ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある自惚れ生徒忍者と忍箱③

 

 

「ゲコッ!」

 

「ござぶへっ!?」

 

「あ、ちょっと~! 受け身取んなきゃ駄目でしょ? 気ぃ抜きすぎよ~!」

 

 

きゅ、急に大ガマが拙者を投げ捨てたでゴザル! 折角うとついて……もとい、瞑想していたところでゴザルのに! そのせいで顔から地面に突っ込んでしまったでゴザル! もっと丁寧に扱えでゴザル!

 

 

まあしかし、甲斐あって忍術の源はほぼ完全回復したでゴザル! フッ、ミミックめ。拙者に休息を与えたこと、後悔するでゴザル! 早速起き上がり、必殺の大技で先々の無礼のツケを――!

 

 

「休憩は充分、やる気も満々。そうこなくっちゃ! で・も・良いの~? ここがどこかわかってないのに~?」

 

 

む…!? 大ガマの口寄せを解除したミミックは、笑いながら拙者の後ろを指し示したでゴザル。そういえば一体何処に連れてこられたでゴザル? 寝…瞑想していたからわからなかったでゴザルが……なっ!?

 

 

「ここ、町の入り口でゴザルか!?」

 

 

いつの間に学校の敷地を離れ、こんなところに!? いや、この忍技術試験は里全体が舞台。故に試験自体は問題なく継続しているでゴザルが……これはマズいでゴザル!!

 

 

「さてさて! それでは実践の時間でござる~! 今からの闘いの場は、丑三つ時で草木も眠る町中。特別ルール、ちゃぁんと把握しているかしら?」

 

 

「ぐっ…! 当然わかっているでゴザル…! 『町の方へ出た場合、誰かしらに気づかれたら即不合格』…!」

 

 

つまり……ここから先、派手な動きは厳禁と言っていいでゴザル。まさかこのルールの下で試験を行うことになるとは…おのれミミック、なんて卑怯な!

 

 

「そしてお姉さんもルールチェンジ~! 一撃当てたら合格なのはもう最後まで継続よ。だけど、こっからは動きまくっちゃうし仕掛けまくっちゃう! ほ~れほれこんな感じに!」

 

 

うっ!? ミミックが拙者の周りを高速でグルグルと! このっ! くぅっ…いくら光手裏剣を投げても当たらないでゴザル!

 

 

「それじゃ行きましょうか! 今までの学びを活かしてお姉さんを捕まえてご覧なさ~い!」

 

 

そのまま町へと走りだしたでゴザル!? み、見失う訳にはいかないでゴザル! 待つでゴザルッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――遅っそくない? 随分とへっぴり腰ねぇ」

 

「しーっ! 声が大きいでゴザル……!」

 

「ん~? 声ちっちゃくて聞こえないなぁ~?」

 

「このっ……!」

 

 

別に拙者だって好きでこんな遅く動いている訳じゃないでゴザル! ここは既に町中、灯りの殆どは消えているでゴザル。何処に誰がいるかわからない状況で大きなアクションをするわけにはいかないだけでゴザル!

 

 

「そうねぇ、少し教えてあげる。この時間、灯りは逆に目印になるわ。ほぼ間違いなくそこに人がいるでしょうから」

 

 

何を当たり前なことを! 確かにチラホラ明かりが灯っているところもあるでゴザルし、なんなら何処かから微かに酔いどれの笑い声らしきものも聞こえてきてたりするでゴザル。

 

 

けどそんなの、ただ難易度上がってるだけでゴザル! 静まった夜で下手に動いたらそいつらに勘づかれてたちまちバレるでゴザル! だからこうして柄にもなく忍び足を…あぁ面倒でゴザル!

