ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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アストの奇妙な一日:アストのお家(で☆)騒動⑰終

 

「ふ…ぅぅむ…! これでようやく肩の荷が下りたなぁ。 長かったような、短かったような、だ」

 

 

「えぇえぇ。 でも、これで心置きなく、楽しい食事にできますねぇ」

 

 

安楽椅子に腰かけたまま、伸びをするように身体を動かす祖父と祖母。 そういえばそろそろ夕食の支度が整う頃合い。部屋を解放したらすぐに使用人の誰かしらが声をかけにくるはず。

 

 

そしてもう終わったが、宝箱探しのタイムリミットでもある。父も母も予定通りに済んで良かったと安堵の息を吐いている様子。

 

 

真相を知った今だからわかるが、皆、私に秘密を黙ったまま、あるいは宝箱探しを途中にしたままでの食事は避けたかったのだろう。 今日の目的を果たせなかった以上、私の顔色を窺い話題を選び抜かなければいけない。おっかなびっくりでギクシャクな夕食風景となっていたのは想像に難くない。

 

 

かくいう私も、間に合ったことにホッとしている。事情を知らぬまま、単独箱探しをする社長の動向をソワソワ気にしながらの食事なんて、まともに喉を通る気しないのだもの……――

 

 

 

―――あ。 そうだ、どうしよう…!! 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…お祖父様、夕餉のことなのですけど……」

 

 

つい社長のほうをチラッと見ながら、祖父へ願い出ようとする。『社長の分の食事を用意して欲しい』と。

 

 

社長の存在を隠していたから色々と策を練ったが、こういう状況となれば直接申し出た方が早い。 ――そう考えたのだが…それよりも先に、祖父は心得ているように私と軽く目を合わせ、社長へ笑みを向けた。

 

 

「ミミンや、勿論共に囲んでくれるだろう?  最も、今日泊まっていく予定だものなぁ!」

 

 

「はーい、ペイマス様! お泊り準備は万全! お言葉に甘えさせて頂きまーす!」

 

 

 

え…! 社長、箱の中からパジャマセット取り出して…!! そんなのも持ってきてたんだ…!

 

 

 

――って…………。

 

 

 

 

 

 

 

「予定、決まっていたんですね……」

 

 

カクンとコケるように、苦笑いを浮かべる私。 考えてみれば当たり前である。

 

 

隠れてとはいえアスタロト家に招いたのだから、もてなす準備はしているに決まっている。私が真相にたどり着かなかったならまだしも、事は予定通り運んだのだから……あ!

 

 

「もしかして……コック長が『食事を多めに作るよう命じられた』と言っていましたけど…あれって!」

 

 

「そうだ。勿論アストのためもあるが…ミミンさんの分も作ってもらっていた。どんな幕引きになっても提供できるようにな」

 

 

ハッと気づいた私に対し、父がそう説明を。あれ、社長絡みでもあったんだ……。

 

 

 

……そして思い出した。そういえば社長、言っていた。『食事を用意する必要はない』って。奇妙なほど自信たっぷりに。それはこういう裏があったかららしい。

 

 

 

あの時はもう計画大詰め間近。多分社長も、半分隠す気無くなっていたのだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、心配しなくとも手回しはカウンテとイーシタが行っている。『旧友の1人』としてミミンを急に招いたという形をとった」

 

 

私の懸念を先んじて解消するように、祖父はそうも。先程隠し部屋で母が口にしていた『父と祖母による手回し』とはこのことだった様子。 ――と、そこで祖父は少々心苦しそうに社長へ。

 

 

「ただやはり…その宝箱に入っての食事は、使用人達から色々と訝しまれるやもしれんなぁ。儂らの策のせいとはいえ……」

 

 

 

……確かに。 急にミミック族を招いたという(設定)も少々珍しいことだが…問題はそこではない。先程までの宝箱探しにある。

 

 

社長の宝箱を家の各部署に探しに行った際、私はご丁寧に箱の絵も預けていった。だってこんな裏があるとは知らなかったのだから。

 

 

