ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
「さっきのキツかったわぁ……。ジミーの奴が酒場主人になって、魔物達の注文に応えてくやつ…」
「ひとっつも応えられてませんでしたけどね…。全部トンチンカンな…」
「コボルトに向けて犬の唸り声で返すの、酷かったっすね……」
「あと、アルラウネが柑橘系のカクテル欲しがっとるのに、聞き取れないでずぅっと『カンキツケ?』で返すのが……」
「あーダメや…! 思い出すだけで……ふふっ…!」
\デデーン/
『全員、OUTぉ!』
「痛ぁっ…! あとアレっすね、週刊誌の……」
「あーあれな。『週刊モンスター』の嘘記事…。 俺の筋トレでネタ書かれとったな。何が『鬼のような苛烈さ!!』やねん…!」
「あとハダマさんのネタも。まるで本当にマジもんのイエティのとこ取材に行ったんじゃないかって本気っぷりでしたね」
「写真の顔全部、俺やったけどな…!」
「フはッ……!」
\デデーン/
『全員、OUT!』
「痛あっ! はーもうやめやめ! いつまで思い出し笑いでケツ叩かれなきゃいかんねん!」
【引き出しネタを存分に味わった五人。 と、そこへ―――】
「皆、ちょっといいか」
「なんやフジラワ」
「どうしたんすか?」
「今からダンジョン外の広場で、冒険者対策としての訓練を行う。 皆も参加してくれ」
「うわ来た……」
「やっぱあそこ使いますよね…」
「はぁ……行こかー……」
【フジラワに呼ばれ、全員ダンジョンの外へと。 待ち受けている訓練とは一体――?】
「――で、用意された服に着替えた訳やけど……」
「いつもの運動ジャージっすね…」
「僕の皿の被り物や、エンドオの付けエルフ耳、ハダマさんとマツトモさんのモサモサ被り物や付け鬼角は残したままなんすね」
「まあ魔法でもかけられとんのか、ずり落ちたり蒸れたりはないけどな。 あとは……フッ…」
「なんでこっちみて笑うんすか! 僕はデカいスライム着ぐるみ外せたから嬉しいですよ! 結局ジャージに黒目線入りのあのにやけ顔書いとりますけど!」
\デデーン/
『ハダマ、マツトモ、タカナ、エンドオ、OUTぉ!』
「こっち向かんで欲しいわぁ……。 ぐぅっ…!」
「だぁっ…! 痛て……。 で、あそこも使えるんすかね、なんかせり出した遺跡ダンジョンみたいなとこ…」
「ま、せやろな。 入口何箇所かあるし。 使えってことやろ」
「んで、端の方には見慣れた、ドクロマーク付きの黒くてデカい表彰台みたいのありますし…。 ということは……」
「うおわっ!?」
「何!? あ、マツトモさんが捕まって連れてかれとる……。 んで、透明ボックスに閉じ込められてますわ……」
「いつものやな。 てかあれ、ミミックやん……」
「ですね…。 全身黒タイツで、真っ黒宝箱……。まさか……」
「マジで『お仕置き部隊』なんやなぁ……」
「皆、集まったようやな。 …マツトモ、囚われのお姫様と言ったところか」
「んな柄やないやろあいつ…。 あんなムキムキ爺の姫様、こっちから願い下げやぞ」
「「「フッ…!」」」
\デデーン/
『タカナ、エンドオ、ホーセ、OUT!』
「「「ったぁ……!」」」
「ええか? まだ一日体験の新入りとはいえ、ダンジョンに棲む以上、冒険者と渡り歩く術を身につけんといかん。 だから、体力作りの訓練や」
「はぁ。そんで?」
「今から、ミミック達が鬼役として四人を追いかけてくる。皆はそれから逃げながら、どっかに隠してある鍵を見つけてマツトモを救出するんや」
「やっぱミミックがやるんすね……」
「そして、ミミックに捕まったら…?」
「勿論、お仕置きや。その内容はミミック達の服や箱に書いてある。 そうそう、訓練中は笑って構わんけど、『捕まってはいけない』からな」
「はあぁ……。 なんか恐ろしさ増した気がするわぁ…」
「因みに、時間経過でミミック達は増員されるからな。気をつけるんやで。 ほな――」
『『捕まってはいけない、スタート!!』』
「おぉ…! 開始の合図、アナウンスの嬢ちゃん達がするんか…!」
「そういえばお仕置き部隊の隊長達でしたね…。 元気いっぱいやなぁ……」
