ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
魔物側 社長秘書アストの日誌
―――では今宵も、私アストが、ひとつの物語を紡がせていただきましょう。
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しかしその場にありながら、寂寞の
昼間の太陽を内に仕舞いこんだかのように煌々と。宝石や金のように爛々と。
そんな賑わいと輝きを放つは、とある城。『アラビアンダンジョン』とも呼ばれる、巨大宮殿。
その不夜なる
その
不可思議な場ゆえ、蜃気楼をお疑いでしょう。又は、幻想幻惑の類ではないかと。
ご安心くださいませ、確かに存在いたします。昼夜問わず、
即ちそれは、そのダンジョンを営む『誰か』がいるということを示します。
ただしそこに居るのは王でも皇帝でもない、一風変わった者達でありました。
その種族名を、『ジン』。 精霊の一種にございます。
彼らは人の姿を取っておりますが、その身は煙のようなもの。変幻自在に等しく、ランプを服とし、宮殿内を漂い戯れておるのです。
また、彼らは人懐こい性格。訪れた人々と語らい、遊び、知恵を貸し、時には力を与えてくれもします。
中には悪戯好きなジンもおるようですが…それはご愛敬というもの。 一宿の礼として甘んじて受けるのも、また存外楽しいものでしょう。
さて、そんなアラビアンダンジョンなのですが…。どうやら、ある秘密を孕んでいるご様子。
なんでも宮殿の何処かには、数多のジンたちを全て従え、神に等しい権能を持つ存在である魔神…ならぬ、『マジン』へ至る方法があると―。
そしてその力を手に入れることができたならば、全ての欲望を叶えることができる、何不自由ない栄耀栄華な暮らしができると――。
――そのような噂が、まことしやかに囁かれているのでございます。
真偽の一切は闇の中。しかしそれを信じた強欲なる冒険者達は、日夜ジンたちの目を盗み、
時に協力し合い、時に蹴落とし合い。時に利用し合い、時に奪い合い―。
およそ美しき御殿には相応しくない、腐り汚れた私利私欲の応酬。ダンジョン主がそんな『人』ではなく、『精霊』であるのも頷けてしまうほどに。
なお、未だ『マジン』へと至れた者はおりませぬが…。
まるで、砂漠の中に落ちた砂金を探すように……。
いいえ、いいえ。それこそまさに、蜃気楼を追うように――――。
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…これにて、此度はおしまい。『千夜に渡る物語』―。これもまた、それに加わる一夜のお話。
『
「――と。…こんな感じでどうでしょうか…?」
柔らかで緻密な模様の絨毯の上に腰を下ろしたまま、広げていた
「凄いすごーい! 私達の現状が、立派な物語になっちゃったわ!」
「ちょっとコツを伝えただけだったのにな…! アストさん、語り部の才能あるよ!」
パチパチと拍手をしてくれるのは、私の前に並べられた様々な形のランプ……。
ではなく、そこから煙のような姿を出している精霊、『ジン』たちである。
そう―。今しがた語ったお話は、全部真実。私と社長はその『アラビアンダンジョン』を訪問しているのだ。
では改めて、依頼主である彼らの紹介を。
先の物語通り、煙のような姿をしているジンは、本当にランプに入ってふわふわ浮いている。それ故、一部では『ランプの精』と呼ばれることも。
なおそのランプの形は、ソースポットや水差しのような形の『オイルランプ』というもの。色や大きさ、装飾は様々だが、どれもこれも凝っている。
そしてそれの、油を注ぐ大きめの穴から、蓋を頭に乗せる形でひょっこり。火をつけるための小さい穴から、煙の身体を活かしてするり。
……なんか、ミミックに似ているかも?
