ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№51 『イダテン神のレーシングダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

設置されているランプにシグナルが点灯していく。赤の光が段階を置いて、一つずつ。

 

 

それに合わせ私も、手にした大きいフラッグを握り直す。そして、出来る限りの大きい声で―。

 

 

「 3(three)

 

  2(two)

 

  1(one)

 

 ――GO!! 」

 

 

 

シグナルが青の光を灯したタイミングにピッタリ合わせ、その白と黒の市松模様な、チェッカーフラッグなるものを勢いよく振る。

 

 

瞬間―――!

 

 

 

 

 

ヴォンヴォンヴォンヴォォオオオッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

けたたましい爆音を立てながら、双陣の突風が私の真横を突き抜けてゆく。それに耐えつつ、過ぎ去った音の正体を見やると―。

 

 

「わ…もうあんな遠くに…!」

 

 

思わず、驚いてしまう。先程まで合図を待って唸りをあげていた、四輪の箱…もとい、『レーシングカー』は、既に小さくなっていたのだから…!

 

 

 

 

 

 

 

 

―さて、走っていった二台のレーシングカーが戻って来るまで、少しばかりこのダンジョンの説明を。

 

 

 

ここは『レーシングダンジョン』という場所。とはいっても、これまた普通のダンジョンとは装いがかなり違う。

 

 

 

敷地は基本的に地上なのだが、そこを構成するのは綺麗に、黒めに舗装された道路。それが長く、時には曲がり、時には坂を構成するように敷かれているのだ。

 

 

山間を縫い峠を越すルートもあるし、中には巨大なトンネルや水中ステージも。場所によっては空中を跳ぶ道すらもあるらしい。因みに観戦席とかの設備や、特殊なギミックとかもある。

 

 

 

 

これらは全て、あのレーシングカーのため。馬車よりも、鳥よりも高速で走り抜けるあの『車』のための専用コースが、幾つも用意されている特殊なダンジョンなのである。

 

 

 

 

 

 

――そう、あのレーシングカーは車。車輪を勢いよく回し、走っていくアレ。ただし、曳くための馬とか竜とかは存在せず、魔法によって搭乗者が自在にスピード調整できる代物。

 

 

ついでに、ウォータープルーフ魔法とかパラシュート魔法とか、激突防止魔法とかもたっぷりかけられてもいる。社長の箱並みに凄いかもしれない。

 

 

それに万が一に事故が起きたとしても…ここダンジョンだから復活できるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ。そんなことを言っていたら、そろそろゴールしてくるみたい。中継してくれている魔法映像の位置情報的に。

 

 

 

なら準備しなければ。私がいるスタートラインは、そのままゴールラインなのである。 再度、チェッカーフラッグを手にして……もう微かに見えてきちゃった!

 

 

 

 

「せーのっ! それっ!」

 

 

ゴールはここです!と示すように、フラッグをブオンブオンと大きく振りまくる。するとラストスパートをかけるように、レーシングカーは更に速度を上げだした。

 

 

 

 

 

って…あれ!? よく見ると…二台ほぼ横並びにで走ってきている…! これはどっちが一着かわからない…!

 

 

 

どっちだ…! どっちだ…! どっち……!? 双方一歩も引かぬまま――。

 

 

 

 

 

「GOAL!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…私の目では、どっちが先にゴールしたかわからなかった…。私の魔眼は『鑑識眼』で、物事をスローモーションで見られる力はないから…。

 

というより、視力強化の魔法とかをかけておけばよかった…。もう遅いけど…。

 

 

 

まあでも、そんな心配はいらない。しっかりと判定用魔法も備えられているのだから。 さてさて、結果はと…。

 

 

 

 

映像画面へと目を移すと、ゴールした瞬間の映像が丁度パッと映し出されたところ。 わぁ…! ほんと僅差! 指一本分ぐらい?

 

 

しかし、しっかり差があったというのが明らかとなった。ということは、この先に出ているレーシングカーの搭乗者が―。

 

 

 

『只今のレース。【イダテン神】の勝利!』

 

 

 

 

 

 

 

そんな場内アナウンスが響き渡り、観戦していた他魔物達は良いレースだった!と歓声をあげる。私としては、ちょっと残念ではあるんだけど…確かに、白熱したレースであった。

 

 

 

と―。その結果発表を聞き、勝利したレーシングカー…孔雀のような塗装が施された車の扉が、バンッと開く。そして、威勢の良い女性の声が。

 

 

 

「よっしゃああああ!! ギリギリだったけどオレの勝利だ! 神の面目、なんとか保てたぜ!」

 

