ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~ 作:月ノ輪
助かった……! ルーファエルデが仕切り直しをしてくれたおかげで、なんだかアブない雰囲気は何処かへと消え去った。流石ルーファエルデ、頼りになる!
そして、彼女の魔眼使用は穏やかな心で承諾できる。だって先のベーゼやネルサと違い、私の隠し事が暴かれる心配が無いのだから!
あ、でも。その前にちょっとタイムを。髪型を直さないと。また変に邪推されると困るし。そしてこの仮面と服は……結構出来が良いからちょっととっておこう!
「――では失礼いたしまして! 『戦眼』によって、皆様の力を見せていただきますわ~!!」
頃合いを見計らい、ルーファエルデは腕を組み片手の甲を顎に置いて魔眼発動を。彼女の魔眼の能力はずばり、『対象の戦闘能力を可視化する』こと。
しかも純粋な戦闘力だけではなく、どのような戦術や技や魔法を扱えるか、そしてどれを得意とするかも把握できる、軍総帥バエル家令嬢に相応しい魔眼である。
勿論、相手が集団でも潜んでいてもお構いなし。連携能力や潜伏能力、弱点まで見抜けるのだから。そこに彼女自身の圧倒的な実力も合わさり、まさに敵なし。あの
…そういえばこの間聞いた話なのだが、かつて訪問した『学園ダンジョン』では、この彼女の魔眼を参考にした戦闘力数値化魔法を用いているとかなんとか。最も戦眼ほどの精確さはなく、生徒用なため単純控えめな性能なのらしいけど。
確かあの時社長、高い数値を誇って得意げだった生徒を容易くあしらい、『私のステータスはカンスト済み』とか適当言っていたけど…。実際の所、どうなのだろう? ルーファエルデならあの底知れない社長の戦闘力、完全に把握できるのだろうか?
「――ウフフ! 皆様、素晴らしいですわ! 前回より格段に強くなっておりますわ! 次代グリモワルスとして弛まぬ研鑽を積んでおりますこと、称賛に値いたしますわ~!!」
そんなことを考えていたら、私達を一通り魔眼で見終えたルーファエルデが手を合わせ拍手を。そして…まずはベーゼへと。
「ベーゼ、体術関連が強化されておりますわね。やはり、いつもの?」
「うん! 食べ歩きの腹ごなしに! それに、動いてからの方がご飯美味しいもん!」
「ふふっ、わかりますわ! 鍛錬を積んだ後の食事は格別に思えますもの!」
「でしょでしょ~! あとはね~~美味しい食べ物がある場所って、強い人がいることが多くて! 特にダンジョンはそうかも! そういう時は腹ごなしに付き合って貰ってるんだ~!」
「ダンジョンの魔力濃度は様々なものの成長を促しますものね。道理ですわ! 私の武者修行先も、ダンジョンがかなりの数を占めておりますわ~!」
「だよね~! 結構会うもん、ルーちゃんと闘った~って人! ――そだ! ね、ルーちゃん、アタシ今頑張って覚えてる魔法があるんだけど…わかる~?」
「えぇ、幻影魔法や幻惑魔法、魅了魔法ですわね! 中々に高度な技のようですが?」
「えへへ~! ほら、ご飯食べる時の周りの景色や雰囲気って大事じゃん? あと魅了魔法は…ちゅー上手くなったら楽しいかな~って! だから、ある人に教わってるんだ~! その人超超超超超強いから、今度紹介したげる!」
――なんともベーゼらしい理由。…ところで、そういう系の魔法を使いこなす人に心当たりが……。ベーゼに教えられるほどのって、まさか……いや、気のせいであろう。
まあそれは一旦置いといて。この『戦眼による戦闘力確認タイム』、ベーゼの美食遍歴語りと同じように恒例の話題なのだ。ルーファエルデが一人ずつ見ていくのが流れなのである。ほら、次はネルサに。
「ネルサの魔法力もかなり底上げされておりますようで!」
「にひひっ★ 闘うのが好きな子と遊んでっと自然にね~。特にオンラムっちとは最近よ~遊んでるし!」
「あの
「も~。気にすんな~って言ってたじゃんさ★ そーそー! この間遊びに行った時なんだけどさ、山の傷増えてたんよ!」
「まあ……! つまり、彼女にそこまでさせる強者が訪れたということで?」
「んにゃ、ちょっち力み過ぎただけで、相手は大したことなかったってさ。――あでも……オンラムっちが力負けしちゃう人はそん前に来てたみたい。そのせいで力み過ぎてた感じっぽ★」
「あの方に力圧しで勝てる方がいるということだけでも驚きですわ! その御方についても気になるところですが……今はそれよりも貴女の成長具合が気になるところで! この魔法力、それだけではありませんでしょう?」
「にっひっひ~★ 実は、マギさんって魔女の人のとこでちょこちょこダンスパーティーやってんだけど、そん時に色々魔法教わってんだ~! さっき使った画面呼び出し魔法もそれなんよ★」
――またサラッと出てきた! 私が以前訪問したミミック派遣先ダンジョンの主達の名前! 『鬼ヶ島ダンジョン』と『魔女の家ダンジョン』の! えっ、あの山の鬼みたいな顔の痕、そういうことだったの!?
