オマエモプリンニシテヤルノ   作:元大盗賊

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【SHOP限定】美味しくなってリニューアル!デリシャスプリン(¥680)

 目の前は青白い光に包まれた世界が広がっていた。

 周りを見渡せば、地平線の彼方まで見渡せるほど何もない、果てしなく、永遠に続く世界。

 そこに俺はいた。

 歩いても、走っても、止まっても周りの景色はちっとも変わらない。俺が今前に進んでいるのか、それとも後ろに下がっているのかなんて見当がつかなかった。

 しばらく歩いた後、俺の目の前に何かの文字が表示されるようになった。

 ゲームのセリフウィンドウのような、角の丸い横長の四角形が宙に浮いており、その中に文字があるのだ。

 

「”名前を入力してください”…?」

 

「おや、こんにちは」

 

 どこからか挨拶の声が聞こえてくる。

 後ろを振り向くと、エルフの女性が立っていた。

 白色の長髪に、白のドレス。蝶のような大きな羽を生やし、大きな花の髪飾りを身に着けている人だ。

 

「今日もレンさんがいらしていたのですね。熱心な心がけで何よりです。いつも通り、アバターの設定をされてよろしいですよ」

 

「あれ、俺名前を言いましたか?」

 

 見ず知らずの女性に俺の名前を伝えた記憶がない。

 彼女は一体どうやって…。

 

「…ああ、そうですか。そうですね、私は…言うならば何でも見通せる神のような存在ですから、レンさんの名前なんてすぐに分かるのですよ」

 

「…神ですか」

 

 両腕を広げ、笑顔で自分は神だと称するエルフの女性を少し警戒する。自分の事を神だと言うなんて、どう見ても怪しい人物だ。少しだけ後ずさりする。

 

「…冗談です。そう聞こえなかったのであれば、私もまだまだ学習が必要ですね」

 

「…」

 

「ただ、私が言えることとしては既にあなたが名前を入力しているので、そう判断したのですよ」

 

 彼女が手を宙で動かして、何かの角の丸い四角形を俺に見せる。

 そこには、『プレイヤー名:レン』という入力がされていた。

 

「アバターの設定についてはレンさんのデータが残っておりましたので、そちらから復元しておきますね」

 

 俺の同意を確認せず、エルフの女性は勝手に何かの操作を行うと俺の全身白く光り始めた。

 目を開けていられないほど輝きを増し、とっさに両目を閉じる。すると、すぐに強い光が消える感覚がしたため、目を開けると俺は魔族になっていた。

 服装は魔族の初期装備である黒いマントに黒のブーツ、そして黒の革手袋。そして、俺の頭部には牛のような大きな角が生えていた。

 

「これは…」

 

「はい、アストルムでアバターが作られたときの最初のコスチュームになります」

 

「じゃあ…」

 

「では参りましょう。レジェンド・オブ・アストルムの世界に」

 

 自称神は何かを紹介するかのように、腕をゆっくりと横へ振り払う。

 俺も彼女の動きを追うように視線を動かすと、俺は林の中にいた。

 

 

 体を貫く風は、青臭い草の匂いを鼻腔へと運んでくれる。

 足元に生える草に触ると、風に揺られた草のこそばゆい感触があった。

 

「こちらへどうぞ」

 

 自称神はそう言って林の中へと入っていく。

 上空から聞き慣れない鳥の鳴き声を耳にしながら、俺は彼女の後を追った。

 

 虫の声が林の中から聞こえつつ、見たこともない草をかき分ける。そうしているうちに、草や木のない開けた場所にたどり着いた。

 

「ここからだとよく見えますよ」

 

 自称神がにっこりと微笑んである場合を示す。

 

「…これは」

 

「レンさんもご存知の通り、あれがランドソルです」

 

 俺のいる崖を見下ろした先には、街が見えた。五芒星の形をした外壁に囲まれ、そびえ立つ城を中心として、その周囲に城下町が立ち並ぶ。

 何度も見たことがある場所だ。レジェンド・オブ・アストルムの発売発表日の紹介映像に登場した街だ。あそこから、冒険へと旅立つのである。

 

「じゃあ俺は本当に…」

 

