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「ファッ!?おるやんけ!?」
という訳で、97位とカスみたいな順位ですが乗ってました。ウレシイ…ウレシイ…
──1年E組の教室は、雑然とした雰囲気に包まれていた。
多くの生徒たちが新しく見つけた友達と談笑しており、鞄を置いたアルフレッドも昨日出来たばかりの友人の姿を確認して、歩み寄った。
「おはよう、アルフ」
「おはよう、タツヤ。そっちのハンサムは誰だい?」
アルフレッドが目を向けたのは達也の前に座っているドイツ系の男子生徒。茶色がかった短髪に、緑色の瞳。顔立ちは東洋人っぽいが、ステイツの知り合いに居たドイツ系移民の子孫に似たような人がいたため、アルフレッドは彼がドイツの血を引いていることを推測した。
「ハンサムっていつの言葉だよ…っと、西城レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクォーターな所為で見た目は純日本人だが名前は西洋風だ。得意な術式は収束系の硬化魔法だ、レオでいいぜ」
「僕はアルフレッド・グラント・ロジャース。生まれも育ちもブルックリン、僕も得意な術式は硬化魔法だ。アルフでいいぞ」
「ブルックリンって…ニューヨークか?ってことはアメリカから来たのか?」
「そうだ。あまり素質があるとは言えないから渡航が許されたんだ」
レオの抱いている疑問を自嘲気味な回答で解決すると、アルフレッドは硬い握手を交わし、二人は芽生えた友情を確認する。
「チョット、アルフ。アタシたちのことは眼中に無いってわけ?」
「まさか、君ほどの美人が眼中に無いわけないだろう?」
隣から野次を飛ばしてきたエリカを彼は軽くあしらう。勿論分かった上でエリカも言っているので、笑って彼女も受け流した。
「…にしても、司波くんって魔工師志望なの?」
「達也、コイツ、誰?」
「そうなのか?タツヤ」
「頼むから一斉に喋らないでくれ…」
「あははは…」
エリカが達也に聞き、レオはエリカを指さし、アルフレッドは意外そうな顔で達也に訊ね、美月は思わずそう漏らした達也に苦笑する。
「うわっ!いきなりコイツ呼ばわり?失礼なヤツ、失礼なヤツ!モテない男はこれだから。どうせバレンタインだって一個も貰ってないんでしょ?」
「何だと!これでも去年のバレンタインには一個貰ってるぞ!」
「どうせお母さんでしょ」
「なっ…」
「まぁまぁ落ち着け、レオ。僕だって1個しか貰ってない」
アルフレッドがエリカの言葉のストレートに沈む彼の肩を叩き、そう言う。
「ちなみにアルフ、その1個は誰から貰ったの?」
「うん?勿論リーナ…僕の恋人からだけど」
しかし、アルフレッドの援護射撃はどうやらフレンドリーファイアだったようで、レオは今度こそ撃沈する。
「でも良かったのかい?」
「何がだ?」
「ガールフレンドを残して日本に来て」
「テレビ通話とかなら出来るしね。それに、僕らは離れていても心が繋がっている」
「ガハッ!」
朝から惚気話を聞かされて、レオは血反吐を吐いて、エリカと美月、達也までもが机に突っ伏した。
─────────
予鈴が鳴り、友人たちと話し込んでいた生徒たちは自分の席へと戻る。
この辺のシステムは1世紀前から変わっておらず、ここまで高度に情報化がなされた社会で続いているのは、ひとえに「伝統」や「慣習」を重んじる日本文化のおかげだろう。
電源の付いていない備え付けの端末の電源が付いたと同時に、教室前面のスクリーンにメッセージが表示された。
【5分後にオリエンテーションを始めますので、それまでに登録を済ませていない生徒は登録を済ませておいてください】
(機械弄るのはあんまり得意じゃないんだよな…まぁ分からなくなったらタツヤにでも聞くか)
西城、司波、スティーブと名前の順で並べられた席順では彼の前は達也だ。既に登録を済ませていたのか、達也は学内資料を検索しようとしているのが後ろから確認できた。
「なぁタツ──」
