ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある迷惑客達の一泊

「ようこそいらっしゃいました~。当ホテルでのご宿泊をご希望…――」

 

 

「じゃなきゃ来ねえだろが! ったく、気が利かねえなぁ。それでよくフロントが務まるぜ!」

 

 

無能なフロント担当のキキーモラに小言を言ってやりながら、俺は手にしていた金袋を投げつける。こっちはクエスト帰りで疲れてんだよ。

 

 

「四人部屋だ。早く鍵を寄こしやがれ」

 

 

大声で雑談しながら笑ってる仲間三人を一瞥しながら、急かすように手を出してやる。が――。

 

 

「…申し訳ございません、お客様~…。 只今四人部屋の空きが無く~……」

 

 

渡されたのは鍵じゃなく、謝罪だぁ? ふざけんじゃねえ!

 

 

 

 

「んだこの! この宿はダンジョンの流用で、部屋数が多いのが売りじゃあなかったのか!?」

 

 

「はい、その通りでございます~…。 ですが、本日は団体のお客様が多く~…」

 

 

掴みかからんばかりに詰め寄ってやったら、頭を下げたまま理由を明かしてきた。んなもん、俺達には関係ねえだろ! 

 

 

……が、泊まれねえのは問題だ。この辺の他宿からは出禁食らってるところ多いし、今日に限ってはここに止まらなきゃ()()()()()

 

 

ったく、仕方ねえな。少しぐらいは折れてやるか。

 

 

 

「じゃあ、別の部屋用意しろ。どこ空いてんだ?」

 

 

「そうでございますね~…。 四名様であれば、二人部屋がお二つ空いておりますが……それだと、頂きましたご料金では不足してございまして~……」

 

 

はあ? 折角こっちが四人部屋を諦めてやったってのに、金が足りねえだあ? 折れた甲斐がねえじゃねえか!

 

 

「ふざけんな! おいキキーモラ。お前、接客業を舐めてんじゃねえか? 泊まりたいって客が来てんだから、何としてでも泊めるのが役目だろが!」

 

 

フロントの机をダンッとブッ叩きながら叱ってやる。するとキキーモラは困ったような顔に。

 

 

「そう申されましても~……」

 

 

「申すも申さねえもねえに決まってるだろ! さっさと部屋をそれにして鍵を寄こせ! なんなら渡すまで、ずっとテメエに説教かましてもいいんだぞ?」

 

 

そう伝え、顎でくいっと仲間に合図を。さっきまで馬鹿話に花を咲かせていたそいつらは心得たようにニタニタ笑い、俺の横に並ぶ。

 

 

「まずは1時間ぐらいか? 俺達でお前の無能さを存分に教えてやるよ!」

 

 

そう軽ーく脅してやると、受付キキーモラは『少々お待ちくださいませ~』と一礼し裏へ。 逃げやがったか…? そう思っていると、すぐに戻って来た。

 

 

「お待たせいたしました~。一部サービスをオフにさせて頂きますが、ご料金このままで、二人部屋お二つご用意させていただきます~」

 

 

ヘッ! よっぽどフロントを占領されて説教されるのが嫌だったらしい。すぐに用意しやがった。なら最初からやれってんだ。

 

 

「つきましてはお部屋の用意が整うまで、オフにしたサービスのご説明をさせていただいて宜しいでしょうか~? それと、こちらの宿帳へお名前のご記入を~…」

 

 

再度頭を下げてくるキキーモラ。説明は聞いてやろう。だがよ……!

 

 

「やっぱり無能じゃねえか! 俺は何度かここに泊まったことがあるんだぞ? 名前を憶えてねえなんて…――」

 

 

「えぇ『ダニー』様、存じてございます~。しかしご本人様確認のためにございます。どうかご了承くださいませ~」

 

 

――…チッ。憶えてやがった。面白くもねえ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと…! おぉ、まあまあ良い部屋じゃねえか」

 

「流石おもてなしホテルダンジョンだな。ちょっとゴネたら無理が通るんだからよ!」

 

 

部屋に入り、仲間の1人と笑いあう。キキーモラの性格さまさまってな。とりあえずまずは冷蔵庫の飲み物を…ッチ。

 

 

「あーそうだ…。全部回収しやがったんだったな…! ケッ!」

 

 

さっきのキキーモラの説明を思い出し、乱暴に冷蔵庫の扉を閉める。安くする代わりにミニバーの提供を無くされちまったんだ。ったく、サービス悪いぜ。

 

 

他にも大半のアメニティを没収されたりとかよ。全部持ち帰ってやろうと思ってたのに出鼻をくじかれちまった。 まあいい、まずは――。

 

 

「俺こっち貰うぜ! そらぁっ!」

 

 

荷物を放り投げ、ベッドの一つに飛び込む! 壊れるぐらいの勢いでな! ハッハッ! この跳ね具合がたまんねえ!

