ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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我が社の日常:市場で取引お買い物④

 

「お待たせいたしました~。 こちら、特製ケーキセットになりま~す」

 

 

 

テーブルに運ばれてきたのは、可愛いくてお洒落なケーキと良い香り漂う紅茶のセットメニュー。噂通り、とても美味しそう…!

 

 

では早速、いただきま……―。

 

 

「…あ、あの…。本当に宜しいのでしょうかお嬢様…?」

 

 

「――もう…。何度も言わせないで、ネヴィリー。 ここの支払いは私もち。私が働いて得たお給金、貴女のために使わせてください」

 

 

向いの席に座る眼鏡でメイド服な悪魔族女性ネヴィリーにそう言い聞かせ、私は再度フォークを握り直す。

 

 

 

さて…わ、良い甘さ!当たりのお店!

 

 

 

 

 

 

 

 

――ということで。私のメイド、ネヴィリーをもてなし大作戦その第一弾。まずは気になっていたカフェ。

 

 

まあ…もてなすと言っても社長提案により、今日巡ろうとしていた場所で一緒にショッピングするだけではある。

 

 

だから、最初にここに来た理由も、ただ食べたかったから。もうちょっと格好つけるなら、お仕事終わって買い物に行く前の、英気補充のためとか?

 

 

 

 

「…で、では…。頂戴いたします…」

 

 

私がもぐつき出したのを見て、ネヴィリーも一口。あ、眼鏡の奥の瞳が輝いた。悪い意味…叱る時の目ではなく、良い意味の輝き。

 

 

それも当然。市場の一角にあるこのカフェは、そこで買い付けた新鮮果物とかを使用しているらしいのだから。私の目に狂いはなかった。…『魔眼』という意味ではなく。

 

 

 

…ほんのちょっと欲を言えば、本当は社長と一緒に来たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いや、一緒には来ているのだけども。ネヴィリーの真横に居るのだけども。彼女の横の椅子に、荷物然として鎮座してるのだけども。

 

 

本当は私の横に置いておきたかったのだが、下手に言い出すこともできない。ネヴィリーはあの宝箱が社長…もといミミックだとは露ほども思っていないのだから。

 

 

 

…うーん…。やっぱり、社長の正体を明かすべきかな…。…いや、仕事内容すら教えていないのにそれは…。

 

 

そして、教えたところでネヴィリーは社長に食ってかかるだろうし…。変にお説教されるのも嫌だし…。やっぱり隠し通すしか…。

 

 

 

「―の…。あの、お嬢様…?」

 

 

「へっ…? はいっ!?」

 

 

ちょっと変な声出ちゃった…!悩んでいて、ネヴィリーに呼ばれていたのに気づいてなかった…!

 

 

「何か、お悩み事が…? もしよろしければ(わたくし)めに…」

 

 

「いや違くて…! というか、別に悩んでいません!」

 

 

そして顔に出ちゃってたらしく、そう聞いてくるネヴィリー。慌てて誤魔化したけど…。ちょっと気まずい…。

 

 

ここは…無理やり話題変換!

 

 

 

 

 

 

 

「ところで…。ネヴィリーは何故ここに? うち(アスタロト家)からは結構遠いでしょう?」

 

 

「はい。実は、ご主人様からのお言いつけで参ったのです。本日ここに『流浪の魔導書商人』が来ているということで、以前より頼んであった魔導書を受け取りに…」

 

 

「あぁ! なら丁度良かった! 私もあの方に用があるんです」

 

 

 

話が合って、ちょっとホッと…。 その呼び名の通り、各地を転々としている商人さんがいるのだが…私もその方に希少な魔導書を注文していたのだ。

 

 

魔導本屋に行こうとしていたのも、それが理由。ならこの後すぐに……。

 

 

 

「――ということはお嬢様、もしかしてそれは…今のお仕事関連なのでしょうか?」

 

 

 

 

 

―っう…! 墓穴を掘ったかも…!? 良い糸口をみつけたと言わんばかりに、問われてしまった…!

 

 

「えっと…それはそうなのだけど……」

 

 

「―不躾は重々承知でございます。お許しください。 お嬢様は、どのような場にお勤めを?」

 

 

狼狽する私に、畳みかけてくるネヴィリー。さっきの美味しい目の輝きは、問い詰めの目の輝きに…。

 

 

ど、どう答えよう…。なんて答えれば…! ……って!?