因みに、先程私を『凄い!』って褒めてくださったのが、女ジンの『シェヘラ』さん。
『語り部の才能がある』と言ってくださったのが、男ジンの『ザード』さん。
そんなお二人が、ジン代表の依頼主である。
あ、そうそう。さっきのお話で『ジンはランプを服にしている』的なことを言ったのだけど…。正確には違う。
彼ら、変幻自在なのを活かして、服を作り出して纏っているのだ。しかも、砂漠の地に相応しい衣装。
男精霊はターバンっぽいのを被り、前を閉めない緩めのチョッキと、ダボつき膨らんでいる白いズボン。
女精霊は透けたベールのついたヘッドドレスで、薄手でゆったりなへそ出しトップスと、同じく薄手な長めヒップスカーフ。
そしてどちらにも、各所にキラキラと輝く装飾品が。 確かに、この立派な宮殿の主に相応しい恰好である。
因みに女精霊の方の衣装は、以前訪ねた『くねくねダンジョン』のラミアたちと似ている…と思ってたら、交流があるらしい。ダンス友達だとかなんとか。
どうやら、それで我が社に依頼してきてくださったご様子。そういえばあそこ、ここから近かった気がするし。
……で、そのことをジンの皆さんに話したら…。その服がちょっと気になってたということがバレてしまって…。『ジンの悪戯』を受けてしまった…。
…はい…。私も着させられている…。そのアラビアン衣装…。いや、綺麗だし涼しいしで不満はないのだけど。寧ろ、嬉しいぐらい。
ま、お話の通り、ジンの悪戯を甘んじて受けるのも一興ということで。
さて、では肝心の依頼内容はというと…。冒頭の物語は実話。つまり、そういうこと。
真偽不明の噂、魔神…じゃない『マジンへなれる方法』。因みにシェヘラさん達曰く、そんな代物は存在しないらしい。
しかし…欲深にもそれを信じた冒険者達が、忍び込んできて暴れまくっているのである。
なにぶん砂漠を通る者達のオアシスとして存在するダンジョンなだけに、来訪者はかなり多い。
それに商団の護衛などに参加している冒険者もいるので、拒否するわけにもいかない。
そしてそんな人々に紛れて、悪い連中も入ってきてしまうらしいのだ。
しかしジンたちの性格上、来客を拒む気はないらしい。だけど壁や床を壊されたり、壺や絨毯を汚されるのは困ってしまう。
そして自分達で手を下すのも躊躇われるため、我が社に派遣依頼をしてくださったのである。
因みに、もう商談は成立済み。だからさっきみたいに、語り部の真似をして遊ばせてもらっていたのだけど……―。
―…へ? どうしてそんなことしてるのかって? そう言われましても…。ただシェヘラさん達に誘われたからとしか…。
えっと…。 一応、突然に物語を紡いだのには、理由がある。
またまたさっきのお話の内容についてだが、ジンたちは『来訪者たちと語らう』のだ。
勿論それは歓談という意味合いなのだけど…。実は、もう一側面ある。
聞いたことがあるだろうか。『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』。
千夜一夜物語とも言われている、
実はその物語を作り、語り広めたのは…彼らジンたちなのである。
元はここを利用する者達が、お礼の一つとして話した各地の出来事や逸話らしい。
ジンたちはそれを集め、独自に面白く改変し、訪れた者達に子守唄代わりとして話してあげているのだ。
今ではジンの持つ幻想的な、文字通り燻る身体と声に魅了され、お話を聞くためだけに訪ねてくる者もいるとか。
そして、吟遊詩人を始めとした者達が、更に各地に広めていっているのである。
因みに。その作ったお話の中に、魔神のお話とかもあったらしく…。多分それがどこかで広まって、いつの間にやら真実扱いされたのかもしれない。
そもそもジン自体、魔法で結構色んなことができる存在。この宮殿ダンジョンを建てたのも、彼らなのだから。
空飛ぶ絨毯や豪勢な料理、長いパレード召喚とかも、アブラカダブラお茶の子さいさい。
ただし願いは3つだけ……ということもない。けど、やってくれるかはジンの気分次第ではある。あまり大きな力の行使は、当然疲れちゃうみたいだから。
もし大それた願いを彼らに頼みたかったら、『
勿論、主従契約とか無しで。
だいぶ話が逸れてしまった。――ということで、シェヘラさん達に『お話を作ってみない?』って誘われたのだ。
今まで体験してきた色んなことを話してもよかったのだけど…まずは小手調べ的に、このダンジョンの現状をそれっぽく仕立てあげてみたのである。
あとは話し方のコツとかを聞いて、即興仕立てで披露―。というのが事の顛末。
ジンたちも、自分の置かれている状況を物語にする発想は無かったらしく、目とランプを輝かせて聞いてくれた。ちょっと嬉しい。
すると、シェヘラさんとザードさんがにっこり顔を見合わせて……。
「早速これも、レパートリーに加えちゃいましょう!」
「賛成だ! 貰ってもいいかい?アストさん」
「へ!? は、はい…!」
……加わっちゃった…。本当に千夜の中の一夜に…!
事実を並べただけとはいえ…私の作ったお話が、もしかしたらどこかで語られる……。
…なんかちょっと、こそばゆい……!
