ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№60 『動く絵画の美術館ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


「じゃあじゃあ……んーと…こっちの!」

 

 

抱っこしている宝箱入りの社長が、ぐいぐいと身体を乗り出す形で私を引っ張っていく。それに従い、そちらの方向へ。

 

 

――ただし、床を見たまま。前を見ないようにして。 だからちょっとだけ恐る恐るだけど、そんな距離はないから安心。

 

 

それにこのダンジョン内は綺麗なカーペットやフローリング、タイル床や大理石床で出来ている。転ぶことはまずない。

 

 

 

 

「じゃあアスト! これは?」

 

 

そう歩いているうちに、目的の場所に辿り着いたらしい。社長のそんな問いかけが。

 

 

私は顔を上げて、壁にかけられている()()を見る。 えーとこれは…。

 

 

―あ。社長、触手でちょっと私の視界を隠して説明書きを見せないようにしてる。けど、そんなことする必要は…ない!

 

 

 

「これは、『ミルクを注ぐ牛女』ですね。カウガールの日常の一幕を切り取った、『ヨハネスル・フェルメー』作の油彩画です」

 

 

「おー! 正解!」

 

 

説明書きが私に見えないようにしながら、答え合わせをする社長。 ―と、私は思いつき…。

 

 

「あと多分説明書きに書いてあるのは…『窓からの光によるはっきりとした明暗のコントラストにより、画面中央のカウガールを際立たせている』ということと、『カウガールの角、胸、体つきの豊満ながらもがっしりとした体つきを描き、たおやかさと力強さを巧みに描いている』ということ、『その身体の輪郭表現として塗られている細い白線により、仄かに輝いても見える』こと。 あと、使用されている顔料は描かれた当時としてはとても貴重な……」

 

 

「アスト、ストップ! ……うん! 全部、書いてあるわ!」

 

 

お見事!と言わんばかりに触手ガードを解除する社長。見えるようになった説明書きには、今しがた私が口にしたが記載されていた。やった。

 

 

 

 

「やるわね! 因みに、横のあれは? 落書きみたいな…」

 

 

すると社長、今度はすぐ横にかけられている絵を指さす。えーと…。

 

 

「あれは『泣くバンシー』という、『パブロ・ピクアクス』による作品ですよ。あえて幾何学的図形に還元して描く『立体派』の傑作の一つです」

 

 

その絵の説明書きを見ないようにしながら、そちらへと赴く。そして、今度は目を瞑って諳んじた。

 

 

「ピクアクスは『泣くバンシー』というタイトルの作品を100以上描いたのですけど、これは確か、その中の最後にして最高の出来と呼ばれた絵ですね。 彼はとある戦いを描いた大作も描いているんですが、それの影響があった故の作品と言われています」

 

 

「おお~! それも説明書きに書いてあるわね! さっすがアスト!」

 

 

大きな音を立てないようにしながらも、ぱちぱちと拍手してくれる社長。そして私へ顔をにゅっと近づけ、にんまりと笑顔を。

 

 

「けっこうな数の作品名当てクイズを出したけど、今のとこ全問正解! もしや、その『鑑識眼(魔眼)』を使ってるんじゃないでしょうね~?」

 

 

「もちろん使ってませんよ。使うまでもありません!」

 

 

わかってながら聞いてくる社長に、私もえっへんと胸を張って返す。なにせ…―。

 

 

「一応これでも、アスタロト家の令嬢。 そういう教育は施されてきたんですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ毎度のことながら私の実家のことは置いといて…。 今回も依頼を受けてのダンジョン訪問である。

 

 

ただし、このダンジョンを構成するのは立派な建物群や整備された広い庭。魔物の棲み処というには気色が違う。

 

 

その代わり各所に飾ってあるのは…今私達が見ているような有名な絵画や彫刻、銅像や壺や冠やオブジェ。アーティスティックな『芸術品』の数々。

 

 

 

ここの名称は『美術館ダンジョン』。歴史に名を遺す数多の名作を堪能できる、世界的に有名なギャラリーである。

 

 

 

 

 

 

とはいえ、やっぱりダンジョン。主である魔物はいる。どんな方々かというと―。

 

 

「じゃあアスト! こちらは?」

 

 

っと…。社長がまたもクイズを。どんな問題が来ても、スパッと答えてみせましょ…う…―。

 

 

