ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 とある上級勇者の冒険Ⅰ 

 

あ。 おひさ。 私の事、覚えてる? そ、『勇者』ユーシア。ユーシア・トンヌーレ。初心者向けダンジョンに続き、中級者向けダンジョンに挑んでいた――……。

 

 

……え。なんだかテンションがあの時と違って低め? たはは……。まあちょっとね。最近色々あって、疲れ気味なんだ。……いや本当は色々じゃなく、たった一つのことが原因なんだけどさ。

 

 

 

 

――コホン。あの後、私達は頑張った。またミミックにしてやられるものかと、経験値稼ぎにダンジョンに挑みまくった。王様から貰った加護付き武器と共にね。

 

 

それだけじゃない。各々で修行を積みもした。騎士のクーコさんは他の騎士の人達と演習を、魔法使いのアテナさんは魔法の勉強を。僧侶のエイダさんは教会で修行を。

 

 

そして私も魔物相手に戦う訓練を積んだ! そのおかげか、私の魔物特効?の威力は右肩上がり! 今やクーコさんも頼りにしてくれるぐらいのメイン火力で、しかもまだまだ上がるかもしれないって! どう? すごいでしょ!

 

 

で、そんなことを何度も繰り返してダンジョンを少しずつ少しずつ攻略していって実力つけて、とうとう制覇することができたんだ! ……へ? 魔王城への地図?

 

 

それがさ……。あれ、ガセだったんだ。そんなものどこの宝箱にも入ってなかった。必死で探したのに酷いよね! 苦労を返せって感じ! 何回ミミックにやられたと思ってるんだか!

 

 

あ、でも…。よくよく考えると、魔王城への地図はあったのかも。ほら、あのダンジョンって魔王軍が運営してるでしょ? ということは主である魔王が棲む魔王城への地図ぐらい、誰かが……。

 

 

……なんてね! というかよくよくよく考えてみたら、仮に地図をゲットできたとしてもどうすんだって話だよね。お命頂戴にお邪魔しますが通じるわけないんだから。

 

 

 

そんな理由でこの先どうしようかって感じだったんだけど……ある時、すっごい話を聞いたの! なんでも魔王軍のダンジョンを全部クリアすれば、魔王城へワープできるようになって、更に魔王への挑戦権が得られるって! 勿論、今回はガセなんかじゃない!

 

 

そんなことを聞いたらそれを目指すしかないよね! ってことで目標変更。全ダンジョン制覇を目指すことにしたんだ。

 

 

とは言っても初心者向けと中級者向けはもう全クリ済み。だから残るは上級者向けダンジョンだけ! そしていざ挑んでみたんだけど……びっくり! 道中の魔物相手程度ならほいさっさと片付けられちゃう!

 

 

全く、新米の頃から比べるとすんごい進歩だと自分でも思う! ううん寧ろ、あの頃の気楽さにちょっと戻れたって感じかも。初心者向けダンジョンに通っていた頃に。

 

 

あの時は私も一人だったけど、大体の魔物が弱かったから無双できてたもの。手を焼いたのはあの魔物ぐらい。そう、ミミッ……――くぅっ……ぁ…ゥ…!

 

 

 

ッう……ふぅぅっ……。すぅっ……ふぅ……。……ううん、落ち着いて、私。ミミックなんて怖くないんだから。恐ろしくないんだから。克服したんだから……。

 

 

そう、克服したの……! 私も、クーコさんも、アテナさんも、エイダさんも……! 二度とミミックに引っかからないために必死に特訓して、実践もして、それぞれ対策を身につけたんだから!

 

 

それに私は、とある『能力』を身につけもした。そのおかげでここ最近はミミックにやられるどころか、返り討ちにできるようになったんだからぁっ!!!!!

 

 

 

 

 

――はぁ……はぁ……。うん……テンションがおかしくなってるの、自分でもわかってる…。ぶっちゃけ、最近あんまり寝れてなくて……。

 

 

まあその『疲れ気味の原因』のせいなんだけど……。……あれ、どこまで話したっけ……?

 

 

 

 

あぁ、そうそう。いざ上級者向けダンジョンに挑んだら、思ったよりも楽に進めてたって話。皆強くなったから、思ってたよりも苦戦はしなくて。

 

 

とは言っても迷路みたいな道とか、明らかに殺しにかかって来てる罠とか、あくどく隠れている魔物とか、折角見つけた宝箱に潜んでるミミッ……なんでもない!

