ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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顧客リスト№68 『忍者の忍びの里ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌


 

 

今にも崩れそうなあばら屋敷の中、その闇夜の如き暗き広間の中央にて、私達は座り向かい合う。現在時刻は朝、しかも天気は晴天だというのに……この建物内は漆黒に支配され、絶対にあるはずの壁の位置どころか、少し離れた場所の床板すらよく窺うことができない。

 

 

とはいえ完全に真っ暗な訳ではない。私達の目の前には、パチパチと音を立て魚やお肉の串を炙っている囲炉裏が。そのおかげで辛うじて互いの顔……私達と、相手の方の姿が闇の中に浮かび上がっている。

 

 

おや、その火の弾ける音に交じり…鼠だろうか、小動物が駆ける音がどこからか。と、まるでそれが合図だったかのように私が抱えている社長と、その囲炉裏を挟み向かい合う老爺の方が同時にゆっくりと両手を動かしだし――。

 

 

「ドーモ。ミミン=サン、アスト=サン。 マトベ・ニンゾウです」

 

「ドーモ。マトベ・ニンゾウ=サン。 ミミンです」

 

 

んっ!? パンと手を合わせ、お辞儀と共に挨拶を!!? で、でもなんだか変な……! というかそもそも……と、とりあえず私も続いて…!

 

 

「ど、どうも……アストです……?」

 

 

「違うわよアスト~。アイサツは実際大事なんだからしっかり返さないと! スゴイ・シツレイよ!」

 

 

「で、ですが社長……挨拶なら先程お会いして直ぐに……」

 

 

思わずそう返してしまう。だってさっきここに通された際、直ぐにニンゾウさんと挨拶を交わしたのだもの! 今みたいな変なのではなく、普通のを! ――と、困惑していたらニンゾウさんが大笑いを。

 

 

「ふぁっふぁっふぁっ! いやいやアスト殿、混乱して当然でござろうのぅ。まあ(それがし)共の中で通ずる儀式のようなものでしてな。まさかミミン殿がアイサツを返せる方だとは!」

 

 

「ニンジャにとってアイサツは神聖不可侵の行為。古事記にもそう書いてありますから!」

 

 

……なんか盛り上がる社長達。よくわからないけど……ともあれ、この『忍者』が営む『忍びの里ダンジョン』へ訪れたのは、やはり依頼を受けたからなのだ。

 

 

 

 

 

 

忍者――。その存在は私も耳にしたことがあった。その名の通り様々な所に忍び、『忍術』を駆使する人間達のことである。

 

 

冒険者のジョブとしても忍者は存在するが……ニンゾウさん達はそんなとは違う本物。集落を形成し、心技体を磨き暮らしているのだ。エルフやドワーフ、同じ人間で言えばアマゾネス等と同じような存在と考えていいだろう。

 

 

そうそう。忍者は時に主君を定め、陰ながらの警衛役や潜入等を行う諜報役を務めることがあるのだが…ニンゾウさんが里長を務めるこの集落もまた、とある君主の一族に長く仕えているらしい。今回の依頼の代金の一部はその君主の方からも支払われるとか。

 

 

そして忍者の代名詞と言えば、あの全身を包む黒装束! ……なのだけど、今のニンゾウさんは作務衣に半纏を着込んだ姿。忍者には見えない。まあでも忍者には間違いはないだろう。ここまで案内してくれた方は忍者装束だったし、ドロンッて消えたし。なんならニンゾウさんもドロンッて現れたし。

 

 

 

 

しかし……実は私、そんな彼らが我が社へ依頼をしてきたことにびっくりしているのだ。いや、別に依頼主が人間であったら派遣をしないとかいうルールはない。前例もあるし、そのためにこうして私達が精査視察に赴いているのだから。

 

 

けど、一体どこから我が社のことを聞きつけてくださったのだろう? そして何より、何故忍ぶ者である彼らが、忍ぶ魔物であるミミックの派遣依頼を?

 

 

「実はですな、以前より御社のことは耳にしておりまして。狐狸衆や妖怪衆が盛んに噂しておるのです。ミミックは素晴らしき働きを見せ、良き友となってくれる、と」

 

 

その疑問をニンゾウさんに問うと、彼は囲炉裏の火加減を弄りながらそう答えてくださった。成程、天狐のイナリ様や妖狸のマミさん、妖怪のキタロさん方のダンジョンを始めとする派遣先は確かにこの近辺。そこから知ってくださったのだろう。――が、ニンゾウは『しかし…』と笑み……。

 

 

「極めつけはなんといえども、我らが主君であるミカド様、ヒメミコ様が足繫く通いしダンジョンでござりましょうのぅ。あの場の団子や餅は格別、つい先日も良きものを頂きましてな。うむ、良い焼け具合だ」

 

 

おや? ニンゾウさん、囲炉裏で炙っていた団子串を数本抜き取り……。

 

 

「手前へ失礼を。ちょいな」

 

「わわわっ!?」

 

「おお~! ワザマエ!」

 

 

だ、団子串が矢の如く……ううん!手裏剣めいて飛んできて、私達の前の囲炉裏灰に刺さった!? 投げる際の手の動きは全く見えなかったし、刺さった時に灰は一粒たりとも巻き上がらなかった…! これが忍者……!

 

 

「御客人に無精を見せてすみませぬの。ささ、冷めぬ内に」

 

「わ~い! イタダキマス!」

 

「い、頂きます…!」

 

 

勧められるがままに串を手に取り口へと……あれ!? このお団子、見覚えが!? 間違いなく――!

 

 

「バニーガールの…! カグヤ姫様やイスタ姫様の!?」

 

「ふぁっふぁっふぁっ! お気づきになられましたかのぅ! 然り。我らが主君は今、彼女達にご執心でしてな。故に(それがし)共へも度々土産を施してくださるのです」

 

 

なんと! どうやらニンゾウさん達の主君とカグヤ姫様方はお知り合いらしい! なんとも奇妙な縁――……。

 

 

「あぁ、やっぱりあの時の方々でしたか!」

 

 

 

 

 

 

「へ? 社長?」

 

「ほほう! 某共をご存知でござったか!」

 

 

首を傾げる私とは対照的に、台詞とは裏腹に『やはり』という表情を浮かべるニンゾウさん。社長はバニーガール手製のお団子串を軽く掲げ、にこりと頷いた。

 

 

「えぇ、偶然にも幾度かお見かけして! となりますと状況判断で――ん~。その節は皆さんの主君の方に失礼いたしました」

 

 

急にペコリと頭を下げ謝罪をする社長。それを受けたニンゾウさんはふぁっふぁっふぁっ!と笑い――。

 

 

「いやいやミミン殿、あれは正しき行いでござりましょう。某は赴いておりませんでしたが、もし供していたのであれば必ずや諫めておりましたからのぅ。それに、危機を救ってくださったことすらあるではござりませんか」

 

 

「ふふふっ! そう仰って頂けると幸いです!」

 

 

「……あの? 私、あまり状況を理解できてないのですが……」

 

 

何故か社長達の間で成立してしまった謎の会話に、私は首を更に捻るしかない……。すると社長は熱々お団子串を頬張りながら宥めてくれた。

 

 

「アストは会ってないもんね~。というか会ってても気づけなかったわよ、だって忍者だもの!」

 

 

「……??? えっともしかして……カグヤ姫様方のバニーガールのダンジョンに、忍者の方々が?」

 

 

「然り。我らが主君がダンジョンへ赴くのはお忍び、故に目立たぬよう護衛は最小限を望まれておりましてな。そのため近侍の他、某共が俗人に気づかれぬようお守りしておるのです」

 

 

ニンゾウさんは追加で焼き上がった串を二本、先のように投げて私達の前へ。そしてその二本を少し離れて囲むように、されど影となるように更に数本の串を刺し並べ、囲炉裏灰に模式図を。――と、彼はそこで愉快そうに笑みを零し……。

 

 

「ですがのぅ、驚いたことにそのダンジョン、何処に忍ぼうと必ずやそこに先客が下りましてな! 供した者共は総じて舌を巻かざるを得なかったのですぞ!」

 

 

その先客とは間違いなく我が社の派遣したミミック達! ふふっ成程、忍ぶ者同士でバッティングしてしまったらしい。そして忍者がミミックに気づいたようにその逆もまたなのは、社長の反応からも明白。

 

 

そしてそして当然、どちらもまさか同業者(?)がいるとは思わなかっただろう。黒ずくめの忍者と宝箱に入ったミミックが陰でバッタリ、目と目が合う。なんともシュールな光景で。

 

 

「その後も幾度となくその者達を目撃致しまして、都度感服しきりとなり。いよいよ腹を決め、直近に赴きました鉄火場型のダンジョンにて接触。仔細と宛先を伺い、晴れてこうして申し入れた次第にござります」

 

 

一礼と共にそう顛末話を締めるニンゾウさん。そして更に深い一礼と共に、今回の依頼内容を改めて口にした。

 

 

「ですのでどうか、ミミックの皆様方に稽古をつけて頂きとうござるのです」

 

 

 

 

 

 

そう、忍者からの依頼とは、まさかの『ミミックによる忍ぶ術の教授』。つい今しがた冗談交じりに同業者と言ったが……まさに彼らは人材開発のため、同業他社(私達)にノウハウを乞おうとしているのだ。

 

 

「無論、我らの技の会得は御随意に。して契約は言い値で構いませぬ。我ら忍びの者ですら瞠目せしめるミミックの妙技、どうか何卒!」

 

 

しかもニンゾウさんの口ぶりから察するに、技術交換というよりも外部講師の招(へい)寄りっぽい。ただでさえ忍者からの依頼自体に驚いているのに、この依頼内容は…!

