ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある盗賊達と書物

 

静かだ…。

 

 

ここは、実に静かだ。街中のような雑踏も、喧騒もない。

 

 

ただ聞こえてくるのは、極わずかな靴の音と、話し声。しかしそれも長くは続かず、すぐに収まる。

 

 

そして占めるは―、本当に微かな、ページを捲る音のみに。

 

 

 

 

…その静かさが、俺達には迷惑だったりする。なにせ、本を盗み出す際、下手に音を立てられないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

おっと…! 声を上げるなよ…。図書館ではお静かに、てな…。あと、俺達の仕事の邪魔になるし。

 

 

 

さて―、俺達は4人組の冒険者パーティーだ。…まあ盗賊まがいなことしているし、ジョブ的にもそれで間違ってない。

 

 

てか今更だろ。冒険者って、魔物の棲み処に入って金目の物奪ってんだから。実質全員泥棒だ、泥棒。

 

 

 

 

 

 

 

ま、それはどうでもいいや。俺達が今来ているのは、『図書館ダンジョン』という場所。

 

変な魔導書が主をしている、人間にも開放されている立派な図書館だ。

 

 

 

そして、ここはとんでもない蔵書数を誇っている。今まで発行された本が全部揃ってるんじゃないかってぐらいのな。

 

 

…それだけあれば、今や廃刊になった古雑誌や、希少な魔導書、一点ものな超激レア書物だってある。

 

 

つまり、金目のものが沢山眠っているってことだ。

 

 

 

 

 

俺達が請け負ったクエストは、それらを盗み出すこと。…読みたければ借りれば良いと思うんだが…。依頼主はそれじゃ満足できないらしい。

 

 

自分の手元にレアな本を飾って置いときたくて仕方ないって腹みたいだ。…本をコレクションって、意味わからん。

 

 

『積ん読』とかしてんじゃねーよ。読んでやれよ。まさしく『本』末転倒じゃねーか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とはいえそうでなくとも、本の素材的にもレアなものはあるし、魔導書なんかは魔法使い達が喉から手が出るほど欲しがるものばかり。良いもの一冊でも盗み出せたら、結構な金額になる。

 

 

だから、成功すれば割のいいクエストではあるんだ。…成功すれば。

 

 

 

案外難しいんだ。本には色んな魔法がかかっていて、解除が難しい。中にはブックカースっていう、呪いがかかっているものすらある。

 

それが実に面倒くさい。勿論ガッチガチに対策はしてきてあるが…。俺達全員即死確定かもな。

 

 

 

 

けど、それも超貴重な魔導書とかに限る。例えば…『大奥義書』とか『エノク書』とか『ゴエティア』とか。

 

他にも『ネクロノミコン』や『死者の書』とかあるし、『賢者の石の錬金本』や『予言の書』とかいうものも。

 

 

中には、『空飛ぶラァメンモンスター教の福音書』とかいう、邪教団の本まである。…お、スパゲッティってのもあるな…。

 

 

 

……ん? 何を見て話しているかって? その禁書の目録だ。インデックスってやつ。 他にも、レアな本の目録も持ってきてある。

 

 

…どちらかというと俺はレールガン(超電磁砲)派なんだがな。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあそんな感じに、禁書と呼ばれるほどヤバい書物、そしてその写本とかには即死級の呪いがかけられている。そんなのは流石に狙わない。

 

 

それより幾段かはランクが落ちるが…それでも高値がつく本はごまんとある。俺達の狙いはそっちだ。

 

 

それなら…多分一人ぐらいが復活魔法陣送りになるだけで済むしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…周りに誰もいないな?」

 

「あぁ…。人はおろか、妖精司書がいる気配もない」

 

「よし…! なら、さっさと盗もうぜ…!」

 

「バカ、もっと声を抑えろ…」

 

 

図書館ダンジョン内のとある一角で、俺達は決行。良い感じに値段が付きそうな本が詰まってる棚だ。

 

 

 

2人を本棚の両端の見張りとし、俺ともう一人は本を選び出す。 えーと…目録によると…。これがそこそこ高そうか。

 

 

あとは、ブックカースの確認。その取り出した本を、呪い対策を固めた仲間に手渡す。

 

 

そいつは息を呑み、表紙をぺらりと…。

 

 

「…ぅ!」

 

 

 

 

 

 

小さく悲鳴を漏らすそいつ。やはり呪いがあったか…!

