ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~   作:月ノ輪

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人間側 ある自惚れ生徒忍者と忍箱④終

 

 

「そうそうそんな感じ! 良いわ良いわ、大分忍び技が使えてきているわ! うんうん、キミならすぐ習得できるとおもっていたのよねぇ~」

 

「フ、フン! 拙者であれば戦いの中で学ぶことも余裕でゴザ……いや大体さっきから言ってるでゴザル! 拙者は忍び技を習得するとは一言も――」

 

「あ。また誰か通るわね。暗いうちからの早朝ランニングかしら~っと」

 

「っ! ――…………もう行ったでゴザルな?」

 

「ふふふふふっ! 変化の術での回避も大分様になってきちゃって!」

 

 

大小高低様々な建物の上や隙間を疾風の如く跳んですり抜け、その度に互いに手裏剣で狙い合い。時にはそれぞれのクナイで火花を散らし、時には火遁や風遁で制圧せんと目論み、時には共に身を潜め。

 

 

町の陰を舞台に、戦いと潜伏の応酬はこれでもかと続くでゴザル…! 特に道中何故か、拙者の極悪殲滅大大大大(だいだいだいおお)竜巻よりも酷い破壊痕があったでゴザルが……そこでは遠慮なく忍術を用い、かなりの激戦を繰り広げてやったでゴザル。

 

 

よく忍術の源が保つでゴザルと? それは……なし崩し的にミミックが忍び技を教えてくるからで……いや! 拙者がそれを仕方なしに覚えてやっているからでゴザル! あまりにもしつこいでゴザルからな!

 

 

しかし、ちょっとした呼吸法や足さばき程度でこれほどに忍術の源のやりくりが楽になるとは思わなかったでゴザル。おかげで動きに割と余裕が出来てきたでゴザル。全く、ミミック……いや、いや! 流石拙者でゴザル!

 

 

とはいえ、そのミミックへ未だに一撃たりとも与えることが出来ていないでゴザル。試験時間が少なくなった今、何とか策を練り、吠え面かかせてやらなければならないでゴザルが……む!?

 

 

「さてと、お次はここで戦り合いましょうか」

 

「この商店街は……!」

 

 

屋根の上から辺りを見回すと、見覚えのある商店街についていたでゴザル! ここは拙者の行きつけの定食屋がある――即ち、ミミックが勤めるあの店がある通りでゴザル!!?

 

 

 

 

「空は白み、人通りも増え出し、一部の店では一日の用意で忙しくなるこの時間。難易度は更に上がっているわ。見つからないように行きましょう? ――はッ!」

 

 

ぐぅっ!? そう言う割に遠慮ないでゴザルっ!? ならばこっちも――!

 

 

「よいしょっと! さて、店前の掃除を……ん? なんか動いた?」

 

 

――……あ、危なかったでゴザル…! 今、近くの店から人が出てきてこちらを…! 変化の術が間に合って良かったでゴザル……。出鼻をくじかれたでゴザルが、変化を解除し今度こそ――!!

 

 

「ん~。今日も良い天気になりそうだねぇ。……おや、鳥かな?」

 

 

また違う人達がいるでゴザルッ!? また変化する羽目に……! くっ、ここは危険でゴザル。もっと裏通りの方で……よし、この辺りならば変化を解いても――っあ!

 

 

「ふぁあああ……。変な時間に目ぇ覚めちゃったなぁ。まだ外微妙じゃぁん…」

 

 

か、間一髪でゴザル…! 思いっきり目の前の家から人が……! あぁもう! あっちからもこっちからも人が出てくるでゴザル!

 

 

しかも空が明るくなった分、見つかりやすさは途轍もなく高くなっているでゴザル! これでは戦うどころではないでゴザル! 一体どうすれば良いでゴザルか!?

 

 

「困っているみたいねぇ。じゃあちょっとだけズルい方法、教えちゃおうかしら」

 

 

って、いつの間にかミミックが拙者の傍に…! ズルい方法とは何でゴザルか!? この状況を打破できるなら何でもいいでゴザルッ!

 

 

「ふふっ、トカゲな手足をバタバタさせちゃって。そう焦らないの。簡単な発想の転換なんだから」

 

 

だからこれはドラゴ…もうそんなのどうでもいいでゴザル! その簡単な発想の転換とやらを早く教えるでゴザル!

 

 

「はいはい♪ 目下のキミの悩みは、周囲の目が気になるってとこ。あら、なんだか年頃の男の子らしいわね♪」

 

 

だーかーらー! 早くするでゴザル! こうしている間にも誰かに見つかるかもしれないでゴザルぞ!? いっそのこと飛びついて噛んでやりたい気分でゴザル! ……それが出来たら苦労はないでゴザルがぁ…!

 

 

「じゃあ見られたくないならどうすればいいのでしょうか? 自分の部屋に閉じこもる? それとも私みたいに箱に入る?」

 

 

そんなの、どっちも出来る訳ないでゴザル! ここは野外でゴザルし、箱になんて入れる訳ないでゴザル! 大体、そのどちらも結局戦うことを放棄するようなものでゴザル!

 

 

「ふふっ、その通りね。誰にも見られなくて、且つ戦えるぐらいには広い所じゃないと意味ないわねぇ。――あら、丁度良い所があるじゃな~い!」

 

 

なっ!? 急にミミックが跳ねていったでゴザル!? 何処に行くで……はぁっ!? 今しがた店前の掃除を始めた店の屋根の上!?

 

 

そしてウインクでこちらに合図し、その()()()へとシュルンと忍び込んでいったでゴザル!!!?

 

 

な、成程……確かにこの時間の店の中であれば、目はあっても店主程度。寧ろ壁が外からの視線を遮ってくれるでゴザル。店の大きさにもよるでゴザルが、ある程度ならば戦闘も可能かもしれないでゴザル。

 

 

けど、もし大きな音でも立ててしてしまえば一瞬でバレてしまうでゴザルぞ!? 掃除が終わったらあの店主も間違いなく店の中に戻ってくるでゴザルし! そうすれば寧ろ逃げ場のない窮地になるでゴザル!

 

 

あれでゴザルか? そんなことが無いように忍び技を駆使してなんとかしろってことでゴザルか!? まだ少し覚えだけなのに、そんな無茶……くっ……!

 

 

えぇい! このまま悩んでても時間がドンドン無くなっていくだけでゴザル! ミミックは既に入っていったでゴザルのだから、拙者も続かなければ試験が進まないでゴザル!

