ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№65 『魔王軍の上級者向けダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

「……あれ? えーと……確かこう来たんですから……?」

 

 

「道が定期的に変化するってこと、加味してるわよね?」

 

 

「はい……。ですけどちょっと……。えっと、パターン的には多分……」

 

 

「はーい! ここでエンカウントどーんっ!!」

 

 

「わわわっ!?」

 

 

ちょっと立ち止まって考えようとした瞬間、目の前に武装した魔物達が!! とはいえ仕掛けてくることはなく、今は社長と同じように笑ってくれているだけ。

 

 

だが、平時ならばそうはならない。本来の相手……冒険者達と顔を合わせるや否や、即座に戦闘開始。武器を振りかぶり魔法を詠唱し、痛烈無比に襲い掛かるのだ。

 

 

不意を突かれた冒険者達がその攻撃を容易く凌げる訳はなく、例え対処できたところで頭の中からはダンジョンのルートなんて消えてしまっている。そしてどんどん迷いの中へと――。

 

 

なるほど、上手くできている。流石、『上級者向けダンジョン』!

 

 

 

 

 

 

 

ということで。本日依頼を受けてやってきたのは、上級者向けダンジョン。そう、魔王軍の運営するダンジョンの一つである。

 

 

その名称の通り冒険者達の中でも上級者を対象としたダンジョンであり、その難度もかなりのもの。ダンジョンの迷宮具合、仕掛けられた罠の量及び質、各所にいる魔王軍兵士の屈強さ、隠されたお宝のレア度。全てが段違い。簡単に攻略できる代物ではない。

 

 

実際、こうして私もちょっと迷ってしまっているのだから……。社長のお供として様々なダンジョンを巡ってきたというのに。うぅん…不甲斐ない……。

 

 

 

しかし、そんなダンジョンから依頼が来たというのだから驚き。特にここ、幾つかある上級者向けダンジョンの中でも最高レベルの難易度を誇っているというのに。

 

 

今しがた述べた通り、このダンジョンの魔物達は精鋭揃い。それはミミック達にも言えることで、実力的には申し分ないのだ。

 

 

道中幾体かに会ったが、どの子も良い感じに鍛え上げられていた。我が社のミミック達と遜色ない子もちらほら。正直、派遣の必要もないほどである。では、何故依頼が?と疑問に思われるであろう。

 

 

――実は、依頼内容が普通ではないのだ。確かにダンジョン各所へや教官役のミミック派遣依頼も含まれているのだが、それはサブ。メインの依頼は今までにない内容。

 

 

そしてそれは、ここを最高レベルの上級者向けダンジョンたらしめている()()()()……ダンジョン主を務めている()()()()()()()()()()と深く関係していて……――。

 

 

「アスト。正面から徘徊式の巨大回転刃が迫ってきてるわよ」

 

 

「えっ!? わわわわわっ!?」

 

 

と、とりあえず…さっさとダンジョンの確認を終わらせたほうが良いかも……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やっと……最奥の間に……!」

 

 

「よく頑張ったわね! 一発クリアなんてすごいじゃない!」

 

 

本当、流石上級者向けダンジョン……。自分でもよくヒントなしでここまで辿り着けたと思う……。

 

 

ふぅ…! 社長に頭をよしよしと撫でられて元気が出た! では中に入ろう。なにせ、ここからが今回の本題なのだから!

 

 

「失礼します……!」

 

 

深呼吸し、一歩を。すると中から……――きゃあっ!?

 

 

「クアッハッハッハッッッ!!! よう無事で来たもんだなぁ!! オレ様はてっきり復活魔法陣からのご登場かと――おっと」

 

 

う、嘘!? あまりの()()に、最奥の間外まで吹き飛ばされてしまった!?!? 比喩表現ではなく、暴風に煽られるかの如く、文字通り笑い飛ばされた……!?

 

 

「いかんいかん! まぁたやっちまったぜ! オレ様の悪い癖だ! クアッハ…っとっと――」

 

 

立ち上がった瞬間また飛ばされるかと身構えたが……堪えてくださったようで。良かった……!

 

 

しかしただの笑い声でこれとは……。こうして直接お会いするのは初めてなのだけど、既にその圧倒的な力の片鱗がわかってしまった。流石、魔王軍幹部の――。

 

 

 

「お久しぶりですね! 『バサク』さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉおぉ! 久しいじゃねえかミミン! やっぱり()()()()なぁ!」

 

 

社長の挨拶に対し、先程と同じガハハ笑いで応えるのは……あ、もう吹き飛ばされはしない。魔法で堪えられるようにしたから。それでも話される度、全身をビリビリと痺れる感覚が包むのだけど……。

 

 

――改めて。以前、彼の名が挙がったことを覚えているだろうか? 私と社長、サキュバスのオルエさん、そして魔王様の4人での酒席の際に少々話題になったのだが。

 

 

かつてより魔王軍幹部を務めており、現魔王様には『血の気が多い』と称され、現在はこの上級者向けダンジョンの仕切り役兼ボスを任されている言わば『戦闘狂』。

 

 

