ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№54 『ピエロの遊園地ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

―ガタン  ガタン  ガタン

 

 

 

……と、音と振動が身を包む。私は乗せた乗り物は、それを意に介することなく平然と、ゆっくりと動き続けて…。

 

 

「…アスト? おーいアスト?」

 

 

…真横の席から、社長の声が。ちょんちょんと肩を突かれ、私は声を絞り出す。

 

 

「な、なんでしょう…社長…?」

 

 

「いくら初体験だからって、そんなビビらなくてもいいじゃない」

 

 

少し呆れたように肩を竦める社長。と、ツッコミを入れてきた。

 

 

「だいたい、あなた飛べるじゃないのよ! なのにこういう系、ちょこちょこ怖がるわよね。なんで?」

 

 

 

 

 

いや、なんでと言われましても……。ちらりと周りを見ると、既にここは、かなり()()()()

 

 

ちょっとその様子にゾクッとなりながら、社長に釈明する。

 

 

「落ちて、羽が動かせなかったら『ぐしゃっ』じゃないですか…! この状況ですし…!」

 

 

「似たこと、今までのダンジョン訪問で何回もあったじゃない。しかも、こんなのより何倍も高いの」

 

 

 

うっ…! それは…そうだけど…。特に、空を飛べる魔物のダンジョンに訪問した時とかは…。身体をがっちり掴まれて、雲よりも高い場所とかに…。

 

 

け、けど…!!

 

 

「それとは違うじゃないですか! ああいった時は、皆さん大切に扱ってくださいましたけど…!」

 

 

―そう、誰も彼も、私達を労わるようにして運んでくれた。だけど、『これ』は違う。だって…!!

 

 

 

 

「これは、『わざと』地面すれすれまで落下するじゃないですかぁ…!」

 

 

 

 

「そりゃそうでしょ。『ジェットコースター』なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何言ってんの?』みたいな感じで返されてしまった…。確かに、そりゃそうですけど……。

 

 

 

…私と社長が今乗っているのは、ジェットコースターという乗り物。アトラクションの一つ。

 

 

連結トロッコみたいな『コースター』に高いところまで連れてかれ、一気に落下するアレである。私、初めて乗ったのだけど。

 

 

 

巷では『絶叫マシン』と言われているらしいが…。…なるほど…まだ頂点に達していないのに、既に怖い…。

 

 

 

 

何が怖いかって、羽も動かせないほどにバーで固定されていること。これは落下時に吹っ飛ばされないようにするためらしいのだけど…。

 

 

飛べる能力があるのに、それを封じられて何もできないというのがほんとに怖いのだ…! これは多分、羽の生えている種族にしかわからないだろうけども……。

 

 

 

 

因みに社長は、ワクワク顔。…まあ雲の上から落下しようが、箱に籠れば無傷の(ミミック)だし…。

 

 

 

 

 

あぁ…!そんな間に、とうとう頂点に…! 私に出来ることは、身体を押さえるバーを信じ、それをがっしり掴むことだけ…―。

 

 

「な~にバー掴んでるのアスト! 手、離しなさいな!」

 

 

へっ!? 社長が手を触手にして…バーを握る私の手を剥がしてきた!?!?

 

 

 

「な、何するんですか!!?」

 

 

「落下時、両手を万歳して楽しむのが『通』ってものよ! 写真映りも良いし!」

 

 

「写真…!? や、ちょっ…! 待っ…!」

 

 

「一回味わえば病みつきよ! ほ~らええじゃないかええじゃないか!」

 

 

 

 

にゅるんにゅるんと絡みついてくる社長の手に引きずられ、私の手はバーから外されてしまう…!

 

 

――そして、その直後。 コースターは一際大きくガタンと音を立て……真っ(さか)…!

 

 

 

 

ガタタタタタタタタタタタッッッ!!

