ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある冒険者達と怪談

 

「おーおー…! 楽しそうにキャッキャウフフしてやがる…」

 

「ったく…。若さを謳歌ってか? はーああ、ウザったいぜ…」

 

「世間の世知辛さを知らねえ顔で、きらきら振りまいてててよォ…」

 

「魔物とはいえ、羨ま…ゲホン! 妬ましい……!」

 

 

 

ピンクの花が咲き誇る樹の影から、俺達はチラリと様子を窺う。その先には、眩しいぐらいに楽しそうに語らい遊びあっている、学生服姿の魔物達。

 

 

ベンチに腰掛け、弁当を食べている悪魔族達。 壁に寄りかかり、ジュース片手に駄弁っているドワーフ達。 ボールを蹴ってサッカーに興じている獣人達。 遠くの方で弓の練習に励んでいるエルフ達…。

 

 

多種多様の魔族亜人達が、時には同種族同士で、時には異種族間でわいわいと。どいつもこいつも、満面の笑顔ときた。

 

 

全く、腹ただしいぜ…! ああいう奴らには、一度恐怖ってのを叩きこんでやらないとなぁ…!

 

 

 

 

 

 

 

俺らは4人組の冒険者パーティーだ。今日は『学園ダンジョン』っていう場所に来ている。

 

 

だが見てもらった通り、普通のダンジョンと全く違う。まるで良いトコの学び舎ってところだ。幾つかの綺麗な校舎と、丁寧に面倒を見られている木々や花と…魔族の学生共。

 

 

あ゛ーあ゛! 見ているだけで、なんか苛立ってくる。正直依頼が無ければ、こんなダンジョンに来たくもなかった。

 

 

 

…依頼主は、とある学者連中だ。魔界の歴史や教育体系かなんだかの研究のため、魔族の教科書とか諸々を御所望でな。

 

しかしあいつら…自身の学問のためには、魔物のとはいえ、学びの場を壊しても良いって考えてんのか? そこそこ頭狂ってそうだぜ。勉強し過ぎて常識失ってんのかもな。

 

 

 

 

まあいい。だが、俺らに依頼を出してきたのは僥倖だったかもしれない。一切の良心の呵責なく、この学園ダンジョンに挑めるんだからな。

 

 

クックック…! どうせここの連中にも…特に男子学生は、『学校にテロリストが乱入してくる』妄想しているやつ、絶対にいるだろ。あれは万民共通のようなもんだしよ。

 

 

なら、俺らがその襲う役をしてやるぜ…! ただし、学生(主人公な自分)にボロ負けする噛ませ役じゃなくて、ガチの絶望を与える役だがなぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞ野郎共! まずは手始めに、あそこで仲良しこよししているガキ共をブッ飛ばしてやろうぜ!」

 

 

武器を手に、一斉に飛び出す。あんなガキ共相手に策なんて必要ない。まっすぐ行って、ブッ飛ばす。それで充分だろ。

 

 

 

 

「…ん? ―! だ、誰!?」

 

「ぼ、冒険者だ! せ、先生か風紀委員呼ばなきゃ…! 防衛用ゴーレムってどこいるっけ…!?」

 

「間に合わないって! 戦うしか…! えいっ…!」

 

 

 

遅れて俺らに気づいた学生共が、焦ったように魔法や矢を仕掛けてくる。実際に妄想が現実になったら、そんな反応しかできないのはわかるぜ。 んでよ…!

 

 

 

「おっとっと! こんなもんか!」

「弱え弱え!」

「これだから素人は…!」

「まあ、ハナタレのガキどもにしては優秀じゃねえか?」

 

 

その勢い任せの攻撃を、すいすいっと躱してやる。これでも俺らは腕利きなもんでな。

 

 

面倒な敵ならまだしも、こんなちょいと毛が生えた程度の、実戦経験すら積んでねえ奴らに手こずるわけはないぜ。

 

 

へっ悪いな。テロリストへの無双妄想、これにて消滅したり、ってな! 食らえっ―…。

 

 

 

「清掃のお時間でーす!」

 

 

 

ガララララ…! ドゴゴゴォオッ!