 

 

――ただまあ、問題はない。つい忍者を同業者や同業他社と称してしまったが、別にシェアを争っている訳ではないのだから。片や自らの棲む里や主君を護り、片や自らの棲むダンジョンや依頼主を護る。まさに似て非なる存在と言うべきであろう。

 

 

いや寧ろ、忍者は人間界のミミックと言うべきかもしれない。あるいはミミックが魔物界の忍者? ともかく、棲み分けはしっかりなされてはいるのだ。その上でこのような条件であれば――。

 

 

「ヨロコンデー!」

 

 

わっ!? 社長が突き抜けるような声で承諾を!? な、なんかいつもと違う独特な喋り方になってるけど……コホン、この依頼を拒む理由なんてないのである!

 

 

「――ですが、その前に……」

 

 

 

 

……へ? 社長がなんだか不穏な笑みを? それに対し、ニンゾウさんは心得たように頷いた。

 

 

「無論、聞いておりまするぞ。ダンジョンの厳密なる精査を行ってから派遣するか否かを定めてくださると。では早速、この忍びの里ダンジョンの案内を――」

 

 

いや、違う…! 確かにそれはこの後の予定なのだけど……この社長の雰囲気(アトモスフィア)、何か企んでるっ!! その直感をなぞる様に、社長は目の前に刺さっていた串焼き二本を抜き取り……。

 

 

「それよりもまずは――皆さんに実力を見て頂かないといけませんね?」

 

「ッ!!」

 

「ちょいなっ~!」

 

 

えっ!? ちょっ!!? 内一本を、囲炉裏火の中へと手裏剣めいて投げ入れて!!? そのせいで火が一際大きく燃え上がり、辺りを強く照らし出して!

 

 

しかし社長はそれを、そして息を呑むニンゾウさんを気にかけることなく、もう一本の串を手にしたまま、さっきのようにパンッと手を合わせて――!

 

 

「ドーモ、忍者の皆さん。ミミンです!  イヤーッ!」

 

 

へっ!?!? えっ!?!? き、消えた!!? 抱っこしていた社長が、シャウトと共にシュンッて何処かに消え去った!? ど、どこへ――!?

 

 

「「「アイエエエッ!?」」」

「「「グワーッ!?」」」

「「「アバーッ!!?」」」

 

 

っっっっ!?!?!? 微かに見えるようになった壁から、天井から、床下から、至る所から変な悲鳴が聞こえて!? ――って、わわわぁっ!!? 

 

 

か、壁が回転してバタバタと! 天井からドサドサと! 床がパカリと開いて弾き出されたように!! 悲鳴が聞こえた各所から、忍者が次々と倒れ出てきた!!?

 

 

「もご……み、見事なるオイシイ・アンブッシュ……」

 

 

って、ええぇっ!?!? 囲炉裏の中からも一人ドロンッと現れ、床に倒れ伏した!?!? 口に社長が投げた串が刺さってる! 

 

 

確かにおかしいとは思っていた…! 穴だらけのあばら屋敷なのに、晴天の朝なのに、真っ暗な室内になっていたこの建物…! もしかして、そう見せかけた忍者からくり屋敷だったの!?

 

 

「よっと!」

 

 

そんな有様に目を丸くしていると、社長がスタンッと現れた…! でも何故か私の膝の上じゃなくて、囲炉裏の別の縁に……えっ!? なんでピンクの忍者装束を着てるの!!?

 

 

そしてずっと手にしていたであろうアツアツのままの串焼きを、一息にはむむっと頬張って――!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ! ――サヨナラ!」

 

 

ってちょっと!?!!? 食べ終わった串をニンゾウさんの額に向けて投げ刺した!!? そして何故かニンゾウさん爆発四散したぁ!!? えっちょっ……えぇえええぇ!?!?!?!?

 

 

「しゃ、社長!? 一体何を……なんでニンゾウさんを!!?」

 

「この串焼き美味ひい~! もう一本! アストも頂いちゃったら?」

 

「あ、じゃあ是非……じゃないですよ!? ツッコミが追いつきません!」

 

 

未だ暗いせいで正確な数は把握できないが……辺りは倒れ伏す忍者で死屍累々! 依頼主であるニンゾウさんは社長の一撃で何故か爆発!

 

 

ただあるのは勢い収まり静かに燃え続ける囲炉裏火と私と、ピンク忍者となった社長のみ! 瞬き数回程度の間にどういった攻防?が!?

 

 

「もぐもぐ…それは本人に聞けば一発ね!」

 

「いやですから今社長が倒しちゃって……!」

 

「あれは忍者の代表技が一つ、分身の術のそれよ。ですよね、ニンゾウさん?」

 

 

へ……? おかわり串を食べ終えた社長は箱の中から何かを取り出して――え、鼠? そういえばさっき、何処かを走っていた音が聞こえてた気がするけど……

 

 

「ふぁっふぁっふぁっ! 潜ませていた忍者に気づいていただけではなく、その全てをベイビーサブミッションじみて倒してのける――。まさしくタツジン!」

 

 

えっ!? 鼠からニンゾウさんの声が!? その鼠は社長の手を軽く蹴り、くるくる回転しながら囲炉裏を軽やかに飛び越え…社長の向い側に着地し――。

 

 

  ―――ドロンッ!

 

 

「しかし某すらをも捕らえるとは! 御見それ致しましたぞ!」

 

 

ニンゾウさんになったぁ!? さっきとは違って忍者装束を纏ってるし! けど社長は全く驚くことなく、それどころか胸を張って…!

 

 

「鼠が走ってた(スプリンター)からすぐわかりましたよ~!」

 

 

言ってることはやっぱり意味不明だけど……。私が知らない間に忍ぶ者同士の高度な駆け引きがあったのは間違いなさそうである。私は完全に置いてけぼり――っ…!? 今度はニンゾウさんの方からただならぬアトモスフィア(雰囲気)が…!?

 

 

「ふぁふぁ……ミミン社長、どうか一つ無体をお許しくだされ。某、些か血が騒いでしもうてな――」

 

 

わわわわわっ……!? こ、これも忍術!? 老爺姿だったニンゾウさんの身体が巨大に、筋骨隆々に!! けどそれを見ても社長は変わらず――!

 

 

「ハイヨロコンデー!!」

 

 

やっぱりやっぱり謎のテンションで承諾を!? ――瞬間、またも二人はパンッと手を合わせ!

 

 

「ドーモ! サトオサ・ニンジャです!」

 

「ドーモ! ミミック・シャチョウです!」

 

 

「「イィイイヤァアアアー――ッ!」」

 

 

またもアイサツ! そして変なシャウトと共に揃って消えた!!! ――ひゃあっ!? 建物の外からとんでもなく激しい戦闘音が! どうやら二人で闘ってるらしい……! 何故かWasshoi!とかの音?声?も聞こえて来るけど……――

 

 

「――失礼いたしましてござる」

「――どうかお許しくだされ」

「――拙者共は一旦これにて」

「――あのイクサを見届けにゆきまする」

「――オタッシャデー!」

 

 

へっ!? 辺りに倒れていた忍者達がこぞって起き上がり、一人一人私へ丁寧に謝罪をしてから観戦へと向かっていく……! ――そうだった、依頼の目的はミミック技の伝授だった。なら社長の闘いぶりは見ておかないと。異次元過ぎて参考になるかはわからないけど。

 

 

……あ。気づけばあばら屋敷内には私一人になってしまったらしい。今度こそ本当に囲炉裏の火とそろそろ焦げそうな串焼き数本だけが前に。これ…どうしよう。

 

 

「「「ドーモ、アスト=サン。くのいちズです」」」

 

 

わわっ!? まだ居たみたい! くのいち……女性忍者が数人、私の傍に! ど、ドーモ…?