 

 

 

 

「ひゃあああああああああああああッッッッッ!?!?」

 

「ひゃっほーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…って、怖がってたのが嘘みたいね」

 

 

「もう…!蒸し返さないでくださいよ! それより社長、あっちのジェットコースター、乗りに行きましょう!」

 

 

 

気づけば私はマップを握りしめるようにし、社長を抱えて目を輝かせていた。 だって…楽しすぎる…!

 

 

あんなドキドキするものだとは、思わなかった…! バーで固定されているからこその、圧迫感と浮遊感、そしてスリル…! 癖になりそう…!!

 

 

 

 

しかもここ、ジェットコースター数種の他にも、ここには色んなアトラクションが沢山…!

 

コーヒーカップやメリーゴーランド、迷路やお化け屋敷や観覧車、ウォーターライドにフリーフォール…!etcetc…!!

 

 

 

どれ乗っても良いんだし、何回でも乗れてしまう…! 喉が渇いたらジュースが売っているし、お腹が空いたらハンバーガーやポップコーンの屋台もある…!

 

 

 

凄い凄い…!! これが、『遊園地ダンジョン』…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あ。コホン…。 えっと、一応私達、依頼を受けてここへやってきたのだ。

 

 

 

ここは『遊園地ダンジョン』と呼ばれている場所。アトラクションが豊富で、危険はなく、人魔問わずに解放されている人気のダンジョンである。

 

 

 

私達はまず裏の控室とかにお邪魔させてもらい、派遣可能かの調査を。それが完了したため、表に赴こうとしていたのだけど―。

 

 

そうしたら、ダンジョン主の方々から『楽しんでって!』ってフリーパスを貰ってしまって…。ご厚意に甘えさせてもらったのである。

 

 

 

結果、年甲斐もなくはしゃいでしまって…。…あ! チュロス売ってる! 買っちゃお!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―その後暫く、様々なアトラクションを堪能させてもらった。まあ実際、『暫く』なんて感じないぐらい、あっという間の時間経過だったのだけど。

 

 

 

ジェットコースターには何回も乗ったし、水にバシャンって落ちるウォータースライダーにも乗った。

 

 

あと、あの落下感が忘れられなくなっちゃって、高いところから一気に落ちるフリーフォールにも。

 

 

 

いやほんと、病みつき。自分の羽でやっても、ああはならないんだもの。 やろうと思えばあの感覚、魔法で再現できなくはないけど…。

 

 

多分、それはなんか違う。楽しくない。専用のアトラクションだから面白いのと、社長と一緒に乗るから良いのだと思う。

 

 

 

 

他にも、迷路とかお化け屋敷とかでも遊ばせてもらった。他のダンジョンでもっと規模が大きい代物を体験してはいたけど…。場所が変わればまた新鮮なもの。

 

 

因みに社長だが―。迷路では、能力で道だいたい把握できるからって、私が迷う姿をにやにやしながらだんまりを決め込んでた。

 

 

そしてお化け屋敷では、いつの間にか私の腕からするりと降りていて、お化けに混じって驚かせてもきた。それで変な声あげてしまった……。

 

 

 

 

 

因みにそんな社長によって、随一のスリルを獲得したアトラクションがあった。それは、『コーヒーカップ』。

 

 

 

巨人族が使いそうなサイズのカップを模した乗り物が、ぐるぐる回転するあのアトラクション。あれで、社長が暴走した。

 

 

 

具体的に言うと、そのコーヒーカップを『箱』に見立て、回転速度を上げるハンドルを勢いよく回し出したのである。

 

 

そしたら、明らかに乗り物の限界速度を超えて回転しだしたのだ。他が優しく回ってる中、私達のだけ超高速に。

 

 

固定するバーもベルトもないから、遠心力で外に吹き飛ばされるとこだった…! 社長が触手で押さえててくれたけども…!一番怖かった…!