「…えっ」

 

 

「どしたのアストぉ? もしかして、答えられな~い?」

 

 

…私が言葉に詰まったのを見て、ケラケラ笑う社長。もう……。

 

 

 

 

――()()()()()()()()()。この、女性の上半身の肖像画は。

 

 

人々を魅了するような、それでいてミステリアスさを湛えた微笑みを浮かべている、神秘的で霊妙な作品は――。

 

 

「時の巨匠にして『万能の天才』とも呼ばれる大魔導師、『レオ・ダビィンチ』によって描かれた、至高の傑作。 このダンジョンの…いえ、この世界に存在するどの名画よりも名画と称され、最も有名とされる天来たる一枚…!」

 

 

諳んじる―、というより、心の内の感動と想いを乗せるように説明を口ずさむ。そして最後に、その絵の瞳に問いかけた。

 

 

「ですよね? 『モナ・リーサ』さん。  …なんでここに紛れていらっしゃるんですか…」

 

 

「ふふふっ。 いえね、楽しそうだったからつい! べた褒め有難う♪」

 

 

 

私の言葉に、伝説の絵画『モナ・リーサ』は、その微笑みを一層綻ばせたのであった―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…へ? ついていけない? どういうことなのかわからない? ……まさか、あの『モナ・リーサ』を知らない!?

 

 

―コホン。では僭越ながら、少し解説を。 先に語らせて貰った通り、彼女モナ・リーサさんは、知らない人はいないと言うべき神品の名作で……―。

 

 

 

――え、そうじゃない? なんで絵が喋ったのか?

 

 

 

それはだって、『動く絵画』だもの。

 

 

 

 

 

 

 

『動く絵画』というのは、長年の時を経た絵画が魂を持った魔物。あるいは、魔法によって命を授けられた存在。

 

 

まあ、我が社にいるような動く調理器具のような『ポルターガイスト』や『付喪神』に似た、物が動く系の魔物だと考えてもらっていいと思う。

 

 

確か、どこかの魔法学校にも沢山飾られているらしい。…えーと、なんという学校名だっけ…。別に名前を呼んではいけない訳ではないはずだけど……。

 

 

 

 

ま、それは良いとして。 このモナ・リーサさんこそがこのダンジョンの主にして依頼主。というか、この美術館ダンジョンの目玉。

 

 

本来ならば、専用の飾り壁に佇んでいる御方。そして彼女の前には、毎日見物客がごった返すのである。

 

 

その凄さは中々のもの。なにせ、モナ・リーサさんの姿が見えなくなるほど。ようやく近づけたとしても、押し合いへし合いでじっくり見ることができないぐらい。

 

 

でもそのたった数秒でも心奪われてしまうので、もう一度見るためにリピーターになる人続出だとか。

 

 

 

…そんな凄い絵が、こんなとこに居ていいのかって? ご安心を。今日は休館日…休ダンジョン日のようだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ!」

 

 

ちょっと力を入れるようにして、壁からカコンと外れるモナ・リーサさん。そしてそのまま宙をふわふわ。額縁入りのままふよふよ。

 

 

動く絵画だから、中の絵が動くだけじゃなく、こうやった移動もできる様子。因みに、そうして動けるのは彼女だけではなく…。

 

 

「リーサさんが来ちゃったら、私達の格下がっちゃうよぅ~~」

 

 

「ふぇえぇぇぇぇん…」

 

 

と、声をあげたのは、先程まで見ていた『ミルクを注ぐ牛女』と『泣くバンシー』。いやいや…!

 

 

「お二方も、モナ・リーサさんに並ぶぐらい素晴らしい絵画ですよ! いえお世辞なんて無しで本当に!」

 

 

「そう言って貰えると嬉しいねえ~!」

 

 

「ふぇええ~~ん!」

 

 

かの名画二人…二人? も、喜んでくださった様子。まあこんな感じに、他の絵も動くのである。

 

 

 

勿論、さすがに全部が全部動く絵画ではない。一部だけ。でも、動けるのは絵画だけではない。

 

 

 

「ふむ。いやしかし、素晴らしい鑑定眼だなお嬢さん。我らの名を見ずに、考える暇すらなくピタリと言い当てるのだから」

 

 

「確カニ確カニ! 見事見事!」

 

 

そう言ってくださったのは、これまた近くに合った彫像とオブジェ。それぞれ、考えるようなポーズと、巨大な蟹のような姿。

 

 

片や地獄の入り口のような門の上で座ってそうだし、片やどこかのお店の上で道楽な踊りをしてそう…? ……ん?