 

 

「あっ!テメっ! じゃあ俺はこっちだ! イヤッホォ!」

 

 

仲間も思いっきりベッドに飛び乗り、そのままトランポリンの如くジャンピング。宿に泊まったのなら、まずはこれをしなきゃ始まらねえってな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーし。そろそろ始めるか」

 

暫く堪能し、よれよれになった布団から身体を起こす。…しかし、今日は珍しいぜ。いつもなら別部屋の誰がうるせえって文句言ってくるってのに。 丁度どっかに出向いてんのかもな。つまらねえ。

 

 

まあ好都合だ。今日はここに泊まりに来たわけじゃあない。理由がある。 だから出来るだけ目立たねえようにしなきゃいけねえしよ。

 

 

 

 

見た通り、俺達は4人組のパーティーだ。 んで今日、とあるクエストに参加してたんだが…クソなことに、大失敗してよ。全く儲けがでなかったんだ。

 

 

俺は自慢のナイフ捌きを披露しまくり、俺の仲間も暴れに暴れた。けどよ…他のパーティー連中が全員間抜けでな。ったく、こっちが前でてやってんだからすぐに追いかけて来いってんだ!

 

 

しかも終わっちまった後に、『お前らが先行し過ぎて、決めていた策が台無しになった』とか俺達に怒鳴りつけてきやがった! 知ったことか!ああいうのは大体突っ込めばなんとかなんだよ!

 

 

はーああ! 思い出したらまーたむかっ腹が立ってきたぜ…! そのストレスを晴らすために、何言っても碌に反論してこねえキキーモラ共を弄りに来たって訳だ。

 

 

―――嘘だ。そんなのついでに決まってんだろ! 騙されてんじゃねえよ阿保め!

 

 

 

 

 

本当の目的は……儲けが出なかった分、ここで稼いでやろうと考えてよ。あん? わからねえってか?

 

 

ちったぁ頭動かせよ。 ここのホテルは、金持ちも泊まる。だから…その金持ちから金目の物をふんだくってやろうってな!

 

 

 

とはいっても、別に金持ちが泊ってる部屋を襲おうっていう魂胆じゃあねえ。そう言う奴らは護衛をつけてることがほとんど。そんなリスクを侵してたまるか。

 

 

じゃあどうするかだぁ? ハッ馬鹿が。決まってんだろ? そういう金持ちは、大体大荷物で動く。が、それを部屋に持ち込むのは嫌がるときた。

 

 

ならそれをどこに置くか。 そうだよ。キキーモラ達に預けやがるんだ。 要は、『預け荷物』を狙うっていう算段って訳だよ!

 

 

 

場所も調べがついている。フロントの裏らへんだったか。特に面倒な罠もなく、忍び込みやすそうだったぜ。

 

 

そうそう、聞いた話だが……。俺達みたいな考えの連中は今まで幾らかいたらしいが、全員とっ捕まったらしい。荷物を盗み出した後にな。

 

 

ったく、ドジ共ばかりが。大方盗み出して安心してボロを出したに決まっている。 見てな、俺達が初の成功例になってやるよ!

 

 

 

 

 

 

 

…だが、その前にまずは全員で計画を確認しておかねえとな。しっかり自分の役割を果たしてもらわねえと、クソみてえな結果になるのはわかりきってるしよ。

 

 

誰もミスをしねえように、仲間に迷惑が掛からねえように。全く、それが出来ねえ連中が多くて参るぜ。

 

 

うーし。見取り図を広げてと…。作戦はこうだ。夜が深くなったら実行。まず、俺達四人を二手に分ける。攪乱組と、実働組だ。

 

 

まず攪乱組がフロント近くとかで騒ぎを起こして、キキーモラ共を引き付ける。俺達はその隙を突いて預け荷物置き場に侵入、手頃なものを盗み出す。

 

 

そして何食わぬ顔で攪乱組と合流し、部屋に戻り祝杯! 完璧な作戦だ! 先に酒をどっかから調達してこねえとな!

 

 

あん? 何かあったら? ケースバイケースで良いだろ。だいたい突っ込みゃなんとかなるんだ。

 

 

 

 

 

 

――さて。次は誰がどちらの担当を引き受けるかだ。そのためには……。

 

 

「おい、向こうの部屋の二人を呼んで来い」

 

 

丁度、備え付けのティーパックを全部混ぜた茶を作ろうとしていた仲間に指示を出す。そいつはカップを置き、扉へと――…

 

 

 

 ドンドンドンッ

 

 

 

「おい、ちょっと来てくれ。 なんか変なことが起きた」

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ? 扉を開けようとしたら、別部屋の仲間が先にノックしてきやがった。変なこと、だぁ?

 

 

俺も扉に向かい、そいつに手招かれるまま隣部屋へ。入ってみると……――!?

 

 

「なっ…!? 死…んで…!?」

 

 

……もう一人の仲間の手が……風呂場の扉の奥から…! 倒れているだと…!? 何が……!?

 

 

 

「いや死んでねえよ。よく見ろ」

 

 

と、案内してきた仲間が溜息交じりに否定してきた。死んでねえ? じゃあなんだ? 近づいて……はぁあ?