そしてこの広大と言ってもいいほどに広げられた最奥の間にどかりと腰を降ろしても尚、巨人族と見紛うほどの背と、筋骨隆々という表現ではとても足りない桁外れの体躯、全身に勲章の如く残る幾多もの古傷を誇り、比類なき膂力と魔力を滾らせているのをまざまざとわからせるオーラ(闘気)を放つ彼。

 

 

そう、彼こそが――、バサクさんである……!!! ……確かに吹き飛ばされはしないけど、威圧感で後ずさりしてしまいそう……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、変わらないにも程がねぇか? 昔のままじゃねえか!」

 

 

「バサクさんもですよ~! 相変わらずでっかくてムッキムキで!」

 

 

「よせやい! けどオレ様は年食って結構衰えちまってなぁ。おめえが羨ましいぜ!」

 

 

「ふふっ! どうだか!」

 

 

私が若干怯んでいる中、バサクさんと社長は旧知の仲らしい会話を。そう、このお二人、お知り合いなのである。

 

 

何を隠そう…いや本当は隠した方が良いのだろうけど……かつて起こったとある事件。今や闇に葬られた、『魔王軍と人間騎士兵団のぶつかり合い』。

 

 

一部の者達の些末な理由から発生したそれは、双方数万を軽く超える兵力による争いへと発展。下手すればそのまま魔界人間界全てを巻き込む大戦争に広がる……かに思われた。

 

 

しかしそこまでは達しなかったのだ。何故か? それは…………現魔王様、オルエさん、社長の『最強トリオ』が幼い身でそこへ飛び込み、両陣営をボッコボコにして黙らせたからである。

 

 

そしてその時の魔王軍側指揮官がバサクさんらしく……。細かい話は聞いてないのだけど……。要は社長、バサクさんを殴り飛ばした身ということで……。

 

 

つまり、あの暴威の化身のような彼よりも、私が抱っこしている()()()()社長の方が強いということで……?

 

 

いや、実際に戦ったのかはわからないのだけど。もしかしたらトリオvsバサクさん一人だったのかもしれないし。いやまあ、それでもとんでもないのだけど……。

 

 

「おー? そう言ってくれるなら、いっちょリベンジでもさせてもらうか!!」

 

 

「駄目で~す! 先に商談からですー!」

 

 

……少なくとも、社長がバサクさんに勝ったのは間違いないらしい……。バサクさんの拳ほどの大きさもないと言うのに。どう勝ったのだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

「――という感じで今はやらせてもらってます! 『初心者向けダンジョン』と『中級者向けダンジョン』にも派遣させて貰ってますよ~!」

 

 

「ウアッハッハ! 聞いてるぜ! 中々やり手みてえじゃねえか!」

 

 

商談……ではなく、それに移る前の談笑に花を咲かすお二人。と、バサクさん、私の方もチラリと見て――。

 

 

「あぁそうか! やけに早く、しかも無事にここまで到着したのはミミン、おめえが助言してたからか! 道理で――」

 

 

「いーえ! 私はヒントすら出してません! ぜーんぶアストの実力ですとも!」

 

 

彼の言葉を遮るように、社長は自分のことのようにえっへんと。それを聞いたバサクさんは……。

 

 

「おっとそうだったか!! こいつぁ失礼した! 流石、()()()()()()()()だ!」

 

 

 

 

 

「――!! 私の事、ご存知でしたか…!」

 

 

突然に私の正体を看破され、目を丸くしてしまう…! もしかして、何かしらの連絡が……?

 

 

「ご存知というか、見りゃあわかる。アスタロトの魔力だ! ――あ、喋り方に赦し貰って良いか? どうにも格式ばった物言いは慣れなくてなぁ……」

 

 

どうやら違うっぽい。ただ見抜かれただけの様子。流石魔王軍幹部と返すべきなのだろう。

 

 

「えぇ。私も今はミミン社長の秘書ですから!」

 

 

そう承諾すると、バサクさんはまたも弾けるような笑い声をあげた。

 

 

「姫様のその懐の深さに格別の感謝を!! しっかし、何でそんな仕事を?」

 

 

「社会勉強と言いますか……」

 

 

「ウアッハッハ! そうかそうか! ミミンとアスタロトの姫様なんてけったいな組み合わせだと思ってたんだが…それなら納得だぜ!」

 

 

あっさりと納得してくれたバサクさん。――すると、何か思い出したらしく……。

 

 

「おぉ、そうだそうだ! アスタロトの方々にちょいと頼みたいことがあってよ!」

 

 

「へ? なんでしょうか?」

 

 

「アスタロト家お抱えの衛兵長、いるだろ? 強えって噂じゃねえか! 一度オレ様と戦わせてくれないか?」

 

 

「えっ!? ええっ!?!?」

 

 

「頼むよ! いやお願いいたしますよ姫様!」

 

 

急に腰低く頼み込んでくるバサクさん。確かに我が家の衛兵長は社長を以てして『魔王軍幹部並み』と言わしめたぐらい強いのだけど……! そんな許可は……!

