ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
「いやー! この決め台詞言いたくて、推理的なことさせてたんですものねー!」
「ふぁっふぁっふぁっ! 上手くいったなぁ!!」
……素っ頓狂な声を出した私を余所に、社長と、その社長入り宝箱を抱えたお祖父様は笑いあう……。え…えええぇ…………。
なんでお祖父様がここに…? いやそもそもここはお祖父様の隠し部屋だから、不法侵入者は私達の方で…! 怒られる…!?
というか…入ってきたタイミング的に、もしや部屋の外で待機していた…!? もう火を見るよりも明らかだけど、やはり社長とお祖父様は完全にグル…。
って、お祖父様もうだいぶ御腰が悪いのだから、社長を持たせるわけには…!! というか、なんかズルい…! お祖父様が社長を抱っこするのも、社長がお祖父様に抱っこされるのも…!!
なんか色々言いたいこと思うことがわんさか浮かんできて、軽くパニック状態に…! するとそんな折、お祖父様の背後よりもう一人が姿を――。
「お父様、ミミンさん、この場はもうその辺りで。 ほら、アストが困っていますから」
「お…お母様…!!?」
――その正体に、またもびっくり…! いやもう、さっき聞いた社長と私の家族との関係からして、おかしくはないのだけど…まだ頭が上手く追いついてないというか……。
つい口を開けっぱにしてしまう私に、お母様は少し謝るような微笑みを。そして、再度お祖父様へ語り掛けた。
「予定通り、説明…真相語りはリヴィングルームにて行いましょう。 あまりここに長居しますと、流石に使用人達に怪しまれますもの」
「ふむむ。そうだなぁ。 ――あの二人も、既に揃っているか? 堪え性のないあの二人は」
お母様の進言に、皮肉の笑みを浮かべつつそう返すお祖父様。……堪え性の無い二人? 私が首を捻っていると、お母様は軽く噴き出した。
「えぇ、勿論。 お母様もカウンテも、諸々の手回しを済ませ待機しているはずですよ。 ……今頃、ネヴィリーにこってり絞られているかと!」
……その二人とは、お祖母様とお父様のことらしい。 堪え性……。 そして、ネヴィリーって……。……流石に推理はつくが……。
少なくとも、今の台詞で明確になったことがひとつ。今回の『仕組み』、私の家族総ぐるみ且つ、一部においてはネヴィリーすらも関わっているということ。
――いや寧ろ…今までの動きから察するに、彼女は実働役であったのだろう。もう……。 色々なことに呆れていると、お母様がちょいちょいと手招きを。
「ということでアスト、そのぬいぐるみを持ってママ達についてきて頂戴ね。 あ、その写真は…」
「一応グリモワルス最大の機密。元に戻さんとなぁ。 ミミンや、降ろすぞ」
「はーい、ペイマス様!」
元気よく返事をし、お祖父様の腕の中からぴょんと飛び降りた社長。そのまま机の上に戻り…あ、ぬいぐるみを箱の中に仕舞ってくれた。
「これで、アストがこのぬいぐるみを保管するために宝箱を探し回っていたということになるわね!」
あぁ、なるほど…! 使用人達への良い言い訳になるかも…! ――わ…! 手にしていた三枚の写真が浮遊しだした…!
どうやらお祖父様の魔法の様子。写真はそのまま本棚へと向かい……えっ!? 本棚の後ろに!?