「って、んなこと言ってる間にミミック飛び出して来ましたよ!」
「『スリッパ』や! 逃げましょ!!」
「待て待て待て…!! 嘘やん…!」
「あー駄目だ…。 早速ハダマさん捕まった…。ミミックの走り、速いなぁ……」
「わ、箱ん中からスリッパ取り出した…! でも箱入りで背ぇ低いのに、どうやって頭叩くんやろ」
「あっ、触手か! って、背もニョッて伸ばせるんか…! 何でもありやな…。 って、マズッ! 『ハリセン』も出てきた!」
~~~~~
「――鍵見つかりました?」
「まだや。 どこにあんねやろ」
「というか、そろそろ時間が……」
『10分経過! ミミック、増員っ!』
「うわ来た! なんや、何が増えた…?」
「えーと……『ゴブリンズバット』と『ケンタウロスキック』ですね…! なんかどっちもヤバそうな感じが…!」
「うわ来た来た来た! ゴブリンの方が来た!」
「うわぁっ! うわあ……」
「あ、エンドオのヤツが捕まった。何されるんやろ」
「ん? わっ!? ミミックの箱の中からゴブリンが三体出てきた!?」
「そんなことも出来るんやミミック…。 あ、ゴブリン達ケツバット持ってますやん。 で、それを…」
「痛たたたたたたっっ!!!?」
「うわー…。エンドオのケツ、太鼓みたいに連打されとる…。痛そ……」
「そやな……」
「痛そやな……」
「へ? なんでお二人とも離れてって……。……うわ…。『ケンタウロスキック』やん……」
「ケツ痛ったぁ……。 次、タカナですか?」
「ケンタウロスキックやって。 お、ミミックが……」
「今度は…わっ! 高跳びとかで使うマットと…でっかいキックミット出てきた…! どうやって入ってんやあれ…?」
「え、これ持つの? マジで? 嘘でしょ…?」
「うわタカナ、キックミット持たされとる…。ということは……」
「あ。向こうからケンタウロス走って来とるで。 って、むっちゃパカラッパカラッ言わせとるやん!」
「蹴り強そうっすね。 お、こっちきた。 そんで、タカナに足向けて……」
「嘘でしょ嘘でしょ!? マジでマジ…――ぐはぁっ!!?」
「うわぁ…。えっぐいキック入った…」
「マットに思いっきり叩きこまれたなぁ……」
「あれには捕まりたくないですね……」
~~~~~
『――更に10分経過。 ミミック、増員します』
「……また増えたと。 怖いわぁ」
「ここ、室内ですから逃げ場少ないですからね…」
「鍵あれば良いんですけど……――」
「あぁっ! あった! 鍵あった!!」
「あったんか!?」
「はい! あの宝箱の中に!」
「早速マツトモさん助けに行きましょ!」
「…いやそうも言ってられませんかも…! 新しいの来ました!」
「逃げえ逃げえ! なんて書いとる!?」
「えっと…! 『巨大カエル』って!」
「なにそれ…?? あっホーセさんが!」
「うわぁっ! 嫌やあ…!!」
「…で、結局外に連れ出されましたね」
「巨大カエルって、影も形も……うおおっ!?」
「すっごい勢いで跳ねてきた…!! 人なんか簡単に呑み込める大きさじゃないですか!!」
「え゛。なんで縛るん…!? なんで持ち上げるん!?」
「うわホーセさん、ミミックの触手に縛られて持ち上げられてますよ……」
「力持ちやなぁミミック…。えっ、そんままカエルの口元に……!?」
「あっ……。本当に吞み込――ー」
「うわああああっ! うぶぶぼぼ……」
「ひええ……。ガチで食われましたやん……」
「ミミックが掴んでくれたままやから、呑み込まれはしない…んか…?」
「あ、引っ張り出された。 っふ…! べっちょべちょ……!」
「……全身、臭っさいわあ…もう嫌やぁ……」
「えーと…。とりあえず鍵手に入れましたし、マツトモさんのとこ行きませんか?」
「せやな。 …ま、多分偽物やろうけど」
~~~~~
「マツトモさん、鍵手に入れてきましたよ」
「ホンマか。 開けてくれ!」
「はい。 ……うん、鍵穴に入りませんね」
『偽鍵を確認! 牢の中にお仕置き投入~!』
「うわアナウンスめっちゃ楽しそうやん…!」
「何が始まるんでしょう…。 あ、カーテンの裏から…」
「またミミックですやん…! うわっ、宝箱型…!」
「怖っ! 牙ギラッギラ光っとるやん! えっ、どうすんの…!?」
