ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№52 『キョンシーの長城ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

琵琶や銅鑼、琴や二胡により奏でられる、雄大且つ優雅な音楽が辺りを包む。心に響き、そして染みるような独特で綺麗な調べ。

 

 

思わず扇子や長い袖をひらめかせて、舞踊してみたい気分に駆られてしまう。けど、その両方とも手元にない。ちょっと残念。

 

 

 

……あと、これ聞いていたらなんだかお腹も空いてきちゃった…。餃子とか麻婆豆腐とか食べたい…。

 

 

ここ、美味しいお店幾つもあるみたいだし、帰り際に社長と寄っていこうかな。

 

 

 

 

 

 

 

―コホン。 説明が遅れてしまった。今回もまた、依頼を受けてダンジョンを訪ねている。因みに依頼内容は『悪漢・盗賊などへの対策』である。

 

 

そしてここの名は、『長城ダンジョン』。街のようなタイプのダンジョンを、長く大きい城壁が取り囲んでいることから名づけられた場。

 

 

 

私達が今いるのは、その城壁…長城の上部分。堅牢に作られたそこの、見張り用に作られた道や建物のあるところ。

 

 

そこから見下ろす街は、とても美しい。伝統を感じさせる赤い提灯に彩られた建物群は、威厳と絢爛さを併せ持っているよう。

 

 

音楽が聞こえてくるのは、その街からである。加えて、香炉で焚かれている心安らぐ香りまで漂ってくる。

 

 

 

更に万人に開放されている場所なため、色んな魔物や人間が訪れ、観光や食事を楽しんでいる。まさに、素晴らしいダンジョンと言うべきであろう。

 

 

 

 

では、そんなここの主は、どんな魔物かというと――。

 

 

 

 

 

 

 

ピョン ピョン ピョン ピョン

 

 

 

 

 

 

 

――丁度幾人かがこちらへ向かって来た。あれが、ここの主たち。

 

 

 

両手を真っ直ぐ前に伸ばし、直立不動の姿勢で跳ねて進んでくる、道士服を纏った青白めの肌な人型魔物。

 

 

そして変わった形の帽子……大きいどんぶりに、凄く大きいシュウマイが入ってる感じの…。…うーんなんか違う…。

 

 

そんな変わった帽子を被り、それの円形のつば部分や、おでこに御札をペタリと貼ったのが特徴な―。

 

 

 

 

―そう、彼らは『キョンシー』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

骨の人型魔物スケルトンと同じように、彼らは元人間。死んだ後に色んな方法で蘇り、ぴょんこぴょんこ第二の人生…ならぬ魔物生を送っている者達なのだ。

 

 

ただスケルトンと違うのは、肉体があること。生前と比べて青白く、冷たくはなっているのだけど。暑い日には人気者?

 

 

あ、因みに。別に彼ら、臭くない。 頭に貼ってあるお札の効果で、腐敗することは無いらしい。寧ろ汗とか皮脂とか出ないので、生きてる時より清潔だとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

さて、そんなキョンシーの最大の特徴と言えば…やはりあの歩法であろう。死後硬直により固くなった身体で、ジャンピング歩き。

 

 

なんでもそれは、キョンシーになりたての者達の歩行方法らしい。ある程度キョンシー歴が長い者は、生前と同じ…いや、それよりももっと柔軟な動きが出来る様子。

 

 

 

特にそれを活かした格闘術…『クンフー』は目を見張るものがあり、4000年の歴史を重厚に感じられる。

 

 

 

 

…実際にキョンシーに4000年の歴史があるかはよくわからないんだけど…。さっき社長がそんなこと口にしてたから…。

 

 

『海王とかいるのかしら!?』とかさらによく意味不明なことも言ってたし…。ま、スルーしとくべきだろう。

 

 

 

そうそう。キョンシーのジャンピング歩法自体も、実はそのクンフー修行の一環だったりするみたい。やってみたらわかったのだけど…あれ、長時間やると結構辛い…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え? 社長がどこにいるかって? 確かに今、私の傍にはいない。 だって社長、()()()()()()()ところなのだもの。

 

 

 

どういうことか? ほら、統率された一列ジャンプ移動でこちらに向かってきているキョンシーの方々。その中に…。

 

 

 

「ぴょん♪ ぴょん♪ ぴょん♪」

 

 

 

…と、箱ジャンピングで混じってる社長が。キョンシーたちと同じ服と、御札を纏って。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぴょん♪ ぴょん♪ ぴょーんっと!」

 

 

目の前まで来た社長は、一際大きく跳躍し私の腕の中へと。そしてキョンシーたちへ、両手を胸の前で合わせるジェスチャーでお礼を。

 