 

 

 

 

 

 

「「「「ぐへっ!?」」」」

 

 

な…なん…だ…!? 何かが…真横から激突してきた…!? なんか…ゴミとか木の葉とか集める、でっかいカートみたいのが…!?

 

 

 

「「「あっ! 用務員さん!」」」

 

 

ふと、学生共の喜ぶ声が聞こえる。よ、用務員…? いたのかそんなやつ…。

 

 

ま、まあいい…。どうせそんな強い奴じゃないだろ。なら、速攻でぶっ飛ばしてやれば…!

 

 

 

ギュルッ!

 

「「「「ぐええっ…!?」」」」

 

 

 

 

ぐ…くるじ…い゛…! こ、これ…触手ぅ…!? 全員が…一瞬で絞められて…!

 

 

 

「ゴミはゴミ箱へ! そして焼却炉へ~!」

 

 

そのまま謎の声と共に、全員揃ってドシャッとゴミ入れカートの中にぃ…! しょ、焼却炉…!?燃やされるのか俺ら…!

 

 

 

いやてか……その前に…縊られて…し、死ぬぅ…! わけのわからない能力で、わけのわからないうちに無双されるぅ…。

 

 

―がふっ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁあああ……。昼間は酷い目に遭った…。 なんだったんだあれ…。

 

 

よくわからない内にぶっ殺され、気づけば復活魔法陣の上。あまりにも速攻でやられ過ぎて、用務員の正体すらわからないまま。女魔物の声だったってことぐらいしか。

 

 

畜生、本当に噛ませになるテロリストみたいになっちまったじゃねえか。折角学園ダンジョンに戻って来たんだ。ついでに正体ぐらいは明かして戻りたいもんだぜ。

 

 

 

 

 

……あぁそうだよ。ここは学園ダンジョン。再度、舞い戻ってきたってわけだ。

 

 

依頼主からは高い金払って貰ってたからな…。失敗したことを伝えたらネチネチネチネチと小言を食らっちまった。学者はこれだから依頼主にしたくない。

 

 

んで、流石に諦めるわけにはいかず、本日二度目の挑戦。もう深夜だが。

 

 

 

とはいえ、この学園ダンジョンには結構価値があるものがある。例えば…貴重な魔導書、マンドラゴラなどの薬草系、魔法石、空飛ぶ箒などなど。

 

恐らく授業とかで使っているものだろうが、俺らにとっては金目のもの。復活魔法の代金や失った装備分、稼がせてもらうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

締まり切った門を乗り越え、セキュリティ魔法や警邏ゴーレムとかを回避しつつ校舎の前に。…しっかし…。

 

 

「この時間だと…なんか怖えな…」

 

 

俺がボソリと呟くと、仲間三人もうんうんと頷いた。

 

 

 

 

昼間は燦々とした日に照らされ、学生共に満ちていた校舎。見た目も雰囲気も、ムカつくほどに眩しかった。

 

 

しかし今は灯りのほとんどが消え、暗闇が包んでいる。騒ぐ声も一切聞こえず、シンと静まり返る様子はまさに暗黒。

 

 

そんなホラー感満載の様子を見ていると、まるで()()が潜んでいそうな感覚に陥り、背筋がゾワッとしてしまう。

 

 

 

フゥ…だが、依頼を果たさないわけにはいかない。なに、何もいるわけがないさ。落ち着いていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分らでつけた手元の灯りを頼りに、とりあえずは侵入。誰もいないから、玄関から入ることもできる。

 

扉の鍵をカチリと開け、靴箱が大量に並んでいる中に。さて、どこから攻めようか…。

 

 

 

 

ガパンッ

「ぎゃあっ…!」

 

 

 

 

―…!? な…なんだ…今の音……? 靴箱が開いたっぽい音と…最後尾を歩いてた仲間の悲鳴……!?

 

 

 

びくりと身を震わせつつ、俺らはゆっくりと背後に目を移す。そこには―。

 

 

 

「「「ひっ…!!」」」

 

 

 

…ち、小さい靴箱の一つに…頭から引きずり込まれていく…仲間の姿が……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ぎゃああああっ!!!」」」

 

 

思わず、俺らはダッシュでその場を後にする。『走るな』と張り紙が張ってある廊下を全速力で駆け抜け、我に返ったのは校舎のど真ん中当たりだった。

 

 

「なんだよあれ…! やっぱなんかいるのかここ…!!」

 

「か、帰ろうぜ…! もうこんな場所にいたくねえよ…!」

 

 

泣き言を言い出す仲間二人。…ぶっちゃけ俺もそうしたいさ…!