 

 

「そちらの片付けは拙共にお任せを。ですが、あの……少しお願いが……」

 

「社長殿にはやられる直前にお渡ししたのですが、ご用意させて頂きました衣装がございまして」

 

「それでアスト殿が悪魔族の方とお聞きして、特別に誂えたものも……。是非どうか……!」

 

 

凄い頼み込んでくる……! どうやら忍者装束を用意してくれたらしい。興味はあったし、社長のあれも似合っていた。折角なので御言葉に甘えさせて貰おう!

 

 

 

 

 

 

 

「――かふっ…! くっふぁっふぁっ! ゴウランガ! なんという実力でござろうか!」

 

「ふふふ~! それはそちらもですよ! 流石は里長! 忍び隠れの里影さま!」

 

 

……あ、着替え終えて外の様子を窺ってみると、どうやら丁度闘いが終わったところらしい。健闘を称え合うニンゾウさんと社長と、歓声と拍手を送る忍者の皆さんの姿が。

 

 

わっ、よく見ると辺りが広範囲でボロボロになってる! 木や岩は砕け地面や建物は抉れ、火や水や雷や土や風がそこかしこで巻きたってる! どうやら短いながらもかなりの激戦だった様子…! 

 

 

けど、闘いピークと思しき場に進むつれその破壊痕の様子は様変わりしている。なんと言うべきか…忍術による攻撃痕がほぼ無くなり、直接的で物理的な戦痕ばかりに。やはり忍者とミミック双方のトップによる激突においては――。

 

 

「そりゃそうよ! 最後に重要となるのはジツよりもカラテなんだから!」

 

「左様。してそれこそがミミックの方々に指南役を願いたい理由でしてな。昨今、忍術に傾倒し戦闘技術を疎かにする者が増えて来ておりましてのぅ」

 

 

うわっ!? び、びっくりしたぁ!! 数瞬周りに目を向けている間に、社長を腕の上に器用に乗せたニンゾウさんが私の横に! 忍ぶ者が二人となった分、ビックリも二倍に――

 

 

「って、あらアスト! その忍者服!」

 

 

「いやこれ忍者服判定で良いんですか!?」

 

 

――ハッ! 思わずツッコんでしまった! 実は…すぐに社長達の元へ向かわなかったのには理由があって……。それが今着ているこの服、忍者装束。それが、社長の着ている目元だけを出す頭巾や体全部をしっかり厚く覆う着物じゃなくて…!

 

 

「全身ピッチリスーツなんですけど!?」

 

 

くのいちの方々が忍者装束と言いつつ着せてきたのは、ピッチリ…いやもはやパツンパツンレベルの全身スーツ! この間着たバニーガールスーツと違い全身柔らかい素材だから動きやすいのだけど…その分ボディラインがあれ以上に思いっきり浮彫になって……!!

 

 

しかもそれに加えて各所には薄メッシュや透明生地で肌が透けてるし、太ももや肩脇や羽周りや尾の部分は大胆なスリットで思いっきり露出してるし、そもそもデザインがハイレグみたいになってるし……! これのどこが忍者装束!?!? 

 

 

「あのくのいちの人達に着せて貰ったのね! なんて言ってた?」

 

「なんとか魔忍スーツと……。忍者の着る服に間違いないと…。確かにあの方々も似たのを普通の忍者装束の下に着てましたけど……えっと……」

 

 

なんだかあまりにも信じられなくて、目でニンゾウさんに聞いてしまう。と、彼は――。

 

 

「確かに苛烈なる戦場(いくさば)へと赴く際には、そのように戦闘力重視の装束を着こむこともありまするがの……その衣装は些か趣味の色が強く――」

 

 

  ―――カカカッ!

 

 

「お主らはともかく、御客人に召していただく装束ではなかろうが」

 

 

わっ!? 顔を顰め溜息交じりに、されど身を動かさず手裏剣を投げた!! そしてそれは控えていた…というかこっそり逃げようとしていたくのいちズの顔の真横へ勢いよく突き刺さって!!!

 

 

「ま、まあまあニンゾウさん! 一応、忍者装束なら私は特に…!」

 

「そうですよ~! 許してあげてくださいな! とっても似合ってるし!」

 

 

慌ててニンゾウさんを止めに入ると、社長もそれに加わってくれた。そして私の胸にぴょいんと戻って来て……。

 

 

「でもあれね~。なんかオルエ(サキュバス)辺りに捕まって感度3000倍にされそうね!」

 

「えぇ……。いやあの方ならやりかねませんけど……そんな媚薬作ってましたし……」

 

「それとも私が触手でアヘアヘにしちゃおうかしらぁ?」

 

「なんでですか!!? というかこの服とどういう!!?」

 

「うふふっ! まあそれはともかく~ここって和でサイバーや近未来な世界観じゃないから、その服だけだとちょっと浮いちゃってる気がするわね。だから~あ、これ切って改造しちゃって良~い?」

 

 

なにか考えがあるのか頭巾を脱ぎながら、正座させられたくのいちズへ聞く社長。彼女達から許可を貰うと、触手を活かしズバズバ裁っていって……!?

 

 

「じゃじゃ~ん! はい、これ巻いてみて!」

 

 

そのまま出来上がったのを私の首へくるくると巻いてくれる。これは…マフラーみたいな? 背中にかなり垂れさがるぐらい長くて、刻まれた先端が風でふわりと揺れる感じの…!

 

 

「うんうん! やっぱりお洒落忍者と言ったらこれよね! メンポにもなるし、ピンク色がそのスーツにピッタリ!」

 

 

頭巾暑かったし丁度良かったわ!と自分用に改造した面頬風マフラーをつけつつ笑う社長。すると今度はニンゾウさんも納得のご表情。

 

 

「襟巻を始めとした長き布は、それが地につかぬようになびかせ走り続ける鍛錬に用いられておりましてのぅ。うむ、絵になっておりまするぞ」

 

 

それは良かった! くのいちズも目を輝かせて可愛いとかやったー!とか言ってくれてる! ふふっ、これでクナイとか手裏剣とか持って決めポーズしたら私も忍者に見えるかも!

 

 

 

「――ところでアスト殿。もしそちらの装束、露出が多いと感ずるのであればすぐにでも別な……」

 

 

「? あぁいえ! これぐらいであれば実家でも良く着ていますし!」

 

 

「そ、そうでござったかの…。……うぅむ、バニーガールの者達然り、魔物の服装はよくわからぬ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では改めまして、我らが忍びの里を御紹介いたしましょう。どうか今暫くお付き合いくださりませな」

 

 

元の姿――作務衣&羽織の老爺姿へと戻ったニンゾウさんの案内で、いざダンジョン各所の確認へ。ってニンゾウさん、背を曲げ後ろ腰で手を組みながら歩いているのに、私よりも速い…! 流石忍者…!

 

 

「某共に限らず、大半の忍者は昔から此処のような隠れ里に集い住んでおるのですがな。近年、各里のダンジョン化が著しく広がっていっておりましてのぅ」

 

 

私の歩みに揃えてくれながら話を始めるニンゾウさん。そうだ、それが気になっていたのだ。何故忍者がダンジョンを? その疑問を折角なのでぶつけさせて貰うと――。

 

 

「なに、理由は皆様方魔物衆と大差ござりませぬ。常日頃より厳しき鍛錬を行う身ゆえ復活術が楽に行使できれば安心であり、忍術の源となるはそちらで言う魔力と同じ代物であるゆえに常に濃く維持したい。ですのでダンジョンは我等にとっても理想の地なのですぞ」

 

「そうなんですか!? つまり忍術は体系違いの魔法!? ならもしかしたら私も――!」

 

「うむ。腕次第ではござりまするが、問題なく忍術を行使できましょうぞ」

 

「あら、じゃあ多分私は無理ね~。チャクラとかならワンチャンあったかもしれないけど! 宙返りなら自信あるし!」

 

「ふぁっふぁっふぁっ! 犠牲に造形が何とも言えなくなりそうですのぅ!」

 

 

ま、またよくわからないことを……。あれでも、ニンゾウさんはすぐに笑みを収め――。

 

 

「冗談はさておきましてな。その後者の理由が此度の依頼が遠因となってしまっておりましてのぅ……」

 

 

複雑な顔で溜息を。後者の理由…即ち、魔力を潤沢に溜めるダンジョンの仕組み。それが一体どのように悪く働いてしまっているのだろう? が、私が考えを深める前にニンゾウさんは表情を明るいものへと。

 

 

「いやはや失礼を。いえ、今この話はよしておきましょう。まずはどうか、心置きなく我らが里をご堪能くださいませな」

 

 

気になるところではあるけど、そう仰るのであれば。ということで改めて歩み続けているダンジョン内へ目を。しかし、ダンジョンと言うよりは――。

 

 

