ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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アストの奇妙な一日:アストのお家(で☆)騒動⑨

 

 

はぁ…。まさかネヴィリーがそんなことをするなんて…。 なんだか、信じられない……。

 

 

別に怒りの感情を抱いている訳ではない。さっきも言った通り、彼女は良く守ってくれたと思う。社長のことは隠し通してくれたのだから。

 

 

それに見方を変えれば、母と祖母の助力を得られたともとれる。結果を見れば最良なのだろう。

 

 

 

……ただ、ちょっと困惑はしている。彼女なら、もっと上手く誤魔化せた気がするのだ。最も、その結果を見越して母たちへわざと開示したのかもしれないが…。

 

 

 

 

というか…ネヴィリー、どこを探してくれているのだろう…。 ここまで色々と回って来たけど、彼女の足跡はどこにもなかった。

 

 

勿論まだ探していないところが圧倒的に多いため、そこを捜索してくれているのかもしれない。…いや、もしかして…既に発見しているのかも? 

 

 

だからそのブラフとして、わざと母と祖母に話を……。 …いや、彼女の性格上そんな冗談はできないと思う。

 

 

 

 

 

 

まあ色々聞くため、一度ネヴィリーを探してみてもいいかもしれない。 そう考えていると、社長がそっと顔を出してきた。

 

 

「一旦、探すのをやめてみる? そうすれば見つかると言うのもよくある話よ」

 

 

「なんで他人事なんですか…」

 

 

「ごめんなさい。 でも、アストの気分を悪くしてまで無理に付き合わせるわけにはいかないもの」

 

 

「いや、別にそんな…。ただ、少し妙だなと考えていただけで…んむっ!?」

 

 

その先の思考を止めさせるように、社長は私の口を指で封じてきた。そしてぬいぐるみ頭部の花冠を取り…―。

 

 

「本当自分勝手だと思うけど…。私はアストと一緒に、楽しく探し物をしたいの。デートするみたいに、ね」

 

 

花冠を被りなおしながら、にへっと笑む社長。 その笑顔は……反則……!!

 

 

 

――うん。どうせタイムリミットは食事時まで。その時になればネヴィリーの真意もわかるし、箱の確保の有無もわかる。

 

 

そして見つかっていない場合は、社長が本腰を入れて探す予定。 正直言って、今こうしているのは箱探しが建前の我が家紹介(デート)。本気の捜索ではないのだから。

 

 

 

ならば、社長とのこの時間を楽しみ倒すのが吉。 よーし、気を取り直して!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それで、これだけ広いと蜂とか蛙とかもいますので、魔法で使役して遊び友達にしてました。使用人に見つかったら騒がれるので、隠れてですけど…!」

 

 

「なるほどね~。アストが最初からあんまり虫とかを怖がらなかったのは、既に慣れてたからだったのね!」

 

 

「ですね。因みにこのことは両親達にも隠し通せてました。だからさっきの母と祖母の思い出話には出てこなかったんです」

 

 

「ふふっ、あれ楽しかったわ! ぬいぐるみの中で何度も吹き出しかけちゃった!」

 

 

「あ、やっぱり笑ってたんですね! ぬいぐるみ震えてたんですから! もうちょっと堪えてくださいよ~」

 

 

「ごめんなさ~い! ね、他にもないの? アストのわんぱくエピソード!」

 

 

「直接聞きますそれ? そうですね…風魔法を習得した際、庭中の落ち葉を集めて葉っぱのベッドを作ったこととか、水魔法を学んだ時には噴水で遊んで、かなりの広範囲を水浸しにしたとか……」

 

 

「結構派手にやってるわね~!! 私も人の事言えないけど! 『箱入り』お転婆娘同士、惹かれ合う訳ね!」

 

 

 

残っていたお菓子を二人で食べつつ駄弁りつつ、庭園を再探索。時折出会う使用人にそれとなく箱の仔細を聞くことも忘れずに。

 

 

だが残念なことに、情報は無し。先程会ったエリア管理長曰く『庭園担当長達の集会ではそんな話を聞かなかった』なので、それも当然かも。

 

 

勿論、その後に誰かが持ってきていたとかもあり得るけど…。一旦置いておくとしよう。考え出せばキリがないし。その辺はネヴィリーがなんとかしてくれるはず。

 

 

 