 

すると彼らも微笑み腕をギッと曲げ、同じポーズ。そのまま長城の先へと跳ねていった。 ちなみにあの方々は長城警備の兵らしい。

 

 

 

 

 

「ただいまアスト! 待たせたわね!」

 

 

「いえ、辺りを眺めているだけでも楽しかったですよ。そちらはどうでしたか?」

 

 

「バッチリよ! 盗賊達が良く来るっていう侵入経路、色々確かめてきたわ!」

 

 

 

頭の御札を揺らしながら、えっへんと胸を張る社長。―と、私の身体をしげしげと見つめてきた。

 

 

「やっぱり、その『チーパオ』似合ってるわね~! スタイルの良さが際立ってるじゃない!」

 

 

 

 

 

―社長の言う通り、私は此度もスーツ姿ではない。チーパオという、鮮やかな色と模様が特徴の服を着ているのだ。

 

 

…けどこれ、ふんわりしたドレスとかではなく、ぴっちりと張り付くタイプのドレス。おかげでバストもウエストもヒップも全部浮き彫り状態…!

 

 

しかも、スリットがかなりえげつない…。太もも丸見えだし、ちょっと激しく動いたら中見えちゃいそうだし…!

 

 

 

社長に勧められたから着てみたのだが…。中々に恥ずかしい…。 褒められて悪い気はしないけども…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで…『チェンリン』さんはまだ来てないの?」

 

 

「はい。もうそろそろ来てくださるみたいですけど」

 

 

 

ふと飛んできた社長の質問に、私はそう答える。そのチェンリンさんというのが、今回の依頼主。勿論、キョンシーである。

 

 

私がここで待っていたのも、待ち合わせのため。決して、チーパオが捲れあがることを警戒して待機していたわけではない。 

 

 

 

…いや、別に言い訳ではない。だって別に、私は跳ねる必要ないんだし。

 

 

 

 

 

話を戻そう。チェンリンさん、所用で一旦別れざるを得なかったので…その間に見学をさせてもらっていたのである。

 

 

しかしなにぶん長城は広いため、私だけ指定の待ち合わせ場所で番をしていたのだ。

 

 

 

 

私も景色を堪能できたし、結構満足。あとは待つだけ――。 へっ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―突然、城壁の下から何かが跳びあがってきた。もしや盗賊…! そう警戒するが、瞬時におかしな点に気づいた。

 

 

外から…ではない、内側…つまり、街の方からなのだ。 しかも音的に…鉤縄とかで登って来たのではなく、文字通りの一足飛びで…!?

 

 

 

 

びっくりしている私を余所に、現れた影はくるくるくると回転。そして、私達の前にスタッと華麗に着地した。

 

 

 

「ハイヤ! 遅れてしまってすまないアル!」

 

 

 

私より過激…もとい動きやすいチーパオをぱらりと揺らし、ピシッとした立ち姿で拱手(こうしゅ)…さきほど社長達がやっていた挨拶ポーズをとったのは1人の女性。

 

 

キョンシー特有の身ながら、躍動感を感じさせる柔らかな死体…じゃない、肢体。髪型はシニョン…お団子である。

 

 

そしてそれへ被せたシニョンカバーに、髪飾りのように御札を貼り垂らした彼女は――。

 

 

 

「チェンリン、只今参上ネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ということで、この方がチェンリンさんである。喋り方、というか語尾が一風変わっているのも特徴。 …一風というか、唐風?

 

 

 

「いえいえ丁度なタイミングですよ~! 長城の確認をさせていただきました! やはり造り的に、この辺りは先にご提案した宝箱型ミミック達の配置が望ましいかと!」

 

 

「オー! シェシェ! 感謝感激! その様子、ちょっと楽しみアル!」

 

 

 

社長がそう伝えると、チェンリンさんは諸手を上げて喜んでくれる。私も更に補足を。

 

 

 

「街のほうも隠れる所はいっぱいですし、どこにでも潜伏可能です。そちらも問題ないと思います」

 

 

「ワォ! それもすっごく嬉しいネ! 人いっぱいな街中でカンフー使えるキョンシー、限られてるカラ!」

 

 

 

と、チェンリンさん、流麗な動作で体を動かし、足蹴りの演武を。 鞭のようなしなり具合の足から放たれる、空を切るような一撃は圧巻。とてもキョンシーとは思えない。

 

 

私と社長は絶賛の拍手。チェンリンさんは照れくさそうに拱手と一礼をし、自身の頭を指さした。

 

 

 