「はい、あなたは今アストルムの世界に来ています」

 

 自称神は俺の隣に立ち、一緒にランドソルの街並みを見下ろした。風が強く吹き、乱れる髪を抑えながら、問いかけた。

 

「どうですか、夢にまでみたアストルムの世界は?」

 

「ここがアストルム…」

 

 俺は素直に喜べなかった。今アストルムにいる。その事が本当なのか、信じられなかったのだ。だが、俺が踏みしめている地面も、全身に感じる風の強さも、そして俺の頭にあるツノも全部が本物なのだ。

 その事を実感したからか、目頭が熱くなる感覚があった。

 

「レンさんはめげずに何度も何度も、私の検証に協力してくれたのです。()の中ですが、ご褒美を貰っても良いと思います」

 

「いえ…十分です。この世界にやってこられたのであれば」

 

 そう、俺は夢にまでみたアストルムにやってきたのだ。あの人が管理する場所に。

 訳の分からない理由でアストルムにログインが出来なかったが、その障害を乗り越えて、ここにやってきた。ついに俺の冒険が始められるのだ。

 

「じゃあ俺はとりあえず、ランドソルに行けばいいのですか?」

 

 始まる時には普通だと街中なのだが、何故か俺は崖に立っている。装備もない丸裸の俺はきっとすぐに、その辺りでうろつく魔物にやられてしまう。このまま冒険へ、とは行けない。

 

「そうですね、ですが…」

 

 何かを言いかけた時、自称神は胸の辺りを抑えるとその場にしゃがみ込んだ。

 倒れそうになる彼女を受け止めると、背中に手を添えて、仰向けの楽な姿勢にする。

 

「すみません、()()()の侵入を許してしまったようです」

 

「あの人? あの人って一体…」

 

「最近はこうして、私の中に探りを入れているのです。きっと何か企んでいるのでしょう。彼らがルナの塔を登る前に…」

 

 彼女は何かを俺に伝えようとしているのだろう。だが、俺にとってみれば全く意味を成さない言葉を羅列させられていた。

 額に手を当ててみるも、熱は感じられなかった。毒のような状態異常を患っていないようだ。しかしながら何か回復アイテムを持っているわけもなく、苦しんでいる彼女をこのままにしてはいけない。すぐにでも眼下に見えるランドソルに行かねば、と彼女を抱きかかえて、街の様子を見る。

 

 だが何かがおかしかった。

 街にはノイズが走り、霧がかかっているかのように霞んでいた。

 街だけではない。辺りを見渡せば、同様の事が起きていた。鳥の鳴き声は、軋んだドアを開けたような不快な音に変わり果てている。林も、空も、地面もノイズによって輪郭が歪み、元々の形を成していなかった。

 

「これは…」

 

「すみ…ません。あなたにお見せ出来る夢は、ここまでのようです。もう一つの私へとリソースを割いており、こちらの維持が困難になっております。…もう少し安定性を重視するように工夫しますね」

 

「夢…? リソース…? 一体何の話を…」

 

 世界が崩壊していく様を俺は、ただただ突っ立ったまま見ているしか出来なかった。街はノイズと共に消え去り、雄大な空は濃い灰色へと変色していた。

 すると突然、自称神が体勢を変えて、俺の方へと寄りかかるように身体を預けた。両腕を俺の首に絡め、頭を俺の肩へと添える。彼女の息遣いが間近に聞こえ、鼓動が早くなる。

 

「これ以上は危険です。あなたを強制ログアウトさせます。無関係なあなたにまで、迷惑を掛けたくありませんから…」

 

「何を急に…」

 

「彼が何をするか分かりません。どうかあなたは、当分こちらへは入ってこないように…お願いいたします、レン」

 

 彼女はぎゅっと俺に抱きつく力を強める。

 白髪で長髪。自動生成されたような均一した声。蝶のような大きな羽。豊満な胸。

 俺の脳裏でパズルピースのように、その不確かな要素が埋められていく。

 

 彼女は…。

 名前は…。

 

 

 

 

 

「さっさと起きるの」

 

 聞き覚えのある声とともに、俺は目覚めた。

 普段の俺は、寝起きがとても悪い。意識が朦朧として、気持ちのいい目覚めとは言えないものである。しかし、今回の場合は違う。妙に意識がいつもよりはっきりとしているのだ。