 

 

とにかく!! そんな面倒な点はあるけども、沢山の魔王軍ダンジョンを制覇してきた私達にはちょろいちょろい! あんま手間をかけず、最奥の間にまで辿り着いたってわけ! ……で。そこからが問題のとこでさ……。

 

 

その最奥の間にはボスがいたんだけど……そいつがとんっっっっっっっでもなく強くて! 超デカいし、ムキムキだし、ほとんどの攻撃効いてないっぽいし、パンチ一発でこっち壊滅しちゃうぐらい!

 

 

余裕かと思ってたら急にそんなのが出てくるなんて反則じゃない!? 勿論勝つことなんてできなくて、挑む度に復活魔法陣送りにされちゃってるの!

 

 

まあ王様がくれた装備はやられても一緒に戻ってくるし、失ったアイテムも王宮が補填してくれるし、復活代金も支払わなくて良いからある程度は気楽だけどさ。代わりに毎回王様の『死んでしまうとは~』云々の嫌味を聞かされるけどね。

 

 

 

……そんな強い相手ならば、他の上級者向けダンジョンから挑めば良いって? 確かにそうかもしれないけれど……。他もこれぐらい強いかもしれないし、そうじゃなくても逆にここを倒せたら後が楽じゃない?

 

 

なんてね。その考えもあるっちゃあるけど、下手に色んなとこに手を出して攻略法がわけわかんなくなるよりは一点突破の方がいいかなって。どうせ倒さなきゃいけないんだから。

 

 

それに、とあるメリットもあって。何度も何度も挑んでいたら、なんとそのボスの硬ったい身体に傷が増えていってるのに気づいたんだ。私が負わせた傷だから、魔物特効の力なんだと思う。

 

 

しかもそれは簡単には治らないっぽくて、次挑んだ時もその次挑んだ時も残ったままだったの。ボスもなんだか弱り出してる感じだったし。

 

 

つまり……このままじわじわと削って行けば、いずれ倒せるかもしれないってこと! だから最近は毎日、時には一日に何回も挑んでいるんだ。

 

 

その甲斐はあるみたいだし……もしかしたらあとちょっとで、ううん、今回で倒せちゃうかも! だから今日も、この上級者向けダンジョンにレッツゴー!!

 

 

 

…………空元気っぽいって? 言わないで、結構必死なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――まあそれはともかく早速ダンジョン内へ。さて、まずは攻略しないと。最奥の間にたどり着かなきゃ元も子もないし。

 

 

でもさっき言った通り、魔物相手は大分楽勝で、迷路や罠はちょっと面倒って言う感じ。だからそこそこ警戒しながら進まなきゃ――なんて言ってたらエンカウント! 五体!

 

 

「クーコさん! アテナさん! エイダさん!」

 

 

「あぁ!」

「えぇ!」

「はい!」

 

 

即座に号令を出し、戦闘態勢へ。みんなも即座に展開し――。

 

 

「攻めの力、『パワーブースト』!」

 

「主よ、我が友に盾を! 『ホーリー・シールド』!」

 

 

アテナさんとエイダさんが詠唱で強化バフを。間髪入れずに!

 

 

「「はぁあッ!」」

 

 

私とクーコさんが突撃! 目だけで速やかに策を共有し……今回は各個撃破!

 

 

「「グェァッ…!?」」

 

「「グハァッ!?」」

 

 

ほいさっと! それぞれ二体ずつをスパッと。まあこんなもんかな。相手は奇襲する気が逆に速攻しかけられてびっくりって顔してるけど。

 

 

あと一体残ってる? あぁ大丈夫。多分――。

 

 

「燃え尽きよ! 『ブレイズシュート』!」

 

 

「ボアァッ!!?」

 

 

ほら、アテナさんが火炎魔法で倒してくれた。これにて一丁あがり。慣れたものってね。

 

 

さ、先を急ごう。罠にひっかからないように気をつけなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほいさ、ほいさ、ほいさっさと! こっちは片付いたよ!」

 

「あぁ、こっちもだ。アテナ、エイダ、援護感謝する」

 

「ふふ、援護なんて必要なさそうな動きでしたよ」

 

「ですね。怪我も全く無くて素晴らしいです!」

 

 

罠を避けて、迷路でちょっと迷って、遭遇した魔物を軒並み撃破して。うん、今日も好調好調。危なげない感じ。

 

 

やっぱり色々鍛錬を積んだから、みんな良い動きしてるんだもの。まず、クーコさんは……。

 

 

「束になれば敵うと思うか! 『クレセントエッジ』!」

 

 

「「「「「「「「「「ガッ…」」」」」」」」」」

 

 

元々私達の中でも最強だったけど、更に輪をかけて強くなってる。上級ダンジョンだってのに当然の如く一人で範囲殲滅しちゃうぐらい。本当に援護要らないかも…なんてね。

 

 

変わらず作戦もよく立ててくれるし罠にもいち早く気づいてくれるし、時には私の露払いや盾役もやってくれる。まさに最強オブ最強の格好いい騎士様!