 

 

「駄目ですよ~! アストは私の秘書として来たって言ったでしょう? そういうお願いは聞けませんー!」

 

 

「駄目かぁ……」

 

 

まごついていると、社長が割って入ってくれた。それでバサクさんも引き下がって……。

 

 

「なら、問答無用で押しかけちまえば……!」

 

 

ちょっ!? なんという発想を!? 止めないと……!

 

 

「――なんてよ! ウアッハッハッ!! 冗談だ!」

 

 

……へ???

 

 

「そんなことしたらこの役目を剥奪されちまう! 折角の天職、それだけは勘弁だぜ!」

 

 

びっくりしたぁ……。本当に我が家に突撃されてしまうのかと……。安堵の息を吐いていると、バサクさんはしみじみ呟いていた。

 

 

「寧ろ力で止めに来てくれたらオレ様にとって万々歳なんだけどよ。わかってんだよなぁ、魔王様は」

 

 

……バサクさん、やはり評通りの血の気の多さ。あ、もしかして……。

 

 

「社長……。例の争い(魔王軍vs人間軍)の時、バサクさんは止めに入るどころか嬉々として戦いに出てたんじゃ……?」

 

 

「察しが良いわね! その通りよ! だから私が彼を、マオ(魔王)が人間側を、そしてオルエが周囲の攪乱を担当して黙らせたの!」

 

 

やっぱり、戦闘狂……。そしてさらっと一対一だったことも明かされたし……。どちらも恐ろしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さ! じゃあバサクさん、依頼についてのお話に移りましょー! 何があったんですか?」

 

 

「おうよ。いやぁ、情けねえ話だがよぉ……」

 

 

閑話休題。と、社長の問いかけにバサクさんは先程までの彼らしくない溜息交じりの声で語り始めた。……今度はその溜息で吹き飛ばされそう……。

 

 

「事は『例の連中』が全てでよ…。あいつらに関する情報、届いてるか?」

 

 

「はい。魔王様及び『アドメラレク』の名で資料を頂きました。こちらにも表示させますね」

 

 

「そりゃあ助かった! オレ様は説明下手だからなぁ。魔王様があの方々に命じて纏めてくださったのには頭が上がらねえ!」

 

 

私がそう答えると、バサクさんの調子がちょっと元に。やっぱりこの方は豪快に笑っている姿が似合う。

 

 

因みにアドメラレクというのは、私の家と同じく魔王に仕える大公爵(グリモワルス)で、『王秘書』とも呼ばれる、言わば社長に対しての私みたいな任を司っているの一族なのだけど……詳しくはまた今度。

 

 

なにせそろそろ開催される『グリモワルス女子会』にその姫様…もとい令嬢が出席するだろうから。その時にでも。

 

 

 

今は『例の連中』について。魔法陣で資料を表示させて……バサクさんにも見えやすい大きさで、と!

 

 

「お待たせしました。この『勇者パーティー』についてですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉそうだそうだ! そいつらだ!」

 

 

映し出された女性4人組の姿を見て、盛大に頷くバサクさん。私は傍の魔法製机に降ろした社長へ。

 

 

「社長が懸念されていた通りの結果となってしまいましたね」

 

 

「でしょー!」

 

 

ぶいっと指をピースさせ、得意げな社長。実は以前より、社長はこの勇者パーティーを()()()()()のだ。

 

 

あれは『中級者向けダンジョン』に訪問をした際のこと。ミミックにしてやられる冒険者達の例の中で、彼女達が紹介されたのである。最もその時は、変わった肩書を持つだけのやけに警戒心が強い一般冒険者という認識だったのだけど。

 

 

ただ、社長だけは変わったことを口にしていたのだ。『あの子たち、今後かなりの難敵になる気がするわよぉ…!』と。

 

 

また、その後に開催された魔王様との酒席でも彼女達の話題は上がった。魔王軍の運営する各ダンジョンに次々と挑み、いくら負けても不屈の精神で攻略していっている――。そう魔王様は仰っていた。

 

 

そして『いずれ上級者向けダンジョンにも到達し、ともすれば魔王城にもやってくるだろう』と不安を露わにしていらしたのだ。残念な事にそれは杞憂とはならず、今こうして……!

 

 

「各記録を拝見させていただきました。初心者向け、中級者向けの各ダンジョンを制覇した彼女達は上級者向けダンジョンの攻略を開始。そして今や、バサクさん擁するこちらにまで――」

 

 

「おう、その通りだ。まあ、まだオレ様に敵う力量じゃねえがな!」

 

 

私の確認に笑い声で答えるバサクさん。完全に調子が元通りに……かと思ったら、今度は先程以上に肩を落とし――。

 

 

「……だがよぉ。不甲斐ねぇ話だが、最近あいつらの相手が辛くてなぁ……。全く、オレ様としたことがなっさけねぇよなぁ……」

 

 

やっぱり年かねぇ……。と呟く彼。なるほど、先程の衰えを感じている発言は勇者パーティーに起因するものらしい。けど…。

 

 

「毎日、時には日に幾度も押しかけられてしまえば誰だってそうなりますよ~」

 

 