 

 

「んご……ごぉおお……」

 

 

んだこいつ!寝てるだけじゃねえか! この、脅かしやがって…!!

 

 

「人騒がせな…なんでこんな場所で寝てやがんだ?」

 

 

寝てるそいつを軽く蹴りつつ、俺達を呼んだ仲間に問う。すると、首を捻りやがった。

 

 

「こっちが聞きてえぐらいだよ。『とりあえずドライヤーやらタオルやらを奪ってやろう』って笑いながら風呂場に行ったと思ったらこれだもの。まるで眠らされたみたいだぜ」

 

 

なんだそりゃ? まあ今日のクエストは結構激闘だったし、どこぞで掠った睡眠魔法や睡眠毒とかが今更効果を発揮したのか? それか、心底疲れていたかだが…今はそれよりも。

 

 

「ったく…やることがあるから寝るなって言ってだろうが。 おい、起きやがれ!」

 

 

ここで寝られると作戦に支障が出ちまう。大声で呼びかけつつ、さっきより強めに蹴ってやる。が――。

 

 

「う、うー…ん…ふがぁあ……」

 

 

駄目だ。起きねえ。 仕方ねえ、どうせ作戦決行は夜だ。役割は余り物を押し付けて、起きるまで放っておくか。

 

 

 

そう―。盗みを働くのは夜だ。それまでは自由。 へっへっへ…! せっかく高え金だして泊ったんだ。堪能しまくってやるぜぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げっっふぅっあ……! 堪能……」

 

「したなぁ…! 満足したぜ…!」

 

 

揃ってそれぞれのベッドに寝っ転がりながら、俺と仲間は満面の笑みを浮かべる。高えだけあって、質は良いんだここは…!

 

 

いやぁ本当楽しんだ楽しんだ。バイキングは食いきれなくて残すほど皿にとって食いまくったし、大浴場じゃあ泳いだり飛び込んだりなアトラクションとして遊んできたぜ。

 

 

他にも売店で酒やつまみを格安で値切ってやったり、やってたよくわからねえショーに野次を飛ばしたりな。払った金分の元は取った気分だ!

 

 

 

……ただよ。幾らかイラついたこともあった。例えば飯食ってる時だ。使用済みの皿が邪魔になったってのに、キキーモラ共気づかないでやがった。一皿食い終わったらすぐ回収しに来るのが礼儀だろうが。

 

 

仕方ねえから床に捨ててやろうと放り投げたその時、丁度無人の回収カートがやってきて、それをキャッチして持っていきやがった。 信じられねえ! 無人だぁ? 客に対する誠意がなってねえ!

 

 

 

他にも、大浴場でのことだ。俺達は泡まみれで風呂に飛び込もうと考えていたんだが…誰かが勝手に操作したかの如く突然にシャワーが動きだし、全部流されちまった。 きっとコックが緩んでやがったんだ!

 

 

更に売店じゃあ酒を盗もうとしたのに、店員の奴が気づきやがった。ぼーっとしてた癖に、急にな。まるで見張りの報告を受けて慌てて飛んできたみたいだったぜ。

 

 

ショーでもだ。本当は乱入して十八番の歌でも披露してやる気だったんだぜ? だがよ、いざステージに上がろうとしたら変な置物とかが邪魔になって近づけすらしなかった。最初あんな位置に無かった気がすんだが…。

 

 

 

まあそんなイライラも、さっきキキーモラを怒鳴りつけてやることで解消した。やっぱあいつら良いぜ。いくら吼えても全く反抗してこねえから。ストレス解消にもってこいだ!

 

 

 

ああ、実にいい気分だ。このまま気持ち良ーく、眠りに……ついて…………

 

 

 

 

 

……ハッ!!

 

 

 

「やべえ! 忘れるとこだった!! 今日来た目的!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危ねぇ…! クソっ、姑息なキキーモラ共…! このまま寝ちまったらマジで泊りに来ただけ。本末転倒じゃねえか!

 

 

さては…! 俺達の留飲を下げさせて、盗みを働く気を無くさせる魂胆か…!? そうはいくかよ!

 

 

 

 

急ぎ飛び起き、鼻提灯作り始めた同室の仲間を文字通り叩き起こす。変に音を立てないように装備は最小限に抑え…うーし、これで良し。祝杯用の酒も冷えてるな。

 

 

既にチーム分けは済んでる。実働がこの部屋のメンバー、つまり俺とこいつ。そして攪乱組が、向こうの部屋の二人だ。

 

 

―っと。そういやあいつ……。

 

 

 

 

ふと思い出し、隣の部屋へ。思いっきり扉を叩いてやったら寝ぼけ眼で1人が開けたが……。

 

 

「……おい。まだあいつ寝てやがんのか…?」

 

 

俺は顔を顰めちまう。なにせ、来て早々に風呂場への入り口で倒れるように眠りだした…というか今も倒れて寝ているままの仲間が目に入ったからだ。

 

 

「ふああ…。あー…駄目だ。色々やってみたんだが起きやしねえ。本当に睡眠毒でも打ち込まれたのかもなぁ」

 

