ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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アストの奇妙な一日:アストのお家(で☆)騒動⑦

 

 

「わあああ~っ!! すっっごく綺麗(きっれぇ)~っ!」

 

 

外に出て辺りを見た社長は、そんな絶賛の声をあげてくれる。 来る時はトランクの中だったから、そんなに見えてなかったのだろう。

 

 

 

では改めて、我が家の庭をご紹介。城館より各所に伸びる見目良き石畳の道を鮮やかに彩るは、妖精すらも揺蕩う美しき庭園。

 

 

緑は時に象られ、時に自然のままに。一片の枝の飛び出しもない生垣があれば、煉瓦のアーチに絡みつく苔や蔦も。風を受け仄かに揺れる高木は、芝生に囲まれ堂々と。

 

 

そして咲き乱れるは、色とりどりの花々。赤、黄、紫、橙、白、青、黒……社長の髪色のように美しいピンク色だって勿論ある。

 

 

それらが各所に宝石のように散りばめられ、花束のように寄り合い、道に付き従うように連なって。

 

歩くたびに鼻腔をくすぐる香りに煩わしさはなく、そのまま進み楽しむか止まって愛でるか悩ましい。

 

 

 

その隙間をサラサラと流れるは、温かな日光を煌めかせる小川。水は清く透いており、元を辿れば滾々と湧かせる泉が神秘を携え佇んでいる。

 

 

それとは対照的に、別の場所には心地よい音を奏でる噴水が華々しく。艶めく肌のスタチューに見守られながら、白妙のガゼボ(東屋)にてお茶を楽しむことも。

 

 

 

他にも温室やプール、馬車用や護衛兵用の馬厩舎、衛兵のための訓練場などなど…その全てが洗練され、明媚に端然と輝いている。

 

 

今日のように晴れていても、霞がかかっていても、曇天の雨模様でも、その時特有の豊麗さを楽しむことができる――!

 

 

 

これこそが我がアスタロト家が誇る、そして沢山の使用人たちがいつも維持してくれている、最高の庭園なのである!

 

 

 

 

 

 

 

 

――コホン…。つい興奮しちゃった…。だって、自慢なのだもの…。

 

 

他の最上位悪魔族たちも立派な城館宮殿と庭園を持っているが、その中でも我が家が一番。…まあ贔屓目があるかもしれないのは否定できないけど…。幼いころは、本当にそう信じていたのだ。

 

 

 

…ただその考えは、ある時を境に大きく覆った。それは…ミミック派遣会社の社長秘書となり、各地のダンジョンを巡りだした時。

 

 

主となっている魔物、周囲の環境によって装いが大きく変わるのがダンジョン。その中には、我が家の庭園に勝るとも劣らない素晴らしいところが幾つもあった。

 

 

いや、もっと言えば…。どこもかしこも、この庭園とは全く違う、目を奪われるほどの魅力を持ったダンジョンばかりであった。刺激的で独特で新鮮で。

 

 

 

およそ箱入り娘であったら、絶対に見ることの無かった光景の数々。それらに想いを馳せながら我が家自慢の庭園を見ると、身体を包むような安らぎを覚え、各ダンジョンの『美しさ(特有さ)』と肩を並べられていることが誇らしく思えるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。先程コピーしてきた予約表を見ると、魔法の宝箱は庭園管理担当の使用人にも貸し出されている様子。

 

 

ただ庭園と言っても見た通り広く、管理する場所や手法も多いため、複数のエリアに区切られチーム分けされている。勿論そのチーム名も予約表に記載されているが…やっぱりほとんど名が乗っていた。

 

 

こういう場合は先程のように、まとめ役のところに顔を出すべきなのだが…―。

 

 

 

 

 

 

 

「――それで、当時はこの道を走り抜けて、花の香りを楽しんでました! この先の道を右に曲がって暫く行くと泉があるんですが、そこにハンモックがあって、妖精と一緒に読書したり…!」

 

 

「へー!気持ちよさそう! あ、じゃああっちは? あっちは何があるの?」

 

 

「向こうには枝垂(しだ)れの花でトンネルが作ってあるんです! その真ん中でドレスの裾を持ち上げて、風が吹くたびにちらほらと落ちてくる花びらを沢山溜めて遊んでました! このぬいぐるみ一杯に集めたことも!」

