色んな世界を渡り歩く男は、早く元の世界に戻りたい。 作:アラランド
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーとかのRPGにおいて、モンスターと戦闘状態に入ることをエンカウントだとか言うが、俺のこの長い旅における初めてのエンカウントは、ギターを持った紫色のロン毛の青年であった。
あの場所から少し走ってしばらく、家の数も少なくなり畑が多く見られるようになってきた郊外で、彼と出会った。
「う〜ん? なんだあ、お前ェ……、ジロジロ覗いてよぉ」
「……はあ? 俺はただ道を歩いてただけだよ」
「ああ〜もしかして、俺のこのロック!な姿に見惚れたか〜い?そう思ったのならそう言えば良いのになぁ」
青年は電柱に寄りかかってギターを弾きながら、そう俺に向けて話しかけてきた。
身なりといい口調といい、なんだかおかしな奴だとは思ったが、その外見よりももっと不可解なものを、青年は携えていた。
「……なんだそれは」
それは明らかに場違いな、弓と矢だった。
「おおっと、コイツは……」
「いや、どうせ見られたのなら……、手始めにコイツがどんなものか試して見る価値はある……、ヤツのように……」
「おい、てめー何ぶつくさ言ってんだ」
後ろにサッとそれを隠したあと、何かをブツブツ呟く青年に少しキツめの言葉をかけた。
多分それのせいだ、痛い目に遭った原因はな。
「何なんだコイツ……何も言わねえな」
そうして小声で呟く青年を尻目に振り返ってその場を立ち去ろうとした瞬間に、彼は叫んだ。
「よおし、オレは決めたぜぇ〜! 」
「……?」
喋る余裕もなかった。
振り返って気がついたら、俺の喉元には矢が突き刺さっていた。
彼が撃ったものだということは間違いなかった、彼の左手にはギターのピックではなく、あの弓が携えられていたからだ。
「ぐあっ……」
「奴はあのチビの喉元狙って撃ったよなあだから、お前の同じところを狙った……」
もちろんの事だが血を吐いた。
仰向けに倒れた俺は必死に矢を抜こうと手を動かそうにも、震えて無理だった。
突き刺さった所からもドクドクと血が溢れ出ているのが、首元に伝わる液体の感触で分かる。
息もできずに苦しい時間が続く。
「……矢に受け入れられた者ならそのくらいの負傷は治る筈なんだがな、やっぱりそう簡単に見つかるわけもないかぁ」
「悪いねぇ、まぁ天災に遭ったとでも思っておくんだなぁ」
そう言って近づいてきた青年は、俺の喉に刺さった矢を思いっきり引っ張って抜き取った。
激痛と共に矢が抜かれた瞬間、口から溢れる血を見た俺は死を理解した。
これは夢か……そう思い立つも、痛みはどんどん俺の意識を遠ざけていく。
立ち去っていく青年の背中もどんどんぼやけて見えていったのは、おそらく血液の喪失によるものだ。
息を、息をしなくては……
そう考えたのは、生に執着する本能だったのだろう。
両手で風穴の空いた喉を押さえながら、血が混じった息を吸う。
一回、血が気管へと伝ってむせる。
二回、血が思いっきり口から溢れ出る、押さえた分外に出ずに気管に流れた分の血液だろう。
そうして三回目。
どうやら、俺はとある呼吸法を習得していたようだ。
この世界が何の世界なのかも理解した。
傷は、癒えていた。
ジョジョの奇妙な冒険の中でも1番好きな、第4部編です。
作中の時間だとちょうど、形兆兄貴が音石に殺された後。
虹村家から少し離れたところでレッチリを操作していた所に、偶然居合わせた所です。