ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある4+1人パーティーの騎虎

 

「全員、今回こそ『虎の巻』を手に入れるぞ! いいな!」

 

「「「おーーっ!!」」」

 

 

俺がそう号令をかけると、仲間三人は気合を露わに。よし……!今回こそいけるかもしれねえ! そうそう、臨時のメンバーであるこの人にも声をかけとかないと。

 

 

「おっさん、リベンジといきましょう!」

 

 

「フッ、私がどこまで力になれるかはわからないが…鍛えた成果、見せる時だな」

 

 

そのおっさんの一言に、更にやる気が漲ってくる…! いくぞ!打倒タイガーガール!今回こそあのアホで意味不明な試練を切り抜け、最後まで到達してやるからな!

 

 

 

 

 

暫くぶりだな。俺達は前にこの『虎穴道城ダンジョン』に挑んで、ボロ負けしたパーティーだ。虎の巻っていう貴重なアイテムを取りに来たはいいけど、ここに棲むタイガーガール共の試練を前に追い出された、あの4人組だよ。因みに男2人、女2人だ。

 

 

というか…なんだよあの試練! なんで野球やらされるんだよ! 意味わからねえうちにどうしようもなくなって相手のタイガーガールに飛び掛かったら、逆に場外ホームランで道城の外まで吹き飛ばされるって!

 

 

……まあそれで、このおっさんと出会えたのは幸運だったけど。俺達の直後に落ちてきたこのおっさんはかなりの実力者らしく、最終試練であるダンジョン主のタイガーガールである『コチョウ』との一騎打ちにまで持ち込んでいたらしい。

 

 

そんなおっさんに叱られ、偶然にもそのコチョウと戦ったことでわかった。俺達はまだまだ実力不足だって。それでダンジョンから出た後、おっさんの誘いに乗って修行することにしたんだ。

 

 

そしてとうとう今日、俺達4人とおっさん一人でパーティーを組み、リベンジに訪れたってわけだ!

 

 

 

 

 

 

 

――さて、まずは第一関門。この巨大な門をくぐり、タイガーガール共が待ち受ける道城にたどり着くまでの小手調べだ。

 

 

細い道の周囲に茂る、鬱蒼とした竹林。ここにはタイガーガール共の眷属である虎が大量に潜んでいる。気を抜いた瞬間、そいつらが牙を剥いてくるという普通に危険な試練だ。

 

 

前の俺達はビビりながらやっとのことで切り抜けた。そしてこんな試練が続くのかと怯えながらも武器を握りしめ挑んだら……マジでなんだよ野球って! 虎要素どこだよッ!!

 

 

……はっ! いや、おっさん曰く、『奇妙な試練ばかりではあるが、それを切り抜けられないと言うなら未熟の証拠』だったっけ。落ち着こう……。

 

 

それに、そういう試練を切り抜けるためにおっさんと一緒に修行を重ねたんだ!臆病な自尊心や尊大な羞恥心とかは捨てて、挑んでやる! せーのっ!!

 

 

「――っ!?」

「わっ……! これって……!」

「わかる……!? わかるぞ!?」

「虎がどこに隠れているか、なんとなくわかる!!」

 

「どうやら、早速修行の成果が出ているみたいだな」

 

 

おっさんの言うとおり…! 竹林の道に一歩足を踏み入れた瞬間、気配を感じられた…!

 

 

目では見えない茂みの奥で、虎が舌舐めずりをしているのが!こちらを睨んでいるのが!尾を揺らし狙いを定めているのが!

 

 

朧気ながらだけど、肌で感じることができる!間違いない、俺達、格段に成長して――!

 

 

「ガルルルルァッ!!」

 

 

「「「「わぁあっ!!?」」」」

 

「はいやっ!」

 

 

――あ、あ、危ない…!虎が急に飛び出してきて…!おっさんが割って入ってくれなかったら危なかったかも…!

 

 

「気を抜くな。もう試練は始まっている。ここから先は騎虎の勢いで挑むしかないぞ」

 

 

おっさんの言葉に、俺達はコクコクと。や、やってやる!

 

 

 

 

 

 

 

「――来る! 右側!」

「警戒!」

「来たぞ!」

「はぁああっ!」

 

「ガルッ!? グルルルル……」

 

気を抜かず、竹林を進んでいく俺達。強くなったからか、前よりも危なげなく動けている…!

 

 

それにこういうのもなんだが、おっさんの力がデカい。俺達だけじゃ気づかなかった虎の動きにすぐ反応して、あっという間に対処してくれる。

 

 

でも、この際おんぶに抱っこでも構わない。おっさんの力もフル活用し、ダンジョン攻略をしてみせ……。

 

 

「待て」

 

 

……? 急におっさんが停止の合図を。あと少しで道城につくのに、なんで……?

 

 

「……何かいる」

 

 

え? ……いや、俺達にはわからない。でもおっさんの言う事だから信じとくべきなんだろう。一応、武器を構えて――茂みが揺れた!?

 

 

やっぱり何かいるのは間違いないんだ。さあ、かかってこい…! どんな虎でも、いいや、矢でも鉄砲でもかかってこ――!

 

 

 

 ―――キュラキュラキュラキュラ……。

 

 

 

「……は?」

「へ?」

「なに?」

「なんなの?」

 

 

茂みを小さく揺らしながら出てきたのは……その…なんだあれ? 自走する……宝箱? なのか?? は?????

 

 

いやえっと……もっと詳しく説明するとするなら、なんというか……。虎の色に染められた、宝箱っぽいのがこっちへゆっくり進んできているんだ。いやホントに。

 

 

しかもよくみると、足?に変な細長い車輪……キャタピラ?とか言ったっけ? を二つつけて、更に変な筒?みたいなのを咥えて……咥えて!? は? どういう!?