ということは…使用人の一部はその箱の柄を知っているということ。そんな彼らに、来客である社長がその宝箱に入っている姿を見られたら…真相を知られるまではいかなくとも、不審がられるのは必定。

 

 

ただ、私が周知したせいで…と自責の念にかられるのを防ぐために、祖父はそう付け加えたのだろう。それに、どうやら対処方法は用意してある様子で――。

 

 

「そこでミミンや、面倒を承知で頼むが……」

 

 

「えぇ、心得ておりますとも!」

 

 

祖父の頼みを食い気味に了承する社長。 と、そのまま私の顔を窺うように――。

 

 

「ただ…アスト、ちょっと手伝ってほしいの」

 

 

 

「え? は、はい……??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――少しの間を置き、場所は移ってダイニングルーム。テーブルに飾られた花は美しく、先に並べられた幾つかの料理からふわりと漂う香りは食欲を刺激してくる。

 

 

それを囲むは、私の家族。祖父ペイマス、祖母イーシタ、父カウンテ、母アルテイア。食前酒を傾ける皆の元へ、準備の整った社長が、私に手を引かれ登場する。

 

 

「皆様方、本日は斯様に素晴らしき晩餐にご招待いただき、まさに身に余る光栄にございます」

 

 

まるで本日初対面のような台詞と共に、社長は先程から身につけているドレスの端を摘まみ、足を軽く曲げ挨拶を。その足元には、キラリと輝くお洒落なストラップ・パンプスが……――。

 

 

 

――そう。社長、靴を履いているのである…!! 宝箱の中にいながら、ではない…!!!

 

 

 

ストッキングを履き靴を履き、()()()で立っているのである!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…社長、そうやって立つこともできたんですね……」

 

 

控えている使用人に聞かれぬよう、こそりと話を振る。正直、今日聞いたどの真相よりも驚いたかもしれない……! 

 

 

「無理やりね! 流石にずっとは嫌だけど、ご飯食べる間ぐらいなら!」

 

 

靴先を軽くトントンとしながら答える社長。もはやミミックのアイデンティティ消失。というか多分、言われてもミミックだってわからない人がほとんどな気が…。今の状況に置いてはもってこいだけども。

 

 

「箱に入ってなくて平気なんですか?」

 

 

ちょっと心配になり、思わずそう聞いてしまう。ちなみに宝箱は私の部屋に置いてきたのだが。 すると――。

 

 

「へーきよ! ストッキングも靴も履いてるもの!」

 

 

「………………ん? え、それ『箱』判定ってことですか!?」

 

 

仰天交じりの聞き返しに、社長はにっこりとYES。 ミミックって……なんなのだろう……。幾度目かわからぬその疑問に首を捻っていると、社長はケラケラと笑みを。

 

 

「ま、これが出来るミミックはそうはいないけどね~。 あと、やっぱり二本足で歩くのって慣れてないから…さっきみたいにエスコートお願い!」

 

 

そう言い、私に手を差し出してくる社長。 その前には疑問なんて吹っ飛んでしまう。私もクスリと微笑み、その手を取った。

 

 

「はい、社長! 改めて、どうか我が家をご堪能あれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで始まったディナータイム。社長は先程のように私の隣に。 ただ、ちょっとしたハプニングが。

 

 

なにせ社長、少女姿。加えて二本足歩行が不慣れ。だから、椅子にうまく座れず苦戦したのである。普段は箱でジャンプして乗るか、私に置いて貰っているかだから。

 

 

結局私の手を借り、着席。あとは使用人に椅子を押して貰って準備万端。……かと思ったらもうひとつ、少女姿ゆえにひと騒動。

 

 

見た目から子供と判断されたらしく、使用人がお酒を注ぐか逡巡したのだ。祖父達のとりなしと本人の申告もあり、問題なく注がれたが。 社長には悪いけど、可笑しなハプニング…!