「あの後ろ、更に隠し金庫があるのよ。その中に
……なんでか社長が説明してくれた…。 何故知ってるかを聞くと―。
「だってさっきそこ通ったもの! にゅるんって!」
……あぁ、なるほど……。さっき本棚の上から消えたと思ったら、本棚裏の僅かなスペースを移動してたらしい…。流石……。
思わず、感心と呆れが合わさった苦笑いを浮かべてしまう。 社長はそれを余所に、思いついたように手をポンと。
「そうだペイマス様! もしよろしければ、我が社で作った金庫は如何ですか? 危険素材を入れるのに使っている物ですが、強度は私を以てして折り紙付きですよ! 勿論、無償で差し上げます!」
……お祖父様に営業?をかけだした…。 感心呆れが止まらない……。
―――…えーと……。 とりあえず、リヴィングルームに移動してきました……。 先程の隠し部屋は厳重に閉じられ、元通りに。
え、さっき社長が営業かけていた金庫について? 無償だし、最強トリオ一角の社長お墨付きだし、私も(現状に混乱したまま)後押ししたこともあり、晴れて贈呈決定した。 まあそれはいいとして。
ソファに腰を降ろし一息ついたおかげか、私もある程度落ち着きを取り戻した。……本当にある程度だけど。
ということで心と真相の整理がてら、今のこの部屋の状況を伝えていくとしよう。驚愕と興奮でついやっていた、モノローグの『私の家族への様付け』も戻してと―。
時刻は夕食時間際。 厨房から微かに美味しそうな香りが漂ってきている気がする。 因みに先程満たした小腹は、一連の出来事で既に消費してしまったみたい。
今、このリヴィングルームは完全な人払いがされており、使用人は1人以外いない。もっと言えば皆、部屋の周囲からも遠ざけられている様子。
更に、扉も窓もしっかり閉じられている。 とはいっても、隠し部屋を開けた時みたいな迎撃魔法等はないのでご安心を。
そんなこの場に集うは、この件の関係者のみ。 即ち、真相を胸に隠した『犯人達』――。
――と、仰々しくしてみせたが…もはや説明の必要はないだろう…。全く……。
まず、安楽椅子に腰を降ろした祖父。そしてその横には祖母も同じく。お二人は私が帰って来て早々の顔合わせ時と変わらぬ位置。
対して変わったのが、父と母の席。 最も正しくは、私が違う席に座っているのだけども。
顔合わせ時、私は促され母の傍に腰かけた。けど今は、傍ではなく向いの席に。代わりに、父が母の横へ。
加えて…その二世代の後方に控えるように、この場唯一の使用人、ネヴィリーが。粛然としたいつもの立ち姿である。
……さっき、母が冗談めかして、ネヴィリーが祖母と父を叱ったと言っていたが……どうやら本当らしい。だって祖母と父、明らかにしょぼんと反省している様子だもの……。
―――そして……犯人はもう1人。それは今、私の横の席にちょこんと座って…もとい、安置されている……。
「よっと! このドレスに袖を通すの、いつ以来かしら!」
……宝箱の中から姿を現した、明らかに謁見用と思われるドレスに着替えた、ミミン社長…!!
「―――改めまして、皆様方。 此度はお招きいただき有難うございます。種族上の都合により、箱の中からの御挨拶となってしまいますのをお許しくださいませ」
……わ……箱に入ったまま、楚々とした所作で祖父達へ礼を捧げる社長…。こんな社長、初めて見た……。
だって、魔王様に謁見した時にすらこんな態度とってなかったもの…! それに、そのドレス…!! そんなの持ってたんだ……!
まあ
だがそうだとしても……そして我が家がアスタロト一族だとしても……社長がこのような振舞いをするなんて…。 なんだか、凄く新鮮…!!
「気にせず楽にしてくれ、ミミンや。 お前は我らにとっても大切な友人。 どうか、自らの家…もとい、魔王城や、会社でのようになぁ」
「そのようなお言葉を頂けまして、この上なく幸せにございます。 ですがその前に一つ。 今日にいたるまでの皆様方のお力添え、心より感謝申し上げます」
祖父の言葉に深く一礼をし、そう謝辞を述べる社長。すると今度は祖母が口を開いた。
「いえいえ、ミミンちゃん。それはこちらの台詞よぉ。 計画に乗ってくれてありがとうねぇ」
……計画、か…。 その一言に苦笑いともとれない微妙な表情を浮かべ、社長と祖母のやりとりを眺めていたら……ふと気づいた社長が微笑み、皆へ切り出した。
「では、その『計画』のターゲットに嫌われない内に……種明かしといきましょう!」
「さてアスト! 計画の詳細と真相を話す前に、まずはお浚いね!」
あ。いつも通りの社長に戻った。服はドレスのままだけども。 ――お浚いというと…。
「さっきも説明した通り、私はマ…じゃない、当代魔王様と子供の頃からの仲。それにあやかって、アスタロト家を始めとしたグリモワルスの面々に色々と面倒を見ていただいたの!」
勿論隠し部屋で聞いた、あの話の。端的に纏めてしまえば確かにそういうことである。 幼少期の頃から多岐にわたって世話を焼いてもらい――。