 

 

 

 

ひと振りの宝剣の絵が描かれた甲冑のような柄の、ぴっちりとしたレーサースーツなる姿の彼女は、その胸をガバッと開け風を入れる。

 

 

そして、派手めの兜柄のヘルメットをスポンと外す。現れたのは、勝利の高揚と安堵で上気した、格好いい女性の顔。

 

 

 

彼女は『イダテン神』。数いる神様の、その一柱である。

 

 

 

 

 

 

 

このダンジョンの様々な特殊機構、コースやレーシングカー諸々にかけられている魔法、そして幾台もある、様々な大きさや形、模様の車たち…。

 

 

それら全て、イダテン神様のお力によるもの。 ここは彼女が作った『遊び場』なのである。

 

 

 

なんでもイダテン神様、本来は守護や戦闘などなどの加護を持つ偉大な神様らしいのだが…どうやら『走り屋』の側面があるご様子。

 

 

そのため自らの分霊を作り出し、レーシングカーという特殊な乗り物まで作成して、日夜ここを走り回っているらしい。 コースに飽きても、神様だから自由に改造できるみたい。

 

 

 

 

因みに厨房を守る神様でもあるみたいで、料理の腕も素晴らしかった。 先程、『御馳走』を作ってくださったのだ。

 

 

 

今のこれは、その腹ごなしレースということ。 …私、へそ出しで生地がつるつるな『レースクイーン』衣装を着せてもらっていたんだけど……。お腹、膨らんでないよね…?

 

 

 

 

 

 

 

 

へ?社長はどこかって? まあ大体想像できるでしょう。

 

 

イダテン神様が乗っていたレーシングカーは、孔雀柄。お気に入りの柄らしい。

 

対して、それと競っていたもう一台のレーシングカー。そちらの柄は…宝箱。

 

 

 

もうおわかりなはず。そこからバンッと扉を開けて出てきたのは――。

 

 

 

「くぅぅうう! あとちょっとでしたのにぃ!」

 

 

 

―と、悔しそうな声を上げる、子供サイズのヘルメットとスーツを着た、宝箱入りのミミック。社長である。

 

 

 

 

 

 

そう。社長とイダテン神様、レースで勝負していたのだ。 結果は先の通りだが、双方歩み寄り健闘をたたえ合う。

 

 

「流石イダテン神様! 一回もまともに追い抜けませんでしたよ!」

 

 

「へっ!よく言うぜ! 初乗りの癖にオレと並び続けるなんてヤツ、見たことねえよ!」

 

 

 

がっしりと互いの手を握り合い、談笑するお二人。その顔には一切の恨み辛みはなく、爽やかな笑顔が。

 

 

 

 

 

 

……え?『初乗りの癖に』? えぇ、はい。嘘じゃありません。

 

 

社長、あれに…レーシングカーに乗ったのは今日が初めて。なのに、あの腕前。

 

 

 

 

 

一応私もちょっと乗せてもらったのだけど…丸いハンドルとか各レバーとかの操作を全くできなくて、あわや激突事故を起こしかけた。だからレースクイーンをしているわけで。

 

 

 

 

しかし社長は違った。乗って、軽く説明を受けたらあら不思議。まるで自らの手足の如く、もとい、自分の入っている箱のようにすいすいと走り出したのだ。

 

 

そして色んな技を魅せてくれた。急な曲がり角を、車輪を横滑りさせながら走る『ドリフト走行』なるものや、車輪痕で地面に円を描く技とか。

 

 

そして片側の二つの車輪だけでレーシングカーを立たせ、片輪走行なんかも。 とんでもない荒業だっていうのは、見ただけで分かるほど。

 

 

 

その様子は私はおろか、その場にいた他の魔物達、そしてイダテン神様すらも驚いていた。なんで初めてでそんな動きが出来るのか聞いてみると――。

 

 

 

「ほら、これ(レーシングカー)って『箱』じゃない? だから、体が勝手にわかっちゃうのよ!」

 

 

 

―とのこと。 つまり、ミミックだからということ…? なら、考えるだけ負けかも…。

 

 

 

まあただ、レーシングカーを箱に置き換えて考えると…、確かに普段からやってることではあるのかな…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっぷっはーーっ!!  ひとっ走りした後のジュースは美味しいですね~!! お酒だったらもっと良いんでしょうけど…」

 

 

「呑むなら、もう今日は運転しないと決めてからだぜ。 酔っぱらっての運転は、いくらオレの力があっても危険だからよ!」

 

 

「はーい! 後にしまーす!」

 

 

 