 

あくびをしながら肩を竦める仲間。チッ、使えねえ野郎だ。まあいい、それを見越してこっちの部屋を妨害組に割り振ったんだから。

 

 

「テメエも用意しろ。なんなら寝てるそいつをダシに使っても良い。キキーモラ共をなんとか引き付けるんだぞ?」

 

 

「あいよぉ…。 ふああ……」

 

 

俺が命じると、もう一度あくびをしやがる別室仲間。ったく、先行き不安だぜ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…よーし。こっちの準備は出来たぞ」

 

「客はいねえし、フロントに居るキキーモラの数も少ねえな。チャンスだ…!」

 

 

エレベーターを降り、フロント付近へ。作戦通りに目的の場所近くに潜み、実働組は準備ok。あとはあいつが攪乱を……。

 

 

「おいキキーモラ共! どういうことだ、あ゛ぁん゛!?」

 

 

お。あいつ、寝ぼけてたとは思えねえ良い説教声だ。そのままフロントにズカズカ突き進み、苦情を言い始めやがった。

 

 

「俺の仲間が急に倒れて寝たまま起きねえんだよ! テメエら、俺達相手に睡眠魔術とかでも使ったんだろ!!」

 

 

「――。 そのようなことは~…。 お仲間様、大丈夫でしょうか~? もしや、何かの御病気とか~?」

 

 

「んなわけねえだろ! グースカいびきかいてんのによォ! 今日来てすぐに風呂場の入り口でぶっ倒れて、そのままだ! どう考えてもあの部屋に何かあんだろが!」

 

 

おー良いじゃねえか。中々やるぜ。後は上手くキキーモラ共を誘導してくれれば……。

 

 

「とりあえずテメエら全員来い! 部屋を調べろ! あと、邪魔だからあいつをベッドに運べや!」

 

 

よくやった! フロントに居た全員を連れてくことに成功しやがった! 俺達の勝ちも同然だぜ!

 

 

本当、キキーモラは馬鹿しかいねえな! 誰も見張りを残さねえなんてよ! これじゃあまるで、俺達を誘い込むかのようじゃねえか!

 

 

ヘッヘッヘ…! じゃあそれに甘えて、たっぷり盗ませて貰うぜぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと…! おぉー、中々じゃねえか!」

 

 

荷物置き場に侵入し、辺りを物色する。トランクや武器袋、装備一式…。それぞれに部屋番号のタグがつけられ、綺麗に保管されていやがる。

 

中にはヘンテコな物まで預けられてるな。背負うタイプ?の掃除機や、舞踏会用の仮面なんて物とかよ。ホテル関係あんのかこれ?

 

 

お。商人も結構泊ってるみてえだ。厳重に梱包された商品箱らしきものが大量にある。良いもんあったらちょいと拝借させてもらうか。

 

 

…あん? この木箱なんだ? 『RED RUM』…? ラム酒か? 祝杯用の酒、ちょいと足りねえ気がしてたし、数本くすねていくとするか。

 

 

―――っと。それは後回しだ。まずは先に金目の物を確保してからな。

 

 

 

 

 

 

さぁて。この選り取り見取りの中、どれを盗み出してやろうか。足がつかねえようにするなら適当に良さげな物を選べばいいが…どうせなら一気に儲けてえ。

 

 

貴族の連中が預けたお宝とかがありゃあ良いんだが……。どうせキキーモラ共はすぐ戻ってくるだろうし、長居は出来ねえ。ならやはり、そこそこの物を見繕って……お?

 

 

「良さげな宝箱があるじゃねえか!」

 

 

大当たりだ! 丁度目に入ったのは、中々に豪勢な宝箱ときた! こりゃあ中身が期待できる!

 

 

鍵はかかっているが、でけえ南京錠程度。これなら簡単に開けられるだろうよ。どれどれタグは…339-85号室か。……そんな部屋番号あったか…? ――まあいい。

 

 

「おい。これにするぞ。鍵開けろ」

 

 

一緒に来ていた仲間を呼び、ピッキングを任せる。その間俺は他に手軽に持っていける物はないかを探すとしよう。

 

 

そうそう、さっき見かけたラム酒の箱を開けて、中身を―――…

 

 

 

 

 ガラガラガラガラガラ――!

 

 

 

 

「お客様~!申し訳ありませんが、こちら関係者以外立ち入り禁止となっておりま~す! どーんっ!」

 

 

「ぐへぁっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

―――な…なんだぁ!? 急に…キャスターの音が響いたと思ったら……背後から何かが勢いよく激突してきただとぉ…!?

 

 

しかも誰かの声まで…! まさか、キキーモラ!? …………は??

 

 

「トランクケース……だぁ…!?」

 

 

間違いねえ…! 俺にぶつかって来たのはこのトランクだ…! だが、一体誰がこれを…!? さっきの声は……!?

 

 

持ってきたナイフに手をかけ、辺りを睨む。――と、さっきの声がまた……!