表示させた交戦記録に目をやりつつ、バサクさんに励ましの言葉をかける社長。なにせ彼女達、ドン引くレベルでダンジョンにやってきているのだもの。見ての通りこの記録、彼女達の名前でびっちり。

 

 

別にこのダンジョン、ボスであるバサクさんを倒さなくとも脱出は可能である。加えてバサクさんに挑んだ場合でも、彼を満足させれば超がつくほどのレアな宝物と共に帰りの道が開かれる仕組みとなっている。

 

 

だが……。この勇者パーティー、そのどちらも選んでいないのだ。道中の宝箱や魔物兵からアイテム等を入手こそすれ、それを持ち帰ろうとするような素振りはまるでない。

 

 

ではどうしているのかというと……なんとそれら全てを道中の敵を蹴散らすため、またはバサクさん相手に用いているのである。それはまさしく、バサクさんを討伐することしか考えていないような動き。

 

 

いやそれどころか……バサクさんが満足して帰そうとしても拒否し、復活魔法陣送りとなるまで毎回戦いを止めないのだ。

 

 

そして蘇生後、すぐに装備を整えてリベンジにやってくるという有様。復活代金やアイテム類の費用も馬鹿にならないだろうに、またやられて、また来ての繰り返しを……。

 

 

あ、でも。彼女達がメインで使っている装備類は一緒に復活魔法陣へ送られているらしい。かなりの高等魔法だし、その装備類も何かしらの加護が付与されている輝きが見て取れる。

 

 

バックにどこかの王がいるとマネイズさん(中級者向けの依頼主)が言っていたし、相当の支援がなされているのだろう。……でもなんで彼女達にこんなことを?

 

 

 

 

 

 

「そう言ってくれるのは嬉しいがよ、ミミン。あいつらの攻撃、やけに痛くてなぁ……」

 

 

――と、バサクさん、社長の言葉に申し訳なさそうに(かぶり)を振り、身を擦る。相手の武器は加護付き武器。それも当然なのだろうが、どうやらそれだけではなく……。

 

 

「特に勇者のあいつのがよ! 割り増しで痛えのなんの! 見ろこの全身の傷! 全部あいつにつけられたもんだ!」

 

 

「えっ!? それ古傷じゃなかったんですか!?!?」

 

 

……っあ! ついびっくりし過ぎて口に出て……! けどバサクさんは嫌な顔せず、傷をベシベシ叩いてみせた。

 

 

「そうなんだよアスタロトの姫様! オレ様も結構な痛みに慣れてると自負があったんだが……あれは別格だ。骨身に染みるどころか食い破ってきてんのかってぐらいの痛みでよ! 一度復活してみても消えやしねえ!」

 

 

存外楽しそう……。――えぇと、どうやらあの勇者には『魔物特効』と呼ぶべき特殊能力が備わっているらしいのである。しかも日に日に強化されていっているみたいで…ここまでの破竹の進撃も納得できてしまう。

 

 

「せめて時間があれば治せんだが……あいつら、その暇すらくれねえんだ。どうやらオレ様を倒して魔王城への道を開きたいみたいでな。鬼気迫るモンを感じるぜ!」

 

 

「あー。初代魔王様からそういう取り決めですもんね~。魔王としての強さと余裕を示すためとかなんとかで」

 

 

うんうんと頷く社長。私もそういえばと思い出した。確か…全ての魔王軍ダンジョンを攻略すれば魔王城へのワープ魔法を入手でき、その魔王城も攻略し晴れて魔王様を打ち倒すことができれば世界の半分……つまりは魔界を手の内にできるという魔王一族の誓約が存在するのだ。

 

 

最もそれは社長の言う通り、魔王様が有する戦力あるいは御当人及び魔物達の実力を誇示するためのPR()()()。……というのもそれはかなり古い話で、今はほぼ形骸と化しているのである。

 

 

とはいえ誓約は誓約。取り決めは取り決め。勇者パーティーは少なくともそれを活用し魔王城へ突入することを目的としており――。

 

 

「マオったら…! きっとバサクさんの心配だけじゃなく、不安になっちゃったのね……! ふふっ、こんな子達に負けるタマじゃないでしょうに」

 

 

ボソリと呟く社長。恐らく魔王様はそれをなんとか避けるために、我が社に前例のない依頼をしてきたのだろう。だって―――。

 

 

「だから頼むぜミミン。オレ様が回復するまでの間、お前のとこのミミックにこの最奥の間を託してぇんだ!!」

 

 

 

――()()()としての抜擢なのだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、まさかまさかの依頼の正体はそれ。治癒に専念するバサクさんに代わり、一時的にダンジョンボスを務めて欲しいというものである。

 

 

何分、あの勇者パーティーに対抗できる兵は既にこのダンジョンにはいない。かと言って他から呼んでくるにしてもバサクさんに比肩しうる実力者は少なく、次の事態(魔王城到達)も想定しておかなければならないため、無暗に派することもできないのだ。

 

 

そこで選ばれたのが我が社。なにせ……。

 

 

「なんでかあいつら、やっけにミミックに対して過敏でよ。よっっぽど痛い目に遭ってんだろうなぁ」

 