 

 

 

 

お次はアテナさん。彼女もかなり強くなった。さっきみたいな強化魔法を色々使えるようになってるし……。

 

 

「周囲は任せてください! 連鎖せよ――『チェインエクスプロード』!」

 

 

「「「「「バハァッ!?!?」」」」」

 

 

攻撃魔法の威力も申し分なし。前までは基本後方からの支援だけだったのが、私やクーコさんと肩を並べることだってあるのだ。頼りになるぅ!

 

 

そうそう。アテナさんが大好きな『A-rakune』ブランドの服なんだけど……王様から装備を貰っちゃったから魔導士のローブとかはあまり着れなくなっちゃった。けど、やっぱり下着とか靴下とかはそれで固めてる。それなら復活魔法陣送りになっても残ってるしね。

 

 

そしてなんと、クーコさんとエイダさんもその『A-rakune』ブランドの着用者に! 今やみんなのお気に入りなんだ! ふふっ、アテナさんと私の2人がかりで布教した甲斐があった!

 

 

 

 

そして最後はエイダさん。多分、彼女が一番成長してると思う。だって元々教会のシスターだったのに……。

 

 

「治癒の力をこの場に! 『リジェネ・サンクチュアリ』!」

 

「回復の御加護を! 『ハイエロファント・ヒール』!」

 

「穢れ無き身へと! 『リカバリー・ディスペル』!」

 

 

防御魔法に加え、範囲継続治癒魔法、急速大回復魔法、状態異常解除魔法……! ヒーラーとしての実直が開花しまくってるの! しかもそれだけじゃなくて……。

 

 

「エイダさん! ごめん、そっちに一体行っちゃった!」

 

 

「お任せください。我が祈り、矢へ転じよ――『セイント・アロー』! はっ!」

 

 

「オッ!?」

 

 

「どうか、お静まりを――。『グレイス・スリープ』」

 

 

「ウッ…………グゥ…スピィ……」

 

 

あんな感じで、戦いもできるように! 眠らせて無効化も! アテナさん曰く、『どのパーティーからも引く手あまたになる』ぐらいには強くなってるんだって。凄い凄い!

 

 

 

 

――あ、そうそう。覚えてるかな? 忘れてくれててもいいんだけど……。クーコさん達、それぞれ怖がってた魔物がいたの。

 

 

クーコさんはサキュバスを見るたびに身体をえっちな感じにビクンってさせて、アテナさんはアラクネを見るたびに攻撃を控えてしまって、エイダさんは骨の魔物と蜂の魔物を見るたびに持ってきていた聖水瓶を手当たり次第に投げまくっていたんだけど……。

 

 

それもだいぶ収まったんだ。完全に、じゃないけど…少なくとも戦闘に差し支えないぐらいには。ほんと、良かった。

 

 

…………え。じゃあ、私はどうかって…? というより、ミミックに関してはどうかって…!? 

 

 

 

 

っ……確かにミミックは私だけじゃなく、みんなのトラウマになってる。パーティーを組む前から、ずっと。

 

 

けど、さっき言ったでしょ。克服したって。対策もあるって! そんなに気になるなら……実際にミミックを相手どるところ、見せてあげる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こいつが、そうなんだな? ユーシア、アテナ?」

 

 

ダンジョンのとあるところ。私達は宝箱を前に武器を構えている。目をその宝箱から離さず聞いてきたクーコさんへ、私もアテナさんもコクンと頷いた。

 

 

「うん、間違いないよ…!」

 

「えぇ、『反応』がありますから…!」

 

 

そう言うアテナさんの杖先は、危険を示すかのように赤い光がピカピカ。さっき、それぞれがミミック対策を身につけた、って言ったでしょ? アテナさんの対策はそれ。

 

 

「私のこの『ディテクト』の魔法――『見破る魔法』は、相手の腕前や状況にそこそこ左右されてしまいますけど……光れば確実に何かが化けています!」

 

 

間違いありません! と言い切るアテナさん。クーコさんはそれに軽く頷き返し、今度は私達に守られてるエイダさんへ。

 