――けど、『語り部の才がある』って言われてよかった。だってほら、私、こんな風に各地のダンジョンでの体験を語っているのだから。
メタい? はて、なんのことやら……。
ところで…社長はどうしているかって? 勿論、他のジンたちと遊んでいる。
社長、どちらかと言わなくとも、悪戯っ子気質。ということで――。
「そらどけ ホラどけ じゃまだ♪」
「おい コラ♪ 社長の おなりだ♪」
「偉い方のお通りだ~♪」
――同じ悪戯好きのジンたちとともに、休息している来訪者たちから借りた(ほぼ無断)ラクダたちに乗ってバタバタのっしのっし練り歩いている…。
もはや勝手にパレードしているレベル。ラクダのコブの上にランプがちょこんと乗ってるのはちょっとシュール。
なおそんな社長も、既に
そして服は、何故か男装なんだけど…。閉じないチョッキだから、なんか色々危ない気が…。
……というか流石に…。
「その子達、いい加減返してあげてください…。 ほら、商人の方々、不安そうにこちら見てるじゃないですか」
「アストさんの言う通り! もう頃合いでしょ?」
「充分堪能しただろう?」
「「「え~!!」」」
私とシェヘラさん&ザードさんがそう叱ると、社長達はすっごく残念そうな顔を浮かべたのであった。
でもすぐ返却してくれたけど。
――と、そのすぐ後。シェヘラさん達がラクダの代わりにと、あるものを貸してくれた。
「ひゃ~! 風が気持ちいいわね~!」
「ですね~! それに、結構安定感ありますね。そんなに厚いものじゃないのに」
空の上で、社長と私ははしゃいでしまう。何に乗っているかというと…あの、空飛ぶ絨毯である。
…というかこれ、さっきまで私が座っていたやつ。突然アブラカダブラを唱えられ、絨毯が浮かび上がった時はびっくりしてしまった。
目を輝かせた社長も勢いよく飛び乗って来たのだけど…柔らかな絨毯なのに、たわむことも折れることもへこたれることもなかった。
そして私達を乗せ、見事に空中まで浮かび上がってくれたのである。
宮殿の放つ灯りを背に、ダイヤモンドのような星がきらめく紺色の夜を駆けるのは中々に心地よい。
自分の羽では堪能できない、座りながらの飛行を堪能していると―。ランプ入りの社長が、私の膝の上にぴょいんと。
「景色もいい感じ! 地平線までが一面の砂の中、豪奢な宮殿が堂々と聳えているって…なんか世界が違うみたい」
ほうっと息を吐いた社長。すると、私に身体を委ねながら、こちらを見上げてきた。
「プリンセス、どう? 私の秘書になってくれてから『
「へ!? プリンセス…!? 世界…!?」
妙な一言に、私はどぎまぎしてしまう。すると社長はケラケラと笑った。
「『公爵閣下の
「ど、どうしたんですか突然…?」
なにか悪いものでも食べたのか、それとも悪戯好きのジンに憑りつかれたのか。やけにしっとりとした雰囲気の社長に、そう聞いてしまう。
すると社長は被っていたターバン風帽子を外しつつ、少し
「ふふっ。こうして二人きりで魔法の絨毯に乗ってたら、ちょっとセンチな気分になっちゃって。いえ、ロマンチックて言うべきかしら」
そしてそのまま、私の言葉を待つように。 いじらしさすら感じられるように。
―――なら、答えましょう。私の想いを。
「えぇ。沢山。新しい世界も、抑えきれないときめきも。社長が見せて、教えてくださいました」
社長を後ろから抱き留めるように、ぎゅっと。そして、駄目押しにもう一言。
「まさに流れ星のように夢に満ちた、あっという間な日々です。――そしてどうぞ、このまま、いつまでも」
そう告げると、社長は顔を俄かに輝かせ――。
「ありがと…アスト…! これからも二人で一緒に、明日を…素敵な世界を、見つめていきましょう…!」
「えぇ、王子様。―もとい、ミミン社長♪」
―……。そう会話は終えたのだけど…。…なんか…恥ずかしい…。
露出の多い、薄手の服を着ているのに熱くなってきちゃった…。夜だからかなり寒くもあるはずなのに…。
そして、それは社長もおんなじらしく…耳を赤くしながら――。
「ねぇアスト…。さっきやってたらしい語り部口調で、ちょっと『お話』を〆てくれないかしら…?」
―そんな無茶振りを。うーん、語り部っぽく…語り部っぽく……。
―コホン。
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ジンの想いを受けた、ミミック達の活躍。社長と私の、2人だけの『願い事』。
それらが真となることを願い、月明りの下、栞を挟むことにいたしましょう――――。
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…………なんか、更に、すごくキザっぽくなった気がするぅ……。
社長は…。…嬉しそうに顔を綻ばせている。 ま、ならいっか―。