ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№5 『エルフの遺跡ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

「うーんっ…!気持ちがすっきりしていくぅ…!」

 

私に箱ごと抱えられながら、社長は思いっきり伸びをする。私達が今歩いているところは少し古ぼけた遺跡。しかしそこは上質な魔力に満ちており、魔族や魔物にはとんでもなく気持ちいい。

 

「ほんとに。やる気が満ちていくようです」

 

私も思わず羽と尾をピンと張ってしまう。体中を細かな快感が常に走っているようである。出来ることならずっとここに居たいものである。

 

と、私の言葉に返すように溜息交じりの声が聞こえてきた。

 

「まあそのせいで私達の里は色んな魔物から狙われているんですけどね…」

 

 

 

 

今回のお客様はエルフ。そう、ここは深い森の中にある『エルフの里』である。

 

私達の案内役をしてくれているのはこの遺跡の防衛隊長を任されているという『エリン』さん。美しい流れるような髪、整った目鼻立ち、きめ細やかな肌、絶妙な比率のスタイル、そして特徴的な尖った耳。ザ・美女である。

 

エルフの里にはこんなレベルがゴロゴロいると聞く。正直、羨ましい。

 

 

 

「とはいえここは里の端、そして魔力が一番濃い場所でもあります。ですのでこの遺跡には自然に魔物達が入り込みダンジョンのようになっています」

 

襲い掛かってきた野良の魔物を簡単な魔法で追い払ったエリンさんはそう話を続けた。

 

「私達も狩場として利用しているのですが、時たまに冒険者が入ってくるんです。目的はこの遺跡最奥にある若返りの秘薬『エルフの雫』で…」

 

「「そんなのあるんですか!!?」」

 

私と社長は思わず食い気味になる。そして互いにツッコんだ。

 

「いや社長、ただでさえ幼女体形なんですから若返る必要ないでしょう」

 

「私だって最近肌つやが気になるのー!アストだってそんなのに頼る歳じゃないでしょ!」

 

「それはそうかもですけど…これからの保険に欲しいじゃないですか」

 

傍目からみるとなんとも恥ずかしい会話である。それを苦笑いながら見ていたエリンさんは咳払い一つ、衝撃的な一言を発した。

 

「いえ、そのエルフの雫とやらは存在しないんですよ」

 

「「ええっ!!?」」

 

 

 

「一体いつからかはわかりませんが、人間達の間でそんな噂が広がりまして。一口飲めば若返り、永遠の美貌を手にすることができるとかいう謳い文句で。でも、そんな物はありはしないんです」

 

「そんなぁ…」

 

愕然とする社長。私も諦めきれず、縋ってみた。

 

「じゃあエルフの人達が綺麗なのは…」

 

「種族特有の才…要は生まれつきですね」

 

「そんなぁ…」

 

ちょっと残念、いやすごく残念である。是非欲しかった…。

 

 

 

 

「まあそういう噂が広まってまして、ここにはちょこちょこ冒険者が来てしまうんです。私達は交代制で見張りをしているのですが、昼も夜も侵入され正直疲れてしまいました…」

 

「無いと言えば…」

 

私は単純な案をそのまま口にする。しかしエリンさんは残念そうに首を振った。

 

「勿論無いと表明しています。一度はギルドに文書を届けたこともあります。ですが、やればやるほど『エルフは自分達のためだけに秘薬を隠している』とされちゃいまして…」

 

「じゃ、じゃあこの遺跡を取り壊せば…」

 

「いえ、ここは迷路にもなっています。そのおかげで魔物達が里に入ってくるのを抑えられているんですよ。それに…依頼する理由は私達が疲れたからではないんです」

 

 

 

 

「奥に秘薬はありませんが、こんなものがあるんですよ」

 

エリンさんに案内され、着いた場所は鬱蒼としたかなり広い中庭。いや、庭というより壊れた外壁で囲まれたただの森と言ったほうが相応しい。どうやら隠されたルートがあるのか、彼女について歩くと蔦や枝に引っかかることなく森の中に入ることができた。