 

 

「何それ可愛いわね…! ―ん? あれは?」

 

 

「え? あーっ! まだ残してくれてたんだ…!! 使用人が私のために作ってくれた簡単なアスレチックです! 日が暮れるぐらいまで飽きずに挑んでましたし、ネヴィリー達から逃げる時の障害物として使ったりも!」

 

 

「ふふふっ! 随分とお転婆なお嬢様なことで!」

 

 

 

 

――折角なので社長入りぬいぐるみを当時のように両腕で抱えながら、庭園を散歩することに。社長と話していると、子供の頃の思い出が幾らでも出て来ちゃう。

 

 

宝箱探しは、その道中出会った使用人に聞けばいいかなって。社長もそれに賛成してくれたし、ネヴィリーも動いてくれているから安心。

 

 

 

いや~しかし…あの時から大分様変わりしているとはいえ、変わっていないところも多い…! 洗濯メイド長には話を合わせるためにあんなことを言ったが、本当に童心に戻れそう…!

 

 

そうだ! あのアスレチックで思い出した。 実は他にも、私のために作ってもらった『生垣迷路』があったんだ。まだあるかな…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あった! ここですここ! さっき話した迷路!」

 

 

記憶を頼りに庭園を進むと、すぐに見つかった。かなりの敷地を使った、緑の壁……。

 

 

……あれ? こんな大きかったっけ…? 子供の時の印象と比べて小さく感じる、ならわかるけど…。

 

 

―いや、明らかに規模が大きい! え、これもしかして違う…? でも、場所はここだし……。

 

 

「看板あるわよ?」

 

 

と、ぬいぐるみの手を動かして先を示す社長。そこには立札が。『生垣迷路 入口』って…。やっぱりここで合ってる?

 

 

その様の変わりように首を捻ってしまう。すると――。

 

 

 

「おやお嬢様! もしや、久方ぶりにこの迷路に挑んでくださるんですかい?」

 

 

 

 

 

丁度その迷路入口から出てきた作業服姿の使用人が、私を見つけて朗らかな笑みを。彼はこのエリアの庭園管理長であり、この迷路を作ってくれたその人…!

 

 

「丁度良かった! この迷路、大きくなってませんか?」

 

 

「よくお気づきに! 実はお嬢様がここを離れられてから、少しずつ規模を広げさせて貰っているんですよ」

 

 

「何故…?」

 

 

私が居る時ならばまだしも、いなくなってから…? よくわからない説明に更に首を傾げると、エリア管理長は『一時期は取り潰しも案に合ったのですがね』と前置きして教えてくれた。

 

 

「この庭園、時折一般の方にも開放されますでしょう。その際にやってくる子供達に受けが良くて!」

 

 

あぁなるほど! 実はここ、時々皆に憩いの場として無料開放されるのだ。 貴族(ノブレス・)の義務(オブリージュ)の一つのようなものであり、庭園管理担当には腕の見せ所になり、衛兵たちにとっては良い訓練となるから。

 

 

「それで、複数の家族が同時に遊べるように巨大化させて頂いたんです。お嬢様にとっての思い出の場所を弄ってしまう結果となっちまいましたが…」

 

 

「いえいえ!そう言う事であれば是非に!  ―あ、そういえば向こうに合ったアスレチックも…!」

 

 

「同じ理由にございます。 最も、あちらは老朽化対策の手直しだけですがね」

 

 

そう朗らかに笑うエリア管理長。かつて私が楽しんだものが、時を経て皆に楽しまれているなんて嬉しくなってしまう。

 

 

 

 

 

しかし聞く限り、この生垣迷路は別物と化している様子。……当時からかなり難しかったのに…。

 

 

いや、難しいと言っても子供基準だけど。……クリアできなくて途中で泣いてへたり込み、使用人に助けてもらったことがある。

 

 

更に言えば、ある程度成長してからも簡単にはクリアできず…最後の手段、空に逃げて脱出をしたことも何度もあるのだ。

 

 

 

ただ、一般用に作り直されているのなら、もしかしたら簡単になってるかも……―!