 

 

 

 

 

それはさておき、食事はつつがなく進行。我が家の料理に社長は目を輝かせ、至福の舌鼓を打ってくれた。因みに食事所作も中々に上手だった。

 

 

そうそう。もう今更語るべきことでもないだろうけど……厨房から続々と運ばれてくる料理、そのほとんどが箱工房製のミミック箱である保温クローシュに入れられていた。なんだか嬉し恥ずかしの気分である。

 

 

 

 

 

 

 

次第にグラスは重なり、全員ほどよく酔いも回ってきた頃合い。今日の計画が成功したこともあり、打ち解け和やかムードに。

 

 

それを機に、使用人達には一時退室を。 私と社長によるお仕事エピソードで盛り上がることに。それがなんというか……!

 

 

 

「――それでですね…! そんな経緯で魔王様へ謁見する名誉を賜りまして…! 私のことを『妹弟子』とまで仰ってくださったんです!」

 

 

「ただ、それをあんな仰々しく言わなきゃ完璧だったんですけどねぇ~!! 全く、マオ(魔王様)ったら!」

 

 

心弾ませながら話す私に、魔王様を茶化す形で笑う社長。なんというか…とても気が楽にお喋りができちゃう…!!

 

 

ずっと隠していた会社のことや社長のこと、魔王様とのこと等々―。全てが繋がっていたと判明した今、秘書勤めを公認された今、いちいち一言一句に気を払わなくとも良くなったのだ!

 

 

 

お茶の時に母と祖母へ話したこと、帰宅早々の顔見せで話せなかったこと、今までの手紙に書けなかったこと……話したくてたまらなかった面白珍道中エピソードを社長と共に次々と語ってしまう。

 

 

それに対し、祖父達は常に満面の笑みを浮かべてくれた。私が充実した生活を送れていることを心から喜んでくれている様子である。良かった、今日帰って来て……!!

 

 

 

……あ、でも。一応社長の面子に関わる話とか、私の身に降りかかった一部ハプニングとか、両親達に眉を顰められそうなことは当然隠しましたとも。それは私と社長だけの秘密。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――さて、そんな楽しい食事のさ中。私が驚かされたことがある。それは話の流れで、社長と祖父との褒め殺し合戦になった折のこと。

 

 

 

祖父に会社の目的…ミミック達を守るための会社作りを褒められ、社長は身をくねらせる。そして照れ隠しついでにこう返したのだ。

 

 

「――いえいえそんな! それはペイマス様のお力添えあっての結実ですもの! なにせ私の話から、あの素晴らしき()()()()()()()を発案してくださったのですから!」

 

 

 

 

 

「ッッ!?」

 

 

丁度ワインを傾けていた私は、思わず口に含んでいたそれをあわや噴き出しかけてしまう…!! しかも、雫が変に喉に入って……!!

 

 

「? アスト大丈夫?」

 

 

ケホケホと咳をしてしまう私の背を、触手を伸ばし撫でてくれる社長…。 急ぎ口元を拭い、喉の調子を慌てて整えながら、私は社長へ問いかけを…!

 

 

「そ…その…ダンジョン政策って……! もしかして……お祖父様が先代魔王様に進言した『ダンジョン繁栄策』ですか!?!?」

 

 

「えぇそうよ!」

 

 

 

……いやそんな単純に返事を…!? で、でも…祖父も頷いてるし…! え、えぇえ…!?

 

 

 

 

 

 

―――『ダンジョン繁栄策』とは、当時の大主計である祖父の上申により、先代魔王様が施行した政策。今や歴史の教科書にすら載る代物である。

 

 

そんな政策に、明らかに社長が関わっているかのような台詞…!! 目を白黒させていると、社長はフフッと笑みを。

 

 

「確かに私は関わっているけど、そんな大それたことでもないのよ。 正しくは、ペイマス様が私の存在…ミミック族の境涯に興味を持ってくださったからなの!」

 

 

ババーンと称えるように祖父へ手をヒラヒラさせる社長。そして祖父もしみじみと語り出した。

 

 

「あの時、ミミン達からダンジョンの現状についてやミミック族について聞いてなぁ。 立錐の余地もない過密状態や、魔力循環不良や魔法陣老朽化による機能不全。それにより多数の魔物達がダンジョンを追われ、中でもダンジョンを主生息域とするミミック族が顕著な被害を受けているとな」

 

 