……とは驚いたけど…。実は、魔女のマギさんに関しては私も知っていた。なにせ彼女、私の
そしてネルサが私の
「お次はメマリアですが……ふふっ! 見る必要はないほどですわ! 幾度も聞き及んでおりますとも!」
「あら、やっぱり? あまり褒められたものではないのだけどね」
「ウフフっ、いいえ! 慣れぬ公務を始めた身なのですもの、多少のストレス程度溜まって当然。それを模擬戦で発散させて差し上げるのも、魔王軍の務めですわ!」
「半ば伝統と化しているとは小耳に挟んでいたのだけど……まさか下命伝達のついでに誘われるとは思わなかったわ。それに、相手役があんなに立候補してくるなんて」
「兵としても、
「そうだ、ルーファエルデ。先日、中級者向けダンジョンの管理役の一人の、マネイズという方を傍に呼ばせて貰うことにしたの。資料作成の腕が良いと聞いて、是非教示して貰おうと思っていて。一応、既に許可は頂いているのだけど……」
「その向上心、素敵ですわ~! そして皆まで言う必要はございませんわ! そのダンジョンの内情をお知りになりたいのでしょう?」
「え、えぇ。そうなの。無茶を頼んでいないか少し不安でね」
「ご安心を! そも
「そう? それなら良かったわ…!」
――っと…! 今度は中級者向けダンジョンから私達へ依頼を出してくれたマネイズさんの話が…! あの時、私も彼女の作る資料に舌を巻いていたのだけど……メマリアですら一目置いていたなんて! 凄い!
また、その中級者向けダンジョンの『協力者』というのは、考えるまでもなく我が社のミミック達である。……でも、『例の方々』とは?
というかそれよりも、メマリアもストレス溜まって
一体どんなストレスを? 慣れない仕事だから、という理由はルーファエルデが言っていた通りあるのだろうけど……いつも飄々としている彼女がそこまでストレスを溜め込むイメージはない気が…。
うーん……。なら、ストレスとまではいかなくても、言いたくても言えないことを発散している、とか? よくわからないけど……。
……あ。言いたくても言えないことと言えば。 メマリア、魔王様の
特に彼女の一族【王秘書】は、まさに最側近なのだもの。まあまだ修練中の身だから、知らなくともおかしくはないけど……――。
「――さ! 最後はアスト! 貴女ですわ!」
おっと、いつの間にか私の番になっていた。実はこの戦眼確認コーナー、トリを務めるのは大体私なのだ。その理由はちょっと照れくさいのだけど……。
「フフ…うふふふふ!! やはり、素っっっ晴らしいですわ~っ!!! 見るたびに惚れ惚れしてしまいますわ~~っ!!!」
私の隅から隅までを丸裸にするかの如く見澄ましてきたルーファエルデは、声を弾けさせる。そして、うっとりしたような様子で続けた。
「本当、アストの魔法の才には目を見張るばかりですわ!
あはは……なんだか今日はいつもより褒め方が激しい気が……。えぇと……当のルーファエルデが口にした通りである。迎えてくれたバエル家衛兵長にも言われたのだけど、どうやら私には魔法の才があるようなのだ。
……え。今までずっと見てきたのならわかる? 色々大暴れしていたし? うぅん……なんだか恥ずかしい……。
「うふふふっ! まあアスト、そのように身を縮ませないでくださいまし! 別に才があるというだけで褒めているのではありませんもの! それならばこの場の全員が該当するのですから!」
こそばゆさから身を少しよじっていた私へ、楽しそうに付け加えてくるルーファエルデ。そしてこう胸を張るべき、と示すかのように続けた。
「
研鑽、と言って良いのかわからないのだけど……。あと、絶対にルーファエルデのそれを超えるものじゃないのだけど……!