「一目見た感じですと、村や街のような造りですね」

 

 

外周を山に囲まれ空は明るく。林や岩場や池などを遠くに田畑や小川を横に土の道が伸び、その道中には幾つもの住居が。他にも先程招かれたようなあばら屋敷もあれば、繁盛を見せる店舗群や立派な壁に囲まれた蔵、小さな城ぐらいなサイズの建物も時たまに。せせらぎと共に水車の回転音が聞こえたかと思えば、そこかしこから程良き喧騒が。

 

 

「まさしく忍者村ね!」

 

「……そうですか?」

 

 

社長の一言につい首を捻ってしまう。村は村だけど……忍者らしさはあまり。この辺りならばどこにあってもおかしくない景観な気が。なんなら道行く人々の服装に忍者装束はないし――。

 

 

「ふぁっふぁっふぁっ! いやはや、御二方共に的を得ておりまするぞ」

 

 

と、そこで頬を緩めたのはニンゾウさん。歩も緩め、周りの人々に目を向けながら続けてくれた。

 

 

「さしもの某共も、常に忍んでいられる訳ではありませぬ。故に平時の生活は俗人と変わらず食べ、飲み、働き、遊び、語らい、眠る。そう言った平穏なる日常を過ごしておりまする」

 

 

そう語りつつ、ニンゾウさんはふと人が集うシンプルな飲食店舗の前で足を止め――

 

 

「しかしながら皆、有事に備え――ちょいな」

 

 

えっ!? ニンゾウさん、今手裏剣を投げた!!? しかも今度は本物を、その店のど真ん中に――!

 

 

 

 ―――ドロンッ!

 

 

 

っわ!?!? 食事をしていた人が、近くを歩いていた人が、店員が、一瞬で丸太になったり煙に包まれたりして居なくなった!? 一体ど…こに……。

 

 

「このように。常在戦場の心構えでおりまする」

 

 

……流石、忍者。つい数瞬前まで普段着や店員服だった人々が全員忍者服を纏い、クナイや刀を向けながら片膝立ちで私達を囲んでいる…! 

 

 

「邪魔をして済まなかったのぅ」

 

 

ニンゾウさんが号令をかけると、私達を囲んでいた忍者達は一斉に立ち上がり一礼。そしてドロンと消え…というより元の場所へと戻って何事もなかったかのように食事や調理や通過を。勿論、服も元通り。

 

 

「成程…間違いなくここは忍者村、忍びの里でした……!」

 

 

「ふぁっふぁっふぁっ! 驚かして申し訳ございませぬ。因みにですが、忍者村らしく全ての建物には先のあばら屋敷のような仕掛けが幾つも施されておりましてな。某共は元より、ミミックの方々にとっても――はて? ミミン殿は何処に?」

 

 

「えっ? あれ!?」

 

 

いつの間にか腕の中にいない!? さっきニンゾウさんが手裏剣を投げる時まではいたのに! どこに――。

 

 

「おぉ~! 速~い! 頂きま~す! ん~美味しい~!」

 

 

あっ! さらっとあの手裏剣を投げられた店にいるし! 近くの席に座っている忍者達も驚いてるし! そして既に何か食べ始めてるし!

 

 

「いつの間に社長…!」

 

「だってラーメン美味しそうだったんだもん~! チャーシューだけじゃなくてナルトも大盛にしちゃった!」

 

「あ、ラーメン屋だったんですねここ。こんなお店も…」

 

「ふぁふぁふぁ! 主君よりの任務遂行時は干し飯や兵糧丸ばかりとなります故、里に居る間は気を緩めましてな。色々とスシや天ぷらや蕎麦等は言わずもがな、ラーメンやピザもござりまするぞ」

 

「え! ピザもあるんですか~!?」

 

「うむ、ピザタイムも思いのままに!」

 

「ワォ! カワバンガ!」

 

 

……また社長達がよくわからない会話を。あ、ラーメン美味しい。特にこの渦巻きのナルトが――ナルトって大体渦巻き模様では?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さて。間も無く到着いたしますのが、案内の最後にして此度の依頼が肝たる場にござりまするぞ」

 

 

忍者村を観光……じゃない、忍びの里の視察を行ってきたが、どうやらラストとなってしまったらしい。そこは他の場所よりかなり低い位置にあり、上から見ると全体的にかなり鬱蒼としていることがわかる……この高台から静かに見下ろす構図、なんだか忍者っぽいかも…!! マフラーも良い感じに風でなびいてるし!

 

 

――こ、コホン。えぇと……森林や池や岩場等は言わずもがな、断崖や滝にすら囲まれているからわかりにくいけど、ここは中々に広い敷地をしている。そこに大小様々な建物が幾つか立ち並んでいるのも見え、これぞまさに隠れ里といった雰囲気。そして、その場に居るのは……。

 

 

「「「いや――っ!! とりゃ――っ!!」」

 

「そう、その調子だ愛弟子達よ! その手の角度、腰の入れ具合を維持して手裏剣を投げるんだ!」

 

 

子供忍者と、それを指導している教官忍者! つまりここは――。

 

 

「アカデミーですね!!!」

 

「左様。忍者学校、忍術学園――要は次代の忍者を育成する教育施設ですな」

 

「成程道理であの崖のとこに顔岩がある訳で! どこにも無くて寂しいな~って思ってたんですよ~」

 

 

へ? 本当だ、社長の指さす先には何故か断崖の上の方に人の顔が幾つも彫られている。その内の一つはニンゾウさんのだし。里の主だから?

 

 

「きっと落書きされてますでしょ~? しかもそういう問題児に限って~?」

 

「察しの通りで! 然り、そのような子に限っていずれ里の長の座を継ぐやもしれぬほど――否、忍者界の大戦すら制するやもしれぬ力を秘めておりましてのぅ!」

 

「やっぱり! そしてラーメン好きそう!」

 

「ふぁっふぁっふぁっ! これまた御明察にござりまする!」

 

 

またまた二人だけで盛り上がってる社長達。うーん…。忍ぶ者同士ってこんなにシンパシーを感じる者なのだろうか…? なんだかこのまま蚊帳の外なのも少し居心地が悪いし、ちょっと割り込んじゃえ。

 

 

「ということはもしかして、その子が派遣依頼の要因ですか?」

 

 

忍ぶ技の指南役としてミミックを招きたい今回の依頼だが、ここまで見て来た限りだと忍者達の練度は充分。無論、それ以上の研鑽を積むためという理由もあるだろうが――。

 

 

「アスト殿もまた素晴らしき御活眼ですぞ! 然り、大方そのような所で。ただ…落書き小僧がというより、とある風潮が子供達の間で広まっておりましてのぅ」

 

 

どうやら問題児?は複数いる様子。それは一体どのような? そう聞こうとした、その時――!

 

 

 

「影分身のぉ術っ!!」

 

 

 

不意に子供の声が聞こえ、私達を囲むように沢山の忍者分身体が!? あ、あれ? でもこれ……。

 

 

「へへっ! どうだ!」

 

 

自信満々にドヤ顔を浮かべる子供忍者とその沢山の分身体。しかしニンゾウさんは小さく溜息をつき、社長は箱をごそごそ漁り――。

 

 

「はいアスト! これ使って!」

 

「へ? なんですこれ?」

 

「お仕置き手裏剣! さっき道中の雑貨屋で買った柔らか手裏剣よ!」

 

「そういえばお土産にとか言って買ってましたね……。えぇと……?」

 

「うむ、頼みまする」

 

 

目で問うと、ニンゾウさんは許可をくださった。じゃあ……多分こうしろってことだし…。魔法で操って、確実に――。

 

 

「えいっ!」

 

「ってばよッォ!??」

 

「「お見事!」」

 

 

投げたお仕置き手裏剣は、分身の一人のおでこを正確に捉えた! すると悲鳴と共にその分身は後ろへと軽く吹っ飛び、他の分身は一瞬で消滅。そう、私は数ある分身の中から本体を見つけ出し、ピンポイントで叩いたのである。

 

 

「くぅ…! な、なんでバレて…!?」

 

 

直ぐに起き上がり、何故気づかれたかを問う子供忍者。いやだって…えっと……。

 

 

「分身のどれにも足元の影がありませんでしたし……色も薄くて……」

 

「というかぶっちゃけ、分身全部崩れかけだったわね!」

 

「精進が足りぬ、という叱咤すら生ぬるいわ」

 

 

あぁ…一応言葉を選んでいたら、社長達がズバズバと。ま、まあそうなのだけど。正直、ニンゾウさんの完璧な分身と比べたら天と地の――ん!?

 

 

「火遁! 業火球の術!」

 

「危なっ!?」

 

「ッ…! 防がれた…!?」

 

 

なにか変な音がして振り向いたら…大きめの火球が飛んできてた!! もう一人、子供忍者が潜んでいたらしい…! 幸いバリアで難なく防げたけど……って、今度は上!!?

