やり直すんだ。今度は上手くやる。
【風祭市内の森林】
「・・・はっ!」
一瞬失いかけていた意識が戻ってくる。
何があったのか分からない。だけど俺は、どこか長い旅のようなものをしていた気がする。その記憶が混同してか、今の俺の状況が分からない。
「えっと・・・ここは森の・・・入口らへん、か?」
手元にある携帯のマッピーはまだかろうじて動いており、ここが森の入り口であることを確認した。どうやら、認識としては間違いない。
でも、なんで俺はこんなところに・・・。
きっと、何かを探していた。何か・・・違う。誰かだ。
俺は、この森に入ろうとしている誰かを・・・見つけて・・・追いかけて・・・。
・・・そうだ。
「...小鳥だ」
その名前を思い出した瞬間、全てが光を浴びたように鮮明によみがえり始めた。ふと見かけた小鳥を追って、森の少し入ったところまできて、静流に連絡も入れて・・・。
そうだ・・・俺は小鳥を探してこの森に入ったんじゃないか。
「小鳥ーー!! 返事してくれーーー!!!」
先ほど叫んだ言葉をもう一度繰り返す。けれど、響いてくるものは小さなこだまだけ。
どうにもならないところで、俺は停滞していた。
だから、俺が進まなきゃいけない。
俺は...
《強化を使って少しでも奥へ行く》
《今のままで奥へ行く》
《・・・いや、ダメだ。引き返そう》↩
ふと、俺の中で退くという選択肢が頭をよぎった。
小鳥を追わなければいけない。そう思って森に入ったはずなのに・・・。
けれど、このまま進んでしまうと、どこか引き返せなくなる。思い始めると、そんな恐怖心ばかりが俺を支配した。
きっと・・・今ここで進むと・・・
『ただいま』
「!? あっ、ぐぁあ!!」
いつか聞いたような、聞いたことのない言葉が形をもって俺に届く。直接頭を殴られたような痛みが俺を襲った。
冷や汗が滝のように流れ落ちる。
・・・ダメだ。この先は、地獄だ。
森が危険なのは分かっている。森を知っている人間は皆、口をそろえてそういうのだから。
けど、今俺が感じてるものはきっとそれ以上のもの・・・。
本当に、この先にはいけない。
「だからって・・・小鳥を見逃すってのかよ・・・!!」
いつのまにか竦んで動けなくなっている自分に対して、俺は静かにほえた。
この森の中に小鳥がいるのに・・・! 俺が助けないといけないのに・・・!
でも、小鳥のことを思おうとするたびに、どうしても静流の姿が脳裏をよぎる。
それはまるで刻印を刻まれたかのように、必ずと言っていいほど。
「なんだよ・・・これ! 静流・・・!」
静流が俺に行くなと言ってるのだろうか。先ほどの口頭注意では飽き足らず、シンパシーでも行って。
けど、静流だって小鳥のことは心配しているんだ。じゃなきゃ、こうして手伝おうとしてくれないはずだ。
じゃあこれは・・・いったいなんだっていうんだ。
静流は・・・俺に何を伝えようと・・・。
頭に血が上りすぎてる・・・。一旦、深呼吸だ。
そして、誰かに急かされていない、俺の気持ちを確認する。
俺は、小鳥を助けたい。こんな危険な森にいるんだ。何かがあったら遅すぎる。
・・・でも、同時に静流に迷惑をかけたくないとも思った。
今一度考えなおしてみて、俺のわがままは静流を大いに振り回していることに気づいた。
それが迷惑じゃなくて、何だっていうんだ。
ならば今度は、なんで迷惑をかけたくないか、なんてことをもう一度考えている。
答えが顕現したのはほんの一瞬のことだった。
『俺は、静流が好きだ』
好きだから、迷惑をかけたくない。
・・・いや、違う。好きだから、静流のことを一番に考えてやりたいんだ。そんでもって誰よりも傍にいてほしくて、誰よりも笑ってほしくて、誰よりも・・・好きでいてほしくて。
もっと冷静に考える。
・・・二者択一のこの場面、どちらも選ぶという強欲な解は存在しなかった。
このまま進めば、きっと静流に迷惑をかける。
ここで引き返せば、もう二度と小鳥には会えなくなるかもしれない。
だったら、俺が大切に思ってる方を選ぶしかない。だから・・・俺は・・・。
「っ!」
その場でくるりと180度回転し、森の出口へ向かう。まだ最深部と言えないここからなら、出ることもたやすいだろう。
バッグに入っている七輪の重さを体で受けつつ、俺は全速力で駆けていく。
片手に携帯をとり、再度静流の番号を入力した。
『コタロー? どうしたんだ?』
「・・・森から、引き返そうと思う。というかもう、そうしてる」
『なっ・・・!? そんなの危険だ! 二次遭難の可能性が・・・!』
「大丈夫、もう人家が見えるところまで戻ってきたんだ。その心配はない」
現に俺の目の前には、ちらほらと家の明かりが映っていた。ここまでくれば、危険が及ぶ可能性は極めて少ない。
『そうか・・・。でも、小鳥はどうするんだ? あれだけ探そうとして、どうして急にこんな・・・』
「・・・静流の言葉を聞いて引き下がらないと、俺は絶対に危ない目にあっていた。・・・本当は待つのが一番だと思ったんだけど、立ち止まったら思い出してしまいそうだったから・・・」
危険を避ける方法として、静流を待つのが一番良かったかもしれない。
でも、引き下がる決断をしたとき、一刻でも早く森を抜け出したかった。
森に小鳥がいると分かってるから。進めば、見つけれるかもしれないと思ってしまうから・・・。
期待をかき消すために、俺は森を抜けた。それだけのことだった。
それは同時に、小鳥を裏切ったことになる。底の見えない罪悪感だけが、俺に残る。
それを表に出さないように唾と一緒に飲みこんで、静流の話を待った。
『・・・分かった。コタローは先に家に帰っててくれ』
「・・・静流はどうするんだ?」
『私には、もともとガーディアンの仕事がある。・・・遅かれ早かれ、森に入るつもりだった。・・・余裕があるようなら、私が小鳥を探す』
「・・・ごめん。こんなに、不甲斐なくて」
『大丈夫だ。・・・全部、大丈夫だ。きっと何とかなる。きっとどうにかする。だからコタローは、私を待っててほしい』
「ああ。待つさ」
小鳥を裏切った俺には、もうそれしかない。
静流の帰る場所を、作ることしか・・・。
『じゃあ、行ってくる』
「ああ。待ってるから」
電話を切って、俺は再び家を目指して歩く。
その足取りは後悔の足かせに縛られたのか、いつにもまして重たいものだった。
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リライトメーター【70%】
どうも、創作意欲MAXマン白羽です。
今回より静流IF本編入っていきます。
この日は原作で言う、瑚太朗が一度死ぬシーンです(地竜にやられて)。
あの時、小鳥を諦めてまで静流の言うことを聞く。
絶対にあり得ないような選択肢ですが、moon世界の枝は無限大。
こんなことがあってもいいでしょう。
そして、物語は続いていくのです・・・。
では次回、また会いましょう。
感想、評価等、お待ちしています。