 

 

 

 

――ともあれ、この美術館はそんな動く美術品たちが収蔵…もとい、棲んでいる特殊なダンジョンなのである。

 

 

見に来たくなったら、是非来館を。入館料こそ必要だが、間違いなく損はしないこと請け合い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

では話を戻して。何故私達が招かれたのかを解説…じゃなくて、お話するとしよう。

 

 

勿論ここには、モナ・リーサさん達が雇っている職員や清掃員、警備員とかが充分な人数勤めている。それなのに私達に依頼が来たと言う事は…のっぴきならない事情を抱えているということ。

 

 

 

…けど、大体想像はついちゃうはず。だって彼女達、名高き芸術品の数々。ならば勿論…その価値はとんでもない代物。

 

 

 

えぇ、その通り。狙われてしまっているのだ。悪い盗賊達に。もっと言えば…―。

 

 

 

「これが、その『予告状』。『怪盗』からのよ」

 

 

 

モナ・リーサさんは浮いたまま、カタカタと軽く震える。すると、額縁の隙間からぺらりと一枚のカードが。

 

 

その派手な色使いのそれには、『〇月×日の閉館後、貴方がたの友人を頂きに参ります』というキザな文面と、これまた自信たっぷりなのが分かる、お洒落なマークが。

 

 

 

そう―。このダンジョンは、怪盗に狙われてしまっているのである。

 

 

 

 

 

この美術館ダンジョン、そしてモナ・リーサさん達美術品はあまりにも有名。故に、盗みを生業としている冒険者たちからは常に羨望と熱願の(ターゲット)

 

 

だからこそちょくちょく狙われ、時には格好つけた盗賊からこういった予告状が送られる始末。なんでわざわざ犯行予告するのかわからないけど…きっと格好いいからだろう。

 

 

それでもモナ・リーサさん達は、今までなんとか凌いできたみたいなのだが…。

 

 

 

 

 

「あー…。 確かにこの予告状、今世間を騒がせている怪盗のものですね…」

 

 

モナ・リーサさんから受け取った予告状を確認させてもらい、私はそう確信を。 実は今、とある盗賊パーティーが名を轟かせているのだ。

 

 

 

 

 

―――正体不明、神出鬼没。鮮やかな手口でどこへでも侵入し、狙いを定めたオタカラをいとも容易く盗み出す。

 

 

標的になるのは人間魔物の区別なし。素晴らしき秘宝を持つ者ならば、それを頂戴いたします。

 

 

 

二十面相百面相、顔も姿も変幻自在。ある時は大人で、ある時は子供。どこぞの高校生探偵に似ていたり、モンキーなパンチ顔になったり。

 

 

かと思えば子供に大人気な戦隊ヒーロー的に化けたり、ドミノマスクな仮面(ペルソナ)被って颯爽と登場したり。

 

 

 

どんな兵士も防衛部隊も傭兵も、どんな罠も鍵も牢だって、彼らの前では無力同然。流麗な美技でノックダウン。

 

 

たった一つわかっているのは、手練れの人間数人組だということのみ。まさしく猫の目(キャッツアイ)のような目まぐるしき彼らの活躍をただ見送るしかないのである――。

 

 

 

 

 

 

…………という触れ込みな、とんでもない怪盗がいるのだ。 随分と大仰だが…それに見合うほどの『成果』を出してしまっている。

 

 

そしてとうとう、この美術館ダンジョンに手を伸ばして来たらしい。ご丁寧に、早め早めの予告状投稿をして。準備しておけということだろうけど…。

 

 

 

当然、モナ・リーサさん達は慌ててしまったらしい。だって、自分達が攫われるってことだもの。今の警備じゃ駄目だと思い、我が社に連絡をしてくれたという訳。

 

 

 

中々に大物相手のようだが…我が社にお任せあれ! 相手が変装の名手なら、こちらは潜伏の名手。ついでに色んな箱に隠れることで変装?もできちゃう。

 

 

 

モナ・リーサさん達は、良い選択をしたと言うべき…………。

 

 

―――え、なになに…?

