ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある浮遊冒険者の泥沼

 

「そっち側、どうだ?」

 

 

「んー。多分いないね。風が吹き荒れている様子も、火が燃え盛っている様子も、水が溢れ出してる様子もない」

 

 

「他も特に違和感はないぞ。別のパーティーも結構いるし、平和なもんだ」

 

 

「まさに絶好の探索日和っすね!」

 

 

揃って双眼鏡を外し、頷き合う。俺の仲間達が言った通り、今日の『土の地ダンジョン』は穏やかそのもの。土の精霊ノーミードと他の精霊達によるやりたい放題は見受けられない。

 

 

これならば楽に金稼ぎができそうだな! よし、じゃあ……。

 

 

「地面に足を取られないよう、いつも通り浮遊魔法で浮いていくぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――ここは土の精霊ノーミード達が棲む、土の地ダンジョン。どこもかしこも土やら砂やら泥やら岩やらで埋め尽くされた、平和なダンジョンだ。

 

 

最も、他の精霊達がお邪魔して来てるならば嘘みたい荒れまくるんだが……今日は安心して良い。ピクニックでもできるぐらいに朗らかだ。

 

 

そんな天候も相まって、俺達4人以外にも沢山の冒険者パーティーがダンジョン探索に来ているのが見える。しかしだからといって焦る必要はない。

 

 

なにせ土の精霊達の棲み処だ、アースジュエルや鉱石宝石がダンジョン中にわんさかしている。取り合いになることはまずない。

 

 

それどころか人手の多さは有利に働くんだ。各所で同時に爆破採掘を行えば混乱を引き起こせるし、いざノーミードが立ち向かって来たら周囲のパーティーと協力もできるって訳だ。

 

 

そして――。焦る必要がないのにはもう一つ理由がある。俺達にはある秘策があるからだ。それが、これ。空中浮遊の魔法ってな!

 

 

これがどう真価を発揮するか。それは……この通りだ!

 

 

 

 

「よぉ。お先!」

 

「頑張れー!」

 

「大変だなぁ!」

 

「じゃあ失礼するっす!」

 

 

ひいこら言いながら砂原を進む他パーティーの横を、俺達はふわふわと宙に浮きながらするりと追い抜かしていく。ははっ! 楽勝楽勝!

 

 

こんな平和なダンジョンだからといって油断は禁物だ。ノーミードよりも面倒なのが、この地面。結構足をとられてしまい、あんな風に思うように進めないところばかりだ。

 

 

そこへノーミード達が駆け付けて見ろ。土を操るあいつらの前で、土に足をとられているなんてどうなるか! 勿論、すぐさま復活魔法陣送りだ!

 

 

因みにノーミード達が来なくても復活魔法陣送りになりかけるパーティーは結構いる。例えば大穴に気づかず思いっきり落ちるヤツとか、足を滑らせて坂道を転がり落ちるヤツとか。岩に追いかけられるヤツとか。

 

 

他にも、穴に足を引っかけひっくり返っているヤツとか、穴に変に嵌って笑いものになっているヤツとか……ん? 穴、多くないか? 

 

 

それと向こうにある流砂には……あ。あー……あれは駄目だ…。既にぶくぶく沈んでってる冒険者パーティーがいる。あれはもうどうしようもないな……。

 

 

 

 

まあ、そういった自然の罠を警戒しながら探索しなきゃならないのがこのダンジョンだ。けど、それも俺達にとっては無意味ってな!

 

 

自然の罠も、ノーミード達の攻撃も、空中に浮いてさえいればほぼ無関係! 足を引っかけることもないし、接地面から直接攻撃を食らうこともない。問題はノーミード達の石の礫とかだが……それも回避しやすいときた!

 

 

そして逃げる時も実に簡単。最悪、足をとられている他パーティーを囮にすればほぼ間違いなく逃走成功する。はははっ! このダンジョンにおいて、俺達は敵なし――……

 

 

「――ん? おい、あれ見ろ!」

 

「えっ!? あそこで倒れてるのって……!?」

 

 

なんだ? 仲間二人が何かを見つけたらしい……。見ると、砂原のど真ん中に冒険者パーティーが倒れていて……なっ!?

 

 

「あれって…! 僕達と同じ……!」

 

「あぁ…! 俺達と同じ、()()()()()使()()()あいつらだ!」

 

 

 

 

「おい、どうした!?」

 

 

慌てて近寄り、声をかける。間違いない…俺達と同じ浮遊戦法を使う、顔なじみの冒険者達だ…! なぜこんなところで倒れて……!