 

「エイダ、もしもの時は……」

 

 

「はい! 『リザレクション』の――『蘇生魔法』の準備、できております!」

 

 

本人が口にした通り。エイダさんが身につけたのは、なんと蘇生魔法。復活魔法陣送り……王様の元に飛ばされず、その場で即座に復活ができる凄い技。これでやられてしまっても問題なし。

 

 

「よし……! ユーシア……!」

 

 

後方二人の様子を確認したクーコさんは、またも私に合図を。もしもクーコさんが対処に失敗したら、刹那の内に私が手伝いに入るという約束なのだ。

 

 

「わかってますよクーコさん! ズバッとお願いします!」

 

 

私の用意も万端なのを受け、クーコさんは構えを変える。剣を大きめに振りかぶり、力を溜め――!

 

 

「シャ、シャアッ…!」

 

 

――あ! 宝箱が、もといミミックが、耐えられなくなって動きを! でも……もう遅い!

 

 

「食らえ、憎きミミック!! 『ボックス・ピアッシングカッター』ッ!」

 

 

僅かに開きかけたその宝箱を叩き潰し両断するように、クーコさんの渾身の一刀が!! ミミックの動きを凌駕する速度のそれは見事に……!

 

 

 

 

  ―――ザンッッッッ!!!

 

 

 

 

凄い音と共に、突き刺さった! けど……なぜか、宝箱外面には傷一つない!? あんな勢いの一撃を思いっきり受けたというのに!

 

 

――ふふふっ! なんてね。 安心して、だって……。

 

 

「グェァッ……」

 

 

断末魔を漏らし、宝箱は完全沈黙したんだから。それと同時に、アテナさんの見破る魔法の光もパッと消えた。流石クーコさん、倒したみたい!

 

 

何が起きたかわからないでしょ? これ、クーコさんがミミック対策として覚えた技らしいんだ。『鎧通し』の剣技をミミックのためだけに改造した、言うなれば『箱通し』の技。

 

 

即ち、『箱を貫通し、中身だけを叩き切る』ってスゴ技! 普通ミミックと戦う時は固い箱を避けながら中に攻撃をしなきゃいけないんだけど……その手間がないってことなの! 恐る恐る箱を開ける必要もなくなったから、その隙を突かれてやられることもなくなったんだ。

 

 

ただ少し問題なのが中身がアイテムだった時で……その場合は結構な頻度で壊しちゃうんだ。でもそんなことが無いように、私とアテナさんがミミックか否かを見定めてるってわけ。ま、最悪壊しちゃっても構わないんだしね。

 

 

どう? 完璧でしょ! これだけやればミミックなんか――……。

 

 

 

 

……へ? 私のミミック対策だけまだ聞いてないって? あー、そっか。()()()()もんね。実は……――。

 

 

「あら、こっちの隠れたところにも宝箱がございますよ!」

 

 

ん? エイダさんが別の宝箱を見つけたみたい。ちょっと説明は後でね! えーと……。……っ!!!

 

 

「『ディテクト』の反応、ありません」

 

 

「そうか。だがついでだ。『ボックス・ピアッシングカッター』!」

 

 

「わっ……! 何か割れてしまった音が……」

 

 

……私を余所に、宝箱の処理をするクーコさん達。するとパリンッと宝箱の中から聞こえたから、私も加わり細心の注意を払って開けると――。

 

 

「む…。やはり違ったか」

 

 

「これ、最高級回復薬ですね」

 

 

「ほとんど割れてしまいましたね……」

 

 

中には回復薬が詰まった数本の小瓶が。エイダさんの言う通り、クーコさんの技で端の方にあった一本を残して全滅しちゃってる。残ってるそれもヒビが……。

 

 

「少々警戒が過ぎたな……」

 

 

「いえ、するに越したことはないですよ」

 

 

「ですね。残っているのだけでも頂いてゆきましょうか」

 

 

一応私達は王様の命で…というか大臣さんの働きかけで必要なアイテム類は用意して貰えている。けどあればあるだけ楽になるし、ここのダンジョンのアイテムはレアで強い物ばかり。

 

 

だからボスを倒す時に使うため、こうしてちょこちょこ集めてから最奥の間に向かっている――ん、だけど…………。

 

 

「よし、じゃあ進むとしよう」

 

 

最高級回復薬の瓶を拾い上げ、みんなに号令を出すクーコさん……。 ――うん、多分そうッ!