 

 

どうせトカ…この姿であれば、大体は何とかなるはずでゴザル! 行ってやるでゴザルッッ! おおおおおっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「――気づかれてる様子は……ないでゴザルな……!?」

 

 

変化の術を解除し、拙者は一息つくでゴザル。存外上手くいったでゴザル。まだ店主は外を掃除していて、しかもすぐに戻ってくる気配もないゴザル。

 

 

それならば今の内にミミックを仕留めるでゴザル! この店は狭くはないとはいえ、そう広くもないでゴザル。今までの野外と違い、拙者に大分有利でゴザルはず! なにせ拙者は一撃与えられれば勝ちでゴザルからな!

 

 

さあ何処にいるでゴザルか? ふむ、見たところここは里外から来た連中向けの土産物屋でゴザルな。柔らか手裏剣が壁にぶら下げられ、なんの独創性もないシンプルな忍者装束が棚に畳まれておかれ、おもちゃの忍者刀が箱に沢山刺さって――

 

 

「んばっ!」

 

「――――ッ!?!!?!!!?」

 

「おぉっと、声出しちゃ駄目よ?」

 

 

く、口に触手を当てられてなければ、叫び声をあげていたでゴザルっ! なんで箱の中から飛び出してくるでゴザルか!?

 

 

「お姉さんがミミックだって忘れてないかしら? 寧ろこういうとこの方が、お姉さん達には都合が良いのよ☆」

 

「なっ……また騙したのでゴザルか…!? 相変わらず卑怯でゴザルぞ…!!」

 

「心外ねぇ。キミにとっても割と利になってるでしょうに。なんなら外で続けてみる?」

 

 

それは……。そ、そんな選択をさせるなんてやっぱり卑怯でゴザルぞ…! つい拙者がもごついてしまっていると、ミミックはおもちゃ忍者刀の箱から出てクナイを構えたでゴザル!

 

 

「じゃ、お店の人が戻って来ない内に戦り始めましょう? あ、そうそう。お店の物を壊したりしちゃ駄目よ。迷惑だし、そんな痕跡残したら不法侵入がバレちゃうわ」

 

「そんなの当然でゴザル! しかし、それならば手裏剣を投げることは――危っ!?」

 

「あら、痕跡残さなければ良いだけなのよ? こんな風にね」

 

 

なっ……振り返ってみると、ミミックの投げた手裏剣が網棚に引っかかって止まってるでゴザル…! 後は回収すれば痕跡無しに――いや真似出来る訳ないでゴザル!?

 

 

「ま、この狭さなら手裏剣投げる利はあまりないわね。ということでお姉さんは近接攻撃縛りしてあげるわ。直に攻撃を当てられるチャンスよ~! そりゃっ!」

 

「くぅっ…!?」

 

 

な、なんとか受けて凌いだでゴザルが…! あ、危なっ! 背中が棚にぶつかるところでゴザル! もしちょっとでも何かにぶつかり、土産物についてる鈴でも鳴ってしまえば忽ち店主が戻ってくるでゴザル!

 

 

これでは無暗に身体を動かせないでゴザル! 覚えたての忍びの技に、先程以上に隠密系の忍術を加えないと危険でゴザル! やっぱり拙者が不利じゃないでゴザルか!! 

 

 

「ほらほら~。そんな怖がっていたら店に入った意味ないわよぉ~?」

 

 

そしてそんな拙者を煽るように、ミミックは棚の上を飛び越え下を潜り、前から後ろから右から左からクナイで刺そうとしてくるでゴザル! 拙者は精々通路に沿って動くぐらいで、防御で手一杯でゴザル!

 

 

これじゃあ結局さっきまでと変わらないでゴザル! いつ店主が掃除を終えて戻ってくるかわからないでゴザルのに……ええい! 仕掛けるでゴザ――

 

 

 ―――チリンッ

「しまっ…!?」

 

 

「? なんか鳴った?」

 

 

肘が当たってしまったでゴザル…! 店主が戻って来て…! へ、変化でゴザル……! そして棚の下にでも隠れれば……!

 

 

「風かな?」

 

 

ふぅ……! バレてないでゴザル。やはりこの方法、かなり有用でゴザルな。これならば多少ミスをしても問題ないでゴザル。ところでミミックは何処に隠れたので――

 

 

「あれ? こんな商品あったっけ?」

 

 

ん? 店主が何かおかしな……は? はぁっ!?

 

 

「『千両箱』なんて。まあでも値札貼ってあるし、仕入れてたかも?」

 

 

ぷっ……ぷははははっ! ミミックが店主に持ち上げられてるでゴザル! 隠れられなかったでゴザルか! なんとも痛快でゴザル!

 

 

「うーん、今見ると割と売れそう…? もっと仕入れて置いてみようかな」

 

 

あーあー、あんなにくるくると回されて! 情けないものでゴザルなぁ。あれでは何もできな――ハッ!

 

 

そうでゴザル! これこそ絶好のチャンスでゴザル! 拙者はあのミミックの入る箱に当てさえすればいいのでゴザルから、店主に拘束されている今こそが最大の――!

 

 

そうと決まれば早速でゴザル! 棚の下から出て、物陰で変化を解除し、光手裏剣を作り出し! よく狙って、狙って……ここッ! はぁあッ!

 

 

よし、良いコースでゴザル! フ、フフ…フフフ! これで試験は合格、あのミミックに一泡吹かせることが――!

 

 

「まあお姉さん、もうその箱にはいないんだけど☆」

「ッ!?!!?」

 

 ―――カンッ!

「えっわっ!? な、なにっ!? 手裏剣! 誰ッ!?」

 

 

背後にミミックが!? そしてそれとほぼ同時に手裏剣が千両箱に辺り、気づいた店主が声を上げたでゴザル! その手から千両箱が取り落とされて……中、空でゴザル!?

 

 

「さ~人が集まってくる前にドロンでござる~☆」

 

 

拙者にそう告げ、ミミックはいなくなったでゴザル!? ちょっ待っ…! 拙者を置いていくなで…さ、再度変化の術! せ、拙者も逃げるでゴザルッ!