 

 

「ぅ……あ……お、お前…達…か……」

 

 

一人、まだ意識が…! 一体何が!?

 

 

「気……をつけろ……。浮遊…が……安全じゃ…ない……」

 

 

「どういうことだ……!?」

 

 

「足元に…気をつけろ……! 周りに……気をつけろ……! ノーミード以外にも……気を…つけ…ろ……ガフッ……」

 

 

……力尽きた…。 なんか不穏な台詞を残して…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に怪しいところはないな……?」

 

 

「うーん……。やっぱり平和そのものとしか……」

 

 

「近くにも遠くにも、特に変な動きはねえし……」

 

 

「何があったんすかね……?」

 

 

他パーティーを煽り倒していた先程までの晴れやかな気分はどこへやら。俺達は常に周囲を睨みながらの、ピリピリとしたムードでの移動を強いられていた。

 

 

くそっ…! 楽にいけると思っていたのに、結局地面に気をつけなきゃいけないなんて……! いや、それだけじゃない…! ()()がいる…! 敵なしだった浮遊魔法に、何らかの敵が現れた。それも間違いなさそうだ……!

 

 

とりあえず、出来る限り浮遊の高度を上げ、地面から離れてみたが……鳥みたいにそう高く飛べるわけではないし、そもそも採掘の時には地面に降りないといけない。その『何か』が襲ってくるチャンスは幾らでもあるのが実情だ。

 

 

ならせめて、その正体を見極めさえできれば……――!

 

 

「あっ!」

 

 

「!! どうした!? なにか見つけたのか!?」

 

 

仲間の一人が急に声をあげ、俺は反射的に聞く。するとそいつはなんだか微妙な顔を浮かべて……。

 

 

「あ、いや……。謎の敵とかじゃなく、ノーミード達なんすけど……。それに加えて……」

 

 

「どれどれ? あぁ…。あいつらは……」

 

 

 

 

 

 

 

「べっしゃ~んっ!」

 

 

「うわっぱぁ!? やったねこのぉ! こっちもべしゃーんっだ!」

 

 

「きゃ~~!」

 

 

……泥の中で戯れているのは、ノーミード達。そして……。

 

 

「何してるんだお前ら……」

 

 

「ん? おー! アンタらか! 一緒に泥遊び、どうだい?」

 

 

ノーミード達の相手をしているのは、これまた俺達と顔見知りな冒険者パーティーだ。最も、俺達やさっき復活魔法陣送りになったあいつらと違って、ちょっとずつしか稼ぐ気のない変人連中だが……。

 

 

「泥遊び……?」

 

 

「あぁ! 聞いたことぐらいあるだろ? ノーミード達と遊べば宝石とかをくれるって! アタシたちは毎回そうしててね! なー?」

 

 

「ね~~!」

 

 

笑いあうそいつらとノーミード。だからといってそんな泥まみれにって……。

 

 

「冒険者としてのプライドはないのかよ……」

 

 

「なんだいそれ?」

 

 

「そりゃあ……一気に稼いで豪遊とか、魔物を出し抜いたりとか……」

 

 

「それがプライドなのかい? 浅ましいねぇ。それにアンタら毎回そうして、退くに退けなくなって一文無しになったり全滅したりしてるじゃないか!」

 

 

カカカッと笑う顔見知り冒険者。そして泥の中にバシャンと倒れこんだ……。

 

 

「それより、こうして童心に帰った方が楽しいと思うよ? 一度ぐらいどうだい?」

 

 

「……いや、いいわ……」

 

 

やっぱりこいつら変人連中だな……。けど、丁度いい。ノーミード達と仲良くやってるこいつらなら何か知ってるかもしれないな。

 

 

「ところで、砂原辺りであいつらがやられてたんだが……。俺達と同じく浮遊魔法使うあいつら。何か知らないか?」

 

 

「へー。あいつらも来てたのかい。まあ今日良い天気だしねぇ」

 

 

……駄目だこりゃ。何も知らねえわ。仕方ない、ノーミード達に睨まれない内に退散すると……。

 

 

「あ~。その人達なら、私たちのお友達が倒してくれたよ~」

 

 

 

 

――!? と思ったらノーミードから回答が!? いくらゆったりした性格とはいえ、こいつら……!

 

 

「……どんな友達だ?」

 

 

内心ほくそ笑みながら、もっと深く聞いてみる。が……。

 

 

「ふふふ~~。ないしょ~~」

 

 

くそっ…! 流石に駄目か……! だが、やっぱりノーミード達に協力する『何か』がいるのは確定らしい。面倒な……! 