 

 

「クーコさん、動かないでっ!」

 

 

「!? どうしたユーシ……!」

 

 

一息にクーコさんの元へ! そしてそれと同時に引き抜いていた剣をそのまま――!

 

 

「はぁっ!」

 

 

 

 

 ―――キンッ!

 

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

横一閃、切り抜いた! 当然だけど、クーコさんを切ったんじゃない。驚いてはいるけどね。私が狙っていたのは、そして真っ二つに両断したのは……クーコさんが手にしていた回復薬の瓶! ――もとい!

 

 

「ひんっ…!? な、なんで……!」

 

 

「「「なっ…!? 上位ミミック!!?」」」

 

 

 

そう! あれは回復薬じゃなかった! 半分に割れた瓶の中から、にゅるんっと上位ミミックが! そう、中にミミックが潜んでいたのだ! ()()()()

 

 

「なんでバレて……! 動いてすらいなかったのに…!」

 

 

「さあなんでだろね!」

 

 

慌てて宝箱の中へ逃げ込む上位ミミック。けど、絶対逃がさない! 蓋を弾き上げ、追撃!

 

 

「くぅっ……!」

 

 

おっと、触手攻撃いっぱい! でもさ――。

 

 

「――遅い!」

 

 

「ひっ!?」

 

 

それも全て弾く! こんな攻撃程度、もう捌けちゃう! で…トドメ!

 

 

「『ブレイヴスター・スラッシュ』!」

 

 

「キャンッ……!」

 

 

星を描くような高速剣技を上位ミミックの身体に叩きこんだっ!! ほいさっさっと、これにて一丁あがり!

 

 

 

 

 

 

「すまない、助かったユーシア…!」

 

 

「ううん、こっちこそごめんなさい。()()()()のに伝えるの遅れちゃった」

 

 

謝るクーコさんに謝り返し、私は宝箱傍の床から浮かびあがる()()を見る。……といっても、みんなには見えないだろうけど。

 

 

私のミミック対策……というかさっき言った『とある能力』、それがこれ。……あ、だから見えないんだよね。えぇとね、なんて説明するべきか……。

 

 

ずっとダンジョンにばかり潜ってたからかな、変な力が身についたの。なんというか……『過去にやられた冒険者のメッセージ』が見える力が。

 

 

……そんな変な目で見ないでよ。本当に刻まれてるんだから! 例えばこの宝箱のとこには、『中身違う、危険』って。他にも罠とか曲がり角とか隠し通路とかの手前で、誰かが残したかのような簡単なメッセージがあったりするんだ。『気をつけろ』だったり、『引き返せ』だったり。

 

 

うーん……あんま思いたくないんだけど、怨念と言った方が正しいのかも……。因みに、ミミック警戒のメッセージは特に多い気がする。私がミミック嫌いだからかもだけど…そうじゃなきゃ、みんなミミックに対して恨みを……?

 

 

 

ともかく、そんな能力が目覚めちゃったんだ。最も、ミミックは移動するし、メッセージが残されてない場合なんて幾らでもある。まあそこはアテナさんと補い合ってって感じで。

 

 

――あ、そうそう。その能力の副作用なのかな、篝火を見るたびに剣を刺したくなるようになっちゃったというか……剣が刺さってないと落ち着かないというか……変な気持ちになるようになっちゃった。なんでだろ。

 

 

 

ま、いいや! これで私達のミミック対策わかったでしょ? このままミミックを蹴散らしつつ、最奥の間にたどり着こう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ついた! あれ? なんか壁ヒビ入ってない?」

 

 

「ここに到着するのもだいぶ早くなったな。最後の休憩だ、いつも通り万全を期そう」

 

 

「お腹も満たしてから入りましょうか。火を起こして――」

 

 

「あ、ユーシアさんまた…! 剣を火の中に突き刺さないでくださいな!」

 

 

迷路を抜け罠を越え魔物達を倒し、今回も無事に最奥の間入口に。けど、入る前にボス戦準備と腹ごしらえ! お腹が空いてはなんとやら、って言うしね。まあすぐ死ぬかもしれないんだけどさ。

 

 

「――それにしても、さっきはユーシアさんに助けられました」

 

 

「えぇ、本当に。しかもユーシアさん、着実に強くなっておられますね」

 

 

「あぁ、世辞抜きで私に迫ってきている。いずれ超えるだろう」

 

 

「えへへ……!」

 

 

ここは安全だから、こんな風に駄弁ることもできちゃう。……でも、みんなから一斉に褒められるのはこそばゆいかも……! なんだか恥ずかしくて、ちょっと最奥の間の扉の方に目を……――!!?