 

丁度流れている勇者パーティーの戦闘記録映像を眺めつつ、しみじみ口にするバサクさん。そこには彼女達による、宝箱等のミミック潜伏場所に対しての過剰反応が映し出されている。

 

 

中級者向けダンジョンでもそうだったのだが……このパーティー、やけにミミックを警戒しているのだ。恐らく、いや、間違いなく彼女達はミミックへのトラウマ持ち。

 

 

実際にミミックにやられた記録も相当数存在しており、経験を積んだ今となってはそれも無くなったようだが、それでもああして足止めにはなっている。よっぽどミミックが苦手なようで。

 

 

そしてそのミミック嫌いに気づいた魔王様が、難敵の弱点を突くために依頼を出してくださったのである。勿論、我が社の回答は――。

 

 

「勿論、お任せくださいな! だってマオとの約束ですもの!」

 

 

「既に箱選、もとい人選は済んでいます! バサクさんには劣りましょうが、彼女達を打ち倒せる我が社の精鋭を派遣させて頂きます!」

 

 

社長と私、揃って胸を叩く! それを見たバサクさんは高らかな笑いを。

 

 

「ウアッハッハッ! そりゃあ頼もしいぜ! ――で、精鋭ってどんな奴らだ?」

 

 

「ふふふ~! 気になりますよね~! 気になっちゃいますよね~?」

 

 

バサクさんの問いにニヤニヤで引っ張る社長。そのまま私へ指示を。

 

 

「じゃあアスト! 準備して!」

 

 

「は、はいっ!!」

 

 

返事をし、深呼吸をして私は魔導書を取り出す…! そして、バサクさんと相対するように立って……!

 

 

「お???」

 

 

首を傾げるバサクさん。そんな彼に社長は満を持して……!

 

 

 

「ではその確認のため、アストと戦って頂きま~すっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよ!? 良いのかおい!! 良いんですかいアスタロトの姫様!!?」

 

 

何故、とは一切聞かず沸き立つバサクさん。それを社長はどうどうと宥めた。

 

 

「でも、手出しはしないでくださいね? 正しくは『アストの魔法の腕を確かめる』だけです! もし変な事したら…マオに密告しますよ~!」

 

 

「おっとぉそりゃ勘弁だ! まあでも安心してくれ! よもやアスタロトの姫様を傷つけるなんて気、さらさらねぇからよ!」

 

 

そう笑いつつ、バサクさんはよいせと立ち上がる……! わわ……! 更に巨大に……!

 

 

「けど実はよ、アスタロトの姫様。その魔力の密度、気にはなってたんだ! なんとか頼み込んで一戦交えて貰おうかとは考えててな!」

 

 

渡りに船と言わんばかりに目を輝かせ、彼は構え――!

 

 

「ここは魔王様が暴れても簡単には壊れねえ! 全身全霊を頼んまさァ!!」

 

 

「えぇ! 失礼します! 『我が分身よ、眷属よ、召喚獣よ。呼び声に応えよ――!』」

 

 

 

 

 

…ちょっと前に、実家の練兵所で件の衛兵長と模擬戦を行った。その際、幾多の分身、幾多の眷属、幾多の召喚獣を呼び寄せたが……――。

 

 

――その比では、ない! あの時は練兵所を壊さないよう、衛兵長に無用な傷を負わせないよう、手加減をしていたのだ。だが今回は上級者向けダンジョンの最奥の間で、あのバサクさん相手!

 

 

アスタロトの名を、会社の面子を、社長の沽券を背負って、全力で挑む!!! 多分私の本気程度、簡単に受け流されちゃうだろうけど……!

 

 

あの時と同じように、戦闘モードの私の分身体、武器を手にした下位悪魔達、唸りをあげるヒュドラ、ガーゴイルや妖精、竜牙兵(スパルトイ)……! 更にケルベロス、キマイラ、ドラゴン……!

 

 

更に更に……! アルラウネ、ヴァンパイア、エルフ、ミノタウロス…! ハーピー、アラクネ、ケンタウロス、ゴーレム……! 他にも沢山! かつて依頼をくださった方々の種族を、召喚体で!

 

 

その総数、衛兵長相手の時の二倍、ううん、三倍、四倍、五倍……もっともっと!! この広き最奥の間の埋め尽くす勢いで、バサクさんを取り囲んで!

 

 

「こりゃあ……すげえな!! ここまでたぁ!」

 

 

驚いてくださるバサクさん。けど――、やっぱりそれだけにはとどまらない! 今度は……これも使う!

 

 

「おぉ! 魔法石か!」

 

 

そう! ウインドジュエル、フレアジュエル、アースジュエルなどなど! ダンジョンから頂いたものや自分で集めておいたものまで! それを……!

 

 

「『秘めたる属性の力よ、その全てを我に捧げ、彼の者を滅する魔の法撃へと姿を変えよ――!』

 

 

 

 ―――パキキキキィン!!

 

 

 

全て、砕け散るまで行使! やはりあの時とは規模も数も違う、濤水の、暴風の、灼炎の、重土の…!轟雷の、絶氷の、爆破の、光線の……数多もの殲滅魔法を形成!!