それに甘えてこのまま庭園を遊び歩いても良いが、ここにはもう一か所探していない部署がある。そちらに向かってみるとしよう――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「はいやッ! はぁッ!」」」

 

 

気勢の良い掛け声と共に響くは、馬が駆け武器がぶつかり合う音。位置するは庭園の端の方。

 

 

ここにあるのは練兵所や厩舎、他諸々の施設。そう、我が家に仕える衛兵隊の訓練場である。

 

 

 

アスタロト家の私兵である彼らは、屋敷や庭園の警備、職務中の侍従役、各地へ赴く際の護衛、他貴族達への伝令、悪漢の鎮圧、力仕事の手伝い、時には魔王軍への助勢などなど――様々な責務を果たす。

 

 

そのためには、日夜の訓練が必要不可欠。雇っている側としては、その場を設けるのは当然のことなのだ。

 

 

 

因みに、私も幾度か利用したことがある。遊びの時もあったし、魔法修行のために借りた時もあった。

 

 

遊びと言うのは…馬車や騎兵用の馬が飼われているため、それに乗せてもらったり。あとは演習を応援したことも。

 

 

そうそう、お手伝いとして飲み物やタオルを運んだことも。 まさか時を経て同じことを、訓練中ミミック達へ行うことになるとは当時夢にも思わなかったけど。

 

 

 

魔法修行というのは…言葉通り。大きな魔法を試そうにも、部屋や屋敷、整備された庭園で放つわけにはいかない。

 

 

そこで、衛兵たちの横を間借りさせて貰ったのだ。戦闘に耐えられる造りだからいくらでも試せたし。時には彼ら相手に模擬戦をさせて貰ったりもした。…やらかしたこともあるが…。

 

 

 

 

 

庭園とは違う懐かしき思い出につい浸ってしまう。――と…。

 

 

「これはこれはお嬢様。お目通りが叶いまして幸甚の至りにございます。 また一段と可憐になられましたな」

 

 

にこやかに声をかけてくれたのは、一目見ただけで背筋に芯が通っているのがわかる、立派な白髪の老紳士。鎧を身につけ騎士然とした彼は、衛兵隊の教導役も務める衛兵長である。

 

 

あ、説明しそびれていたが…今社長が入っているこのリビングアーマー型ぬいぐるみも、実は我が家の衛兵の鎧がモデルだったりするのだ。

 

 

まあそれは置いといて。 丁度いい、彼に宝箱のことを聞いてみるとしよう―。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふむ…。いえ、そのような報告は受けておりませんな。 ネヴィリー殿の往訪も同じくにございます。 申し訳ございません」

 

 

「そうですか……」

 

 

まあ想定はしていたが、私の(正しくは社長の)宝箱の件は初耳。そしてついでにネヴィリーのことも聞いたが、訪ねて来てすらいないらしい。

 

 

……ネヴィリー、本当にどこに…。サボるような性格では絶対ないから、やっぱり既に確保済みとか…?

 

 

箱と彼女の行方について、そう眉をひそめてしまう。すると、それを見兼ねた衛兵長は片膝を突きー。

 

 

「お嬢様の美しい御顔が曇り続けるのは見過ごせませぬ。 無念にもお力にはなれそうにございませんが、せめて愛らしき笑顔の一助となりましょう」

 

 

そんな口上を述べ、先程も見せてくれた紳士的で優しい笑みを浮かべた。

 

 

「乗馬など、いかがでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

いいお誘い…! 文字通り、乗ってみることに。 子供の時を思い出す…。

 

 

――当時、嫌なこととかがあったら庭園に逃げ込んだりしたのだが…。時折、捜索駆り出された衛兵長に見つかってしまっていた。

 

 

ただそんな時彼は叱らず、今しがたのような科白をさらりと言いのけ、馬に乗せてくれたのだ。

 

 

カッポカッポと庭園内を歩む馬に乗っていると、普段よりも高い視点と心地よい風や揺れに心を攫われ、ご機嫌にさせてもらった。

 

 

当時は小さかったため、衛兵長が身を支えてくれたが…。今や一人で乗れてしまう。 やろうと思えばギャロップ(早駆け)だって。

 

 

とはいえ時間や事態の都合上、それは取りやめ。そもそも今着ているドレスじゃ出来ないし。今回はスカートの裾に気を配りつつ、当時のように庭園内を闊歩闊歩。

 