 

 

「…ハッ…! 大丈夫だ…。耐え切った…!」

 

 

と、そいつはすぐに顔を上げた。流石、教会や聖職者から買い漁った呪い消しの装備で固めているだけある。

 

 

このダンジョンは魔獣とか出ないから、呪い対策で防御力が低くなっても安心だ。一応司書から許可を貰えばブックカースは発動しないが…盗むのにそんなことしてられないからな。

 

 

 

 

さて、この類のブックカースは一度発動すれば暫く安全なはず。ならこの本を、専用の呪い対策袋の中に入れて持ち帰れば…!

 

 

「ん…??」

 

 

 

 

 

呪いの影響でちょっと意識が混濁しているのか、ブンブンと頭を振る仲間。その頭上に……なんだ…あれ…?

 

 

 

本棚の上の方の段、そこにあった厚手の一冊が、するりと抜け出して…空中に。 反対側に誰かいるのか…? いや、いない…。

 

 

改めてその本を見て見ると…盗難防止用の鎖が…。…じゃない!? 

 

 

あれ、触手か…!? しかも…本の中から出ている気が…!

 

 

 

 

 

唖然としている俺を余所に、その棚から抜け出してきた本は…仲間の頭の上に―。

 

 

 

ゴスンッ!

 

「ぶっくっす!?」

 

 

 

―勢いよく、落ちた!?

 

 

 

 

 

…いや、落ちたとか生温い…!! 厚手の重量のありそうな本の、その尖っていると言っても良い堅い角っこが…! 思いっきり、脳天に突き刺さった…!

 

 

 

そのせいで変な悲鳴をあげた仲間は、ドサリと床に。うわっ…完全に白目剥いてる…! 

 

 

 

「な、なんだ今の…! うおっ…!?」

「何があったんだ…!?」

 

 

見張りをしていた仲間二人も、慌てて駆けつける。が、その間に落ちてきた本は…触手を活用し、再度上の段に…!

 

 

なんだあいつ…!? 本に擬態しているのか…!? あんな魔物、知らねえぞ…!? 

 

 

しかも、今倒れたやつが手にしていた魔導書を、更に伸ばしてきたもう一本の触手でしっかり掴んで回収してやがる、だと…!?

 

 

 

 

―っ! しまった…!

 

 

「誰か来る…!」

 

 

ふと聞こえてきたのは、何者かの足音。それに、妖精司書の羽ばたき音も。

 

 

静かな図書館内で、思いっきり本が頭に刺さった音、そして人がバタリと倒れた音が響けば、そりゃ誰かしらが来るのも当然…!

 

 

 

マズい…! 倒れた仲間には悪いが…! 逃げろ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰も、追ってこないな…?」

 

「あ…あぁ…」

 

「ふぅ…肝が冷えたぜ…」

 

 

気づかれないように急ぎ、そして怪しまれないように若干の小走り程度に留めて逃げてきた俺達。ある部屋付近でほっと息をつく。

 

 

 

しかし…何だったんださっきの本…。触手召喚の魔導書か…? …にしては妙か…。術者なしで勝手に召喚されるわけないし…。

 

 

あと、ふと見えたんだが…。あの本、ページが無かった気が…。表紙こそ重厚で、人の頭を叩き割れそうなほどだったが…本というよりは、本を模した作り物のような…。

 

 

 

そう俺が思案に耽っていると、仲間の1人が袖を突いてきた。

 

 

「おい…これからどうするよ…」

 

 

 

「これから…? ッチ…あぁそうか…!」

 

 

そこでようやく気付いた。俺達は、呪いに対抗する手段を失ったのも同然だってことに。

 

 

 

 

 

 

なにぶん…呪い対策の装備類って値が張るんだ。それでも、簡単な呪いならば指輪ひとつとかで済んだりするんだが…。

 

 

ここのダンジョンの主をしている魔導書が、よほどの魔法の使い手らしくてな。ブックカースのレベルがとんでもなく高い。

 

 

それに対抗するには、質の高い対呪装備を全身につけなければいけないんだ。

 

 

 

 

だから金銭的理由で全員が対策装備を持つわけにもいかず、ああやって一人に集約させている。

 

もしそいつが死に、蘇生魔法の用意が無かったら…その対呪装備を回収し、別の奴が身につける。そんな感じに使いまわすのがセオリーだ。

 

 

ほら、経験あるだろ。有用な能力を持つ武器防具が一つしかなかった場合、持ってる奴が戦えなくなったら回収して別の奴に持たせるっての。

 

 

 

 

 

