色んな世界を渡り歩く男は、早く元の世界に戻りたい。 作:アラランド
「いったい駅はどこなんだ……くそっ」
当たり前だった。
特別土地勘があるわけでもないのに、マップナビも無しで初めて来た町の施設に向かうなんて今考えればアホにも程があった。
人に聞こうと思ったものの、どうやら俺は気づかないうちにどんどん町の外れにやってきていたらしく、次第に人通りが少なくなってあたりは畑と山林だらけの光景が広がっていた。
もうあれから2時間は町を彷徨い続けていて、疲労が足腰に溜まってきている。
時刻も昼間を過ぎてきているようで、日が西へ傾き始めていることに、俺は焦りを感じた。
「とりあえず人を……、ああ最初から聞いておけばよかったな」
人がいるうちに聞いておけば良かったと、歩き続けて道もわからなくなった俺は過去の自身を恨み、うなだれた。
「……腹も減ったしなあ」
疲労のほかにも、空腹が俺を襲ってきていた。
寝起きから何も食っていない状態で、ここまでずっと歩いてきたここまでツケが回ってきたというか……、結構厳しい状況に陥っている。
冗談抜きで「野垂れ死ぬ」未来が近づいていたのをその身に感じていた。
「言っておくがもうここは人里じゃない。見ての通り人1人いない森だ」
いきなり男の声が聞こえてきたことにビックリして、肩をすくませた。
男は俺の首元にロングソードとも刀ともとれない、一見訳の分からない形状をしているが、おそらく鋭利で一切りで首を落とせるような刃物をヒタリと当てていた。
「大きな声は出すなよ、血は俺も見たくはないんでね」
全身を黒のコートで包み、のっぺらぼうの様な仮面をつけたその男の声と風貌には見覚えがあったが、どうにも思い出すことができない。
「……お前誰だ?」
「まさか覚えてないとはな……、鶏みたいな脳みそして恥ずかしくないのか?」
「あいにく俺の頭には、雑魚や面倒なことをわざわざ覚えるようなキャパシティは無いんでね」
俺の首元から刃物が離れていた。
俺の「スタンド」が拳を殴って刃物を遠くに弾き飛ばし、男の首元をガシッと鷲掴みにしていたその様子は文字通り、形勢逆転と言った具合だ。
自分でも驚いたものだ、目にも止まらぬ速さで現れた俺のスタンドは、まるで俺の危機に応じたように脅威を排除したのだったからだ。
矢に刺された康一がスタンドを出そうとする時に、仗助は「自分を守ろうと意識する」とかなんとか言っていた気がするが、それはどうやら俺にも当てはまっているようだ。
「……早いな、もうスタンドを手に入れているのか」
声を少し震わせながら男は呟く。
スタンドを得たことによって、このような危機に遭遇しても心に余裕を持つことができているのだろうか、この時の俺はそれまでとは考えられないほど冷静でいられていて、周囲にもよく視界が開けていた。
「……そいつらを俺に撃ち出してみな、このままお前の首をへし折るからよ」
首を引っ掴んでいる男の背後に、それまで持っていた刃物のような物体が数本、宙を浮いているのが見えた。
まるでリゾット・ネエロのメタリカが地中の鉄分からメスを作り出すように、それらは俺に照準を向けながら形成されていく。
こいつらが一斉に突き刺されば、確実に命はない。
だが俺には確信があった、とても漠然とした予感だが、何故か心から頷ける理由があったのだ。
「……どっちが素早いか、確かめてみるか?」
「はあ、首根っこ掴まれてよくそんな自信があるな」
「どうせ、俺は死なないからよ」
「ああそうか」
刹那、視界が混沌と化した。