コース端の休憩所で、冷たいジュースを飲みつつ語らう社長とイダテン神様…そして、私。 ということは、社長まだまだ遊ぶ気らしい。

 

 

…一応私達、依頼で来ているのだけど…。 なら今のうちに、商談を纏めておいた方が良いかな。そのほうが気兼ねなく楽しめるだろうし。

 

 

 

 

 

「イダテン神様。ご依頼内容をお聞かせいただいても?」

 

 

「お!そーだったそーだった! あまりにも社長の腕が良いモンだから、すっかり忘れかけてたぜ!」

 

 

私がそう話を切り出すと、危ない危ないと笑うイダテン神様。そして、ジュースをグイっとあおりながら教えてくださった。

 

 

「いやよ、ここって他の魔物やら人間やらにも開放してんだよ。ほら、そこら中にいるだろ?」

 

 

 

 

 

彼女にそう言われ、私は辺りを見渡してみる。確かに色んな場所に、人間達や亜人獣人など様々な人々が。

 

 

そんな彼らが、色んな車に乗って走り出している。四輪車だったり、二輪車だったり、小さいのだったり大きいのだったり。

 

 

自分の乗り物の持ち込みも問題ないらしいし、なんなら走ってコースを楽しむのもOKらしい。まさに様々な走り屋のためのダンジョンである。

 

 

 

 

 

 

おや、あそこの方は結構なご老体なお婆様だけど…。…わっ!? 凄い速度で、足で走り出した!? 時速100…いや140ぐらいは出てるんじゃないかって速さで消えていった…!

 

 

…あぁ…! そういえば聞いたことがある気が…『ターボおばあちゃん』という妖怪の方を…。もしやその御方かもしれない。

 

 

…えっ!? 他にもお爺様だったり、毬をついている女の子だったり、赤ちゃんだったり、ホッピングや棺桶を手にしていたり、ミサイル?に乗ってたり…。

 

 

なんか、すっごい妙な集団が、走っていっちゃった……。 なんか、伝説になりそう…。

 

 

 

 

 

 

気を取り直して…あちらの方には、側面に『95』と数字が描かれた、真っ赤な色のレーシングカーが…。…あれ!? なんか…正面に大きな目があるような…!? その下に、口もある!?

 

 

そこに、ちょっと古びた様子の、背の荷台にクレーン?のような物を乗せた車が…。 それにも目と口が…! しかも出っ歯!

 

 

他にも、何台か…。 何かを話しつつ、タイヤを上げたり下げたり妙な動きをしながら行ってしまった…。

 

 

レーシングカーの集団…。 レーシング『カーズ(Cars)』…? なんか可愛いかったかも…。

 

 

 

 

 

 

 

そして向こうの方には、真っ黒なピッチリスーツ…『ライダースーツ』というらしいそれに全身を包み、同じように真っ黒な二輪車に乗っている方が。人の姿である。

 

 

どうやら女性のご様子。かなりスタイルが良い。 あと、黄色なネコ耳つきヘルメットを被って…あ、外した…わ!

 

 

首が…ない…! どうやら『デュラハン』の御方らしい。 しかし、普通デュラハンの方は鎧と馬に乗っているイメージがあるが…あのような方もいるんだ。

 

 

 

お、走り出した。 …? 多分、結構離れているせいなのだろう。 駆動音が変に聞こえてきた。『ブロロロ!!』とかじゃなく、『デュラララ!!』って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっとしまった…。つい来訪者観察に夢中になってしまった。改めて、イダテン神様のお話へと。

 

 

 

 

「―んでよ! 最近ここの噂を聞きつけて遊びに来る連中が多くてな。千客万来ってやつよ! そうすると、悪いこと考える奴も増えちまって…」

 

 

そう話を進めつつ、手にしたジュースを飲み干すイダテン神様。そして面倒そうに肩を竦めた。

 

 

「勝手に賭けを始めたり、走っている奴を誰彼構わず煽ったり、中にはレーシングカーを盗もうとするヤロウもいるんだ!」

 

 

と、話していて怒り心頭に達したのか、イダテン神様は手にしたジュースの缶をぐしゃりと握り潰…というか、消滅させた…!

 

 

 

「オレぁ、そういうのは許せねえタチでよ! 見つけ次第ブッ飛ばしに行ってるんだが…。ついついやりすぎちゃってよ、車ごと『メッ』しちまうんだ」

 

 

…そのメッ、は、『滅』であろう…。まあ神様のお膝元で悪さするのがいけないし。

 

それにダンジョンなので、復活魔法陣によって復活できるから…やりすぎという事は、ない…?