 

 

「あれはもしや……? でもあれは小さくとも馬車並みの大きさで、あれはどう見ても宝箱……」

 

 

よくわからない代物に困惑していると、おっさんがボソリ。一体何なのかを聞いてみると……。

 

 

「どうも『戦車』というものに似ている。砲台を乗せて動くあれにな……」

 

 

あぁ…言われてみればそんな感じ……。 …………ん? 砲台? ――ってヤバいんじゃ!?

 

 

 

 ―――ポンッ!

 

 

 

「ぐへっ!?」

 

 

うわやっぱり!? なんか撃ちだしてきたぁ!? 仲間の一人の顔面に直撃し……あれ?

 

 

「痛ってえ!!? なんだこれ!? ……竹!?」

 

 

飛んできたのは砲弾……じゃなくて、竹を節で切ったみたいなやつ…? なら別にあんまり警戒する必要は……ぼへぁっ!?

 

 

「な……筍ぉ!?」

 

 

そっちもあるのかよ!! 痛てて……このっ! ヘンテコ戦車?め、虎関係な――。

 

 

「構うな! 周りを見ろ!」

 

 

怒りに任せて戦車を叩きに行こうとした瞬間、おっさんの声でハッとなった。見ると……嘘だろ…いつの間に!?

 

 

「グルルルル…!」

「ガルルルル…!」

「ミャアヴヴ…!」

 

 

周囲が完全に虎に囲まれている!? まさか、このヘンテコ宝箱戦車は囮だってことか!?

 

 

「もう大して距離はない! 強行突破して道城へ向かうぞ!」

 

 

おっさんの号令に、俺達は一斉に駆け出す! 勿論それに呼応して虎共も追ってくるし……!

 

 

 ―――ポンッ! ポンッ! ポンッ!

 

 

「きゃーっ!?」

「ちょっ……アブなっ!?」

「くっ…!」

 

ヘンテコ宝箱戦車も竹の砲弾を勢いよく撃ち出してくる! くそっ…! 竹なんて周囲に幾らでもあるから尽きることなんて無……えっ!?

 

 

「ちょっ…! あのヘンテコ、跳ねて来てるんだけど!?」

 

 

さっきのゆっくり登場はなんだったんだよ! キャタピラとかガン無視でぴょんぴょん跳ねて来てやがる! なんだあいつ! ミミックか何かなのか!? 大砲ならぬ吹き矢?装備のミミックってか!?!?

 

 

って、気にしてる場合じゃねえ! 逃げろ逃げろっ!!

 

 

 

 

 

「――ふぅ…! 危ないとこだったぁ……」

 

 

なんとか道城前に到着すると、虎もヘンテコ戦車もさっさと引き揚げていきやがった。あいつら…絶対俺達を玩具としてしかみてないな……!

 

 

「おじ様、さっきのなんだったんですか……?」

 

「わからない…。だが、前にここを訪れた時から様子が変わっているのは確かだ。皆、ここから先も…いいや、ここから先こそが本番だ。何があっても、冷静に対処するぞ!」

 

 

女メンバーの問いに檄で返したおっさんへ、俺達は改めて頷く。そうだ、まだスタート地点に立ったばかりなんだよな。この先幾つもの試練を乗り越え、最後まで突き進まなくちゃいけないんだ。

 

 

すぅっ……ふぅっ! よし、なんでも来い! 野球とかヘンテコ宝箱戦車を経験したんだ。おっさんとの修行にも明け暮れたんだし、何が来ても冷静に勝ち進んでやるからな――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――青コーナーぁ! 挑戦者ぁ! 今回は五人だ!さあ、どんな試合を見せてくれるのかぁ!?」

 

 

……いや、あの…………。

 

 

「対するは赤コーナーぁ! おなじみ試練の主、『タイガーガールマスク』だぁ! 今日も見事に相手を叩きのめしてくれるのかぁ!?」

 

 

……いや、だから…………。

 

 

「さあ、両者気合十分! いざいざいざ! レディィイイイ……ファイッッ!」

 

 

 

 ―――カーンッ!

 

 

 

「いやカーンッ!じゃなくてっ!!!」

 

 

「落ち着け。冷静に闘えば良いだけだ」

 

 

「いや無茶言わないでくださいよ! なんでプロレス始まってんすか!?」

 

 

おっさんにツッコミ、改めて相手のタイガーガールへ目をやる。大体、タイガーマスクガールってなんなんだ!虎模様の毛を持ったタイガーガールが虎模様のマスク被ってもほぼ意味ないだろ!

 

 

「なんだい? ルール説明はしただろ? 武器無しの肉弾戦勝負がオレの試練。煩わしいルールは特になく、オレに勝てば良いだけだ!」

 

 

「いやそれは聞いたけどさ……」

 

 

「んで、何人がかりで挑んで来ても良いんだが……武器を手にした瞬間、俺も爪や牙を解放するからそのつもりでいろよ。 あぁでも、凶器攻撃はOKだ! 楽しいからな!」

 

 

タイガーマスクガールが示した先、リングの外には、机の上に沢山並べられた道具類が。バットに竹刀、杖に鞭、一斗缶やパイプ椅子とかとかとか……。

 

 

あとアレはなんだ…?毒薬…?? 変な色してる液体とかもある…。あっちは……なんでランドセル? 更に向こうは……なんで宝箱!?

 

 

 

……落ち着け、俺! おっさんの言う通り、冷静に考えるんだ。よくよく見れば、これは野球よりもまとも。ただ闘うだけなんだから、一番良い試練なのかもしれない……!

 

 

うん、そう考えれば気が楽になってきた!あいつは何人がかりでも良いって言ってたが、この先もっとアホな試練が出てくる可能性はかなり高い。戦力は出来る限り温存しておきたいし……。

 

 

なに、最悪おっさんがなんとかしてくれるだろ! よぅし、じゃあ改めて……!