えっと…どういうことかというと……あ、その前にルーファエルデのいつもの決め台詞?が。
「――才というのは剣と同義。磨けば幾らでも輝き、上手に扱えば無双の力を得ることができる武器。しかし研鑽を怠れば…あっという間に二度と光らぬ
先程紅茶を噴いていた彼女はどこへやら。バエル家令嬢の威厳をまざまざと放つその姿は、こちらが惚れ惚れし返してしまうほど…! そんなルーファエルデは私達へ向け、輝くような笑みを。
「ですから出過ぎた真似と知りつつ、
フフンッと決めるルーファエルデ! ふふっ、思わず拍手したくなってしまう格好良さ! というか、ネルサとベーゼはヒューヒューって拍手してるし!
実際のところ、この彼女の確認は非常にありがたいのだ。なにせ私達は
故に、女子会の度にルーファエルデに検めて貰って、次までの間に更なる研鑽を積む。これが毎回の流れとなっているのである。そして今回も――!
「アスト、貴女の磨かれ具合は実に見事なものですわ! 純粋な攻撃魔法各種に始まり、分身使い魔召喚魔法、転移系魔法、防御系魔法、強化系魔法、治癒魔法、永続保護付与魔法…! 強化されているもの新たに習得したものを挙げればきりがありませんこと! 加えて、体術や戦術考案に至るまで!」
戦眼を駆使しながら、私の成長部分をすらすら並べて立ててゆくルーファエルデ。自分では強くなっているかすらよくわからないことが多いから、そう明言されると嬉しくなってしまう。――と、ルーファエルデはほぅっと恍惚の息を吐き……。
「やはり以前から思っておりましたが……最近の、それもお屋敷の外へ出るようになってからのアストの成長ぶりは著しいですわ~!! このような多岐にわたる魔法の研鑽、一体どのような鍛錬を積んでいらしているので?」
凄く気になる、あわよくば是非参考にしたいと言わんばかりの期待の目を浮かべるルーファエルデ。ふふっ、彼女の向上心も、とっても素敵である!
ただ……残念ながら私の鍛錬方法は教えられない。……というか、鍛錬でも研鑽でもないのだ。
だって――――仕事なのだもの!
今までのを見ていて貰っているのであればわかるであろう。私のミミック派遣会社での仕事内容を。
そう――秘書業務として社長の補佐に始まり、依頼が来たダンジョンの査察、依頼主の接待(戦闘)、契約後の転移魔法陣の設営、状況に応じて派遣ミミックへの永続保護魔法付与……。
そして攻撃魔法や分身使い魔召喚魔法、治癒魔法等を駆使し、ミミック達の訓練のお手伝い。時には私自身も(シェイプアップ目的や社長達に誘われる形で)参加していたり。箱工房へも魔法提供をしている。他にも諸々と――。
そんなこんなで、結構魔法とかを使っているのだ。鍛錬のつもりはないのだけど…必要だから自然に習得して、必要だから自然に習熟していった賜物ではある。社長達のための研鑽、と言い換えることはできるかも。
……あと、こうしてルーファエルデに褒められるのが嬉しくて、暇な時とかに魔法薬作りとか魔法研究とかはしているから……やっぱり鍛錬は積んでいるって言っていいのかもしれない…?
「――普段から事あるごとに魔法を使っていて……。あと、良い訓練相手がいて。皆の修行に付き合ったり、教えたり教えられたりしている……ぐらい?」
「素晴らしいですわ~! 行住坐臥片時も忘れず研鑽を積み、素敵なパートナー達と高め合う…! 敬服にすら値いたしますわ~!!」
隠し事(と、最後のなんだか恥ずかしくて言えない秘密)をオブラートで包みルーファエルデへ伝えると、またも声を張る彼女。そこまでのものではないと思うのだけど……ん? あっ。
「ですが、一つ我が儘を言っても宜しくて? 差し支えなければですが……」
ルーファエルデ、急にしおらしく…! あの顔、我が儘の内容が大体わかる…! きっと、『どのような修行を?』とか詳細を聞いてくる気だ…! オブラートに包み過ぎたっぽい…!
うーん……何とか隠しながら話しても良いのだけど、いい加減ボロがでそうな気がする……。既にベーゼとネルサ相手にギリギリで凌いでいるし……なんならミミック派遣会社の名前自体出ちゃっているし……。なんとか有耶無耶にできないかな……――。
――あ! そうだ! さっきネルサへ
そうと決まればルーファエルデが切り出す前に先手を打つ! 敢えて身体を彼女の方へズイッと出して……!!
「……強くなった私、試してみる? ルーファエルデ?」