ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№8 『スケルトンのカタコンベダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

「カラン♪コロン♪カタカタカタ♪」

 

私が抱える宝箱の中で、社長は楽しそうに口ずさむ。それは、このダンジョンに入ってからずっと聞こえてくる音を真似たものなのだ。

 

カラン、コロンは大きくぶつかり合った時に響く軽く透き通った音。カタカタカタは動いている時に自然と起きる駆動音。

 

何の?『骨』の、である。

 

 

 

 

今回私達が依頼を受けたのはスケルトンの『カタコンベダンジョン』。カタコンベ…いわゆる地下墓地のことだが、ここは実際に墓地というわけではない。広めの洞窟を活用したダンジョンである。

 

では何故カタコンベと言われているのか。それは、ここに居る魔物達が関係している。

 

『スケルトン』。ゴーストやゾンビと同じくアンデッド族の魔物で、その見た目は骨。それ以外に言い表せないほどに骨である。我が社の医務室にも置いてある骨格標本、それがそのまま動き出したかのような感じなのだ。どこを見ても骨、骨、骨…。墓地と言われるのも納得である。

 

 

 

「アスト、足元気を付けてね」

 

「はーい」

 

社長に返事をしながら、私は注意深く歩く。ダンジョンのそこいらには骨が乱雑に散らかっているのだ。それがただの飾りか、これからスケルトンになるのか、はたまた魔物としての生も終えたのかはわからないが、下手に踏むわけにはいかない。あとぶっちゃけ、踏むと転ぶし純粋に痛いし。

 

 

「オォ、コッチダコッチダ!」

 

と、道の先で手を振るスケルトンが。骨の身体に重厚な鎧を着こんだ彼(?)が今回の依頼者「ボン」さんである。喋る度に骨がカタカタ言っている。

 

 

「汚イトコロデ悪イナァ。足ノ踏ミ場モナイダロウ」

 

自分で言って自分で笑いながら、ボンさんはダンジョン奥へと案内してくれる…のは有難いのだが…。

 

「ま…待ってくださいボンさん…!」

 

速い…! 重厚な鎧を着ているはずのボンさんはスッスッスッと先へ進んでいく。片やこのダンジョンの住人、片や足元を気にして歩いている私という差があるとはいえ、速すぎでは…? 気づいてくれたボンさんは足を止め、カタカタ笑った。

 

「スマンスマン!何分スケルトンニナッテカラ身体ガ軽クテナ!ヤッパリ贅肉ハ無イホウガ良イ!」

 

いや、贅肉どころか必要な内臓とかまで全消失しているのだけど…。ふと私は気になり、ボンさんに質問をしてみた。

 

「そういえばボンさんは生前どんな御姿だったんですか?」

 

「ン?写真アルゾ」

 

そう言うと、ボンさんは頭蓋骨の上をパカリと開けた。開くんだそこ…。

 

「ホレ、コレダ」

 

彼が取り出したのは古ぼけた一枚の写真。そこにはかなり太った男性騎士が写っていた。

 

「騎士だったんですね。ということは死因は…」

 

魔物と戦ったことによる戦死ですか?そう聞こうとしたのだが、ボンさんはそれよりも先に首を振った。

 

「イヤ。酒ノ飲ミ過ギデ死ンダンダ!」

 

それでも飲み足りなくてスケルトンになったんだろうな、ボンさんはそう言い大爆笑。私達は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

そう、スケルトンは全て元人間。一度目の生を終え、魔物として生き返ったのが彼らなのである。中にはそれが受け入れられず人間の里に突撃したり魔物と戦い続けている者もいると聞くが、ここにいるスケルトン達は魔物としての生を享受しているようだ。

 

その証拠に、ボンさんに案内された場所には…。

 

 

「カンパーイ!」

「ソゥレ!イッキ!イッキ!」

「ブッハァ!骨身ニ染ミルゥ!モウ身ハ無イケド!」

 

 

ジョッキをガコンと打ちつけ合い、文字通り浴びるように酒を飲んでいるスケルトン達。もしかしてここは…。

 

「酒場、ですね…?」

「そうみたいね…」

 

ここはダンジョンの奥底のはず。なのに何故か存在する酒場に、私と社長は唖然としていた。

 

 

 

 

「んぐ…んぐ…んぐ…ぷっはぁ!もう一杯!」

 

「良イゾミミンチャン!良イ飲ミップリダ!」

 

まあそれも僅かな間。社長はあっという間に他スケルトン達と打ち解け飲み比べを始めていた。社長はあの見た目(少女姿)で結構な酒豪なので、挑戦者達は次々とギブアップしていった。…スケルトンが酔うのか、と言われても実際酔っているのだから仕方ない。

 

というか、飲んでいるようにも見えない。スケルトン達は口から酒を流し込んでいるが、内臓が無い彼らは骨の隙間とかからほぼほぼ垂れ流している。勿体ない。

 

中には肋骨の中に別のジョッキを仕込み、取り出しては飲み取り出しては飲みを繰り返している人もいた。まあそれでも零しまくっているのだが。

 

 

「そういえばこのお酒って人里で売っているものばかりですよね。どうしているんですか?」

 

社長はジョッキに追加を注いで貰いながら首を傾げる。確かに、カウンターに並んでいる酒の銘柄はどれもこれも人間達が作っている物である。と、ボンさん達はカタカタ笑い答えた。

 

「アレハホトンドガオ供エ物ダ。俺達ノ墓ニ定期的ニ置イテイッテクレルカラ有難ク頂戴シテイル」

 