 

 

 

 

 

「は~い脱出お疲れ様。ふふ、大分良い発想ができるようになったわね。あのタイミングを狙うのはお見事!」

 

 

「ふぅ……ふぅっ……! あ、当てたでゴザルぞ! 箱に! 試験は拙者の勝ちでゴザルぞ!?」

 

 

人気のない路地裏までミミックを追いかけ、変化を解除しそう主張するでゴザル! けど、ミミックはちょっと困り顔で応対してきたでゴザル。

 

 

「ん~そうは言ってもね~。キミが鈴を鳴らしちゃった辺りからお姉さん千両箱脱いでたし? なんならちょっとお出かけしてたもの。お店の人を使った身代わりの術って感じよね」

 

 

身代わりの……。確かに今のミミックは千両箱ではなく、見覚えのある宝箱…定食屋で働いている時のに入っているでゴザル。言い訳じみたことを、と訴えたいところでゴザルが……ん?

 

 

「お出かけ…?」

 

「えぇ。お姉さんのお店の入り口、ちょっと開けにね。次の戦いの場にいいかな~って!」

 

 

指で店の鍵をクナイのようにくるくる回してみせるミミック。と、その鍵を握って止め、口元に指を当て――。

 

 

「さっきのお店より戦いやすいかなって思って開けてきたんだけど、そもそもキミに人気の多いトコでの戦闘は早かったかしら? ならまた、森の方にでも――」

 

「拙者を舐めるなでゴザルッ!!」

 

 

っ…! うっかり大きめの声を出してしまったでゴザル。周囲に人影は…ないでゴザルな。ならばもっと言ってやるでゴザル!

 

 

「さっきは突然のこと過ぎて手をこまねいていただけでゴザル。次からはもっと上手くやってやるでゴザル!」

 

 

舐められたまま合格したところで意味がないでゴザル! それにたとえ拙者にも害があろうと、折角ミミックの動きが制限される室内戦闘の機を逃すわけにはいかないでゴザル!!

 

 

「あら、良い覚悟じゃない! 100パーセント勇気って感じね!」

 

 

拙者が睨むと、ミミックは不敵な笑みで返し、拙者を誘うように町中へと再度跳び入っていったでゴザル。勿論、それに続いてやるでゴザルッ! 

 

 

 

 

 

 

 

「――よし、このタイミングならば…!」

 

「うんうん、着実に成長しててお姉さん嬉しい!」

 

「五月蠅いでゴザルぞ…! 誰が――ッゥ!?」

 

「ふふ、油断大敵。動物にも気をつけないと。因みに今トカゲに変化しちゃうと……あらら」

 

「―――!?!? ――――!!!? ―――!!」

 

「ま、そんな風に食べられかけちゃう訳で。別なのに変化するとかしないとね~」

 

 

このっ…のほほんと…! ともあれ警戒しつつ、拙者達は町中の陰を行くでゴザル…! 普段は平然と歩いている道のりがとんでもなく遠いでゴザル…!

 

 

しかし、我慢でゴザル。定食屋は長く通ってる分、ある程度構造がわかっているでゴザル。からくり扉などの位置も。それに先の店と比べてもかなり狭いでゴザルから拙者にかなり有利でゴザル。

 

 

ほとんど動かなくとも良いでゴザルし、最悪テーブルとかを傷つけないぐらいの低出力な手裏剣を大量にばら撒けば簡単に制圧できるはずでゴザル。まさしくミミックは自ら死地へと突き進んでいるようなものでゴザル!

 

 

……けど…うぅむ。……認めたくないでゴザルが、本当に認めたくないでゴザルが……それでこのミミックを倒せる気はあまりしないでゴザル。全部躱されるビジョンしか見えないでゴザル。それか発動前に制されるか、そもそもその思考すらをも奪われるか……。

 

 

くっ、感謝するでゴザルぞミミックめ! 拙者がここまで強敵と認めるなんて、初めてでゴザルからな! とにかく、このままでは折角の好機をむざむざ無駄にするかもしれないでゴザル。

 

 

だから拙者の有利を盤石なものとするため、何か搦め手でも用意しておきたいところで……ん? 

 

 

お! あの店は! ――イチかバチかでゴザル!

 

 

「お姉さん置いて何処行くの? なにか良い作戦でも思いついたのかしら~?」

 

 

後からミミックが追ってくるでゴザルが気にしないでゴザル! 急ぎ店へと寄り…やっぱり閉まっているでゴザルな…。しかしここで諦める訳にはいかないでゴザル!

 

 

何処かに隙間が……えぇと……確かここには……あったでゴザル、排煙口でゴザル! フッ、これならば! 変化の術! これで店の中に……入れたでゴザル! フフフッ! どうでゴザルか!

 

 

「おぉ~、その侵入が出来るなんて! ついさっき変化の術で隠れることを覚えたとは思えないわ! ふふ、お店開けてくる必要なかったわね」

 

 

っ…! いつの間にか何処から入ったかはわからないでゴザルが、既にミミックも店内にいるでゴザル。まあでも良いでゴザル。なにせこの店は――!

 

 

「成程ねぇ、忍具屋かぁ。間違いなく何か考えがあって行動ね!」

 

 

ミミックが辺りを見回した通りでゴザル。ここは手裏剣やクナイ、水蜘蛛や撒菱などの忍具を売る店でゴザル!

 

 

「その感じ、ここには何度か来た事あるみたいね。忍術に傾倒する前までかしら?」

 

「フン、若気の至りでゴザル。こんなものに頼る必要なんてないと悟っただけでゴザル」

 

「くふっ…! その年で若気の至りって…! おませさんねぇキミ」

 

 

フン、拙者の余裕を崩そうとしても無駄でゴザルぞ。既に拙者の術中に嵌っているようなものでゴザルからな。有利は拙者でゴザル!

 

 

全くの賭けだったでゴザルが、店内が当時から変わってなくて良かったでゴザル。この店はかなり広く、数多の忍具が置かれているでゴザル。その分お試し品も多く、そこいら中の壁や床や天井もお試しでつけられた傷だらけでゴザルから――!

 

 

「ハァッ! これならセーフでゴザルな!」

 

「えぇ、壊さなきゃセーフね! でも後片付けしなきゃ駄目よ?」

 

 

拙者がおもむろに投げたお試し品の手裏剣を躱しつつ、ミミックは許可を出したでゴザル! が、すぐに首を傾げたでゴザル。

 

 

「でもキミ、忍具なんて使えるの? 手裏剣すら忍術に頼っているのに?」

 

「もうそんなこと言ってる場合ではないでゴザル! 使える物はなんでも使わなければでゴザルからな!」

 

 

ここはとある策のために訪れた場所でゴザルが、時間がかなり少なくなっているのも事実、ここで決める覚悟で挑むでゴザル! だからこそ――!