 

 

 

 

 

 

 

私達が、その『怪盗』じゃないかって? ふふっ、やだな~。そんなわけないじゃないですか~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………警備増員の隙を突き、その枠に紛れ込むのは怪盗の常套手段? へえ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………――中々に、勘が良いことで。 嫌いではないですよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――なんちゃって。 びっくりしました? 

 

 

 

ご安心を。私達はミミック派遣会社社長『ミミン』と、その秘書である私『アスト』のいつものコンビですから!

 

 

 

 

まあ残念ながら(?)、もうそのお話(疑念)は既に終わっているのである。具体的に言うと、ここに来たときに。

 

 

そりゃモナ・リーサさんたちだって、その手段については予想済み。例の怪盗は人間、となるとそちらを雇うのは危険だと。

 

 

だからこそ、唯一無二のへんてこ存在であるミミック派遣会社に依頼してきたというわけである。 流石に怪盗たちも、ミミック達のように宝箱に入って動き回れるほどの奇天烈能力はないみたいだし。

 

 

 

 

それに加えて、今日ここに来た際にも検査を受けた。 念には念を入れて。

 

 

社長は宝箱に入って軽く動いてみせるだけでokだったけど、問題は私の方。人間に角や羽や尾を生やせば悪魔族に見えちゃうから、ちょっと証明に苦労してしまった。

 

 

自分を自分だって明らかにするの、すっごく大変…。やれって言われて、的確にできるものじゃないし。

 

 

とりあえず角とか顔とかが本物だって引っ張り、悪魔族にしか使えない魔法を見せたり、あとは…実家《アスタロト家》のことを少し話したら納得してもらえた。よかった。

 

 

 

あと、社長が『間違いなくアスト!』だと断定してくれたのだ。まあ理由は勘らしいのだけど…。

 

 

でも、仮に社長に変装されていたとしても…私なら多分、いや絶対にすぐわかる気がする。 なんか、感覚的に。

 

 

 

 

――それでも、私が怪盗なんじゃないか不安? そう言われましても…。

 

 

うーん…。 なら、()()()()()()()()()()のが、私が本物(アスト)だっていう証ということで。

 

 

 

メタい? これまた失礼を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そうして決まった派遣依頼なのだが…相手は然る者。ならばこちらも、盤石の態勢で迎えるべきであろう。

 

 

幸い、予告状により決戦の日は確定している。我が社としても、その日には精鋭を追加派遣する予定。

 

 

更に、私と社長も参戦予定。社長は勿論最強の警備員として、私はそのお供兼、準備してある正体看破魔法や本人確認魔法、感知魔法などの調整役として。

 

 

 

更に更に、それだけではない。ミミック達が最高のパフォーマンスを発揮できるように……―。

 

 

 

「おーい! 社長、アスト! とりあえず出来たぜ!」

 

 

 

 

 

手を振りながら笑顔でやって来たのは、我が社箱工房のリーダー、ドワーフのラティッカさん。因みにいつも通りの服装。

 

 

実は彼女だけではなく、箱工房のドワーフ達面々にも来てもらっていたのだ。 あぁ勿論、怪盗の変装ではないことは確認済みだからご心配なく。

 

 

 

それで、なんで来てもらったかの理由は…バックヤードへ行けばわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということでラティッカさんに連れられやってきたのは、他のドワーフ達もいる裏手。絵画等の補修を行う部屋なのだが…。

 

 

「とりあえずの試作品だが、どうだこの壺! ()()()()()()だろ!」

 

 

ラティッカさんがくいっと示した机に並べられていたのは…年代ものな壺。しかし彼女が口にした通り…その横には、全く同じ見た目の壺が!

 

 

 

――その通り。この二つの壺の片方は、ラティッカさん達に作ってもらった『模造品(レプリカ)』。これで怪盗たちを騙し返す予定なのである。

 

 

でも、怪盗たちも鑑定する力があるはず。こんな即席のレプリカなんかすぐに見破られちゃうかも…? 

 

 

いや、結構いけちゃうと思う。だって……。 ……あれー……?