 

「ここです」

 

急に開けた場所に出る。と、目の前に広がった光景に社長は思わず感嘆の声をあげた。

 

「ふわぁ…!幻想的!」

 

そこは滾々と湧き出す泉。真ん中には暖かな光を発する樹が生え、対するように泉の水から青い仄かな輝きが立ち昇っている。その美しさはまるで陽の光と月の光が共存しているかのようであった。

 

そしてその上をふわりふわりと飛ぶのは妖精たち。私達の姿を見止めると、こっちにおいでと誘うように手を引いてきた。

 

「私達エルフはここを『妖精の泉』と呼んでいます。ここの水は特に魔力が濃いので、勝負事や狩りの前後の沐浴に使っているのです」

 

どうぞ浸かってみてください。そう促され、私達は手を触れてみる。

 

「おおぉ…!」

「なんか力がむくむくと…!」

 

効果は抜群。触った端から気力に満ち溢れてくる。ふと、私はあることに気づいた。

 

「エリンさん、もしかして人間達が言う秘薬って…」

 

「これと勘違いしているのかもしれませんね。魔力が濃すぎて人間には毒ですけど」

 

 

 

 

「これ気持ちいいなぁ…ミミックの派遣代金としてこの水を貰っちゃいけないかな」

 

「社長のお好きにどうぞ。これ、飲むと更に効果高いですね。正直私、ここを飛び回りたいぐらい気持ち昂ってます」

 

湧き水が入ったコップを手に、私と社長は足だけ泉に浸かる。すると、それを見たエリンさんは首を傾げた。

 

「全身で浸からないんですか?」

 

「え、いや水着持ってきていませんし…」

 

「濡れた服は魔法で乾かして差し上げますよ。是非堪能してください」

 

エリンさんはお手本を見せるように服を来たままちゃぷちゃぷと泉に入っていく。元々露出の多かった彼女の服はピッタリと身体に張り付き、中々に扇情的に。私は思わず手で目を覆ってしまった。…もっとも隙間からガン見していたのだけど。

 

因みに社長はエリンさんのプロポーションをじーっと眺めていた。あれ多分、半分ぐらい嫉妬と羨望が混ざってたと思う。

 

 

「さ、ミミン社長とアストさんもどうぞこちらに。気持ちいいですよ」

 

私達に手招きをするエリンさん。私達も意を決し上着を脱ごうとした時だった。

 

「―! お二人とも、少しごめんなさい」

 

突如、エリンさんが何かを詠唱する。魔法で弓矢を作り出し、一気に引き絞り―。

 

「はっ!!」

ビュッ!

 

放たれた矢は私達の頭上を越え一直線に森の中へと。するとすぐさま悲鳴が聞こえてきた。

 

「ぐえっ…!」

 

「わっ!? なに!?」

 

驚く社長を置いて、私は急いで矢の突き刺さった場所に走る。そこに見つけたのは…頭をエリンさんの矢で打ち抜かれた男性冒険者の死体だった。何故か恍惚とした表情で死んでいたが。

 

 

 

 

「ごめんなさい…。今は冒険者が入ってこれないように警戒を強化させていたのですけど」

 

「いえ、お気になさらないでください。それよりこの人間、覗きを働いてたんですか?」

 

死んだ冒険者の頬をペチペチと叩きながら社長は問う。するとエリンさんはゆっくりと頷いた。

 

「はい、最近じわじわと増えてきているんです。泉に浸かっている間は感覚が強化されますから、人間達の下卑た視線を察知することができます。気づけばこうやって迎撃できるんですが、相手が複数や手練れだったりすると稀に逃がしてしまうんですよ…」

 

はぁ…と溜息をつくエリンさん。更に言葉を続けた。

 

「そしてここまで来た冒険者の狙いは、私達の姿を見ることだけじゃないんです」

 

「? それはどういう…」

 

私の問いにエリンさんが返すより先に、冒険者のバッグがもぞもぞと動き出す。私が警戒しながら蓋を開けると…。

 

「あっ、妖精さん…!」

 

