ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№63 『タイガーガールの虎穴道城ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

今回の派遣依頼先について早々なのだけれど……少し気を引き締めたほうが良いのかもしれない。今までの経験上。

 

 

入口の黄と黒にそまった雄々しき門を抜けると、そこから続くは細めの一本道。しかしそれを包むのは、鬱蒼とした竹林。その一本道を包みこむように茂っているため光を遮り、まるで洞穴のようにも見える。

 

 

サク…サク…と枯草を踏む自分の足音。風を受けザザザザ……と蠢く竹の葉と竹藪。響く鳥の声。まるで何か恐ろしいものが潜んでいるかのような怖さを感じさせる。

 

 

――いや、実際に潜んでいる。時折それらの音に紛れて聞こえるのは、猛る獣の唸り声。こちらを虎視眈々と狙っているようだが、当の私達からはその姿は見えない。竹林に覆い隠されているのだから。

 

 

もう始まっているのだろう。『試練』が。門に書いてあった通り、このダンジョンに足を踏み入れた者が必ず受ける『第一の試練』が。

 

 

私達が警戒をちょっとでも解いた瞬間、唸っている彼らが勢いよく襲いかかってくるのだ。それに対処できなければ、奥へと進むことは許されない。

 

 

まさしくこの道はダンジョンの『虎口(こぐち)』であり『虎口(ここう)』。狭き入口であり、危険極まりない場所。――そう、入口と言う事は……。

 

 

 

 

「あ! アスト、見えてきたわよ!」

 

 

ふと社長が指さした先には、竹林洞穴の終着点。鬱蒼さは消え失せ、広がった視界に堂々と聳えるは、門と同じく黄と黒を主体とした巨大な道場。

 

 

ううん、これほどの規模と装いとなれば、道場ではなく道『城』と称するのが適切かも。まさしく、こここそがこのダンジョン―。『虎穴道城ダンジョン』の本丸。もとい本体。

 

 

そして、ここに棲んでいる魔物こそは――わわわっ!?

 

 

「――ぐはあっ!」

「きゃあっ……!」

「がふっ……」

「っっあぅ!」

 

 

その道城の中から、冒険者達が飛んできたぁ!!?

 

 

 

 

 

 

いや違う、吹き飛ばされてきた!! そしてそのまま……私と社長の傍の地面に…ベシャリと。

 

 

「く…くそっ! なんだよあれ!」

「意味わかんない! 関係ないじゃん!」

「何が…試練だ…! あんなもん、試練と呼べるか…!!」

「こっちを弄ぶだけ弄んでぇ…! 最っ低!」

 

 

多分パーティーであろう4人は、ふらつき立ち上がりながら口々に不平不満を。どうやら『試練』を受け、それに失敗して放り出されてきた様子。と、彼らは声を揃え――。

 

 

「「「「『虎の巻』、渡す気なんてないじゃんか!!」」」」

 

 

せめて一矢報いるように、そんなことを。ただ、試練を与えた相手ではなく、物言わぬ道城に向けて叫んでいるのがなんとも…。

 

 

 

――ちょっと話題が前後してしまうが、このダンジョンの仕組みをご説明。とある魔物達の棲み処でもあるのだけど、あの冒険者パーティーのような『挑戦者達』を招き入れもしているらしい。

 

 

そして挑戦者達には幾つか試練が課せられ、見事全てを勝ち抜いた者にはあるアイテムが与えられる。そのアイテムこそが、今彼らが口にしていた『虎の巻』という巻物。

 

 

実はその虎の巻にはとんでもない効果があり…なんとそれを使えば、自らの力が永続的に限界突破されるのだという。最高レベルの強化アイテムと言っても過言ではないだろう。

 

 

だからこそ彼らのような挑戦者が後を絶たないらしいのだが……どうもその『試練』とやらが難解なようで、完全攻略ができるのは一握りの強者達のみ。ほとんどの者は復活魔法陣送りにされるか、こうして追い出されて――あっ!?

 

 

 

またもう一人、もっと高いところから落ちて来て!!?