「なになになに…!? うわっ…! うおっ…! 止め…べほっ…! 頭が…チクチクす…ごぶっ…!」
「アッハハッ! マツトモ、むっちゃくちゃミミックに舐められて、頭まで齧られとるやん!」
「うわホーセさん以上に顔べっちゃべちゃ…。 しかもまだ終わんないし」
「これ、俺のとどっちがマシなんかなぁ……」
「どっちもキツそうですね……」
~~~~~
『――再度10分経過。 ミミック、更に増員します』
「まーた増えましたよ……。 二体です……」
「今度はなんや…? …『着ぐるみ』? んで…なんやあれ? 『商人』?」
「なんですか商人って?」
「こっちが聞きたいわ……」
「――ああっ! ありました! 宝箱です!」
「ホンマかタカナ!?」
「はい! ほら!」
「おおー! じゃ、早速鍵を…!」
「よいしょ! …………は?」
「え」
「ええっ…!?」
「嘘やろ……!?」
「「「「ミミックやんかあ!!?」」」」
「うわぁ…もう…! 心臓に悪いわぁ……! あー優しく優しく…!」
「せやったなぁ…。ミミックだもんなぁ…。 ああして宝箱に擬態してるのが普通なんやろなぁ……」
「見事に引っかかっちゃいましたね…。ただまあ、中に居たのがハリセンで良かった気が」
「開けたのがタカナだったのもな。 うわ痛そ…! って、うわっ! 『着ぐるみ』こっち来とる!!」
「――結局捕まるのは俺かいな…」
「よっしゃ…! ハダマさんが捕まった!」
「『着ぐるみ』ってなんでしょうかね?」
「痛ってて……。あ、ミミックが箱から何かを……――!? ふふはっ…!」
「うわそれかい…。 さっきヘルメーヌ様がホーセに選ばせたスライムの……。 どっちか選べってえ…? じゃあ、こっちのクラゲので……」
「は、ハダマさん…! ふふふ……ふははっ…!」
「なにわろてんねんこの…。でもホーセ、案外これ、動きやすいぞ。触手のびらびら邪魔やけど」
「そうなんすよ。僕の着てたのも案外心地よくて。でも流石に身体を動かす時は…」
「せやなぁ…。絶対ハンデやもんこれ。今回のその枠、俺かぁ……」
「って、そんな悠長なこと言ってられないみたいです…! 『商人』のミミック、走って来とります!」
「―――で、なんで捕まるの俺やねん! ハダマさん狙う絶好のチャンスやん! なんでぇ!?」
「あー。ホーセさんが捕まりましたね…」
「ざまみろ」
「どっか連れていかれますよ? なんか部屋に入れられて……」
「あ、出てきた…なんやあれ? 青い付け髭つけられとる。んで、服着替えさせられとるな」
「みたいっすね。青縦縞柄の長い服に、赤紫のチョッキと帽子…。んで、商人みたいな背負子も」
「あ! 背負ってるの、宝箱です! しかも何個も…! ……あれ、それだけじゃなくて……ふふはっ…!」
「うわ…! 腰に沢山紐結わえられて、大量の宝箱引きずらされとる……!」
「……どうも」
「確かに商人みたいな格好っすね。 いやしかしこれは邪魔ですね……」
「重くないんですか?」
「重くはない。重くはないんよ…。背中のも、この引きずっとるのも。軽いというか、なんというかな……?」
「なんや煮え切らん言い方やな。 なんかあるんか?」
「いやそれがですねハダマさん…。 この宝箱、実は―――うわっ!」
「うわなになになに煩さ!? 宝箱の蓋がガキンガキン開いて閉じて!?」
「えっ嘘でしょ…! この宝箱、全部ミミックですよ!!」
「とんでもないもんつけられたなぁ…。 うおっ!音聞きつけて鬼来とるやん!!?」
「あっ! 待ってくださいハダマさん!」
「知るか! ホーセこっちくんな!」
「何でですかぁ! そないな恰好しとるのに! 僕がピンク鎧の戦士じゃないからですかぁ!?」
「何言うとんねんお前!」
~~~~~
「――あ゛ぁあ……疲れたぁ……」
「お仕置き、沢山種類ありましたね……。『ハーピーブランコ』とか言って、ハーピーの空に吊るされるやつとか……」
「『自爆ゴーレム』って頭の上に爆発ゴーレム乗せられたん怖かったですわ……。あと他にも、色々と他芸人や大物が魔物に扮して出て来て……」
「マツトモさんも触手ミミックに呼吸困難になるまでくすぐられたりされてましたね……。でも、そろそろ終わりなんじゃ―――」