 

 

「だからこそ、拙者の奥の手を更に一つ解放するでゴザル! 『真・分身の術』!」

 

「へ~ぇ! 見分けがつかないぐらい精巧な分身じゃない! それをこの数、本気ね!」

 

 

幾つものお試し忍具を手にした拙者の分身を見て少しは冷や汗をかいたでゴザルか? フッ、それでも容赦はしないでゴザ……。

 

 

「じゃあお姉さんもちょっと頑張ってみようかしら☆ お店の人は居ないし、外にバレない程度に全力でかかってきなさい!」

 

 

「くっ…! その余裕の表情、いい加減崩してやるでゴザルッ!」

 

 

 

 

 

「――ほらほらァ! そんなものかしらァ!?」

 

「ッヒ……! 怯まないでゴザルぞ!」

 

 

なんだかミミック、豹変したでゴザル…!? 拙者自身も含めた分身達が鎖鎌や忍者刀を振るったり、鉤爪手甲や鉄拳で殴り掛かったり、拘束巻物や鉤縄を使って捕縛を試みてるでゴザルが……その全てを躱し、分身達を次々と叩き消してゆくでゴザル!!

 

 

しかも手裏剣を片っ端から投げ、床には撒菱をこれでもかと散らしているでゴザルのに…! その雨霰の如き間隙を容易く縫い、箱の角で安全に着地しては跳びあがって無効化を…! 更に各所のからくり壁をも使いこなし、何一つ寄せ付けないでゴザル! 

 

 

こんなん有りでゴザルか!? 今まで少したりとも本気を出していなかったでゴザルか!? これでは拙者が一転不利に――!

 

 

 

……なんて、今の内でゴザル! 予想外の殲滅速度に驚きはしたでゴザルが、拙者の忍術の源はまだもう少し保つでゴザル。ミミックが悦に浸っている間に策を実行するでゴザル!

 

 

ここに来た理由、それは――ここの忍具の幾つかを懐に隠し持ちに来たのでゴザル! 定食屋での戦闘に備えるために!

 

 

このまま戦っても今のようにあしらわれるは確実。ならば『拙者が忍具を持っていないし使わない』という油断を、ミスリードを利用するでゴザル! そうすればミミックに一撃を与えることもきっと……!

 

 

フッ、我ながら思考に余裕が出来ているでゴザル! では……よし、こっちを見ていないでゴザルな! 片っ端から懐に忍ばせたいところでゴザルが、身体が重くなって動きでバレる訳にはいかないでゴザル。

 

 

だから小さく目立たないものが良いでゴザル。棒手裏剣、爆弾、煙玉、忍術札、吹き矢、科学忍具……いや、肝心な時に上手く使えなければ意味が無いでゴザル。それに忍具ではなく拙者自身の忍術でバシッと決めてやりたいでゴザルな。

 

 

だから…ハッ、そうでゴザル! あれがあったでゴザル! 確かさっきチラッと…あった! 見つけたでゴザル、『忍力丸薬』!

 

 

これは食べれば立ちどころに忍術の源を回復する優れものでゴザル! 良いタイミングで使えば間違いなく……フ、フフフ…! 沢山持っていくでゴザ――

 

 

「こら。全く、何をするかと思ったら……。それじゃただの盗人じゃないの」

 

 

――っ!? なっ……ミミック!? 拙者の背後に!? 拙者の手を取り抑えて!? バカな、まだ分身は攻撃してるはず……お試し用の丸太を触手で振り回して全部弾いてるでゴザル!?

 

 

「どんな手段を使うにしても品性だけは大切になさい。取った分のお金は置いていく、とか。忘れた財布を必ず取って戻ってくるキミらしくないわよ」

 

「んぐっ…! またそれを持ちだして…! 今財布を取りに戻る訳にはいかないでゴザル!」

 

「じゃあお姉さんが貸してあげるから。ほら」

 

「願い下げでゴザル!!」

 

 

そんなことをしたらどんな手を使うかバレてしまうでゴザルし、何よりここにきてミミックに頼りたくないでゴザル! それに――フフ…!

 

 

引っかかったでゴザルな! 拙者こそが、本体こそがミスリードでゴザル! 気づいてないようでゴザルなぁ。彼女から遠く離れた背後、会計場辺りで拙者の分身が一人動いていることを!

 

 

忍力丸薬はよく購入されるものでゴザルからな、置かれているのは一か所だけでは無いのでゴザル! それに気づきこっそり分身を動かしている拙者の思考の勝利でゴザル! こうしてミミックを自身で引きつけている間に、分身は忍力丸薬を手に! 後は様子を見て回収すれば……!

 

 

 

 ―――ガブゥッ!

 

 

 

「……は?」

「惜しかったわねぇ。でもま、気づけないのは仕方ないわ」

 

 

ミミックは拙者を解放し、残っていた分身達を薙ぎ払っていくでゴザル……。けど、拙者はそれに目をやることは出来ないでゴザル……。忍力丸薬にも、ミミックが出したお金に手を伸ばすことも……。

 

 

だって……だって……拙者の分身が……隠れて忍力丸薬を回収していた分身が……っ!!

 

 

 

「宝箱に思いっきり食いちぎられたでゴザル!!?」

 

 

 

拙者の目に映っているのは、上半身が食われ消えていく分身の姿! そして……あれなんでゴザルか!?

 

 

「宝箱型の下位ミミックよ。お姉さん達の仲間の」

 

「み……ミ……ミミ……ミミック……!? な、何故ここに…!」

 

「そりゃ防犯のためよね。番犬ならぬ番ミミックって感じに」

 

「ば…………」

 

「試験中だからキミの侵入は見逃してくれてたけど、流石に万引きは許せないって。どうする? お金払うなら不問にしてくれるみたいだけど、お姉さんから借りる?」

 

「い、いや……」

 

「あらそう。あ、因みに。さっきの土産物屋にもミミック隠れてたわよ、キミが気づいてないだけで。もし何か壊したりしたら襲い掛かって来てたわね」

 

「ぇ…………」

 

「そしてここに居るのもあの子だけじゃないわ。試験とはいえこれだけ荒らして、盗みを働こうとする子には――」

 

 

「「「シャアアアアアッッ!!」」」

 

 

「ひぃいいいいいっっ!?!?!?」

 

「ミミック達も堪『忍』袋の限界ってね♪  早く逃げないと食べられて試験終了よ~♪」

 

 

逃げるでゴザル! 逃げるでゴザルっ!! 逃げるでゴザルぅっっ!!!!!