 

 

 

「はいやっ!」

 

 

――お~…! 4人パーティーと違い、スタンと見事な着地。一目見ただけでベテランとわかる風貌の男性冒険者だが――。

 

 

「無念……! 未だ力及ばず、か…!」

 

 

どうやら彼もまた試練に失敗したらしい。歯噛みをしつつ、ついさっきまで振るっていたと思しき武器を収めた。すると、それを見ていた4人パーティーの1人が……。

 

 

「おっさんも俺達と同じく負けた口か? どんなアホな試練で?」

 

 

丁度いい傷の舐めあい相手を見つけたとばかりにベテラン冒険者へ声を。しかし一方の彼は、その4人パーティーを一瞥し――。

 

 

「フッ…。確かに奇妙な試練ばかりではあるが、それを切り抜けられないと言うなら未熟の証拠。最も、私もだが、な」

 

 

自嘲も込めた冷笑で返したではないか。が、それが4人の勘に障ったらしく……。

 

 

「は……はああっ!?」

「どういう意味よ!」

「じゃあそういうおっさんはどこまで行ったんだ!」

「どうせ大したこと無いんでしょ!?」

 

 

揃いも揃ってベテラン冒険者を問い詰めだした…。うーん……。どう見てもそういうとこ……――

 

 

「そういうところを言っている! 自らの未熟を認められず、文句しか言えぬその精神が何よりの証拠! 臆病な自尊心や尊大な羞恥心なぞ、かなぐり捨てろ!」

 

 

わっ、すごい一喝…! さっきまで青筋立てていた4人が、一瞬で黙らされた…! ベテラン冒険者はハァと息吐き、叱るように続けた。

 

 

「見たところお前達は、最終試練―、このダンジョンの主たる者との一騎打ちにはたどり着きすらしていないようだな。ならば仮に虎の巻を手にしようと、限界突破は不可能だ。()()に認められる者とならない限りは」

 

 

「……ということは、おっさん……」

「もしかして、最後まで……!?」

 

 

「あぁ。もう幾度目かの挑戦となる。 だが見ての通り、今回も全く歯が立たずに追い返されたという訳だ」

 

 

城の天守を親指で指し示し、肩を竦めるベテラン冒険者。そして、やれやれと首を振った。

 

 

「復活魔法の料金が浮いただけ得と考えるべきだろう。修行のやり直しだな。手合わせぐらいなら付き合うぞ? 負け戦の私で良ければ、だが」

 

 

気迫はおろか、実力も度量も遠く及ばないと理解したのだろう。4人パーティーは半ば呆けつつも、是非と言うようにコクコクと頷いた。

 

 

何はともあれ、次回挑戦へ向けての意欲は高まった様子。ベテラン冒険者を先頭に、彼らは竹林の道を引き返していく。

 

 

 

とりあえずは良かった良かった。さ、私達も中に入らないと! 依頼主の方はどうも城の一番上にいるらしいし。

 

 

まあ私達は彼らと違って、試練を受けに来たのではなくミミック派遣の依頼を受けてきた身。竹林の道を飛んで回避することもできたのだけど、ダンジョンの確認も仕事の一つだし、何より社長が『試練やってみたーい!』って。

 

 

あ。 ということはこの後の試練も? 冒険者達があれほど苦戦する試練なんだし、私も参加させられちゃうかはわからないけど、やっぱり気を引き締めていこ―――。

 

 

「アスト、すとーっぷ!」

 

 

――っとっと。社長が停止合図を。そのまま回れ右を指示され、帰っていく冒険者達の背を見るように……。

 

 

 

「そこにいるのは、我が依頼主、『コチョウ』さんではありませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ。社長、急に何を? いやどう見ても彼らは普通の冒険者達なのだけど……。

 

 

「「「「?」」」」

 

 

そんな彼らも、眉をひそめてこっちを見てきた。うん、そんな反応になると思う。――あれ。でもベテラン冒険者だけ、武器を手にかけ周囲を警戒し出して……?

 

 

 

「ニャバハハハッ! よくアタシに気づいたなぁ、ミミン社長! 噂通り、天晴さね!」

 

 

 

―――!? なっ……!? その冒険者達のさらに奥…! 竹林の小道の先に…! ()()が、現れた…!?

 

 

さっきまで、誰もいなかったはず…! 獣の唸り声も消えていたほどだったのに…!! それなのに…それなのに…!!

 

 

ズシャリ、ズシャリという足音と共に、周囲の竹林竹藪が全てのけ反り圧し曲がっていく…!! ううん、違う! そう見えてしまうほどの風格を放っている…! そして、あの姿!

