静流IF~愛してるだけじゃ足りないから~   作:白羽凪

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長い旅の果てから、旅路は巻き戻ってかの日まで。

やり直すんだ。今度は上手くやる。


#1:始まりのかの日

【風祭市内の森林】

 

「・・・はっ!」

 

 一瞬失いかけていた意識が戻ってくる。

 何があったのか分からない。だけど俺は、どこか長い旅のようなものをしていた気がする。その記憶が混同してか、今の俺の状況が分からない。

 

「えっと・・・ここは森の・・・入口らへん、か?」

 

 手元にある携帯のマッピーはまだかろうじて動いており、ここが森の入り口であることを確認した。どうやら、認識としては間違いない。

 

 でも、なんで俺はこんなところに・・・。

 きっと、何かを探していた。何か・・・違う。誰かだ。

 

 俺は、この森に入ろうとしている誰かを・・・見つけて・・・追いかけて・・・。

 ・・・そうだ。

 

「...小鳥だ」

 

 その名前を思い出した瞬間、全てが光を浴びたように鮮明によみがえり始めた。ふと見かけた小鳥を追って、森の少し入ったところまできて、静流に連絡も入れて・・・。

 

 そうだ・・・俺は小鳥を探してこの森に入ったんじゃないか。

 

「小鳥ーー!! 返事してくれーーー!!!」

 

 先ほど叫んだ言葉をもう一度繰り返す。けれど、響いてくるものは小さなこだまだけ。

 どうにもならないところで、俺は停滞していた。

 

 

 だから、俺が進まなきゃいけない。

 俺は...

 

 

 

《強化を使って少しでも奥へ行く》

 

《今のままで奥へ行く》

 

《・・・いや、ダメだ。引き返そう》↩

 

 

 

 ふと、俺の中で退くという選択肢が頭をよぎった。

 

 小鳥を追わなければいけない。そう思って森に入ったはずなのに・・・。

 けれど、このまま進んでしまうと、どこか引き返せなくなる。思い始めると、そんな恐怖心ばかりが俺を支配した。

 

 きっと・・・今ここで進むと・・・

 

 

 

 

『ただいま』

 

 

 

 

 

「!? あっ、ぐぁあ!!」

 

 いつか聞いたような、聞いたことのない言葉が形をもって俺に届く。直接頭を殴られたような痛みが俺を襲った。

 冷や汗が滝のように流れ落ちる。

 

 ・・・ダメだ。この先は、地獄だ。

 

 森が危険なのは分かっている。森を知っている人間は皆、口をそろえてそういうのだから。

 けど、今俺が感じてるものはきっとそれ以上のもの・・・。

 

 本当に、この先にはいけない。

 

 

「だからって・・・小鳥を見逃すってのかよ・・・!!」

 

 いつのまにか竦んで動けなくなっている自分に対して、俺は静かにほえた。

 この森の中に小鳥がいるのに・・・! 俺が助けないといけないのに・・・!

 

 

 でも、小鳥のことを思おうとするたびに、どうしても静流の姿が脳裏をよぎる。

 それはまるで刻印を刻まれたかのように、必ずと言っていいほど。

 

「なんだよ・・・これ! 静流・・・!」

 

 静流が俺に行くなと言ってるのだろうか。先ほどの口頭注意では飽き足らず、シンパシーでも行って。

 けど、静流だって小鳥のことは心配しているんだ。じゃなきゃ、こうして手伝おうとしてくれないはずだ。

 

 

 じゃあこれは・・・いったいなんだっていうんだ。

 静流は・・・俺に何を伝えようと・・・。

 

 

 頭に血が上りすぎてる・・・。一旦、深呼吸だ。

 

 そして、誰かに急かされていない、俺の気持ちを確認する。

 

 俺は、小鳥を助けたい。こんな危険な森にいるんだ。何かがあったら遅すぎる。

 ・・・でも、同時に静流に迷惑をかけたくないとも思った。

 

 今一度考えなおしてみて、俺のわがままは静流を大いに振り回していることに気づいた。

 それが迷惑じゃなくて、何だっていうんだ。

 