 

けど、金がないのも事実…! 依頼をキャンセルするにしても、さっき失った装備分ぐらいは回収して帰んなきゃいけねえ…!

 

 

 

 

 

 

 

自分と仲間に鞭打つようにして、暗い校舎内を恐る恐る進む。…うぅ…その階段の影に、何かが潜んでないか…? 暗闇の空中に、真っ白な顔が浮かんでこねえか…?

 

それとも…後ろから青い鬼みたいな化け物が襲ってきたりは…?? 教室に達磨が現れたりとかは…!?

 

 

 

 

怯えに怯えつつ、身を縮こまらせながら捜索を開始。…そりゃ、ロッカーとかは幾らでもあるけどよ…。さっき仲間が食われたことを思い出すと…とても開ける気なんて起きねえよ…。

 

 

いっそのこと、夜明けまで潜んで…。…見つかって終わりか…。 何か…何かないか…?

 

 

 

 

 

「ひっ…!?」

 

 

そんな折、先頭を進んでいた仲間の1人が突然に小さな悲鳴をあげて尻もちを。何事かと、反射的にそちらを見ると―。

 

 

「「が、骸骨…!?」」

 

 

 

俺らの手にした灯りにボヤっと映し出されたのは…!真っ白な…骨格…! で、出た…!スケルトンが…出たぁ…!!

 

 

 

 

…………ん? 落ち着け…。スケルトンなら、ただの魔物だ…。というかあれ、動いてない…。扉の向こうにあるし…。

 

 

あぁ、あれ人体骨格の作り物か…。脅かしやがって…。よく見ると、色んな種族のが並んでる。

 

 

うわっ…! ちょっと奥には内臓とか見えてる人体模型まで…。ここは理科準備室かなにかっぽいな…。

 

 

なら、魔法薬の材料とかあるだろ。それ回収して、さっさと帰っちまおう…!

 

 

 

 

 

「よーし…お前ら、ここに入るぞ…!」

 

 

明らかに嫌がる顔を見せる仲間二人の背を押し、準備室の鍵を開けさせる。何、怖いのならば見なければ良いだけだ。そう、見ない見ない…。

 

 

 

カタッ

 

 

 

「「「……ぴっ…!?」」」

 

 

 

な、なんの音だ…!? 誰かが、何かにぶつかったのか…!?

 

 

 

 

カタッカタカタカタッ!

 

 

 

ひ、ひっ…! ち、違う…! 人体骨格が…頭蓋骨が、カタカタと音を立て…笑ってる…!!

 

 

 

ギョロッ

 

 

 

「っぁ……!?!?」

 

 

じ、人体模型の方も…!う、動いた…! 剥き出しの目玉が…! こっちをギョロリって…!

 

 

 

「あ…あばばばば…!!」

 

 

 

ッッッ…!! こ、今度は…仲間の悲鳴…!! な、何にやられ…へ、蛇…!? もしや、ホルマリン漬けから抜け出して!!?

 

 

 

「に…逃げろ!」

「ひいいいっ!!」

 

 

俺と残った仲間の1人は、たまらずその場から逃げ出すしかなかった…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ…帰ろうぜ…もう帰ろうよぉ…」

 

もはや涙声な仲間と共に、再度暗闇の校舎の中を進む。…引き返すわけには…引き返すわけには…。…引き返してぇ…。

 

 

もう…何でもいい…。金目のもの…。…ん? 『音楽室』…?

 

 

 

 

防音っぽい扉を開け、恐る恐る中に。確かに、音楽室だ。楽器が奥の方に置かれている。

 

魔物が使ってる楽器だし、きっと価値が高かったりするだろう。そうだ、そうに違いない…。なら、手頃なのを幾つか奪って帰ろう…!