元より議題に上がり出していた問題。無論それ以外にも色々と起案理由はあったが…ミミンの話は大きかった。 そう続け祖父は、その意味を明らかにした。

 

 

「先代様に意見具申するにはまたとない看板でなぁ。なにせ当代様…先代様の御息女の、大切な御友人からの訴え。 その点を強く押し出すと目論見は的中し、先代様はすぐに動いてくださった!」

 

 

してやったりと言わんばかりの老獪な、それでいて憂い事が解決した和やかさを含んだ笑みを浮かべる祖父。と、社長も欣喜雀躍と言った体に。

 

 

「先代魔王様が推進し、技術や資金等を援助をしてくださったおかげで、いったい幾体のミミックが…いいえ、幾種もの魔物が救われたことか! ダンジョンは魔物にとっての天国だもの!」

 

 

そう最大級の感謝を捧げる社長。そのまま私に、パチンとウインクを向けてきた。

 

 

「そして、『ミミック派遣会社(私の夢)』にとっても! 取引先が沢山増えるということは、ミミック達へ終の棲家を手引きしやすくなるということ。でしょ?」

 

 

 

 

 

確かに社長の言う通り。あの政策施行後、ダンジョンは各地に急増した。私が訪問してきたところなんて極々、極々一部。 それほどまでに、ダンジョンというものは魔物にとって有用で理想郷なのである。

 

 

ただその分、冒険者の増加を引き起こしたが…。彼らはどちらにせよ襲ってくる。ダンジョンがなければ、それこそ『狩り』『湧き場探し』と称してどこにでも。

 

 

ならば、やられても即復活できる魔法陣があるダンジョンに誘導した方が被害は少ない。常に濃魔力に満ちるダンジョンはそれだけで魔物側の有利となるし、ミミックみたいに対冒険者特化のような種族は、引く手あまたの存在となったのだ。

 

 

 

 

とはいえまさか……そこにも社長が関わっていたなんて。もう我が家とズブズブの関係である…。

 

 

 

もう……驚きすぎて疲れた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな疲れを癒すためにお風呂に入り、あとは就寝時間間際までリヴィングルームで皆と談笑。厨房お手製お菓子と私の持ってきたお菓子を並べて。

 

 

 

因みに私は社長と一緒にお風呂に入った。会社のお風呂は大浴場のため、2人きりで入ることはあまりない。だから使用人を遠のけ、ゆっくりと堪能した。

 

 

そうそう。社長、我が社のお風呂で使っているミミック桶を持ってきていた。 一旦部屋に戻りたいと言い出したから何かと思ったら…それをいつも通り、宝箱の中からよいしょと出してきたのである。用意周到。

 

 

 

……今まで気にしないようにしていたのだけど…。ミミックの箱ってどうなっているのだろう…。

 

 

社長の宝箱、今日一日社長は入っていなかった。 だというのに、中身は保持されたままみたいなのだ。特にそのミミック桶、宝箱よりも大きいのに…。 やはりミミックは謎に包まれた魔物……。

 

 

 

 

 

まあそれもさておき、楽しい時間はあっという間に過ぎて就寝時間。各々の部屋に戻ることに。

 

 

そして薄々気づいていたが…どうやら社長、私の部屋で寝る気満々。私は大歓迎なのだけど、両親は……。

 

 

…――と思ったら問題なく許しがでた。嬉しい限りである。だって、社長と一緒にアルバム見るって約束していたのだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、これが昼間話した枝垂れ花のトンネルでの写真です。 …こう見るとなんだか恥ずかしいですね…!」

 

 

「えー! そんなことないわよ~! すっっごい楽しそうな笑顔! 可っ愛い~!!」

 

 

ということで自室のベッドで揃って横になりつつ、アルバム鑑賞。私も社長も足をパタパタさせながら。なお社長の足は宝箱の中で。

 

 

 

いや本当…こんな日が来るなんて夢にも思わなかった…!! 自分の家の自分の部屋で、こうして社長と一緒に寝転べるなんて…!!! まさに夢心地!

 

 

どうにかして、この気持ちを取っておきたい気分……。 あ、そうか!