そこで予想外の事が起きた。
本鈴と同時に、教室前方のドアが開いたのだ。
入ってきたのは、スーツ姿の小柄な女性。恐らく歳は22以上なのは確実だが、愛嬌のある童顔なのもあって実年齢より幼く見える。
この時代、教員がわざわざ教室に来ることは滅多にない。端末によるオンライン授業が国際的にも、勿論日本でもスタンダードである以上、こうして教員が教室に来てもすることは無いと言えよう。
「はい、欠席者は居ないようですね。それでは皆さん、入学、おめでとうございます」
つられてお辞儀する生徒も何人か見られ、現にレオは「あっ、どうも」なんて素で答えている。
「はじめまして、私はこの学校で総合カウンセラーを務めている小野遥です。皆さんの相談相手となり、適切な専門分野のカウンセラーが必要な場合はそれを紹介するのが私たち総合カウンセラーの役割となります」
そう言えば日本は生徒に対するカウンセリングが進んでいる国だったな、とアルフレッドは思い出した。祖国・アメリカは中米の併合後多発するゲリラ対策として就職支援などの分野などの制度は進んでいるものの、こう言った学校でのカウンセリング体制はさほど進歩していない。
「総合カウンセラーは合計16名在籍しています。このクラスは私と柳沢先生が担当します」
スクリーンに、男性教師の顔が映し出される。
『はじめまして、カウンセラーの柳沢です。小野先生と共に、君たちの担当をさせていただきます。どうかよろしく』
「このように、カウンセリングは端末を通して行うこともできます。皆さんの個人情報はしっかりと保存されるので、漏洩の心配はしなくて大丈夫です」
彼女が持ち上げた大型の端末が、その保存機器なのだろうか、とアルフレッドは推測する。
「本校は皆さんが充実した学校生活を送れるよう、全力でサポートします。…という訳で、これからよろしくお願いしますね」
事務的な口調が砕けた口調に変わるのとほぼ同時に、張り詰めた教室内の雰囲気も弛緩したのをアルフレッドは感じだ。
かつて知り合いのエージェントに教えてもらったことだが、コミュニケーションの場において主導権を握る人間は、「緊張と弛緩」の使い分けが上手いことが多いという。
実際、そのエージェント─ロードリック・バートンと言う弓の名手─は妻と三人の子供が居て、いつもアルフレッドの相談に乗ってくれる聞き上手だし、また話し上手でもある。
アルフレッドが彼女のコミュニケーション能力に感心している一方で、前の席の達也は「油断ならない人だな」と心の閻魔帳に彼女の名前を書き込んでいた。
「これから皆さんの端末に本校のカリキュラムと施設に関するガイダンスを流します。その後選択科目の履修登録を行って、オリエンテーションは終了です。…既に履修登録を終えた人は、退室しても構いませんよ」
その言葉を待っていたかのように、一人の男子生徒が席を立った。
神経質そうな顔立ちで、細身だがその細身は鍛えられている細さなのがアルフレッドには理解出来た。
それ以降途中退席者は無く、アルフレッドは達也に時折師事を得てなんとか履修登録を済ませた。
ちょうど登録が終わったタイミングで、レオが達也と彼に話しかけてきた。
「達也、アルフ、昼までどうする?」
椅子をまたぎ背もたれに両腕を重ね、顎を載せるという、先程と変わらない姿勢のレオは二人に訊く。
「僕はどこでも。特に行きたいところがある訳じゃないしね」
「ここで資料の目録を眺めているつもりだったんだが…OK、付き合うよ。それで、何を見に行くんだ?」
日本とアメリカの魔法教育には大きな違いがある。義務教育の過程で、日本では魔法教育を採り入れておらず、一部の私立高校で課外授業として行われる程度だ。反対にアメリカは戦前より「超能力者」による事件などが起きていたこともあり、希望者は中学校から自身の能力の操作について学ぶことが出来る。
余談だが、2095年の軍事力ランキングは1位USNA軍、2位新ソ連軍、3位大亜連合軍、4位インド軍、5位東南アジア諸国同盟軍、六位日本軍…と続く。