 

 

 

 

 

「し……し……死ぬかと……死ぬかと……!」

 

「トカゲ姿でミミック達に追いかけられるのは中々の恐怖でしょうねぇ……」

 

 

命からがら脱出できた拙者を、遅れて出てきたミミックはそう慰めてくるでゴザル…。珍しく同情の色を見せながら……って!

 

 

「なんで忍具の獲得を邪魔をしたでゴザルか!? 折角のチャンスだったでゴザルのに! 拙者の超名案を何故!?」

 

 

恐怖よりも憤怒が勝り、拙者はミミックを(なじ)るでゴザル! と、ミミックは頬に指を当て諳んじだしたでゴザル。

 

 

「そうねぇ。今の年から悪の道を覚えて欲しくない親心だし、やって良い悪いの線引きを教えるため指南でもあるし。そもキミの腕だったら私が止めなくとも下位ミミックにガブガブされてたし、元を辿ればキミの準備不足が最大の原因だし? 後は――あ、黙っちゃった」

 

 

……それは……そうかも……しれないで……ゴザルがぁ……! でも……でも……そうでもしないと勝てるビジョンが浮かばないんでゴザルもの!! じゃあどうすれば良いんでゴザルか!?

 

 

「んー。ま、他にも色々ツッコミはあるけど、総合したらこの言葉がピッタリかもね。『修行不足』――。キミがもっと忍び技に長けていたらお姉さん達に忍具獲得がバレなかったし、その方法を選ばなくとも良かったでしょうし、もしかしたら忍術以外に頼る有用性に気づいて忍具持ってきてたでしょうしね」

 

 

そんなこと今言われてもどうしようもないでゴザルッ!! だから、どうするのが――。

 

 

「どうする? キミが望むなら試験は切り上げて、時間いっぱいまで鍛えてあげるけど。そうすれば次の試験では必ず合格――」

 

「っ! ぐ、愚弄するなでゴザル! 拙者はまだ負けてないでゴザルぞ! 絶対この試験で吠え面をかかせてやるでゴザル!」

 

 

そういう解決法が欲しいんじゃないでゴザル!! 反射的にそう言い返したでゴザル!! そう、拙者はまだ負けてないんでゴザル。まだ、ミミックに吠え面をかかせる方法は――フ、フフ…!

 

 

「早く次の場所へ…定食屋に行くでゴザル!」

 

「はいは~い♪  もうやりきるし~かな~いさ~♪ ってね~♪」

 

 

フン、今の内に楽しく歌っていればいいでゴザル。次こそがミミックの死地になるんでゴザルからなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さてさて! どんな戦いぶりを見せてくれるのかしら? 机とか壊さなければなんでも良いわよ~!」

 

 

扉が僅かに開けられていた定食屋に入り、拙者達は向かい合うでゴザル。相変わらず呑気な…! その顔が歪むの、今から楽しみでゴザルぞ!

 

 

見たところ誰もおらず、扉の看板には本日臨時休業の文字。そして厨房へは即席の板壁で封じられているでゴザル。恐らくさっきミミックが手を加えたでゴザルな。

 

 

つまり、ただでさえ狭い店が更に狭くなっている形でゴザル。……卓上調味料も片付けられているでゴザル。徹底してるでゴザル。

 

 

この狭さでは忍犬や分身を呼び出すことは出来ず、なんなら本当に足を動かさなくとも何とかなってしまいそうでゴザル。しかしそれはミミックも同じこと、否、拙者以上に動きが制限されるでゴザル!

 

 

ここが正念場でゴザル。絶対決めて見せるでゴザルッ!!!

 

 

 

 

 

 

「――お! それ良い感じよ! 様になって来たわね、壁蹴り走り!」

 

「やかましいでゴザル! なんだってこんな時にまで指南を!」

 

「それを受け入れてるの、キミじゃな~い?」

 

「どう考えてもそうせざるように仕掛けてきてるでゴザルぞ!?」

 

「ふふふっ! でも実際、結構戦力になってるでしょ?」

 

「それは……まあ……って何言わせるでゴザルか!?」

 

「それじゃあ次は『天井張り付き』ね! 三次元戦闘、マスターしちゃいましょ~!」

 

「まだやるとは……あぁもう!」

 

 

結局ここでもこれでゴザル!!? 寧ろ稀に外を通る人だけを気を付ければ良くなった分、今まで以上な感じがするでゴザル! 

 

 

まあ、確かに狭い店の中なのに、教わっている技を使うと縦横無尽に動けてかなり戦いやすくなっているでゴザルが……ゲホンッ!

 

 

ともかくこのままでは予感通り、何も出来ず終わってしまうでゴザル! ――フッ、ならばそろそろ拙者の策を実行に移す時でゴザル!

 

 

勿論その策とは考えてた通り、光手裏剣大量バラ撒きによる飽和攻撃でゴザル! それでは結局避けられるでゴザルと? フッフッフ……そう思うのであれば拙者の勝ちでゴザルな!

 

 

先の忍具屋での失敗、あれは失敗では無かったのでゴザル! …いや失敗ではあるんでゴザルが……。た、ただの失敗では無かったのでゴザル! 所謂、転んでもただは起きないというヤツでゴザル!

 

 

フフフクフフ……! 誰も気づかなかったでゴザルなぁ。忍力丸薬こそ阻止されたものの、拙者がとある忍具を懐に忍び込ませることに成功したのには! 今度こそ彼女ですら気づいていないでゴザルなぁ!

 

 

その忍具とは何か? それは……『煙玉』でゴザル! 小さな球を地面に投げつけて割り、中から大量の煙を発生させ攪乱を行うあの忍具でゴザル。

 

 

ただの煙幕を張る玉たったひとつと侮ってはいけないでゴザルぞ? 他のどの忍具よりも小さく目立ちにくかったおかげでこうも忍ばせることが出来ているでゴザルし、この狭い店内であればどの忍具よりも機能するでゴザル! だからこそここへ急いだのでゴザル!

