ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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アストの奇妙な一日:グリモワルス女子会②

 

 

「もう……何で今回に限ってみんな揃ってるのだか……」

 

 

円卓(デビルスター)の一角…両隣にネルサ(レオナール家令嬢)メマリア(アドメラレク家令嬢)が腰掛ける席に座り、私は恥ずかし隠しに溜息を。メマリアが茶化した通り、遅刻魔の節があるネルサかベーゼ(エスモデウス家令嬢)なら来てなくても不思議ではない時間なのだ。

 

 

なのに、なんで今日は全員揃って……。バエル衛兵長にそのことを聞いた時、思わずちょっと固まってしまったもの……。

 

 

「にひひっ★ 良いもの見れちった!」

 

「アーちゃんの恥ずかしがる顔、甘そ~!」

 

 

そして二人ともここぞとばかりに…。遅刻してしまったのだから仕方ないのだが。

 

 

「ところで、何故遅れたのかしら? 聞いても?」

 

 

と、ネルサ達に遊ばれていたらメマリアが問いかけを。何故って……――。

 

 

「……少し、探し物があって」

 

 

「? そう?」

 

 

言葉を選びながらの私の回答に、メマリアは軽く首を傾げながらも引き下がってくれた。ほっ……良かった……。

 

 

だって、言えるわけないもの……! 家から出立する直前、()()()()()()()()()()を感じて、手当たり次第に探し回っていたなんて!

 

 

まあ結局見つからなかったのだけど。それにその分念入りに確認できたから、居ないということも証明できた。間違っても社長がこの場に現れることはないだろう。多分……。

 

 

 

 

 

「――コホン! ではアストもいらっしゃったことですし、改めまして! グリモワルス女子会の挙行を宣言いたしますわ~!」

 

 

そんな場を落ち着かせ、今回のホストたる責務を果たすはルーファエルデ(バエル家令嬢)。すると彼女、急に不敵な笑みを浮かべ……。

 

 

「そして皆様。今回、()()()()()()()()()がございますの。(わたくし)グリモワルス(魔界大公爵)の者として、とてつもなく重要な、ね」

 

 

今の内、心してくださいまし! と言い切るルーファエルデ。突然にそんなことを言われざわついてしまう私達だが、彼女は今度はクスリと笑みを。

 

 

「ですが、その御約束の時刻も暫し先のこと。ですので――」

 

 

そこで言葉を止め、傍に置いてある呼び出しベルを手に取りチリンとひと鳴らし。それに呼応し、幾つものティーカートやワゴンを引いた召使達が次々と室内へと……!

 

 

「――まずはいつも通り、楽しく語り合うといたしましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

流石バエル家の召使達である。我が家(アスタロト家)の召使達と遜色ない動きで紅茶を注ぎ、ケーキスタンドを設置し、円卓に乗り切らなかった菓子類やティーセットを私達それぞれがとりやすい位置に備え…って、この保温箱やサーブケース、我が社の…!

 

 

――あ、そうそう。このグリモワルス女子会、召使達は同伴しない。女子会だもの、第三者の目なんて必要ない。気心の知れた友人同士の姦しさに付き合わされる召使達も迷惑なだけであろう。

 

 

ということで、最初の準備こそこうしてやって貰っているものの、後は自分で。自ら紅茶を淹れ、自らスタンドに盛り、時には気に入ったお菓子を交換こ。悠々自適に好き放題行うのである。

 

 

因みに、最も好き放題するのがベーゼだったり。というかさっきも私が来る前からお菓子食べていたし。食いしんぼである彼女は毎回味見と称して(ゴネて)一足先にもぐついているのだ。

 

 

勿論、そんな彼女のために多めにお菓子を持ってきているから問題ない。もっと言えば、彼女が全部平らげてくれるのを期待して気になるものを片っ端から買ってきていたり……!