 

 

 

 

 

しかしイダテン神様はそれでは納得できないらしく、あぐらをかきつつ、ずいっと顔をこちらへ。

 

 

「オレとしてもできれば、反省させて改心させたいわけだ。そのためにゃぁ、バレずに連中に迫れて、とっ捕まえられる存在が適任かと思ったんだが…」

 

 

そこで不意に言葉を切った彼女は、社長を抱え上げるようにし、あぐらをかいている足の上に乗せた。

 

 

「さっきのテクニックを見たら、別に隠れる必要もねえや! な? 車を思いっきり激突させて止めても何しても良いから、連中をふん縛る手伝い、してくんねえか?」

 

 

オレの加護がかかってるダンジョンだ、大抵のことは大事(おおごと)にはならねえしよ! そう付け加え頼み込むイダテン神様。社長は彼女のあぐらの上で、にっこりと。

 

 

 

「えぇ!おまかせあれ! 私の所感ですけど…ミミック達のほとんどは、ここを気に入りますよ! 中でも、走り屋気質な子達を派遣いたしましょう!」

 

 

 

…確かにいる。社内を宝箱で爆走している子達が結構…。 私が歩いていると脛にぶつかってきそうでちょっと怖いのだ。 適材適所とはこのことであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにはともあれ商談成立。契約書にサインも戴き、後は自由。

 

 

すると、やはりまだまだ走る気満々な社長達。しかも先程とは別のレーシングカーでバトルする気らしく……。

 

 

 

「うーし! じゃあ、こいつで勝負といこうか!!」

 

 

イダテン神様とその眷属の方が走らせてきたのは――。

 

 

 

 

「でかっ…!?」

 

 

 

 

思わず声を出して驚いてしまった…。 さっき社長達が乗っていたやつは、体高が私の胸の辺りぐらいの大きさであった。

 

 

しかしこれは…随分と巨大…! 私が縦に2人…いや下手したら3人ぐらいは並べられそうな高さをしている…!

 

 

 

「これは『トレーラー』っていう種類の一つでよ! オレは『コンボイ』って呼んでるんだ!」

 

 

高いところにある運転席の窓から顔を出し、教えてくださるイダテン神様。 というかこれ…! 煙突みたいなところからすっごい煙を吹き出してるんだけど…!? うわっ!火も…!?

 

 

大丈夫かな…? 爆発とかしないかな…?  私がそう不安がっていると、イダテン神様はケラケラと。

 

 

「だーいじょぶだって! これはギミック!格好いいだろ? けど、パワーはさっきのとはダンチだぜ?」

 

 

先程以上の爆音を鳴らし、そのトレーラー?コンボイ?はグオングオンと揺れる。 確かに、とんでもないエネルギーを感じる……。

 

 

ん? 何か書いてある…? 『使用エネルギー:エネルゴン』…。 なにそれ?

 

 

 

 

 

それはともかく。こんなじゃじゃ馬そうなのに乗って、社長大丈夫かな…。 とか思っている間に乗り込んでるし!

 

 

仕方ない。私はさっきみたいに観戦に徹することにしよう……へっ?

 

 

 

 

身体が、動かない…!? よく見ると、社長が触手を伸ばして私を捕まえていた…。な、なんで…? ―もしかして!?

 

 

 

「私にいい考えがあるの! 今度はアストも一緒に楽しみましょ!」

 

 

 

や、やっぱり!? しかも有無を言わせる気なく、助手席に引っ張られぇぇぇぇ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ社長! 準備は良いかぁ!? オレもまだ、こいつには慣れ切ってない。 勝ってみせなァ!」

 

 

「えぇ!さっきと変わらず本気で! 『掟破りのミミック走り』、お見せいたしましょう!」

 

 

 

運転席に取り付けられた通信魔法越しに、牽制し合うイダテン神様と社長。…その社長の横で、私はシートベルトをぎっちり掴んで震えてるのだけど……。

 

 

 

「そう怖がるなってアスト! オレの力で怪我しないようにはなってっから!」

 

「そうよ! 壁にぶつかってもボヨンッてなるみたいよ! ま、そんなミスする気はないけど!」

 

 

 

お二人とも、そう励ましてくださるが…。 真剣勝負みたいだし、やっぱり私は降りたほ―

 

 

 

「「3(three)! 2(two)! 1(one)!  GOッ!!!」」

 

 

「ほああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盛大に響く、地面が割れるほどの駆動音! グイッと、後ろに押し付けられる重い感覚! 勢いよく揺れ動く窓の外の景色ぃ!