 

 

そして何よりこれは補助。トドメは拙者の忍術で、自分の力で倒すことが出来るのでゴザル! さあ、勝利への道筋は見えたでゴザルな! ミミックめ、ここがお前の――!

 

 

「墓場でゴザル! 『忍犬口寄せの術』ッ! 『真・分身の術』ッッ!」

 

「ここ定食屋よ? 満席にしてどうする気かしら?」 

 

 

まず拙者が行ったのは、忍犬数匹と分身数体の召喚でゴザル。狭いから大した効果が出ないのは百も承知でゴザル! これは煙玉攪乱のための攪乱でゴザル! そして、逃げ道潰しでゴザル!

 

 

「かかれでゴザル!」

 

 

拙者の合図と共に、忍犬&分身は即座に行動するでゴザル! 忍犬達は机の下に入り込み、一撃必中の迎撃の構えで待機。分身達は壁や天井の角や入口に立ち、手裏剣を投げるでゴザル! これでミミックの逃げ場は失われたでゴザル!

 

 

「何やるのかしら~? やりたいことやったモン勝ちよ、青春なんだから☆」

 

 

分身の手裏剣を全部弾いたり回避したりしながら、ミミックは落ち着き払った様子で促してくるでゴザル。フッ、だがまだでゴザル! イヤーッ!

 

 

「お! 良い跳ね回り! 蛙や兎もびっくり仰天ね!」

 

 

床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り――! 自分も動きまくって更に攪乱を行うでゴザル! 念には念を入れてゴザル! なにせチャンスは一回だけでゴザルからな!

 

 

「お姉さん目ぇ回ってきちゃったわ~」

 

 

フンッ、そう油断を誘っても無駄でゴザル。まだ続けるでゴザル! まだまだ、まだまだまだ! そして――ここであれを使うでゴザル!

 

 

以前見たでゴザル。ここの定食屋にも、からくり壁があることを! それを使ってミミックが縦横無尽に動いていたところを!

 

 

今日のミミックは余裕こいて使っていないでゴザルが、拙者は有効活用してやるでゴザル! それを使って更に攪乱し、極まった瞬間に煙玉を投げるでゴザルッ!!!

 

 

そう、確かあそこでゴザル! 拙者が座っていた席の横の壁、そこにあるでゴザル! このまま入ってやるで――!

 

 

「ござぶへっ!?!?」

 

「えっ!? ちょっと!? なにしてるの!?」

 

 

か、壁に思いっきりぶつかってしまったでゴザルゥ…!? まさか、閉じているでゴザルか!? いやこの感覚、そもそもが……!? な、ならきっと天井でゴザ――!

 

 

「るぐふっ……!?」

 

 

て、天井にもないでゴザル…!? な、なら床!? それとも反対側の壁!? ど、何処に? 何処に!?

 

 

「さっきからどうしたの? それが作戦とかじゃないわよね…?」

 

 

ミミックが心配してきてるでゴザルが、そんなの気にしてる場合ではないでゴザル! おかしい、絶対この辺りにあったはずでゴザル…! じゃなければあの時のミミックの動きは……!

 

 

「もしかしてだけど、どんでん返しみたいなからくり壁探してる? この店には無いわよ?」

 

「…………なんで無いでゴザルかあっ!!!!!!?」

 

 

痛む顔や頭を抑えつつ、今回最大の物言いでゴザルゥッ!!! あまりの憤りに分身や忍犬達も戦闘態勢を解き、拙者の地団太に同調しだすほどの! なんででゴザルか!? なんででゴザルかあ!!?

 

 

「だ、だってこの狭さなら寧ろ邪魔になるもの。というかキミなら知ってると思ってたんだけど……」

 

 

それに対し、流石のミミックも少し困惑を見せるでゴザル! 拙者なら知ってるって、だからここにあると思って……! 思って…………。

 

 

「………………以前拙者の接客をした際、まるで消えたように他の席に行ったのは…?」

 

「普通に移動しただけよ。――あ、もしかしてお姉さんが凄すぎて、からくり壁で移動したみたいに見えちゃったの!? ふふふっ! もう、何その可愛い勘違い♡」

 

 

………………………………バ……バ……バ……バ……バ…バ…バババッ!

 

 

「バカにするなでゴザルッッッッ!! ど、どこまで拙者をおちょくるでゴザルかァアア!!」

 

 

もう良いでゴザル! もうどうでも良いでゴザルッ!!! 予定は狂ったでゴザルが、油断は誘えたでゴザル!! 

 

 

ミミックが笑い通しな今こそがチャンスでゴザルッ!! まさにこここそが堪え忍んで得た絶好の機! 一瞬の内に分身と忍犬達へ指示を念じ準備を! それと同時に懐へと手を滑り込ませて!

 

 

「ふふふっふふふっ! あら?」

 

 

フッ、もう遅いでゴザル! 既に取り出した煙玉は、床に向かって投げつけているでゴザル! 拙者のプライドの悉くを弄り尽くしたミミックめ、この煙に包まれた時には、拙者と分身達による回避不可能な飽和手裏剣攻撃で最期を迎え――――……っ?

 

 

!? 何故、分身達から手裏剣が飛んでこないんでゴザル!? 何故、忍犬達の唸り声すら消えたでゴザル!? ――って、なぁっ!!?

 

 

分身達が、忍犬達が、手裏剣によって一撃必殺されてるでゴザル!!? い、いやそれよりも、それよりも!

 

 

つい直前まで目の前にいたミミックは何処に行ったでゴザル!!? …ううん、ううん! それも違うでゴザル! そんなことより、どんなことより、何より!!

 

 

 

()()()()()()()()()んでゴザルか!!? どうして、店内を見通せているでゴザルか!!!? まさか、不発でゴザ――……

 

 

 

「うんうん! 善悪はおいといて、策自体は良得点! 煙玉を効果的に活かせる狭所へと誘い出し、手勢を呼び出し逃げ道を塞ぐ。そこでダメ押し的に煙幕を張り、四方八方からの飽和攻撃による制圧。現状に即した上策ね」

 

 

…っ! ミミックの声……! 何処でゴザル……!? 何処から聞こえてるでゴザル!? 天井にも、壁にも、机の下にもいないでゴザルぞ!?