 

 

「ゴング鳴らせ! やってやるっ!!」

 

 

 

 

 

 

「――どりゃあ! タイガー・キック! タイガー・チョップゥ!」

 

 

「うおわっ! あ、アブねぇっ……! こ、このっ!」

 

 

「ヘッ! 中々やるじゃないか!」

 

 

いざ試合開始となったは良いが……強い……! 武器が使えないから、思うように戦えない……! 回避中心の動きになってしまう……!

 

 

いくら修行の成果があるとはいえ、一人じゃキツイ……! やっぱり誰かに助力を――。

 

 

「やれぇ! そこだぁっ!」

「気をつけて! 来てるよ!」

「気合入れ直して! もっともっと!」

 

 

――あいつらぁ! リング横に控えてこそいるけど、完全に観戦ムードじゃんか! クソっ…! 頼みの綱はおっさんだけど……!

 

 

「いけぇ! 隙を見せるな前を見ろ! 16文のキックか闘魂籠めたキックでもお見舞いしてやるんだ!!!」

 

 

おっさんの方が白熱観戦してないか!?!? 冷静さどこに放り投げたんだよ一体――!

 

 

「「「あっ! 危ないっ!!」」」

 

 

「隙ありぃ! 毒霧食らいな!」

 

 

「わぷぁっ!?」

 

 

ど、毒霧!? マズい、顔に思いっきり――! ……あれ、これただの色水じゃ……。

 

 

「それは目潰しだ! 本命はその後! 回避しろ!」

 

 

……おっさんの声! と、とりあえずその通りに―――うわわわっ!?

 

 

「おっともう遅い!」

 

 

えっ…!? ど、どういう……俺、肩車されてるのかこれ!? ――嫌な予感…!

 

 

「必殺! タイガー・ドロップ!!」

 

 

「受け身をとれ!! 教えたあれだ!」

 

 

「うおわああっ――くぅうっ!!」

 

 

背中から急降下していく中、微かに聞こえたおっさんの指示に反射的に従い……ぐはぁっっ!!!

 

 

「ピュウッ! これで気絶しないなんてな! けど、トドメを刺させてもらうぜ!」

 

 

リングの床で動けなくなっている俺を笑いながら、タイガーマスクガールは凶器を取りに。持ってきたのは……パイプ椅子……!!

 

 

「さあ、覚悟を決めな! せーのっ!」

 

 

「今だッ! 動けッ!」

 

 

――! 再度おっさんの指示に合わせ身体を動かす! 受け身のおかげで、もう動けるようになっているんだ!

 

 

「おおおっ!?」

 

 

よし、パイプ椅子の一撃を寸前で回避に成功! 更に相手は振り下ろす際に勢いをつけすぎたせいで隙が! チャンス!

 

 

「全員でかかるぞ! 入ってこい!」

 

 

タイガーマスクガールを蹴り飛ばしつつ合図を送ると、メンバー全員が慌ててリングイン。ハッ、最初からこうすれば良かったんだ! 良いって言われてるんだからな! それに俺はもう充分頑張ったし!

 

 

だけど別に休むわけじゃない。皆に一旦任せ、凶器置き場へと。お返しを食らわせてやるってな! どれにしようかなとっ――。

 

 

――ん!? 今、宝箱が動いたような……? 気のせいか? ……いや、気になるな。中には何が入って……っうわぁ!?

 

 

こ、これは!! ……え、使って良いのか……? というか、使えるのか??? え、本当に大丈夫なのか……!?

 

 

「――コブラツイスト、とくと味わえ!」

 

 

「ぐああっ! つ、強い…!!」

 

 

ふとリング上を見ると、おっさんがタイガーマスクガールに変な技をかけてる。……今がチャンス! これ、いやこいつを試してやろう!

 

 

ということで宝箱を抱え、再度リング上に。そして――。

 

 

「おっさん、どけぇ!」

 

 

「――む! とぁっ!」

 

 

即座に反応し、タイガーマスクガールを解放するおっさん。俺はその隙を逃さず――!

 

 

「凶器攻撃の仕返しだ! 食らえ!」

 

 

「くっ……! ――あっ! それはヤバ…!!」

 

 

 

 ―――ガブゥッ!

 

 

 

「ミ゛ャアアッッ!?!?!?」

 

 

「「「うわあ……!?」」」

 

 

タイガーマスクガールは悲鳴をあげ、入ってきたは良いがリングの端でずっと身を潜めていた仲間三人は唖然と。それも当然だろうな。

 

 

だって俺がタイガーマスクガールの顔面に叩きつけた宝箱、ぶつかる寸前に勝手にパカッと開いて、顔をパクリと呑み込んだんだから。見てみろ、タイガーマスクガールがタイガー宝箱マスクガールになってる。

 

 

「これは……ミミック、か?」

 

 

悶えるタイガー宝箱マスクガールに眉を潜めながら、おっさんは聞いてくる。あぁ、その通り!

 

 

よくわからないけど、あれは何故か凶器の一つに収まっていた宝箱型ミミックだ。蓋…もとい口を開いても襲い掛かってくることなく、寧ろ出番を待ってましたと言わんばかりの待機状態だった。

 

 

なんでこんなところにミミックがいるのかは本当意味不明だけど……。あ、となるとさっきの戦車?も予想通りミミックだったのか……?

