ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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アストの奇妙な一日:アストのお家(で☆)騒動⑤

 

 

…と、意気込んだは良いが……やっぱり手がかりは無いに等しい。各部署を周ると言っても中々手間だし、その間にどこかへ持ち出されたらどうしようもない。

 

 

宝箱探しという名目の探検冒険だが、さっさと見つけるに越したことないのである。家の紹介は宝箱を確保してからゆっくりすればいいわけで。

 

 

 

そこでふと考えたのは、宝箱が何者かに回収されてからの経過時間。私が部屋を去り、社長が工作(悪戯)をして持っていかれ、すぐに私が戻って来てその事実を知る―。

 

 

その間はかなり短い。もしメイドの誰かが持っていったとして、下手すればまだどこかの廊下を歩いている可能性すらあるのだ。

 

 

そして『私からの贈り物』と認識しているのであれば、最初に向かう先は恐らく…――。

 

 

 

 

 

 

 

「…良いですか社長。絶対に、ぜーーーったいに、顔や手はおろか、声や物音を出さないでくださいね…! もぞもぞするのもです…!」

 

 

「はーい…! 私はぬいぐるみ~…!」

 

 

声を潜めながらも社長に強く釘を刺すと、同じく声を小さくしながら返事を。そしてリビングアーマー型ぬいぐるみの頭部を閉じ、再度完全ぬいぐるみ化。

 

 

さてと…。 では、ノックをするとしよう。ここの…『使用人控室』の扉を――。

 

 

 

 

 

我が家は広いのでこういった部屋は幾つもあるが、その中でもここは中央的な場所。使用人達のメインラウンジと言っていい。

 

 

先程渡したお菓子入り宝箱もまずはここに運び込まれているだろうし、社長の箱もきっと…!

 

 

使用人たちにもプライバシーはあるし、そもそも休憩している皆の邪魔をしたくないから本当はあんまり訪れたくはなかったのだけど…事が事。

 

 

だからちょっと遠慮がちに…ノック…!!

 

 

 

 

「はーい! 只今参ります!」

 

 

すぐに中から聞こえるは、メイドの声。そして扉は開かれ…―。

 

 

「あらっ!? お嬢様!?」

 

 

顔を出した彼女は驚いた顔を。 すると少し遅れて、控室の中からカチャカチャパタパタと慌てて物を片付ける音。…きっとゆっくり休憩中だったのだろう…。

 

 

「実は聞きたいことがありまして…。 扉の前で結構ですから…!」

 

 

「いえそんな…! お嬢様の美しきおみ足に負担はかけさせられません…! ささ、どうぞ中へ! お部屋を借り受けている身で恐縮にございますが、是非ともお寛ぎくださいませ!」

 

 

やっぱりこうなっちゃった…。断ろうにも断れず、中へと連れ込まれ…。

 

 

「申し訳ございません、私共の怠慢によってお目汚しを…!」

 

「さ、こちらのお椅子へお掛けください…!」

 

「只今お飲み物とお茶請けをお持ちいたしますね…!」

 

 

こういう時(主人の来訪時)のために用意されていた椅子に座らされ、これまたこういう時のための紅茶を淹れに走られる。

 

 

長居する気は毛頭ないので、椅子はともかくお茶はなんとか阻止。あー…その間に休憩していた衛兵が壁際で警護体制をとってるし…。

 

 

というかお目汚しとは言うけど…。控室内はかなり綺麗。流石我が家の使用人たち。多分窓のヘリとか指でなぞっても、埃は全くつかないだろう。

 

 

ぶっちゃけるなら、会社にある私の自室の方がこの何倍も汚……――。

 

 

 

 

……別に汚部屋とかじゃないですからね…! 毎朝ベッドメイクはしているし、服とかも一枚たりとも脱ぎ捨ててません! 

 

 

だって社長をよく招くのだもの。そうじゃなくとも、しっかり掃除はしてます!

 

 

 

…………まあ……その……時折、サボっちゃったりはしてますけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゴホン。私の部屋事情なんて今はどうでもいい。忘れてください。

 

 

今は社長の箱探し。ここに届いていればいいのだけど……。

 

 

 

「先程は素晴らしいお菓子が沢山詰まった箱を有難うございました。早速幾つか堪能させて頂いております」

 

 

「それは良かったです。ごめんなさい、休憩中にお邪魔してしまって…。 実は聞きたいことって、その宝箱に関係することなのです」

 

 

恭しく礼を述べるメイドへそう伝える。 すると彼女は…突然挙動不審に。

 

 

「え! あ…あの宝箱に、ござい…ますか…! その……えっと…どのような……?」

 

 

 

それと同時に、周囲もざわつく。 な、何かあったのだろうか…。もしかして、私の部屋から社長の箱を持ち出したのは、ここの誰か…!?