 

 

「どっかであんまり怖がらないホラーゲーム実況とかしてないかしら~?」

 

 

なのにミミックは拙者の前をスキップするかの如く跳ねてるでゴザル! 夜の散歩をしてるわけじゃないでゴザルぞ! でもこんな隙だらけに見えるのに、やっぱり手裏剣を投げると――。

 

 

「そう警戒し過ぎなくても良いのよ? そりゃみんな忍者だから子供の潜伏なんてわかるし、ある程度は見てみぬふりするのが決まり事……ケホン。ともかく、肩肘張っていると簡単なことで足元掬われるわ」

 

 

全部軽やかに避けながらそんなこと言ってくるでゴザル!  くっ……ここが町中でなければ大技で仕留めて見せるでゴザルのに! この辺りは白壁と川堀が続く人気のないエリアだとはいえ、そんなことをすれば――……。

 

 

「あら早速」

 

 

ん? ミミック、何を……。 っ! 少し離れた道の先、曲がり角の辺りに揺れる小さな光が二つ現れたでゴザル! あれは間違いなく提灯の灯り! つまり――!

 

 

「誰かがこっちへ来てるでゴザ……何処行ったでゴザル!?」

 

 

気づけば目の前にいたミミックの姿が消えているでゴザル! そして、何処からともなくの声が。

 

 

「ほら早く忍ばないと。一発不合格になりたいの?」

 

 

ぐっ……それは! しかしこの白壁と川堀に挟まれたこの場、隠れる場所なぞ何処にも……! けど、もうすぐにここまで……! こ、こうするしかないでゴザル!

 

 

「――ふぁあ……。眠いなぁ。なんだってこんな時間に見回りなんて…」

「ま、悪い冒険者連中がこっそり来やすい時間だしな。みんなの安眠を守るため頑張ろうぜ」

 

 

……少しして、足音と共にそんな声が聞こえてきたでゴザル。こっちの気も知らず、提灯をぶら下げてのんびりと……!

 

 

さっさと通り過ぎるでゴザル! こっちは水渡りの忍術と草遁の合わせ技を駆使し、堀の内側に張り付く雑草の茂みを作って隠れてるんでゴザルぞ! くっ…拙者がこんな目に遭うとは……!

 

 

大きなゴミの沈んでいる川面に近いせいで泥臭いでゴザルし折角の装束は汚れるでゴザルし……! 何より緊急事態とはいえ、あのミミックの教えとやらに従うことになったのが癪でゴザル!

 

 

『生き物、動くものとして相手に認識させてはいけない。景色の一部に溶け込むように、まるで初めからそこにあったかのように振舞うのが鉄則』――それが忍ぶ技の第一歩、気配を消しきるための……あぁなんで拙者覚えてるでゴザルか! こんなの聞き流していいでゴザルのに!

 

 

「言うても並みの敵だったら皆寝てても気づけるしなぁ。……あぁ、でもそうか」

「やっと気づいたか。暫くは試験期間だ。こういう役回りは居ないとな」

 

 

って、あの見回りまだ通過してないでゴザルか! さっさと通り過ぎるでゴザル! そうして早くこの忌々しい状態を解除させるでゴザル! さあ早く、さあ、さ――。

 

 

「さて、ゴホン。……んー? なんか明るくないかー?」

「コッホン。うーん? おー、本当だなー」

 

 

んなっ!? 何故あいつら、こっちに来てるでゴザルか!? 完璧な擬態しているはずでゴザルぞ!? 明る……ハッ!!

 

 

しまったでゴザルッ!! 拙者としたことが……この装束に取り付けているクールな発光装甲、OFFにしていないでゴザル!!! その光が――っぁっ……!

 

 

「蛍かー? にしては他に飛んでないしなー」

「なんか落とし物だったりするのかー? 拾ってみるかー」

 

 

も、もう連中、拙者の真上に来てるでゴザル! そして茂みの中を探ろうと手を伸ばして来てるでゴザルッ! こ、このままだと見つかるでゴザル!!

 

 

な、ならその前に攻撃を……! いやもし失敗すれば……一撃で二人を同時に仕留められなければ、間違いなく声をあげられるでゴザル! かといって大技を使えば……破壊音でもっと危険になるでゴザル!