 

 

 

「社長、写真撮りません? 今日のこと残しておきたいんです!」

 

 

「それ良いじゃない!! 賛成賛成~っ!!」

 

 

私の提案に社長もすぐさま賛同。そうと決まれば、魔法でカメラを作り出してっと……――

 

 

 

 

 ――コンコンコンコン

 

 

 

 

 

おっと…! 扉のノック音。どうやら誰かが来たらしい。 あ、社長既に宝箱ごとどこかに消えてる。

 

 

流石の早業に感服していると、扉の外の人物は名乗りを。

 

 

「お嬢様、ネヴィリーにございます。 御用向きがあるとお伺いいたしましたが……」

 

 

 

 

 

「あれ? ネヴィリーさん?」

 

 

わ! 社長、ベッドの下から顔を…!! びっくりした…! そんなところに隠れなくとも…。

 

 

「私が呼んでいたんですよ。 どうぞ、入ってください」 

 

 

社長にそう説明しつつベッド上へ戻し、ネヴィリーを招き入れる。 彼女が部屋へ入り、扉をしっかり閉めたのを確認し、私は立ち上がる。

 

 

「こんな時間に呼んでしまってごめんなさい。でも、お礼を言いたくて。 今日はお疲れ様でした」

 

 

そう労いつつ、ドレッサーへ。 と、視界の端でネヴィリーは深々と謝罪を。

 

 

「大変申し訳ございません、お嬢様…! ご主人様方からの命とはいえ、御身を欺くような真似…!」

 

 

「良いんですよ、貴女は気に病まないで。 騙していたのはお父様方と社長。貴女は私と皆の狭間で、甲斐甲斐しく動いてくれたのですから!」

 

 

彼女を宥めつつ、チラッと社長を見やる。すると社長、さっと顔をわざとらしく隠した。そしてテヘリと笑いつつ、ネヴィリーへ頭を下げた。

 

 

「本当、ご協力ありがとうございましたネヴィリーさん!  お礼と言っては何ですが、何か魔法の宝箱をプレゼントさせていただきますよ!」

 

 

「え…ですが……」

 

 

「貰ってあげてください、ネヴィリー。 きっとお父様方からも褒賞を渡されるでしょうが、これは別。欲しい種類を欲しい数だけ、存分に注文してください」

 

 

私もそう背中を押してあげると、それ以上拒むのは無粋と察し頷いてくれた。だが、何を幾つ頼むかは決めかねている様子。 まあ急に言われたらそうなるか。よし…!

 

 

「社長、契約書って持ってきていますか?」

 

 

「はーい、あるわよ~!」

 

 

一計を案じ社長に問うと、箱の中からぺらりと取り出してくれた。あとはこれを魔法で……えーと……こうして……こんな感じで良いかな?

 

 

「はい、ネヴィリー。 書式を変更しただけのもので恐縮ですが、注文書を拵えてみました。 他の使用人達と話し合って、必要数を書いて私の元に送ってくださいね。 あ、勿論自分用のも含んで構いませんけど、注文しなかったり遠慮するのは無しですからね?」

 

 

一応釘を刺し、書き換えた書類をネヴィリーへ。製作担当であるラティッカさん達にはちょっと迷惑かけちゃうかもだが…許してもらおう。

 

 

 

 

 

「――では有難く頂戴いたします、ミミン様、お嬢様。 このようなものを頂けまして、(わたくし)共使用人一同、感無量にございます!」

 

 

褒状のようにそれを恭しく受け取ったネヴィリー。さて、これで社長の分は終わった。両親達のはまたの機会に渡されるだろうから、後は……。

 

 

「そしてこれは、私から。 どうか受け取ってください」

 

 

ドレッサーの上に置いてあったイヤリングケースを手に、ネヴィリーの元へ。それを開き中を見せる形で、彼女の手にそっと握らせた。

 

 

 

「えっ…!! こ、これは……お、お嬢様……!?」

 

 

「今日私がつけてきた物ですが…ネヴィリーにきっと似合います」

 

 