 

 

「ここで~す! ばあっ!」

 

 

はあっ!? トランクが勝手に開いて、中から魔物が顔を…!? って、こいつは……!

 

 

「上位ミミックだと!?」

 

 

「せいか~い! これ、中々にファンタスティックな隠れ場所でしょ? さしずめ私達はビーストの如く! がおっ~!」

 

 

トランクに入ったまま、楽しそうにキャスターを動かしクルクル回り出す上位ミミック…! なんでこんなとこに……ん? 私…『達』…!?

 

 

 

「ぎゃあああああっ!!!」

 

 

 

 

 

 

―――ッ!! こ、これは……ピッキングをさせていた仲間の…悲鳴! ま、まさか……!

 

 

「なっ…!!」

 

 

嫌な予感が当たっちまった…! 南京錠がついたあの宝箱が……俺の仲間を頭からがじりがじりと…齧ってやがる…! あれも…ミミックだったのか…!!

 

 

「あの子だけじゃないですよ~! あそこにも!」

 

 

はっ…!? うおっ!? 『RED RUM』と書かれていた木箱の蓋が開いて…中から触手ミミックが…! しかも包丁を握ってやがる…! ……何故か口紅や鏡も持ってやがるけど…!!

 

 

「盗みの現行犯ですので、本当の意味でのブラックリスト(制裁対象者リスト)入りですね~! お覚悟くださいませ~!」

 

 

くっ…! ミミック共、笑いながら迫ってきやがる…! ここはもう…逃げるしかねえ!

 

 

「どけっ!」

 

「きゃ~!」

 

 

出来る限りの力を振り絞り、ミミック入りトランクを蹴り飛ばす! するとキャスターが仕事して、そこそこ滑っていきやがった!

 

 

今だ! 食われているあいつ(仲間)なんか捨てて、わき目もふらず扉へ…! ヘッ…! 馬鹿ミミック共め…! 見ろ、俺の動きについてこられねえでやが…――

 

 

 

「ふふふふ~。存分に逃げてくださいね~。 ――もう、このホテルからは逃げられませんから」

 

 

 

……っ…!? 荷物置き場から抜け出す瞬間、背筋がゾっとしちまう上位ミミックの声が……! 

 

 

う…! き、気にしてる場合か! 俺は逃げるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勢いよく荷物置き場を飛び出し、全速力で走る…! ケッ…何が逃げられないだ! 目の前にあるホテル入口から飛び出してやるよ!

 

 

そう鼻を鳴らし、暗い外へ繋がるガラスドアへと足を向けてやる。――が…!

 

 

「はぁあっ!?」

 

 

目の前に立ち塞がった連中に足を止めるしかなくなっちまった…! ふざけんな……なんで…なんでここで……!

 

 

「お客様、晩酌に先程所望なさっていた赤いラム酒(REDRUM)は如何でしょうかぁ? 逆さにして飲むと美味しゅうございますよぉ?」

 

 

飯時に見た無人カートが……いや、()()()()()()()()()()()()()()カートが…通せんぼしてやがんだ!?

 

 

 

 

いや、それだけじゃねえ…! 大浴場にあった風呂桶やら、売店にあった籠やら、ショーで邪魔だった置物共が、入口や他の道を塞ぐように動いてやがる…!? 更に、荷物運び用のカートや置いてある花瓶とかまでも…!

 

 

そしてその全てから…色んな種類のミミックが…顔を覗かせて…!! なんでこんなにミミックに溢れてんだよ…!

 

 

「お客様~! お待ちくださいませ~! お忘れ物にございま~す!!」

 

 

ひっ……! トランク入りの上位ミミックと…俺の仲間を咥えた宝箱ミミックが追いかけてきやがった!! 

 

 

って、トランク入りミミック速え!? キャスター転がして、えげつない速度でこっちに来やがる!? ど、どこに逃げりゃあ……! ―――!

 

 

「え、エレベーター…!!」

 

 

 

 

 

 

 

へ…へへへ…! 間抜け共め…! エレベーターへの道がスカスカじゃねえか…! うおおお!

 

 

うし…乗ったぞ! 扉閉まれ…さっさと閉まれ! 早く…早く!!

 

 

ボタンを連打し、急いで扉を閉めてやる…! 接近して来ていた大量のミミック共は……扉に……阻まれやがった!

 

 

やったぜ…俺の勝ちだ! はぁ…危ねえとこだった…。

 

 

 

っと。ぼーっとしちゃいられねえ。この後どうするか。1人は爆睡キメたままで、1人はミミックに食われた。そして残っている一人もキキーモラを引き付け、俺達の部屋にいるはず。

 

 

…仕方ねえ、全員見捨てて俺だけ逃げるか。そうだ、それがいい! リーダーが死んじまったら元も子もねえからな、うん。

 

 

うし、ならテキトーな階にでも降りて、なんとか脱出しちまおう。そうと決まりゃあ、ミミック共がこじ開けてくる前にエレベーターのボタンを…………は?

 

 

 

 

……おい待て……! なんでだよ…!? なんで……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?