 

 

じゃあどうすればいいでゴザル!? こういう時はどう対処すればいいでゴザルか!? くっ、こういう時に限ってミミックはいないでゴザルし! 頼りにならないでゴザ――。

 

 

――こういう時、あのミミックならどうするでゴザル…!? さっきまでの時は、拙者が追い詰めた時は……っ! えぇい、もうどうにでもなれでゴザルッ!

 

 

(変化の術っ!)

 

 

「ん? 急に光が小さくなって……何か出て来たぞ!?」

「……トカゲ? 光るトカゲだなこれ……」

 

 

……ぐ……ば、バレてないでゴザルか……? トカゲとは見る目が無いでゴザルな……! これは拙者の切り札忍術、巨竜変化の術……を今調整して小さくしたものでゴザル。だかられっきとしたドラゴンでゴザル! こういう連中相手には今度本物を……――。

 

 

なんて言ってる場合じゃないでゴザル! イチかバチかの試みが上手くいったでゴザル! ……無理やりだったから忍術の源の消費はかなりのものになったでゴザルし、本当は変化で消すつもりだった発光も残ってるでゴザルが。

 

 

それでもミミックが亀に扮していたように、こいつらを騙せたでゴザル! フッ、拙者がこんなトカ…ドラゴンに化けてようとは、『そんなまさか』で……って、わざわざミミックの適当教えを思い出さなくとも良いで――。

 

 

「捕まえた! 隙だらけだぞ!」

「おー。なんかぼーっとしてたなぁ」

 

 

ゴザぁっ!? な、なっ!? 身体が浮き上がってるでゴザル!? つ、捕まってるでゴザル!? 見回りの一人に尻尾を掴まれて宙づりになってるでゴザルっ!!?

 

 

「えーと、そうだなぁ…。光るトカゲなんているんだなー!」

「だなー。魔物の類かー? でもこの辺では見ないレア種だなー」

「薬屋にでも持ってったら高く売れるかー?」

「かもなー。明日まで捕まえとけー。じゃ、続き行くかー」

 

 

ちょっ……! 拙者を捕まえたまま見回りを再開したでゴザルッ!? 待っ……待っ……!!

 

 

「フッ…! おー暴れてる暴れてるー」

「こいつ、尻尾切れない種みたいだなー」

 

 

それはそうでゴザル! だってドラゴンでゴザルぞ! 尻尾切りなんて間抜けな事しないでゴザル! いやそれどころじゃないでゴザルッ!!?

 

 

バレずに済んでいるのは良いでゴザルが、このままでは何処かに連れてかれてしまうでゴザル! でも、トカゲの身体では印が結べないでゴザル! 何も抵抗できないでゴザルぅっ!!!

 

 

おのれ、ミミックの教えなんかに従ったからこんな目に遭ったでゴザル! 最初から拙者の大技で……いやそれだと……ぐむぅ……。

 

 

だ、大体、ミミックは何処にいったでゴザルか!? 拙者の試験担当官なのに、何もせずに隠れて見ているだけでゴザルか!!? そんなの指南役の風上にも――――え。

 

 

 

……なんか……見えるでゴザル。どこかにミミックがいないか必死に見回してたら、道の少し先、白壁の下にポツンと何か落ちてるで……ゴザル……千両箱が……。

 

 

え、あれミミックでゴザル……? いやいや、そんな訳……。だってあんなただ落とし物めいた隠れ方とも言えない置かれ方、一瞬で気づかれて――。

 

 

「いやー懐かしいなぁ。俺、試験の時は何回も不合格食らってたろ」

「そりゃ忍術ごり押ししてたらな。でも今時の子はもっとそれみたいだぞ」

 

 

はぁっ!? この見回り共、思いっきり通り過ぎたでゴザル!! しかもちょっと見たのに、さも道端の石ころを見たかのように平然とお喋りしながら!! 明らかにおかしいでゴザル! 絶対不正で――!!