 

 

 

(頑張れ♡頑張れ♡ ア・ス・トー!!)

 

 

 

社長が…箱から出て応援してくれてるぅ!?!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思いっきり目を見開いてしまった…!だって社長、さっきまで閉じ切っていた宝箱をパカリと開け、身体を出した社長がこちらにエールを…!

 

 

勿論声は出さずに口パクなのけど…。そこ、ネヴィリーの真横! 大胆にもほどがある…!

 

 

 

そんなことしたらネヴィリー、流石に気付いて…これ気づいてない!! 横に視線を動かすことすらしてない!!

 

 

 

 

…確かに社長、物音一切立てずに動いているから、死角ならば…ネヴィリーの位置からならば、本当に気づけないと思う。同じ状況だったら、私も気づける自信はない。

 

 

けど、こちらから見ると絵面が中々におかしい…! 私を睨む眼鏡メイドと、その横で踊るようにしてる箱入り少女…!なにこれ…!

 

 

 

 

 

 

「―? お嬢様…? こちらに何か…?」

 

 

ふと、そんな私の仰天視線に気づいてしまったのだろう。ネヴィリーが訝しむように、首を横に動かす。ヤバ…―!

 

 

「―??? やはりこの箱、私めに託されるのはご不安でしょうか…?」

 

 

「…あ…。ううん! 違いますから!」

 

 

 

――すご…。ネヴィリーが視認するより早く、というかずっと見ていた私ですら捉えられないほど速く、社長は箱の中に戻って蓋をしっかり閉じた…。

 

 

おかげで、ネヴィリーは未だ『ただの宝箱』として認識しているらしい。先程放り投げてしまったことを悔やむ様子だけで、驚きの感情は見えない。

 

 

 

…あ。ネヴィリーの視線が私に戻ったのと同時に、社長、笑顔でまた出てきた…。流石です…。

 

 

 

―あれ? 社長、何か手にしている…。あれは…魔物素材? それを自身の目の前に持っていき、まるで鑑定するかのように…。

 

 

 

あぁ…!なるほど!

 

 

 

 

 

 

「えっとネヴィリー。私が今しているのは、私の魔眼『鑑識眼』を使って、真贋とか価値を見極めるお仕事なんです。 私にしかできない仕事ですから、とても重要なポストについているんですよ」

 

 

自分の目を指さしながら、ネヴィリーにそう説明する。 嘘は全く言っていない。というか実際にやっていることだし。

 

 

「なるほど、そうでございましたか。 才気溢れるお嬢様に相応しい、素晴らしきお仕事にございますね」

 

 

…良かったぁ…。ちょっとは納得してくれたみたい…。 これでとりあえず一安心…。

 

 

 

……ん? まだひょっこり身体を出してる社長が、今度は別のジェスチャーを…。

 

 

ネヴィリーのケーキを指さして…。あ、わかった。

 

 

 

――ケーキの持ち帰り、幾つか頼むとしよう。社長の好きそうなのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということでカフェを後にし、今度は魔導本屋へ。因みに買ったケーキは、宝箱の中に。

 

 

 

この市場では様々なものを取り扱っている。そのうちの1つが、魔導書。

 

 

そしてここの魔導本屋は、中々に質の良い魔導書を仕入れている。流浪の魔導書商人さんを始めとした目利きが卸しているのもあり、この市場に来た際は必ず寄ってしまう。

 

 

そして、今日はその商人さんご本人も…いたいた。

 

 

 

 

「ご無沙汰しております、商人さん!」

 

 

「おやおや、これはアスト様。ご機嫌麗しゅう。ふぇふぇっ」

 

 

私が挨拶すると、その商人さんも丁寧に挨拶を返してくれる。 ―と、私の一歩後ろにいるネヴィリーを見て、首を傾げた。

 

 

「はて、ネヴィリーさんがご一緒で…? ということは、『アスタロト家』としてのご来店ですかねぇ?」

 

 

 

 

 

実はこの魔導書商人さん、うちと懇意な関係のため、私の正体も知っている。けど最近私は『ミミック派遣会社の秘書』としてしか来ていないため、驚かれてしまった様子。

 

 

「いえ、別々ではあるのですけど…。偶然会ったので、一緒に来たんです」

 

 

「それはそれは。 …はれな?アスト様、ミミンさんは体調不良で?」

 

 

「へ?」

 

 

商人さんから出た社長の名前に、私はポカンと。すると、商人さん宝箱を指さし…―!?