「後は…()()狙ってくる奴ら対策だけネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、シニョン……ではなく、キョンシーの代名詞、御札。 実はそれも、狙われているのだ。

 

 

チェンリンさん曰く、御札を剥がされると身体が上手く動かなくなってしまうらしい。暴走してしまったり、強制的にギクシャクとした動きになってしまったり。

 

 

更に、ずっと外されたままだと魂が完全に召されてしまう。そうなると復活魔法陣も効果なし。

 

 

つまり御札の強奪は、キョンシーたちにとって死活問題なのである。…キョンシーは既に死んでるってボケはもう言いません。

 

 

 

 

 

 

では、何故御札が奪われるかというと…。あれ、とんでもない代物なのだ。

 

 

あれの表面に書かれている文字や図、それらは全て、複雑な呪術式や魔術陣、仙術紋。私でも簡単には読み解けないレベル。

 

 

要は様々な魔法が組み合わさっている、魔力の塊なのである。 そのまま武器に貼り付けて強化良し、解いて防具に編み込んで良し、溶かして魔法薬の材料に良し…。 なんでもござれ。

 

 

故によく狙われるし、高価。 だから盗賊達にとって、街の金品や骨董品、職人芸の装飾品などを凌ぐほどの標的なのだ。

 

 

 

 

 

一応、簡単に剥がされないようになっているみたいだけど…。それでも力自慢に思いっきり引っ張られたら取れてしまうらしい。

 

 

べったり貼り付けたらどうかって? 多分それでも剥がそうとする輩は現れるだろう。その場合、剥がしやすい方が肉体への損傷が少なくて済むはず。

 

 

 

あと、キョンシーたち…御札をファッションアイテムに使ってる節がある。おでこに貼ったり、帽子に貼ったり、チェンリンさんみたいに髪飾り風にしたり。結構楽しんでるみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな切実な悩みなのだが…どうやら社長に策ありな様子。

 

 

 

「それも良い案があります! 狙われるのは新人キョンシーばかりでしたよね?」

 

 

(シー)。そうアル。まだ身体が硬い子達が狙われるネ。 クンフーが足りてないから、盗賊達の素早い動きに対応できないネ」

 

 

 

頷くチェンリンさん。すると社長はふふんと、自分の着ている道士服の腕を叩いた。

 

 

「それなら寧ろ好都合かもしれません! 新人キョンシーたちの身体の硬さを活かして、道士服の袖の、ダボダボのところに入っちゃうんです!」

 

 

 

 

 

 

「そんなこと出来るアルか!?」

 

 

「はい! さっきのキョンシー兵の方で試させていただきました! 結構ひんやりしてて心地よかったですよ!」

 

 

仰天チェンリンさんにそう語る社長。先程の長城の調査の際、そんなこともしていたらしい。

 

 

でも、確かに良い案かも。腕をほぼ動かせないほどに硬ければ、袖に潜んでいても邪魔にはならないだろうし。潜むミミックもまた、変に振り回される心配がないのだから。

 

 

 

 

「後は帽子なり、それこそチェンリンさんが身につけているシニョンカバーの中とか! 無論、お嫌じゃなければですけど―」

 

 

「素晴らしいネ! 是非お願いするアル!」

 

 

食い気味に目を輝かせるチェンリンさん。社長はにっこりと。

 

 

 

「良かったです! なら、盗賊達に『孔明の罠』を…もとい、ミミックの罠を存分に味合わせて見せましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トコロデ! 社長サン……かなーり、強いデショ?」

 

 

記入し終えた契約書を頂いた際である。チェンリンさんは突然にそう振ってきた。

 

 

 

…私、気づいてしまった。チェンリンさんの瞳…それが、客とか商談相手とかを見る目じゃなく…『強敵』を見る戦士の目になってることに…。

 

 

 

 

「アタシ、元々冒険者だったネ。 それも、腕利き格闘家として有名な。 けど、ミミックに煮え湯を飲まされたこと、幾度もあるネ。 アルアルネ!」

 

 

だからミミック達を味方につけられて嬉しいヨ! と、笑うチェンリンさん。そしてやはり、戦士の目を社長へ。

 

 

 

「そんなアタシの勘が告げテル。 社長サン、どのミミックよりも強いネ…! アストサンも強そうだけど…社長サンはそれの何倍も…! ウウン、アタシが今まで見てきた魔物の、誰よりモ…!」

 

 

―どうやら本当に腕利きであったのだろう。ぱっと見、ミミック少女でしかない社長の強さを一目で見極めるとは。

 

 

 

「アタシ、キョンシーになれてから更に修行重ねたネ! クンフーと我流戦闘法を組み合わせた新技も編み出したヨ!」

 