 

 

「――ぶへっ…! ちょっ…! もういい…もう舐めるなって……! やめべべべべ……!」

 

 

なんてことを考えてたら、タイガー宝箱マスクガールはリングに転がってジタバタ。なんか本当、よくわからないけど……。

 

 

「トドメ、刺してやりますか……」

 

「そうだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とりあえず、第一試練は突破だ! さて、次はどんな試練が待ち受けて……。

 

 

「みゅふふフフぅ……! ようこそいらっしゃいませ、『虎のあな』へ……!」

 

 

…………またなんかアホっぽい試練だろこれ……。

 

 

 

 

これは…さっきよりも酷いな……。試練の間に足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは大量のキャラクター……。小説とか漫画とかに出てくる、色んなキャラの絵だ。

 

大量に貼られているポスター、至る所に飾られているフィギュアやぬいぐるみ、ぎっしり棚に詰まっている本、なんか爆音で流れているキャッチ―なBGM……。他諸々……。

 

 

そしてその中央に鎮座している机には、ここの担当らしいタイガーガールが。若干気味の悪い笑みを浮かべ続けながら、手招きを。

 

 

「早速ですが、貴方がたの中に『語れる』方はいらっしゃいますかねぇ? どの作品でも構いませんし、妄想バッチ来いです…! NL、BL、GL、TS、異種――、勿論ブロマンスやロマンシスもアリですし、リバも夢も可、お望みであれば()()()の話でも…! おっと鼻血が……!」

 

 

…………やべぇ……。さっきのなんか目じゃないほどやばい……。どうやら何かを語れれば試練を突破できるみたいだけど……怖え……。

 

 

「もしいらっしゃらないのなら仕方なく直接勝負に移行させて頂きますが……。あ、その場合は向こうに戦闘フィールドを用意していますから、そちらの方に移動を……」

 

 

動けないでいると、タイガーガールは何故かしょんぼりした様子で奥のドアを指さした。できれば関わりたくないし、そっちを選択して……。

 

 

「「待って!」」

 

 

と、戦闘フィールドに向かおうとしたら、うちのパーティーの女メンバー二人に止められた。というか、立ちはだかられた。そして何か口を開く前に――。

 

 

「ここは私達に任せて! ね! ね!! ね!!!?」

 

「三人はそっちのソファでゆっくり休んでいていいから! 良いから休んでろ!!」

 

 

……なんか怒涛の剣幕で端の休憩スペースらしき場所に追いやられた……。なんであいつら、目をそんな輝かせて……?

 

 

ま、まあ良いか…。無駄な消耗を避けられるなら特に抵抗する必要もないし……。さっきのプロレスの疲労もあるから、任せるとするか。何するのかわからないけど。

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、この20巻と21巻の間には物語的にちょっとした空白時間があるのは知っての通りですけど、その間にこの二人に進展があったと私は考えてるんですよぉ…! お二人はどう思います?」

 

「わかる! 超わかる! 絶対裏でデキてる! 確実!! だってそこの後から明らかに二人の距離感近くなってるし! 作者後書きでも匂わせてるもん!」

 

「ほんとそれ! 明言こそされてないけど絶対裏エピあったって! 多分前後の展開的に――!」

 

 

…………『語る』って、本当に語る、話すってことなのか……。なんかとんでもなく盛り上がってるのが聞こえてくる…。

 

 

というか、いつまで話してんだよ……。もう何時間か経ってるぞ……? なのに一向に終わる気配が無いし……。

 

 

見ろ、蚊帳の外の俺達を。やることなくてソファに転がってるだけだ。あまりにも暇すぎて、もう一人の男メンバーは居眠りしだしたぞ。なんかのキャラつきの抱き枕抱えて。

 

 

そしておっさんの方は……ん??

 

 

「なにしてんすか?」

 

 

「これか? 向こうの子達が盛んに話している作品らしい。タイトルや登場人物の名前、展開が一致しているから間違いないだろう」

 

 

ふと見るとおっさん、やけに真剣な表情で漫画読み耽ってるし……。しかもあいつらの話に聞き耳を立てながらとか……。

 

 

いや、おっさんも暇してる証拠か。俺もそれに倣ってなんか読んで――。

 

 

「ふむ…。良い作品だった」

 

 

――と、おっさん、漫画をパタンと閉じて立ち上がった。え、読破したのか? 結構な巻数あるんだけど……。

 

 

「確か……これと、これと、これか」

 

 

そして数冊だけを手に取り、残り全てを本棚に。そのまま……えっちょっ…そっちは……。

 

 

「少し構わないか?」

 

 

「へっ? わぁああぁっ!? お、おじ様!?」

 

「な、なんでこっちに!? ちょ、ちょ、もう少し向こうで待っててください……!」

 

 

語っているあいつらの元。おっさんの突然の乱入に、女メンバー二人はアワを食ってる様子。

 

 

「おやぁ? もしかして貴方も『語れる』口ですかぁ?」

 

 

一方のタイガーガールは鼻息荒く。おっさん、よくあんな虎穴に飛び込んでいけるなぁ……。

 

 

「いや、語れるというほどではないのだがな。これも今しがた初めて読ませて貰った。素晴らしい作品だった」

 

 

が、当のおっさんは全く怯むことなく会話に参戦を。席にもついたらしい。怖いもの知らずか。

 

 

「だが、三人の会話を聞いていてふと思ったことがあってな。少々意見を伺いたいんだが……」

 

 

「え˝。いや…その……おじ様…その……いま私達が話していたのは……なんというか……妄想の類で……実際には描かれているんだけど描かれていないといいますか……」

 

「そ、そうそう……! おじ様には…あの……目の毒耳の毒で……あんまり関わるのはちょっと……危険というか、ヤバいというか……沼というか……」

 

 

「気を害したのならばすまない。やはり引っ込んでおこうか」

 

 

「「いやいやいやいやいやいや!!」」

 

 

あくまで冷静なおっさんと、しどろもどろの女メンバー二人。と、そこにタイガーガールの救いの手が。

 

 

「まあまあまあ~! ご質問であればお聞きしますよぉ。どういった内容で?」

 

 

「では、失礼させて頂こう。今三人が話しているのは、この20巻と21巻の、この二人の関係性についてで間違いないか?」

 

 

「そうですよぉ。そのカプについて盛り上がっていましたぁ…!」

 

 

「カプ……?」

 

 

「カップリングの略称のことでして…! 因みにおじ様、そのお二人、どっちが攻めでどっちが受けだとお考えで?」

 

 

「攻め……? 受け……?」

 

 

……おっさん、やっぱり無謀だったんじゃ……? タイガーガールに圧されている気がする。大丈夫か……?