 

 

「だってそちらの…―」

 

 

「わーっ!?」

 

 

 

 

―はっ!? 思わず大声を出してしまった…! 今度は商人さんとネヴィリーがポカン。

 

 

けど商人さんも百戦錬磨な方。どうやらそれで何となく察してくれたらしく…。

 

 

「失礼失礼。お二方がご用命の魔導書、しっかり手に入っておりますよ。ふぇふぇふぇ」

 

 

特にツッコんでくることなく、笑いながら奥へと。…ご、誤魔化せた…のかな…?

 

 

 

 

 

 

「はいこちら。わざわざ取りに来て頂いてすみませんねぇ」

 

 

持ってきて貰った魔導書を受け取り、確認。 うん、流石商人さん!申し分なし。

 

 

 

「有難うございます。ご主人様も喜びます。 こちら、代金となります。お納めくださいませ」

 

 

ネヴィリーが一足先にお支払いを。お金がぎっちり詰まった袋を取り出し、商人さんへ。

 

 

私も続くとしよう。 えっと…一旦近くに降ろした、社長の宝箱の中から袋を取り出して…と。

 

 

「私の分はいつも通りこちらで! …でも、本当に良いんですか?『素材支払い』で…」

 

 

 

 

 

ネヴィリーが取り出した袋にはお金が詰まっていたが、私がとりだした袋は違う。中に入っているのは色んなダンジョンから貰った素材類。

 

 

「こんな良い素材、市場でどれだけ高い金積んでも手に入りませんからな。本当、良い職場を物にしまして…ふぇふぇ」

 

 

受け取った袋の中身を改めながら、そう笑う商人さん。確かに持ってきたのは、選りすぐりの代物ばかり。

 

 

商人さんはそれを魔導書職人へと回しているらしいのだけど…。下手な大金よりも、この素材の方が喜ばれるらしい。

 

 

だから時折、個人で素材の取引を頼んでくることすらある。というかそのために、この市場にやって来てくれている節すらあるのだ。

 

 

 

そういえばラティッカさんも、良い素材を見るとやる気が出るとか言ってた気がする。職人の性なのかもしれない。

 

 

と、そんなとりとめもない事を考えていたら……。

 

 

 

 

「お、お嬢様……!?」

 

 

聞こえてきたのは、ネヴィリーの困惑声。何かやらかしてしまったのかも…と顔を向けると―。

 

 

 

「今…その袋…どちらから…!?  先程宝箱の中身を確認した際は、何一つ入っておりませんでしたのに…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………しまった――!! 思いっきりやらかしちゃってた!! いつもの動きすぎて、何も考えてなかった…!!

 

 

そうだった…。さっきネヴィリーは、宝箱を調べていた…! そしてその時は、社長が上手く誤魔化して、中身を空に見せていた…!

 

 

だから彼女にとって、箱の中には精々ケーキ入りの箱しか入っていないはずだったんだ…! 

 

 

 

 

―というか社長、さっき私が素材入り袋を取り出す時、サラッと触手で手渡してくれたじゃん…! まさか、社長も気づいてなかった…?

 

 

 

そんなことより、どうしよう…! ネヴィリーの見間違い…が通じる訳ないし、今更ミミックでしたとバラすのも無理…! ど、どうすれば…!

 

 

 

「―ふぇふぇふぇ、アスト様。いつものようにチラシがございましたら、お預かりいたしますよ。 遠出する身ですから、要所に配っておきましょう」

 

 

「あ、ありがとうございます。是非…。 ……っっ!!」

 

 

 

しょ、商人さん…このタイミングで何故それを!? しかもいつも通り返事しちゃったし…!

 

 

 

 

確かに我が社の新人募集や依頼募集やらの広告チラシは、商人さんにも撒いて貰っている。だから今回も、社長が持ってきてるのだけど…!