 

 

 

 

 

扉を閉めるボタン以外、どこも触ってねえしぶつかってもいねえぞ!? 当然、俺以外誰も乗っていねえし…! このエレベーター、ぶっ壊れてんのか!? 

 

 

やべえ、動き出しやがった…!クソが…! なら、着く前に別の階のボタンを……! あ゛!?

 

 

―――んだよ! 気安く肩を叩いてくんじゃねえ! ナニモンだ………ぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

……俺以外…誰も乗っていねえはずなのに……。肩を……叩…かれた……。 ひっ……! まさか……!

 

 

「ひぃっ!? て、天井から…触手ミミックだとぉ…!?」

 

 

う、嘘だろおい…! エレベーターの扉を閉めてから何もしてこねえと思ったら……いつの間にかそこに移動してやがったってか…!? 天井の管理用だかの蓋から、ずるりと姿を現しやがった…!!

 

 

「や…止めろ! 来るな! 来るなぁ!」

 

 

ナイフを引き抜き振り回すが…ヤロウ、全部躱して、俺を虐め愉しむようにグジュリグジュリと迫ってきやがる…! 

 

 

や、やべえ…! エレベーターに乗ったのが仇になっちまった…! 密室じゃねえか…!! に、逃げ場が…! ひ…ひいっ……!!

 

 

 

 

  ――チンッ   ウィイイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐへっ!?」

 

 

急に、エレベーターの外に放り出されちまった…! 背にしていた扉が開きやがったらしい…! と、それと同時に攪乱役の仲間が俺の顔を覗き込んできた。

 

 

「どうしたんだ? んな焦って?」

 

 

どうやら、ボタンが押された階…俺達の部屋がある階に到着したみてえだ…。――って、状況把握してる場合じゃねえ!

 

 

「エレベーターから逃げろ! 早く!」

 

 

慌てて立ち上がりながら、その仲間のケツを蹴るように指示を出す。が、そいつは眉をひそめやがった。

 

 

「エレベーター? 何もいねえぞ?」

 

 

 

 

 

 

その一言を受け、俺は弾かれたように今降りたエレベーターへ目を向ける。扉がゆっくり閉まっていくその中には、触手ミミックなんて影も形もねぇ…!? 天井の蓋もきっちり閉じてやがる……!

 

 

「まあ丁度良かったぜ。キキーモラ共は入れ替わりで戻っていったところだ。……あれ? あいつはどこだ?」

 

 

俺の仕事は終了と肩を動かし、そこでようやく1人居ないことに気づいた攪乱役仲間。チッ…!俺がこんなに苦労してるってのに、能天気な顔しやがって…!

 

 

「作戦は失敗だ! あいつはやられた。何も盗れずじまいだよチクショウ!」

 

 

「はぁ!? やられたって、誰にだ? キキーモラが残ってたのか?」

 

 

「違えよ! なんであいつらがこんなホテルに居たのかわからねえ! …いや、ダンジョンだからいても良いのか…? クソッ…!」

 

 

苛立ちつつ、そう説明してやる。 …とりあえず逃げなきゃいけねえ…! 部屋に戻って、荷物を纏めるしかねえ!

 

 

「だからあいつらって何だよ!? 何があったんだ!?」

 

 

ったく…! 説明してやったのにうるせえ奴だ! わからねえのか!?

 

 

「黙って逃げる用意をしろ! あいつらが来ちまう…! ミミッ……―――ッッッ…!!」

 

 

 

 

 

……俺は攪乱役仲間を黙らせるために、あいつらのことを教えてやろうとした…。……だが、丁度廊下の角を曲がった時に…声を引き攣らせちまった……!

 

 

「嘘だろ……あ…あれは……!」

 

 

廊下の先……少し暗めの灯りが照らす中……。端に置かれていたのは……トランクと……無人カート!! い、いや……それだけじゃねえ……!

 

 

その近く……廊下のど真ん中に並んでいるのは……水色のワンピースを纏い……白靴下のような色の宝箱に入って、まるで手を繋ぐ双子の……少女のような……姿をした……!

 

 

 

「「こんばんは ダニー。  いっしょに あそびましょう?」」

 

 

 

「さっきの……上位ミミック!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ……早く部屋に入れ! もたもたすんじゃねえ!」

 

 

反射的に俺は横にいた仲間を蹴り飛ばし、そいつの部屋へと逃げ込む…! すぐに扉を閉め、鍵をかけ……! な、ナイフを構えて……!

 

 

 

 

 ――ドンッ! ドンッドンッ!!!

 

 

 

 

ひぃっ…!! ミミック共が…扉を叩いてきやがる!! ど、どうすりゃいいんだぁ…! 思わずナイフを両手で握り、壁に張り付くしかなくなっちまう……!!

 

 

キキーモラ共は、このホテルダンジョンの主…! だから、俺達が閉じこもればなんとか話し合いで解決してこようとする甘ちゃん共だ…!!

 

 

だがよ……こいつらは違え! どんな経緯でここに居るかは知らねえけど、下手したら斧でも持ち出して扉をぶち破ってくるかもしれねえんだ…! なんとか……なんとかしねえと…!!