「タマニ村ニ買イ物ニ行クコトモアルゾ。夜二厚手ノ服ヤ鎧ヲ纏ッテ行ケバ案外バレナイカラナ」

 

元が人間だけあって、人里への紛れ方は得意としているらしい。結構悠々自適な第二の人生を送っているようである。

 

 

 

 

場が和んだところでいよいよ商談開始。社長がまず切り出した。

 

「それでご依頼というのは?」

 

「アァ。実ハココニモ冒険者ガ入ッテクルヨウニナッテナ。ココヨリ奥ニ俺達ソレゾレノ個室ガアルンダガ、ソコヲ狙ワレルンダ」

 

酒場に加えて各スケルトンの個室とは。ここはダンジョンじゃなくて宿か何かの施設ではないかと私は眉を潜めてしまう。ボンさんは話を続けた。

 

「ソコニハ生前ノ遺品ガ置イテアルンダガ、人間ノ時カラ大切ニシテイタ物ダカラナ、売レバ高値ガツク物ガ結構アル。俺達ガスケルトントシテモ死ンダナラバ持ッテ行ッテモ良イガ、意識ガアルウチハ嫌ナンダ。ドコノ馬ノ骨カワカラナイ連中ニ…正確ニハ人間ノ骨ダケドナ!」

 

なるほど、シンプルな依頼である。となると、派遣するミミックも楽である。

 

「ならこちらの子達がお勧めです!下位ミミックの宝箱型、入ってきた人間達をパクリと食べちゃいます!」

 

カタログを開き紹介する社長。すると周囲にいたスケルトン達が一斉に覗き込んできた。

 

「オォ!ソレカ!」

「懐カシイ!コイツニ幾度殺サレタカ!」

「敵ダト恐ロシイケド、味方ニナルト心強イワネ」

 

かつての冒険者もいるのだろう。過去話に花を咲かせるスケルトン達。これもまた元人間ならではであろう。

 

そして彼らは、ダンジョンに入ってくる人達が復活魔法陣で復活できることを知っている。故に容赦なくミミックを購入することを決めてくれた。ボンさん達がミミックを使役する側になれた愉悦に震えているような気がするのは気のせいではないと思う。

 

 

 

「ア、ソウダボンサン。アノ僧侶達ノコトモ相談シテオカナイト」

 

「オ。忘レテタ。ミミンチャンモウヒトツイイカ?」

 

仲間に促され、ボンさんは細い指を一本立てる。社長は元気に頷いた。

 

「はい勿論!なんでしょう?」

 

「実ハ、冒険者ノ他ニ僧侶ヲ始メトシタ聖職者ガ時折入ッテクルンダ。アイツラ、俺達ガ苦シンデイルト勘違イシテイルノカ、浄化シヨウトシテキテナ。ダンジョン内ナラ幾ラデモ復活デキルンダガ、ソノ間ニ教会マデ運バレテシマウト消滅サセラレテシマウ」

 

「アノ人達ノ攻撃、私達ニ凄イ効クノヨ。オカゲデ倒スノニモ骨ガ折レテ…実際ニ折レテイルワケジャナイケドネ」

 

「死ニタケレバ自ラ教会ニ向カウサ。マダ楽シミタイカラ、コウシテダンジョンデ暮ラシテルンダヨ」

 

続々と不満を漏らすスケルトン達。よほど辟易しているのだろう。その依頼に、私達は腕を組み考えた。

 

「ということは皆さんを、骨自体を守らなければいけませんよね…」

 

「そうねー…」

 

彼らの口ぶりから察するに、倒された後バッグに詰められ教会に運ばれてしまうらしい。そこらへんにミミックを置いて警備してもらうという方法があるが、守れるかの保証はない。となると…。

 

「ねえアスト。私一つ考えがあるんだけど」

 

「奇遇ですね社長。私もです」

 

社長と目配せをし、私達は確認に移る。ボンさんに協力を仰ぎ…。

 

「「失礼します!」」

 

社長は鎧の隙間からボンさんの身体に、私は少し飛んでボンさんの頭蓋を手を入れる。

 

「ウアッハッハ!クスグッタイ!」

 

骨をカランコロン鳴らして悶えるボンさん。確認を終えた私達は彼に礼を言い再度席に戻った。

 

「どうでした社長?」

 

「問題なく行けるわね!そっちも?」

 

「えぇ。()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「アリガトヨ2人共!オカゲデユックリ骨ヲ休メルコトガ出来ル。スケルトンダケニ!」

 

ボンさん達に手を振られ私達はダンジョンを後にする。因みに今回のお代はそこらへんに転がっていた骨。実はこれ、呪薬や杖の材料として使え、意外と良いお値段になるのだ。もう死んでいるから構わないと言われたが、良いのだろうか…?

 

「ところで社長、聞きたくて聞けなかったことがあるんですけど」

 

「なぁにアスト?」

 

宝箱一杯の骨の中に身を埋め、骨同士を楽器のように打ち鳴らし遊んでいた社長はくるりと振り向く。いつの間にか頭蓋骨を被っているし。

 

「なんかボンさん達、ちょこちょこオヤジギャグのようなのを挟んできたんですけど、なんでだったんでしょう」

 

「そりゃ、オヤジだったからでしょうね。骨の質を見る限り、皆ある程度年取ってから死んだみたいだし」

 

「あぁ…そういうことですか…」

 

 

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