 

 

「すまない、勉強不足でな。そういったことはよくわからん」

 

 

ああ…謝った。いくらおっさんでも無理があったか。仕方ない、端に追いやられた身同士、慰め合いでも……――。

 

 

「だが、三人の会話中に出てこなかった、この二人の関係の進展を補強する証拠……いや、そう確かなものではないから解釈と言うべきか? を見出した気がしてな」

 

 

「「「え゜ぁっ!?!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

……な、なんだ…? とんでもなく表現しづらい素っ頓狂な声が……!? その破裂音、いや爆発音的な発声に、寝ていた男メンバーも飛び起きたぞ……!?

 

 

「どどどどどどどどどこですかそれどこですがどの巻のどの話のどのページですか!?!?!?」

 

「おじ様落ち着いて聞かせてくださいどんな点がですかどこからそう判断したんですかどうやってみつけたんですか!?!?!?」

 

「まままままままって落ち着くのは私達のほうでしょ絶対そうでしょ!?!?!?!ひっひっふーっひっひっふーっ!!!!!!」

 

 

しかしタイガーガールを含む女三人の混乱困惑興奮っぷりはそれだけに収まらない。明らかに我を忘れておっさんに詰め寄っているのが、見えないここからでもわかる。

 

 

「まずはこの巻のこの頁なんだが……やはりこの二人が主役として描かれているこの一連のシーンは、構図こそ違えど20巻のこのシーンに似せて描かれているのではないか? 幕間の内容の薄いシーンであり、且つ立ち位置や周囲の環境を弄り気づかれないように隠蔽されてはいるが」

 

 

「ふぁっ!? ……ほ、ホントだ……! 言われてみれば……!!!!」

「た、確かに……! 気づかなかった……!!!!」

「嘘……! いやでも、この先生ならやりかねない……!!!!」

 

 

「となると比較検証ができるのだが……気になるのはここの部分の台詞回しだ。状況が一致するのはこの数コマに当たるが、比べてみるとこの巻のほうには違和感を感じる。ストーリーの流れを加味したとしてもだ」

 

 

「こぁっ……! こ、これは……!」

「た…し…か…に……。 前に似た状況を経験したこの子だったら、もう少し言葉を選ぶはず……」

「けどこれ…………! 明らかに親密さがえげつなく……! 前後の会話で騙されてた……!」

 

 

淡々と説明していくおっさんの一言一言にいちいち唸る三人。雲行きが変わってきたな……。

 

 

「更に話は変わるが、この巻の質問コーナー。例の二人に関する質問に対し、この時の作者の回答は中々に長文だったが……これ、よく見ると一部がキャラクター二人のそれぞれの名前となるアナグラムになってはいないか?」

 

 

「「「て゜ぃが゛っ!?!?」」」

 

 

うるさっ!! またヘンテコな叫び声をあげやがった……! でもおっさんは相変わらず冷静沈着だし……。

 

 

「この予測が正しいとするならば、その二人のアナグラムの間にとある文字列が浮かび上がってくる。その中の数字部分を話数だと考えてみると、やはり例の二人が中心となっている話だ。そして、その話の扉絵に奇妙な隙間群があるのに気づいた。意識しなければわからなかったが」

 

 

「「「こ……こ……こ…………こ………………」」」

 

 

「試しにその隙間にアナグラムの残りの文字を一つずつはめ込み、扉絵が仄かに示唆している通りに回転させてみた結果……この通りだ」

 

 

「「「~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」」」

 

 

……一体何が起きてるんだ……? 今度は声なき叫び声が……。覗いてみたいけど……怖え……。おっさん、とんでもねえな……。

 

 

「まあこれら全ては確証のない想像。私の読み違い、あるいは偶然と断じられればそれまでだが……どうか?」

 

 

「いえおじ様……! これは……これは……!」

「そんな伏線が張られていたなんて……! 一生の不覚……!」

「先生……! そうだったんですね……! 先生の心が今わかりました……!」

 

 

おっさんの問いに、虎の如く唸る三人。そして次には―――。

 

 

「おじ様! 今一回読んだだけなんですよね!?!?」

「それでこれなんて……! 洞察力の化物……いいえ、貴方が洞察神……!?」

「顔や立ち振る舞いだけじゃなく、思考もイケオジなんて……!! 最高ですか!?!?!?」

 

 

まるでおっさんを祀り上げるかのような持ち上げっぷりに。しかもそのままおっさんを交えて語り合いの続きに入りやがった……!!?

 

 

くそっ…! あいつら、きゃっきゃうふふと……!! 今回の目的を忘れてるんじゃないか!? 目的は虎の巻の入手だろ!? なのにアホな試練に何時間かけてやがんだ! もう待ってるのも飽きたわ!

 

 

……とはいえ、何もできないけどさ…。今変に動けば、タイガーガールどころか女メンバー二人まで敵に回ってしまう予感しかしないし。虎が三人に増えた気分だ。

 

 

勿論そんな中に飛び込んでいく気にもなれない。あーあ、暇だ暇だ! おっさんの真似がてら、ちょっとそこら辺物色してやろうか! 

 

 

 

 

 

つーことで、再度寝ようとしていた男メンバーを叩き起こして試練の間をふらふら。しっかし、色々あるな……。フィギュアとか等身大?のも大量に並べられてるし……夜怖くないのか?

 

 

「すげえな……。確かこういうの、一体で最低百万はくだらないぞ。それがこんなに……!」

 

 

マジかよ……! ……これ、奪えたらいい儲けになるか? ――いや、無理か。かなり厳重に保護されているし、盗み出せたとしても傷つけずに運ぶのは無理だろうな。虎三人いるし。

 

 

まあここでは見るだけにしとくか。他には何か面白いものは……お?

