ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
「あの衛兵長さん、強かったわね~! 多分、魔王軍幹部並みの力はあるわよ?」
練兵所を後にし、再々度庭園でぶらり歩き。ひょっこり顔を出した社長は、もう一本貰って来た水を飲みつつそんなことを。そして、私へパチリとウインク。
「そしてそれを追い詰めたアストも、ね!」
「追い詰めさせてもらっただけですよ…!」
「またまた~! あなたも攻撃威力抑え気味だったでしょうに!」
「バレてましたか…。 当時みたいにあそこを破壊するわけにはいきませんから」
「ふふふっ! 前に私に言ってくれた、『秘書職を辞めさせられそうになったら、家を半壊させるほどの親子喧嘩も辞さない』っての、実際にできるのが改めて判ったわ!」
「茶化さないでくださいって~!」
私も水を口にしつつ、社長抱えてのんびりと。たまにそよいでくる花の香を乗せた柔風が、まだ少し汗をかいたままの体に気持ちいい。
……あ…。ちょっと、まずいかも…。なんだか、また眠くなってきちゃった…。
朝早かったのもあるし、両親達の呼び出しへの緊張もあった。さっきベッドに寝転がった時にも眠くなったが…あの時は社長の登場で目が覚めた。
そして色々あって、こうして家の各所を巡っているのだけど…。そこそこ歩いて、お菓子を歩き食べとかして、今しがたは沢山の魔法をこれでもかと放ってきた。
そのおかげで、心地よい疲労感が加わって……なんだか……ふわぁぅ…………。
「ふわあぅ…ぅ……! ふふっ、私にも欠伸うつっちゃった! ね、アスト。おすすめのお昼寝スポットとかないの?」
私に続いて欠伸をした社長は、おねむなトロン目でそう聞いてくる。もう、一応箱探し中なんだけど…。
「ありますよ。良い場所が!」
「良かった! ここもそのまま!」
ということでやってきたのは、庭園内のとある大木の下。よく利用していた当時のままに維持されている。
触れ心地が良い芝生の上に腰を降ろし、背をその大木に寄りかからせる。うん…! この幹の少しへこんだくぼみがフィットするのも変わらない…!!
子供のころ、そして成長してからも、私はここを微睡みの場所としていた。木漏れ日に身を暖められ、葉の揺れる音が心を癒してくれる。
そして周囲で戯れている妖精達が、私を見つけると寄って来てくれて、一緒にお昼寝をしてくれる。 そして今も変わらず…!
「わぁ~! ぬいぐるみに座ってきた! 可愛い~!」
妖精達に囲まれ、きゃっきゃっと笑う社長。勿論、私の周りにも。……懐かしい。そして、念願が叶ったかも……!
ふふ…! 実は心のどこかで、こうして社長と実家でお昼寝をしたいという思いがあったのだ。大好きな彼女と一緒に、大好きな場所で。今日、こんな形で叶うとは思わなかったけど。
それに、社長は大好きなぬいぐるみに入ってもいる…! 天気も最良だし、気持ちもこれ以上ないほど至福……!!
私は社長を背後からぎゅーっと抱きしめるようにして……社長は私に身体を預けるように…して……瞼を……。
…………すやぁ……。
「――…嬢様。 お嬢様。 風邪をひかれますよ。起きてくださいませ」
「…ん……もう少しだけ……」
……仄かに聞こえてきた誰かの声に、微かに起きた頭でそう返す。すると、更に返答が…。
「そのようなことおっしゃらずに。 …ミミン様も御一緒なのですから」
……っへ!? そのことを知っているのは……ただ一人!!
「ネヴィリー!?」
思わず飛び起き、声の主を確認する。そこにいたのは私の傍で正座をする、眼鏡をかけた彼女…!