 

 

「なんだ? こいつ急に暴れ――ぐぇっ…!?」

「ん? うっぁ…!?」

 

 

ゴザ……ル……!? 千両箱が何かが飛び出して、一瞬で見回り二人を消したでゴザル……!? って、落ちるでゴザルぅっ!? ぶへあっ!

 

 

「トカゲでもドラゴンでも良いけれど、着地が出来ないと格好悪いわよ?」

 

 

痛つつ……! 気づけばその箱からミミックが……! わっちょっ!? また拙者を宙吊りにするなでゴザルっ!?

 

 

「ふふっ、それにしても可愛いトカゲになっちゃってまあ! とっさの判断については良くできました~!」

 

 

だからドラゴンでゴザルし、尻尾を掴むなでゴザルっ!  くぅっ…! 爪立ててやろうとしても噛みついてやろうとしても、ぷらぷら振られて上手く……!

 

 

「でもちょっとお姉さん悲しいわ…。だってあんだけそれとな~く光ってるの教えてあげてたのに、ピンチになるまで気づかないんだもの。もし先に気づけてたらこんな可愛くなる必要なかったのよ?」

 

 

ほら消しちゃって。とミミックは軽く放る形で拙者を地面に戻したでゴザル。人をなんだと思っているでゴザルか…! 変化の術を解き、装甲の発光を止めて――。

 

 

「……あの二人は何処行ったでゴザル?」

 

「ん? お姉さんの箱の中でぐっすり眠ってるわ。ほら」

 

 

警戒しながらそう聞くと、うわっ…ミミックは箱の中から見回り連中をちょっと出してみせたでゴザル。口に()()隠れの術の綿嚙まされて寝てるでゴザル。

 

 

ということはあの一瞬で……目にも止まらぬ早業だったでゴザル……。いやそこじゃないでゴザル!!

 

 

「ズルでゴザルっ! 絶対そいつらと裏取引してたでゴザルッッ!」

 

 

化けの皮を剥がしてやるでゴザル! あんなの絶対有り得ないでゴザル! 道端に落ちてる箱を見て気づかないなんて! 間違いなく不正で――!

 

 

「ふふふっ。その台詞はずっとキミの傍でぷかぷか沈んでたお姉さんに気づいてから言ってほしいわね」

 

「――は?」

 

 

な、何言ってるでゴザルか? 拙者の傍で沈んでた…? さっき隠れていた時でゴザルか? いやそんな訳! バレるのを恐れて適当言ってるだけで……!

 

 

「ほらほら、思い出してみて。さっき『ゴミの沈んでいる川』とか思ってなかった?」

 

「え……そ、それは事実で……」

 

「本当に~? はい提灯。確認して御覧なさい?」

 

 

見回りの提灯を手渡されたでゴザル……。これで川をよく見ろってことでゴザルか? 無駄なことを――っ!?

 

 

「綺麗な川よねぇ、ここ。穏やかで、ゴミなんて一欠けらすら沈んでないわねぇ」

 

 

そ、そんな……! 拙者の作った茂みはまだあるでゴザル……けれど、川にゴミは何一つ無いでゴザル!? い、いや! いいや! 流されていっただけで――!

 

 

「はいこれもど~ぞ」

 

「なんでゴザ……なっ…!」

 

「川底の水草と、キミが作り出した茂みをちょっと折ってたやつ。それと川泥汚れのついた、キミの光る装甲の外れるとこの一つ! あ、お魚も取っておいた方が良かったかしら?」

 

「こ、こ、こ……こんなの証拠にならないでゴザルッ! 拙者が捕まった後にこっそりとったのかもしれないでゴザル……し……」

 

「三人に気づかれることなく後から川に潜って、先回りして道にいて? 大体当たってるわよ。最初から川に居ただけで!」

 

「そ、そんなの……口裏合わせをしてない証明には……」

 

「ま、ならないでしょねぇ。 で・も・キミの心はもうとっくに受け入れてるみたいだけど~?」

 

 

んぐっ……それは…今まであれだけ拙者を翻弄してきた腕ならば、裏取引なんてしなくとも……ゲフンッ! お、思い上がりでゴザル! ミミックの!