各国のアナリストはUSNAと日本の魔法科学の技術力の差はあまり無いと言い、ここまで順位で差があるのはひとえに中学校からの魔法・超能力教育の有無であると言う。
実際2095年度の通常国会では、「中学校からの魔法教育」について公聴会を開くなど政府が前向きな姿勢を見せているなど、「義務教育過程での魔法教育」は、日本における魔法関連の諸課題の1つでもある。
閑話休題。
話が横道にそれてしまったが、そんな訳で日本における魔法教育というものは高校から本格的に行われる。生徒たちのカリキュラムの違いからくるショックなどを緩和するため、今日明日と学校見学の時間が設けられているのだ。
「工房に行ってみねぇか?」
達也の質問に対するレオの回答に、アルフは思わず吹き出してしまった。
「?なんで笑ってんだアルフ」
「い、いや…失礼かもしれないけど、君には闘技場の方が似合ってそうだったから…」
「俺も同感だな」
アルフの言葉に頷く達也。レオはにんまりと笑って、
「やっぱそう見えるか。…まぁ、あながち間違いじゃないんだけどな」
と答えた。
「硬化魔法は武器術との組み合わせで最大限の効果を発揮するからな。自分で使う武器の手入れくらいできないとダメなんだよ」
そう続けたレオの回答は達也を納得させるには充分で、アルフも感心した様子を見せる。話がまとまったところに、美月が声を掛けてきた。
「あのー…工作室の見学でしたら一緒に行きませんか?」
「柴田さんも工房の?」
「えぇ…私も魔工師志望ですから」
「あっ、なんかわかる気がする」
「そうだな、エリカの言う通りミツキは魔工師に向いている気がするよ」
「おめーはどう見ても肉体労働派だろ、闘技場行けよ」
乱入してきたエリカに、レオが軽い言葉のジャブを浴びせる。
「あんたに言われたくないわよこの野生動物」
エリカも応戦し、2人の間に立っていたアルフレッドが仲介役を買ってでる。
「まぁまぁレオ、エリカ。初対面なんだから落ち着いて…」
しかし2人のいがみ合い(?)はアルフレッドの仲介では終わらず、ついには目の笑っていない美月の手により、2人の抗争は終結。五人は工房へと移動した。
─────────────────
丁度日が傾き始めてきた夕方。
三、二年生たちは相変わらず部活に励み、一年生は今日一日の出来事を友達に自慢し、共感し、盛り上がりながら帰路に着いていた。
が、一年生の大半は校門前で野次馬のように円を作り、中心で言い争う数名の男女に視線を向けていた。
片方の集団のブレザーには八枚花弁、もう片方のブレザーには何も無い。
少し離れた所では達也と深雪、二人からまた少し離れた所にはアルフレッドが立ってこの混乱を呆れ気味に眺めていた。
「アルフ。…あれ、どうにか出来ないか」
「こっちこそお願いしたい、タツヤ」
二人ははぁ、と同時にため息をつく。
「お兄様…」
「謝るなよ、深雪。一厘一毛たりとも、お前のせいじゃないんだから」
達也に寄りかかるように立つ深雪の心配そうな顔を見て、達也はあえて強い口調で彼女を元気づけようとする。
「はい…しかし、止めますか?」
「逆効果だろうなぁ…」
「そうですね…にしても」
「まさかミツキがあんなに意志の強い子だったとはね」
深雪の声に重ねるようにして、アルフレッドが呟く。アルフレッドの言葉に達也は頷く。
エリカやレオは雰囲気や言動から気が強いのは分かったが、三人ともまさか美月があんなに強い口調で口論するなど思ってもいなかった。
事の発端は昼食時にまで遡る。
第一高校には比較的広い食堂があるのだが、新入生が勝手知らずだという理由からこの時期は混雑するのが常だ。
6人がけのテーブルを確保し、アルフレッドたちは昼食を楽しんでいたのだが、丁度レオとアルフレッドが半分ほど食べ終わった頃だった。
多数のクラスメイトに囲まれた深雪は食堂にやって来るとすぐに達也を見つけ、当然のように、空いている最後の席に座ろうとした。
が、男子生徒たちは深雪との相席を、あわよくば隣席を狙っていたので、当然これに抗議した。