「お目覚めになられましたか。お食事時はまだもう少し先にございますが、そろそろ日が傾き出す頃合い。これ以上はお身体に障ります」
そう言われ、時間を確認してみる。そこそこ寝ていたみたい…。気持ち良かった……。ふわぅ…。
「ん…くぅうぅぅっ…! あ、ネヴィリーさん…おはようございますぅ…!」
と、丁度目覚めたらしい社長も伸びをし目を擦りながら顔を出す。そしてまだ若干寝ぼけた様子で、ネヴィリーに聞いた。
「私の箱…見つかりましたかぁ……?」
「それは――。 申し訳ありません、まだにございます。 お嬢様のお部屋前を通りかかった、または付近で作業中の使用人を割り出し、1人1人に探りをいれているのでございますが…」
そう頭を下げるネヴィリー。なるほど、彼女は部署にではなく、個人個人に箱の行方を尋ねてくれているらしい。ならば各所に彼女の足跡が無かったのも納得かも。
……あ、そうだ!
「ネヴィリー! 箱の件、お母様とお祖母様に話したでしょう…!」
先程の母たちとの会話を思い出し、つい持ちだしてしまう。すると彼女は土下座せんばかりに。
「大変申し訳ございません!
いや、そこまで咎めている訳じゃ…! どう宥めるか慌てていると、完全に目を覚ました社長が先に動いてくれた。
「本当、お手間をかけさせてしまってごめんなさい。 時間になりましたら私が解決させますから、そう気負わないでください!」
ドンと胸を叩く社長。 ――が、それと同時に……。
ぐぅ~~っ……。
「あっ…!」
急いでお腹を抑える社長。そしてテヘッと舌を出し、おずおずと私の顔を窺ってきた。
「お腹空いちゃった…。 ねえ、アスト……」
「ふふっ! 厨房に行って、何かつまみ食いさせて貰いましょうか!」
それに笑いつつ、そう答える。宝箱探しを始める前は駄目だって注意したけど…。それはどこかに吹き飛んでしまった。
…だって、私も結構お腹が減ってしまったし…! 社長と一緒に家や庭を巡って遊んでお昼寝したら、完全に童心に戻るスイッチが押されてしまった…!
残り時間もだいぶ減ってしまったけど…
――早速家の中へ戻り、厨房へ。そっと覗き込むと、我が家のコック達が腕を揮っている真っ最中。
特に今日は私が帰ってきたと言う事もあり、一際豪勢にする気らしい。ここからでもそれがわかる。…私もお腹の音鳴りそう……。
そして……あるある! 我が社のミミック箱、料理用バージョン! サーブ用の保温容器…銀色でドーム型の蓋をしているクローシュとか、先程も見たポットとか。冷凍品を運ぶためのクーラーボックスも置いてある!
ここにもしっかり侵蝕しているらしい。流石我が社のミミック箱…!
……そういえば、社長の食事はどうするべきなのだろう…。この状況、席を用意するわけにはいかないし…。
当人が設定したこのデートのタイムリミットは、そろそろに迫る夕食時まで。つまり、私と共にご飯を食べる気はないということだと解釈していいはず。
無論社長の事、やろうと思えば盗み食いも出来るし、そんなことをしなくとも我が家を抜けて街へ出れば幾らでも食事処はある。
その辺の考えは聞いてみないとわからないが…。折角来てもらったのにアスタロト家の食事でもてなせないのはとても残念。
うーん…。社長次第だけど、食事後にコック長辺りに頼んで何か作ってもらおうかな……―。
「おやお嬢様! お食事の時間はもう少し先ですが……」
――そんなことを考えていると、そのコック長に見つかってしまった。それに対しちょっと照れていると……彼女はにっこりと心得たような顔に。
「ゆっくりと味わえる一品をご用意いたしましょうか。それとも、お手軽に持ち運べる品に致しましょうか?」
「持ち運べる方で…! ちょっとがっつりめで、あと、多めにお願いしていいですか…?」
「承知いたしました。 少しばかりお待ちくださいませ」
私の回答を聞き、さっと厨房内に戻っていくコック長。この時間にやってきて厨房を覗く、その真意を彼女はわかってくれている。
…というか、私、子供の頃からこうしてつまみ食い依頼をちょこちょこと…。遊びほうけたり、魔法の練習したりすると無性にお腹が空いて…!