 

そう言いつつ自らの手をパキパキと鳴らし、若干あらぬ方向へと曲げストレッチをしだしたチェンリンさん。彼女は社長へと頼み込んだ。

 

 

「お願いアル! この場でアタシと戦って欲しいネ! 勿論、手加減なしで!」

 

 

 

それに対する、社長の返事は――。

 

 

「良いですよ! やりましょう! ストリートファイト!」

 

 

 

―いつもの如く、二つ返事である。  私は端っこで…いや、背景に潜むようにして、応援でもしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長城の細めの道がファイト舞台となり、いざ試合準備。…ステージ的に、横スクロール感が凄い。

 

 

 

「コォォ…! ハァアアア…!!」

 

 

気を溜めるように呼吸を制御するチェンリンさん。そして立ち姿も、全く隙の無い構えに。一方の社長は…。

 

 

 

「オルエ…サキュバスのあの子なら、キョンシーの相手って似合うんだろうけど…。 チェンリンさんは双子でも巨大な爪装備してるわけでもないし、そもそもヴァンパイア云々は関係ないしね~」

 

 

…まーた訳の分からないことを口にしている。 とはいえ、箱を動かし手を触手に変え戻しをして、やる気充分。

 

 

 

「アスト、合図おねがーい!」

 

 

そんな社長の命に従い、私は腕を旗代わりにあげ―。

 

 

「レディー…… FIGHT!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッッッ!!」

 

 

最初に動いたのは、チェンリンさん…へっ!?消え…!?

 

 

うわっ…!彼女がいた足元、長城の岩畳が、完全に踏み砕かれてる…!! しかも当の本人は、社長の目の前に…!!

 

 

 

どうやら長城を一足で飛び上がる脚力を活かし、刹那の内に社長へ肉薄せしめたらしい…! 強い…!!

 

 

 

 

 

「ハイヤァ…! ハイハイハイハイハイ!!!」

 

 

そして間髪入れず、自慢の脚での連続襲撃…ならぬ、蹴撃…!! 

 

 

およそ一度の蹴りさえあれば、普通の宝箱は破壊できるであろうほどの威力。それを多段に…ひゃ…百裂撃…!!?

 

 

その勢い、凄まじき…! しかも死後硬直を克服した彼女の蹴りは曲がりに曲がり、あらぬ方向から社長を滅多打ちにしていく…!!

 

 

 

 

 

――が、我らの社長を舐めてはいけない。確かに直撃をしているが…ダメージはほぼ無いはず。なにせ…。

 

 

「宝箱ガード! 中々強いキックですけど、効きませんよ~!」

 

 

箱に閉じこもって防御を固めているのだ。そして隙を突き―。

 

 

「そりゃっ!!」

 

 

触手を伸ばし、チェンリンさんの身体を捕える。そして自ら跳ね上がり、チェンリンさんの頭上を越え…!

 

 

「投げ技でぇ…ドーン!」

 

 

背へと回したチェンリンさんを投げ飛ばすように、叩きつける。 わっ…!ホントに手加減なし…!また石畳が砕けて…!!

 

 

 

 

 

 

 

そんな一撃を食らって、チェンリンさんはダウンか…? あ! しっかり受け身をとってた! そして社長の拘束を解いて立ち上がり構えた!

 

 

 

「流石ネ…! 開幕で決める気だったのニ…!」

 

 

「ふっふ~! 中々手強い蹴りですね~! 全方向から蹴りが飛んでくるなんて、びっくりです!」

 

 

お世辞抜きで褒め称える社長。と、俄かに手を幾本もの触手に変えて…。

 

 

 

「でも…私も体の柔らかさなら、負けませんよ~!! 火は吹けませんけど、ヨガを凌ぐ伸び技、お見せしましょう!」

 

 

そう宣戦布告。 チェンリンさんも実に楽しそうな笑顔を浮かべ、再度ファイト再開―!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンハ! セイヤ! ハアアアッ!!」

 

 

「なんの! おっと! そりゃりゃりゃ!!」

 

 

 

互いにコマンド…じゃない。技を繰り出し、熾烈なる闘いを続けるチェンリンさんと社長。その手に汗握る死闘に、私も思わず興奮してしまう。

 

 

因みに…その戦闘音を聞きつけたらしく、長城の警備兵や街の人達も結構集まってきた。バトルの邪魔になるので私が全員を浮遊させ、安全なところで応援中。

 

 

 

 

 

 

 

――そんな中、チェンリンさんが大きめに距離をとった。そして息切れしながらも、今まで出したことのない構えを。

 

 

 

「こんなに強いナンテ…! アタシ、このままだと負けるアルネ…! だから…必殺技を使うネ!」

 

 

 

―と、チェンリンさんの周りに何かが集まっていく…!? 殺意すら感じられる、赤黒い波動のような…!しかも瞳は朱く光を放ち、頭のお札も剥がれかけて…!!