 

 

「お兄さんたちも気をつけてね~!」

 

「採ってくのは良いけど~~」

 

「やりすぎると、お友達がやっつけちゃうんだから~」

 

「ずっと見てるんだから~~!」

 

「ほどほどにしてよ~~」

 

 

他のノーミード達のそんな注意を受けつつ、俺達はその場を離れることに。一体、何がいるんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

「要は、派手に暴れさえしなければノーミードも『お友達』も襲ってこないんだろうけど……」

 

 

「どうするよ……。大人しく軽い採掘だけで済ませるか?」

 

 

「それか……あの人達みたいに泥遊びすれば安全に……?」

 

 

変わらず浮遊しているというのに、重い雰囲気が仲間達を包んでいる……。今まで敵なしだと思っていた分、特に。

 

 

だが……折角の稼ぎ時だ。今日を逃したくはない…! 当然、あの変人気味の顔なじみ達の元に戻る気もない! 

 

 

「落ち着け。いつも通り、他のパーティーと協力すれば良いだけだ。最悪そのお友達とやらが襲って来ても、そいつらを囮にすれば良いんだ! どんな手の内かもわかるはず!」

 

 

三人にそう檄を入れてやる。それで少しは立ち直ったらしく、一人が気合を入れるように声を張り――。

 

 

「それもそうだな! それに、ノーミードやそのお友達が怯えるぐらいに暴れてやれば良いだけ―――いてっ」

 

 

「? どうした?」

 

 

「いや…。何かが投げつけられたみたいな感じが……っ痛!? ば……ばばっばはば……!!?」

 

 

「おい!? 本当にどうした!?!?」

 

 

急に様子のおかしくなった仲間は、麻痺の状態異常を出しながら落下を……!! あっという間に泥の中に呑み込まれていって……!!

 

 

慌てて周囲を警戒しても……特に変な魔物の姿は無い……! ――と、残った仲間二人がぼそり。

 

 

「……例の……お友達の仕業……?」

 

 

「『ずっと見ている』って言ってたすよね……!?」

 

 

確かに、ノーミード達はそう言っていた……! 俺達を見張っていて、叫んだあいつを排除したということか……?

 

 

くそっ! なら、どこから見てるんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はもう引き上げない……?」

 

 

「なんか危険な感じしかしないっすよ…!」

 

 

「駄目だ…! やられたあいつの復活費用分は稼がないと……!」

 

 

帰りたがる二人を引っ張り、更にダンジョンを進む。浮遊魔法を使用し続けながら。もう意味ないのかもしれないが……かといって手放せるか……!

 

 

一人減ってしまった現状、猶更に囮役が必要になってしまった。とりあえず協力してくれそうな他パーティーを見つけなければ……!

 

 

幸い、この辺りにはちょこちょこ冒険者の姿がある。その内の誰かに交渉を持ち掛けたいところだが……ん?

 

 

「なんか向こうの方で……?」

 

 

「何人か集まってるみたいっすね?」

 

 

少し騒がしさを感じ、そちらの方へ。今度は何が……なっ……!?

 

 

「これは……砦……!?」

 

 

 

 

 

そこにあったのは、小型の砦……! 土で出来た……! ……いや、砦に似た作り物と言うべきか。

 

 

子供がよく砂場で作る砂の城、あれの規模が巨大な版だ。とはいえ道を完全に塞ぎ、高さも俺達がギリギリ越えられるかどうかってレベル。

 

 

間違いなくノーミード達によるものだが……。俺達の侵攻を防ぐために作ったのか、ただ遊びで作ったものかはわからない。けど、通行止めという砦の役割は見事に果たしているようだ。

 

 

「クソッ! 邪魔だなコレ! ぶっ壊すか!?」

 

「いや待て。変に壊したらノーミード達が駆け付けてくるかもしれん……」

 

「もしかしたら奥に控えてるかも…!! 私達を倒すために……!」

 

「ノーミードがそんな賢いか? いや実際、何考えてるかわからない感じはするけど……」

 

「なんだか今日のここは様子おかしいし…警戒するに越したことはないのでは……」

 

「そういえばさっき、変な音を聞いたよ……! 何かの駆動音みたいな……!」

 

 

砦の前で、喧々諤々と話し合う他冒険者達。俺達とは違い悪路の地面を進んできたヤツらだ、戻るにしてもここから分かれ道までは遠く面倒なため、なんとかしてここを攻略したいらしい。

 

 

だが俺達にとっても好都合。ここに加われば……!