 

 

「しゃーんな――!」

 

「わわわっ!?」

 

「ろっ……えっ!? 躱され!?」

 

 

やっぱり上からもう一人降って来て、殴りつけてきた!? わわ、地面にヒビ入ってる…! よかった、気づいて……!

 

 

「ふふっ、そういうことですか!」

 

「お恥ずかしい限りで……」

 

 

へ? 私の腕の中のまま、何かを理解したらしくクスクス笑う社長。一方のニンゾウさんは苦々しい顔で、奇襲に失敗し慌てて武器を手に並んだ子供忍者三人衆を睨みつけて。

 

 

「これが依頼の種でござるのです。昨今、忍術に傾倒する者共が増えてきておりましてな。それ自体は悪いことだとは一概に言えませぬが……それにより、我らの本分――即ち忍ぶ技が軽視されるようになりましてのぅ」

 

 

この者達のように、と殊更に鋭い一瞥を向けるニンゾウさん。確かに、だって私ですら――。

 

 

「強いけど戦い慣れしていないアストですら簡単に気づいて対処できちゃうなんて! これじゃ幾ら凄い忍術を習得していても意味ないわね!」

 

 

そう、まさに社長の言う通り。先のニンゾウさん達やラーメン屋付近にいた忍者達に対しては、私は存在や動きすら見破れなかった。だけど、この子達相手だと違った。全部余裕を持って気づいちゃったのだ。

 

 

もしかしたら強い忍者達から順に見てきたから目が慣れたのかもしれない、とも思ったけど……そうだとしても、この子達は弱い。私のような素人にすら見切られる忍び具合であれば、折角の忍術も無駄同然である。

 

 

「派手な忍術に、目先の恰好良さに囚われ基本を蔑ろにするなぞ言語道断! これでは忍びとして大成はおろか、最早忍者と名乗ること能わぬわ!」

 

「そうよ~! このままだとアカデミー卒業できないどころか落第しちゃうわよ、たまごな忍者ちゃん!」

 

 

「「「うっ…!」」」

 

 

ニンゾウさんと社長に詰められ、後ずさりしだす子供忍者…忍者のたまご達。――と、流石にこのまま引き下がるのはプライドが許さなかったのだろうか、最初に仕掛けてきた子が一歩踏み出し…!

 

 

「なら……これでもくらえって! 『お色気の――!」

 

 

「待ちなさいな!」

 

 

「ばよっ…!?」

 

 

おや? 社長、その子の詠唱、もとい印結びをピシャリと遮って? そしてもっともらしく腕を組み……。

 

 

「今あなた、お色気の術を使おうとしたわね? つまり――えっちな術よね?」

 

 

「えっ……お、おう…。そうだけど……」

 

 

「はんっ! うちのアストの前で良い度胸じゃない! この、何もしなくても可愛くて美人でえっちな私の最高の秘書の前でっ!!」

 

 

 

「……へっ!!?!?」

 

 

 

しゃ、社長!? 今なんて!? 今、ニンゾウさんとこの子達の前で、なんて!?!?!?

 

 

「見て頂戴! このスタイルの良さ! 胸もお尻も出るとこは出て、ウエストくびれはしっかりすっきり……と見せかけて、ほんのほんのちょっとだけ油断のある締りよう!!」

 

 

「ちょっと!? 気にしてるんですが!?」

 

 

「それだけじゃないわ! 肩は滑らか、太ももは程よくむっちり、腕脚は色香放つ素敵な細さ! そしてそれを際立たせる、磨き抜かれ照るような角や羽や尻尾! 自分に無くても、この艶っぽさはわかるでしょう?」

 

 

私の腕の中より飛び降り、さあご照覧あれ!と言うように私を指し示す社長…! うっ……遮っていたもの(社長)がなくなったから、子供忍者達の視線が直に…!! ニンゾウさんは目を逸らしてくれてるけど…!

 

 

「そんなアストが、更にこんなピッチリセクシー忍者スーツを纏ってるのよ!? この全身に食い込まんばかりの衣装のおかげで、たわわなとこは触らなくても形がわかるぐらいにぷっくり! 締まってるとこもおへそや脇の形すら見えちゃうぐらいピンッ! 隙間から素肌がちらちらチラリでしっとり!」

 

 

「ちょっもう社長っ! いい加減に……っ!!」

 

 

いくらこの衣装が趣味改変の装束とはいえ…それを気にせず着ていたとはいえ、そんな言い方をされたら誰だって恥ずかしくなるに決まってる! というか社長、そんな風に思ってたの!?

 

 

でもこれ以上モジモジしてても、社長は止まらないどころかもっと恥ずかしい事言い出す! 悪化する! だからもう捕まえて黙らせるしか! えいっ――へっ!?

 

 

「あらあら、もう目が離せないみたいねぇ? そんな皿のようにしちゃって鼻血も垂らしちゃって! だけどまだよ! ここに触手をにゅるにゅるって巻けば~!?」

 

「えっちょっ、なっ…ひゃあんっ!? しゃちょ…!? もごっぉ……!?」

 

 

つ、捕まえようと思って迫って屈んだら……その瞬間に社長は目の前から消えて、代わりに私が社長触手に捕らえられて!? なんで……ひぃんっ!? 

 

 

か、身体の先から這いずるようにして胸や腰に…! 纏わりつくように、締め付け絞り上げるように、摘まみ弄るように…!! く、口の中にも!? ひゃ、ひゃめ……! ひっあっ…♡ んあっ……♡ くひぃん……♡

 

 

「どうかしらぁ!? これでもまだお色気の術を使う気かしら? 勝てる気なのかしらぁ!?」

 

「――ブフッ……。か、完敗……だっ……て……ば……」

 

 

屈む私を縛り上げた社長は何故か誇らしそうに……! 対して印を結んでいた子は勢いよく鼻血を噴いて倒れて! そのまま他の子達に引きずられながら逃げていった……。

 

 

「ふんっ! イチャパラでも読んで勉強しなおしなさ~い! …いやそれは駄目ね。青少年だもの」

 

 

ひゃ()ひゃの(あの)!? ひゃやふ(はやく)ひゃいほう(解放)ひへふははい(してください)!! ひゃいひゃい(大体)ひゃんへ(何で)ひはっへ(縛って)!?」

 

 

「だって忍者は縛るものよ! そういう服着てるなら猶更ね!」

 

 

「……捕り縄術を指しておりますのか、幽囚時の典型例を指しておりますのかはわかりかねまするが……どちらにせよ、その縛りようはやはり趣味の代物にござりましょう」

 

 

目を背けてくれたままそう指摘してくれるニンゾウさん。私がなんとか解放されてから、咳払いひとつと共にこちらへ向き直った。

 

 

「話を戻させて頂きまする。今しがたの子達のように、忍ぶ技を疎かにする者が増えてしまいましてな。悲しきかな、此処がダンジョンというのもそれに拍車をかけておる次第で」

 

 

あぁ成程。先程の発言…『潤沢な魔力を溜めるダンジョンの仕組みが悪く作用してしまっている』の真意はそういう。――魔法を扱う場合、常に体内の残存魔力と相談しなければならない。なにせアイテムや特殊な方法を使わない限り自然回復を待つしかないのだから。

 

 

しかし、ダンジョンに棲めばその自然回復量は大幅に強化されるのだ。普通なら一日かかる魔力量でも一時間かからずにチャージし終わるほどには。しかしそれ故に、大技魔法が考えなくバンバン発動できてしまうのである。派手で格好良くて強い魔法(忍術)が。

 

 

最も普通ならそれは利にしかならないが……忍者達にとっては忍ぶ技が軽視される要因になってしまった訳で。難しい忍ぶ技より手軽に連発できる忍術があればそちらがとられてしまうのも仕方なし。

 

 

「その考えを正すのも当然某共の責でありまするが……如何せん指導する立場の者も忍者、忍術との併用を前提とした動きしか出来ぬ者が多く、中にはそれすらも……」

 

 

ニンゾウさんは深い溜息をつき、目の前に広がる忍者学校へ視線を移す。そして丁度到着したのであろう、遠くで走り(一名は引きずられて)帰ってゆく先程の子供忍者達を見つめながら首を横にゆっくり振った。

 

 

「そのような中途半端の腕で幾ら指導が為されようとも、当然の如く改心に繋がる訳がなく。それどころか下手すれば忍術至上の助長に繋がってしまい――。ほとほと困り果てておったのです」

 

 

その言葉の節々からは忸怩たる思いが滲み出て。色々手も尽くしたのであろう、しかしどれも解決には及ばなく。そんな時に出会った相手こそが――。

 

 

「けれども、生来にして忍ぶ力を持つミミックの方々であれば! 主君の護衛につけた手練れすらをも唸らせる忍び技を持つ貴方がたであれば! 必ずや、新しき風となりましょう! どうか改めてお願いいたしまする!」

 

 

またも深々と頭を下げるニンゾウさん。そして社長の返答は勿論……!