そう言う時にコック長はすぐに応えてくれ、簡単なパスタやプリンとかを用意してくれた。その背徳の味は格別。
また、両親やネヴィリーとかに見つかりそうな際には、持ち運んで隠れて食べられる小さいライスボールとかクレープとかを用意してくれたのだ。楽しかった…!
……まあそんな過去を持っているため、我が社の食糧倉庫でのつまみ食いを叱れない訳で…。そして市場での食べ歩きに抵抗がない理由でもあって……。
…………ただそれに慣れた一番の理由は、やっぱり社長達の影響なのだけども……。
「お待たせいたしました。野菜クロケットにフランクフルター、そしてプチシュークリームにございます」
――と、コック長が戻って来た。手にした二つの紙袋にはそれぞれ、揚げたてサクホククロケット&焼き立てつやつやフランクフルト、口の中に入れたらじゅわんと甘く弾けそうな一口サイズシュークリーム複数個…!
流石コック長、良いセレクトだしとても美味しそう…! ……でも…。
「あの…もうひとセットお願いできますか…?」
おそるおそるコック長に追加のお願いを。1人分としては充分だけど、二人でわけるには少し少ない。社長もお腹ぺこぺこだろうし…。
「…間食をし過ぎますと、御夕食が入らなくなる恐れがありますが……」
「大丈夫です! お腹凄く空いてますから! 倒れそうなぐらいに!」
驚くコック長にそう冗談めかして返すと、彼女はクスリと。そして一礼と共に再度厨房へ。 少しして、同じセットを作って持ってきてくれた。
「ではこちらを。 ――なんだか、嬉しいものです」
「へ?」
軽食セットを渡してくれながら、微笑みを浮かべるコック長。私が首を捻ると、彼女は懐かしみながら話してくれた。
「お嬢様が小さい頃より、こうして軽食を手掛けてまいりました。時には此度のように、沢山所望なされまして…」
う…! 確かに、増量の無心は幾度もある…。しかも今回は社長の分として増やしてもらったが、当時は全部自分で食べるため…。さっきの台詞も、その時恒例のお願い文句だったわけで…。
それだけ間食をすれば、今しがたのコック長の心配通り、ご飯食べられなくなるんじゃないかって? それは問題なかった。少なくとも記憶している限りでは――。
「そしてその際には同じように、お腹具合の心配をしたものですが…。それは杞憂に終わり、必ずや食事を完食してくださっていただけました。 料理人冥利に尽きるというものです」
喜びを嚙みしめるようなコック長。彼女の言う通りで…体調不良とかじゃない限り、食事を残したことはない。それだけ遊び回ってお腹を空かせていたという訳なのだけど…。
……なんか、そこだけ聞くと私が食いしん坊みたいだが…。ある程度体型を気にする歳になってからは運動やヨガを心掛けているし、魔法も活用している。今もスタイルを維持してるし…!!
誰に責められてる訳でもないのに、内心勝手に言い訳をしてしまう。 と、コック長は急に声の調子を下げて…。
「お嬢様がお仕事のために屋敷を離れられてから…こう言っては何ですが、作り甲斐が少々減ってしまいまして…。私共は少し寂しく…」
あー…。食べ盛り?の私がいなくなれば、残っているのは父母と祖父母。そう沢山食べる御年でもないのは確かだし…。 そう納得していたら、彼女は逆に声の調子を上げだした。
「ですが…今のお嬢様を見て、心の底より嬉しくなりました。当時と同じく、ぬいぐるみを抱えられてお腹を空かせてくださって…! きっと、この後のお食事も美味しく召し上がってくれることでしょう!」
あはは…。勿論美味しく頂く気ではあるけど…。責任重大な感じである。 ……そうだ、冗談で返すついでに、ちょっと社長の食事についても布石を…。
「もしかしたら足りないといって、夜食をお願いするかもしれませんよ?」
「おぉ…! ご心配は無用です!ご用命があれば即座に! それに、御夕食は御主人様方からの命で、多めに作ってございます。 どうぞ、お楽しみに!」
それは良かった。社長の食事は用意できそう。自室に運んでもらえば、気兼ねなく……え?