 

 

「おぉ、あんた達浮けるのか! 丁度良かった! ちょっと砦の向こう側、確認してきてくれないか?」

 

 

……早速都合よく使われた。まあ良い。こっちからも協力しないとな。偵察ぐらいなら容易いもんだし、どれ……――!?

 

 

「「「わぁあああっっ!?!?」」」

 

 

び…びっくりした……! 砦の上に人が隠れて……!! いや、正しくは人じゃなく……。

 

 

「ビビったぁ…! これ…土製?」

 

 

「粘土の人形……ってところすかね?」

 

 

そうだ……。幾体か並んでいたのは、土でできた人形。それに兜やら鎧やら剣を……これ冒険者の誰かが落としていった装備っぽいな……を装備させた、言わばダミー兵だ。

 

 

「結構本格的……なんか今にも動き出しそう……」

 

 

「あ。なんか小さくて可愛い粘土人形(クレイ)も並べてあるっすよ。人と犬のとか、羊とか、芋虫とか、ペンギンとか……」

 

 

しげしげとそのダミー兵を眺めている仲間を余所に、俺は更に奥を確認。……どうやらノーミードも『お友達』とやらもいる様子は無い。

 

 

そのことを待機していた他冒険者達に伝えると、策が決まったらしく――。

 

 

「ならやっぱり爆破して通り抜けよう! この奥に何か良い物があって、隠してるのかも!」

 

「確かに! そういえばノーミード達がお宝を隠し持っているって話も聞いたことがある!」

 

「この人数いれば、ノーミード相手でも負けっこないね!」

 

 

その場全員が同調し、幾人かがいそいそと爆弾を。そしてそれを砂の砦前へ仕掛けに……――ん?

 

 

 

 

 ――――ボゴォアッッ!!!

 

 

 

 

「「「「「はぁっ!?」」」」

 

 

え、は!?!? 砦の一部を破壊する形で、大岩が転がり出てきた!? いやというか、もともと砦の中に埋められていたのか!?!?

 

 

「な…ぐぁっ――!?」

 

「ちょっ……!? ぎゃあっ――!」

 

「嘘っ…! きゃあああっ―――!」

 

 

大岩の急襲を回避できず、何人かが轢かれ……! ……ん!? 何人か……減ってないか……?

 

 

轢かれたはずの人数と、地面に貼り付けられた人数が合わない気がする……! どういうことだ…? 地面が柔らかいから奥深くまで埋め込まれたのか……――?

 

 

「「わあああああああああっっっっ!?!?」」

 

 

――!? 今度は、俺の仲間達の悲鳴が!? 何が起きて……なっ!?

 

 

「粘土の人形が……ダミーの土兵士が、動いて…いる!?!?」

 

 

 

 

 

大岩によって全員が混乱している中、砦の上から勢いよく降りてきたのは……あの粘土人形兵士達……!! 幸い宙に浮かんでいる俺達は後回しらしく、狙いは下の連中だ……!

 

 

「――は!? なんだぁ!?」

 

「えこれさっき言ってた土製の!? なんで動いてるの!?」

 

「うわちょっ…! 止めっ…! ぐああっ!?」

 

 

粘土兵士にしてやられだす他冒険者達……! ただでさえ足場が悪いのに、訳わからない敵が相手とは……!

 

 

大体なんだアレ……! ――もしかしてあれが、例の『お友達』とやらなのか? 粘土人形が動くって、ゴーレムみたいな……。

 

 

「こ、この! どっか行きやがれ!」

 

 

――と、戦っている一人が闇雲に武器を振るい……粘土兵士の胴体に一撃を! 粘土製だけあって、それでボロリと穴が開……い…て……。

 

 

 

 

 ――――ギュルッ!!

 

 

 

 

「うぐえっ!? ぐえあああっ……!?」

 

 

……は……? 今……何が……? 見間違いじゃなければ……粘土兵士の胴体に空いた穴から、触手が飛び出して……戦っていたヤツを中に引きずり込んだ……!?

 

 

しかも……その直後にその穴が修復された!? どうなってるんだ……!?

 

 

というかそれだけじゃない! よく見ると手足も……あれ、触手だ!! 何か気持ち悪い動きしてると思ったら…!

 

 

ゴーレムじゃないのか……!?  じゃあ、あれは一体……――!?

 

 

 

 

 ――――ゴロゴロゴロゴロッッ!!!!