 

 

門やこの道城と同じ()()に染め抜いた重厚な羽織を肩掛けにし、立派な煙管を手に。手足、獣耳、尾は、ホワイトタイガーのように雄々しき白と黒。そして顔に、勇猛なる黒縁の虎模様を浮かべる彼女は――!!

 

 

 

「如何にも。アタシは依頼主にしてダンジョン主の、コチョウである!」

 

 

 

間違いない…! このダンジョンに棲む魔物、獣人族が一種『タイガーガール』の長、コチョウさん!

 

 

 

 

 

 

 

 

「気配を完全に消していたつもりだったんだがねぇ。ミミン社長、いつから気づいていたんだい?」

 

 

そう問いながら、ズシャリズシャリと私達へ歩み寄ってくるコチョウさん。その途中にいた冒険者達は、思わず身を引いて道を作る。まさしく、虎を前にした小動物のように。

 

 

「あの方が落ちて来た時、合わせて降りて来てましたよね! 誰も気づいてませんでしたけど!」

 

 

けど、社長は全く怯えることなくベテラン冒険者を指し示した……って、あのタイミングで!? 全くわからなかった……!

 

 

「ニャバハハッ! こりゃあ見事! その通りだよ! うちの子達も全く手が出せなかったというし、大したもんだ!」

 

 

コチョウさんは大正解と言うように笑い、軽く合図を。すると竹林の奥から、大柄な虎が何匹も。そう、先程までこちらを狙い唸っていたのはあの子達。その程度なら私もわかっていたけど……。

 

 

「潜伏したアタシに気づけるなんてヤツ、そうはいないさね。これだけで虎の巻あげても良いほどだ!」

 

 

コチョウさんの言う通り。彼女が近場に隠れていたなんて露程も考えつかなかった。冒険者の落下を見てて警戒が解けてしまっていたのは間違いないが、そうでなくとも多分、いや絶対に気づいていなかった悪い自信はある。

 

 

あの冒険者達だって私と同じ。コチョウさんが隠れていたのは、彼らが戻ろうとしていた道の先。つまり、私と社長よりも彼女の近くにいたのだ。それなのに全く気付いていなかった。

 

 

最もベテラン冒険者だけは社長の言葉で察し、警戒を厳にしだしたのだけど。流石、最終試練への到達者。

 

 

 

 

 

 

「ま、立ち話もなんだ! 酒でも酌み交わしながら、商談といこうじゃないか!」

 

 

豪放磊落に笑いながら、私達を道城の中へ案内しようとするコチョウさん。が――。

 

 

「……ちょっと待てえ!」

 

 

そこでまたもストップが。しかし今度は社長ではなく……。

 

 

「お前が最終試練の相手なんだろ?」

「つまりアンタを倒せば、虎の巻を貰えるってことじゃないの!?」

「まさしく降って湧いたチャンスだ…!!」

「変な試練でボロ負けして、タダで帰れるかってーの!」

 

 

なんと、4人パーティーの冒険者達。武器を引き抜き臨戦態勢。有無を言わさずコチョウさんへ襲い掛かろうとする気満々。

 

 

どう見ても無謀なそれをベテラン冒険者は止めようとし、虎たちはコチョウさんを守るように威嚇を。私達も加わろうとしたが――。

 

 

「ニャバハハァ! その意気や良し! 一縷の望みをかけた無鉄砲、嫌いではないねぇ!」

 

 

コチョウさんは私達を優しく横へと追いやり、煙管をひょいと一振り。すると虎たちは下がり、端の方でお行儀よくお座りを。ベテラン冒険者もそれを確認し、静観の姿勢に。

 

 

一騎打ち…正確には一対四ではあるが、申し出は受け入れられた様子。コチョウさんは煙管に口を付け、大きくひと吸い。

 

 

「スゥー…、ブハァ!! さぁ、かかっておいで! 虎の強さ、教えてやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「はぁああああっっ!!!」」」」

 

 

息を揃え、突撃する4人。一応彼らも、竹林の第一の試練を越えてきた者達。なかなか良い動きである。しかし……。

 

 

(しず)かなること林の如く――。」

 

 

コチョウさんは一歩たりとも動かない…!? すぐに4人は接近し、攻撃を――!