「お父様方が、そんなことを?」
「はい。理由は存じ上げませんが、そのような指示を頂きました。恐らくですが…お嬢様のためかと」
…私を太らせて食べる…ということはないので、もてなすためであろう。どのぐらい用意されるかわからないけど、暫く食生活に気をつけるべきかも…。
……最悪、社長主導の訓練に参加すればすぐに痩せそうだけど…。あれえげつないし……。
「ささ、お嬢様。冷めてしまいます。どうかお好きな場所でご堪能くださいませ」
両親たちの指示、そして今後のダイエット展開についてを考え苦笑いを浮かべていると、コック長がそう勧めてくる。
そうそう、折角出来立てを貰ったのだ、美味しいうちに頂かないと。懸念事項が一つ解決したのだから、安心して――…
…あっと、忘れかけてた。食べる前に……!
「実は、宝箱を探してまして…――」
「――残念ながら存じ上げませんね…。 お力になれず申し訳ございません」
「いえいえ! こんな美味しそうなおやつを頂けたのですから!」
結果としては、やっぱり行方不明のまま。もう半分諦めて社長に託す気満々だから良いのだが。…そういえば―。
「私のあげた宝箱とかはどう使っているんですか?」
「主に食材等の買い付け、及び搬入に使用させて頂いております。この厨房では各使用人の食事も作っていますため、大変助かっております」
礼を述べるコック長。確かに全員分の食材ともなれば、重量はとんでもないことになるのは必至。専属の業者に頼んだとしても、食糧庫や厨房にそれらを移動させるのは骨の折れる作業。
けど、魔法の宝箱さえあれば自由自在となる。足りない物の急な買い付けだって楽々。 因みに我が社では、ミミック達のお手伝いとしてそれが行われていたり―…。
「他にも、ピクルス等を漬け込む際に使用させて頂いておりますね」
「えっ…! ピクルスを…!?」
コック長の追加の一言に、つい驚いた声を出してしまう。彼女は嬉しそうに手を合わせた。
「はい。それがとても便利でございまして…! 使用人達の分を含めると相当量となるため、使用する瓶の数も相応に必要としていたのですが…」
そこで私に少しお待ちを、と声をかけた彼女はもう一度厨房へ。そして抱えて持ってきたのは、詰め込まれた野菜でカラフルに染まった大きな瓶。
「その魔法の宝箱シリーズにこのような巨大瓶や壺がございまして、転用してみましたところドンピシャリというか…! これ1つに必要分が全て収まり、しかも中身が全て均等に漬かるのでございます!」
そんな使用法もあるとは……! 感心していると、コック長は更に熱弁を。
「おかげで一つ一つ瓶や壺の中を確認する手間が省け、様々な種類の漬物を用意しやすくなりました! 更に重量を気にする必要もなくなり、保管庫にも大きな余裕が…!」
……これ、逆に我が社でも使えるかも…。 我が社に在籍するミミック達の数はアスタロト家の使用人の数を優に超えているし、漬物系を食べる子も多い。
故に、それを作るのは結構手間らしい。けど当然ながら、瓶や壺代わりにミミックの誰かを酢漬け糠漬けにして作るわけにはいかないし…。
…自分で言ってなんだけど、かなり非道な…。でも派遣先で喜んで蜂蜜漬けとかになってる子はいるか…。
――それはともかく。ピクルス宝箱(仮称)は中々に良いアイデア。社に帰ったら、早速食堂のポルターガイスト達に伝えてみようっと。
しかしまさか、ミミック箱の活用法を、ミミックの欠片も関係ない我が実家で学ぶ時が来るとは…! どこに閃きがあるかわからないものである。
別に
……そして逆説的に考えると…やっぱりミミックって、どこにでも潜めて活躍できるんだなって…。