 

 

「えっ……!?」

 

 

「? どうしたユーシア? ……!」

 

「何かありましたか? ……あ」

 

「そちらは扉では? ……もしかして!?」

 

 

私の顔を見て、みんなわかっちゃったみたい……! うん…その通り……!

 

 

 

「扉の前に……メッセージがある!!」

 

 

 

 

 

 

……ボスの部屋だから、怨念があって当然だって? それはそうなんだけどさ……違うの……! いつもと違うの!

 

 

確かに毎回幾つかメッセージは刻まれてるんだけど……今回の数はその比じゃない! たっくさん! それのせいで門に霧がかかったようにも見えるぐらい!

 

 

「なんて書いてあるんだ……?」

 

 

警戒を露わにしながら、クーコさんはそう聞いてくる……! えっとね……。

 

 

「『この先、注意』『いつもと、違う』『そんなのありかよ』『簡単、じゃなかった』『貪欲、なる者』『寧ろキツイ』『小さい、強い』『宝箱』『直接対決でも、強いのか』『諦めが有効』『引き返せ』他にもまだまだ……――」

 

 

「もう良い、ユーシア……」

 

「うわぁ……」

 

「神よ……」

 

 

クーコさん達がげんなりするほどの警戒メッセージの山……。一体何が……? なんかすっごく怖いんだけど……。

 

 

でも、ここで退くわけにはいかない。帰ることなんてできない。いつも通り万全の準備をして、挑むしかないっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『パワーブースト』『スピードブースト』『マジックブースト』……!」

 

 

「『ホーリー・シールド』『セイクリッド・ディフェンス』『ディヴァイン・バリア』……!」

 

 

アテナさんとエイダさんに出来る限りのバフをかけてもらいながら、私とクーコさんは武器や装備、アイテムの最終確認を。

 

 

うん、武器の刃は輝いていて、装備のズレやひっかかりもなく、回復薬とかは取り出しやすい位置にセット済み。今度は手や足を軽く伸ばしたり引いたりし、動きを確かめる。

 

 

よしよし…! バフのおかげもあって、とっても軽やか。無双できちゃうかもってぐらい。剣もシャキンと振ってみると…良い感じに冴えてる!

 

 

「全員、準備は出来たな? 突入するぞ!」

 

 

「「「おーーーっ!!!」」」

 

 

クーコさんの号令に、みんなで鬨の声を! そしていざ、扉を開け中へ! 先陣は私!

 

 

「たのもーうっ!」

 

 

ちょっとのドキドキを吹っ飛ばすように、敢えて声を張りつつノッシノッシと! ――そして、来るっ……!

 

 

「「「「………………あれ?」」」」

 

 

……おかしいな……。いつもだったら、ボスのでっかい魔物の『ウアッハッハッ!!』っていう、部屋の外に吹き飛ばされるレベルのでっっかい笑い声が響くのに……。

 

 

というか……へ……? え……あれれ……!?!?

 

 

「「「「いない!!?」」」」

 

 

 

 

 

どういうこと!? 最奥の間なのに、ボスの姿がどこにもない! あんな巨人みたいな大きさしてるんだから、見間違えることなんてないのに!

 

 

「えっと……バサクさーん! ……だっけ? どこですかー!?」

 

 

ボスの名前を呼びつつ、最奥の間内をうろうろ。けど……やっぱり返答はない。ガランとしてる空間のまま。

 

 

もしかして、ご飯休憩にでも行ってるのかな? だとしたら待つしか――……。

 

 

 

「ようやく来たのねー!」

 

「待ってました~~!」

 

 

 

!!? なに……!? 誰の声!? どこから!?!?

 

 

「――上だ!」

 

 

っ! クーコさんの注意に、全員即座に戦闘態勢! まさか頭上から襲って――……

 

 

「ぼっすーんっ!」

 

「ボスだけに~!」

 

 

……え。と思ったら、最奥の間中央部に何かがボッスンって音立てて落ちてきた……? いつものボスじゃないみたいだけど、あれは――……?

 

 

 

 

…………! ――――!?

 

 

 

 

 

 

――――!! ――――!?!?

 

 

 

 

 

 

 

――――!!!!!? ――――!?!?!?!?!?!?

 

 

 

 

 

「はーい、初めましてー! 今回はバサクさんに代わってー…」

 

 

「私達ミミック二人が、ボスとしてお相手しま~す!」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――………………………………。

 

 

 

 


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