 

 

「えぇ! お任せください!」

 

 

「……あれ、もう良いんですかあの変な承諾の掛け声は?」

 

 

「だってもう作品違うもの!」

 

 

またも謎に返してきた社長。そしてそのまま、ニンゾウさんへとあるお願いを。

 

 

「ですが折角ですし~ここ(忍者学校)の調査がてら、もっと忍者体験をしてみたいで~す!」

 

 

「ふぁっふぁっふぁっ! それは願ってもない事、問題児ばかりではありませぬことも是非見届けていってくだされ!」

 

 

ニンゾウさんはにこやかに了承を。――と、不意に思い出したように『ですが』と付け加え……。

 

 

「……変なことは教えないでくだされな?」

 

 

「は~い! 子供向けで行きま~す! 朝とか夕方ぐらいにアニメ放送できる感じで!」

 

 

……もはや何が何だか。まあもう触れない方が良いかもしれない。なんだかこの忍者装束が何かの倫理に引っかかりそうな気がするし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで早速忍者学校内へ! 以前依頼ついでに魔族学園で学生体験をしたことがあったけど、ここはそれとは全く違う。座学の教室に畳敷きで直に座るところがあったのも驚きだが……それよりも目を見張ったのが修練場の充実具合。

 

 

忍術、そして忍びの技を鍛えるため、ありとあらゆる修行の場が揃っていたのだ。この規模、我が社よりも…! 私達はその中から気になるところを選び、いざいざ忍者体験を!

 

 

 

「――えいやっ!」

 

「ふぁっふぁっ! うむ、またもや見事命中にござりますぞ!」

 

「やった! 今日でなんだか投擲が上手くなった気がします!」

 

「手裏剣投げハマってるわね~。ニンゾウさんに触発されちゃった?」

 

「ふふっ、はい! それに私も魔法に頼り切りなところがありますし、このままだと皆さんの事は言えないかなって」

 

「そうかしら? まあでもいい心がけね! その勢いで私まで投げないで頂戴ね?」

 

「いや投げませんよ!? ……いえ思い返してみると割と投げてますね。緩やか且つ、社長の指示ありきですけど」

 

「あら確かにそうね! ならやっぱり、今度何かあったら私を手裏剣として投げてみる?」

 

「いやいや…! まあ社長、投げたら本当に手裏剣みたいに相手に突き刺さっていきそうですけど……ところで社長、それ、何を?」

 

「ん? ちょっと試してみたいことがあって! 手裏剣沢山借りて来ちゃった!」

 

「箱から溢れるぐらいにですか!? 一体何を……」

 

「中々に興味深い技を披露してくださるようでしてな。周囲の皆の退避は済んでおりますぞ」

 

「えっ!? 皆さんいつの間にか遠くに…!? 何か嫌な予感が…!」

 

「だいじょーぶよ! しっかり調整するから! 丁度良いわアスト、成果の見せ所よ!」

 

「えっ!? 本当に投げるんですか!? しかも回転させながら!? せ、せーの……えいっ!」

 

「いやっほー! そして~~とりゃりゃりゃりゃあっ!!!!」

 

「えっ!? ちょっ!?!? わわわわっ!!?」

 

「おぉおぉ! これは見事! 竜巻の如く回転しつつ、手裏剣を辺りへ投げ散らすとは! しかしそれでいて的に全て当ててゆくとは……タツジンどころではありませぬな!」

 

「よっと! へへ~ん! これぞミミック流、忍者がどこから手裏剣を出してるか問題解決術! そして忍者は回転攻撃をするものでしょう?」

 

「ふぁっふぁっふぁっ! それまた存外的を射ておりまするな!」

 

「な、なにがなんだか……」

 

 

 

 

……と、手裏剣練習場で投げさせて貰ったり――。

 

 

 

 

「――アスト、ゴール! よく頑張ったわね!」

 

「ふ…ふぅぅ…! はひぃ……はひぃ……! ま、魔法使っても難しかったです…!」

 

「そりゃそうよ! 忍術使う前提のコースみたいだし!」

 

「然り。加えてこれは素人向けではございませぬ。それながら不正なく突破なされるとは御立派にございまするぞ」

 

「頑張った甲斐が…はぁ…はぁ…!あ、ありました…! でも、この服のおかげもあるかもしれません。なんだかとても動きやすくて、魔法の使い勝手も普段以上に…!」

 

「うむうむ、趣味の改造がなされども忍者装束に変わりありませぬようで。戦場にて体術や忍術を最大限にまで引き出すのを目的とするスーツですからの。ただの仮装でないことを証明できまして何よりで」

 

「やっぱり私もそういうの着てみたかったわね~。サイズ無いんだって。あと絵面が危ないとかなんとか」

 

「ああ、なるほど……。いやでも今更な気が……。というか社長、これ着てなくても凄い勢いで駆け抜けてたじゃないですか!」

 

「いやはや、あれは鮮やかにござりました! 宝箱の身のまま、幾重もの塀をどれもひとつ跳びで越え、地を刃で固めた樹林をまるで梢を飛び動く鳥のように難なく攻略し、道具や術を用いるのが基本の深き沼を水黽(あめんぼ)もかくやの勢いで滑るように移動し、覚悟を決めた突入を余儀なくされる無限矢衾(やぶすま)の間を岩場を撫でる清流の如くすり抜け――!」

 

「道中の綱渡りや音鳴りの床も何事もなかったように渡り、微かにでも触れたら崩れる瓦礫の山潜りも簡単に終わらせ、手裏剣による全面的当てはさっきの大技で! 暗闇迷路エリアからの巻物回収なんて回収を忘れたどころか壁ごと突っ切って来たんじゃないかってぐらい早かったですし、巡回傀儡からの潜伏回避はもはや流石社長としか…!」

 

「えへへ~! そう説明されるとくすぐったいわね! 時にニンゾウさん! 他にも色々障害物があったじゃないですか! 例えば4つぐらいの飛び石で越えてく水場とか、丸太が魚の骨みたいに並んで回転しててそれを避けるやつとか、指の力だけで渡っていくクリフなハンガーとか、そり立つ壁とか! もしかして、ここの名前って~?」

 

「ふぁっふぁっふぁっ! かつて考案した忍者の名前がつけられておりましてな! その名も『佐助』と!」

 

「やっぱり! 脱落者多そう~!」

 

「……あのでもニンゾウさん、ひとつ意味がよくわからないエリアが…」

 

「ほう、なんですかな?」

 

「その、何故か振ってくるちくわを回収するところがちょっと……。しかもちくわに混じって鉄アレイまで……」

 

「それも忍者伝統の修行法よ! 多分ハットリさん考案でしょう?」

 

「然り! ご安心くだされ、ちくわは手に取ればわかる通り偽物。食べ物は無駄に致しませぬ。……でないと後が怖いですからのぅ」

 

「いやそこじゃ……まあ良いです…」

 

 

 

 

……と、訓練コースを体験してみたり――。

 

 

 

 

「――それで、指の形はこうして、こうして、こうです!」

 

「えぇと、こうして、こうして、こうして…『身代わりの術』! ――わっ!?」

 

「おおお~! アストが丸太になった! あ、勿論忍術的な話よ?」

 

「とっとっと…! いやそれ以外に何が…? 成程、短距離転移術と簡易召喚術の複合技なんですね。それを印結びによる詠唱で纏め上げて。忍術って凄いですね!」

 

「凄いのはアストさんのほうですよ! まさかもうマスターしちゃうなんて!」

 

「いえいえ、教え方が上手だったからですよ! じゃあ約束通り今度は私が教えますね! どんな魔法が良いですか?」

 

「で、では折角ですので派手で強そうな魔法を…!」

 

「えぇ! じゃあまずは――」

 

 

 

「――と、最後に詠唱をお好きな言葉で締めれば!」

 

「――『稲光を纏いて出でよ、雷龍(サンダードラゴン)』! うわわわわ! で、出たぁ!? おっきな雷製の龍が!?」

 

「おお~!」

「これまた見事な!」

 

「ぼ、僕がこんな大技を使えるなんて…! 魔法って凄い……! いや多分凄いのはアストさん…!」

 

「ふふっ! 魔法、もとい忍術の基礎が出来ていたからですよ! …あ、でも……。派手めの技って……」

 

「いやいや。某が憂慮しておりますのは術にかまけ忍ぶ技が疎かとなること。両方を習得せしめれば向かうところ敵なしとなりえましょうぞ」

 

