺は、フローリングの床で正座をしていた。

 なんで、人目をはばかる必要のない自宅で正座なんてしているのだ、という気持ちもあったが、そのような煩悩をすぐに振り払う。

 俺はこれから神様へお願いをするのだ。これぐらいしないと伝わらないという、俺の気持ちを表すためには必要な行為である。

 正座をしている先には、俺の使っているベッドがあり、その上には俺が今一番話をしたい人物がちょこんと座っていた。

 

「急になんなの、レン」

 

 もちろん、プリンを食べながら。

 

 いつものように足をぶらつかせ、分厚い牛乳瓶のような容器に入るプリンを食しながら、ミヤコさんは俺を怪しむような目で見ていた。何やっているだこいつは、という彼女の考えは、表情を見ればすぐに分かる。

 

「ミヤコさん。単刀直入に言います。このままでは、お金がなくなります。これから1週間、プリンは1日3食にしてください」

 

「…嫌なの」

 

 ミヤコさんはスプーンを口に加え、ジト目で俺を見つめながら提案を拒否した。彼女の決断は早かった。

 彼女の気持ちはとても分かる。そりゃ、今まで何の制限もなくプリンを食べたいときに好きなだけ食べられているのだ。急に食事制限をされると困惑するのも仕方がない。

 

「プリンは、()()()()いっぱいあるの。なんでミヤコが、プリンを食べることが許されなくなっちゃうの。おかしな話なの」

 

 彼女がスプーンで指した先には、二箱の小さな段ボールがあった。

 外装には、でかでかとプリンの文字が目に飛び込み、さらに要冷蔵の文字とクーラー便の文字が書かれている。文字通り、あの段ボールには冷蔵庫に入らないプリンが入っている。

 

「…さてここで問題です。今日ミヤコさんは、プリンを食べたのは何個でしょうか?」

 

「知らないの」

 

「今食べているプリンで10個目です」

 

 プリンの容器にこびりつくプリンをかき集めながら、ミヤコさんは即答した。彼女には何のためらいもなかった。

 今はプリンをスプーンいっぱいに満たしているので忙しい、と我関せずといったようである。

 

 彼女が何気なく大事そうに食べているプリンは、スーパーで売られているただのプリンではない。有名百貨店のデパ地下スイーツとして知られる高級生プリンだ。その一個で市販のプリン3個セットが5セット買えるくらいの価値がある。

 俺の実家でのプリンを食べて以降、彼女の舌はさらなる美味を求めるようになった。もちろん、そのように考えるのは、よくあることである。

 

 他に売られているプリンはどんな味がするのだろう。小さな頃の俺も、実家以外のプリンを食べ比べて、その違いに舌鼓を打ったものだ。美味しいプリンを作るには、まず美味しいと思えるように、舌を肥えさせる必要がある。そう祖父に言われて、小さな俺は喜んで値段なんて気にせずいろんなプリンを食べた。

 果たして研究費だと言ってどれくらいプリンにお金を払ったのだろうか。祖父はその後、祖母にこっ酷く叱られて以降、二度と食べ比べを提案しなかったことを考ええれば結果は想像できる。

 

「今のペースで食べていけば、プリンは約二日でなくなります。そうなると残りの5日間、ミヤコさんの食べるプリンはなくなります」

 

「じゃあ新しいプリンを買えばいいの」

 

「それはできません」

 

「なんでなの! レンの()()()()()()()を使えば、お金は出てくるの~」

 

クレジット(まほうの)カードはもう魔力切れになっているんです!」

 

 ミヤコさんが食べているプリンは、()()()通販サイトから取り寄せたものだ。

 

 

 

 最初は俺が興味本位で取り寄せていた。ミヤコさんが実家のプリンを食べる姿を見て、どこか懐かしい感覚になったのだ。普段ミヤコさんには、スーパーで買うプリンを食べてもらっていた。たまには、デパ地下のプリンを食べたら、彼女はきっと喜んでくれるだろう。

 そんな思いがあり、興味本位に通販サイトを眺めるミヤコさんを横に注文をしたのだ。多少値段が高いものの、たまにはこういう贅沢もいいものだろう。そんな考えだ。

 

 だが、ミヤコさんのプリン欲を俺は侮っていた。

 

 それは俺がバイトへ向かおうとしたときの夕方頃だった。玄関のチャイムが鳴り、外に出るとそこには配達員が立っていた。通販で注文をしていなかったので、実家から何か送られてきたのだろうかと最初は思った。