 

 

 

なお社長、『観覧車のゴンドラも、同じ要領で縦回転させられるわよ!』とも言っていた。流石にそれは遠慮を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とはいえ、まだまだ遊べてしまう。カチューシャやポップコーンバケットを身につけ、次はどこ行こうか悩んでいたら…。

 

 

「お。 アスト、すとーっぷ!  依頼主の方がお見えになったわよ」

 

 

社長にブレーキをかけられ、私はハッと姿勢を正す。と、それと同時に―。

 

 

 

 

「ハハッ☆ここは遊園地!みーんな友達! だから、そんなに畏まらないでヨ!」

 

 

 

 

スキップしつつふわりと現れたのは、(マウス)の耳…は全く関係ない、カラフルアフロと数股に分かれた帽子を被った方。

 

 

服もその髪と同じように色とりどりで、かなりぶかぶかなのがわかるサイズ。靴なんて、明らかに数サイズは大きい。

 

 

そして極めつけは、そのお顔。くまなく塗った白粉(おしろい)の上に、やっぱり派手な色遣いで、『面白い化粧(フェイスペイント)』をしている。そして真ん中には、真っ赤で大きい丸付け鼻。

 

 

 

 

もう分かった方もいるのではないだろうか。彼らは『ピエロ』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ピエロは『道化師』であって、誰かの仮装だろうって? 私もそうだと思っていた。

 

 

というか、この世にいるピエロの十中八九はそれで当たっているはず。人間なり魔物なり、何者かがメイクして、道化を演じているのが常識。

 

 

実際、この遊園地ダンジョンにも、そんな人達はいる。人間ピエロだったり、エルフピエロやドワーフピエロ、獣人ピエロや悪魔族ピエロとかも見かけた。

 

 

 

メーキャップの濃さとか模様とか、髪や服の装いは様々だけど、皆おどけて、来園客を楽しませている。

 

 

 

 

……の、だけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この依頼主の方…『コルロッフォ』さんを始めとした、何割かのピエロ面子は、なんというか…その…えーと…。

 

 

 

 

……包み隠さず、そのまま言おう。『正体が掴めない』のである。

 

 

 

 

 

 

 

いや別に、悪い意味ではないのだ。纏ってる雰囲気も朗らかで優しいものだし、常にステップを刻み、ひと動作ごとがやけに大振りな姿も、見ていて楽しくなる。

 

 

 

私としても全く嫌な気は感じず、社長も『良い人達ね!』とお墨付きをだした。相手(クライアント)の本性をしっかり見極めることができる社長がそう言うんだから、間違いない。

 

 

 

事実、ちょこちょこ様子を見ていた限りでは、老若男女誰にも優しく接していた。皆を楽しませ、笑って貰えるのが何より嬉しいと言うように。

 

 

 

 

 

 

 

だから、別に問題はない。ただ、本当に、正体がわからないだけなのである。

 

 

 

どうにも妙なのだ。何かの種族が仮装している…というわけでもなさそう。感覚なのだけど…人間族でもない気がする。

 

 

それに、見たことのない魔法を使いもする。背中に手を入れパッと風船を取り出してきたり、少し余所見をしていただけで、ワープしたみたいに遠いところにいたり。

 

 

 

更に…分身でもしているのか、同じような化粧のピエロがあちこちにいたり。…いや、ピエロのメーキャップが似ているだけかな…?

 

 

 

そして、突然に来園客に向け、見えない壁を作ってみせたり……それはパントマイムか…。

 

 

 

 

 

 

 

まあとにかく、正体が不明。流石に気になって、私、聞いてみたのだ。

 

 

そしたら、『ナ・イ・ショ☆』ってウインクされて躱されてしまった。他にもそれとなく質問をしたのだけど、ぜーんぶ鮮やかに回避を。

 

 

 

 

因みに。何故か社長、コルロッフォさんに靴のサイズを聞いていた。すると、返ってきた回答は…。

 

 

『ハンバーガー四個分だヨ☆』

 

 

って、絶妙にわかりにくい、メルヘンチックな尺度で示された…。夢を壊さないように徹底しているのは流石かもしれない。

 

 

 

…もしかしたらその正体は、異星人とか異次元生命体とかなのかも…? 