 

 

 

 

うわっ!? さっき転がっていった大岩が勝手に戻って来た!? なんでだ!? しかも右に左に自在に動きながら…! ノーミードが操ってるのか!? それとも、中に何か入ってるのか!?

 

 

「のあああっ!?」

 

「おごぁっ!?」

 

「むぐはっ……!?」

 

 

その惨状を空中で茫然と眺めている間に、あれだけ居た他冒険者達が全滅していく……! 残されたのは俺達だけに……!

 

 

って、マズい! 俺達に狙いを定めだした! 逃げ……!

 

 

「わああッ!? 助けっ……!」

 

 

しまっ……! 1人がやられ……ん!?

 

 

なんだ今度は!? 地面から触手が伸びて……! 俺の仲間の足を捕まえて……!!

 

 

「がぼぼぼぼ……!」

 

 

地中に引きずり込んでいった……! くっ……あれはもう無理だ……! とりあえず退避だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デスワームっすよ……! デスワームに違いないっす! いるらしいんすよああいうUMAな魔物! なんとかデスワームっての……!!」

 

 

「でもそれは最後のあいつがやられたのだろ!? じゃあさっきの岩と粘土兵士はなんだよ! あと、その前にあいつが麻痺を食らってやられたのは!?」

 

 

なんとか逃げおおせたは良いが……謎の敵のせいで、俺も最後の仲間も気が動転気味だ……! あれがノーミードのお友達だというのか……!?

 

 

結果的にその戦法を見ることは出来たが……どうすればいいんだあんなの! 対策もなにも思いつかないし、そもそもあれが何なのかもわからない!

 

 

「ちょっとだけ採掘させて貰って帰りましょうよ……!」

 

 

縋るようにしてくる最後の仲間。だが……!

 

 

「このまま帰れるわけないだろう! 一人分だった復活代金が二人分になってるっていうのに! それに先にやられていたあの知り合い連中に顔向けできない!」

 

 

ここまで来たら意地だ……! なんとか稼いで帰ってやる……! そうすれば誰もが称賛を浴びせてくれるはずだ……!

 

 

……とはいえ、どうするべきか…。変に動けばどうなるかは既に実証済みだし……。考えて動かないと……。

 

 

――そうだ! そういえばノーミードと遊んでいたあいつらが言っていた! ノーミード達に付き合えば、報酬として宝石とかが貰えるって! 

 

 

確かそれ、カッティングも済んでいるから即高値がつく代物だと聞いてはいる。それを手に入れれば復活代金ぐらい余裕で稼げるだろう。よし、狙いは定まった。

 

 

だが、今更ノーミード達と泥遊びなんて御免だ。となると取るべき手段は……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、そこのノーミード」

 

「ちょっといいすか?」

 

 

「へ~? あ、冒険者さん達~! わ~! 私みたいにふわふわ浮いてる~!」

 

 

単独で移動していたノーミードを見つけ、それとなく話しかけてみる。流石、ゆったりとしたこいつらだ。特に警戒する様子もなく、寧ろ俺達の浮遊魔法に目を輝かせている。

 

 

そして今のところ、例のお友達の動きは無い。見ているのか見ていないのかはわからないが……もう遅い!

 

 

「動くな!」

 

 

「変なことすると痛い目見るっすよ!?」

 

 

二人でそのノーミードを取り囲むようにし、武器と爆弾を構える! あの敵はこいつらの『お友達』なんだ、こうすれば手出しできないだろう!

 

 

そしてその予想通り、大岩も土人形も、デスワーム?も麻痺攻撃も来ない! ――が……。

 

 

「え~~。遊んでくれないの~~? あ~! これ新しい遊び~?」

 

 

……肝心のノーミードが怯えていない……。そもそも脅威として認識されていないということか? ゆったりが過ぎるだろ……。

 

 

ま、まあいい。とりあえず……。

 

 

「お前達が持ってる中で一番良い物をよこすんだ!」

 

 

そう脅しをかけてみる。するとノーミードは目をぱちくりさせ……。

 

 

「一番良いの~? キラキラでピカピカなやつ~?」

 

 

「そうだ! それを……」

 

 

「見せてあげる~! こっちこっち~!」

 

 

ふわりと抜け出し、俺達を手招きしてどこかへと向かうノーミード。話が通じているんだか通じてないんだか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ~! 内緒だよ~?」

 

 

そんなノーミードに連れてこられたのは、隠れた位置にあるちょっとした洞窟。入口に『勝手に入っちゃダメ~!』と土文字で書かれてもいた。

 

 

そしてその洞窟の奥にあったのは……!