…だが、さっきは失敗した。変にやられてしまったから、大きな音を立ててしまった。それで、見回りが来てしまった。

 

そして俺達は対呪装備を回収できずに逃げてきてしまった…。 やらかした…。

 

 

変な魔導書に気を取られてしまったのが悪かった。普段ならば指輪とか腕輪とか、幾つか手早く回収してこれたのに…。

 

 

 

 

 

 

とはいえ取りに戻っても、やられた奴は残ってないだろう。あんなガッチガチに呪い対策をしたヤツが倒れていれば、誰だって盗賊だってわかるしな。

 

 

 

だが、帰るわけにもいかない。対呪装備分と、復活魔法代金ぐらいは稼いで行かないと。 レア魔導書はもう狙えないが、別のもので―。

 

 

 

「…おい、ここはどうだ?」

 

 

 

 

 

 

ふと、近くの部屋を覗いていたもう一人の仲間が俺達を呼ぶ。見ると、そこは新聞が集められている場所。

 

 

確かに丁度人はいない。けど…新聞か…。 持ってきた目録に載ってたか…?

 

 

 

…お! あるある。大きな事件とか出来事が載った古新聞は、結構な値段で取引されているらしい。

 

 

魔導書ほどではないが、軽いから幾つも盗み出せる。それに、ブックカースはかかっていなさそうだ。

 

 

 

そうと決まれば、早速漁ってみるとしよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと…この年の…この月の…」

 

「こっちの新聞社は、と…」

 

「おい、あんまりバサバサ音を立てるな。一応逃げてきたんだからよ」

 

 

三人がかりで、大量の新聞を捲っていく。 結構な量があるから、一苦労だ。

 

 

しかし…どれもこれも、新品同様。何十年何百年経っているものもあるのに。

 

劣化防止魔法ってやつか。凄いもんだ。だがこれなら、かなりの高値で売ることもできるな…!

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに、レアな新聞を幾つか見つけ出す。 大きい事件が載るやつは皆見るのか、分かりやすく纏められている。

 

 

さて、後はこれを留め具から引きちぎって…。 いや、そのまま持ち帰れば良いか。じゃあ、袋の中に…。

 

 

 

「――? ――!」

 

 

 

げっ…! しまった…! 妖精司書の一匹に見つかっちまった。 しかも、丁度袋に入れようとしている現行犯を。

 

 

…だが、さっきの謎な魔導書と違って、ちっぽけな妖精一匹。俺達三人がかりなら簡単に倒せる!

 

 

 

 

 

他二人と目配せし、展開する。すると、その妖精司書は近くの戸棚にひゅいっと飛んで近づき…。

 

 

 

「…なんだあれ…?」

 

「筒…?」

 

「いや…あれって…」

 

 

唖然とする俺達。何故って…妖精司書が取り出してきたのは…。

 

 

 

「「「新聞をグルグルって丸めたやつ…?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

…いや、仮にも図書館職員がそんなことしていいのか? 大切な所蔵品だろ…? 

 

まあ盗み出そうとしている俺達が言える台詞じゃあないんだが…。

 

 

 

 

するとその妖精司書は、自分の背丈の何倍もあるその筒を、大剣のようにブンブンと振り回す。そしてそのまま仲間の1人に近づき…。

 

 

「――!!」

 

「痛っ! ちょっ…! 痛っ!」

 

 

…まるで虫を潰す時のように、思いっきりバシンバシンと叩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

傍から見ている分には、存外可愛らしい光景。正直、放っておいてもあまり害はなさそうだ。

 

 

弱い妖精が、大きくて強い俺達に勝とうとしている姿は、下剋上狙いと言っていい。本好きが下剋上…。なんて。

 

 

 

 

 

―とはいえ、今は状況が状況。そのバシバシ音は、増援を呼んでしまう。さっさと止めなければ。

 

 

「痛てっ…! 止めっ…! このっ…!」

 

 

と、ずっと叩かれている仲間が苛立った声を上げる。流石にウザったいのだろう。

 

 

「いい加減にしろっ!」

 

 

そのまま、妖精が振る新聞筒をガシッと掴む。そして、無理やりグイっともぎ取った。

 

 

 

「――! ――!!」

 

 

すると、妖精は一目散に逃げ出していった…! マズい、仲間を呼びにいかれたか…!