 

 

「おぉおぉおぉおぉおぉ……! マジかよおい……!」

 

 

そんな色とりどりのそれを、召喚兵達と同じくバサクさんを囲むように!!! ふふ…! これはまるで……!!!

 

 

「花束? いやオーロラ? 虹みてぇにも見えんなぁ! こりゃあ綺麗だ! アスタロトの姫様の如くってな!」

 

 

その通り! ……って、バサクさん結構余裕そう? なら……威力で驚かせる!

 

 

「ではバサクさん、ぶつけさせて貰います! 私の、全身全霊!!」

 

 

「ウアッハッハッアッ! 来い、アスタロトの姫様ァ!」

 

 

 

 

 ――――カッッッッッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

「……ゲホ…」

 

 

ふぅ……ふぅ…………。……本気を……。

 

 

「ガフ……」

 

 

出せる限りの本気を出した……! 魔力の消費し過ぎで、床にへたり込んでしまうぐらい……!

 

 

「…………ヵ……」

 

 

社長でも、ううん、自分自身でも見たことの無いぐらいの召喚兵と攻撃魔法を駆使し、全てをぶつけた! …………けど……。

 

 

「…………ゲホ」

 

 

けど……けど…………!

 

 

「……――ゲホゲホゲホ! くぁあああああ……! 効いたぁ!!」

 

 

全く、効いてないっ!!!!!!

 

 

 

 

爆炎と濃煙の中からのっそり姿を現したのは……ほぼ無傷のバサクさん!! 私の全力程度簡単に受け流すと思っていたけど……まさかここまでなんて!

 

 

いや、というか……受け流しもしていなかった! 全ての攻撃をわざと食らっていた! 直撃を受けていた! その上で()()って……!

 

 

「いやぁ、御見それしたぜアスタロトの姫様! ウエッホッ! この火力、バエル(魔王軍総帥)の姫様に匹敵してやがる! ゲフハッハッ!」

 

 

未だ咳き込みつつ、煤や汚れを払いながらバサクさんは豪快に笑う……。私は思わずポツリ。

 

 

「でも、ほとんどダメージが無いみたいですけど……。なんで……」

 

 

「んあ? 結構食らってんだが……。まあ強いて言えば、実戦経験が少なさ故に効率的な攻め立てができていないってとこか! 言うてもオレ様の部下総掛かりでも勝てないだろうよ!」

 

 

なるほど…。要は私が戦いのコツを知らなかったから、らしい。確かに幾ら一撃一撃が強くても、効果の薄い所ばかり狙ってしまえば無意味……!

 

 

「勉強になります!」

 

 

「よせやい! アスタロトの姫様にまでそんな力をつけられたら、オレ様達はおまんまの食い上げだぜ!」

 

 

照れ隠しのようにまた笑うバサクさん。……こんな方に幾つもの傷をつけ疲労困憊にさせるなんて、勇者の魔物特効の恐ろしさが窺える。

 

 

そしてそれ以上に、かつて倒してのけたという社長の……!

 

 

 

「よーし! じゃ、つぎ私の番ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉお!? マジか!? 大盤振る舞いだなぁおいッ!!!」

 

 

先程以上にテンションが跳ね上がるバサクさん! 社長は腕をくいくい伸ばしながら私のところに。

 

 

「ところでアスト、大丈夫? 動ける?」

 

 

「はい、回復薬は幾つか持ってきていますので。端でバリアを張って観戦させて頂きます!」

 

 

「そ! でも、危ないと思ったらすぐに外に逃げてね!」

 

 

ということで私は避難し、自分の周囲にバリアを。それも、社長達の姿がほぼ見えなくなるぐらい多重に。社長曰くこれぐらいは必要らしい……。

 

 

「バサクさんは回復しなくて良いです?」

 

 

私の準備が終わったのを確認し、バサクさんへ問う社長。すると――。

 

 

「いやぁ……必要ねぇ…!」

 

 

申し出を断って……えっ!? 全身が…更に肥大化!? ううん、隆起していっている!?

 

 

しかもそれに伴い、私がつけた傷が治っていって……! それだけじゃなく、勇者パーティーにつけられた傷すらも一部……!

 

 

「おめえと戦えると思うと、全身から力が湧き出して止まらなくてよォ…! クアハハハァッ!!」

 

 

……治癒に専念するより、強い相手と戦った方が早く治るのでは……? いや、黙っておこう……。

 

 

「本気で頼むぜェ、ミミン!」

 

 

「もっちろん! そうじゃないとやられちゃいますもの!」

 

 

空間が揺れるほどの闘気を溢れ出させるバサクさん、そして大量の揺れる触手を宝箱から溢れ出させる社長……!

 

 

今まで幾度か社長の闘いを見てきたけど……ここまでのはそうはない…! 私、無事でいられるかな…。やっぱり外に退避した方が――。

 

 

「いくぜェ!」

 

「いきますッ!」

 

 

っ! 始まって……――。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ッキッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え。え……!? 嘘……!? 今の一瞬で……張っていたバリアが一枚残して全滅!?!? ちょ…ちょっ!? 急いで張り直してと……!

