ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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閑話⑪
アストの奇妙な一日:アストのお家(で☆)騒動①


「「「「「お帰りなさいませ、アストお嬢様」」」」」

 

 

「只今戻りました。 皆、健勝そうで何よりです」

 

 

道を作るように列をなし、深々と頭を下げてくるメイドや衛兵たち。それに、私はそう返す。

 

 

すると即座に、数人のメイドが流れるような所作で傍へ寄ってきた。

 

 

「お荷物、お運びいたします!」

 

「お着物、お預かりいたしますね」

 

「遠路はるばるお疲れにございましょう。ご休息の準備は整えております」

 

 

そして、私が引いていたトランクや上着やらを鮮やかに受け取っていく。無理やり感は全く無く、私の指先や肩の動きの機微すら読むようにして、極々自然に。

 

 

ここに―、家に住んでた頃は必ずやってもらっていたことだけど…こう見ると、結構熟練の技……。

 

 

特に『誰かに仕える立場(秘書)』になってからだと、学ぶべきところが多いように思える。上手く参考にして、社長相手に実践してみるのも面白いかも…!

 

 

 

 

 

 

 

…――あ。コホン。 私は今、実家に帰って来ているのだ。そう、『アスタロト家』に。

 

 

 

 

 

前々からちょこちょこと明らかにしているように、私のフルネームは『アスト・グリモワルス・アスタロト』。

 

 

そしてそのアスタロト家は、魔界大公爵として名を馳せる、魔王様に仕える最上位悪魔族一族である。

 

 

それ故に手にしている権威も凄まじく、その名を聞けば人魔問わず震えあがる威風すらある。…まあ私はそれが面倒だから、今はあえて名前だけで通しているのだけど。

 

 

 

そんな英姿を示すため、我が家はとても豪華絢爛な城館宮殿。ミミック派遣会社の社屋…箱工房や倉庫群分を合わせたとしても、それを悠々と凌ぐほどの。

 

 

更に外には当然、整備が行き届いた庭園や東屋、泉や噴水とかもある造り。そして見た通り、多数の使用人を召し抱えているのだ。

 

 

 

私が小さいころは箱入り娘状態だったため、この広い家や庭で色々と遊んだもの。その度に使用人たちは優しく接してくれたり、無茶を叱ってくれたり。時には、隠れておやつなんか…!

 

 

 

――ふふっ。久しぶりに帰ってくると、なんだかちょっと懐かしくなってしまう。そう長く離れていた訳でもなく、頻度は高くないとはいえ時折戻って来ているというのに。

 

 

 

 

 

……へ? 本当に貴族のお嬢様だったんだ、って…―。 

 

 

では、この光景で信じていただけました? それなら何よりですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有難う。でも、先にお父様方に挨拶を致しますので、休むのはその後で」

 

「かしこまりました」

 

 

とりあえずメイドの1人にそう伝え、着替えのために自室へ向かおうとする。因みに今日は、いつもみたいなスーツではない。普通の服である。

 

 

前にも言った通り、両親には仕事の話を通しているが…使用人たちには誰にも詳細を教えていない。そんな状況で仕事服を着て来たら、妙な質問攻めをされちゃうから。

 

 

 

まあ、この格好のままお父様たちの元へ向かっても良いのだが…やはり貴族のマナーというものがある。余裕のない状況ならばいざ知らず、そうでなければ悪魔族の伝統装束にでも着替えるべきであろう。

 

 

最も、普段からそうしているのだが……今回は絶対にそうしなければいけないのだ。なにせ―…

 

 

 

…今日家に帰って来たのは、自分の意思ではない。……実を言うと、両親に呼び出しを受けたのである…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと前に話した『グリモワルス女子会』の開催は、まだもう少し先。その時にも色々と準備のために実家に戻る必要があるため、両親たちへの顔見せはそのタイミングで良いかと思っていたのだが…。

 

 

…ついこの間、急に呼び出しの手紙が届いたのである。そのグリモワルス女子会よりも前に、少し話をしたいという旨の…。

 

 

 

……うーん…。文面的には怒っている様子や責める様子、悲しむ様子はない、至極いつも通りのものだったのだけど…。

 

 

あでも、若干心配してくれているような感じはあったかも…? いや、楽しんでいるような…?

 

 

 

――とにかく。そんな手紙が届き、休日を利用して帰宅しにきたという訳である。何事もないと良いのだけども…。

 

 

 

 

 

え? 社長? 社長は当然ながら――…。

 

 

 

「あの…お嬢様…。 こちらの宝箱は…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、荷物を預かってくれたメイドが、私が持ってきた宝箱をおずおず示す。そうそう!忘れてた!

 

 

「これはお土産の詰め合わせです。皆で食べてください」

 

 

固定していた紐を魔法で解き、浮かび上がらせパカリと開ける。中には、厳選したお菓子がたっぷり。しかも、『お菓子なダンジョン』などの各ダンジョンから買い付けたもの多数である。

 

 

「宜しいのですか!? この間も沢山頂きましたのに……」

 

 

「えぇ勿論! 特に今回は私が選び抜いたものばかりですから、是非!」

 

 

そう微笑みつつ蓋を閉じ、手すきのメイドへとそれを手渡す。あ、そうだ。

 

 

「この宝箱、ネヴィリーへあげたのと同じ箱なんです。ですから見た目以上に中身が入っていますし、お菓子を出した後は有効活用しちゃってくださいね」

 

 

「まあ…っ!! あの箱と同じにございますか! あれは大変重宝しております!」

 

 

嬉しそうな声をあげてくれるメイド。良かった、喜んでもらえて!