 

 

「「宝箱……!!」」

 

 

幾つかの豪華な宝箱だ……! これは期待できる……!!

 

 

「この中にね~……あ~! 勝手に開けないでよ~!」

 

 

ノーミードを無視し、俺達揃ってその内の一つに手をかける! そして勢いよく開けて中身を―――……は???

 

 

「……なんだ……これ?」

 

 

「……泥団子……っすね?」

 

 

 

 

……期待しながら開けた宝箱の中に鎮座していたのは……幾つかの泥団子。これが、このノーミードが言っていた『一番良い物』…?

 

 

「確かにキラキラして、ピカピカして綺麗っすね……」

 

 

いやまあ、そうなんだが……。宝石並みに輝いてはいるんだが……。結局素材は……。

 

 

「これ、泥製だろう?」

 

 

「そうだよ~。だって泥団子だもん~! 頑張って作ったの~!」

 

 

やっぱり、ただの泥……! こんなもの持ち帰っても売れないどころか、心底呆れられて終わりだ!

 

 

「良いでしょ~。 こっちが私ので、こっちがノメグの~。それでこっちのは……」

 

 

俺達の間にぐいっと割り込み、泥団子の説明を始めるノーミード。こいつ……!

 

 

「もっとこう……宝石とか無いのか!? 高値で売れるやつ!」

 

 

「ほーせき~? あるよ~。 欲しいの~?」

 

 

「そうだっての! だからそれを……」

 

 

「あ、でも~。 あげる代わりに遊んで~!!」

 

 

またそれだ!!!! この…ふざけやがって!!

 

 

「宝石を渡さないと、この泥団子全部潰して―――ぐむぐっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

…!?!?!? な……今何が……!? 今どうなって……!? 急に体全体が縛られ……口も塞がれ……動けなく……!?!?

 

 

「もご…!? もごご!?」

 

 

あ、あいつも……。 ――! あいつの、そして俺の身体を絞めているのは……触手!?

 

 

一体どこから伸びて……傍の宝箱全部から!!? そこから出てきた何本もの触手が……俺達を雁字搦めにしているだと!?

 

 

「こんなキッラキラで素敵なお団子を潰すなんて、悪い人ー!」

 

 

この声は……!? 目の前のノーミードの声じゃあない……! 宝箱の方から……――!?

 

 

「も……ひょ…ひょうい(上位)……ミミック……!?」

 

 

「そうだよ~! 私達のお友達~! ミミックの皆だよ~!」

 

 

 

 

 

ミミック…!? 『お友達』の正体は、ミミック!? 今まで見てきた攻撃全部、ミミックによるものだったというのか!? それならば見つけられなかったのも納得だが……! ミミックってあんな動きするものなのか!? 

 

 

「このままやっつけちゃうー?」

 

 

そんな俺の動揺に気づく様子もなく、ノーミードに聞く上位ミミック……! こんな何匹ものミミックに捕まっているから、抵抗なんて……!

 

 

「ん~~。でも、そっちの人、泥団子綺麗って褒めてくれたし~…」

 

 

……! ノーミードが…少し揺れている! 怪我の功名か……! 頼む……頼む……!

 

 

「そうだ~! 遊んでくれたら許してあげる~~!」

 

 

――よしっっ!! その提案に俺も仲間も即座に頷きまくった! これでとりあえず窮地は脱した!

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ~何して遊ぶ~?」

 

 

ミミックから解放され、なんとか洞窟の外に出られた俺達。その前で同じようにふわふわしながら楽しそうに笑うノーミード。

 

 

「もう諦めて付き合ってあげましょうよ……!」

 

 

俺の仲間はそう言ってくるが……プライドが許さない……! さっき遊んでいたあいつらの嘲笑う顔が目に浮かぶ……!

 

 

「そんなことしてたまるか……! 爆弾を使ってなんとか……なっ!?」

 

 

鞄から爆弾を取り出そうとしたが……無くなっている!? まさか……! ハッと洞窟の方を見ると、爆弾を手にしてニヤニヤしている上位ミミックが顔を覗かせて……! 縛られている間に盗られていたのか……!

 

 

くそっ……! 万事休す――いや! まだ可能性はある! イチかバチか……!

 

 

「ついてこい!」

 

 

そう号令をかけ、俺は宙を駆ける。仲間は慌ててついて来て――。

 

 

「追いかけっこ~? 待て待て~!」

 

 

ノーミードも勘違いしながらついてくる。今に見ていろ…! 転んでもただは起きないところ、見せてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ここまで……砂原まで戻って来て、何するんすか!?」

 

 

仲間 (とノーミード)を引き連れ、戻って来たのは最初の砂原。どうだ……あるか……!? ――あった!