 寝ぼけ眼で今何時とか、もう少し布団の中に居たいとか、寝起き特有の淡い幻想を抱いていなかった。

 なぜなら、現在進行系で俺の身体に負荷がかかっているためだ。

 

「何してるの、もう朝なの」

 

「いや、ミヤコさんこそ何を…」

 

「何って、レンが起きないからミヤコが起こしてあげているの」

 

 右耳についていた煩わしく感じるmimiを外し、顔を上げてみればミヤコさんが少し頬を膨らませ、俺の腹部にちょこんと座っているのだ。

 彼女は小柄な体型をしている。小学生ぐらいと言われても違和感ないかもしれない。それほど彼女は軽く、俺の腹部に乗っているだけでは特に負担はかかっていない。

 

「いえ、俺は…」

 

「目が起きてないの。さっさと起きるの~!」

 

 だが、その場で飛び跳ね、俺の腹を殴るとなると話は別である。

 俺の身体へ着地するたびに、彼女の全体重がのしかかる。そして時折、彼女の小さな拳が鳩尾に食い込まれることで、俺の身体の内部から悲鳴が聞こえてきた。

 

「…はい、今起きました。だからもう跳ねないで…」

 

「ならいいの。さっさと支度を済ませるの!」

 

 身体を起こしミヤコさんの腕を掴もうとすると、彼女は俺の腹部から離れ、真上へと浮かんでいった。俺を見下ろしている彼女は満足そうな表情をしている。きっと、俺が本当に起きた事を確認したからだろう。何せ、俺はさっきまで完全に覚醒していなかったのだ。

 

 なぜこうまで、彼女が俺を起こそうとしているのか。

 それは、今日ミヤコさんとショッピングをすると俺が提案していたからである。

 

 

 

 

「なんでmimiを付けているの?」

 

「mimiにはボイスチャット機能があるんです。フレンド登録をした人となら、無料で通話ができるのですよ。VRゲームをしていなくても使えるんで、一時期はみんなこれで会話をしていたくらいです」

 

「…結局どういう事なの?」

 

「いいですか、ミヤコさん。こうすることで、俺は独り言を話し続ける不審者として扱われずに済むのです」

 

 晴天に恵まれた駅通りのメインストリートには、多くの買い物客で溢れていた。

 家族連れや友人、恋人同士の多くが道を行き交う。店舗の前では店員がメガホンを片手に、安売りの宣伝を溢れんばかりの声で叫んでいた。こうして多くの人手で賑わっているのは、駅通りだとよく見る週末の風景である。ただ、俺の内心ではとてもではないが、穏やかに買い物ができているか不安でいっぱいなのである。

 

「不審者…? 意味がわからないの。別にみんなは()()()()()()から、関係ないの~」

 

 目的のお店へと向かう最中、俺の肩に乗っかるミヤコさんは俺の頭に重心を置き、少し不満そうにする。きっと肘をついて、辺りを見渡しているのだろう。

 彼女の言う通り、俺の近くを通り過ぎる人たちは、俺の頭上を気にすることなく、横を通り過ぎていくばかり。人通りの多い中で、マフラーを身につけている、見ているだけで暑苦しい子供がいる事に驚く人はいないのである。俺も彼女同様、ミヤコさんを肩車している事を気にしていないのである。

 ただ、俺がミヤコさんと話す会話だけはどうしても周りには聞こえてしまうのだ。ぶつぶつと独り言をしているように見えたために、何度か警察のお世話になった事が脳内に過ぎる。

 

「それはそうですけれども…。こうしているのは、何事もなく無事に買い物ができるようにするための保険です。ミヤコさんだって、俺が警察に呼び止められるのは嫌でしょう?」

 

 mimiを付けたまま街を出歩く人は日常でよく見る光景となっている。

 昔は、スマートフォンのながら歩きは危険だ! という注意がよくされていた。一種の社会問題として扱われていたりもする。当初はゲーム機であるmimiを付けたまま歩くのは危ないのではないか、という話題が上がったことがある。何せ簡単に身につけることができるためだ。

