ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
「いやぁ、メシ、とんでもなく美味かったなぁ……」
「でしたねえ…! なんか、疲れが吹っ飛んだ気分ですわ…!」
「美味いだけじゃなかったわ。温かいのはしっかり温かくて、冷たいのはしっかり冷たくて、でもどれも乾いてなくて…」
「まるで、出来立てをすぐ頂けたって感じでしたね。 運んできたあの箱が凄いんかな…?」
「おかげでこの後のやる気も漲ってきたわ。頑張るかぁ」
【食事を終え、暫しの休息を堪能する五人。 と、そこへ――】
「皆、ちょっとええか?」
「うわまた来た…」
「なんかやる気が一気に消費された気分やわ…」
「今度は何ですか?」
「そろそろ、ダンジョンの各施設を紹介しておこうと思ってな。 ついて来てくれ」
「しゃーない。行くかぁ」
「はーい」
【ということで、五人はフジラワに誘われ部屋を離れる。 待ち受けているのは、一体どのような刺客達なのか――】
「ほな、最初はここにしよか。 ここは『憩いの広場』や」
「おっ。色んな魔物が寛いどんなぁ」
「わー! 立派な噴水や!」
「天井、吹き抜けみたいになっとんのやな」
「日差しが暖かくて気持ち良いですねぇ」
「ここで飲み物片手にのんびりできたらどんだけ嬉しいか……」
【五人がまず連れてこられたのは、多数の魔物達が憩う安らぎの空間。最初に仕掛けてくるのは、一体誰なのか――】
「ま、ここで寛ぐんは、このダンジョンにしぇい…正式に仲間入りしてからのお楽しみやな。 ほな、次に――…うわぁっ」
「わっ!? 噴水が光り始めた!?」
「なんやなんや!?」
「……ってこれ…!」
「なんか見たことある光り方っすね……」
「そうかぁ…噴水も『泉』みたいなものやしなぁ…」
「う~~ンッ!! 腹ごなしの運動は、やっぱりここが一番デース!!」
「「「「「やっぱりヘルメーヌ様やん!!」」」」」
\デデーン/
『全員、OUTぉ!』
【なんとここに来て再登場。泉の女神、ヘルメーヌ様。 ダンジョン主の魔女(という設定)である彼女は、何故か噴水の中に…?】
「ちょっとヘルメーヌ様。 ここで泳がんといてくださいって何度も言うてるでしょ」
「ワォ! フジラワと新入りの皆サンじゃないデスカー! さっき振りデース!」
「いや聞いてますか? ここの噴水で、泳がんといてくださいって!」
「ン~??」
「聞こえてないんですか?」
「ここの噴水で泳がんとイテ~、とシカ……」
「いや聞こえてるやないですか…! きこえちぇ……聞こえてるやないですか!」
「「「「「フッ……!」」」」」
\デデーン/
『全員、OUT!』
「ヘルメーヌ様になに言わせとんねん……。 ダァッ…!」
「ほんで、なんで噛んどんねんフジラワは…! あぐっ…!」
「わざわざ二回目言ったのに……。 ぶぃッ…!」
「そこで噛んでるからタチ悪いっすよね。 どぉっ…!」
「……まだヘルメーヌ様、髪と魔女帽、普通やな…。 ばぅっ!」
「あーもう。ここはプールじゃないって何度言うたら…」
「ごめんなサ~イ! でも、ここで泳ぐのは譲れまセーン!!」
「なんでなんすか。はあ……。じゃあせめて、この水泳帽を被ってください。 その魔女帽だと周りに水、飛び散りますから」
「なんで持ち歩いとんねん……」
「仕方ないデスネー。じゃあクルリンパ☆」
「――!?」
「フッ…!!」
「帽子外した…はずみで……!」
「ヘルメーヌ様のカツラ?がずり落ちて……!」
「頭、泉の表面並みにピッカピカやんもぅ!」
\デデーン/
『全員、OUTぉ!』
「いやな…。 さっきので予想出来てたとは言ってもな……。 うぐっ…」
「そっすね…。予測できた分、食後のお腹には少し優しいのかもしれませんけど…。 だぅっ…!」
「そんでも笑うに決まっとりますよ! 本当に禿げ光らせるなんて…! あがっ!」
「マジでホンマに、女神様に何やらせとんねんっ!! ずぁっ…!」