 

 

「急いでこれを拾え! あいつらの落とし物だ!」

 

 

砂原にポツンと落ちたままだったのは、顔なじみの浮遊魔法パーティーの装備! あいつらは俺達と同じ戦法採掘法を使う。だから……!

 

 

「それ以上近づくなノーミード! 今度は本気だからな!」

 

 

改めて手に入れた爆弾を手に、再度ノーミードを脅してやる! これで俺達の……――。

 

 

「え~~。ほんとに悪い人だったの~? じゃあもういいや~」

 

 

――ん? やっぱり怯えている様子はないが……なんだか嫌な予感が……。

 

 

「やっちゃって~! ミミックのみんな~!」

 

 

「は!? ―――!?」

 

 

「うわあああっ!?」

 

 

 

 

 

 

しまっ…! 砂中から触手が! 仲間の1人がやられた攻撃だ……! これもやっぱりミミックの攻撃……!

 

 

爆弾を取るために地面スレスレに浮かんでいたのが災いした…! 俺は反射的に飛び退いてギリギリ回避できたが、最後の仲間が捕らえられた……!

 

 

くぅっ…! 助けようにも助けられない……! 爆弾を投げればあいつごと爆破してしまうし、かといって近づけば触手の餌食だ……!

 

 

……というか、あれミミックなのか…? ミミックって箱の中に入っているものだろう? 広大な砂の中に潜むなんて……――。

 

 

 

 

 ――――ズボッ

 

 

 

 

……は? は???? なんだあれ……今、砂中から出てきたの……なんなんだ!?

 

 

あれは…ドリルがついた……箱!? そこの一部が開いて……ミミックが顔を出しているだと!?!?

 

 

――そうか! そうだったのか! ノーミードのお友達が、ミミックが、『ずっと見ている』と言うのは……地中から見ているという意味だったのか!

 

 

いやわかるか!!!!! そして対策なんてできるか!!!!! あんなもの……!地中を縦横無尽に駆け巡るミミックなんてどう相手すればいいんだよ!

 

 

「そ~れ! ありじごく~!」

 

 

「わ……わわ……!? 助け……がばばばば……!」

 

 

うっ……! ノーミードの力とそのドリルミミックによって、巨大な流砂が……! 触手に捕まったそいつはそのまま地中に引き込まれて……。

 

 

もう本当にどうしようもない……! 全員やられた……! 逃げるしかない……! 出来る限りの高度で浮いて、ミミック触手とノーミードの動きをよく見ればなんとか……!

 

 

 

 

 ――――ベチャッ

 

 

 

 

!? な、なんだ……!? 今、ミミックが何かをして、何かを投げて……。それが俺にぶつかって……?

 

 

これは……泥団子? こんなもの投げたところで――。

 

 

「シャアアアアッッ!」

 

 

ひぃっ!? た、宝箱ヘビ!? 群体型のミミック!? なんでここに……――!

 

 

ま、まさか……! 泥団子の中に入れて、()()()()()()()のか!? そんな……!! 最初にやられた仲間は、こうしてやられ――……!

 

 

 

 

 ――――ガブッ

 

 

 

 

あば……あばばばばば………………――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

晴天続く、土の地ダンジョン。土の力満ち溢れるその地に微かながら響き渡るは、ノーミード達の弾む声。

 

 

ただ、以前ならばそれは怒りの声であった。そしてそれと同時に冒険者達の喧騒、爆破音が轟いていたのだが……今やどこへやら。

 

 

その代わり、新しい音が追加された。冒険者達の悲鳴と――。

 

 

「どーーーんっ!!」

 

「どりるぅう! ぶれいくぅっ!」

 

「てんをつくぜー!」

 

 

謎の決め台詞とドリルの駆動音と共に、地中から勢いよく突き出してくる音。その数秒の後には…べしゃりと吹き飛ばされた冒険者が地面に叩きつけられる音も。

 

 

いや、それだけではない。大岩が明らかに不規則に転がる音、奇妙な剣戟音、麻痺毒による震声等々。なんとも不可思議な音が時折、どこからともなく…………。

 

 

 

 

 

 

そんな異音が届かぬ一角、ノーミードの泥遊び場の一つ。そこには今しがた浮遊冒険者を()()()()()()()()ノーミードの姿が。そして――。

 

 

「あー。結局あいつら、やっちゃって、やられちゃったのかい。言わんこっちゃないね!」

 