『訓練終了まで、残り10分!』
「あぁほら、アナウンスもそう言って……」
『最後のお仕置き役、増員します――!』
「―――なんて?」
「最後とかどうとか……。 うわ出てきましたよ!」
「…えっ!? ミミックじゃないですよ!? 人の姿…!? 『走り屋』って書いてあります…!」
「すんごい嫌な予感……! とりあえず逃げましょ! ―――って、は、ハァッ!?」
「「「「は……速ぁっ!?!?」」」」
「嘘でしょ嘘でしょ!? 人の速さじゃないですよあれ!?」
「ミミックの速さとか優に超えとるやん!? 誰あれ!?」
「あれもう突風とか竜とかの次元ちゃうんか!? いや無理無理! 逃げられへん!」
「うわ標的俺やん! た、助け……!!」
「うっし! 捕まえたぞ!」
「エンドオが捕まった! ってあいつ、一番遠いトコに居たよな?」
「は、はい…。 なんかあの鬼役、走るためにわざと一番距離ある人を狙ったような…」
「……というか、あの声聞き覚えあるんやけど……まさか……」
「――よっと! オレだぜオレ! さっき振りだな!」
「「「「ゲッ…!! イダテン神様!!?」」」」
「ゲッ、たぁはなんだ! ゲッ、たぁ! 『
「ヒェッ…! いやごめんなさいイダテン神様…! 許してください…!」
「ヘッ、許してやるさ! だが、お仕置きは執行するぜ? こっちだこっち! お前達も来な!」
「うわぁ……エンドオ連れてかれた…。南無三……」
「ついていくべき…ですよね…?」
「呼ばれたんだから、そりゃなぁ…。神様のお仕置きとか、おっそろしいわぁ……」
「よし、エンドオ! これに乗れ!」
「え゛…。 これって……イダテン神様の……」
「おう! 『レーシングカー』だ! オレがいっつも自分のダンジョンで乗り回してるやつ!」
「いや乗れって言われましても…」
「遠慮するなって! ほら助手席に! ……ん? なんだ? あ、そっか。一応防具つけねえとな!」
「うわなにここ…! すっごい一直線の広い道路や…!?」
「ほんでエンドオ、ミミック達に何か着せられとるし……ヘルメットとかか安全ベストとかか?」
「で、イダテン神様に車に乗せられて、イダテン神様も乗り込んで――うわすっごい爆音!?」
「よぅし! 準備は良いかエンドオ!」
「は、はい…! 防具つけましたし、ベルト締めましたし…! ……なにするんですかぁ…!?」
「勿論、ブッ飛ばすに決まってんだろ! 舌噛むから喋んなよ!?」
「え!? は、は――うわああああああっ!?!?!?」
「うおおっ!? えっらい勢いで走り出したでアレ!?」
「イダテン神様のレーシングカーっすね…! うわ車輪から火ぃ撒き散らしとる…」
「…って、もう点になったで……。砲弾の速度超えてるんちゃうか…? っわぁ!? えっらい勢いで戻って来た!!」
「あ゛ああああああああ゛ああっっ!!!」
「ハッハッハァ!! そらそらそらァ!」
「うわあのレーシングカー、ものっそい勢いで回転しだした……地面に車輪の焦げ跡…というか火炎、何個も残っとるやん…」
「えっぐぅ……。 あれ下手したら死ぬんちゃいます…?」
「神様、おっそろしいわあ……。 よかった、俺じゃなくて……」
~~~~~
「――うし! こんなもんか! まだまだ走らせたいとこだが……」
「うぉお゛……お゛ぉえ゛……」
「これ以上は駄目だな! ほら、降りな!」
「大丈夫かエンドオ…?」
「……だいじょぶに……見えますぅ……? お゛ぶっ……」
「ふふっ……。 まあ、生きてて良かったな」
「最後の最後にえっらいお仕置きが待ってたなぁ……。イダテン神様がしっかり活躍なされた……」
「あ。イダテン神様、ぎょきょ…ご協力、有難うございます」
「おーフジラワ! オレも楽しかったぜ! お? その手に持ってるのなんだ?」
「あ、そやそや。 皆、すまんかった。 マツトモの檻の鍵、持ったままだったわ」
「うわやっぱり……」
「そうだと思いましたよ……」
「しんどぉ……」
「……う゛ぇ゛っ……」
【フジラワの手違いもあり、訓練はこれにて終了。 しかしまだまだ、ダンジョンでの一日は折り返し地点にもなっていないのだ――】