 

 

 

なんだあそこ? ヘンテコな暖簾が扉代わりにかかっている部屋? 戦闘用の広場に繋がっているという訳でもなさそうだけど、中には一体何が……――。

 

 

「「うわっ……!」」

 

 

……見なかったことにしよう。軽く見ただけでもヤバいのがわかったし……。ここ、あのタイガーガールが言っていた『アッチ』系の作品置き場だ間違いなく……。モザイクが必要な……。

 

 

「……でも、ああいうのも結構値が張るって聞いたことがあるぞ。しっかり細部まで作ってあるから……」

 

「へぇ……」

 

 

いや、興味が無いわけじゃないんだが……あそこまで並んでいると狂気を感じるというか……。……うん……。

 

 

…………やっぱり、もう一回中を覗いて……。どうせあいつらもおっさんもまだ暫くは動かないだろうし、こっちは男二人で楽しんでも良いだろ……。

 

 

そうと決まれば今度は中に……――うん?

 

 

「なんだこれ?」

 

「フィギュアの箱じゃないのか?」

 

 

 

ヤバい部屋に一歩踏み入りふと目に入ったのは、ぽつんと転がっているフィギュア箱。他のは棚に飾られているのに、なんでこれだけ? 片付け忘れとかか?

 

 

とりあえず拾い上げて見てみる。…ここ少し照明ピンクがかってて見にくいな…。外に出よう。えぇとなになに…『ニュルニュル♡しょくしゅ』???

 

 

……これ本当にフィギュアか? 一応側面にはなんかのキャラの絵は描いてある。なんというか……男女問わずの色んなキャラが触手に全身絡まれてるヤバ気な絵だけど。

 

 

それは良いとして、肝心の中身がよくわからない。中の物が見えるように半透明になっている部分から見えるのは、明らかに箱の大きさに見合わない小さい宝箱のフィギュア。

 

 

中身を詰め替えたとかか? なんで? ……気になるな…。ちょっと中身を確認し――……。

 

 

 

 ―――パカッ!!

 

 

 

「「へっ?」」

 

 

 

 ―――ニュルニュルルルルルルルッ!!!!

 

 

 

「「え゜あっ!?!?」」

 

 

 

 

 

「―――何事だ!?」

 

 

俺達が出した素っ頓狂な声に反応してくれたらしく、目にも止まらぬ速さで臨戦態勢のおっさんが……! 

 

「あ! あぁあ~…!! だ、駄目です…! その子良い子ですから、倒さないでくださいぃ…!」

 

 

そして少し遅れてタイガーガールが駆け付けておっさんに制止を。その後に続くは、女メンバー二人なんだが……。

 

 

「うわっ!? 触手!?」

 

「なんで2人共捕まってんの!? しかも……なんかアウトな絡まれ方で……!」

 

 

……こいつら…! 驚きと笑いを合わせた顔しやがって……! あぁそうだよ! 俺達、フィギュア箱から飛び出してきた触手に拘束されてんだよ! ド変態みたいにな!!

 

 

「実はその子、もし勝負になった際協力してくれるミミックちゃんでしてぇ…。それが無い時は箱の中でお休みして貰っていましてぇ…。あ、その箱は手作りなんですよぉ……!」

 

 

モジモジと説明をするタイガーガール。それはこの際どうでもいいんだけどさ……!

 

 

「なんで俺達縛られたんだよ!? んでなんでこんな変態的に絡んできているんだ!?」

 

 

説明なんてしたくねえけど……! この触手、俺達の手足ににゅるにゅる纏わりついて拘束してきてる……! そのせいで大股開きみたいになってるし、更にそこにも這って来てるし……!!

 

 

「いやぁ……なんと言いますか……。ちょっと言いにくいんですけど……時折フィギュアに絡んで貰って、触手プレイ的な遊びを…いえ、資料を……! えっと……はい……だからそのお部屋にいてくれて……多分出番だと思って……」

 

 

は……?何言ってんだこいつ……? そう眉を潜めていると、女メンバー二人が俄かに反応を。

 

 

「……! ということは、もしかしてあの暖簾の部屋……!」

 

「例の、『アッチ』系のが集められている……?」

 

 

「そうですよぉ。アッチ系の、アウアウでモザモザでグフフフなのが……!」

 

 

タイガーガールの説明に、顔を合わせる女メンバー二人。そして同時に捕まっている俺達を睨みつけ――。

 

 

「「最っっっっっ低っっっ……!!!」」

 

 

「はぁ!? なんでお前らから罵倒受けなきゃいけないんだよ! てかお前らだっておっさんが話に入ってく前、なんかそんな猥談系で盛り上がってたろ! 聞こえてんだぞ!!!?」

 

 

白い目がムカついたからそう返してやると、二人ともグッと言葉に詰まりやがった! そして流れで火花を散らしていると、おっさんが割って入ってきた。

 

 

「とりあえず解放してやってくれないか?」

 

 

「はい勿論~……あっ」

 

 

「――む? ……何故私にまで触手が…?」

 

 

……なんでか、交渉に入ってくれたおっさんにまで触手が絡みだした…。なんか動きが優しいのと、倒すなって言われたからかおっさんは無抵抗で縛られて……!

 

 

「あぁあぁあぁ…!! ご、ごめんなさいぃ……! 多分楽しくなっちゃったんだと…! だ、駄目だよぉ……!」

 

 

慌てて触手ミミックを怒ろうとするタイガーガール。――が、次の瞬間ピタリと動きが止まり……。

 

 

「……イケオジの触手絡み……! グフ……グルフフフフゥ……!」

 

 

どんどん触手に囚われていくおっさんへキモ……恍惚な視線を!? って、女メンバー二人もか!?!?

 

 

「これはちょっと……! 結構、ヤバいかも……!!」

 

「ナマモノは避けなきゃいけないんだろうけど……おじ様は……!」

 

 

 

「「「イケる……ッ!!!」」」

 

 

 

なんだあのアホ三人!! 俺ら相手と態度違うじゃねえか!! って、んなことはどうでもいい! 早く解放しろよッ!!!!