 

 

「気配を消せば壁に張り付いて隠れなくとも落ちてるだけで問題ないし、上手く活用すれば狙ったキミだけを気づかせることもできるのよ。そこまで出来れば忍び技免許皆伝ね!」

 

 

なのに彼女は勝手に盛り上がってるでゴザルし…! 大体、教えになんか従ったせいで――!

 

 

「あ、そうそう。キミ、助けを求めて暴れてたけど――あれ割と良い方法だったのよ?」

 

「……へ?」

 

「だってトカゲに扮する『そんなまさか』が通じていたんだから。そのまま暴れて逃げ出しても大して怪しまれることはないし、敢えて捕まったまま一人になる時を狙ってアンブッシュするのも自由自在。一件不利に見えて、相手の油断のお陰でキミが有利だったわ」

 

「……し、知ってたでゴザル!」

 

「え~本当に~? そんな『その手があったか』みたいな顔しといて~?」

 

「っうぐ……!」

 

「ま、気づいてなかったから助けてあげたんだけど!」

 

 

ミミックめぇ…拙者をおちょくるように笑って……! そしてコホンと咳払いをして……!

 

 

「『相手のあらゆる行動を予測し警戒し続け、常に余力を残しておく』――。その余力っていうのは、魔力だけじゃなく『思考力』もよ。どんな状況でも余裕の気持ちを残し、どうすれば対処できるのかを考え続けることを忘れないでね」

 

 

また指南役ぶったでゴザル! くそぉっ……絶対この試験中に吠え面かかせてやるでゴザルからな!

 

 

「さ! じゃあ場所変えて実践の続きといきましょう! ほら、今のうちに離れときなさい。この人達解放するから」

 

 

ってうわっ! 箱の中から見回り連中を引っ張り出したでゴザル! 寝てるから良かったでゴザル…。いや、離れろとは言うでゴザルが……。

 

 

「そうねぇ。この先の道、二つ目の曲がり角を左に真っ直ぐ行ってて。その道なら誰もいないし来そうにないから」

 

 

「本当でゴザルか…!? 拙者を嵌めようとしてるんじゃ……!」

 

 

「ほ~ら疑ってる間に起きちゃうわよ~ぉ!」

 

 

「待っ!? くっ! もし見つかったら恨むでゴザルからなああぁぁっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――本当に誰もいなかったでゴザル……」

 

 

一応警戒して進んでいたでゴザルが……人はおろか猫や鼠といった小動物の類も現れなかったでゴザル。彼女が言った通りに……。

 

 

「だってお姉さんミミックだもの。ダンジョンの何処に誰がいるかぐらい、手に取るようにわかるわ」

 

 

っな!? 拙者の少し先、住宅の屋根の上にミミックが!? いつの間に先回りを!? いや彼女なら容易いことかもしれないことでゴザルが……いやだからそれよりもっ!

 

 

「もっと声を抑えるでゴザル……っ! ここはさっきとは違うでゴザル……っ!」

 

「そうね、ここは住宅街。さっきの場所よりも危険な場所ね。ちょっと騒いだら忽ち大惨事でしょうねぇ」

 

 

そうでゴザル! ここは家々が集まっている地帯。寝静まっている者多数、起きているらしき者も少数ながらいるような所で――うわっ!?

 

 

「だからこそ、ここに誘導したのよ。キミの突発対処力はさっき確認できたことだし、本格的にいくわよ~!」

 

 

本気でゴザルか!? 手裏剣を大量に投げてきたでゴザルッ!? しかも今までとは違い…痛っ! 掠る形とはいえ当てて来たでゴザルっ……!