「もうスタッフ全員、一度祟られた方がええんちゃいます…? はぅっ!」
「――それで、水泳帽をスポッ☆と……アレ? アレレ!? 髪がありまセーン!?」
「あ、お気づきになられたみたいです……」
「そいやカツラ、どこ行ったんや? あ…ふふっ…!」
「噴水の中、ゆらゆら流れていっとる…!!」
「クラゲみたいに優雅に流されとるやん……」
「どうしましょ…? 教えて差し上げた方が……?」
「アッ! 見つけマシター! 新入りの五人サン、とってくだサーイ!」
「そう来たか……。 ふはっ…!」
「駄目ですわ……。 ヘルメーヌ様の頭見ちゃうと笑いが……」
「なんでこのネタを許可してくれたんやろなぁ……」
\デデーン/
『全員、OUT!』
「「「「「ぐあっ……!」」」」」
「…で。とってくれと言われましても……」
「掴んで持ってく……ぐらいですかね……」
「とりあえず、もうとっちゃっても――あれっ!?」
「どしたん?」
「いや…! 掴もうとしたらするっとすり抜けて…!」
「んなわけ……うわっ!? ホンマや!?」
「このカツラ、魚みたいに逃げるんすけど…!!」
「いや何してんねん…! は!?マジやん! 生きてるみたいに動いとるぞ!?」
「早く返してくだサーイ! 頭寒いデース!」
「ふっ…! いやそう言われましても…!」
「魚みたいにするする逃げてくんすよ…!」
「俺達、熊じゃないんすけどぉ…!」
「そこやっ! あぁっ…駄目や……」
「……なんで俺ら、噴水取り囲んでカツラの掴み取りしてんねん……」
「「「「「ふふっ……!」」」」」
\デデーン/
『全員、OUTぉ!』
「「「「「だぁっ…!」」」」」
「――ててて…。 ん?」
「あ、ハダマさん! 手に…手に!」
「フッ…!カツラくっついて来とるやん! あぐっ…!」
「あっ! てかあれ、よく見るとミミックじゃないすか…!?」
「だからカツラが泳いだんや…! ホンマに何にでもなるなミミック……」
「ハダマさん、ナイスデース! 返してくだサーイ!!」
「あぁ、はい…! えっらいビショビショなんすけど……」
「ありがとデース! それじゃ、とってくれたお礼をしなきゃいけませんネ~!」
「えっ。 いや別に……」
「これを……スッポ~ン☆」
「はっ!?」
「ふふっ…!」
「ハゲ頭がすぽんって外れて……!」
「あれもカツラやったんや……」
「よかったぁ……。神様の髪、剃らせた訳じゃなかったんやなあ……」
\デデーン/
『全員、OUT!』
「「「「「はぁぅっ…!」」」」」
「――さてハダマさん! お礼にこのカツラ、どちらか差し上げまショ~!」
「はっ!? ふっ…! い、いえ、要らないっす…。 もうイエティの、被っとりますし…」
「そんなこと仰らずニ~! ササ!」
「いやちょっとあんまり……。 びちょびちょですし……」
「アラそうデスカ~…。 フフ~ン! 正直者デスネ~!! そう言う方には――」
「うわっ!? 噴水また光った…!?」
「もしかして……! 二つ物並べられて、正直に答えたから…!?」
「えっ! 泉の女神様の力、発動したってことか!?」
「多分そうだと……! ということは、全部渡され――」
「――ん? なんか、水の中から出てきたで…? あれは……」
「正直なハダマさんには、この『おかっぱカツラ』をあげちゃいマース!」
「いやそれいつも俺が被らされとるヤツやんけ!!」
\デデーン/
『全員、OUTぉ!』
「見事にツッコミ引き出されましたね…。 うぁっ…!」
「やられたわぁ…。 気ぃ抜いてたもん…。 ばあっ…!」
「あ。見てください、ハゲカツラとおかっぱカツラ…! ぐあっ…!」
「だあっ…! ん? ふっ…! カツラ三つとも、ぱちゃぱちゃ泳いどるやん!」
「全部ミミック入りってことですかね……。 シュールやなぁ……」
「全くもう…。 しゃーない。ヘルメーヌ様は置いといて、案内の続きしよか。ほな、次はこっち……―――」
「待つがいい、フジラワよ!」