「はっ、里長様…! 精進いたします…! で…ですが……アストさん申し訳ありません……この魔法、実践に投入するのは暫く……ふにゃぁ……」

 

「あっ!? もしかして魔力切れ!?  倒れ――危な――っ!」

 

「――よっと。座れるでござるか? 成程でござりまするな。これぞ里長様方指南役の懸念事項が一つなのでござりましょう。忍術ばかりを用い任務中に倒れてしまうなど、危険どころで済む話ではありませぬし」

 

「えっ!? えぇっ!?!? も、もう一人忍者!? というか、さっきまでいた子!?」

 

「いえ、アストさん。(わたくし)めはずっとおりましてござりまする。アストさんやこの子の周りで指南を聞いておりました」

 

「えええっ!?!!? で、でも、どこにも姿が…! ほ、本当ですか!?」

「ぼ、僕も……気づかなかったんだけど…!」

 

「うむ、ずっとおりましたぞ」

「ええ! いたわ! 私が教えた潜伏技を駆使してね!」

 

「! いつの間に…!? ずっと全く気付きませんでした…!」

 

「私め自身も驚いておりまする。まさか少し呼吸法や足運びを変えるだけでここまで忍べるなんて…!」

 

「ふふ~、忍び技の基礎が出来てたからよ! じゃあ今度は指南役交代する?」

 

「お願いいたしまする!」

「ぼ、僕も是非…!」

 

「ふぁっふぁっふぁっ! 他にも教えを授かりたい子が集まって参りましたぞ。お手間でござりましょうが――」

 

「「お任せください!」」

 

 

 

 

……と、生徒忍者達と忍術や魔法や技の教えあいっこをしたり――。

 

 

 

 

 

『ふふふ~! さあ、私がどこに隠れているかわっかるかな~?』

 

「拙者達は次は向こうを! あちらは――」

 

「拙共が! 絶対に見つけ出すぞ!」

 

「先程、ここの回転壁を潜って行って……」

 

「屋根裏を走っていった音がしたはずですのに…!」

 

「! 今掛け軸裏の隠し通路で物音が!?」

 

「くっ…! 探知の忍術が意味をなさない…!」

 

「ここか!? 違う…! こっち……ここも違う!」

 

「もはや遊戯の類ではありません! 真剣に!」

 

「やってまする! やってまするが……」

 

「何処を探しても影も形もなく……」

 

「ミミックだということを加味しましても……」

 

「我らは一瞬で大敗を喫し、逆の立場では僅かな痕跡たりとも見つけられぬとは…!」

 

「これでは忍者の沽券に……!」

 

「……本当にこの屋敷の中に?」

 

 

「――翻弄されておりまするなぁ」

 

「翻弄していますね。でも皆さんの動きも凄いです! 壁を一足で登ったり天井に張り付いたり増えたり化けたり! 私じゃ追えないぐらいで…!」

 

「ふぁっふぁっ! しかしそれでも尚…このように大人数で、手練ればかりを集めておるのに見つからぬとは……ミミン殿は規格外ですのぅ」

 

「社長が本気を出すと、基本誰も見つけることは出来ませんから……まあでも、まだそこまでじゃないみたいですけど」

 

「む…!? つまり、アスト殿にはミミン殿の居場所がわかると言う事ですかな…?」

 

「そこまでの確証はないのですが……まあ、大体この辺りかなというのは勘と感覚で…」

 

「それはなんと…! いや不面目ながら、某を以てしてもこの屋敷内に潜まれていることこそは把握すれどもそれが何処かは。流石は秘書役でござりますのぅ」

 

「いえいえそんな…! 社長の動きとか癖とかを知っているだけですので…!」

 

「……恥を忍んでご教示を乞うても宜しいですかな? ミミン殿はどの辺りに?」

 

「えぇと……。多分、その……」

 

「? 某を……――ッ! もしや…!?」

 

「えぇ、そのまさかですよぉ…! ニンゾウさん、背中お借りしてま~す…!」

 

「…ふぁっふぁっふぁっふぁっ! いやはやいやはや、これは完全に兜を脱がなければなりませぬなぁ」

 

 

 

……と、教員忍者や熟練忍者を集合させての社長探しをしてみたりと! 色々と視察名目で遊ばせて頂いた! ふふっ、良い体験ができた!

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで気づけば日も暮れかけ。お腹も空いてしまったので、またまた食事を摂ることに。聞くところによるとこの忍者学校には名物的な食堂があるらしい。

 

 

学外の人でも気軽に利用が可能なようなので、ニンゾウさんにお願いをして連れて来てもらったのだが――。

 

 

「それにしても……今更ではありますが、よろしいのですか? 私達と契約を交わしてしまって」

 

「ふぁっふぁっ、良いのですぞアスト殿。忍者も半ば狐狸衆や妖怪衆と同じ扱いをされておりますでな。それに、主君からも許可は得ておりまする」

 

「あら! 頭を思いっきり臼で潰しちゃったのに?」

 

「えぇ……!? なにしてたんですか社長……?」

 

「ふぁふぁふぁ! いやいや、当代の主君は若いながらも分別を心得た御方でな。ミミン殿の一撃のおかげで目を覚まし蛮行を詫び、それが功を奏しカグヤ殿と文仲となったのですぞ」

 

「ええぇ……そ、それは良かったです…!」

 

「うむ。そして、ダンジョンでのミミックの活動に妹君共々、某共以上に感服しきりでしてな。この請願、即決でござりましたぞ」

 

「ふふっ、有難い限りです! 宜しくお伝えくださいな!」

 

「えぇ! ひょっとすると感謝の文と詩が届くやもしれませんぞ!」

 

 

「――あ、アストさん! 社長さん!」

 

「里長様も。どうか私め共もご一緒させてくださりませ」

 

「ドーモ。拙共も宜しいでしょうか?」

 

「如何でしょう御二方、その装束の着心地は?」

 

「どうか次作への参考のためお教えくだされば…!」

 

「失礼、拙者達も相席をお願いしたく」

 

「社長殿、先の屋敷での潜伏時は一体どのような道筋を…!?」

 

「途中までは追えていたはずですが…いえ、もしやそれ自体がまやかしで…!?」

 

 

 

お会いした直後のようにニンゾウさんと向かい合って定食を頂いていると、生徒忍者やくのいちズ、熟練忍者達といった今日お会いした忍者の方々が次々に! そして場は和気藹々と!

 

 

 

「――なんと! アストさんも特殊な眼をお持ちなのでござりまするか!?」

「す…凄い…! それって里長様とか一部の一族とかしか使えないのに…!?」

 

「そういえばニンゾウさんそんなの使ってましたね~。輪を写したみたいな!」

「うむ。最も即座に見破られ無効化されてしまいましたがのぅ!」

 

「あぁいえ、私の魔眼は戦闘に使うものではなくて。物の正体や値段とかを見たりするためのなんです」

 

「そうでござりましたか。…そういえば、一年は組にも目が……」

「! お金の模様になる子がいる! もしやあの子もそういう…!?」

 

「それはあの、眼鏡の子とよく食べる子とよく一緒にいる子だろう?」

「あぁ、あの子か。いや、あの子はまず間違いなく……」

「ただただがめつい性格なだけだと思うよ……」

 

「そ、そんな子がいるんですね…」

「絶対忍者たまごな三人組ね!」

 

 

 

 

「――という『口寄せの術』なる召喚忍術がございまして。忍犬や大ガマ等、味方を短時間ながら呼び出せることができるのです」

 

「まあ拙共はそれを衣装係呼び出しとして重宝したりもしているのですが、もしアスト殿がそれを習得めされれば…!」

 

「どこでも社長を呼ぶことが出来る!?」

「いいわね! 是非習得させて貰いましょう!」

 

「では食事後、お時間をくださいませ! お教えいたします!」

 

「是非! ふふっ、それを使えば社長が何処かにサボリ逃げてもすぐに呼び出せるかも!」

 

「あっ…………ね、前言撤回しちゃ駄目?」

 

「駄目です」

 

「そんなぁ……」

 

「ふぁっふぁっ! 緊急時の増援、あるいは書類の署名や確認が必要な際の呼び出し等のため学んでおいて損はありますまい。それに互いの信頼が必要な忍術故、絆の明証として受け止めるのも宜しかろう」

 

「…なんだかそう聞くと良い感じかも! アスト、私達の絆を証明しましょう!」

 

「えぇ! でもだからといってもっとサボるようにはならないでくださいね?」

 

「は~い! ――あ! これなら『拙者はこれにてドロンさせて貰いまする』が出来るかも!?」

 

「いやそれ、社長ならやろうと思えばすぐにできません…?」

 

 

 

 