 

 

「お嬢様、もし挑むのであればお気をつけあれ。 私共管理担当、少々興が乗っちまいまして…かつてより難易度がかなり増しておりますから」

 

 

―そんなことはなかった! 寧ろ難しくなっているって…!

 

 

「それ、一般の人達クリアできるんですか…?」

 

 

「正直申しますと……リタイア者もそこそこ…。一応詰まった時の対策は各所に用意してありますし、庭園開放時は私共使用人が上から見張っていますがね」

 

 

かく言う私も時折迷ってしまいます、と物凄い危険な台詞を付け加えるエリア管理長…。もしやこの迷路、ダンジョン並みの代物になっているんじゃ…。

 

 

「もし迷いましたら、遠慮なく空からの脱出を。 それに私は外周の確認をしていますんで、お声かけしてくだされば飛んでゆきますよ」

 

 

彼は深々と一礼し、そのまま迷路の外壁に沿って消えていく。さて……!

 

 

 

「社長、口出しは無用ですよ…!」

 

 

「あら! お手並み拝見!」

 

 

そう制し、深呼吸。社長も楽しそうに物言わぬぬいぐるみモードへと。

 

 

では、冒険者になった気分で……ダンジョン(生垣迷路)攻略開始!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あ。ゴールですねここ。看板がありますし」

 

 

「思ってたより凝ってたじゃない! 流石アスタロトの使用人!」

 

 

…なんか、普通に攻略が終わってしまった。迷路としては中々歯ごたえがある部類ではあったけど、特に迷いは…――。

 

 

 

「え゛っ!? お嬢様!? もうクリアしたんですかい!?」

 

 

――と、仰天の声が聞こえそちらを見ると…先程会ったエリア管理長。 丁度外周を確認して、ゴール付近までやってきたところらしい。

 

 

「速すぎませんかね…? ……大変無礼な問いかけでございますが…飛んでショートカットとかは…」

 

 

「しませんよそんなズルいこと」

 

 

「で、すよねぇ…! 失礼極まりない事を口にして申し訳ございません……。 ……迷路慣れしてらっしゃる……」

 

 

未だ驚愕冷めやらぬ様子の彼。別に迷路慣れするほど経験があるわけでは……。

 

 

 

――あ、そうか。私の場合、迷路慣れじゃなくて『ダンジョン慣れ』かも。

 

 

 

 

当然ながらダンジョンというものは、迷路上になっているものがほとんど。勿論、今まで訪問した各所も御多分に漏れず。

 

 

そして私達は仕事として、その中を巡っているのだ。つまり―。ダンジョンを、迷路を、何度も攻略しているのと同義なのである。

 

 

そういえば最近、どこが行き止まりになっているか感覚でわかるようになってきた気がする。まあ迷宮然としたダンジョンでは未だに迷うけど…。

 

 

それと比べれば規模が格段に小さいここ(生垣迷路)ぐらいなら、いつの間にか恐れるに足らずな腕前となっていたらしい。…魔物達の棲み処と遊具施設を比較するのは酷な気もするが。

 

 

 

因みに社長はミミックなので、多分踏み入った瞬間ゴールまでの道を把握できる。というか、明らかに把握してた。

 

 

口出しこそしてこなかったけど、正しい道を選んだ際に、時折さりげなく褒めてくれたし。

 

 

 

 

 

「いやまさか、お嬢様にこうも容易く攻略されてしまうたぁ…。しかも最短記録大幅更新で…。 もっと難易度をあげるべきか…? いやでも、既に私達でさえ地図無しじゃたまに迷うほどなのに……」

 

 

私の攻略速度が予想外過ぎたらしく、ブツブツと独り言を呟くエリア管理長。どう声をかけたものか……。

 

 

…あ、そうだった! 彼も使用人を統括する立場。本来の目的である宝箱の所在を聞いてみるチャンス!