 ならば今度は、なんで迷惑をかけたくないか、なんてことをもう一度考えている。

 答えが顕現したのはほんの一瞬のことだった。

 

 

『俺は、静流が好きだ』

 

 好きだから、迷惑をかけたくない。

 ・・・いや、違う。好きだから、静流のことを一番に考えてやりたいんだ。そんでもって誰よりも傍にいてほしくて、誰よりも笑ってほしくて、誰よりも・・・好きでいてほしくて。

 

 

 もっと冷静に考える。

 

 ・・・二者択一のこの場面、どちらも選ぶという強欲な解は存在しなかった。

 このまま進めば、きっと静流に迷惑をかける。

 ここで引き返せば、もう二度と小鳥には会えなくなるかもしれない。

 

 だったら、俺が大切に思ってる方を選ぶしかない。だから・・・俺は・・・。

 

 

「っ!」

 

 その場でくるりと180度回転し、森の出口へ向かう。まだ最深部と言えないここからなら、出ることもたやすいだろう。

 バッグに入っている七輪の重さを体で受けつつ、俺は全速力で駆けていく。

 

 片手に携帯をとり、再度静流の番号を入力した。

 

 

『コタロー? どうしたんだ?』

 

「・・・森から、引き返そうと思う。というかもう、そうしてる」

 

『なっ・・・!? そんなの危険だ! 二次遭難の可能性が・・・!』

 

「大丈夫、もう人家が見えるところまで戻ってきたんだ。その心配はない」

 

 現に俺の目の前には、ちらほらと家の明かりが映っていた。ここまでくれば、危険が及ぶ可能性は極めて少ない。

 

『そうか・・・。でも、小鳥はどうするんだ? あれだけ探そうとして、どうして急にこんな・・・』

 

「・・・静流の言葉を聞いて引き下がらないと、俺は絶対に危ない目にあっていた。・・・本当は待つのが一番だと思ったんだけど、立ち止まったら思い出してしまいそうだったから・・・」

 

 危険を避ける方法として、静流を待つのが一番良かったかもしれない。

 でも、引き下がる決断をしたとき、一刻でも早く森を抜け出したかった。

 

 森に小鳥がいると分かってるから。進めば、見つけれるかもしれないと思ってしまうから・・・。

 

 期待をかき消すために、俺は森を抜けた。それだけのことだった。

 それは同時に、小鳥を裏切ったことになる。底の見えない罪悪感だけが、俺に残る。

 

 それを表に出さないように唾と一緒に飲みこんで、静流の話を待った。

 

『・・・分かった。コタローは先に家に帰っててくれ』

 

「・・・静流はどうするんだ?」

 

『私には、もともとガーディアンの仕事がある。・・・遅かれ早かれ、森に入るつもりだった。・・・余裕があるようなら、私が小鳥を探す』

 

「・・・ごめん。こんなに、不甲斐なくて」

 

『大丈夫だ。・・・全部、大丈夫だ。きっと何とかなる。きっとどうにかする。だからコタローは、私を待っててほしい』

 

「ああ。待つさ」

 

 

 小鳥を裏切った俺には、もうそれしかない。

 静流の帰る場所を、作ることしか・・・。

 

 

『じゃあ、行ってくる』

 

「ああ。待ってるから」

 

 

 

 

 電話を切って、俺は再び家を目指して歩く。

 その足取りは後悔の足かせに縛られたのか、いつにもまして重たいものだった。

 

 

 

===

 

リライトメーター【70%】

 

 

 

 

 




どうも、創作意欲MAXマン白羽です。
今回より静流IF本編入っていきます。

この日は原作で言う、瑚太朗が一度死ぬシーンです(地竜にやられて)。
あの時、小鳥を諦めてまで静流の言うことを聞く。

絶対にあり得ないような選択肢ですが、moon世界の枝は無限大。
こんなことがあってもいいでしょう。

そして、物語は続いていくのです・・・。


では次回、また会いましょう。
感想、評価等、お待ちしています。
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