 

 

「このまま下で避け続けてるだけで良いの? 嬲り殺しにするわよ?」

 

 

ッ…! 今までにない冷徹な声でゴザル…! けど……拙者が言われっぱなしで終わると思うなでゴザルッ!

 

 

「ふふっ、来たわね。その負けん気に溢れた瞳、格好良いわ」

 

 

拙者も近場の瓦屋根に飛び乗って、光手裏剣を構えるでゴザル! これで対等、いざ――!

 

 

 

 ―――カタッ

 

「しまっ……!」

 

 

瓦が音を……! 幸い、家の中の者には気づかれてなさそうでゴザルが……。このままではまともに戦うことが…!

 

 

「あららら。んー、あ、そだ。まあ忍び技を使えないのはともかく、忍ぶための術とかは使えないの?」

 

 

肩透かしを食らったようにミミックは聞いてくるでゴザル…! が……それは……ぐむぅ……。

 

 

「やっぱ派手技しかないのねぇ。そんなド派手にいってどうすんのよ。三人ぐらい娶って里抜けて鬼狩りでもするの? あぁでも、キミみたいな忍者に結婚は難しいでしょうねぇ」

 

 

なんかよくわからないけど色々雑に馬鹿にされたことはわかるでゴザルぞ!? おのれ……! だから拙者を舐めるなでゴザル!

 

 

「『鶯泣かせの術』! 『月跳の術』! 『梟眼の術』――!」

 

「お! どれもこれも忍ぶ用の術じゃない! しっかり授業は聞いてるのね~!」

 

 

フンッ! 足音を消す忍術、跳躍力を強化する忍術、暗視の忍術――拙者なら授業を聞き流しててもこれぐらい余裕でゴザルとも! 

 

 

……ただあまり精度は良くないでゴザルし、また忍術の源の消費が必要以上に多く……こんなことならもっと真面目に受けとくべきだったでゴザ、ゴホンッ!

 

 

「それじゃ準備が整ったところで! 足掻いてみせないな!」

 

「くっ…! 受けて立つでゴザルっ!」

 

 

 

 

 

 

「はいまたまた肉薄! しっかり防御しないと身体抉るわよ~!」

 

「つぅ…! ――ここでゴザルッ! はぁッ!」

 

「おっとっと! はい隙あり手裏け~んっ!」

 

「危っ!? うぐうっ……!」

 

「次はそっちにしましょ! そーれっ!」

 

「だああっ!?」

 

 

こ、このっ……! さっきからなんという戦闘でゴザルか! 幾つもの茅葺屋根や瓦屋根を右へ左へと飛び越えさせられたと思えば、時には地面に蹴り落されるでゴザルし!

 

 

そこで砂利や泥に足を取られぬよう、動き過ぎて騒音が響かないよう戦う事を余儀なくされたかと思えば…今度は木に登るよう追い込まれ、不安定な足場で攻撃を避けなければいけなくなって……!

 

 

それも少し慣れてきたと思ったら投げられて屋根の上に叩きつけられるでゴザル! なんでこんな目まぐるしく…! あぁまた手裏剣が直撃コースで飛んできてるでゴザルッ! 回避をっ……!

 

 

「ふふふっ、割と動けるじゃない! 大技なんて要らないんじゃなぁい?」

 

 

はぁ……はぁっ……ミミックめ、余裕綽々で…! 大技使って仕留められるならそうしたいでゴザル! けどどうせ全部躱されるでゴザルし、何より――くっ…!

 

 

「まだ保つでゴザルな……! しかし出来る限り温存を……!」

 

「お~良いわね良いわね~! 魔力残量を気にするようになったわね~!」

 

 

何を他人事のように! そっちの苛烈な攻撃を防御し回避し続けるために、忍術の源をやりくりしているんでゴザル! そこに索敵や回復の忍術やらも加わって……かなりキツイでゴザル…!