 

「「「「「ね~~!!」」」」」

 

 

浮遊冒険者を泥遊びに誘った『変人』冒険者達も。リーダー格の冒険者の呆れ笑いに合わせ、一緒に遊んでいた他のノーミード達もクスクスと笑いあう。

 

 

「しっかしすごいね、アンタ達のお友達って! あんなの見たこと無いよ!」

 

 

浮遊冒険者達の顛末を全て聞いた泥遊び冒険者は、チラリと少し横に目をやる。そこにあった、もとい、いたのは……。

 

 

「これがミミックだって言うんだから! 宝箱に隠れて静かに待つだけじゃないんだねぇ。ドリルつけて地中をひた走るなんて!」

 

 

先程ノーミードと協力し、浮遊冒険者を仕留めた例のドリル付きの奇妙な箱が。あの時のように一部がパカリと開き、中からアースジュエルを握った触手ミミックと群体型ミミックが自信満々に姿を見せてもいる。

 

 

これぞミミック派遣会社『箱工房』謹製、地中移動式ミミック宝箱。乗り込み地中へ潜れば、トンネルを掘るモグラの如く移動ができる優れものである。上手く活用すれば落とし穴や流砂すらも製作可能。

 

 

ミミック達はこの箱によって冒険者の背後ならぬ真下を取り、危険人物をミミックらしくこっそり監視していたのである。後は勢いをつけて冒険者を下から突き上げるも良し。地上付近まで浮上し触手攻撃を仕掛けるも良し。

 

 

そしてそれでも届きにくい相手には……アースジュエルで土を生成し、そこに群体型ミミックを詰めた泥団子で対空攻撃を。ご安心あれ。どうやら泥団子の中も箱判定のようである。安心して良いかは定かではないが。

 

 

 

 

 

――しかし、ここに派遣されているミミックが用いているのはその地中移動宝箱だけではない。突然に聞こえてきた軽い地響きに、泥遊び冒険者が顔を動かすと……。

 

 

「ごっはん~♪ ごっはん~♪」

 

「泥遊びの後は~♪」

 

「お弁当~♪」

 

 

何故かドリルを唸らせながら地上を走る上位ミミック達。その後ろには普通の宝箱に入ったミミックと――更に大岩、粘土人形兵士が続いているではないか。

 

 

「「「とうちゃ~く!」」」

 

 

泥飛沫をあげつつ停止するミミック達。すると大岩と粘土人形兵士はパカリと割れ、ミミックがひょっこり。

 

 

やはり、あれらもミミックなのである。岩型の箱に潜み転がり、隙あらば冒険者を岩の中にパクリ。身を粘土の鎧で包み、壊れた箇所はアースジュエルで補修。まさしく――。

 

 

「自由自在だねぇ……!」

 

 

感服する泥遊び冒険者。すると今度は反対方向から複数のミミックがぴょんぴょんと。しかし彼女達は今集合したミミック達とは違い、土汚れの一切ないさっぱりとした姿()をしている。

 

 

「お弁当持ってきたよ~!!」

 

 

その代表であろう上位ミミックが号令をかけると、わっと群がる他ミミック達。自分の分を貰いながら、こんな会話を。

 

 

「アストちゃんには悪いけど、泥遊び楽しくて帰りたくないもんね~」

 

「ねー! ご飯の度に毎回シャワー浴びるの面倒だしー!」

 

「簡単にならお風呂入らなくとも汚れ落とせるもん!」

 

「あ、でも…! ここに派遣されてからお肌綺麗になったって言われたよ!」

 

「えー!! あ、泥パックだ!!」

 

 

ケラケラと駄弁るミミック達。泥遊び冒険者がそれを眺めていると、上位ミミックの一人が傍へ。

 

 

「ご飯、一緒に食べませんかー!」

 

 

「ん、あぁ! こっちも飯にするか! おかず交換でもするかい?」

 

 

「わー! さんせーい! 人間も食べられるご飯だから安心ですよー! そだ! 食べ終わったら、あそこの土製の宝箱に乗って遊びましょう!」

 

 

「えっ、あれ動かせるのかい!? 楽しそうじゃないか! ノーミード達もどうだい?」

 

 

「「「行く行く~!!」」」

 

 

 

……泥遊びの中では種族も敵味方もないのだろう。冒険者もミミックもノーミードも、揃って子供のような瞳と笑顔を湛えている。

 

 

その輝き方はまさに、丹精込めて磨き上げた泥団子のよう―――。

 

 

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