 しかしながら、VRゲームをしながら歩くことなどすることはできない。VRゲームを始めると、意識がmimiへと接続されるようになるため、その場から動けなくなるためである。

 

 ただ、mimiを不特定多数のいる場所での使用は控えるように、という注意がよく言われている。何せ、ゲームからログアウトをしない限り、意識がmimiから戻ってこないのだ。本当の身体はその間無防備にされてしまうため、誰が何をしようと気づくことができないのである。

 一番初めに発売された初期型は、第三者の人間が無理やりmimiを取り付けて、身体の自由を奪うことができるという、とんでもない使い方が噂に上がったことがある。

 ただその対策は当初から施されて、mimiが使用者の音声を認識できるようにしているため、そのような事をしたという事例は一切上がってきていない。まあ、そんなことをする人がいたのならば、きっとその人はよほどの変人で、今頃堀の中に入っているだろう。

 

「ミヤコはプリンが食べられるなら、別にレンが何をしようが関係ないの。でも…ちょっと足に引っかかって邪魔なの」

 

 そう言うと、ミヤコさんは俺の右耳に付けているmimiをツンツンと突っつく。

 ぎゅっと俺の頭に抱きつく姿勢をしているためか、俺の肩に乗るミヤコさんの内ももにmimiが少し食い込んでしまうのだ。

 

「さすがにmimiは外せないので、ミヤコさんには浮いてもらうしか…」

 

「嫌なの。面倒くさいの。こっちの方が楽なの」

 

「左様ですか…」

 

 彼女はわがままな神様である。

 さっさと行くの、とポンポンと頭を叩くミヤコさんの機嫌を損ねないように、俺は目的地でへ足を早めた。

 

 

 

 

 

 

「んんっ~! 久々のデリシャスプリンなの!」

 

 公園のベンチにちょこんと座るミヤコさんは、家から持ってきた俺のスプーン(マイスプーン)を手にして、プリンを味わっていた。

 俺たちがやってきたのは、椿ヶ丘駅近くにある公園。椿が丘は俺が住んでいる場所から、少しばかり遠いところにある街だ。

 この椿ヶ丘限定で売っているプリンのアンテナショップが椿ヶ丘駅前にオープンをしたということで、ミヤコさんとともに遠征をしているのである。デリシャスプリンなるプリンの存在については、以前よりミヤコさんから聞かされていた。

 またミヤコさんは以前に椿ヶ丘に居たらしく、そこで彼女にmimiの使い方を教えた高校生によくプリンを(たか)っていたそうだ。

 

「ところでミヤコさん。このプリンは特別だからと沢山買わされたわけですが、他のプリンとどう違うのですか?」

 

 ミヤコさんの隣でショップから購入したプリン容器を袋から取り出して、じっくりとその外見を観察する。円錐台状のよく見かける容器に入るプリンは、少しの振動でも揺れてしまうほど柔らかいのが見て取れる。

 楽しそうに鼻歌を歌っていたミヤコさんは、こちらを振り向き、プリンを飲み込んでから話始めた。

 

「ふふん♪ このプリンの一番の特徴は、この柔らかさなの! そして、口に含んだ途端にとろけるカスタード…。たまらないの〜」

 

 プリンを口へと運び、幸せそうな表情を浮かべて、再び感傷に浸り始まる。

 

 彼女のプリンに対する評価というのは、間違いのない至極真っ当なものである。むしろ個人的には、彼女の意見は大いに当たっていると思う。プリンの神様だと言うだけあって、彼女はこれまで数多くのプリンに対して評価を下してきた。

 味、食感、香り。主にこの3つが彼女の評価基準となり、美味しい不味いを判断している。これまで幾度と彼女にプリンを食べてもらっているが、どの評価も納得の行くものであり、プリンの良し悪しに限らず彼女の評価は狂いのない正確なものだ。

 彼女が美味しいと評価したプリンは、彼女の評価基準のどれかが斗出している。逆に不味いと評価したプリンには、その評価基準のどれかが著しく低い。彼女の舌にかかれば、プリンの良し悪しが測る事など容易い事なのだ。

 

 きっとこれなら…。

 

「むう、レンも早くデリシャスプリンを食べるの! じゃないとミヤコが食べちゃうの~」

 