 

 

動き出してしまった…! 動き出してしまった!! ひゃぁぁぁぁ!!!

 

 

 

もはや私は、椅子に縋りつくだけで精いっぱい。だというのに社長たちは――。

 

 

 

 

 

「へっ! 良いスタートダッシュじゃねえか! しかしオレの『イダテン走り』について来れるかぁ!?」

 

「ぬー!? 更に加速ですって! ならばミミック走りの神髄、今こそここに!」

 

 

そんな感じで、煽り合ってらっしゃる…! ってきゃあっ!? 席が…! いや乗り物自体が浮き上がって!?

 

 

 

 

「なんだとォ!? アクセル全開のまま、空中ジャンプ!? 『空中に描くライン』で…飛距離で稼いできやがった!?」

 

 

「へへ~! 見ましたか! ミミックですから、これ(トレーラー)を箱に見立てて自由に跳ねさせることだってできるんですよ!」

 

 

 

いや、ミミックだからって出来る技じゃないと思うのだけど…!? って!?

 

 

 

「社長、前! 前!! 壁です!!」

 

 

「へ? やっばぁ!? けどここで! インド人を…じゃない、ハンドルを思いっきり右に!!」

 

 

 

触手を複数使用し、丸いハンドルを勢いよく回す社長。 うぇぇ…! 身体が持ってかれるぅ…!?

 

 

 

「おっとっと! 危ない危ない!」

 

 

「へっ! おっさき~!」

 

 

「あー! させませんよぉ~!!」

 

 

 

更にデッドヒートを続けてゆく社長たち。 私は…私は…もう……うっぷ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気゛持゛ち゛悪゛い゛で ず ……」

 

 

 

「ごめんなさいアスト…。 つい興が乗っちゃって…」

 

「気づいてやれなくて悪かったぜ……」

 

 

 

バトル終了後…休憩ベンチにへたり込んでしまった私へ、社長とイダテン神様は申し訳なさそうに。

 

 

そりゃあれだけ目まぐるしく動くのだもの…酔うに決まってる……。 うぇぇ…。

 

 

え…? 勝負の結果ぁ…? ピッタリ同着ゴールとかだって気がぁ…。よく覚えてない……。

 

 

 

 

もう暫く、乗り物全般見たくない…。 くらくらする頭でそう思っていると…お二人が何かを話し合っている様子。そして社長が―。

 

 

「ね、アスト。 えっと…もうひとっ走りだけ、付き合って貰えないかしら…?」

 

 

 

 

 

 

…正直拒否したかったけど…社長とイダテン神様2人がかりで宥めすかされ、渋々了承。

 

 

歩けるまでには回復したため、自らの足で車まで赴くと……そこにはさっきの大きなトレーラーだかコンボイだかが。

 

 

 

そして同じように、社長が運転で、私が助手席に…。すると、社長がちょいちょいと指さした。

 

 

「アスト、そこじゃなくてね…。 その窓に腰かけて!」

 

 

 

えっ!? 窓に!? けどどうやって…?  眉を潜めていると、イダテン神様が乗り方を教えてくださった。

 

 

開けた窓から上半身を出すように…、窓枠にお尻とか太ももとかを載せるように…? なんか、少なくとも正しい乗り方じゃないような…。

 

 

そして落ちないか心配だったけど、イダテン神様が魔法をかけてくださった。社長も触手で支えを作ってくれ、お尻が痛くならないようにクッション代わりにもなってくれた。

 

 

 

 

「そんで、ここのレバーを引けば音とか振動とかを極力抑えて、ゆっくりめに走るからよ。 あ、そっちは変形(トランスフォーム)ボタンだから触っちゃダメだ」

 

 

「はーい。 それじゃ、行きまーす!」

 

 

 

 

イダテン神様から少し講釈を受け、発進させる社長。わ…速い…! …けど、気持ちいい速度…!

 

 

しかも、体を外に出しているおかげで、心地よい風が身体に…! 良い、これ…!気持ち悪さが消えてく…! そして―!

 

 

 

「イダテン神様に聞いたのだけど、それ『箱乗り』っていうんだって! アストもちょっと、(ミミック)の楽しさ味わえたらなーって…。 …どうかしら…?」

 

 

「はい! 凄く楽しいです!」

 

 

 

社長の問いに、私は元気よく答えた。 だって、本当に楽しい…!! やっちゃいけない感半端ないけど!

 

 

少し高いところから景色を見やりつつ、身に軽く叩く風を味わう。 ワクワクすら感じるこの乗り方を、私はもう暫く堪能させて貰ったのであった―。

 

 

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