 だが、配達員が持ってきたダンボールの数を見て、すぐに俺は全く違うものだと理解した。

 計5個の段ボールの中身を見れば、ぎっしりと箱詰めされたプリンの山が出迎える。それも高級の。しかも、俺が見たこともないプリンばかり。

 すぐさま、クレジットカードの利用履歴を見れば、うん万もの金額の使用歴が表示されていた。今の貯金額がいくらなのか、次の公共料金の支払いがいつになるのか。背筋に冷たい嫌な汗をかきながら、今後の生活について頭の中を巡らせるしかなかった。

 そんな俺を横目に、プリンを片手にすっ飛んできたミヤコさんは、届いた段ボールを見て大そう喜んでいた。何せ、まだ見ぬプリンが彼女を待っているのだ。しかも沢山。それも俺の住む家賃並みに匹敵する額のプリンが。

 

 そんな彼女の姿は、どこかのプリンが好きな奴と重なって見えた。どちらも純粋にプリンを楽しみたいという心が動かしていた。

 

 喜ぶ彼女を見てしまったときには、目の前に広がる段ボールの山を問いただす気力が掠れて消え去っていた。

 

 

 

 とは言うものの、生活が出来なくては元も子もない。家なき子になってしまってはプリンどころの話ではなくなる。

 何としても、この危機を回避するしかないのだ。そのためには、この頑固な神様を説得するしかなくなってくるのである。

 

「もしこの状況が続いたら、ミヤコさんはプリンではなく、このゼリーを食べなければならないことになりますよ」

 

 冷蔵庫から俺の生命線である栄養補助食品のゼリーを見せつける。

 残りの使用できる額からねん出した俺の大事な食事たちだ。

 

「…それは何なの」

 

「ゼリーです。風味はグレープフルーツです」

 

「プリンじゃないの。そんなものミヤコに見せないでほしいの」

 

 そう一蹴し、ミヤコさんは俺の持つゼリーをから目を背け、プリンを完食した。

 

「いいですが、これ以上プリンを買ったら俺たちはこの家に住めなくなるんですよ? そうなると最悪、ミヤコさんはプリンが食べられなくなりますよ?」

 

「食べられない…それはだめなの!」

 

 プリンの容器を放り投げ、ミヤコさんは俺のそばに駆け寄り俺の右袖を引っ張った。

 

「プリンは…プリンはミヤコの大事なものなの! それが食べられなくなるのは嫌なの!」

 

「じゃあプリンは1日3食にしましょう?」

 

「…それはできないの」

 

 ぷいっとミヤコさんは俺から視線をそらした。

 最近食欲旺盛になったプリンの神様の胃袋は底知らず。3食では満足できない体になってしまっている。おやつにもう一個。小腹が空いたからもう一個。プリンへと伸ばす手には歯止めが効かない。

 

 もちろんこのことは想定していた。

 俺としてもここで引き下がるわけにはいかない。俺が栄養価の高いゼリー飲料を1日一本だけ飲む生活を続け、挙げ句の果てにプリンを買った為に家を追い出されたとなれば、笑い事にならないのである。だから俺は、ある秘策を彼女に提案した。

 

「もしミヤコさんが、プリンを1週間だけ1日3食にして、お金が戻ったらミヤコさんのためにプリンを作ります」

 

「…レンがプリンを作るの?」

 

「そうです。俺だって洋菓子屋の端くれ。多少、作り方は知っていますので。…前に俺の作ったプリンを食べたいって言っていましたよね?」

 

 すると彼女は、珍しくも目を閉じ、唸りながら宙に浮いていった。

 

 俺の作ったプリンを食べたい。そんなことを彼女は前に望んでいた。

 以前なら作るのが面倒だからと買ってきたプリンを渡して、気をそらしていた。だが今はそんなことをしている場合ではないのだ。

 

「分かったの。レンの条件を飲んでやるの」

 

 俺を見下ろすミヤコさんの表情は、むくれていた。絶対に許していない、不満たらたらになっている表情である。

 ではなぜ、俺の提案に賛成をしたのか。疑問に思ったのだが、その答えはすぐに導き出された。

 

「でも、我慢している間はこの機械を使わせてもらうの」

 

 ミヤコさんは、部屋の中央にあるテーブルへと移動すると、小さな機械を手に持って俺のところにやってきた。

 