困惑するネヴィリーの手を支えたまま、そう伝える。けど、ちょっと舌を出すように反省を。

 

 

「……やはり、差し上げるのだから新品を用意すべきですよね。 後日、貴女宛てに同じ物を送ります。それまではこれを」

 

 

「い、いえ! そうではなくて…!! 頂けません、このような高価な品…!!! 今しがたこちらも頂きましたのに…!!!」

 

 

狼狽しながら、注文書を示すネヴィリー。けどそれは社長からの謝礼。これから渡されるであろうお父様方からの褒賞と同じく、別の物。

 

 

何とかして返却しようとするネヴィリーを抑えつけるように、私は更に続けた。

 

 

 

「そう言わずに。 迷惑料だと思ってください」

 

 

「め、迷惑料……?」

 

 

「えぇ。 私の両親祖父母、そして社長があなたにかけた迷惑。 それを娘であり孫であり、秘書である私が詫びるのは当然のこと。 色々気を揉んでくれたお礼ですよ」

 

 

――と、適当に嘯いたが……。真実、もとい真相は少し違う。最も、今口にしたことも大きいのだけど…。

 

 

 

「…本当はですね、前に市場で会った時に渡したかったんです。だけど貴女、拒んじゃって…。 でも今回、折角良い口実が出来たんですから!」

 

 

以前の出来事を脳裏に思い返しつつ、イヤリングケースの蓋を閉じ、更にギュッと握らせる。 そして、心からの感謝をこめて――!

 

 

 

「面倒事に付き合ってくれて有難う。 今まで、そしていつも気にかけてくれて有難う。 これからもよろしくお願いしますね、ネヴィリー!」

 

 

 

渾身にして懇親の微笑みと共に、そんなお礼の言葉を。 ――と、ネヴィリーは……眼鏡の奥から…ブワッと!?

 

 

 

「お……お……お嬢様ぁぁ……! (わたくし)は……私はぁ……!!!」

 

 

「えっ、ちょっ!?  そんな泣かなくとも…!!  もう、市場での時以上じゃないですか…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着きました? まさか膝から崩れ落ちるほど泣いてしまうなんて…」

 

 

「大変お見苦しいところを……。 お嬢様のお心遣いに感極まってしまいまして……!」

 

 

目を腫らしつつも眼鏡をかけ直し、恥ずかしそうな顔を浮かべるネヴィリー。この状況で聞くのもなんだけど、聞かないと。

 

 

「それで、受け取ってくれますか? さっき言った通り、新品も送りますけど…」

 

 

「いえ! 寧ろこちらのほうが…お嬢様からの下賜品のほうが嬉しゅうございます! お嬢様が身につけていた品を頂けるなんて、まさに無上の喜びで…!」

 

 

渡したイヤリングをぎゅっと抱きしめるように、彼女幸せそうな顔を。嘘ついている様子はないからいいのだけど……。

 

 

「――ですがお嬢様。 このように立派な品々を頂いてばかりではいられません。 どうか、私に何とぞ下命を…!」

 

 

ふと、急にそんなことを言いだしたネヴィリー。 とはいっても、今特に命令は…。 そう頭を捻っていると、彼女は手でスッと魔法製カメラを指し示した。

 

 

「宜しければ、お写真、お撮りいたしましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

あぁ! 流石ネヴィリー! 状況判断が素晴らしい!  召喚下位悪魔に取ってもらおうかと思っていたのだけど、ネヴィリーに任せたほうが絶対良い。

 

 

ということでカメラを彼女に預け、ポーズを取ることに。 場所はベッドの上に座る形で良いとして…!

 

 

 

「折角ですし、変わった写真撮りません? 社長、宝箱から出ていただいて、私が抱っこします!」

 

 

「良いわね! じゃあ宝箱はアストの横に…。 あ、このぬいぐるみも一緒に写しましょ!」

 

 

「良いですね! そうだ、この花輪も被ってください!  せーの…!」

 

 

 

「「はい、チーズ!!」」

 

 

 

 

 

 

――そして撮れたのが……私が社長を背後から抱っこし、社長が今日一日入っていたリビングアーマーぬいぐるみを同じように抱っこした写真。…これ、なんというか……。

 

 

「私、アストの娘みたいね!」

 

 

…その通り…! 見た目全く違うとはいえ、この映り方はそうとしか見えない…! なんとも嬉し…面白写真が撮れたものである。楽しくなってきた…!