 

 

そうとなれば、こんな場所にいるわけにも行かない。新聞束を持って…逃げろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さりとて、すぐに入口から逃げ出すわけにも行かない。人通りが多いし、受付カウンターもある。

 

 

故にほとぼりが冷めるまで、一般来館客のように身を潜めるしかない。丁度辺りに人はいない場所に出たし…読書用に机もある。

 

 

よし、少し休憩しよう。さて、どの新聞記事が高値なんだっけな…。 うん?

 

 

「お前それ…持ってきたのか?」

 

 

「あ? あ。そういえば…」

 

 

 

 

俺が指摘したことで、さっき妖精に叩かれまくっていた仲間はハッと気づく。そいつの手には、さっき奪い取った新聞筒。

 

 

どうやらつい持ってきてしまったらしい。一応それも、金になるか調べてみるか。なになに…?

 

 

 

「『ミミック新聞』…?」

 

 

 

 

 

…なんだそりゃ? そんな新聞あったか? …目録にもないな、そんなの。

 

だいたい、あの憎っくき魔物の名前を付ける新聞社なんてあるわけないだろう。…あー、魔界の新聞の一つかもしれないか。

 

 

なら、案外良い値段がつくかもしれない。とりあえず記事内容を確かめてみよう。えーと…。

 

 

「『冒険者、ミミックに完敗。復活魔法陣送りに』…? はぁ…?」

 

 

 

 

 

大見出しを諳んじ、俺達の頭には?マークが。そんなの、記事にすることか…?

 

 

いやミミック達には大事かもしれないが…それでも、表の一面記事にするものじゃないだろう。今もどっかのダンジョンでは起きてることだろうし。

 

 

けど…こんな内容ならどう足掻いても高値はつかない。なんか気にして損した気がする…。 

 

 

 

 

 

興味を失った俺は、握っている仲間に『捨てとけ』と手で指示する。しかしそいつは握ってしまった縁なのか、まだ気になっている様子。

 

何か面白いことが書いてないか、小さい文字の詳細をしげしげと眺め出した―。 その瞬間だった。

 

 

 

 

ゴソッ…

 

 

「…ん!?」

 

 

ふと何かが蠢いた音が。慌てて俺ともう一人は辺りを見回すが…誰もいない。

 

 

なら、何の音だ…? そう思い、顔を正面に戻すと―。

 

 

「「なっ…!?」」

 

 

……なんと、ミミック新聞とやらを眺めていた仲間が…触手に首を絞められている…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ…はっ!? な…何故…!? 思わず机から飛び退き、慄いた目を正気に戻すため、頭を振る。

 

 

改めて、よく見てみる。…もう息絶えた仲間に纏わりついている触手は…新聞の筒の中から…。って、はぁ!?

 

 

 

そう…! ミミック新聞というヘンテコ新聞を丸めたあの筒から、妖精司書が叩くために持ってきたそれから、触手がニュルリと出て来ている…!

 

 

あれじゃあ…まさしくミミック…! ……いや、あれミミックか! あんな場所に潜むか、普通!?

 

 

 

うわっ! 筒の反対側の穴から、更に触手を出してきやがった…! こ、こいつ…!

 

 

 

……っあ! 待て待て待て! 俺達が盗んだ新聞を回収するな! 待てって…ああぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間一人を復活魔法陣送りにされ、さっき奪った新聞束も、ミミック新聞の筒の中にスポンと引き込まれてしまった…。相変わらず、どういう構造してんだミミックって…。

 

 

てか、くそっ…! これじゃあ、あいつが入っている新聞の見出し通り『冒険者完敗』じゃねえか…!

 

 

そうはさせじと、俺と残された1人は武器を抜こうとする―。が…。

 

 

 

「―! ――!!」

「――。 ――!」 

 

 

 

チッ…! さっき俺達が飛び退いた音を聞きつけたのか、それとも捜索の手がここまで来ただけか、複数体の妖精司書の声が聞こえてきた。

 

 

もはや逃げるしかない…。 せめて、全員の復活魔法陣送りだけは避けなければ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…参ったな…。もう手段がないぞ…」

 

「かなり警戒されてるしな…」

 

 

 

なんとか逃げ切り、またも誰もいないとある場所で息つく俺達。 人が少ない時分を狙ってきて正解だったかもしれない。この図書館自体がかなり広いってのも功を奏している。

 

 

はぁ…逃げすぎて喉が渇いた…。水を飲もう…。 図書館内は飲食禁止? 知った事かよ…。

 

 

それに、蓋がついている飲み物だったらokだってこと、案外多いだろ。…てか、なんで盗みに入っている俺達がルール気にしなきゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

本棚の陰に腰を落とし、水分補給。 そしてふと、さっきまでのことを思い返す。

 

 

 

…まさか、新聞筒の中にミミックが潜んでいるなんて…。誰が予測できるんだあんなもん。

 

 

……待てよ…? ということは、それを持ちだしてきた妖精司書…それをわかっていたってことだよな? 