 

 

「動かざること山の如く――。」

 

 

「「「「なぁっ……!?」」」」

 

 

わっ…! その攻撃を全部、やはりほとんど動かないまま煙管で止めた!? そして4人を容易く弾き飛ばしつつ、その煙管を上空へ放り投げ――。

 

 

(はや)きこと風の如く――。」

 

 

「「「「――!? 消えっ……!?」」」」

 

 

コチョウさんの姿が……消えた!? 気配を消した…!? それとも、高速移動!? ――って、あ! 4人の…後ろ!!

 

 

「侵掠すること―――」

 

 

「「「「っ!? しまっ……!」」」」

 

 

「虎の如し!!」

 

 

「「「「――ぐああああぁっっ!!!」」」」

 

 

 

うわあ……!! コチョウさんの一撃で、4人が宙を舞って……! それと代わるように、投げていた煙管が彼女の手の内に着地を。

 

 

「スゥー…、ブハァッ! これぞまさしく『風林()山』。アタシに勝ちたいのであれば、破ってみるが良いさ!」

 

 

一服するのと同時に、冒険者4人もべしゃべしゃべしゃべしゃと地面に。嘘偽りなく、強い……!!

 

 

「アンタももう一度戦うかい? アタシは構わないよ?」

 

 

コチョウさんは気を失った4人を虎に回収させながら、ベテラン冒険者へ不敵な笑みを。対して彼は…首を横に振った。

 

 

「……いや。今の私では貴方には到底敵わない。 再度精進を重ね、また挑ませて頂きたい」

 

 

「ニャバハハッ! それもまたよし! 委肉虎蹊(いにくこけい)を避けられるのは強者の証さね。いつでも待ってるよ。 ほら、これやるよ」

 

 

「これは…!」

 

 

「知ってるだろ? アタシらお手製の軟膏だ。そいつらにも塗ってやんな」

 

 

「感謝する…!!」

 

 

頭を深々と下げたベテラン冒険者は、虎に引きずられる4人と共に出口への道に。コチョウさんは彼らが見えなくなるまで見送り、改めて私達の方へ。

 

 

「どら、待たせたね! ああいう連中の面倒みてやんのも楽しくてねぇ。折角来てくれたのに悪い事したよ」

 

 

「いえいえ! コチョウさんのお力と貫禄、そして試練の難しさをしかと魅せて頂きました!」

 

 

「ンニャバハハッ! よく言うよ! さっきアンタに言った『虎の巻をあげても良い』っての、冗談じゃないさ。やろうか?」

 

 

懐を漁りつつ社長の感想を豪快に笑い飛ばすコチョウさんだが、目が……! 獲物を…いや、強敵を見つけた猛虎のような目に……!

 

 

しかし社長はそれに気づかず……ううん、間違いなく気づいてはいるけど平然と流すように、辞退を。

 

 

「試練まともに受けてないんですからいただけませんよ~! 貰うのならば正式な手順を踏んで、で!」

 

 

「お! じゃあ、試練、挑むかい?」

 

 

「ぜひ!!」

 

 

待ってましたと言わんばかりにしゅしゅしゅと拳を振るう社長。予想通りである。

 

 

さて、一体どんな試練が待ち受けて……! 私も虎穴に踏み込む覚悟で道城の中へ…!! せーのっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バッター、ミミン。 背番号、85』

 

 

……。

 

 

「よーし! かっとばすわよー!」

 

 

…………。

 

 

「ニャバハハハ! ぶちかませぇ社長!」

 

 

………………。

 

 

「33-4ぐらいのスコアでV決めてみせますよ~! アスト、応援しててね!」

 

 

……………………。

 

 

「アスト~?」

 

 

「…………………………あ…は、はい…! えーと…頑張ってくだ……いやいやいや!」

 

 

「んにゃ? どうしたんだい?」

「どうしたのよ~?」

 

 

「これ、試練ですよね……? ですけど、どう見ても……」

 

 

「別にどう見なくとも――」

「これ、野球よ?」

 

 

「ですよね!?」

 

 

 

 

 

いや、うん……。いやうん…! どう見ても野球! 空間魔法で道城の中が広げられてるのは当然として、何故……。

 

 

とりあえず、かなり変則的なのは間違いない。バッターは社長で、ピッチャーとキャッチャーはタイガーガール。守備はおらず、ボードゲームの野球盤のような感じ。

 

 

そして私とコチョウさんは観客席でそれを見ていて……これなに……?