 

 

決して、社長との庭園巡りが楽しくて忘れていたわけではない。では、コホン…。

 

 

「そういえば…宝箱を知りませんか?」

 

 

「え? あぁ…迷路の中にありますよ」

 

 

 

 

 

 

 

――あ、良かった。ここにあるんだ…。 ………………え゛。

 

 

「ここにあるんですか!?」

 

 

「うおっ!? は、はい…!!」

 

 

私が一気に詰め寄ると、ひっくり返らんばかりになるエリア管理長。そして恐々と首を傾げた。

 

 

「で、ですがお嬢様…迷路の中で見て来てはいないんで…?」

 

 

 

――??? なにか、話が嚙み合っていないような…。 私も首を傾げると、彼は何故か感服の息を。

 

 

「ということは、本当に迷わず迷路をクリアなさったと…。流石でございます」

 

 

やっぱりよくわからない…。迷路のクリアと宝箱の関係とは…? するとエリア管理長、こちらへ、と迷路の中へ手招きを……。

 

 

 

 

 

ハテナマークを頭に浮かべまま、彼についていく。彼は懐から取り出した地図を頼りに進み…え、そっちは多分行き止まり…。

 

 

眉をひそめ、ぬいぐるみ(社長)をぎゅっと抱きながら後を追う。かなり入り組んだハズレルートの行き止まりへ……―あっ!

 

 

「宝箱!!」

 

 

 

その行き止まりに置かれた台の上に、ぽつんと置かれているのは確かに宝箱。…ただ、社長の箱ではなかった。そこそこ立派だけど。

 

 

「先程、『詰まった時の対策がある』と申しましたでしょう。それがこれになります。 どうぞ、中身をご確認ください」

 

 

そう言われ、私は宝箱に近づき手をかける。…まさかミミックだなんてことは……なさそう。 触った感覚でわかる。

 

 

安心して蓋を開けると、中には…――。 あぁ、そういう…!

 

 

「地図ですね!」

 

 

 

 

束になっていたそれを一枚取り出し、よく見てみる。今の場所と迷路内の目印が幾つか示された、全部は描かれていない地図。 しかしこれがあれば、正しい道には辿り着ける。良い対策!

 

 

「迷路で行き詰った際に見つけて嬉しいものは何かと皆で考えましてね。思いついたのがこれだったんですよ。 ダンジョンみたいだって好評なんです」

 

 

御隠居様(アストの祖父)と先代魔王様による、あの著名なるダンジョン繁栄政策もありますしね。と微笑むエリア管理長。なるほど、我が家にとってはこれ以上ない方法である。

 

 

迷った末に見つけた宝箱は嬉しいだろうし、入っているお宝も攻略お助けアイテムでがっかりさせない。これは使用人たちの発想に拍手を送るべき!

 

 

 

ただ…残念ながら社長の箱ではなかった。ほんのちょっとだけ残念がっていると、エリア管理長は顔をカリカリと。

 

 

「ここで宝箱といえばそれなんですが…。お嬢様の様子から察するに、違ったみたいですね。失礼いたしました」

 

 

「いえ、説明もなく詰め寄ったこちらが悪いのです。実は――」

 

 

 

 

 

ということで、彼にも詳細を。しかし返ってきた回答は…―。

 

 

「存じ上げませんねぇ…。つい先ほど、庭園管理担当長達の定時報告会があったんですが…そんなことを匂わせた者は1人もいませんで。 それどころか、次に宝箱を借りられるのを心待ちにしているほどですよ」

 

 

私共に報告していなかったり、隠しているなら別でしょうが。と締めるエリア管理長。……やっぱり、そろそろそれを疑わねばならない…。

 

 

 

その考えは最初から端に浮かんでいた。使用人の誰かが、自分、あるいは自分達のためだけに社長の宝箱を回収したという可能性…。

 

 

その場合でも、責めるわけにはいかない。だって社長が『お好きにどうぞ』なんて張り紙でそそのかしたんだから。言うなれば自業自得。

 

 

ただもしそれが本当だった場合、捜索がとんでもなく困難。使用人一人一人を調べなければならないし、そのためには現当主である両親の命令が必要であろう。

 

 

できれば家族にこのことを明かしたくないし、そもそも使用人たちを疑うこともしたくない。…私としては、我が家の使用人がそんなことをするなんて未だに信じられないし…。

 

 

「…お嬢様…?」

 

 

…――ハッ。 いけないいけない。変な心配をかけるにはいかない。ここはとりあえず…。

 

 

「魔法の宝箱、庭園管理担当ではどんな使い方をしているんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――実は私共も幾つか箱を頂いているんですよ。それぞれのエリアごとに色々と」

 

 