 

 

――ま、深く考えないのが吉なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボクたちの遊園地ダンジョン! 2人共、楽しんでくれてるカナー?」

 

 

「「はい! すっごく楽しいです!!」」

 

 

腰に手をあて、大仰な動作で顔ごと耳をこちらに向けてくるコルロッフォさんに、私と社長は同時に答える。

 

 

すると彼(多分?)は満面の笑みを浮かべてくださった。

 

 

「うんうん♪  ありがとアリガトー!  それだけ喜んでくれると、ボクたちも嬉しいヨ!」

 

 

 

そして指をパチン。それを合図にどこからか、小気味よい音楽が。…さらに、他のピエロも数人…!?

 

 

彼らは音楽に合わせ軽やかにダンシングし、ジャンジャン♪と揃ってお礼の決めポーズ。私達は思わず絶賛の拍手。

 

 

 

わ! そしたらピエロたち再度一礼をし、コルロッフォさん以外がスキップで何処かに去っていった…!これはお見事…!

 

 

 

 

「まだまだ楽しんでいってネ☆ それじゃ、また!」

 

 

そして、コルロッフォさんもくるんくるん回転しながら何処かへ…―と、社長が彼を呼び止めた。

 

 

 

「コルロッフォさん、ちょっとお待ちを!」

 

 

「待て! と言われて、待つ者はいないヨ~! な~んて! 冗☆談!」

 

 

 

 

 

大きく一回転し、ピタリと止まったコルロッフォさん。そしてやっぱり身体を小刻みに動かしながら戻ってきてくださった。

 

 

「ボクに出来ることならな~んでも! さあどうぞ!」

 

 

そして紳士のような仕草で待機する彼。社長は自らの箱を漁り……。

 

 

「これをお渡ししときますね! …あ、これさっき買ったお土産お菓子じゃん…! こっちです!」

 

 

と、遊園地を楽しみまくってる証の奥から取り出したるは――。

 

 

 

「どうぞ! ミミック派遣の契約書です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シェー! シンジラレナーイ!! もうオッケー貰えちゃったノ!? ヤッター!」

 

 

妖星乱…じゃない、狂喜乱舞と言うように、独特のポーズをとるコルロッフォさん。社長もスマイルを。

 

 

「はい! この様子ならどこにでも潜めちゃいますし、ご依頼の件、しっかり果たせると思いますよ!」

 

 

「ワオ! 感謝感激! ボクたちがあんまり強く対処しちゃうと、皆怖がっちゃうから困ってたんダ~!」

 

 

「それに、うちにも陽気な子たちはいますので、キャストとしてお手伝いも出来るかもですよ!」

 

 

「アラー! ほんと!? ミミックって何でもできちゃうんダ! まさしく『切り札(The Joker)』だネ!」

 

 

 

ルンルンな様子で、コルロッフォさんは社長にお礼を。―そう、実はピエロの方々、とある問題に悩まされていたのだ。

 

 

 

 

 

 

それは、『悪漢達の迷惑行為』。ま、いつも通りといえばいつも通りである。

 

 

なにぶんここは人気なスポット。その分人も集まり、悪さする輩も増えてしまう。

 

 

 

例えば…ゴミをポイ捨てしたり、無理やりナンパしたり、カップルや家族連れに嫌がらせしたり。

 

 

酷いレベルでは、アトラクションを強制停止させたり、スリや暴力行為を働いたり、装飾品を壊したり。

 

 

更に更に、数量限定品の人形を盗んだり、ピエロの仮装を剥がそうとしたり…まあやりたい放題な様子。

 

 

 

 

 

勿論、ピエロたちも優しく注意したりと対応をしているが…。そんなんで効くわけないのが、そういう迷惑客。

 

 