そんな風に沢山の忍者達に囲まれ楽しく食事を! あぁ、何か既視感があると思ったら…ちょっと我が社の食堂環境に似ているのかもしれない。本来静かに潜み忍ぶ存在達が、こうして集って賑やかに。見る人が見れば凄く奇妙な光景であろう。

 

 

そしてだからこそ、いずれここに派遣されるミミック達もすぐに馴染めてしまうに違いない! ふふっ、忍者の中にミミックが溶け込んでいる光景を想像したらなんだか面白――。

 

 

「そういえばアストさん、社長さん、嫌いな食べ物とかってないですか?」

「もっと言えば、今日の定食の中に食べられない物などは……」

 

「へ? 無いですよ? あまり好き嫌いはありませんし」

「とっても美味しいからお残しなんてできないわよ~!」

 

「「それはよかった!」」

 

 

席を共にしていた生徒忍者が、急にそんなことを? そして安堵の息を? 意図がよくわからず首を捻る私達に、彼らは声を潜め気味に教えてくれた。

 

 

「いえ実はこの食堂…食べ残しにはかなり厳しくて。ご飯を作ってくれているおばちゃんの方針なんですが……普段は優しいんですが……」

 

「そしてとても美味しいご飯を作ってくれるのでござりますが……怒らせてしまうと凄まじく怖く…。里長様ですら敵わぬ最強の忍、とも……」

 

 

……俄かに信じ難いが、どうやらそれは冗談ではないらしい。なにせ大人である他の周囲全員も一斉に頷いたのだから。それでハッと気づいた。

 

 

「そういえばニンゾウさん、ここに来る際少し渋り気味でした……。――あ、そういえばあの訓練コースで仰っていた『食べ物を粗末にすると後が怖い』というのはもしかして……あれ、ニンゾウさん?」

 

「あー……。これ駄目ね」

 

 

ふと顔を窺うと…ニンゾウさん、顔面蒼白で箸を止めている…!? さっきまであんなに楽しそうにお喋りしあってたのに! ニンゾウさんより強い人がいる、と聞いて気を害した訳では…なさそうである。

 

 

「里長様!? ……あ! 切り干し大根に刻み椎茸が!?」

 

「いやこれぐらいほとんど味はしませんよ…! ですから一息に!」

 

「いけませんよ、いけませんからね…!」

 

 

どうやら嫌いな食材が入っていたらしい。彼の隣に座る忍者達はまるで好き嫌いをする子供へ諭すような、しかしそれでいてやけに必死な説得をするが……余程受け付けないのだろう、ニンゾウさんは口に運ぼうとしない。

 

 

「……かくなる上は。御免」

 

「あぁっ…!」

「もう…!」

「里長様ぁ…!」

 

 

え? あっ、椎茸がドロンッと消えて…! 何処かに消してしまったみたい。そしてそれを見た周りはこの世の終わりかの如く頭を抱えて。まあ確かにいけない行動だけど、そこまで怯える必要…は……――!?

 

 

「……えっっ!? い、いつの間に!?!!?」

 

「おぉ~。私並みかもしれないわね!」

 

 

ま、全く気付かなかった……! 確かに周りには食事を摂っている人々が沢山いる。だけど…だけど…私は今、瞬きすらしていない! 視線すら外していない! 

 

 

なのに、ニンゾウさんの背後に…背後に……っ!!

 

 

 

「里長様、お残しは許しまへんでェ」

 

 

 

割烹着を着たふくよかな身から……業炎の如き憤怒のオーラを放つ、食堂のおばちゃんが!!?

 

 

 

 

 

 

「っぁぉ……! こ、これはの……後で纏めて…!」

 

 

身を震わせ、されど顔すら動かせぬまま釈明をするニンゾウさん。しかし――。

 

 

「言い訳は無用ですッ!」

 

 

食堂のおばちゃんはピシャリ一蹴。取り付く島もない。しかも手をコキコキ鳴らし……。

 

 

「お客様の前ですから拳骨は一旦控えますが……次はありませんからね」

 

 

鋭い威圧…! わっ、次の瞬間には私達へ照れたように微笑みを……!

 

 

「ごめんなさいねぇ、お客様の前で恥ずかしいところを。お口に合えば良いのだけど…」

 

「すっごく美味しいですよ~! ね、アスト!  あ、おかわり良いですか?」

 

「あらまぁ嬉しいねぇ! たんと食べてってねェ。でも……」

 

「勿論、お残しは絶対にしませんとも!」

 

 

社長がそう返すと、食堂のおばちゃんは満面の笑みで厨房へと普通に帰ってゆく……。それと同時にずっと身を縮こませていた忍者達はホッと一息。

 

 

社長には敵わねど、見事な手裏剣捌きや忍術や技を見せてくれた彼らがこの有様なのだ。あの方が最強の忍だというのも嘘ではないのかもしれない。

 

 

「いやはや、面目次第もございませぬ……。実は某、茸の類が大の苦手でしてな……。この齢になれどもどうも……」

 

 

嵐をやり過ごしたニンゾウさんはそう吐露を。それに対し社長は納得したようにポンと手を打った。

 

 

「道理であの串焼きに茸が無かったわけで!」

 

「ふぁふぁふぁ、お気づきでしたかの。然り、そういう次第にござりまして」

 

 

良かった、空気が直りかけている。このままいけば元通りに――……。

 

 

「…あれ、そういえばあの串焼きってどうなったのかしら? まだ結構余っていたはずだけど」

 

「あぁ、それならば私が着替えている間に片付けて貰――」

 

 

「「「あっ……!」」」

 

 

「へ? ……ひっ!?」

 

「……これ私やっちゃったわね……」

 

 

く、くのいちズの声でようやく気づいた……。うん、確かにあれも『お残し』ではある。それが最終的に誰かの胃の中に収まっていたとしても、問題はそこではないだろう。用意した本人が残したという事実は変わらないのだから。

 

 

――少なくとも、彼女はそう考えているに違いない。だってそうでもなければ……もはや激昂した瞳だけしか見えぬほどの漆黒なシルエット圧を携えた食堂のおばちゃんが、ニンゾウさんの背後に立たないもの!

 

 

「「「「里長様、御免」」」」

 

 

あっ! 里長様を囲んでいた忍者全員、身代わりを残し姿を消し…もとい、距離を取って! 周りにいた他の忍者達も慌てて退避を! そして、当のニンゾウさんは――。

 

 

「もはや詮無し。目先の享楽にかまけた某に非がありまする。まさしく、インガオホー…」

 

 

あぁっ! 罪を認め受け入れ態勢に! そして食堂のおばちゃんは容赦なく……!

 

 

 

「お残しは――許しまへんッ!!!」

 

 

 

「ひゃあっっ!! う、うわぁ……ニンゾウさんが床板破って……」

 

「土遁の術みたいに地面の中へ叩きこまれたわね……。えぇと、ご無事ですか~…?」

 

 

ぷりぷりと怒り心頭のまま厨房へ戻っていく食堂のおばちゃんを見送りつつ、埋められたニンゾウさんへ声をかけると――。

 

 

「かふっ…堪えますのぅ…。椎茸を食べるのも、また……」

 

 

わっ!? ニンゾウさん、ドロンッと共に戻ってきた…! 今日一の苦い顔で椎茸を食べながら! でも罰は受け入れたらしい、頭に大きなたんこぶが出来てしまっている…。

 

 

「時にミミン殿、ミミックの皆様方に好き嫌いは?」

 

「全くと言っていいほどないですね!」

 

「それは重畳。彼女と良き仲になれそうですのぅ」

 

 

壊れた床を忍術で修復しながらなんとか椎茸を食べ終えたニンゾウさんは、よっこいせと席に。そして社長との模擬戦でも出していなかったであろう大きな疲労の息をふぅぅう…と吐き――。

 

「……ミミックの誰かしらに我が身へ潜んで貰えれば、彼女を謀れるやも……?」

 

 

罰は受けども勝るは嫌いな食べ物のようで…。懲りずにそんな計略を。でも……えぇと……。

 

 

「あの……ニンゾウさん」

「それはもう無理かと」

 

 

私と社長でそう忠言を。だってニンゾウさんの後ろには、三度目の……。

 

 

「お残しは――」

 

 

「んぐッ!? じょ、冗談でござる! 冗談でござるからの!!」

 

 

 

「…あの拳骨、防御してるミミックにもしっかりダメージ与えそうですね」

 

 

「多分効くわね! 流石食堂のおばちゃんってとこかしら!」

 

 

「やっぱり。ところで……なんだか今日、食べ物の話題多くないですか?」

 

 

「そりゃそうよ!忍者だもの! 忍者メシってね!」

 

 

「??? なんだか煙に巻いてません?」

 

 

「忍者だけにね!」

 

 

「は、はあ……?」

 

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