 

つまり、奪われるまでがセットってことか? そして油断した隙をついて、筒内のミミックが動く、と…。

 

 

 

そういえば、見たこともない新聞だった。もしかしてあれ、ミミックが潜むための専用新聞だったりするのか…? 流石に考えすぎか…?

 

 

だが…そうだ、あれがミミックならば…。最初に仲間を仕留めた落下本の触手、あれもミミックだったのかもしれないのか…。

 

 

なんだなんだ…? ミミック達が司書手伝いでもしてるのか…? そりゃ触手使えば、本の整頓とかしやすいだろうけどよ…。

 

 

 

 

 

 

 

―と、そんな考えを打ち切って、顔を挙げる。そんなの考えていたところで、どうしようもない。2人やられ、実入りは0。酷い有様だ。

 

 

せめて、何か収穫を…。 丁度辺りを物色していた仲間に、声をかけてみる。

 

 

「何か、あるか?」

 

 

すると、その仲間は微妙そうに肩を竦めた。

 

 

「うーん…。ここ、写真集コーナーだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…写真集か…。確かに見ると、辺りの棚は色とりどり。綺麗な風景もあれば、決め顔の人の姿も。可愛い猫の写真集ってのもある。

 

 

だが…どうなんだ…? 価値がよくわからない…。 プレミア付きのならば、そこそこ値段はするだろうが…。うーん…??

 

 

 

 

 

とはいえ、下手に動くことができない以上、そこで良いもの探しするしかない。金になりそうなもの…金になりそうなもの…。

 

 

なんだろうか…。魔界の秘境写真集とか…? 学者受けはしそうだな…。あとは…アイドル写真集とか…?

 

 

それでもなんか、高い気はしないな…。そういうのって大量に発行されている代物だしな…。

 

 

 

あと高そうなのは…エロい系のやつだが…。 こんな誰もが見に来る本棚に置いておくわけないか。

 

 

 

 

 

 

 

早々に諦めて、別の本棚に向かうのが吉。そう思い、俺は周囲の様子を窺いだす。―すると、仲間の1人がちょいちょいと俺を呼んだ。

 

 

「おい、見てみろよ…! 結構良いグラビア、見つけたぜ…!」

 

 

 

呼ばれた場所に行ってみると、確かにそこはグラビア写真集が置かれているエリア。なるほど、これぐらいならギリギリセーフなのか。

 

 

とはいえ、それでもそこまで金になる感じは…。

 

 

 

「この娘、良いなぁ…! お、こっちのは一際セクシーだ。フフフ…!」

 

 

…どうやら完全に、目的を見失った様子の仲間。完全に立ち読みしているおっさんみたいになった。

 

 

―まあでも、ちょっと休憩がてら見ていくか。良いのだったらしっかり売れるだろうし、なんなら自分の持ち物にしても良いしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー…こりゃ中々…! ウヘヘ…!」

 

「良いポーズだな…エッチぃぞ…!」

 

 

身を寄せ、潜みながら写真集を漁る。…なんか、ガキの時を思い出す。

 

あの時も、森の中に捨てられていたグラビア雑誌を見つけて、友達と読みまわしていた。懐かしい…。

 

 

 

 

 

そして、流れで次の写真集を手に取る。おや、これは…?

 

 

「魔物の写真集か…?」

 

 

 

魔物もこんなの出すんだな…。そりゃ出すか。 変なのが混じってなければ良いが…。 あぁでも、これは人型魔物に限ってるみたいだ。なら安心か。

 

 

…どうせならエルフとかのグラビアはないかな。 でもあいつら無駄にプライド高い奴多いし、少ないだろうな…。

 

 

 

 

――そうか! そういうのを探せばいいのか! それならレアだし、いい金にもなる。 そうと決まれば…!

 

 

 

 

 

 

 

早速仲間と示し合わせ、探し出す。すると…案外出てくる出てくる。これは…嬉しい収穫だ…!

 

 

早速中身を確かめてみよう。フフ…! 魔物でも、案外良い身体してるじゃないか…!