 

 

「ま、野球みたいな試練と思ってくれればいいさね! 多く打って多く抑えたほうの勝ちってことよ!」

 

 

そう教えてくれるコチョウさん。にんまりと笑って、更なるルール説明を。

 

 

「ただし、『何でもあり』さ。剣で打とうが、魔法で投げようが、突然に仕掛けてアタシら(タイガーガール)を倒そうが。 その場合、こっちも容赦なしになるがね!」

 

 

なるほど…。なるほど…? 

 

 

「因みにさっきいた4人組、ここで失敗したらしくてねぇ。 訳も分からずボロ負けして、破れかぶれに飛び掛かったら逆にバットで打たれて場外って訳だ!」

 

 

あー…。それならあの愚痴っぷりも納得かも……。ちょっと同情……。こんな野球みたいな試練、混乱するに決まっているもの……。 

 

 

 

で、それは百歩譲って良いとして――。

 

 

 

「なんで私、ビールの売り子の恰好を??? 樽も大きい……」

 

 

「ニャバハハハ! 虎は大酒飲みだからねぇ! 社長の言った通り、似合うじゃないか!」

 

 

……とりあえず、社長の入れ知恵なのはわかった。まあならば――。

 

 

「駆け付け一杯、お注ぎしますね!」

 

 

「お! 手慣れてるねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ま、要はアタシらに認められれば良いってことよ! 倒したり、降参させたり、喜ばせたり、唸らせたり。試練は色々とあるけど、ルールはこれと同じ。まともに勝つか、搦め手で勝つか、さ!」

 

 

「なるほど…! この野球勝負以外にどのような試練があるんですか? はいもう一杯!」

 

 

「そりゃあ担当のタイガーガールの得意分野によるねぇ。普通に闘うヤツから、レスリングを挑むヤツ、知恵比べを挑むヤツやオタクコンテンツ談義を望むヤツ、飲み比べするヤツとかもいるね!」

 

 

「本当、多種多様ですね! はいどうぞ!」

 

 

「ニャバハハッ! アンタ酌が上手いねぇ! 飲み比べ試練だったら、その手練で突破できるよ!」

 

 

 

――――カキーンッ!

 

 

 

「そんで社長の方も良い腕だ! 今んとこ全部ホームランじゃないか!」

 

 

コチョウさんのお相手をしながら、暫し野球観戦。流石は社長、やりたい放題。普通に打つだけでなく、バット大量持ちで打ったり、手を地面について入っている箱で蹴り打ちしたりとなんでもあり。

 

 

そしてちょっと飽きたタイミングでわざと攻守交替。今度は触手のようにうねるボールを投げたり、ミミックのように擬態する球種を投げたり、もはや自分がボールとなったり。

 

 

タイガーガールの方も容赦なしモードとなって、ボール複数連続投げや爪でボールを切り割ろうと試みているが……全て社長にいなされている。完全に野球じゃなくなってるのはご愛敬。

 

 

私も楽しくなって応援を。かっとばせー!ミ・ミ・ン! と叫んでみたり。そしてそんな中で――。

 

 

 

 

「――それでねぇ。結構アタシら交流が多いんだよ。カウガールや巨人族、ハーピーとかね。アンタたちのとこに依頼をしたのも、知り合いから勧められてさ」

 

 

「そうだったんですか!? 因みに、どなたから……?」

 

 

「鬼ヶ島ダンジョンのオンラムのやつとか、キョンシーのチェンリンとか、バニーガールのカグヤとイスタとかからさね! 評判すこぶる良いんだよ、アンタたちのとこ!」

 

 

「本当ですか! 嬉しいです!」

 

 

 

――と、かつて依頼を受けた他ダンジョンの方々のお話を聞いたり……。

 

 

 

「やっぱり同じ試練ばかりじゃアタシらも挑戦者も飽きちまうだろ? だから、ミミックをちょいと借りてみようってね!」

 

 

「と、言いますと…試練のお手伝いのご依頼でしょうか?」

 

 

「そういうこった! けど、別にアタシらのお手伝いに限る必要はないよ。状況に応じて、冒険者へ加勢も頼みたいんだ。そんで面白おかしく引っ掻き回してくれ!」

 

 

「それはまた…! えぇ、それならばお力になれると思います! 社長があの調子ですから!」

 

 

 

――と、サラッと商談が始まったり……。

 

 

 

「そんで代金なんだけど、アンタの腰に商品みたいにぶら下げといたそれでどうだい?」

 

 