 

 

「ッッッラァアッッッ!!」

 

「なんのっっっっっっっ!!」

 

 

 

 

 ――――ッキッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!

 

 

 

 

ってまた割れて!? 待っ…! 何が……!?

 

 

「カァアッ! 吹き飛ばすことすらできねえってな! えげつねえぜ!」

 

「っと! 何が衰えた、ですか! 寧ろ強くなってますよ!」

 

 

うそぉ……!?  あれは……ただの、ぶつかりあい!? バサクさんは全力で腕を引き、社長目掛けて拳を振るって! そして社長は…それに応えるように空中へ跳ね上がり、止めて見せてる!?

 

 

これが……お二人の本気…!! ただの衝撃波だけで離れたところにいる私の多重防壁を軒並み砕く一撃を繰り出したバサクさん……! その直撃を受けているのに、空中に縫い付けられたかの如く動かず止め切った社長……!

 

 

……マズいかも…! この後の展開次第では、私の方が復活魔法陣送りに……!

 

 

「どりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

「ウアハッハッア!」

 

 

って、そんなこと気にしてる間に次のぶつかり合いに! 今度は社長が仕掛けている! 先程も溢れ出させていた大量の触手を鞭みたいに……且つ、鋭刃の如く振り回して!

 

 

だってそれで、私の魔法の残骸である岩とかが巻き込まれて切断されまくっているのだもの! まるで柔らかなバターの如く! うわもう細切れ…砂になってる!

 

 

けど…肝心のバサクさんには無数の掠り傷がつくだけ…! いくらガードしているからって……!

 

 

「硬ったぁい! 腕、切り落とそうと思ってたのに!」

 

 

「ケッ! こちとら本気で肉を固めてんのによ! 傷まみれだぜ!」

 

 

……双方、恐ろし過ぎる……! これが最強格同士の闘い……って、あれは!!

 

 

「――(しず)かなること、『箱』の如く。動かざること、『箱』の如く――。」

 

 

以前訪問した『虎穴道城ダンジョン』の主、コチョウさんの必殺技! その社長バージョン! ということは……!

 

 

「――(はや)きこと『箱』の如く――!」

 

 

社長の姿が消えた! そしてバサクさんを不可視の一撃が……――!

 

 

「そこだァ!」

 

「わっ!?」

 

 

えっ!? バサクさん、急にあらぬ方向へ手を……! 社長を捕まえたの!? 中身を潰さんばかりにギリッと握りしめられた彼の拳の内から、社長の声が!

 

 

「やっぱり模倣しただけじゃ駄目ね…!」

 

 

「いやあ? よくできてるぜ! だがよ、あいつとはオレ様も知り合いでな! 強いヤツは大体友達ってヤツだ!」

 

 

「ふふっ! なるほど、それじゃあ見破られて当然ですね!」

 

 

わっ…! バサクさんの拳の中から社長がにゅるりと! そして目にも止まらぬ速さで触手を彼の身体に纏わりつかせ……!

 

 

「じゃあこんなのはどうでしょう! せーー……やあっ!」

 

 

「のあッ!?」

 

 

ええぇえぇ……!? 私の全力でもほぼ不動だったバサクさんの巨体が…持ち上がって!? そして……振り回されて!?!? 

 

 

「せーやせーやせーや! せーぇりゃあっ!」

 

 

「どああああッッッ!?」

 

 

 

 ―――ドゴシャアアッ!!

 

 

 

社長を中心にグルングルン振り回されたバサクさんは……思いっきり地面に叩きつけられて! でもやっぱり……!

 

 

「ウアッハッハッ! まさか持ち上げられて、投げられちまうたぁな!」

 

 

ダメージほぼ無し! 社長もそれが当然のように……!

 

 

「まだまだ行きますよ~!!」

 

 

平然と継続! まだまだ熾烈な戦闘がこれでもかと続いて……! どうしよう、このままだと持ってきた魔力回復薬も底をついて、バリアが張れなく……――!

 

 

「ウゥフゥウ……! そろそろ決めるかァ!」

 

 

「望むところぉ!」

 

 

――ひっ…!? バサクさんも社長も、力を溜めてる……チャージしてる! これは本当にマズいッ!

 

 

魔力も残り少しだし、ただのぶつかり合いでバリアがパリンパリン割れてるのだもの……! ここに居たら間違いなく死……!

 

 

た、退避!!! 最奥の間の外に退避!!!!! 

 

 

 

 

 

「―ふぅ……!」

 

慌てて入口扉から抜け出し、背を向けたまま一息…。なんとか発動前に逃げられて良かった……。

 

 

それに、脱出際に映像転送のできる召喚端末を置いてこれた。バリアも纏わせて。これで安全に観戦ができる!

 

 

まあ…多分保たないだろうけど。それはもう仕方ないから、せめてぶつかり合いの瞬間だけでも見させて頂こう!

 

 

どれどれ…! ――あ、丁度双方動い……眩し!? 光っ……――!?