 

 

 

幾つかを読み、良さげなのを選別していく。 …すると―。

 

 

「なんだこれ?」

 

 

変な一冊にぶち当たった。 宝箱の中でセクシーポーズしている美女が表紙の…。『Me Mix』ってタイトルだ。

 

 

どれどれ…? おぉー…水着グラビア写真集だ。良い感じじゃねえか…! ちょっと詳しく見ていこう…。

 

 

 

 

 

 

これは…悪魔族の女だな。『あすと』って名前か。 中々にスタイル良いじゃねえか。美乳ってやつか。セクシーポーズも様になっている。

 

 

ただ…手で顔を隠してるのがな。なんか、恥ずかしがってる感じもするし…。…いや、寧ろそのおかげで扇情的さが超アップしてるな。 良いモデルだ。

 

 

 

 

こっちは…ドワーフだな。『らてぃっか』って。 うーん…。粗雑な印象もあるっちゃあるが、これはこれでありだな。

 

 

なんて言えばいいか。健康的なエロス? をビシビシ感じる。 汗が似合うモデルだな。

 

 

 

 

さてお次は…『みみん』というモデルか。…って、ガキじゃねえか! いっちょ前にセクシー水着を着ているが…。ガキには興味ねえよ。

 

 

…うっ。けど、決め表情だけは大人の色気が漂ってんな…。 ……けど、なんで宝箱に入ってるんだ?

 

 

 

 

……? …?? …!?!?  おいおいおい…! その次のページからのモデル、宝箱に入ってるやつ、多すぎねえか!? ほとんどそれだぞ…!? 全員エロいけどよ…!

 

 

 

表紙的に…そんな企画グラビアなのか? 『お宝は私よ?』ってか? けどよ、これじゃまるでミミックみたいだ…。…いや、というかこれ…。

 

 

 

 

「…おい。なんか後ろに付録ついてねえか?」

 

 

と、そんなことを考えていた俺へ、一緒にこの写真集を見ていた仲間がワクワク気味に声をかける。

 

 

確かに最後までページを捲ると…。そこにはちょっと膨らんだ袋とじが…!

 

 

 

『ムフフな秘密、見せちゃいます…!』

 

 

 

そんな煽り文まで書いてある。これは…是非とも確認しなければ…!

 

 

 

 

 

 

「…ん? これ開いてないな…」

 

―と、思ったが…。袋とじは未開封。なんだ、期待させやがって…。

 

 

 

「構うことはねえ! 開けちまおうぜ!」

 

ちょっと諦めていた俺だったが、仲間はやけに押せ押せ。…まあ確かに、盗人まがいのことをしている身、今更袋とじの一つや二つ勝手に切っても問題ないだろう。

 

 

 

そうと決まれば―。 ナイフを取りだし、切り口に刃を…! せーの…

 

 

 

 

「はーいアウト! 図書館のものを勝手に切っちゃダメよ!」

 

ギュルッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「へっ…? ぐえっ…!?」」

 

 

瞬間、袋とじの上下から、触手が出てきた…! またかよ…! そして成す術もなく、俺達2人は首を絞められぇ…!

 

 

「よいしょっ!」

 

 

続いて、袋とじからスポンッと身体を出す魔物が…! って、上位ミミック…!? 

 

 

そうか…既視感があると思ったら…! このグラビア写真集の宝箱入りモデル…上位ミミックだったか…! 水着に騙されて我を忘れていた…!

 

 

 

 

 

「アンタたちね? さっきから図書館内を騒がしている盗賊達って。 水着写真集に引っかかってくれる単純な奴らで助かったわ!」

 

 

そう嘲笑う上位ミミック。 …だが…ぐうの音も出ない…! くそォ…!

 

 

 

ミミック写真集なんて、超超激レアだってのに…! 気づいてたら、すぐに袋に仕舞ったのに…!!

 

 

…いや、そもそもこの写真集自体が罠か…。どうせ、すぐに同じ結末になったろな…。

 

 

 

 

 

 

もう運命を受け入れ、俺は大人しく処罰を待つ。 ―しかし、仲間は覚悟決まらぬらしく…。

 

 

「ひっ…ひいっ…! た、助けてくれよ…! た、助けてぇ!」

 

 

悲鳴をあげ出した。 おいおい…そんなうるさい声を出すなよ。 だって、ここは図書館だ。なら―。

 

 

「おっと! 図書館ではお静かに♪」

 

 

「「むぐぅっ…!」」

 

 

…そう注意を食らって、強制的に静かにさせられる(復活魔法陣送り)に決まっているからな…。

 

 

ぐふっ……。図書館のマナーは…守るべきだったぜ…。

 

 

 

 


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