「それは…mimi…ですか?」

 

「これを使わせてくれるなら、ミヤコはプリンを食べるのを我慢するの」

 

 そう言い放つと彼女は、そのまま自分自身の右耳にmimiを装着する。

 

「別にいいですけど…俺はそれを使えないので。そもそも神様のミヤコさんはmimiを使えるのですか?」

 

「これくらい、お安い御用なの! 困ったときはいつもこれを使っていたから、我慢してやるの」

 

「その機械を使えば我慢できるというのは、どういう意味なのでしょうかミヤコさん」

 

「これを使えば、アストルムでプリンが食べられるの! 本当に食べていないけど、プリンを食べられるから、ミヤコは満足なの~」

 

 アストルムには、食事の概念がある。

 もちろんゲームなので食事を取らなければならない、というものではない。

 ただ、食事をすることにより、キャラクターのステータスが上がるなどの効果があり、ダンジョンや長期戦のバトルには必要不可欠なアイテムとなる。

 もちろん、アストルムはVRMMO。驚くことに食事は実際に食べていると錯覚をするほどの出来だという話があり、食感や匂いをゲーム内で楽しむことができるそうだ。

 

 しかしながら、ミヤコさんは神様。

 人ではない存在が果たしてアストルムができるのか、という疑問を最初に持った。

 だが、今度は自信たっぷりなキラキラとした目で俺を見つめてくるのだ。わざわざ、俺のために嘘を付くほどミヤコさんは優しくない。きっと本当にアストルムへとログインができるのだろう。

 

 そもそもアストルムというのは、()()()()()()()使()()()()()()()()ように改良を重ねてきたゲームなのだ。神様ができても可笑しくないだろう。

 誰がそのフレーズを言ったか覚えていないが、きっとそのような宣伝文句があるはずだ。

 

 こうして、生活の危機にひんしていた状況はミヤコさんの了承を頂いたことにより、解決への糸口が見えたのである。

 ちなみに、なぜミヤコさんがアストルムのことを知っていたのか聞いてみると、ある人物に教えてもらったという。その人物は俺と同じように、ミヤコさんが見えてしまった貴重な人物の高校生なのだそう。お金がないにも関わらず、ミヤコさんからプリンを要求されてしまったために苦肉の策として、提案をしたそうだ。

 

 

 

 ひもじい生活を過ごすこと1週間。

 そして今日を乗り切れば、給与が振り込まれる日がやってくる。

 1日一食ゼリー生活から脱することができる日でもあるのだ。

 

「ただいまっと…」

 

 日が昇り、朝を告げる鳥たちの鳴き声が聞こえる中、俺は家路についた。

 部屋にいるだろうミヤコさんの姿を探すも、彼女はどこにも見えなかった。ただ、彼女の居場所はすぐに判断がつく。なぜなら、テーブルの上に置かれているmimiは起動しているのだ。

 本来何もつけていない状態だと、光るはずのない点灯ランプが緑色に光っていた。ミヤコさんはmimiを使うと、いつもこのような状態になる。使用者であるミヤコさんの姿は消え、代わりに点灯ランプだけが光るようになっている。

 

 まあ彼女は神様であり、実体のない存在。

 普遍的な先入観に囚われてはいけない。彼女がやってきてから俺の体に染み付いている考え方だ。

 

 それはそうと、俺はすぐに仮眠を取ってすぐに体調を万全にしなければならない。なぜなら今日は、ミヤコさんのためのプリンを作らなければならない日なのだ。

 

 

 

 

 

 その日の夕方。

 ミヤコさんは目をらんらんと輝かせていた。

 彼女の目の前には、好物であるプリンがあった。

 

「これ、全部ミヤコが食べていいの?」

 

「……はい、じっくり味わって食べてください」

 

「わ~いなの、いただきますなの~!」

 

 ミヤコさんは嬉しそうにマイスプーンを手にすると、()()()()()を持ってその中にあるプリンを頬張った。

 彼女に提供したのは青いプラスチック製のバケツに入ったプリン。食欲旺盛で、普通のサイズでは満足できない彼女のために作った秘策である。

 総重量約1kg。食糧難で空っぽの冷蔵庫でなければ作ることができない代物だ。材料としては、高級プリン一個くらいの値段になってしまったが、これだけあれば彼女は1日や2日くらいで満足してもらえるだろう。