 

 

「ただし幾つか指摘もあるわ。煙幕は自分の視界を覆う代物、故に敵の行動を追えなくなり逆に追い詰められる可能性もあるのに、それを考慮していない点。また、不意打ちでなければ効果は薄いのに、事前に堂々と準備を固め、目の前でわかりやすく煙玉を使用した点」

 

 

くっ…喋り続けてるでゴザル…! この声は……下から!? でも床にも……なっ!? か、身体が……動かないでゴザル!?

 

 

まるで何かに縛られているように……拙者の真下から伸びてきてる触手に縛られてるよう……じゃないでゴザル!? 本当に身体が縛られて……まさか!!?

 

 

「そして――盗み出した煙玉に信を置き過ぎている点。場当たり的に用意したものだと、本当に機能するのかわからないわよ?」

 

 

――――っっっっっ!!?!?!? そんな……そんなの、アリなわけないでゴザル! そんな、そんな無茶、通る訳ないでゴザル!!

 

 

 

 

なんでミミック、()()()()()()()()()()()()から、身体を出してるでゴザルッ!!!!!?

 

 

 

 

いやどうなってるでゴザルか!?!? 手の内に容易く収まるサイズの煙玉が少しだけ割れ、そこから奇天烈にミミックが上半身を出し、触手で拙者を雁字搦めにしてるんでゴザル!!

 

 

「即ち、警戒不足! 策にのめり込んじゃったが故に、こうして縛られたのよ!」

 

「いや警戒不足、じゃないでゴザル! こんなの予測出来る訳ないでゴザル! ミミックが入ってるなんてわかるわけないでゴザル!」

 

「ふふふふっ、まあそれはそうね。でも煙が出ない、味方が全滅させられてると気づいた瞬間には即座に別の策に移行しないと」

 

 

んぐぅ…! 拙者を縛りあげたまま、床に寝っ転がる形で説教をかましてくるでゴザル……! だ、大体――!

 

 

「いつから煙玉の中にいたんでゴザルか!? ずっとでゴザルか!? さっきまで拙者が戦っていたのは分身だったでゴザルか!!?」

 

「いいえ~? お姉さんがこれに入ったのは、キミが床へと投げつけて地面に着くまでの間よ。キミ、安心して視界を正面に向けたでしょう? その時にね」

 

「なっ……一瞬ってレベルじゃないでゴザルぞ……!?」

 

「お姉さん、ミミックで忍者だもの♡ あ、この煙玉の代金はお姉さんの奢りだから安心してね」

 

 

つぅ……! 縛られてから薄々気が付いていたでゴザルが……やっぱり泳がされてただけだったでゴザル…! 拙者がどんなことをするか、見守られていただけでゴザル……! なんという……屈辱……。

 

 

「もう良いでゴザル……! いっそのこと殺すでゴザル……!」

 

「あらら、心折れちゃった? へこたれないのはキミの良いトコなのに」

 

「っ…! そうしたのはっ……もう良いでゴザル……」

 

 

もはや言い返す気力も無いでゴザル……。折角組み立てていた策を、こうも奇天烈に粉々にされれば……。大体……。

 

 

「なんだって拙者をこうも痛めつけるでゴザルか…。なんでミミックなんでゴザルか……。他の指南役なら拙者の圧勝でとうに終わって……作って貰った弁当を……」

 

 

つい先日のここでやりとりを思い返し、力が抜けていくでゴザル……。試験の合格を確信し、祝いの弁当をミミックに作って貰ったというのに……。今やそのミミックが目の前にいて、こうも拙者を縛り上げてるなんて……。

 

 

「――そうねぇ。なんでキミの試験、わざわざお姉さんが担当してるかわかる?」

 

 

ぇ……? ミミック、拘束を解いて……? 煙玉から出て、へたり込む拙者の視線に合わせるようにしてきたでゴザル……。

 

 

「これでもお姉さん、ここに派遣されてるミミックの中では一番強いのよ? というか社長から教官役も任されてたし。なんて言ってもわからないか!」

 

 

てへっとミスを誤魔化したミミックはコホンと咳払い。そして――定食屋の時のような声でも指南中の声でもなく、何処か染み入るような、つい姉さんとでも呼びたくなるような優しき声で語り掛けてきたでゴザル…。

 

 

「実はね、キミの担当を任されるにあたって、手練れ中の手練れな先生チームと勝負をしたの。お姉さんは一人で、ミミック技…もとい忍び技だけを使えて――且つ、一撃たりとも食らわない条件でね」

 

 

っ! それは、拙者の試験の合格条件……! 息を呑む拙者へ、流石に危ない所だったわと肩を竦めて見せるミミック。そして拙者の鼻をつん、と突き……。

 

 

「つまりね、お姉さんは皆にキミのことを託されたのよ。先生達を超え次世代を率いる、忍びの里の英雄になり得るキミをね」

 

「託され……英雄……」

 

「そ。さっきも言ったでしょう? ただでさえキミ、忍術の腕は申し分ないんだもの。そんなキミが忍び技をマスター出来ればそりゃあもう最強になれるわ。あとそれと、魔力の節制と用意周到さと心の余裕と思考力と警戒力と篤実な性格と他色々を身につければ超・最強に――」

 

「多いでゴザルな!?」

 

 

ついツッコむと、ミミックは笑いながら跳ね下がって…消えたでゴザル。そして、厨房の奥から声が。

 

 

「ま、キミが嫌がるならこれ以上の無理強いはしないわ。けど残念ねぇ、ここで尻尾を巻いて逃げるなんて、お姉さん達の見込み違いだったかしら?」

 

 

言い終わると同時に再度姿を現したミミックは、拙者の眼前に出来立てのおむすびの入った包みを突きつけてきたでゴザル。これを持って去れ、ってことなので……ゴザル……が……。

 

 

「……だから」

 

「ん~?」

 

「だから、拙者を愚弄するなでゴザルッッッ!」

 

 

勢いよく手を伸ばし、そのおむすびを奪い取るでゴザル! そして、その場で貪り食ってやるでゴザル!!

 

 

ひゃへがあひらめるほ(誰が諦めると)!? んぐっ、ごくんっ! あぁもう、具まで拙者の好みの…! と、とにかく、さっきまでのは同情を誘う罠でゴザル! こうして栄養補給をさせるとは、失策でゴザルなぁ!」

 

 

立ち上がり、嘲笑うように光手裏剣を投げてやるでゴザル! ミミックはふふふっと微笑みながらそれを容易く回避して――!