 

 

見ろおっさんの顔! とうとう冷静さが消えてとんでもなく困惑してんじゃねえか!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……―――はあ…はあ……ったくよぉ! ヘンテコなオタク試練が終わったは良いが……。その後もアホな試練ばっかだ!!

 

 

まともに戦わせてくれる奴なんて稀にしかいねえ! 最初のプロレスがどれだけ有難かったか! 魔法アイテムづくりとかコスプレとかは試練って言って良いのかよ!?

 

 

そしてその中でもヘンテコなものは更にヘンテコだ! なんでバターづくりの試練で、木の周りをぐるぐるしながら虎に追い回されなきゃいけないんだよ! バターできてたし!

 

 

 

んで更に、どこかしこにもミミックがちょこんといやがる! 全く襲ってこなかったり、時には普通に襲ってきたり! もう展開が読めねえ!

 

 

例えばさっきの酒の飲み比べの試練! 他の参加者もいたんだが……酔っぱらって暴れ出した連中がいた。

 

 

するとどこからともなく虎模様をした宝箱型ミミックが現れ、そいつらをとっ捕まえてった! 『虎箱』だとか言ってたけど意味分かんねえ…!

 

 

そしてさっきの知恵比べの試練! 最後に少しボロ目の屏風が運ばれてきたと思ったら、『屏風の虎を捕まえろ』ってアホなこと言いだしやがった!

 

 

だからこっちも知恵を捻って、『じゃあ追い出してくれたら捕まえてやるよ』と言い返してやったら――本当に飛び出してきやがったんだ!!!

 

 

いや、屏風に描かれていた虎はそのままだったんだけど……ちょっと破れていた穴の奥…枠組み?らへんから虎が急にニュルンって飛び出してきやがったんだ!! ビビり過ぎて身体が固まったわ…!!

 

 

おっさんが対処してくれなかったら、俺達はそこで全滅していたかもしれねえ……! ハッと気づいて見てみたら、その虎が飛び出してきた穴から上位ミミックが顔を覗かせていたし……! 知恵比べってなんだよ!! ズルかよ!!

 

 

……けど、そうキレたところで『この程度の奇襲すら捌けぬなぞ未熟の証拠!』とかおっさんに言われちまうだろうし……あぁムカつく!

 

 

そんな怒りを溜め込みながら、次の試練の間の扉を開く。――と、そこで待っていやがったのは……!

 

 

 

「ニャバハハハハッ! ようやくアタシの元に来たねぇ! 待ちくたびれたよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「コ、コチョウ……!」」」」

 

 

試練の間のど真ん中で悠然と煙管を吹かしていたのは、このダンジョンの主にして最終試練担当タイガーガール、コチョウ…!!

 

 

どうやらいつの間にか道城の最上部、天守にまで辿り着いていたみたいだ。しかも誰一人欠けることなく。一つの目の試練で追い返されていた前回とはえらい違いだ…!

 

 

「さて、折角ここまで来れたんだ。どうでもいい会話は無用だろうさ。一騎打ちでも、総がかりでも構わない。準備ができ次第、遠慮なしにかかってきな!」

 

 

バサリと羽織を揺らし、臨戦態勢をとるコチョウ。爪も牙も露わにし……うおわ……! なんだこの気迫……!? 空間が揺れて……!?

 

 

「ここまで来れたことは僥倖――いや、それぞれが力を発揮した成果だ。最後の一戦、持ちうる全てを叩きこむぞ!」

 

「「「おーーっ!!!!」」」

 

 

だけど冷静なおっさんの檄により、ビビっていた俺達はまたも正気を取り戻す。そうだ、ここまで来たんだ! どんな手を使ってでも勝ってやる!!

 

 

「コチョウ殿、今回はこの五人で挑ませて頂きたい」

 

 

おっさんのその言葉を号令とするように、俺達は武器を構える。すると、コチョウはカラカラと笑みを。

 

 

「おうともさ! 群羊を駆って猛虎を攻むにしても、連携がなければ木っ端同然。どれだけやれるか見物さね!」

 

 

「感謝する。 ――そうだ、戦いの前にひとつ聞いておきたいことがある」

 

 

「んあ? なんだい?」

 

 

「前回までとは違い、試練の各所にミミックの姿があった。あれは一体…?」

 

 

「あぁ、ただの遊び心さね。アタシら(タイガーガール)アンタら(冒険者達)、どちらにも加勢可能なお手伝い兼引っ掻き回し役として雇ったんだ。楽しかったろ?」

 

 

楽しくないわ!!! そうツッコみたかったが……堪えた…! 勿論俺のそんな内心なんて知らず、コチョウのヤツは煙管を剣か槍の如く振り回し、こちらにピタリと合わせた。

 

 

「ま、アタシとの勝負では出てこないさ! 最後の最後は完全に実力のみの試合ってねぇ!」

 

 

それに対し、おっさんはフッと笑い――。

 

 

「あぁ。では…いざ尋常に、挑ませて頂こう!」

 

 

――勝負、開始だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――侵掠すること、虎の如しィ!!」

 

 

「「「「わわわああっ!!」」」」

 

 

「へえ! やるじゃないか! 『風林虎山』を回避するなんて!」

 

 

はぁ……はぁ……くぅ……! この、余裕綽々と……! こっちはおっさん以外、傷まみれだってのに!

 

 

というより、やっぱりおっさんが都度間に入ってくれなけりゃあ、開始数秒で外に弾き出されてたわ! 

 

 

駄目だ、勝てねえ…! 勝ち目が全く見えねえ……! 試練の疲労が無かったとしても無理だこれ…!!

 

 

「さて、もう一度さね! 同じように躱してみせなァ!」

 

 

ってマジかよ!? もう次は回避なんて無理に決まってる!!  クソッ! ここまできて全滅かよ!

 

 

こんなことなら、あの時あの高そうなフィギュア類でも奪って逃げればよかった! そうじゃなくとも金目の物なんて色んなとこにあったってのに!