 

 

 

 

 

 

「お、おい…なんか…見られてねえか…? 壁の肖像画に…」

 

「気のせいだ…。多分…。 それに、動く絵を作る魔法はあるから、最悪それだろ…きっと…」

 

 

掛けられている音楽家の絵に睨まれている気がしながら、物色を始める。さっきみたいに骸骨とかホルマリン漬けとかは無い。だから、襲ってくる奴はいないはず…

 

 

 

~♪

 

 

 

「「ヒュッ…!?」」

 

 

 

…二人同時に、息を呑む。 音が…ピアノの音が…。 明らかに…誰かが弾いたかのような音が…!

 

 

手を震わせながら、そのピアノへと灯りを向ける。…ひぃっ…! 誰も座っていないどころか…!鍵盤の蓋すら開いてねえ…!

 

 

 

~~♪

~~♬

 

 

 

っぇ…! ふ、増えた…! 楽器が増えた…! リコーダーとか、笛系の…!

 

 

 

~~♪

~~♬

~~♩

 

 

 

さ、更に…増えた…! バイオリンとか…ギターとか…!? しかも…ぐぇえ…不協和音に…!

 

 

 

「だ…駄目だ…出よう…!」

「ひいい…!」

 

 

耐え切れず、逃げ出そうと。その瞬間―。

 

 

 

ヒュルルルッ ゴンッ!

 

「てぃんぱにっ!?」

 

 

 

なっ…! 背後から…打楽器のバチみたいなのがとんでもない勢いで吹っ飛んできて…!仲間の後頭部を…!!

 

 

 

やっぱり、何かいる…! ヤバいのがいるっ…!!  俺は顔面蒼白になりつつ、今の一撃で気絶した仲間を引きずり逃げ出した…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい…起きろって…!起きろよ…!」

 

「ん…ハッ! …なんだ夜じゃねえか…寝る…」

 

「現実逃避するんじゃねえ! 起きろ! 俺も心細いんだ!」

 

 

 

仲間を叩き起こし、とりあえず廊下の端に腰を降ろす。 …これからどうするか…。

 

 

やっぱり…何も獲らずに帰るべきかもしれねえ…。こんなホラーな場所、もう居たくないしよ…。けど…金も…。

 

 

 

駄目だ…喉乾いて頭回らねえ…。水…。 あぁクソ、水筒持ってくんの忘れた…。学生だけじゃなく、冒険者にも必須なモンなのに…。

 

 

 

 

…お。丁度良いところに水道が。…流石にこれは…良かった、普通の水だ。喉潤して…顔も軽く洗おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

―ふぅ。少し気分がまともになった。そうさ、今までのヤツも、大方誰かが仕掛けた罠魔法とかだろ。お化けなんているわけないだろう。お化けなんて嘘さ。

 

 

 

さて。どうするか。依頼のブツをどっからか回収して、それで終わりにするか。なら、どっかの教室に入って…。

 

 

…いや…ちょいと、もよおしてきたな。丁度トイレがあるし…連れションでもしていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―と、入ったは良いが…。

 

 

「こっち女子用だったか…」

 

 

 

暗いせいもあり、入る方を間違えたらしい。個室が並んでいるだけだ。…まだ誰か学生がいる時分ならまだしも、今女子トイレに侵入したとこで面白みはない。

 

 

ここで用を足すのもなんだかだし、一回出て普通に男子用に行こう。そう思い、すぐに回れ右をした…その時だった。

 

 

 

 

「ウフ…フふフフふ…」

 

 

 

…っ…!? こ、個室の一つから…!? へ、変な、おどろおどろしい、女の声…!?

 

 

 

「そこニいるノはァ…だァれ?」

 

 

 

ヒィッ…!? も、もしかして…! こ、これ…! 噂に名だかい…『ハナコサン』…!?

 

 

 

「アぁそびぃマしょォオ…!」

 

ギィイ……

 

 

 

 

 

ぁ…ぁ…! 三番目の個室の扉が…!軋みつつ開いて…!

 

 

 

「「ぎゃあああああああッ!!!!」」

 

 

 

トイレしたい気持ちなぞ吹っ飛んだ俺らは、慌ててその場から逃げ出すしかなかった…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん…。やっぱり帰ろう…! もうこんな場所にいられるか!俺らはギルドに帰るぞ!そうするぞ!