 

 

 

 

 

 

――前に市場で、我が家のメイドの1人であるネヴィリーに出会った時のことである。日頃の恩返し(ご機嫌取り作戦)として、とある箱を買ってあげたのだ。

 

 

それが、この『見た目の何倍もの容量があって、且つ重量も軽減される魔法の宝箱』。実はこれ、我が社の箱工房謹製品。しかもミミックの能力を模した。

 

 

 

実はあの市場での一件の後、ネヴィリーからお礼の手紙が来たのだ。あげた宝箱がとても便利で、皆で色々と使いあっていると書かれた。 ならばと思って、今回も持ってきたのである。

 

 

 

前は店でわざわざ買って渡したのだけど、今回はラティッカさんに頼んで作ってもらった。おかげで懐は痛んでいない。…そんな痛むほど懐は冷えてないけど。

 

 

更に言うと、本当は複数個持ってきたかった。けど下手に数を用意して訝しまれるわけにはいかないから、残念。

 

 

 

 

 

…――宝箱と聞いて社長だと思いました? いやいや、流石にそれは警戒し過ぎ。

 

 

 

社長は当然ながら置いてきた。ハッキリ言ってこの戦いには……―。

 

 

 

じゃなくて! 当たり前ながらお留守番?である。 ミミックをアスタロト家にあげたらなんと言われることか。

 

 

私としては、寧ろ連れて来ても良かったりはするのだが…。それこそ仕事先がバレたら大変である。社長に限って、そんなミスをするはずはないと思うが。

 

 

 

 

まあ、さしもの社長も、呼ばれてもいないのに秘書の実家に突撃するのは控えたのだろう。出かける少し前に、行ってらっしゃーい♪と声をかけてくれただけである。

 

 

ただ、直後に箱工房に遊びにでも行ったのか、社屋を出た時のお見送りにはいなかったけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、じゃあ一回自室へ…―。 あ。噂をすれば、ネヴィリーがこちらに。

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢様! 御挨拶が遅れてしまい大変申し訳ございません」

 

 

「ただいま、ネヴィリー。 あの宝箱、もう一つプレゼントします!」

 

 

「ま! それはそれは! (わたくし)共のために…感無量にございます!」

 

 

深々と一礼をしてくれるネヴィリー。―と、顔を上げた彼女と、つい笑いあってしまった。

 

 

なにせ、ネヴィリーだけは私の仕事場…且つ、あの宝箱の製造元をメイドで唯一知っているのだから。正しくは、知られてしまった、だけども。

 

 

ただ他のメイドの様子から、それは秘密としてしっかりと守ってくれているらしい。やっぱり優秀。

 

 

 

 

「お嬢様、ご主人様方がお集まりになっておられます。 早速、お顔を見せて欲しいと―」

 

 

「わかりました。軽く服を着替えたらすぐに向かうと伝えてください」

 

 

「かしこまりました」

 

 

再度深い一礼をし、去っていくネヴィリー。 …やっぱり揃っているよね…。

 

 

――うん! 溜息をついていても仕方ない! 着替えるついでに、気持ちも切り替えてしまおう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「では、お嬢様。 私共は外で待機しておりますので、御用がございましたら何なりと」」

 

 

トランクや綺麗にしてくれた上着を運び込んでくれた二名のメイドは、恭しく頭を下げ廊下に。

 

 

そして扉は静かに閉じられ、部屋には…私の自室には私一人。思わず、深呼吸…!

 

 

 

流石メイドたち…! 部屋の様子が全く変わっていない…! 全てが綺麗に維持されている…!

 

 

 

 

 

トランクを開けるのを後回しに、色々と見て回る。本棚や机にくすみはおろか、塵の欠片すらない…!

 

 

ぬいぐるみの山もそのまま。けどやっぱり、しっかり世話をしてくれていたらしい。汚れなんてなく、全部可愛く飾られている。

 

 

更に更に…ベッドにぃ……ぼすんっ! 柔らかく、良い香り…! 勿論、埃が舞う事もない…!

 

 

 

 

……あ…。ベッドに倒れたらちょっと眠気が…。 魔法使っても、会社と実家の距離はそこそこあるから…。

 

 

それに、緊張していたのがあるし…。それがベッドに寝ころんだらふわっと溶けちゃって…。今からが本題だと言うのに…。

 

 

 

あぁ…駄目…。瞼が……。 ……ちょっと…だけ…………。

 

 

 

 

「ダメよアスト! 寝たら、くすぐっちゃうわよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁい…社長…。 起きますから…」

 

 

耳に入ってきた声に、瞼を擦りながらそう答える…。 しかし、珍しい。基本、私が社長を起こす側な…の…に…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………ん?  んん??  んんん???!?

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ!?!?  へっ!?!?!?   はっ!?!?!?!?

 

 

 

 

 

 

「しゃ、社長!?!?!?!?!?」

 

 

 

「お目覚めのようで何よりです、アストお嬢様?」

 

 

 

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