 

 

う、うぅ…! このまま突っ立ってるわけにもいかないし…! とりあえず、チラシを…!

 

 

 

 

半ば混乱しながら、私は宝箱の元へ…。そして、蓋をパカリと開けて…―。

 

 

「えっ…?」

 

 

…目の錯覚かな…。…ううん、違う…! 箱の中身が()()()()()()()()…!?

 

 

 

もっと正しく言うと…。手帳とかの小物や化粧道具や財布、魔導書やスクロールや袋、そしてチラシの束にケーキの箱…! そんな、『箱に入っていてもおかしくない物』が…!

 

 

空だった宝箱内にどこからともなく現れて、綺麗に整頓されて入っている…!!!

 

 

 

 

 

 

 

もしかしなくとも、社長の仕業…! けど、こんなことして何を…。社長の姿は見えないし…。

 

 

あれ?これ…メモ用紙…?何か書いてある…。 …これは…!…イチかバチか!

 

 

 

 

 

「いつもすみません。今回はこれをお願いします」

 

 

「はいはい。承知いたしました」

 

 

まずはチラシ束を商人さんに渡してと…。あとは、平静を装って…―。

 

 

「そういえばネヴィリーに伝えてなかったですね。これ、『魔法の宝箱』なんです」

 

 

 

 

 

 

「魔法の…宝箱…?」

 

 

眉を潜めるネヴィリー。私は宝箱を抱え、彼女の前に。

 

 

「これに宝石や魔導書とかの貴重品を入れる予定なのは話した通りなんですけど…。防犯用に、隠蔽魔法がかけられているんですよ」

 

 

ほら、と示すように私は宝箱をオープン。そこには先程現れた箱の中身が。

 

 

「なっ…!?!?」

 

 

眼鏡をくいっと直しながら、信じられないと言った様子でそれを見つめるネヴィリー。私は箱を一度閉じ……社長、頼みましたよ…!

 

 

「そして、持ち主登録した人が、ここの装飾に触れると…。それっ!」

 

 

適当なところに手を置き数秒。再度蓋をパカリ。すると……!

 

 

「ま…! 中身が全部消えて…!?」

 

 

驚くネヴィリー。先ほどまで詰まっていた中身は、全部消えてなくなったのである。勿論、ケーキの箱も。

 

 

「こんな感じで、完全に見えなくする魔法なんです。仮に冒険者達がこれを開けても、何もないから無視するという、要は防犯機能なんですよ」

 

 

そう説明を…先程見つけたメモ用紙、『社長のお助けメモ』に書いてあった流れの通り、ネヴィリーへ説明をする。

 

 

 

――その通り。隠蔽魔法なんてかかってない。これは全部社長の力。蓋を閉じている数秒の隙で、宝箱の中身を出したりしまったりしてくれているのである。

 

 

 

 

…って、冒険者じゃなくて泥棒って言うべきだったかも…? あ…ネヴィリー、信じられないと言わんばかりに眼鏡を拭きだした…! 

 

 

もう一回、箱を閉じて嘘の動作をして…ほら、宝箱の中身が復活。もう一回閉じて……ほら、また消えた…!お願い…信じて…!

 

 

 

「…こんな宝箱があるのですね…。 私めはお嬢様ほど魔法に詳しくありませんので、ただただ驚くばかりです…!」

 

 

――良かったぁ…! なんとか信じてくれたみたい……! 疲れた……。

 

 

 

 

…それにしても、商人さんなんで突然…。 …ん!?商人さんが手に持ってるの、メモ用紙…!!

 

 

しかも、社長が私に用意してくれたお助けメモと同じ…。…ということは…。

 

 

 

社長…商人さんに渡したあの素材入り袋の中に、既にこの事態を見越して仕込んでくれていたということ…!?

 

 

『アストが追い詰められたら、チラシのことを提案してあげて』とか書いて…!? …御見それしました……。

 

 

 

 

 

 

おかげさまで一難は去り、まだもてなし大作戦は続行できそう。よし…これから先はボロを出さないように頑張ろう…!!

 

 

それこそ、貴族らしく優雅に…! えいえい、おー…!

 

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