 

 

全てをかなぐり捨て、出口へと。 ―が、そんな時、見つけてしまった。

 

 

「灯りがついてる…」

「あれ、部屋だよな…?」

 

 

煌々と灯りがつく部屋が、目の前に。宿直室か…?

 

 

灯りがついているなら、かなり安心だ…。もうこの際、はした金で良い。何でもいいから奪っていこう。

 

 

 

そう決めた俺達が、光に引き寄せられる虫のようにそちらへと一歩踏み出した…瞬間―!

 

 

 

 

ガラ…ガラララララ…!

 

 

 

 

 

 

「「っ…!?」」

 

 

う、後ろの廊下から…何かが、走ってくる音が…! に…逃げ…!

 

 

 

ガララララララッ!

 

 

 

駄目だ…速え! 何かよくわからないが…! く、食われ…! ひっ…!

 

 

 

ドゴゴォッ!

 

 

 

「「ぐへっ…!?」」

 

 

 

 

 

 

ば、化物じゃ…ない…!? てか、この激突された感覚、どこかで…! あっ、昼間…!!

 

 

廊下にベシャンと転がされながら、必死に正体を見極める。…確かに、昼間俺達にぶつかってきた、ごみ収集カート…!

 

「あら? お昼時に倒したやった冒険者達じゃない。また来たの?」

 

 

―と、そのハンドルらへんからひょっこり顔を出したのは…用務員服を着た…!?

 

 

 

「「上位ミミック…!?」」

 

 

 

 

 

 

 

…昼間の正体は…ミミックだったのか…! 何も盗めなかったが…謎だけは解けた…。

 

 

「ぐえっ…!」

 

 

…あっ。安堵している間に、仲間が絞められて…。……いや、もういい…。変な怪異に殺されるぐらいなら…こっちのほうがマシだ…。

 

 

 

「性懲りもないわねぇ…。今度は桜の木の下にでも埋めてやろうかしら?」

 

 

縊った仲間を、カートの中にボスンと投げ込む上位ミミック。そして、俺の首にも触手を。

 

 

復活魔法陣経由だが…ようやく帰れる…。殺される直前だっていうのに、心底ほっとした気分だ…。

 

 

「―そうだ…ミミック…。幾つか聞かせてくれ…」

 

 

 

 

 

 

「ん? なに?」

 

 

俺のことをぐいっと持ち上げながら、返事をしてくれる上位ミミック。今際の際に、不安の種を取り除いておこう…。

 

 

 

「靴箱とか…人体模型とか…ピアノとか…。あれって…もしや…」

 

 

「あぁ! うちらが潜んでんのよ。 他にも、更衣室や準備室のロッカーとか、職員室や教室の机の中とか、食堂のお鍋の中とか、飾ってあるトロフィーの中とか」

 

 

 

…あぁ…やっぱりか…。よかった…。そして…そんだけ潜んでるなら…ここまで生き残れたのは幸運だったんだな…。いや、不運か…?

 

 

まあいい…。なら多分、さっきのも…。そう考え、俺はもう一つ聞いてみる。

 

 

 

「じゃあ…女子トイレにいたのも…お前らか…?」

 

 

 

 

 

 

きっと、『そうよ!』と自信満々な回答が返ってくるだろう。そう思っていたら…。上位ミミックは…何故か首を捻った…?

 

 

 

「そこには誰も潜ませてないわよ? トイレで守る物なんて、トイレットペーパーぐらいしかないじゃない。 …てか何? 女子トイレ入ったの? この覗き魔、ド変態、女の敵」

 

 

 

罵倒しまくってくる上位ミミック。だが俺は、そんなの台詞が耳に入らないぐらいに、背筋を凍らせていた。

 

 

「へ…? じゃ、じゃあ…あの女の声は…? 三番目の個室が、勝手に開いたのは…?」

 

 

目と口、いや全身を震わせながら再度問う。すると上位ミミックは少し黙り、若干引きつるように、答えた。

 

 

 

「…『本物』だったり?」

 

 

 

 

 

 

 

 

……俺は、絞められて意識を失う前に心に決めた。 もう二度と、ここには…特に夜には、絶対忍び込まねえと…。

 

あぁ…そうか…。恐怖を…叩きこまれたのは…俺らの方だったか…。…がふっ……。

 

 

 

 

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