 

 

「あの手この手で魔力切れを起こさせた甲斐があったわ! これを機に常に余力を気にする癖をつけてね?」

 

「その余力を回復する端から削っていくのは止めるでゴザルッッ!」

 

 

微笑んできつつも一切攻撃の手を弛めないのが腹立つでゴザル! しかしムカつくことに、上手く忍術の源のやりくりしていざ仕掛けようと思えば……!

 

 

「どうしたのかしら~? 手裏剣、投げてこないの?」

 

「ぐぅうまた! 卑怯でゴザルぞッ!!」

 

 

ミミックめ、住宅の窓を背にするんでゴザル! これじゃ攻撃なんて出来ないでゴザル! なんという卑劣な技! 卑劣様でゴザルッ!

 

 

「言ったでしょ?『自分の有利な領域に相手を誘導する』のも忍び技の基本だって。悔しかったらキミもやってみなさい。ほれ手裏剣っ!」

 

 

危なっ! くっ、言われなくとも! ――よし、これでどうでゴザルか! フッ、中々に良い手段で……!

 

 

「ま、だからといってそれにかまけてちゃ無意味ってね。思考力もやりくりなさ~い!」

 

 

だうわわっ!? しゅ、手裏剣が頭上から!? こ、これはさっき森で見た罠! 嵌められたでゴザルッ!!

 

 

くぅっ……! 拙者がやられたい放題だと思うなでゴザルっ! 今は耐え忍び、いずれ絶好の隙を突いてやるでゴザルからな! そう、このまま忍術の源を溜め続け、一気に――

 

 

「はいここで突然のお忍びターイム!」

 

「なぁッ!?!?!?」

 

 

ミミック、急に手裏剣を! 傍の明るい家の窓に投げつけたでゴザル!?!? そんなことしたら……!

 

 

「なに? なんかぶつかった?」

 

 

ほら住人が顔を出したでゴザル! へ、変化の術!

 

 

「うーん? なんもないか」

 

 

……あ、危なかったでゴザル! またトカゲ…じゃないドラゴンに変じて難を逃れられたでゴザル…! フ、フン! 光ってさえいなければこうも容易く欺くことが出来るでゴザルか!

 

 

「けどなんか騒がしかったような…? そいや試験期間だし、誰かいるんかな?」

 

 

って、引っ込まないでゴザル!? それどころか探しに出て来ようとしてるでゴザル! 拙者がいることはバレないかもしれないでゴザルが、試験の邪魔に――!

 

 

「ニャオォオッ!」

 

「ん? 猫? どっかにいるの?」

 

 

突然に猫の鳴き声!? そんな、猫なんていなかったはずでゴザル!? 一体何処に……は?

 

 

「「アォオオッ! ニャウォア…フギャギャギャッ!」」

 

「うわぁ…喧嘩してんじゃん。試験の邪魔にはなんないでよね。くわばらくわばら」

 

 

猫同士の激しい喧嘩の声に首を竦め、その住人は引っ込み窓をしっかり閉めたでゴザル……。そして、その家の真上、屋根の頂点には――。

 

 

「フシャアァア! フニャアォ! ふにゃ~んっ☆」

 

 

……変化はおろか、一切身を潜めることなく、まるで高らかに吼える狼の如く…いや猫でゴザルが…月光を浴び鳴き真似をするミミックがいたでゴザル。

 

 

そうでゴザル。今までの猫の鳴き声は複数匹のも全て、ミミックがあの場で発していた代物でゴザル。いやどういう技術でゴザル……? それと……その光景はなんとも絵になるというか……格好良……。

 

 

「これぞ『曲者、何奴!? ――なんだ猫か』の術! なんてね!」

 

 

うわぉあわぁっ!!? 一瞬で拙者の傍にミミックが跳んできたでゴザル!? トカ…ドラゴン状態じゃなければ変な声が出てたでゴザル!! なんてことをするでゴザルか!!