「おかげさまで、晴れて会社を立ち上げられるまでに育てて貰っちゃった! 本当、皆様には感謝の念が尽きません!」
改めて私の家族へと頭を下げる社長。全員が頬を綻ばせる中、祖父が一際嬉しそうに。
「儂らとしても、お前がこうも大成してくれて喜ばしい限りだとも。 それに、あれは実に楽しい日々だった。いつも城を賑やかにしてくれたからなぁ。 …色んな意味でな!」
その含みに、ネヴィリーを除く皆が笑いを漏らす。私は当時を知らないけども…想像は容易くつく。
恐らく社長は、持ち前の明るさで周囲を和気藹々とさせていたのだろう。…そして、同じく持ち前の暴れっぷりを存分に発揮していたに違いない。
それは『最強トリオ』の逸話が如実に表している。 きっとお祖父様、その収拾や隠蔽に奔走したはずである。『色んな意味』とは、それを指しているわけで。
だがそれも、今は笑い話。いや、当時からその活躍を笑って応援していたのかもしれない。なにせ祖父達の顔には、不快感なんて微塵も浮かんでいないし。
――そう思っていると……祖父は急に、顔に僅かながら寂しさを浮かべた。
「ただ、ミミンや。少し…ほんの少しだけ、残念だったことがある。 お前とオルエの奴が、魔王様の近衛となってくれなかったことだ」
「えぇえぇ、それは本当に! あなた方ほどの
祖父の未練に、祖母が強く賛同を。更に続いて、父が。
「ミミンさんもオルエさんも、魔王軍総司令官を代々務めるバエル家から最高幹部の座を用意されていたと聞くが……まさか、蹴るとは」
そんなことが…! 確かに社長達の実力や(闇に消えた)経歴からすれば、その席が望ましい。魔王様と気心の知れた間柄でもあるのだから。
だが父の言う通り、社長達はその誘いを断ったのだろう。そして会社社長とダンジョン主という、魔王軍最高幹部に比べれば間違いなく幾十段も格下の生業を選んだと。
それは即ち、シンデレラストーリーのチャンスを逃したと言う事。だが、当の社長は――。
「皆様方の熱烈な想いを無下にしてしまい、申し訳ございません。 ですが…私達の夢でありましたから! 現状に何一つの後悔はありませんし、逆に幹部の座を頂いていましたら、ずっと後悔に明け暮れていたでしょう」
祖父達へ丁寧に陳謝を。そして深く息を吸い、顔を上げた。
「――この『真相を語る場』ついでに、ひとつ明かさせていただきます。 実を申しますと…私もオルエも、魔王様を守るために、そのお誘いを受けようと思っていたこともあるのです」
……!! その言葉に、私はおろか祖父達も驚愕の表情。しかし社長はその中の誰かが口を開く前に、微笑んで続けた。
「ですが…。それを押しとどめてくださったのは、他ならぬ魔王様でございました。『我のために、夢を捨てるな。 その判断こそが、我にとっては最も辛い』―。その切言で、心を決めたのです!」
なんという……! 魔王様と社長達との友情に魅せられた私達は、揃って感動の嘆息を。 すると社長、照れくさくなったのか、テヘリと肩を竦めた。
「まあこれ、恥ずかしいから隠しておけって言われてたことですけど! 決して私が話したと言わないでください! 雷落とされちゃいますから!」
「――アストに今回の真相を語る前に、別の真相を話してしまいました! 話を戻して、続きと参りましょう!」
コホンと咳払いし、お浚いを終わらせる社長。 正直、もっと当時のことを聞きたい気持ちもあるけど…この場にはネヴィリーもいるし、また今度聞かせてもらおう。
そう内心考えていると、社長は私へずいっと顔を近づけてきた。
「じゃあアスト! ここで選んでもらいましょうか! 『今日の真相』と、今までの真相…特に『アストとの出会いの真相』。どっちを先に話すか!」
――そういえばさっき社長言っていた。『全ては仕組まれていた。 今日のことも、今までのことも、アストとの出会いすらも』と。
最早この状況に至っては、どちらもある程度予想は着くのだけど……やっぱり真相が語られるとなると、ドキドキする。どっちからにしようかな…。
―――よし、決めた! ここはあえて、時系列順で!
「社長と私の出会いについての真相―。是非それからお願いします!」
セレクトしたのはそちら。両方とも凄く気になるのだが……『私との出会い』と銘打たれてる話に、興味を惹かれない訳が無い…!!
それに、たとえ今の今まで社長が私を騙し続けてきたということが語られるにしても、受け入れて見せる。 その覚悟は出来ている。
――だって、先程…そして今まで幾度も頂いた、社長からのお礼の言葉。私が社長秘書となったことに対する感謝のそれに、一度たりとも偽りを感じたことは無かったのだもの。
それだけじゃない。そういう時に社長が常に浮かべていた、心の底からの清らかな想いを乗せたあの笑顔…! まさしく信頼に値する表情であった。
……最も、私が社長について見込み違いをしている可能性もあるが……――いや、無い! 絶対にない!!
それほどまでに、私は社長を信用している…! まず間違いなく、私を食い物にする人ではないのだから!