 

 

……やっぱり、ベーゼの身体、ちょっと羨ましい。どれだけ食べてもスタイル良いのだから。社長といい彼女といい、ズルい。

 

 

まあ【催事長】を継ぐ身としては、あれ以上に最適な身体は無いのだろうけど……――。

 

 

 

 

――そうだ。各一族の肩書について軽く補足を。要はそれぞれの役職の長であることを示すものである。

 

 

ルーファエルデのバエル家【軍総帥】は、魔王軍の総帥。ネルサのレオナール家【全大使】は、外交の全権。

 

 

ベーゼのエスモデウス家【催事長】は、催事関係全てを取り仕切る長。メマリアのアドメラレク家【王秘書】は、前にも述べた通り魔王様の秘書役。

 

 

そして私のアスタロト家【大主計】は、国庫を切り盛りする会計係のトップと――。端的に説明すればそんなところである。大臣、と言い換えても差し支えないであろう。

 

 

 

 

 

そんなエスモデウス家は催事時に提供される食事の監修等も行うから、必然的に食べる量も多くなるのである。……そういえばエスモデウス家の方々、皆ベーゼみたいな良いスタイル…。一族の体質なのかもしれない。

 

 

とはいえそんな食いしんぼベーゼも、準備がなされている間は令嬢らしくお行儀よく。まあ目はキラキラに輝いて涎垂れかけなのには変わりないのだけど。完全におやつのお預けをされている犬みたい。

 

 

「ルーファエルデお嬢様、お耳を……」

 

 

おや? そんなベーゼを見ていたら、バエル家のメイド長がルーファエルデに何かを耳打ちしているのも目に入った。私の方を軽く見ながら何か報告しているみたいだけど…。

 

 

ただそれはすぐに終わり、バエル家メイド長は扉の傍へ。支度を済ませた他召使達もそれに倣い、品よく並び――。

 

 

「――不行儀ながらこの場をお借りし、皆様方へ格別の感謝を述べさせてくださいませ。 此度は私共にまで素晴らしき贈物を御用意して頂き、これ以上ないほどの至福の心持ちでございます。召使一同を代表し、皆様方へ厚く御礼申し上げます」

 

 

バエル家メイド長の言葉に合わせ揃って膝をつき、深々と頭を下げた。さっきも言った通り、ホスト以外の参加者はホストの家の召使達への労いの品を持参してくるのだ。これはそのお礼、いつものことで――あれ?

 

 

なんだかメイド長、私の方を見て……? 睨んでるとかじゃなく、感謝の念を籠めた熱視線と言うべきな……?

 

 

「では、私共はこれにて退室させて頂きます。ご用命の際はお気兼ねなくお呼びくださいませ」

 

 

残念ながらそれを詮索する暇もなく出ていってしまった。一体なんなのだろう? そう思っていたら…ルーファエルデがまたも声を弾けさせた。

 

 

「アスト、感謝いたしますわ~!!! まさか、『魔法の宝箱』をくださるなんて! それも、幾つも!!」

 

 

あぁ、そういう! 先程のバエル家メイド長の耳打ちと熱視線の意味がわかった。何分ラティッカさん(箱工房のリーダー)達の暇潰しで作られる商品なため、基本品薄状態なのだ。私は今回もまたおねだりして用意して貰ったわけで――。

 

 

「マ!? あーし、探し回ったのに!? 色んなツテ当たったけど、うち(レオナール家)で必要な分も揃ってないよ!?」

 

 

「買い占めた……わけではないわよね。アストのことだもの。なら……謎とされる製作職人と懇意、とか、かしら?」

 

 

へ!? ネルサとメマリアが驚愕の表情を!? 今そんな風になっているの!? …あ、そういえばラティッカさん、今回分を作ってくれている時『かなり人気みたいだけど、面倒だから適当言って貰って誤魔化してる』って言っていた……。

 

 

まさかグリモワルスですら渇望する幻の一品となっていたなんて……! このことを伝えたら、ラティッカさん達どんな反応をするのだろう? 少なくとも酒宴時の話題には確実になるはず。

 

 

――って、今はそれどころではない! ネルサ達相手にどう誤魔化すべきか……! メマリアの予想に至っては思いっきり的を射ているし……――!