 

 

私が周りの様子に息を呑んでいると、先のメイドが恐る恐る聞いてきた。

 

 

「…お嬢様…もしや……先程賜りました宝箱、ご返却いたした方が宜しいでしょうか…?」

 

 

やっぱり…!! 社長の箱を持っていったのは、彼女……!! 

 

 

 

……ん? ちょっと待って……。 えーと…。

 

 

 

「その宝箱って…お菓子を詰めた?」

 

 

 

 

 

ふと我に返り聞くと、メイドは静かに頷く。 なんだ…!

 

 

「それじゃありませんよ。 有効活用して、と言ったではないですか」

 

 

「そうでございましたか…!! ほっ……」

 

 

私がそう伝えると、安堵の息を吐くメイド。周囲の使用人も同じく。…はて?

 

 

「渡した箱になにかあったんですか?」

 

 

今度は私がそう聞く番に。するとメイドはご説明いたします、と頭を下げ、語り始めた。

 

 

 

「以前お嬢様がネヴィリーめに賜ってくださいました魔法の宝箱でございますが、実は私共使用人の共用の品とさせて頂いておるのです」

 

 

「あぁ、それはさっきネヴィリーから聞きました。なんでも、今でも使用予約が一週間以上埋まるとか…」

 

 

「お聞きになっておられましたか! その通りにございます。 そして新しく頂きました先程の箱も、既に使用予約先に…」

 

 

―なるほど、そういうこと。 きっと今頃、宝箱を借りた使用人は嬉々として重いものとかを運んでいることだろう。

 

 

そしてその際には多少なりとも汚れがつくはず。私に返すとなればそこが問題になると考え、震えたという訳で。

 

 

完全に私の説明不足。なら改めて…―。

 

 

「不安にさせてしまってごめんなさい。 実は……」

 

 

 

 

 

 

「お嬢様の部屋の宝箱、にございますか…? いえ、そのような報告は受けておりませんが…」

 

 

魔法で社長の箱の絵を描きつつ、先程までの出来事を伝える。無論、社長の存在は完全に隠してだが。

 

 

唯一、社長の箱の柄、そして社長の存在を知っているネヴィリーが協力を申し出てくれた以上、もう何も恐れる必要が無い。そのため出来る限り詳細に教えたが…―。

 

 

反応はこの通り、全く知らないという様子。周りの皆も同じく。どうやらここに持ち込まれてはいないらしい。

 

 

「この件は大事にする必要はありません。もし見つけたら私に……いえ、ネヴィリーにこっそり伝えてください。彼女にも事情は話してあるので」

 

 

そう伝えつつ、思考を巡らす。ここに無いと言う事は…やはりどこかの部署に? とはいってもどこの…。 ……あ!

 

 

「そうだ! 箱の使用予約を取っていると言ってましたよね? その記録…予約表とかはありますか?」

 

 

「えぇ、ございます! 只今お持ちいたしますね」

 

 

――と、メイドが口にした時には、他の使用人によって彼女に手渡されていた。見事な連携である。それを見せてもらうと…わあ。

 

 

「厨房担当に、書庫担当…。掃除担当に、洗濯担当…。庭園管理担当に、衛兵隊まで……」

 

 

他にも色々。多分、全ての部署が名を連ねている…。こんなに使いまわされているとは…。ミミック、戦闘面で優秀なだけじゃなく、家事でもこんなに万能だなんて。

 

 

「これだけ使われていると、すぐに壊れちゃいそうですね…」

 

 

「それがお嬢様…! 壊れることはおろか、軋みすら…いいえ、汚れすらほとんどつかないのです! 箱を次へ引き継ぐ前には洗浄と消毒、及び細部の確認を欠かしておりませんが、未だ新品同様で…!」

 

 

目を輝かせ、少し鼻息荒く称賛の言葉を伝えてくるメイド。 流石ラティッカさん達、ミミックがこぞって欲しがる箱を作る、我らが箱工房の輝かしき職人。

 

 

心なしか、抱いているぬいぐるみの中の社長も胸を張っている気がする。約束通りピクリとも動かずにいてくれているのに。

 

 

 

――とはいっても、今ばかりはそれがほんの…本当にほんのちょこっとだけ恨めしいかも。予約表から箱が持ち込まれてそうな部署を探ろうと思ったのだけど…。

 

 

まあ、とてつもなく誇らしく、凄く嬉しいのは確か。一応この予約表を元に、冒険を続けるとしよう。

 

 

 

 

……これって、冒険者がギルドの受付でダンジョンの行き先を決めるような感じ…?

 

 

ただ、存在するクエストは全部『宝箱探し』なのだけども。

 

 

 

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