 

「どうですか、お味の方は?」

 

 別に用意していたカラメルソースを、ドバドバと惜しみなくプリンへと注ぐミヤコさんに質問をした。

 

「うーん…普通なの。50点なの」

 

 正面に座る俺に対して、可でも不可ない微妙なボーダーラインを攻めた辛辣な評価である。

 昔、じいさんが作っているところを見たことはあった。作り方としては、ほぼ同じのはずである。ただ、使用している材料は市販のよくある材料。特に、こだわりをもって厳選した材料…とはいかない。

 それに、俺は単なる素人。じいさんの作り方をかすかに覚えていただけで、パティシエとして経験を積んだわけではない。不味いと言われていないだけ多少はマシなのではないかとも思っている。

 

「でも…」

 

「でも?」

 

「レンがミヤコのために作ってくれたプリンなの。味は普通だけど、とっても嬉しいの~」

 

 口の周りにプリンを付けたミヤコさんはにっこりと笑い、顔をほころばせた。

 

「…そうですか。なら苦労して作った甲斐があります」

 

「もっと食べたいからレンはこれから、毎日バケツプリンを作るの~」

 

「いや、流石にそれは…」

 

 にしし、と笑顔でプリンを食べる姿を見て、自然と俺もつられて顔の表情が緩む。

 パソコンには、ロック機能とクレジットカード情報を削除している。もうミヤコさんは勝手にプリンを注文することはないだろう。

 美味しそうにプリンを頬張る姿を見ていると、ポケットの中から何かが震え始める。

 

「すみません、ちょっと電話に出ますね」

 

「分かったの~」

 

 生返事気味に答えたミヤコさんを見ながら、俺は携帯電話をポケットから取り出す。

 発信者は…久城清江(祖母)だった。

 

「もしもし、ばあちゃん? どうしたの」

 

『蓮。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今いいかい?』

 

「別にいいけど…何の話?」

 

『あんた、mimiって知っているかい? 知り合いから使えないからあげるって言われてもらったんだけど、私も使った試しがなくてね…。あんたならどんなものか知っているだろうと思って聞こうと思ったのさ』

 

 祖母の話を聞いて俺はこれから何をしようとしているのか、少し理解をした。

 俺の祖母は、年齢によらず、ハイテク機器や最新技術を常に使っていくことをモットーとしている。

 俺が小学生の時、パソコンについて祖母と話した後には、仕事で今まで使っていた作業事務をすべてパソコンにまとめた。

 俺がなんとなく、ホームページがあれば面白そうだね、と話すとものの2週間でウェブサイトを立ち上げ、更には通販サイトまで自力で手掛けるようになった。

 そして何より、もう一つのモットーは情報を知り合いからしか信じないということ。

 パソコンを使えるようになったのも、ウェブサイトを立ち上げたのも、祖母の知り合いに教えてもらって作ったものだという。ネット上にある情報は、誰とも知らない人間が書いたもの。疑い深い祖母は信用していないのである。

 

 そんな祖母が次に目につけたのがmimiなのだ。

 

「知っているよ。mimiはVRMMOっていうゲームを楽しむための機械だよ。後は、ボイスチャットで友達になった人と会話ができる機能がある。今後、機能を拡張してさらに便利にしていく動きはあるけど、ビジネスに使えそうなものは今のところないかな…」

 

『…なんだい、私の言いたいことを分かっていたの?』

 

「そりゃ、ばあちゃんの孫だし。それくらいのこと分かるさ」

 

『……』

 

「…大丈夫?」

 

『いや…なんでもないよ』

 

 急に黙り込む祖母を聞き返すも、先程と同じように返事をした。

 短い間に一体何があったのか、分からなかったものの、問題がないのであれば気にする必要はないだろう。

 

『使えないなら、あんたのところに送るね。私が持っていても意味ないし』

 

「まあ、別にいいけど…」

 

『ついでに、プリンも送っておくよ。()()()()ならすぐに食べちゃうだろうし』

 

「ん…? ばあちゃん、それってどういう…」

 

『別に惚けなくていいんだよ。蓮はうちの孫だからね。きっと遺伝ってやつさ』

 

「遺伝…何の話だよ?」

 

『あんたのところにプリンを欲しがる()()が取り憑いているだろ? 何時まで居座っているのか知らないけど、腹いっぱい食べさせてやりなさい』

 

 

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