 

 

「ねえねえ! それよりも、もう食べていい!? 宝箱のことはアタシも気になるけど……生殺しだよぉ!」

 

 

あ…! 必死に言い訳を考えていたら、ベーゼが可愛い駄々を。それを聞いたルーファエルデはクスリと吹きだし――。

 

 

「ではこの心引く話題は追々ということにいたしましょう! なにせ時間はたっぷりあるのですから! 宜しくて?」

 

 

ネルサとメマリアもそれに笑いつつ頷き、一旦休題に。ベーゼに助けられた……! 言い訳はそれまでに考えとくとしよう……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~!! 美味ひい~~!! これ、誰が持ってきてくれたの~!?」

 

 

「それはあーし! どぉどぉ? 今話題のクッキー!」

 

 

「というより、貴女が広めて話題になったのでしょう?」

 

 

「やっぱり! 発信元、ネルサだと思った!」

 

 

「ウフフっ! ネルサらしいですわ~!」

 

 

皆で円卓を囲み、和気藹々と。持ってきたお菓子に舌鼓を打ち、紅茶を味わい、楽しくお喋り。今日は太るとか深く考えず、好き放題に!

 

 

そうそう、女子会開幕のこのタイミングは必然的に並べられているお菓子の話となる。そしてそこで本領?を発揮するのが、あのベーゼ。

 

 

美味しいものに目がない彼女故に、幸せそうにもぐもぐしながら今しがたのように聞いてくるのだ。誰がどれを持ってきたかとか、これはどこそこのお菓子じゃない!? とか。

 

 

そしてそれに繋がる形で、ベーゼの美食遍歴も明らかになるのがいつもの流れ。例えば今回は――……。

 

 

 

「――それでね! この間人間族の令嬢のお友達ができてね! ハーピーの卵を一緒に食べたんだ~!」

 

 

「へ~! 人間族でもあれ食べる子いんだ~★」

 

 

「ね! でも最近あんまり数を食べられてないんだって! だから代わりに良い商人教えてあげたんだ~。あと、氷の女王様のとこに訪問した時に貰った、たまごアイスあげたら喜んでくれたよ~!」

 

 

「あら、あの御方の元も訪ねたの?」

 

 

「へへ、ついにお邪魔しちゃった! あそうだ! 人間族と言えば……名前忘れちゃったんだけど、神様を祀ってるじゃきょーだん? の神殿でラーメン食べたよ! 背徳の味だったなぁ~」

 

 

「じゃきょー……邪教団……? ……もしや、またゲテモノの類ですの?」

 

 

「違うよ~ルーちゃん(ルーファエルデ)! ちゃんと美味しいラーメンだったよ! 油ギトギト増しましだったけど! そうそう! ラーメンと言えば、キョンシーたちの……――!」

 

 

 

 

――とまあ次から次へと出てくる出てくる。これでもベーゼ、抑えているほうなのだ。なんなら彼女の話だけで丸一日使い果たせるぐらいなのである。

 

 

 

……けど……それにしてもちょっと……。いつもならば楽しく聞いていられるのだが……今回、なんだか落ち着いて聞いてられない……。

 

 

なにせ今しがた挙がった名前や場所とか、全部私と社長がミミック派遣に訪れた場所な気が……。いや、ハーピー族も沢山いるし、キョンシーだって……他は…うん…………。

 

 

気、気のせい気のせい! それに、だからなんだって話でもある! 皆に隠している私の仕事、その関係で訪れた場所がベーゼの食い倒れと被ってたからってバレるとは――

 

 

「――ねぇ、アーちゃん!!」

 

 

「ふぇっ!?」

 

 

急にベーゼから名前を呼ばれ、変な声をあげてしまう……! ハッと見ると、他の皆も私の顔を眺めて……!? も、もしかして何かバレて……!!