 

 

 

「あのー…ラティッカさん…。 これどっちが本物ですか…?」

 

 

 

 

 

……実は説明しながら、ずっと目を凝らしてるのだけど…これわかんない…。専門家ほどの見極め力はないとはいえ、結構自信があったのに…。

 

 

もはやこれ、魔眼使わないとどっちが正解かわからない。ここまでの出来とは…。ラティッカさん達、恐るべし。

 

 

「凄い完成度ね。 美術品である私ですら騙されちゃうほどに!」

 

 

モナ・リーサさんもそう褒める。少なくとも見るだけや少し触れるだけなら判別がつかない。怪盗が攻めてくるであろう閉館後の真っ暗な中では、かなりの効果があるだろう。

 

 

「社長、わかります?」

 

 

あまりにもわからな過ぎて、抱っこしている社長にそう聞く。すると―。

 

 

「んー、なんとなく!」

 

 

すぐさまそう頷いた。絵画とかに関しては素人同然だけど、壺…『箱』に対しては確かな目を持っているらしい。流石ミミック。

 

 

ただそれでもちょっと怪しいらしく…社長はミミックらしい提案を。

 

 

「けど、絶対という確証がないから…入らせてもらったらわかるわ!」

 

 

 

 

ということで、私は社長を壺に近づける。すると入っている宝箱からひょいっと飛び出し、二つあるうちの片方の壺の中にすぽん。

 

 

「ふんふん…。 やっぱりねぇ…」

 

 

含み笑いのような声が壺の中から聞こえてくる…。そして数秒足らずで、もう一方の壺へにゅるん。

 

 

「なるほどなるほど…! よっと!」

 

 

そしてひょっこり顔を出した社長は、にやにや。一方のラティッカさんもにまにま笑いながら、社長に問いかけた。

 

 

「で。どっちが本物だと思う?」

 

 

「まずはアストに聞いてみましょうか? どっちだと思う?」

 

 

「えっ…!? えっと……凄い出来なので正直わからないんですけど…。こっち、ですか…?」

 

 

突然に聞かれ、慌てながら片方を指さす。…でもぶっちゃけ、両方とも同じ物にしか…。

 

 

「その回答で良ーい? 本当に?」

 

 

「へっ…!? じゃ、じゃあ…あっち…ですか??」

 

 

「本当に~? 本当に~~?? 間違えたら、『一流』から格付け落ちちゃうわよ~?」

 

 

 

…何言ってるのだろう社長? でも、本当にどっちが本物かわからないし…!

 

 

「こっちで!」

 

 

「ふっふっふ~…。では、Bのお部屋へ…! ま、部屋なんて無いけど!」

 

 

相変わらず訳の分からないことを口走ってる社長。まあそれは良いとして、答えは……。

 

 

 

 

「ではコホン。 すぅ…! 結果発表おおおおっ!」

 

 

やけに通る声で、高らかに宣言する社長。皆の目が集まる中、ラティッカさんは溜めて溜めて……!

 

 

 

「~~~~残念! ハズレだ!」

 

 

 

あー…。残念…。ということは……。

 

 

「あっちのほうが正解ですね?」

 

 

当たり前と言えば当たり前のことを、私は聞く。 …あれ? 社長がすっごいにんまり顔で…。

 

 

 

「~~~~残念! そっちもは~ずれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え゛。 ……え??? へ?????

 

 

「これ、両方とも模造品よね。とても本物そっくりだけど」

 

 

困惑する私に代わり、モナ・リーサさんが答えてくれる。…って、両方とも偽物!?

 

 

「正解で~す! ね、ラティッカ?」

 

 

「あぁ! 本物は…これだ!」

 

 

そう言いながらラティッカさんは、隠してあった壺をよいしょと取り出してきて…えぇぇ……。

 

 

「ずっるぅ……」

 

 

私は思わず頬を膨らませてしまう。確かに魔眼で見たら、その通りだし…。

 

 

 

「ま、アストですら騙せるなら十分なクオリティだな! 他にも提案通り、色々面白いもの用意させてもらうよ!」

 

 

「ありがと!ラティッカ、皆! 流石私が見極めた凄腕ドワーフ達!」

 

 

カラカラ笑うラティッカさん達にお礼を言いつつ、ぴょいんと壺から出た社長。 そして私の抱える宝箱の中へ戻ると、お洒落にウインクをした。

 

 

 

「それじゃ、アスト! vs怪盗と洒落こみましょう! 主役の、『正義の悪役』の座は渡さないわよ~!」

 

 

 

……もうツッコまなくて、いいかな……。ツッコミの心、盗まれた気がする…。

 

 

 

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