「ううわこの声…」
「ここで来るかぁ…」
「再登場の合わせ技ですね…」
「新入りの五人よ、吾輩のことは覚えているな? このドラルクが、再戦を希望しに来た!」
「おぉぉ…沢山のコウモリが集まって…!」
「ドラルク公爵になったぁ…!」
「先のダンジョン入り口での戦いでは不覚をとった。だが、今回はそうはいかぬ」
「いや自分から日光の元に踏み出してきたんやん…」
「それで思いっきし致命傷食らってましたよね…」
「というかここも、外ほどじゃないにしろ日光照ってるんすけど……」
「ほう。日が差しているここでは、吾輩は上手く戦えぬ―。そう言いたいのだな?」
「えっ、いやまあその…まあはい……」
「吾輩がそのようなミスを繰り返すとでも思ったか。 見上げてみるがいい!」
「なんや…? おおっ…!?」
「天井の明かり取りの穴が…!?」
「全部闇で埋まっていくやん…!?」
「うわかなり暗く…!」
「これヤバいんちゃいますかね…!?」
「やめるんや、ドラルク! こんなことしたらどうなるか……!」
「止めてくれるな、フジラワ! さあ構えよ五人共。 先の汚名、見事返上して見せようぞ!」
「うわ今度こそマジちゃうんか!?」
「また力溜め始めてますやん…!」
「怖い怖い怖い怖いっ…!!」
「さあその身でとくと味わうがいい! 我が必殺の一撃を! はぁああアア―――」
「う・る・さ・い・デ――――スッ!!!! そ~れバッシャーンッ☆」
「グワ――――――――――ッッ!!」
\デデーン/
『全員、OUT!』
「いや…いやいや……そこでヘルメーヌ様介入してくるとは思わんやろ…。 だぅっ…!」
「しかも思いっきり水かけられて消滅ってどういうことやねん…!! あぐぅっ…!」
「そういえば、ヴァンパイアって流水にも弱いとかなんとか……。 はぁっ…!」
「女神様のかけた水やし、『聖水』にでもなってるんでしょうねぇ…。 おうっ…!」
「なんちゅう合わせ技を……。 べぁっ…!」
「クッ…! 予めヘルメーヌ様を味方につけておくとは…やはり策士! 見事だ新入り達よ!」
「いや勝手に暴れて、水泳の妨害したからやないですかね…?」
「ほらヘルメーヌ様…とカツラ三つ、不満そうやん」
「これは更に策を練る必要があるか…。 決着は次に持ち越させて貰おう。さらばだ!」
「またコウモリになってどっか行ってもうた…」
「また来るんかぁ……」
「あ。天井の闇取れて、明るくなってきましたよ」
「OH! 明るくなりまシタ~! これで気持ち良く泳げマ~スッ!!」
「ヘルメーヌ様悠々自適やなぁ…。――って…ふははっ…!」
「カツラミミックと共に、噴水でシンクロナイズドスイミングしだしたんすけど…!!」
「もうやりたい放題やん!!」
\デデーン/
『全員、OUTぉ!』
「だぁっ…! もう行こ行こ…! はよここから離れよ……」
「――で、色々周ったなぁ……」
「だいぶ見て回りましたね…。訓練部屋に戦闘場、食堂に食糧庫、資材保管部屋に宝物庫とかとか……」
「やっぱりダンジョンだけあって迷路感あんな。まあ、本物はもっともっと入り組んどるんやろうけど」
「俺これ以上難しいと迷う自信ありますわ……」
「同じく……」
「そんで、色んなゲストが出てきたなぁ…。今回もまあよく集めたって感じに」
「せやなぁ。ほんま色々現れたで。ヴァルキリー達から金メダル貰った選手達とか、こぞってな」
「俺の身内も魔物に扮して出てきましたし……。どうかと思いますよちょっと……」
「ふっ…。 あ。――痛ぁっ! ……んで、サラッとイナリ様も再登場なされてましたね…」
「まだ尻尾にミミック捕まったままやったな…。やっぱり食堂を切り盛りする人は強いんやなぁ…」
「さ。皆お疲れやで。少し部屋で休むとええ」
【幾多もの笑いを尻で耐え抜き、五人はようやく部屋へと。しかし、そこにあったのは――】
「うわぁ…。『引き出しの中身は全て入れ替えられています』って書いてあるやんか……」