「えっ! あ、これですか!? 何かと思ってたら……! えーと、あ、これって…!」

 

 

「さっきあいつに渡した軟膏さね! そっちの瓶は、アタシら印の魔法の瓶。そんでそれはバターだよ!」

 

 

「色々とお作りになっているんですね! ……もしかして、これらを作ることを試練としてる方が?」

 

 

「察しが良いねぇ! あとこれも…虎の巻もつけるよ!」

 

 

「え!? よ、宜しいのですか!?」

 

 

「なぁに、アタシの認定無しにゃあ限界突破の効果は発揮しないさ。 けど、武器とか他アイテムの素材にはなるから高値がついてるんだと!」

 

 

「えーと……わっ! 本当ですね! かなりのお値段……! ではこれで計算いたしまして、このような感じに」

 

 

「ニャバハハッ! 気に入ったねぇ! 肉球の判、ペタリだ!」

 

 

 

――契約が纏まっちゃった! 因みにそうこうしてる間に、社長の試練も終了。33-4どころか、334-0…。違う、339-0という無茶苦茶なスコアを叩き出して圧勝していた。ビール、かけてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして契約が纏まったということは、ここでのお仕事終了ということ。あとは心置きなく遊…もとい、他の試練にも挑戦。

 

 

その中にはさっきコチョウさんが例に挙げたような試練も幾つかあったのだが、そこは社長、虎を狩るかのような勢いで次々突破。

 

 

因みに私も時々参戦を。魔法勝負とか、魔法薬作り勝負とか。あと、コスプレ勝負とか……。

 

 

虎柄ビキニは……まあわかる。タイガーガールだから。けど、なんでブルマ…? タイガーの道場だからじゃない? と社長言ってたけど……。私が着るより社長の方が似合う気がするし、かなり恥ずかしくて……。

 

 

……結構楽しんでいたって? ま、まあ……そうなのだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

こ、コホン。そうして試練を乗り越えていき、とうとう道城の天守、最終試練へ。そこで待ち受けているのは勿論――!

 

 

「ニャッバハハッ!! ようやくアタシの番ってねぇ! さあ社長、手合わせ願おうか!!」

 

 

煙管を私へ投げ渡し、爪牙と先程のような重気迫を露わにしたコチョウさん…! 勝負内容は勿論、一騎打ち!

 

 

「失礼のないよう、真っ向勝負でいかせていただきますよ~!」

 

 

手と触手をぷらぷら振って、首をコキンコキン鳴らして社長も準備万端。それでは…最終試練、スタート!

 

 

 

 

「――ねぇミミン社長。 虎はなにゆえ強いと思う?」

 

 

「えー? 何故ですか?」

 

 

「それは――。元々強いからよォ!!」

 

 

最初に仕掛けたのはコチョウさん! これで勝敗を決そうという気概すら見て取れる、鋭剛爪の一撃! しかし、社長は……宝箱の蓋で受け止めてる!!

 

 

「――ではコチョウさん。 ミミックはなにゆえ強いと思いますか?」

 

 

「ほう。何故だい?」

 

 

「それは――。 私にもわかりません☆  てりゃあっ!」

 

 

今度は社長の番。コチョウさんの爪を弾くどころか砕かんばかりの勢いで箱を回転させ突撃! コチョウさんもそれに対抗し、更に攻撃を!!

 

 

これぞまさに、竜虎相搏(あいう)つ――! 正しくは、箱虎相搏つ、だけども…! そんな強者同士の激しいぶつかり合いの中…社長が動いた!

 

 

「隙ありぃ! ひっさーつ! (しょう)・竜・けーんっ!」

 

 

あれは…! 長城ダンジョンで、キョンシーのチェンリンさんを倒した必殺技! これで決まる――!?

 

 

「ンニャッバハハァ! 甘い! その技、チェンリンのヤツから聞いててねぇ!」

 

 

…えっ!? ガードされた…!? そういえばチェンリンさんとお知り合いだったんだ……! ――って、あの構えは…!

 

 

「――(しず)かなること林の如く、動かざること山の如く――。」

 

 

「あっとっと…!?」

 

 

(はや)きこと風の如く――!」

 

 

「きゃー!」

 

 

あっ! 社長が宙に弾き上げられて……! これは……マズい!! ――っ! コチョウさんが!!