 

 

「このタルト、アーちゃんが持ってきてくれたやつでしょ?」

 

 

 

 

 

……あ、なんだ……! どうやら仕事先が露見した訳では無かったらしい。『気になるお菓子を持ってきたのは誰か』で、誰も手を挙げなかったために無言気味になっていた私に聞いてきたのだろう。

 

 

そしてその通り。あのタルトは、私が持ってきたもの。宝石のような輝きを放つ虹色の果物が目を引く、フルーツタルトである。ベーゼへ頷くと、彼女は目をキラキラと。

 

 

「これ凄くない!? 初めて食べたよこんなの~!!」

 

 

ふふっ、どうやらお気に召してくれたみたい。実はそれ――。

 

 

「だってこれ、あの『老樹の宝石果』じゃん! 『蜂女王のローヤルゼリー』も使われてるし! それに作ってくれたの、『お菓子の魔女』じゃない!!?」

 

 

「――お見事! 流石ベーゼ! まさかパティシエの正体まで見破るなんて!」

 

 

伊達に食べ歩いている訳ではない。ベーゼったら、ピタリと言い当てきた! 当たりも当たり大当たり。トレントの長老ウッズさん、そして蜂女王のイーブさんからミミック派遣代金として頂いていた素材をお菓子の魔女ステーラさん方に渡し、タルトを作って頂いたのだ。

 

 

因みに、そのタルト以外にも同じように材料を提供して作って頂いたお菓子は幾つかある。更にダンジョンやかつての依頼主の元へ直接赴いて買いつけてきたものも――!

 

 

「――これが老樹の宝石果ですの? では一口……まぁ! 病みつきになってしまいそう!」

 

 

「わ~お! ()()~っ!! 兎型のお団子って! 食べんの勿体な~!」

 

 

「このお饅頭、なんという名前だったかしら? …そうそう、『サファリまん』。変わった中身と味だけど、確かに美味ね」

 

 

それらを(ダンジョン関係であることを隠して)紹介していくと、ルーファエルデもネルサもメマリアも嬉々として堪能してくれる。持ってきた甲斐があった!

 

 

――と、内心胸を張っていたら……ネルサがにひひ★と笑みを浮かべた。

 

 

「あっすんも色々詳しくなったよね~。前までは無垢、って感じだったのに!」

 

 

「わかりますわ! なんだか最近は一皮、いえ、何枚か皮の剥けたような垢抜け具合で!」

 

 

「お屋敷から飛び出したのが良かったのでしょうね。 ふふふっ」

 

 

あはは……。ルーファエルデとメマリアまで……。褒められている…のだよね?

 

 

でも確かに私、就職する前までは知らないことばかりだった。だから当時、皆の話は全部新鮮で、まさにお菓子を前にしたベーゼ並みに興奮して……――。

 

 

 

 

……あれ、そういえばベーゼは? さっきから彼女の声が聞こえてこない。いつもなら騒がしいぐらい唸っているのに……。

 

 

「うーん……あれぇ~……でも……無かったし……」

 

 

いや、唸っていた。ただ、感動で唸っているのではなく、食べかけの宝石果タルトを前に何かを考え唸っているという様子。どうしたのだろう……?

 

 

「ベーゼ、もしかして口にあわなかった…?」

 

 

「ううん!? 超最高だよアーちゃん! けどさ、これ、メニューに無かったからなんでだろ~って」

 

 

「メニュー? お菓子の魔女さんの? それは特別に作って貰ったから……」

 

 

「あ、違うの! そうなんだけどそうじゃなくてね! えっと……」

 

 

慌てて手を振って否定しつつ、タルトをもう一口運ぶベーゼ。そして目を瞑り神経を集中させ、先程以上にじっくり味わって……。

 

 

「ん…! このギュッて詰まってる濃厚な甘み、そしてメロメロになっちゃう素敵な酸味……! そして含まれてる魔力の質……! 間違いない! この宝石果は『森林ダンジョン』の、ローヤルゼリーは『蜂の巣ダンジョン』のだよね!!?」

 

 

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