 

――ところで……。

 

 

「あのー?」

 

 

「はい、お嬢様。なんなりと」

 

 

「この、鞍の後ろについているのって、もしかして…」

 

 

付かず離れずで見守ってくれていた衛兵長を呼び、さっきから気になっていた、鞍の後方にくっついている箱を指し示す。今は社長入りぬいぐるみがスポッと収まっているそれを。

 

 

……なんだか社長、自身の箱に似た安心感を感じているのか、必要以上にでろんってなってるけど……。それはともかく、彼は答えてくれた。

 

 

「ご慧眼感服いたします。お嬢様より賜った『魔法の宝箱』と同じ種で、馬用の物にございます」

 

 

 

うん、知ってる。ネヴィリーにも売っているところを見せた、箱工房製品。 ケンタウロス達の元へ派遣したミミックから着想を得て開発された箱であり、その能力は―。

 

 

「どれだけ馬を走らせようとも、全くズレず落ちず。重きものを詰めても、馬に負担がかからぬという逸品にございます」

 

 

そう説明をしてくれる衛兵長。まさにその通り。 と、彼は更に誇らしそうに続けた。

 

 

「つい先日、他の大公爵家付きの衛兵との交流試合を行いましたが…。その際にそちらの箱を含めた『魔法の宝箱』の話を持ちだしたところ、我も我もとの買い付け騒ぎとなりまして。 いやはや、お嬢様の先見の明、鋭き見識には舌を巻くばかりでございますな!」

 

 

…うわぁ…いつの間に…! それはつまり、他の最上位悪魔族(グリモワルス)達の元にもあの宝箱が浸透していっているということ…! もはや、ミミックによる侵略と言って良いのかも…!? 

 

 

ただ問題は…あれらはラティッカさん達の気まぐれで作られるから、どこまで行き渡るか。……増産、お願いしてみようかな……?

 

 

 

 

 

 

 

あっと、そういえば…――。聞きそびれていたことを思い出し、そのまま衛兵長へ質問を。

 

 

「衛兵隊では、私があげた宝箱をどう使っているんですか?」

 

 

「主に水やタオル等を運ぶ際に使用させていただいておりますな。他にも、槍や剣、弓や鎧、飼葉等の運搬にも重宝しております」

 

 

なるほど、どれもこれも数が揃えばかなりの重量となる物。ここでも今や必須級のアイテムになっているのだろう。

 

 

更に聞くところによると、やはり衛兵隊専用の宝箱もあるらしい。馬に揺られてだいぶ気分も晴れたし、戻って見せて貰おう。

 

 

――ちょっと、他に見たいものもあるし…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで、馬を戻しぬいぐるみを抱えて練兵所の方へ。鍛錬に勤しむ衛兵たちの邪魔をしないように…あ、あったあった!壁端に置かれてる!

 

 

蓋が開けられ、中に様々な訓練用武器が刺さっている、衛兵隊専用品の魔法の宝箱。兵の鎧を模したカラーリングがされており、剣と盾をあしらったマークもついている。

 

 

……なんというか、今まで見てきた部署の中で一番宝箱っぽい…。訓練用とはいえ、武器が詰まってるのだから。ダンジョンに置いてあってもおかしくないかも。

 

 

 

 

――そして、話はがらりと変わってしまうが…。()()()…!!

 

 

「これを見ると…やっぱり恥ずかしくなりますね…!」

 

 

その、周囲とは微妙に色が違う壁を見ながらそう呟く。すると衛兵長は愉快そうに。

 

 

「私共は誇りに思い、励みとしておりますぞ。なにせ、お嬢様の偉大なる『戦果』でございますからな!」

 

 

「もう…。あなた相手の模擬戦でのやらかしを…この()()()()()()()()()()()()ことをそう美化しないでくださいよ…!」

 

 

 

 

 

 

……えーと…なんというか…。その……私のお転婆エピソードの追加と言うか……。

 

 

実は攻撃系の魔法を習得する度に、衛兵長を始めとした皆に相手をして貰っていたのだ。さっきも述べた魔法修行の一幕である。

 

 

それで…とある時に、爆破魔法の威力調節を失敗して…。この練兵所の壁に大穴を、というか一面きれいさっぱり消し飛ばしたことがあるのだ…。

 

 