 

 

もう虎の巻もどうでもいい! 何が自分の力を限界突破させられるアイテムだよ! ぶっちゃけた話、俺はそんな眉唾な効果なんて対して興味なかったんだ!

 

 

それより、その虎の巻を売り払った時に手に入る大金目当てだったんだ! ここに来たのも、一度クリアできればいい稼ぎ場になると考えてたからで…! だけどボロクソに負け、丁度いたおっさんに変に諭されて……!! 

 

 

悔しさから、修行中や最初こそそれに騙されてたけど…アホな試練の連続でいい加減目が覚めたわ! なんで俺は必死になってこんなことしてんだ!

 

 

あぁでも、今は正直虎の巻が欲しい! あの眉唾効果が喉から手が出るほど欲しいわ! それさえあれば状況を好転させられるかもしれないのに!

 

 

でもどうせ、あのコチョウってヤツが懐に隠し持ってんだろうな……―――ん!?

 

 

 

 

 

待てよ…! あそこ……!! 部屋の端に積み上げられてる巻物、その虎の巻じゃないのか!? いや間違いないだろ!!

 

 

なんであんな場所に、隠しもせずに!? 強者の余裕ってか!? ……いや、これはチャンス!! あれさえ確保できれば……!

 

 

「――(しず)かなること林の如く、動かざること山の如く――。」

 

 

「くっ…! 止め切れないか……! 来るぞ!」

 

 

――ッ! おっさんの警告が! 取りに行く暇はねえ! ……かくなる上は!! 

 

 

(はや)きこと風の如く――!」

 

 

「「「消えっ……!」」」

 

 

コチョウの姿が消えたっ……! 攻撃までは残り数秒足らず。イチかバチか、俺はおっさん含めた仲間達に急接近し――!

 

 

「侵掠すること――」

 

 

「今だ!」

 

 

そのまま勢いよく―――!

 

 

「虎の如し――うぉっと!?」

 

 

「「「わあああっ!?」」」

「むぅっ!?」

 

 

――俺の囮兼盾になるように、その身体を押し出してやった!

 

 

 

 

 

 

「「「ぎゃあああっ!?!?」」」

 

 

ははっ……! 上手くいった! あいつらはコチョウの攻撃を食らってしまったが、その分時間は稼げた! ここまであいつらを温存してきた甲斐があった! 

 

 

そしてやったぞ! ついに手に入れた! 虎の巻! しかもこんなに沢山! 全部売ればどれだけ儲かるか!

 

 

「アンタ……」

 

「…………。」

 

 

攻撃を終えたコチョウと、それを凌ぎ切ったおっさんがこっちを見て来るが……ハッ! 勝てばいいんだ! 必要な犠牲ってな! 

 

 

おっと、ここからは俺のターンだ! まずは虎の巻で自分を限界突破して、この場から逃げ抜いてやる!

 

 

そんで、全部売り払って……! なに、俺の仲間やおっさんがこの後教会送りになったとしても、復活代金ぐらい気前よく払ってやるさ!

 

 

さて、コチョウのヤツが襲い掛かってくる前に、早速虎の巻を紐解いて――……。

 

 

 

「なーんだ! 努力家の羊かと思ったら、ただの狡猾な狐だったの!」

 

 

「――は? うぐえっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

な……な……なんで……!? 巻物を少し開いた瞬間……触手が……!? どこから……巻物の、中から!? 上位ミミックが!?!?

 

 

「そ……そんな巻物にクルクル巻かれる形で潜んでるって……アリかよ!?」

 

 

「仲間を押し飛ばして犠牲にするあんたよりはアリじゃないかしら?」

 

 

上位ミミックは縛り上げた俺の首をぐいっと動かす。向けられた先には――。

 

 

「……お前……!」

 

「「最ッッッッッッッッ低ッッッッッッッッ!!」」

 

 

ギリギリでコチョウが手加減したのか、ふらつきながら立ち上がる仲間三人。全員こっちを睨んできて……!

 

 

「ふ、ふざけんなコチョウ! お前との勝負にミミックは出てこないってさっき……!」

 

 

その追及の目から逃れるように、いつの間にか戦闘姿勢を解除したコチョウを問い詰める。が、あいつは煙管をプカァと吹かし――。

 

 

「『勝負』では、ねぇ。尋常なる勝負を放棄し、褒賞だけを盗みとろうという輩には別さね」

 

 

呆れるような口調で返してきつつ、煙管をピッと動かすコチョウ。するとミミックが動いて……!?

 

 

「待…待ってくれ! な、何を……! 俺を外に投げ捨てる気か!? 誰か……助けっ…!」

 

 

(強者)の威を借る狐にやれる物なんてないよ。心入れ替えて出直してきな!」

 

 

「ということよ、狐さん!」

 

 

ま……待っ……待っっっ…!! 仲間三人は……!

 

 

「「「………………。」」」

 

 

うっ……! 冷ややかな目を浮かべてやがる……! そしておっさんは……。

 

 

「……また、修行のやり直しだな。 次こそは臆病な自尊心や尊大な羞恥心をかなぐり捨て、(強者)となればいい」

 

 

うぐっぅ……。それが一番心に突き刺さるっ……! 最後の最後まで見捨ずにいてくれるのが一番痛いって……!! あぁっくそっ!!

 

 

「――わかった、わかったよ! 今度はしっかりやれば良いんだろ! 次こそはどんなアホな試練でも切り抜けられるようになれば!」

 

 

「覚悟は決まったみたいね! じゃあ……成長を祈って、千尋の谷へ…ぽーいっ!」

 

 

いやそれ虎じゃなくて獅子じゃ……もういいわ…。 次は虎になるどころか翼も生える勢いで強くなって、虎の巻を受け取りに来てやるよ!

 

 

 

……ただ、それならミミックについて学んどくのがいいかもな。だってあいつら、ここの試練以上にアホでヘンテコな潜み方してんだから!

 

 

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