欲を言えばそれでも数が足りないんですがね、と私を案内しながら頬を掻くエリア管理長。まあこれだけ広い庭園、必要数は掃除や洗濯担当とは比べ物にならないだろう。

 

 

 

どうやら丁度、その箱を使っての作業中とのこと。見せてもらうことになったのだ。迷路を抜け、少し進むと…他の庭園管理担当使用人も集まっている花畑が。

 

 

「今日はここから花を切り、または植え替え、各所へ配置するんですよ」

 

 

エリア管理長の説明通り、作業服姿の使用人が各々道具を持ちしゃがみ込んでいる。花を切り出したり剪定したり、植木鉢に移動したり。または別の場所から運んできた花をバランスよく植え直しも。

 

 

我が家の庭園が綺麗に維持されているのは、彼らの細やかな手入れがあってこそ。まさに頭が上がらない。

 

 

 

そして……ここにもあった。箱工房製魔法の宝箱。 花とシャベルが描かれたシールの貼られた、庭園管理担当専用品が!

 

 

しかもこの場だけでも、数が結構用意されている。箱ごとに番号が振られるほどに。 そして入っているものも様々!

 

 

 

使用人の1人に焦点を当てて見てみることにしよう。 まずは魔法の宝箱の一つに近づき…中から凝った装飾が施された植木鉢を引っ張り出した。

 

 

そしてそれを、横に置いてあった少々汚れ気味の宝箱に持っていき…。入っていたシャベルを持ち上げ、宝箱の中から土を掘りだしたではないか!

 

 

その取り出した土を植木鉢に一定量入れ、花畑の方に。丁寧に花を幾つか抜き、植木鉢に植え替えていく。

 

 

そして花が倒れないよう魔法で維持しつつ、再度土を少し入れて完成。今度はそれを…別の宝箱に植木鉢ごとよいしょと入れた…!!

 

 

他の使用人たちも同様の行動をし、その宝箱へ花が入った植木鉢を詰め込んでいく。ある程度入れられると、代表して1人が持ち上げ、どこかへと運んでいった――。

 

 

 

 

――その通り。植木鉢運び用、土運び用、完成した鉢の搬送用…。重量がかさみ手間がかかるタスクに、魔法の宝箱がフル活用されているのである。

 

 

いやそれだけではない。別の場所からの植え替え用の花移動にも使われているし、あそこで用いられているジョウロは、先程清掃担当で見た魔法のバケツと同じ能力とみた…!

 

 

もはや一家に一台とかいう次元ではない。庭園用だけで魔法の宝箱が何個あることやら!

 

 

 

 

……でも、私のあげた宝箱は見当たらない。一体何に使っているのか改めて聞いてみると…。

 

 

「普段は剪定した枝葉を運ぶのに使用させていただいております。長いのも硬いのも、箱に入れれば手間いらずに処理場まで持っていけますんで」

 

 

なるほど。更に細かく切断する必要も、ゴミ袋を突き破り面倒なことになることもない。便利である。

 

 

―けど、ならここへ案内するのは少し間違いなのでは…? 色んな使用法を見ることができたのは嬉しいが…。

 

 

「――ですが、今回はそれとは違う使い方になります。 あちらを」

 

 

 

 

私の考えを見越したように、手で示すエリア管理長。そこには私の箱を一つ抱えた、バトラー服とメイド服の使用人が。

 

 

作業服ではない彼らは、箱を台の上に。するとおもむろに水を入れ出したではないか!

 

 

何をしているのか注視していると、水はすぐに入れ終わった。そんなに沢山必要とするわけではないみたい。

 

 

―と、今度は剪定処理や質の確認が終えられている切り出された花を、箱の中に。どんどんと詰めていき……わぁ…!