いやー…あの時は本当に焦った。衛兵長を含めた皆が驚愕していたし、勿論両親にこってり絞られた。怪我人が出なかったのがせめてもの救い。

 

 

というか、相手が彼でなければ危なかったかもしれない。彼が爆破魔法を細かく刻んで分散縮小させてくれなければ、この練兵所丸々吹っ飛んでいたかも…。

 

 

 

まあここにはダンジョン魔法等を応用した復活魔法陣や空間魔法、治癒魔法領域や防御魔法結界とかがあるから安心ではあるのだが…危険だったのには変わりはない。猛省である。というか猛省した。

 

 

それで、壊れた壁は作り直され今に至るという訳で。個人的には恥ずかしいから建て替えて欲しかったのだけど…それは私の我が儘だし、衛兵長が今口にした通り、皆まるで勲章みたいな扱いをしてくるから…。

 

 

 

自分から見に来たというのに、そんな恥ずかしエピソードに身を悶えさせてしまう。…まあ私も心のどこかでちょっと自慢にしているのかもしれない…。

 

 

自分の内心にそう苦笑していると……思わぬことが起きた。なんと衛兵長が突然片膝をつき、首を垂れだしたのだ。

 

 

(はばか)(なが)ら、お嬢様にお願い事がございます。 ――どうか今一度、私と立ち会ってくださいませんでしょうか」

 

 

 

 

 

 

「ええっ!?」

 

 

まさかの申し出にびっくり。まさか彼から模擬戦のオファーをしてくるとは…!

 

 

「私はお嬢様方を守護する剣にして盾。その身でありながらこのような懇請をするのは烏滸(おこ)の沙汰にございましょう。――ですが…」

 

 

そこで顔をあげた衛兵長。その瞳は感動に揺れているような…。

 

 

「その壁と、成長なされたお嬢様を見比べましたらつい目頭が熱くなりましてな…! 私の見立てでは、お嬢様のお力は当時より飛躍的に上昇しておりますようですが…如何ですかな?」

 

 

「まあ、魔法の鍛錬は続けていますから……。…他にも色々と…」

 

 

ちょっと誤魔化したけど…。会社では一部のミミック達に魔法を教えたり、訓練では冒険者の魔法攻撃役として仮想敵を務めたりもしている。強くなっている実感もあるし、彼の目は正しいと思う。

 

 

「実にご立派でございます。 そして不埒ながら…その一端を、お嬢様の成長の証を、我が身をもって賞翫(しょうがん)させて頂きたく存じます…!」

 

 

そう再度頼み込んでくる衛兵長。グリモアお爺様を魔法の師とするならば、彼は戦闘法の師のようなもの。成長を見せるのは吝かではないのだが……。皆見ているし…。

 

 

(やっちゃいなさいな、アスト! 雄姿を見せる絶好のチャンスよ!)

 

 

――また、社長のそんな合図が。なら良いか。期待に応えることとしよう!

 

 

 

 

 

 

 

ということでぬいぐるみの中から魔導書を取り出し、そのぬいぐるみ自体は丁度良く開いている魔法の宝箱の蓋部分に安置。

 

 

うん…!鎧姿のぬいぐるみだけあって、箱に入っている模擬武器群とベストマッチ。更に宝箱だから、普段の社長らしくもあるかも。

 

 

―おっと、一応全体に張ったバリア魔法をここだけ厚めにと…。これは流れ弾対策。社長の実力なら簡単に回避できるだろうけど、下手に動いて正体がバレたら困るし。 そもそもそんなこと無いように気をつけるが。

 

 

 

あ。そんな準備をしている間に、話を聞きつけた兵や使用人が集まってきている…! なんだか恥ずかしいというか…面映ゆいというか…。

 

 

「お嬢様、手加減は無用にございます。 あの時のような壁を吹き飛ばす一撃も、此度は全霊を以て受け止めて見せましょう!」

 

 

そんな中、離れた位置で剣を構える衛兵長。立場上彼は私の攻撃を捌くだけに留めるだろうが、中々に本気の様子。オーラ出ているし。

 

 

「流石にそこまでしないように気をつけますって…。―けど、手加減無用はそちらもです。あの時のように、その胸、お借りします!」

 

 

私も深呼吸し、魔導書を開く。こちらも負けじとオーラを放つようにし、全力詠唱―!