 

 

「社長、他にも撮りませんか?」

 

 

「撮りましょ~っ!!」

 

 

 

 

そんなこんなで、色々と写真撮影。社長とぬいぐるみを箱に入れて私が抱えた写真とか、逆に私が社長に抱っこされているような写真とか。おかげでアルバムがかなり潤った。

 

 

ついでにネヴィリーとも写真を撮りたかったのだけど……目が腫れてしまっているのを理由に断られてしまった。 まあまた別の機会に。帰ってくる頻度増やすって決めたのだから。

 

 

 

更に明日、社長と家族全員で集合写真を撮ることを計画したところで、瞼に重さを感じてきてしまった。いつもより早い時間な気がするけど……今日色々あったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

ということでネヴィリーに灯りを消して貰い、社長と揃って布団の中に。ベッド広いから全然余裕。 すると社長、私に顔を近づけにへっと。

 

 

 

「今日は大変だったわねぇ。 アストもお付き合いありがとね!」

 

 

「本当ですよ……! 手紙が届いた時からずーっと気が張ってましたし、真相知るまで内心穏やかじゃなかったんですから!」

 

 

頬をぷくっと膨らませ、社長に文句で返す。 ――ふと、昼間のネヴィリーとの会話を思い出し、冗談交じりに。

 

 

「私、ネヴィリーの前で『変な事(宝箱寄与)をしたから、メイドの気持ちを弄ぶ結果になった』と社長を叱りましたが……まさか弄ばれていたのは私の方だったとは思いませんでした! しかも初めて出会った時からなんて!」

 

 

なんとかして社長を守ってやり過ごそうとしていた一日が、そして今までが、私相手の策謀に満ちていたのだからそうも言ってしまう。 すると社長、少し照れくさそうに謝ってきた。

 

 

「ずっと秘密にしててごめんなさ~い! 確かに出会いにはそんな裏があったのは確かだけど…。今はもう、アストが大大大好き! 惹かれ合ったみたいにゾッコンよ!」

 

 

そう力強く宣言し、私の手を取ってくれる。 そして、ポンと胸を叩いた。

 

 

「ネヴィリーさんだけじゃなく、アストにもプレゼントしてあげるから許して! どんな箱欲しいかしら? ま、勿論箱じゃなくても……――」

 

 

「……箱がいいです……」

 

 

遮るように、私はそう呟く…。 社長は不思議そうにしながらokを。

 

 

「あらそう? じゃあどんな……――」

 

 

 

 

「社長の箱が……ううん、社長が良いです!」

 

 

 

 

 

 

社長の手を両手でぎゅっと握り返しながら、真っ直ぐに、瞳を潤ませながら訴える…! 他の箱もプレゼントもいらない。『社長と一緒』が一番欲しい!!

 

 

そんな想いを籠め見つめると……社長、わなわなと震えて……。

 

 

 

「~~~~っっ!!! 可ん愛いこと言っちゃってぇ!! もう、大好き!!」

 

 

 

昂ぶりを止められぬように、私の顔を胸へぎゅむっと。そして抱きしめてくれながら、先程とは違う、更に優しく蕩かし愛すような手つきで頭を撫でて……!!

 

 

 

「よしよし、愛しのアスト♪ これからも末永くよろしくね!」

 

 

 

「~~~~っっ!!!  はい、社長っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そういえば、アスト気づいてた? 生垣迷路に隠し部屋あったの」

 

 

「え、あったんですか!?」

 

 

「管理用の道具置き場みたいだったけどね~。 道中に何箇所かあったわよ」

 

 

「気づきませんでした……」

 

 

「かなり見事に隠されてたから無理もないけど! でも、いずれはそれすらも見抜けるぐらいにはなってもらうわよ~!」

 

 

「ふふっ! えぇ! 精進します、社長!!」

 

 

 

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