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ッッッビギイッッッッッッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

…………へ……? え……? ―――っっ!?!?!?

 

 

うそ……! 噓噓嘘!!!? 違う、最奥の間内の映像じゃない! それは予想通り破壊されて切断された!

 

 

そうじゃなくて……私の背後! 最奥の間の壁! ヒビが……()()()()()が入っている!! 魔王様が暴れても簡単には壊れないという、壁が!!!

 

 

一体、どんなぶつかり合いが!? 光に包まれた映像の中で、一体何が!? と、とにかく中に……!

 

 

 

先程逃げ出た以上に早く、急いで最奥の間へ! 決着はついたのか、それとも――……あっ!?

 

 

「ふふふ~! さ、バサクさん! 次はあの時のリベンジをどうぞ!」

 

 

「くぅッ…! こ、このッ……!!」

 

 

最奥の間中央で、社長とバサクさんが掴み合い……いや、違う! 社長が、バサクさんの拳を()()()()()()()()()()()()!!? 

 

 

 

「そーれそーれ!」

 

 

「ぐぅっ!? くっ……どァアアッ!!」

 

 

しかも……私が茫然としている間に、社長はどんどんバサクさんを引き込んでいって……! 拳だけでも社長を簡単に上回るバサクさんの身体が、ぐいぐいぐいっと箱の中に……!

 

 

勿論バサクさんも必死に抵抗している。けど、地面に置かれているだけのはずな社長はビクともしない! あぁ……!バサクさんの肘が、肩が、もう片腕が……! そして……――!

 

 

「ぬ……う…ウぅ……!!」

 

 

「どっこいしょっーー!!」

 

 

「ぬわぁあああああっっ!?!?!?!?」

 

 

完全に小さな宝箱の中にすっぽり! 即座に蓋が閉じ、まるで中に誰かがいるかのように(実際いるのだけど)バッタンガッタンドッタンと暴れまくり…………――。

 

 

「……静かに…なった……?」

 

 

急にシーンと制止を。先程までとは打って変わり、場には宝箱がポツンと置かれているだけな感じに。私が恐る恐る近づいていくと……。

 

 

 ―――パカッ!

 

 

「ふーーっ!」

 

 

これまた急に蓋が開き、中から社長が登場! ……でも、それだけで……え……?

 

 

「あの社長……。バサクさんは……?」

 

 

「ん? 多分すぐに戻ってくるわよ!」

 

 

戻ってくる……? どういう……あ、最奥の間の壁が一部開いて……。

 

 

「ウアッハッハッ! 参った参った! やっぱり抵抗すらできやしねえ!」

 

 

そこからバサクさんが!? もしかして……!

 

 

「社長、バサクさんを復活魔法陣送りに!?」

 

 

「そーよ!! あー疲れた! アストぉ、膝貸してぇ~」

 

 

箱から身体をべろんとはみ出させ、私の膝枕に顔を埋める社長。うん、全身傷一つない……。と、バサクさんも社長の近くに来て、よいせと腰を降ろした。

 

 

「いやぁ、何度やっても勝てねぇなあ。おめえにも、魔王様にも、オルエのヤツにもよ!」

 

 

「何度もって…。それに魔王様やオルエさんとも闘いを…?」

 

 

「おうさ! けどよ、魔王様相手の時は魔法の波状攻撃で全く動けずに負け、オルエ相手の時はチャームで幻想の自分自身と戦わされて負けてよ。オレ様、一勝もできてねえぜ!」

 

 

爆笑するバサクさん。本人がこの調子だから良いのだろうけど…。げに恐ろしきは社長達。『最強トリオ』は伊達じゃない……。

 

 

――と、ひとしきり笑い終えたバサクさんは、ふと首を傾げた。

 

 

「そいやぁ、なんで戦わせて貰えたんだ? ミミンだけじゃなく、アスタロトの姫様とまで?」

 

 

 

 

 

あ、今ようやく……! 実は、理由が…伝えたいことがあったのだ。わざわざ闘いの形式にしたのは、バサクさんがそれを好むし理解しやすい&どうせ闘う羽目になるから先手を打っただけなのである。

 

 

なに、伝えるべきことは至って簡単。先に社長が引き伸ばした通り、派遣する子達のことで……。

 

 

「よっと!」

 

 

あ、社長が飛び起きた。そして満面の笑みで私と顔をぎゅっとくっつけ――。

 

 

「この私、ミミンと! はい、アスト!」

 

 

「はい! 私、アストが()()()()()()()()精鋭ミミックが!」

 

 

そして今度は2人で揃って……!

 

 

「「ミミック嫌いの勇者パーティーに、更なるトラウマを刻みつけてみせます!」」

 

 

……手筈通りとはいえ…ちょっと恥ずかしい……! あ、けどバサクさんはまたも高らかに笑みを。

 

 

「ウアッハッハッハッ!!! そういうことか! なるほど、そりゃあ期待大だ!!」

 

 

良かった! では改めて! 本来は潜み奇襲を仕掛けるミミックが、面と向かっても強いということ、彼女達に教えて差し上げよう!

 

 

 

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