 

 

なんと、宝箱からふんわり膨らむ形にフラワーアレンジメント! そのままどこかに飾っても良さげなそれを手に、彼らは私に一礼をして去っていった。

 

 

 

「切り出した花を屋敷内各所の花瓶へと運ぶために使っているんです。底に水を少し張り、花を優しく詰め込むと、あんな風に潰れることなく運べるんですよ」

 

 

ぼーっと眺めていた私に、エリア管理長はそう説明を。すると彼は、不思議そうに首を捻った。

 

 

「いやしかし、不思議なんですよねぇ。どれだけ大量に詰めても中身が潰れないというのもそうなんですが、底に入れた花が水に埋まることもなく、逆に上に入れた花が水に浸からないということもない。 どういう仕組みなんでしょうかね、あれ」

 

 

「すいません管理長ー! ちょっとこちらに…!」

 

 

「ん? 今行く! すいませんお嬢様、少し失礼いたします」

 

 

 

他使用人に呼ばれ、私から離れるエリア管理長。それを好機に、社長とこそこそ話を。

 

 

「社長、あの箱、どういう能力なんですか……?」

 

 

「いや私、あの箱に関してはほぼノータッチよ? というか、アストの魔法が元でしょ」

 

 

「そうですが、改良したのはラティッカさん達ですから……」

 

 

「そういえば…本人達も偶然できた産物だとか言ってなかった?」

 

 

 

…言ってた気がする…。まあ彼女達のことだから、強度検査や能力検査とかは徹底的にやってそうだけど…。恐るべし、というかもはや恐ろしき、ラティッカさん達…。

 

 

 

 

「お待たせしました。 …どうかしましたか?お嬢様」

 

 

「あ、いえ! 何でもないです!」

 

 

社長と話すために俯いてたのを不審がられたのだろう。戻って来たエリア管理長の声で慌てて顔を上げる。えーと、なんて言って誤魔化そう…。あ。

 

 

「あそこの花って…」

 

 

丁度目に入った花置き場を指し示す。そこにはこれまた剪定された花や、根の土が洗い落された花が。

 

 

「あぁ、あれは少し質の落ちたものや間引きしたもので。私共が戴き飾るか、一般の者に無料に配ります。 公爵邸の純度の高い魔力が潤沢に含まれているため、すぐに捌けますよ」

 

 

説明してくれるエリア管理長。それは私も知っているが…ちょっと思いついたことがあるのだ。すると彼も察したらしく、にっこりと表情を和ませた。

 

 

「あの時のように、作りますか? 花(かんむり)!」

 

 

「えぇ!」

 

 

そうそう! 子供の頃、間引き花を使って花冠を作ってたのだ! とはいっても簡単には作れず、彼に作ってもらったこともしばしば。

 

 

だけど今なら…迷路も簡単に攻略できる、成長した今なら! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ではお嬢様、引き続きお庭をお楽しみくださいねぇ!」

 

 

「はーい! 花冠作り手伝ってくれてありがとー!」

 

 

エリア管理長の声にそう返し、花冠を手にその場を後に。良いのが出来た…!

 

 

どの花をどこに絡ませるかのアドバイスを彼から逐一聞きつつ、お洒落で可愛いのをなんとか作り上げた。その出来栄えに満足していると、社長がひょっこり。

 

 

「お~! 凄く綺麗なの作ったじゃない! でもこれ、アストの頭にはちょっと小さくないかしら?」

 

 

褒めてくれながらも、そう指摘してくれる社長。ご慧眼である。確かに小さく作ったのだ。

 

 

「もう花冠を被る歳じゃありませんしね」

 

 

「あら、じゃあ腕輪用とか? にしてはかなり大きいけど…」

 

 

私の返しに首を傾げる社長。こういう時はちょっと鈍いんだから…。 えいっ!

 

 

「わっ…! あ、これ私に!?」

 

 

「そうですよ。プレゼントです! ―うん、社長をイメージして作った甲斐があって、よくお似合いです」

 

 

少女姿の社長に花冠はぴったりフィット。まさに可憐なる少女と言った装いに。……リビングアーマー型ぬいぐるみに入っているのは置いといて。

 

 

「…もう、一応私、アストよりもだいぶ年上よ?」

 

 

――あ、照れてる照れてる。わかりやすく言い訳して照れてる。そして…―。

 

 

「えへへ……。 ありがと、アスト」

 

 

にへっと、可愛らしい蕩けた笑顔を。二人で作り合ってたら無邪気顔を見せてくれるのだろうけど、思わぬ贈り物に怯んだこういう顔も良…――

 

 

 

「あら、アスト! 此処に居たのね!」

 

「アストちゃん、一緒にお茶頂きましょぉ~」

 

 

 

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