 

 

 

 

「あれは…! 危険! みんな、離れろ!」

 

 

「巻き込まれるっ!」

 

 

 

それを見た観戦キョンシーたちが、突然に慌て出す。 確かにアレは嫌な予感がする…! とりあえず、観客席に被害が出ないようにバリアを張って…!!

 

 

 

 

「社長サン! いくアルヨ!」

 

 

「えぇ! 『余裕っす!』 と煽っておこうかしら!」

 

 

 

そんなことを言いつつも、社長も真剣な表情で構える。チェンリンさんはにやりと微笑み――。

 

 

 

 

「カアッッ!!」

 

 

 

 

ゴワォッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

!? 瞬間、チェンリンさんが両手より打ち出したのは、巨大な衝撃球…!? いや、もしや気功波というやつ…!?

 

 

それは砲弾を超える速度で、落下防止用の煉瓦壁の悉くを砕いて突き進む…! そしてすぐさま社長へ直撃…!!

 

 

 

「おぉおおっ~…!! これはっ…凄い…!」

 

 

なんとか受ける社長。 ――しかし…チェンリンさんの必殺技はこれではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「隙あり! ここが勝機ネ!」

 

 

なんと、あの大技は…ただ社長を怯ませるだけの技…!? 即座に社長へ再接近していたチェンリンさんは、身体を翻し、足を上に向け―!!

 

 

 

 

「必殺! 『(スピニング)鳳凰(バード)(キック)』ッ!!」

 

 

 

 

 

開いた両足を、竜巻の如く疾風怒濤の回転…! 先の百裂撃など目ではないほどの勢力と波動…!! 彼女の周囲の瓦礫は、砂塵と化して…!!!

 

 

 

 

バキッッ!

 

 

 

 

っえ…? うそっ!?  私の張ったバリアに…斬られたようなヒビが!? まさか…! あの必殺技の余波!?

 

 

結構離れているし、バリアも結構強いの張ったのに…!! …って! ちょっと奥にある長城の建物の壁にも、破壊痕が!!

 

 

 

 

「マズいね! チェンリン、止めるね! 長城が崩壊するね!」

 

 

「駄目…! 波動に呑まれて、聞こえてない…!」

 

 

「あのままだと…身体が崩れるまで暴走するかも…!」

 

 

 

叫ぶキョンシーたち。けど、チェンリンさんには聞こえていない様子。私がなんとかするべきか…!

 

 

 

――…! あれは…!!

 

 

 

 

 

 

 

「肉体の死後硬直は無くなっても…! 1F(フレーム)の硬直は残ってますね~! なんて!」

 

 

…社長!! チェンリンさんが気功波から必殺技に移るほんの僅かな隙を突いて、またもガードを成功させていたらしい…!

 

 

 

 

「そろそろ…こっちの必殺技の番でーす!!」

 

 

―! 社長が、動いた…! おぉっ!!

 

 

 

 

 

 

社長が…! (チェンリンさんを)捕まえてっ!

 

 

社長が…! (チェンリンさんを)画面端…じゃない、道端にぃっ!

 

 

チェンリンさんの抵抗を読んで…! まだ入るっっ!

 

 

 

社長が…!  ―ッ近づいてっっ!! …えっ? 瞬間的に箱から出て、箱を掴んで…!?

 

 

「ひっさーつ…! 『(しょう)(りゅう)(けーん)』っっ!!」

 

 

 

 

―――社長がっ…! 決めたぁぁっっっっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイヤぁぁっ…!  ヤぁっ…  ヤぁっ…  ヤぁっ……」

 

 

 

…なんかエコー残して、やけにスローモーションで吹っ飛ばされるチェンリンさん。そのまま床にべしゃり。

 

 

「くぅううっ!!  アタシの負けアル…!!」

 

 

あ。すぐに飛び起きて悔しそうに。剥がれかけていたお札を直し…何故か再度構えた。

 

 

 

「社長サン! もうひとラウンド! もうひとラウンドお願いネ!」

 

 

「コンティニューですね! 受けて立ちましょう!!」

 

 

 

 

……そして、また楽し気にぶつかり合う両者……。 …なんと言えばいいやら…。

 

 

 

 

…とりあえずこの辺りの戦闘痕の修理が済むまでは、ミミック多めに配置できるように取り計らっておこう……。

 

 

 

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