貴方は友達が困っていたら助けますか?
例えば自分も命を落としかねない状況だとしても。
その友達は本当に"友達"ですか?
「僕を殺してください。」
彼女の方へ身体を翻して、そう僕が言うと彼女の顔は驚愕へと染まる。
それはそうだ。いきなり知らない男に話しかけられて殺してくれなんて頼まれたら誰だって驚く。
しかし、そこまで頭が回らないほど精神が摩耗していた。
なんでもいい、誰でもいい。
楽になりさえすれば。崖への1歩を踏み出せたら。
それしか頭に無かった。
「だ、ダメよ!アンタ死ぬ気なんでしょ!よく知らないけどまだやり直せるわ!考え直して!!!」
見ず知らずの人を心の底から心配する様に必死に声を掛けてくれる。
ただ目の前で死なれたら目覚めが悪いだけなのかもしれないが。
「僕はもう限界なんです………だから……!」
やり直せる。生きていれば世の中いい事ある。
詭弁者の常套句の様なセリフはもう聞き飽きた。
人間の醜い所には目を向けず、綺麗だと盲信する。物事の表層だけを見ているだけの人。人は醜い生き物だというのに。
やり直せ無くなったからこんな事をしているんだ。生きてても苦痛しかないからこんな事をしているんだ。
その苦痛を上回る幸せなんて………
僕だって、最初は耐えて耐えて耐えていれば誰か助けてくれる。いい事があると信じていた。
蜘蛛の糸の様に細い、それこそ、藁にもすがる思いで、そんな薄っぺらい希望を。
でも『自殺を辞めろ』って言う人は言うだけで自分は正義感に浸り、さぞ善行をしたかのように振る舞い別に助けてくれる訳でも改善をしてくれる訳でもない。
もう、いいんだ。
もう一度海の方へ身を返す。
そうだ……僕に生きる意味なんて、生きてるだけ苦痛なんだ。
「ありがとう。やっと覚悟が出来た気がするよ」
「待ちなさい!!」
僕は海へ身を投げた。
最後に身を任せる前に見た光景は、必死な形相でこちらに走ってくる彼女だった。
☆
目を覚ますとそこは浜辺だった。
服は濡れていて気持ち悪い。
そこで僕は気づいた。
死ねなかったのだと。
生きる意味もなく、生きるのも苦痛なのにまだ苦痛を味わえと神は言いたいのか。
民衆の弱い心の逃げ場として作られた偶像たる神の存在を信じた事はないが、もしいるとするならば、この時ばかりは運命と神を恨まずには居られなかった。
「目が覚めたのね。」
頭の方から優しく声が掛けられた。
起き上がってそちらを向くとさっきのシニヨンの髪の女の子がタオルで服を拭きながらこちらを見ていた。
髪もまだ濡れていて、服も多少透けていたので僕はサッと目を逸らした。
そのまま恥ずかしいのを誤魔化すように僕は話しかけた
「君が助けてくれたの………?」
「えぇ、目の前で死なれちゃ目覚めが悪いし。」
案外この子はズバズバと物事を言う性格なのかもしれない。
「なんで助けたの………!」
あのままほっといてくれれば死ねたのに。
得意だろう?君たちは。見て見ぬふり。
彼女はタオルで吹いていた手を止め隣に座った。
「アンタがあんな事をする理由を知りたいから、じゃダメかしら。こんな事までさせたんだから私にだって知る権利はあると思うけど」
心の中を推し量るように尋ねてくる彼女。
助けてくれたとしても初めての人に言うような内容でも仲でもない。だから
「人間関係でちょっと上手く行かなくて失敗しちゃったんだ。」
「ふーん、そういう事ね。」
何だか納得しかねている様子だが、何とか誤魔化した。
「でもそれで死のうなんて随分な失敗をしたのね。」
………誤魔化し切れなかったようで、腹を探るように慎重に言葉を選びながら尋ねてくる。
何となく勘づいているのかもしれない。
「僕のせいでね。」
そう言って僕は立ちさろうとした。
またどこかいい場所を見つけよう。
しかし、彼女はそれを腕を掴んで制した。
「もっと詳しく聞かせなさい。興味が沸いたわ。そうね…あなたの家とかで聞こうかしら。」
「家出したみたいなものだから家はないよ。もう戻りにくい。というか戻りたくないんだ。何処かのカフェじゃダメかな。」
「それで話聞いた後に何処かフラフラとして死なれたらこっちだって気分悪いのよ。なら………私の家でいいわ。来なさい。」
そのまま僕は腕を掴まれて連れていかれた。