 

 

「侵掠すること、虎の如し! お返しだよ、ミミン社長! 『風林虎山』、その極致! 『タイガーガール・アッパーカット』ォオッ!!!」

 

 

宙に浮かされたままの社長の真下から……空を裂き、相手を噛み砕き潰すかのような必殺の……! しゃ、社長――!

 

 

 

 

―――ガキィイン!!!

 

 

 

 

「――えっ……!?」

 

「――んにゃ……!? にゃにぃ!? アタシの…必殺技が……止められただと!?」

 

 

 

冒険者達を容易く空高くに吹き飛ばせる膂力を持つコチョウさん。その彼女による必殺の一撃で……社長が、飛んでいかない!?

 

 

まるで乗っかるように、コチョウさんの拳の上にピッタリと……!! すご……。――っえ!?

 

 

 

「――(しず)かなること、『箱』の如く。動かざること、『箱』の如く――。」

 

 

「ッニャ!? それは!?」

 

 

「コチョウさんの……!」

 

 

「――(はや)きこと『箱』の如く――!」

 

 

「「消えた!?」」

 

 

風林虎山と同じように……社長が姿を消した――! コチョウさんは即座に周囲を探すけど――…遅い!!

 

 

「侵掠することぉ、『ミミック』の如しぃ!  どーーーんっ!!!」

 

 

「ニ゛ャアアアアッ!?」

 

 

社長の一撃で、今度はコチョウさんが宙に! そして――。

 

 

「さあ、決めましょう! ミミミミミミミミミミミミミミンッ!!!」

 

 

「くぅっ、やるねえ!! トラトラトラトラトラトラトラトラッ!!!」

 

 

地を削り襲い来る竜(箱)と、大きく跳ね爪牙を振り下ろす虎。ラストスパートラッシュをかける社長とコチョウさんの姿は、まるで壮烈たる図屏風のよう……!!

 

 

決着が……近い……!! 勝負の勝利者となるのは―――!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャバハハァッ!! 天晴天晴! 社長、文句なくアンタの勝ちさね! 外に吹き飛ばされちまった!」

 

 

壊れた屋根からひょいっと戻ってきながら、痛快そうに笑うコチョウさん。虎は自ら跳ねたのではなく、竜(箱)に跳ね上げられたのだ。その不利が決め手となり、そりゃあもうどかんと勢いよく。

 

 

「しっかし、アタシの技を真似るたぁ驚いた! やるねぇ!」

 

 

「ふふふふ~! 私、ミミックですから! 模倣(mimic)は得意分野ですとも! それにミミックの特性上、ダンジョン内のどこに敵味方が潜んでいるか丸わかりなんですよ!」

 

 

最も、コチョウさんほどの潜伏を見極められる子はそんないませんけどね~! と社長は補足。コチョウさんはそりゃあ敵わん訳だよ! と褒め返して懐を探り……。

 

 

「ほら! 受け取っとくれ!」

 

 

さっき私に見せてくれた虎の巻を社長に。 が――。

 

 

「ま、多分必要ないだろうよ!」

 

 

コチョウさんはそんなことを。首を傾げる私を余所に、社長は巻物をくるくるオープン。……あれ?

 

 

「何も……起きませんね。 社長、御身体に変化は?」

 

「なんにも~」

 

 

「やっぱりねぇ。ちょいと見せてみな」

 

 

ということで、コチョウさんに煙管も合わせて返却。その虎の巻を確認したコチョウさんはフンフンと頷き……。

 

 

「ニャバハハハッ! そうだろうと思ったよ! この虎の巻、しっかり機能はしてるよ」

 

 

「えっ。じゃあなぜ社長は?」

 

 

「なに、単純なことさね。独力で限界突破しているか、最初から限界なんて無いか。どっちかだね!」

 

 

なんと……! けど、普段の社長を見てれば納得。そんな感じするもの。そして当の社長は――。

 

 

「あらざ~んねん☆」

 

 

全く気にする様子は無い。それどころか……。

 

 

「ところでコチョウさん、ここの端っこに積まれている巻物、虎の巻の蓄えですよね? あれ、奪って逃げようとする人いるんじゃないですか?」

 

 

「あー結構いるねぇ! アタシに認められなくとも大金になるからって、狡い狐みたいな連中が!」

 

 

「その対策として、ちょっと思いついたことがあるんですよ!」

 

 

……と、またまた新たなるミミック活用法を提案しだした。 ふふっ! 本当、限界なんてなさそう!

 

 

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