「…わかりました。食べますから、プリンから手を離してください」

 

 持っているプリンの容器にしがみつくミヤコさんを離し、袋から新たなデリシャスプリンを手渡したところでようやく彼女は落ち着きを取り戻してくれた。既に3個を食べている。

 これ以上ミヤコさんからプリンを奪われないようにするため、デリシャスプリンの蓋を開けようとしたときだった。

 

「ママー、プリンが宙に浮いてるー」

 

「あら本当ね、手品かしら」

 

 目の前を通りかかった親子が俺のいるベンチに指を指して注目をしたのだ。

 親子が見ている先には、俺と同様にプリンの蓋を開けようとしているミヤコさんが居た。

 

「…何なの。プリンは渡さないの!」

 

「お兄さん、すごい手品だね! 練習がんばってね!」

 

 母親の手をぎゅっと握る少女は、屈託のない笑顔で俺に手を振り、歩き去っていった。それに倣い、俺も親子に手を振る。その横で食い意地を張る神様は、眉間に皺を寄せて少女に対し、敵対心を剥き出しにしていた。

 

「…何やってるんですか、ミヤコさん」

 

「危なかったの。少しでも気を抜いていたら、あの女の子にプリンを取られるところだったの」

 

 ミヤコさんは通り過ぎていった親子が視界に入らなくなると、プリンを大事そうに抱え、いつもよりも早めにプリンを掻き込むのだった。

 

 

 ミヤコさんは神様である。

 彼女はプリンの神様であるため、彼女の姿を見ることができる超すごい人物のもとでプリンを食べる必要があるのだ。

 ただ、俺は最近になり、本当に彼女が神様であるのか再び疑問に思い始めている。

 むしろミヤコさんは、神様ではなく、強い霊感を持つ人にしか見える事が出来ない()()なのではないかと最近になって確信している。

 

 

 

 

「えっ…ばあちゃん、どういうことだよ」

 

 ミヤコさんに話を聞かれたくなかったため、慌てて部屋を飛び出した俺は携帯電話から聞こえてくる祖母の言葉を疑った。

 

『もしかしてあんた、気づいていなかったのかい? てっきり私は、面白そうなやつに取り憑かれているから、放置しているのだと思っていたんだけどねぇ』

 

 霊感。

 いわゆる、第六感と呼ばれるものだ。超能力が事件を解決し、はたまた占いをして人々を導く。そんなものが一昔前のブームになっていたとかなっていなかったとか。

 それはさておき、俺の家系では、時折()()()()()()人というのが出てくるそうだ。その傾向が特に強いのが祖母と俺らしい。

 俺は覚えていないのだが、小さい頃に親族の葬式に行った際、真夜中にお別れをする人と会って挨拶をしたよと笑顔で母親に報告をしたという。これが小さな騒動に発展してしまって以来そのような事を口にするなと、こっ酷く叱られたらしい。

 叱られて以降、そのような発言をしなくなり祖母は残念そうにしていたらしいが、先月に俺とミヤコさんが実家へやってきたときには、とても嬉しくなったそうだ。もちろん、俺とも会えて嬉しいと付け足して。

 取り憑かれているのはいいけど程々にね、と言い残し、祖母は電話を切った。

 

 ミヤコさんは神様ではなく、幽霊。

 このような結論に至るための根拠はある。

 そもそも、ミヤコさんの足は浮遊するときに透けていること。悠々と障害物をすり抜けて、隠していたプリンを頬張っていたこと。そして何より、霊感の強い祖母がミヤコさんを認識していること。

 

 可能性としては、ほぼ確実。

 テストで、覚えてきたはずの公式を使って解いた回答ぐらいに信じている。

 ただ、一つだけわからないことがあるとすれば、彼女がなぜ()()と称しているのか、ということだ。

 

 

「ミヤコさんって俺のことどう思っていますか?」

 

「…急に何なの」

 

「いえ、なんとなくです」

 

 4個目のデリシャスプリンに手を付けているミヤコさんは、しかめっ面で俺を見つめる。

 プリンを咀嚼するミヤコさんを見ていると、ぷいっと俺から顔をそらした。

 

「変なやつなの」

 