彼らは最初は「迷惑になる」とか「狭いし邪魔しちゃ悪い」と上手く建前を並べていたのだが、次第に口調が荒くなり、しまいには「二科生と一科生のケジメ」だの言い出した。
レオとエリカがそろそろ爆発しそうだというその時、食べ終えたアルフレッドが立ち上がり、深雪に席を勧めた。。
「大柄の僕が居なくなったんだ、狭くはないだろう?」
しかし達也はここで深雪が座るのは不味いと視線で彼女にメッセージを送り、深雪もアルフレッドと達也たちに頭を下げて、彼とは反対方向に歩き出した。
第二幕が、授業見学の際だった。
その時「射撃場」と呼ばれる演習場では、天才的な魔法師でもある生徒会長・七草真由美のクラスの授業が行われており、男女問わず多くの生徒が彼女の可憐な姿を求めてやって来ていた。
手狭な射撃場の中で、多くの二科生が一科生に遠慮して後ろにいる中、前に陣取っていたアルフレッドたちの姿は当然、悪目立ちした。
そして第三幕がたった今、美月が啖呵を切って進行中だ。
「いい加減諦めたらどうですか!?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰るって言ってるじゃないですか!」
美月の対戦相手は1-Aの生徒、つまり昼に喧嘩になりかねた深雪のクラスメイトたちだ。状況を簡単に説明するなら、深雪と帰ろうとする1-Aの生徒たちと達也と帰ろうとする深雪の意志を尊重しようとする美月たちが言い争っている。
言い争いは一向に収まる気配を見せず、徐々に野次馬も増えていた。
(…あまり良くないな)
口論を眺めながら、アルフレッドはそう感じていた。昼間の一件で彼は特に反感を買われていたから、あまり出ない方がいいとは思っていたが、仮にエスカレートするなら実力行使も止むを得まいとアルフレッドは覚悟を決める。
「うるさい!ウィード如きがブルームに口出しするな!」
校則で禁止されているはずのその差別用語に、美月は果敢に応戦する。
「同じ新入生じゃないですか。今の時点で、一体どれほど貴方たちの方が優れていると言うんですか!」
が、美月の反撃は少なくともこの状況下では最悪手だった。
「…どれだけ優れているのか、知りたいなら教えてやるぞ」
「はっ!おもしれぇ、是非とも教えてもらおうじゃねぇか!」
まさに売り言葉に買い言葉。レオの好戦的な性格も災いして、事態は悪化していた。
「だったら教えてやる!」
そう言って男子生徒は拳銃型のCADを懐から取り出した。
別にCADを持ち歩く事自体は法律で禁止されている訳でも、校則に違反している訳でもない。
問題なのは彼が魔法を使おうとしていて、彼のCADが特化型であることだった。
CADは大きく分けて二種類のタイプが存在している。
一つは、最大九十九種類の魔法式を内蔵できる「汎用型」と呼ばれるタイプ。
もう一つが、今男子生徒がレオに向けた「特化型」と呼ばれる殺傷能力の高い魔法が十個程度入れられている主に軍隊の特殊部隊などで用いられるタイプ。
「お兄様!」
深雪が隣の達也に言うより早く、アルフレッドが駆け出していた。
周囲の野次馬が自己加速術式を使ったのだと勘違いするほどに常人離れした脚力であっという間に間合いを縮め、アルフレッドは男子生徒のCADへ手を伸ばす。
反射的に男子生徒はアルフレッドへと蹴りを放つが、彼はそれを片手でガードすると一撃で男子生徒の手からCADを振り払い、拘束する。
「がっ…離せ!」
男子生徒を助けてようとする彼のクラスメイトが術式を展開する。
しかし、ほどなくして術式はサイオンの塊をぶつけられて霧散する。
ふと達也の方を見れば、彼の右手が開かれ、女子生徒のCADの方へと向けられていた。
アルフレッドは瞬時に達也の仕業だと理解しながら、男子生徒を拘束する力を緩めない。
すると、野次馬をモーゼの海割りが如く退ける聞いたことのある声が校門前に響き渡る。
「やめなさい!自衛目的以外での魔法の使用は、校則違反以前に法律違反ですよ!」
──そこに立っていたのは、生徒会長・七草真由美と風紀委員長、渡辺摩利だった。
ヨンドゥすき