フンスと鼻息強めに心を固める。 その内心を知ってか知らずか、社長はにっこりと微笑んだ。
「そっちからね! あれは私が起業し、暫く経った頃のことよ――」
「会社を構えたということは、魔王城の庇護下から離れたと言う事。それでも、魔王様やグリモワルスの皆様方には素材の買い上げや魔法の付与とかで、継続して便宜を図らって頂けていたのだけど…」
そう前置きをする社長。……あ。それでふと気づいたことがある…。
何度か説明している通り、危険素材は魔王様に買い上げていただいているのだが……。当たり前だけど、魔王様との個人的な取引ではない。魔王城としての、公の取引である。
ということは……
――っと、自分の推理能力の無さを嘆くのは後回し。社長の話の続きを。
「自らの意思で独立の道を選んだ以上、おんぶに抱っこは避けなきゃいけない―。私もオルエもそう考えたの。 だから魔王様を通じて一定の交流は続けていたけど、グリモワルスの皆様とは少し疎遠の状態だったわ」
それを認めるように、祖父達は頷く。 なるほど、ここで何事も無ければ、社長はアスタロト家にとって『懐かしい友人の1人』となっていたのだろうが…。社長は転機を示すように、更に声を張った。
「そんなある日。突然に魔王様、そしてアスタロト家の皆様方の連名で手紙が届いたの。『アスタロトの娘“アスト”を、雇って貰えまいか』って!!」
「私を……!」
つい自分に手をあて、そう呟く。 すると、祖父が社長の後を引き継いだ。
「その手紙の経緯については、儂らが話すとしよう。 事の発端は…当然アスト、お前の『お願い』にある」
ですよね!! そのお願いとは、私の我が儘……『家を出て、社会経験を積みたい』というアレ。当時を思い出すように、父と母は苦笑いを。
「お前が大切が故に、少々過保護に守っていたが……まさかその反動であんなことを言いだすとは思わなかったな」
「まあ、隙あらば家を抜け出してグリモア様の元へ赴いていたのだから……素質は抜群よね」
返す言葉もない……。そして言い合いになったりごねて暴れたりとした結果、渋々許されたわけなのだが…――。
「私達としては、許す許さない以前に、不安でいっぱいだったのよぉ。アストちゃんが変なことに巻き込まれないか心配で、どう解決するか皆で知恵を振り絞ってねぇ」
しみじみ語る祖母の言葉からも察せられるように、『渋々許される』までの過程こそが話の焦点。一体どのようなことがあったのか息を呑み、話に耳を傾け…――
「けど、あまり良い案はでなくて。そこで、グリモア様に相談することにしたのよぉ」
「グリモアお爺様に!?」
「えぇ、何か妙案はございませんか、とねぇ。そうしたらね、ミミンちゃんのところを挙げてくれたのよぉ」
まさかグリモアお爺様が噛んでいたとは……! この間図書館ダンジョンに行った時、聞けば……いや、あの時のお爺様、ボケてらしたんだった…。 そもそもあの時、そんな裏事情なんて欠片も知らなかったし……。
再度過去を悔やんでいると、話し手はまたも祖父へ。
「そこで儂らは急遽、魔王様にミミンの会社についてお話を伺った。 すると、事務担当の手が不足していることを明かしてくださってなぁ」
「あの頃の飲み会で、私、ちょこちょこ愚痴ってましたから……」
頬を掻きつつ、そう補足する社長。それを笑いつつ、祖父は続けた。
「これはまさしく渡りに船。ミミンであれば、信頼に足る。魔王様を含めた総意だった。 ……こう言ってはあ奴に悪いが…オルエに可愛い孫を預けるわけにはいかんしなぁ」
「いえペイマス様、そのお考えはこれ以上ないほど適切です! 種族上、あの子のとこ、不純の極みですから……!」
社長、今度は必死に。 ……あそこに訪問したことがあるし、オルエさんに色々やられたから言えるが……仮にオルエさんの元へついたならば、私は間違いなく彼女の食い物(意味深)になっていただろう……。
「――話を続けるとしよう。 ミミンの会社が候補に挙がった際、儂らは色々と調べた。 するとな…儂らにとっても、アストにとっても、かなりの優良な職場であることがわかってなぁ」
真相語りに戻った祖父は、まるで賢策を見出した老獪な軍師のような表情を。……いや、良い犯行方法を見つけた犯人みたいな…?