「…変なやつ?」

 

「レンの部屋にはお菓子の…プリンの本がいっぱいあるの」

 

「…まあ実家が菓子屋なので」

 

「でもレンはお祖母さんと最近まで仲が悪かったの。プリンの本を持っていても意味ないの」

 

「……まあ俺はプリンが好きなので」

 

「やっぱり変なやつなの」

 

 プリンを食べ終えたミヤコさんは空の容器を袋へしまい、足をプラプラとさせる。

 彼女の視線の先には、公園にいる人々がいた。

 週末ということもあり、多くの人が公園を利用していた。

 芝生の上を子どもたちが駆けていき、あるいは遊具を使い楽しんでいた。そんな様子を遠くでレジャーシートを敷いた上にいる子どもたちの親が見守っている。

 

「俺はミヤコさんと一緒に居て楽しいと思っていますよ」

 

 プラスチック製のスプーンを使い、デリシャスプリンを頬張る。

 口の中でほろ苦いカラメルソースが広がり、その後口溶けの良いプリンがすぐに混ざり合う。

 

「ぶっちゃけ、ミヤコさんと会うまでプリンの事をあまり気にしていなかったんです。あれば食べようかなってくらいで自ら進んで買おうだなんて思っていませんでした」

 

「…」

 

「でもミヤコさんと会って、改めて気づいたんです。やっぱりプリンは美味いなって。俺はプリンが好きだなって。それに素材や作り方を探求していけばプリンの味は無限に広がるんです。もっとプリンを味わっていきたい。そう思いました」

 

 ミヤコさんは俺と顔を合わせようとせず、じっと公園の様子を見つめていた。ただ、ぶらついていた足は動かしていなかった。

 

「そう思えたのはミヤコさんのおかげです。ミヤコさんのような探究心が会ったからこそ気づけたもので…」

 

「…何が楽しいの?」

 

「はい?」

 

「だから、ミヤコと一緒に居て何が楽しいのって、聞いているの!」

 

 こちらを振り向き、少しだけムスッとした表情を浮かべる。

 

「うーん…特に何がとは言えないですが」

 

「何なの、やっぱりお前は変なやつなの」

 

「ミヤコさんと一緒に居たら何でも楽しいですよ。一緒にスーパーで買い物したり、プリンの善し悪しについて語ったり、こうして一緒にプリンを食べたり」

 

 例えミヤコさんが神様だろうが、幽霊だろうが、それ以外であろうが、俺は楽しいと感じている。一緒にいることは苦ではないし、それに彼女のプリンに対する知識や、評価方法は俺とは異なり、とても勉強になるのだ。まあ、金遣いが荒いことは目をつむるのだが。

 

「祖母にはまだ言ってないですが、俺は実家を継ごうと思います。プリンを作る能力はないですが、それを支える裏方ってことで。新しいプリンを研究して、作って、売っていきたいなって最近思うようになったんです。そこで…ミヤコさんと一緒にやっていきたいとも思っています。もちろん、やるやらないは自由ですけれど」

 

 彼女と会って、俺は小さい頃に思っていたことを思い出した。

 爺さんよりも上を行くプリンを作る。そのために、実家のお店を継ぎたい。忘れ去られて、掠れて錆びれて、もう読めなくなってしまった俺の夢を彼女は思い出させてしまったのだ。

 彼女と一緒なら良いプリンを作ることができる。そう俺は思っている。

 

 ふとミヤコさんのいる隣を見ると、そこには彼女がいなかった。

 その瞬間、すぐに後頭部に衝撃を受けた。

 

「あがっ」

 

「それは、ミヤコがプリンをい──っぱい食べられるってことでいいの?」

 

 俺の肩に乗ったミヤコさんは、声を弾ませていた。

 

「別に食べ放題ってわけではないですが…プリンは食べられます」

 

「じゃあミヤコも、レンと一緒に付いて行くの~」

 

 ぎゅっとミヤコさんは抱きつく力をさらに強める。少々苦しいものの、彼女が上機嫌であるのであれば別に問題はない。

 

「ふふ、レンありがとうなの~」

 

 彼女が何に対してお礼を言ったのか、結局最後まで理由を話すことはなかった。

 

 

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