 

 

「ところで折角溜まり始めた魔力、その変化でまた最初からやりくりし直しになっちゃったわね? 大変ねぇ」

 

 

って、そうでゴザル! なんてことをするでゴザルか!? だからなんで他人事でゴザルか!! こんな忍術の源のやりくりでひいこら言ってるのも、そっちが色々やってくるからでゴザルのに!

 

 

「ふふっ、トカゲ姿のまま抗議しちゃって可~愛い♡ そう、だからこそ忍び技がいるのよ」

 

 

「……! ――どういうことでゴザルか」

 

 

変化を解除し、拙者はミミックを問い詰めるでゴザル。すると彼女はクスリと笑んで問い返してきたでゴザル。

 

 

「あれもこれも忍術で補おうとするととっても大変てのは、もう身をもってわかったでしょう?」

 

 

それは……そうでゴザル。拙者が頷くと、ミミックは自らを示すように胸をポンと叩いたでゴザル。

 

 

「けど忍び技を使えればお姉さんみたいにこの通り! 忍術を一切使わなくとも音は立たず、高く跳べ、夜目は効き、誰かを欺くのもお茶の子さいさい。更には索敵や防御や回避や攻撃すらもこれひとつよ」

 

 

……むぅ。それも…認めざるを得ないでゴザル。拙者はその全てを忍術に頼っているでゴザルが、ミミックは逆に一切忍術を使っていないでゴザル。

 

 

「もしキミが少しでも忍び技を使えたら、消費魔力は格段に少なく済むでしょう。そうすれば戦法に幾らでも余裕が生まれるし、なんだったら隠れて休むことだって出来るわ」

 

 

一理……いや、もっとあるかもしれないでゴザル…。やりくりで思考の余裕すらなくなっていたのでゴザル、ミミックの動きが羨ましく……って、なんで拙者にゆっくり近づいて来てるでゴザル!? ちょっ、ちょっ、近……!

 

 

「そしてもしキミが忍び技をマスターできたら……すっごい忍術の使い手であるキミがそんなことが出来るようになったらぁ……お姉さんだって止められない、向かうところ敵なしな素敵忍者になれちゃうでしょうねぇ♡」

 

 

ひぁっ!? み、耳がムズムズするでゴザルっ! 慌てて光手裏剣を投げると、ミミックはケラケラ笑いながら宙返り回避。すこし離れたところに着地して――。

 

 

「そ♡れ♡に~♡ 大技ブッパしか出来ない存在より、僅かな動作だけで相手の首を容易く掻き切れて、且つ最高のタイミングで決めの大技を撃てる存在の方が格好良くない?」

 

 

――なっ……!? そのミミックの姿がパッと消えて……拙者の背後に! 首にクナイが当てられてるでゴザル!? 

 

 

ハッ!? しかも拙者の周りには、拙者のではない追尾式光手裏剣が、拙者を閉じ込める箱を形成するように、大量に展開してるでゴザル! 間違いなく、これはミミックの……!

 

 

「こんな感じにね。――さようなら」

 

 

ヒッ…!? ミミックの合図で光手裏剣が一斉に拙者へ狙いを定め、流星群の如く降り注――ひぃいいいっ!?

 

 

「なんちゃって! どうどう? 格好良かったかしら?」

 

「――っぁ……ぁ?」

 

 

光手裏剣は拙者に突き刺さる前に全部消えて……気づけばにっこにこなミミックが目の前に……。な……な……。

 

 

「なんてことをするでゴザルかッッ!?!?!?」

 

「あらら? もしかしてちょっとチビっちゃった?」

 

「チビっ……! ては……あ……いや、な、ないでゴザルッ! せ、拙者をこれ以上貶めるつもりでご、ゴザルな!?」

 

「ふふっ、まだまだ元気一杯ね! 次からは忍び技を軽く教えつつ行くわよ~!」

 

 

拙者の怒りをどこ吹く風で流し、跳ね消えるミミック…! お、お、おのれおのれ! 絶っっっ対にこの恨み、試験中に晴らして見せるでゴザルからなぁっ!!

 

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