一応、やり過ぎた者達には、『容赦なしのお仕置き』をしているらしいけど…。ピエロとして、出来る限りそんなことはしたくないのがコルロッフォさんたちの心情。

 

 

 

だって、笑いを提供する道化師である彼らが本気で怒り狂う様を見てしまったら…誰でも怖くなってしまう。

 

 

ひょうきんなイメージなんて容易く崩壊し、ピエロを恐怖する者達が続出してしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

皆を喜ばせることが大好きなコルロッフォさんたちにとって、それは死活問題。だからこその、ミミック派遣依頼。

 

 

ならばお任せあれ。誰にも見られぬうちに(箱の中)に引きずり込み、お仕置き代行を。場合によっては、復活魔法陣送りにも。

 

 

まさにピエロのように飄々と、道化師(ハーレクイン)のように暴れましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっという間に契約も済み、心置きなく遊園地を満喫。どうやらパレードとかもあるみたいだけど…時間的にまだみたい。

 

 

 

なら、乗ってないアトラクションへ向かうか、それとも楽しかったのをリピートするか。それとも軽食をとるかで悩んでいると……。丁度、とあるショーが開かれてるのを見つけた。

 

 

 

なにかというと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホワッホッホッホッ!! ボクちんに歯向かうやつは、み~んな黒焦げだじョ~!!」

 

 

―と、ステージに響き渡るは…明らかに悪そうだけど、どこか愛嬌のあるピエロっぽい着ぐるみの台詞。

 

 

 

 

「きゃ~! 皆気をつけてー! 悪い奴が出てきちゃった!」

 

 

―と、ちょっとわざとらしい感じの悲鳴と解説をするは、メーキャップが薄めのピエロお姉さん。

 

 

 

 

「待てい! 安心しろ!皆は俺が守ってやる! 必ずだ!」

 

 

―と、舞台袖から飛び出したのは、カッコいいスタイリッシュな…やっぱりピエロっぽい着ぐるみ。

 

 

 

 

「「「頑張ってー! やっちゃえー!」」」

 

 

―と、私達の座る客席からは、子供たちの歓声。

 

 

 

 

 

所謂、『ヒーローショー』というやつである。ちょっと覗いてみるだけだったのだが…案外、面白い。

 

 

特に社長、見た目少女なのも相まって、完全に溶け込んでるし…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タァッ! トリャッ!」

 

「エヒャ! ウヒョッ!」

 

 

戦い合うヒーローたち。着ぐるみなのに機敏なのは、中に入っているピエロの実力なのだろうか。

 

 

…というか声的に、あの悪役コルロッフォさんでは……?

 

 

 

 

 

ふと、そんな折。悪役(ヴィラン)の着ぐるみが、客席側を向いた。

 

 

「ククク…! こうなったら、誰かを人質にしちゃうゾ~!」

 

 

 

 

 

そんなことまで…! のしりのしりと客席に降りてくる悪役は、辺りを大振りな動きでキョロリキョロリ。

 

 

「ヘッヘッヘ~! ボクちんに捕まりたいのは誰かなァ~?」

 

 

 

手をワキワキさせ、誰かを選ぼうとしているが…。子供達みんな怖がっちゃって、顔を隠してしまった。

 

 

こんな場合、どうするのだろう…。 そう思っていると…。…あれ? こっち見て…。こっち来た!?

 

 

 

 

「宝箱に入ってる、君に決~めタ!」

 

 

「きゃー! 助けてアストー♡」

 

 

 

あぁ…! 社長が人質として捕まっちゃった……! いや確かに子供みたいな方だけど…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁどうする? これでお前は手出しできないだろウ!」

 

 

「くっ…!卑怯者め…!」

 

 

 

人質を抱え、ステージに戻った悪役。それに手出しが出来ず、窮するヒーロー。なお、当の人質本人(社長)は、悲劇のヒロインを演じてる(楽しんでいる)ご様子。

 

 

 

ただのショーだから笑って見てていいんだけど…。社長が囚われなんて滅多にないことだから、ちょっとドキドキ。

 