 

 

 

「『我が分身よ、眷属よ、召喚獣よ。その力を以てして、彼の者を圧倒せよ!』」

 

 

 

――刹那の内に呼び出したのは、戦闘モードの私の分身体、武器を手にした下位悪魔達、唸りをあげるヒュドラ。更にガーゴイルや妖精、竜牙兵(スパルトイ)などなども用意。

 

 

「「「おおぉ……!!」」」

 

 

それを見て、仰天と歓声が入り混じった声をあげる観戦中の使用人達。なにせ私の周りには、この場の兵数を優に凌ぐほどの戦力が立ち並んでいるのだから。

 

 

けど、それだけにはとどまらない。空中に複数の攻撃魔法…カリュブディスの如き渦潮を引き起こす水魔法や、ロック鳥が放つような暴風を内包する風魔法、ドラゴンブレスに匹敵する炎魔法、そして因縁?の爆破魔法も準備完了。

 

 

――なんだか、ボス気分。これでも魔王様や社長には遠く及ばないだろうけど…。中ボスぐらいなら張れるかも。ふふっ。では尋常に――。

 

 

 

「「勝負!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはやいやはや! 予想を大幅に超える腕前でございましたなお嬢様! 私、捌くので精一杯でございました!」

 

 

「よく言いますよ、全部捌き切っておいて!  まだまだですね、私も」

 

 

「いえ、私の言葉に嘘偽りはございませぬ。一瞬たりとも気を抜くことができませんでしたからな。流石お嬢様、御隠居様方や御主人様方を凌ぐ魔法の才にございます」

 

 

「過大評価ですよ。 ――まあでも、あなたの鎧に傷をつけてしまったのが嬉しいような申し訳ないような…」

 

 

「はっはっは! お嬢様、これこそが『名誉の負傷』というもの。文字通り身をもってお嬢様の実力を堪能させて頂きました!」

 

 

かいた汗をタオルで拭い、貰った水に口をつけながら衛兵長と談笑。結果は会話の通りである。とりあえず満足して貰えたようでなにより。

 

 

 

見学していた兵達も、先程の闘いの感想を口々に言い合っているみたい。 …どれどれ、ちょっと無作法だけど、聞き耳を……。

 

 

「いやしかし…お嬢様があれほどまでの力を持っていらしているなんて…」

 

「全くだ…。 これ、俺達が守る必要ないんじゃないか?」

 

 

あはは…。まあそう感じられても仕方ないかも…。 あえて言い訳をするなら、ダンジョンとかでは部下魔物よりもボスである魔物の方が何倍も強いのが普通みたいな風潮あるし…。ほら魔王様とかも、多分魔王軍総兵よりもお強いだろうから…。

 

 

 

苦笑いをしつつ、それを聞き流すことに。――が、同じく耳を傾けていた衛兵長が顔厳めしく彼らの元に…?

 

 

「馬鹿者! 我らの存在意義を履き違えるな! 我らはお嬢様方の剣にして盾、お手を煩わせぬためにいるのだ! 心せよ!」

 

 

「「はっ! 申し訳ございませんっ…!!」」

 

 

そう叱りつける衛兵長。そして戻って来た彼はその兵達に代わり私へ謝罪の言葉を。こちらもそれを許す云々のやり取りをしたのだが…。その際に衛兵長は安堵の息を吐いた。

 

 

 

「―しかし、お力を拝見し安心いたしました。 護衛兵なしでのお勤め、よもやの事態を気にかけておりましたが…あれほどであれば、何人たりとも敬意を払いましょう」

 

 

あぁなるほど…。突然の申し出の裏にはそんな想いが。要は試されていたというわけである。色々と心配させてしまって…。

 

 

「……それと同時に、私の実力不足を痛感致しました。 仮に差添えさせて頂いていたとしても、寧ろ重荷となりましたでしょう」

 

 

「今度は過小評価し過ぎですよ…」

 

 

そう口にする衛兵長にツッコミを。すると彼は感謝と面目なさが入り混じったような微笑みを浮かべた。

 

 

「そのお言葉が身に染みます。 ですが…お強きお嬢様を文句なくお守りできるのは、お嬢様より更に力のある方だけでしょうな。 最も、そうはおりませんでしょうが…」

 

 

 

 

…………いる。そういう方…。すぐ近くに…。そこのぬいぐるみに入ってる……。

 

 

 

 

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