 

 

「――! お、おい! 急いで荷物纏めろ! 窓から逃げるぞ! 寝てる馬鹿はもうほっとけ!」

 

 

 

未だ狂人の如く扉を殴りつけてくるミミック共に怯えながら、ビクついてやがる生き残りの攪乱役仲間に指示を飛ばす。 俺や食われた奴の荷物は隣部屋で、馬鹿が一名ベッドに移動させられて寝てやがるが……んなのどうでもいい!

 

 

ここから…ここから早く逃げねえと! この扉が突破されたら、俺達は殺され…―――っ!

 

 

 

「『Here's(ミミック) mimic!!!(とうじょーう!)』  今度はこっちが『お客様』ですよぉ!!」

 

 

 

「わぁあああああああああぁあっっっっ!!!?!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

ひぃいいいいっっ!!!! ミミックが……ミミックが……!! ()()()()()()顔を出してきやがッたァああ!!??

 

 

扉!()()()()()()()()ってのに!! 斧なんか持ち出されてすらいねえ!! ドアを開閉する数ミリ程度の隙間から……にゅるりと顔を入れてきやがったんだ!!

 

 

クソが…!クソがぁ…! ミミック共にとって、こんな扉は無意味ってことかよ…! 開けっ放しになってるのと同義ってことかよお…!!!

 

 

 

―――へ……へへ…へへへ! だ、だがよぉ…!! そんな風に顔だけ出してりゃあ、格好の的じゃねえか!!

 

 

ナイフを構えていて助かったぜ…!! 食らえっ! その顔を叩き切って……むごおっ…!?

 

 

「こちら危ないので、お預かりいたしますねぇ~!!」

 

 

なぁっ……!? もう一匹の上位ミミック…!? 何故……既に部屋の中に…!? 背にしていた棚の中にぃ…!?

 

 

まさか、俺達がビビってる間に既に侵入してたってか…!? しまっ……ナイフ奪われちまって……拘束され……!! く…クソォ…! 頼みの綱は、残ってるあいつだけに……!!

 

 

「ぎゃあああっ!! だ、ダニー!! 助けてくれェ!!!」

 

 

――は…!? なんであいつもミミックに囚われ……!? ひぃっ!?

 

 

あ…あぁ…!! 窓に…!窓に!! ミミックが張り付いて…!! いやこじ開けて、中に入ってきている!!

 

 

そ、それだけじゃねえ…!ベッドの下から……ランプや棚の中から……! 風呂場の方からも、群体型のミミック共がヴワンヴワン羽音立てて…!

 

 

「よいしょ! 失礼いたしま~す!」

 

 

その惨状に目を慄かせていると、扉の鍵がカチャリと開けられ、顔を出していた上位ミミックが中に入って……! なっ……他にも、さっき道を封鎖してきたミミック共まで…!!

 

 

うおっ……!? まだあいつ、宝箱ミミックに咥えられてやがる…!! 生きてんのかあれ……!?

 

 

 

 

 

や、やべえ……! どこを見てもミミックだらけ、俺達の部屋がミミックの巣窟に……! なんてことを……なんてことをしやがる……!

 

 

ブチギレ散らかそうにも、俺は全身を拘束されたまま。それに、異常すぎるこの状況にまともに声も出ねえ……! そうこうしているうちに、上位ミミックの一匹は扉を閉じ鍵を閉め――。

 

 

「はーい、じゃあその人はそこらへんに吐き出して~! そっちの人は解毒して起こして~!」

 

 

は…? 他のミミックに命令を出しやがった…!? 宝箱ミミックは噛みついていた俺の仲間をペッと吐き捨て、爆睡かましていた奴に毒針をブスッと刺して起こした……!?

 

 

「「…はっ!? ど、どうなったんだ…!? ひっ!? ミミック…!?」」

 

 

そいつら二人も状況を理解できずに茫然と。こ、このミミック共……。

 

 

「もしや…最初からこの部屋にも潜んでやがったのか…!? それで、あいつを眠らせて…!」

 

 

声を絞り出し、何とか真相を聞き出そうとしてやる。と、二匹の上位ミミックがケラケラと嘲笑ってきやがった…!

 

 

「お客様はブラックリスト入りしてるんですよ~? 当たり前じゃないですか~?」

 

「ずっと見張っていましたとも~! そうじゃなくとも、ダクトやらで幾らでも潜入できますので~!」

 

 

 

ぐっ…全部見ていたってか…!? んで、盗みを働こうとしたら強制的に眠らせてか……! 俺達の作戦も全部バレていったってことかよ…!!

 

 

クソッたれが! プライバシーもへったくれもねえじゃねえか! マナー違反共め、恥ずかしくねえのか!

 

 

……そう怒鳴りつけてやりたいが…反論してこねえキキーモラ共とは違い、こいつらは俺達を気軽にぶっ殺してくる…!! 下手なことは……言えねえ……!!

 

 

この……! 力に物を言わせるなんて……! なんて卑怯な魔物共だ!