 

この後どうなるかを、固唾を呑んで見守っていると―。

 

 

 

 

 

「なら、これを受け取って!」

 

 

どこから取り出したのか、ピエロお姉さんが、お洒落で身長より長いステッキをヒーローへ。彼はそれをパシリと受け取ると、軽やかにクルクル回転させ、構えた。

 

 

「これは…! 必殺技が放てそうだ! ―けど、俺一人では、パワーが足りない…! 誰か、協力してくれ!」

 

 

 

そして今度は、ヒーローが観客へ協力を募る。…しかし、まだ怖いのか、それとも恥ずかしいのか、どの子も名乗り出ない。

 

 

ヒーローが近づいていって手を差し伸べても、みんな照れたように顔をぷいっと。どうやら今回集まった子供達は総じてシャイみたい。

 

 

 

 

―となると、さっきの流れ的に…。人質役の相方というのも使いやすいだろうし…。ほら、こっちみた…!

 

 

 

「そこの綺麗な、秘書の悪魔族お姉さん! どうか力を貸してくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ名指しを食らい、周りからも『頑張れお姉ちゃーん!』と応援されてしまえば、動かない訳にはいかない…!

 

 

こそばゆいながらも、舞台へ。そしてヒーローの横に並び立ち――。

 

 

「さあ、このステッキに一緒に力を籠めるんだ! お友達を…社長さんを助けるためニ!」

 

 

 

 

 

…へ? あれ、なんで社長が『社長』であることを…? そういえば、さっき私の事を『秘書』って…。

 

 

いやまあ、私達の来訪を知っているピエロたちなら知ってるかもだけど…。傍から見たら、種族違うとはいえ、姉妹、または親子?みたいな感じなのに…。

 

 

 

 

―ってあれ!? この魔力の感じ、この雰囲気……ヒーロー側もコルロッフォさん!?  嘘!?

 

 

声とか喋り方とか変えてるけど…間違いない…! で、でも…! 悪役側もコルロッフォさんっぽいし…。本当に分身してるの…!?

 

 

 

 

 

「さあ、力が集まってきたぞ!」

 

 

その声で、私はハッと。見ると、ステッキの先にバチバチと力が。凄いエフェクト…!

 

 

 

「みんなー! ヒーローとお姉さんを応援しよう! 頑張れー!」

 

 

「「「頑張れーーー!!」」」

 

 

 

更にピエロお姉さんの号令の下、子供達の声援が。 すると呼応するように、ステッキが光輝いて…!!

 

 

「よぅし! 充分だ! 行くぞ、秘書のお姉さん! 掛け声は、『ピエロ・アルテマ・アタック』だ! せーの…!」

 

 

 

「「ピエロ・アルテマ・アタックッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

コルロッフォさん…もとい、ヒーローに合わせて、ステッキを勢いよく振る。

 

 

すると溜まっていたエフェクトは一直線にコルロッフォさん…じゃない、悪役の元に――!

 

 

 

 

 

 

「ギャアァァァァァァー!」

 

 

 

 

光輝く球体のようなエフェクトに包まれ、悲鳴をあげる悪役。ある意味最初の台詞の通り、真っ黒こげに。

 

 

そして、ゆっくりと両膝を突き、人質(社長)を優しく降ろして……。

 

 

 

「く、クソー! これで勝ったと思うなよォ!」

 

 

 

お手本のような捨て台詞を残し、舞台裏に走り逃げていった。残された社長はこちらに走り出し、私の腕の中にジャンプイン。

 

 

「2人共、助けてくれてありがとう!」

 

 

と、まるでそういうキャストだったかのような、元気いっぱいのお礼の言葉を。 そして場は、万雷の拍手に包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

「着ぐるみ…良い手段ね…!」

 

 

――だから、そんな社長の普段通りな企み声を聞いたのは私だけであろう。

 

 

…って、まさか……。

 

 

 

 

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