ぷはっと顔をだしたのは妖精達。出るわ出るわ10匹ほど。怖かったのか、私達にぴったり寄り添い泣き始めた。

 

「秘薬がないと知るや、こんなふうに妖精を連れ去っていくんです。お願いしますミミン社長、妖精達は私達の友。この子達を守るためにミミックを貸してください」

 

「なるほど!ならばお任せあれ!」

 

妖精をよしよし撫でながら、社長はポンと胸を叩いた。

 

 

 

 

「依頼内容は『この泉に棲む妖精達を守るミミック』ですね。そうですねぇ…じゃあ彼女達が逃げ込めるスペースがある子にしましょうか!」

 

カタログをとりだしエリンさんに見せていく社長。

 

「宝箱型は食べられちゃうかもですし、群体型は出入りする穴が小さく、誰かが蓋を開けない限り一気に逃げ込むことができません。となるとお勧めは触手型ですけど…」

 

と、そこまで説明した時だった。

 

「しょ、触手ですか…!?」

 

突然、エリンさんの声が裏返る。更には身体を縮こませプルプルと震え始めたではないか。

 

「ど、どうしたんですかエリンさん? 触手は苦手でしたか?」

 

社長は自身と同じ目線の位置までへたり込んできたエリンさんを心配する。すると彼女は手で顔を覆いながら口を開いた。

 

「は、はい…お恥ずかしながら…。 …私達がまだ新米の時のことです。チームを組みここで狩りをしている際に触手の魔物が大量に現れまして、対処しきれず襲われ縛られて…。あのヌメヌメが身体を走る感触…思い出しただけでも怖気が…」

 

ブルルッと大きく身体を震わせたエリンさんは、突然立ち上がる。そして気つけをするようにバシャッと泉に飛び込んだ。中々の勢いであり、飛沫が私達のところにまで飛んできた。

 

「ふぅ…。すみません、取り乱してしまいまして。幸い、近くにいた他部隊が駆け付けてくれてすぐに解放されました。ですが、私を含めた当時のメンバーはあれ以降触手がトラウマで…」

 

そういう事情があるなら仕方ない。となると…、社長はそう呟きカタログを捲った。

 

「なら『上位ミミック』はどうでしょう!」

 

 

 

 

「『上位ミミック』は端的に言うと私の様な人型をしたミミックです。下位ミミックの子達と違い戦略的に動き、冒険者の捕獲率も比べ物になりません」

 

ふふん、と自慢しながら説明する社長。しかしそこまで言ったところで声のトーンを落とした。

 

「ですが、少しお高いんですよ。上位ミミックは数が少ないですから」

 

故に、私達は広いダンジョンをもつお客様には無理にお勧めしない。しかしこの場合は別である。

 

「この泉周りだけならば予算を抑えられると思いますよ」

 

今回の依頼は泉周りにいる妖精を守るためのミミック。ならば設置エリアはこの近辺だけであり、派遣数も少なく済む。

 

「金額はこちらになります」

 

私は先んじて計算しておいた代金をエリンさんに見せる。すると彼女はホッと息をついた。

 

「これぐらいなら問題ありません。実は予算は結構貰っているんです。この泉は女王陛下もたまにご使用になられますので。是非お願いします」

 

「わっかりました!あ、泉の水を定期的に頂ければお値段抑えられますけど…」

 

「確認してみます。でも、多分大丈夫だと思いますよ? いくらでも湧きますから」

 

「やった!」

 

 

 

とりあえず今日飲む分を頂き、帰路につこうとする私達。と、私は社長に今まで忘れていたことを恐る恐る伝えた。

 

「あのー…エリンさんに上位ミミックは手足を自在に変化可能…それこそ触手にもなるということお伝えし忘れてたんですけど」

 

「あー…。アスト、回れ右して」

 

 

エリンさんはほんのちょっと泣きそうな顔をしていたけど、普段は普通の手足だということをお伝えしたら了承頂けた。一応、派遣する皆にできるだけ触手を使わないように頼んでおかないと。

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