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ始めさせて頂きましょうか!」

 

 

――あ…? 俺が内心そう怒り狂っていたら、上位ミミックの片割れが急に訳わからねえことを言いだした…? ……嫌な予感がする…!

 

 

「何をだ…? 何を始める気だ…!?」

 

 

「ご安心くださいお客様~! 無料のルームサービスにございますから~!」

 

 

俺が聞くと、もう一匹の上位ミミックが答えやがった。る、ルームサービスだぁ? この状況で……?

 

 

「一体どんな……?」

 

 

思わず、もう一度聞いちまう。すると上位ミミック共、恐ろしい笑顔を……!

 

 

 

「『猿でも二度と忘れない! 迷惑客の身に恐怖で刻みつける、特別マナー講座!』 でございまーす!」

 

 

「朝日が眩しくなる(シャイニング)まで、みっちりとマナーを叩きこんで差し上げますよぉ!! ご安心を。周りの部屋には誰もいませんので、いくらでも悲鳴を上げて宜しいですともぉ!!」

 

 

 

ひっ……! や…やめ…!! もう盗み働かねえから…! 変なクレームつけねえから…!! た、助け……!

 

 

 

 

ぎゃああああああああああァアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

――翌日のことである。朝日は登り、一日は始まる。

 

 

ホテリエ(ホテル従業員)であるキキーモラ達は甲斐甲斐しく動き出し、熟睡から目覚めた宿泊客は僅かとなった一泊のおもてなしを最後まで楽しむ。

 

 

そして時は満ち、チェックアウトの時間。荷物を手にフロントへ鍵を返す客の表情は様々。癒された身に喜ぶ者、大満足の笑みを浮かべる者、帰るのを名残惜しく感じる者、また来ますとお礼の言葉を残す者。

 

 

その中に、不平不満を露わにするものは全くと言っていいほど存在しない。これこそが、このおもてなしホテルダンジョンが人気だという証拠。誰も彼もが一夜を堪能したという証。

 

 

 

 

……おや。 帰っていく人々の中、見覚えのある者達が現れた。 『ダニー』という名の者が率いる4人組である。

 

 

彼らは各所で迷惑客としてブラックリスト入りしている連中。昨日はここに泊り、当然の如く色々と暴れていた。……が…。

 

 

何と表現するべきであろうか。先日までは唯我独尊と言わんばかりの悪辣な表情していた彼らが、大人しいのだ。 殊勝というか、怯えているというか、トラウマを植え付けられたというか…。もはや別人格のよう。

 

 

 

そんな彼らは自身の荷物を持ち、部屋の鍵を返却に。――と、フロント業務をしていたキキーモラが頭を下げた。

 

 

「ゆうべはおたのしみでしたね~」

 

 

「……お楽しみ、だあぁ!?」

 

 

先程の印象は勘違いだったのであろうか。一気に怒気を膨らませるダニー。…が、直後、それはスンッと収まった。

 

 

「……ほら、鍵だ。 あと、これ…。少ねえが、迷惑をかけた分のチップだ。 こっちは無理に値切った売店にでもくれてやってくれ」

 

 

彼はフロントに鍵を置き、幾ばくかの金が入った小袋も二つ置く。と、キキーモラに向けボソリと呟いた。

 

 

「……迷惑じゃなければ、次は普通の客として泊まらせて貰いてえんだが……」

 

 

「はい~! 勿論にございます~! 今後とも当ホテルをよろしくお願いいたします~!」

 

 

キキーモラのそんな言葉と微笑みを受け、ダニー達4人組は安堵の息を。そして、揃ってホテルを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

…………彼らが去ったすぐ後。ガラガラガラという音がフロントに軽く響く。どこからともなく現れたのは……キキーモラの1人が運ぶ、荷物運び用のホテルカート。

 

 

誰かの荷物なのであろうか。そこに乗っているのは、トランク一つ。そして、幾つかの宝箱。

 

 

だが、それの持ち主は現れない。いや、どこにもいない。だというのにフロント担当キキーモラは、先程の台詞を笑みながら繰り返した。

 

 

「ゆうべはおたのしみでしたね~!」

 

 

「そりゃあもう!! ビシバシ仕込んできましたよ~!!」

「もう迷惑行為は働かないと思いますよ~あの人達!」

 

 

なんとキキーモラに答えたのは、宝箱からパカリと出てきた二人の魔物。上位ミミックである。他の宝箱も開き、中から幾匹かのミミックが。

 

 

彼女達はおもてなし(サービス)大成功~!と、楽し気に笑いあうのであった―――。

 

 

 

 

「本当に助かりました~。そろそろ本当にあの方々を食べてしまおうと思ってた頃合いでして~」

 

 

 

「そしたらキキーモラによるスプラッタホラーになってましたね~! 今回の私達(ミミック)のはパニックホラーで……あれ、サイコロジカルホラー…?」

 

 

「ま、どれにしてもホテルあるあるな感じはありますけどね~!」

 

 

 

 

……そんな、恐ろし気な会話も交えて…。

 

 

 

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