「まず儂らにとっては、ミミンが社長を務めていることが最大の決定要因だった。彼女が信頼に足る存在というだけではない。 魔王様を介すことで逐次アストの様子を知ることができ、万が一の用心棒としてもこの上ないからなぁ」
そういうこと…!! 私は家族の介入が嫌で、家から遠いミミック派遣会社に入ったのだが…結局、見張られていたらしい。
まあそれだけで済んだのは僥倖。誰かが会社に突撃してきて、私を連れ帰ろうとすることはなかったのだから。社長、上手く報告してくれていたのだろう。
そして用心棒、というのも今となっては納得の一言。魔王様と並ぶほどの実力を持つ社長は、まさしく最強のボディーガード。我が家の衛兵長を私につける必要もなくなる。
……入社当初とか、社長の見た目も相まって、私が護衛役をしているつもりだったのだけど……。実際は逆だったなんて、露程にも思わなかった。
けど正直、最近は社長の護衛というよりも、暴走の歯止め役に終始しているのだが。そして止められないことがほとんどで……。
――ともあれ、その二点が両親祖父母にとっての決め手らしい。 そして――。
「私にとっては…『仕事の都合上、各地を周ることになる』ことと、『仕事内容が大主計の修行にもなる経理作業』ということ、その二点が決め手になった。 そういうことですね」
自身の分を自ら口にすると、祖父はその通りだと頷いた。 先程隠し部屋でも語った通り、その二つは私がミミック派遣会社に就職を決めた理由。こんな打ってつけの好条件があるんだと感動したものだが……。
……まさか、仕組まれていたとは……。 いや、その条件については偶然に偶然が重なった結果ではあるのだけど…。
…………そういうことならば、あの時社長が私に声をかけたのは、私の心を読んだからではない。私がアスタロト家の娘と知って、準備万端で誘いをかけただけ……。
―――なんだか…少し、残念かも。 幻滅こそしないけども……。 運命的な出会いだと思っていたのに……。
勝手に意気消沈してしまう私…。 一方の社長は、話の視点を自身に戻した。
「手紙を受け取り事情を知り、私も是非にとお願いしたの。まさに開いた隙間を埋めてくれるような存在だもの、当然、即諾……―――」
……? あれ、社長が何故かそこで言葉を切った。そして私の方を見たままに、指を一本立てた。
「しなかったのよ。 本当は喉から手が出るほどの気持ちだったのだけど…断腸の思いで、一つだけ条件を付けたの」
「条件…?」
「そう! それはね……会社の事情や詳細、特にミミック達のことを包み隠さず誠心誠意正面から伝えて、少しでも嫌がる素振りを見せたならば、絶対に無理強いはしないって!」
それって…。私が社長に初めて会った時、受けた説明のこと…。 あの時社長は、仕事内容や社員構成、現状抱えている問題や苦慮事まで、全てを話してくれた。
特に、ミミックという種族については事細かに。 箱入り娘であった私にとって、ミミック族の情報は書物の中に書かれていたことが全部だった。そしてミミック族の謎に包まれた性質上、まともに解説している本なんて無かった。
要は、ほとんど何も知らないに等しかったのである。だから社長の話は知らないことだらけで楽しく聞いていたのだけど―――。
「いくら恩人の愛孫愛娘とはいえ、ミミックを怖がる子を入社させるわけにはいかないもの。 私のような上位ミミックだけじゃない。宝箱型、群体型、触手型―。わんさかいる下位ミミック達の誰かにでも拒否反応を示すようだったら、丁重にお断りさせていただく気だったの」
そう当時の胸の内を明かす社長。そして次には…私に向け、最高の笑顔をパァッと花開かせた…!!
「けどそんなの、杞憂のまた杞憂だったわ! 私の説明に一切眉をひそめず、寧ろ常に目を輝かし続けて! 数日の体験入社中でも、恐れる様子は皆無。少しやってもらった仕事も素早く完璧にこなし、馴染みに馴染んで!」
留まること無き感激に身を包むような、興奮した語調で語る社長。そして私の手をパッと取った。
「私にとっても、アストは超優良な人材! いいえ、
……っ!!
相変わらずの社長の手練手管に悶えてしまう…! すると社長は更に追撃を。手をギュッと握ってきつつ、おずおずとした上目遣いに。
「けど残念ながら、そればかりは叶わぬ話。 だからせめて、
―――今までならば、両親達の手前、双方を気にかけた当たり障りのない解答で誤魔化すしかなかっただろう。そもそも、こんなシチュエーションになることすらも無かっただろうし。
だけど、今もチラリと見る限り、誰もが笑顔。アスタロト家公認の関係であると判明した今こそ、家族の前で、はっきりとしっかりと宣言しよう―!
「もう、何度言わせるんですか! 勿論です、社長!!」
「ありがとう、アスト! 大好き!!」