 

 

「安心して! 忍びの技を体得すれば、さっき言ったほとんどは自ずと身につくわ! それじゃ、難関超えてゴールの赤ボタン押すまで突っ走りましょ~う!」

 

 

そのまま店を飛び出していったでゴザル! このっ……良いでゴザル!! もうとことんまで食らいついてやるでゴザルからなッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ここからだと良く見えるわ。皆だいぶ登校してきたわねぇ。あ、そうそう。キミの大技で荒れた校庭は他の先生方が直してくれたから。何も気にしなくて良いわよ?」

 

 

…………………………。

 

 

「他の受験生徒はと。いつもお店に来てくれる二人は合格した上に、時間ギリギリまで修行つけて貰ってたみたいね。あと男の子2女の子1の三人組は、よく顔岩落書きしてる男の子1人が不合格っぽいわ」

 

 

……………………………………。

 

 

「さ、キミはどうなるかしら? 試験時間残り数分、そろそろ本当に最後よ」

 

 

…………………………………………話しかけてくるなでゴザル……。その気力が無いでゴザル……。地面に突っ伏し倒れてるにそんな体力残ってるとでも思ってるでゴザルか……?

 

 

スパルタにも程があるでゴザル……。定食屋を飛び出てから学園裏の森へと連れられ、今の今まで先の戦いが可愛く見えるようなしごきを受けたでゴザル……。このまま死にそうでゴザル……。やっぱりあの時帰れば良かったかもしれないでゴザル……。

 

 

「ふふ、今日はよく頑張ったものね。お開きにしましょうか。まあ条件未達成だから合格には出来ないけれど、せめてゆっくりお弁当味わって。野菜も茸も入れてない、キミだけの特製お疲れ様お弁当なんだから」

 

 

指ひとつ動かせない拙者の頭を、ミミックは撫でてくるでゴザル……。やっと終わるでゴザルか……。やっと帰ってミミックの作ってくれた弁当を……――。

 

 

「――いや……まだでゴザルッ…!!」

 

 

力を振り絞り、立ち上がるでゴザル……っ! これで…終わってはいられないでゴザル……っ! このまま、やられっぱなしで終わる訳にはいかないでゴザル!

 

 

ミミックに吠え面をかかせる――その目的を果たしていないでゴザル! そうでなくともこのまま何も出来ず終わったら、折角の弁当が美味しく食べられないでゴザルッ!!

 

 

息を、息を整えるでゴザル……! ついさっき習ったばかり忍び技で……! 立ち方も、腹への力を入れ方も、腕の構え方も、目の据え方も! よし……まだ……まだ……おかげで、なんとか……!

 

 

そして…忍びの技の修行だったからか…忍術の源には余裕が残っているでゴザル…! これで、これで――!

 

 

 

「最後の勝負でゴザルッッッ!」

 

 

 

ガクガクする身体を忍び技で支え、覚悟を決め、ミミックにそう宣言してやるでゴザル! うぐっ……幾ら忍び技で補助しても視界が揺れるでゴザル……倒れそうでゴザル……けど、これは拙者の意地でゴザル!!

 

 

「ふふふふ…! えぇ、受けて立ちましょう。何処からでもかかってらっしゃいッ!」

 

 

フッ……! 有難いでゴザル……! ミミックも構えてくれたでゴザル……! しかも、その場で。もし先程までのように跳ね回られたら流石に手の施しようがなかったでゴザルからな……!

 

 

フ…フフフッ……! 敢えて言うでゴザル……! ミミックめ、その油断が命取りになるでゴザルぞ!

 

 

「いざッ! 忍犬口寄せの術! 真・分身の術ッ!」

 

 

手始めに印を結ぶのは、定食屋でも使ったこのコンボでゴザル! ……忍び技を学んだせいか、疲弊している手でも正確に印を結べたでゴザルな…。それどころか今までよりも早く多くすら。これであれば他の忍術も……! 成果、見せてやるでゴザル!

 

 

「陣形を取るでゴザル!」

 

「あら、また? 煙玉が無くなった今、どうする気かしら?」

 

 

ミミックを包囲する形で展開し、準備完了でゴザル。良いでゴザル…! まだ油断してくれているでゴザル…! ――今でゴザル!

 

 

「かかれッ!」

 

「「「「「ヴォフッ!」」」」」

 

 

全く通じなかった策を二度続けてやるわけないでゴザル! 忍犬達と分身達を一斉に突撃させて、蹂躙するでゴザル! ミミックはすぐにそれを始末するために動こうと――――更に、今ッ!

 

 

 

「必殺ッ! 『地爆大噴火の術』ッ!」

 

 

 

 

 ―――ドッッッッッッッゴッッッッッッッッッァッッ!!!!!

 

 

 

 

「おおおおお~っ!?」

 

 

どうでゴザルか! これこそは地中へと忍術を流し、励起させ、大爆破を起こす拙者の切り札がひとつ! 極悪殲滅大大大大(だいだいだいおお)竜巻ほどの広範囲破壊力は持っていないでゴザルが、それでも土を、泥を、落ち葉を、茸を、折れ枝を、茂みを、石を、岩を、忍犬を、拙者の分身を、木々を根ごと、その場の悉くをまるで噴火如く、空へと高く噴き上げる技でゴザルッ! 

 

 

「危ない危ない、まだこんな忍術持ってたのね!」

 

 

ミミックもそれに巻き込まれ…いや合わせるように跳ねあがって回避しながら、砂の一片に至るまでを打ち払いつつ感心した声を上げるでゴザル。フッ……そりゃあ、拙者は切り札の忍術を全て披露した訳じゃないでゴザルからな……。

 

 

なにせほとんどしてやられていたでゴザルし、忍術の源は枯渇させられていたでゴザルし、町中にも連れてこられてたでゴザル。ただ単に撃とうにも不可能だっただけでゴザル。

 

 

しかしそのおかげで、こうして奥の手として放てたのでゴザル! ――大して効いてない? フン、予想通り、作戦通りでゴザル! あのミミックがこの程度で攻撃を食らう訳ないでゴザル。そしてこの奥の手すらもが、ミスリードでゴザルッ!

 

 

「ピュウッ♪ 成程ね、ここで攻めてくるのね。考えたわねぇ!」

 

 

どうでゴザルか! 忍犬達と分身達が既に彼女を包囲しているでゴザル! 彼らは噴き上げられたのではないでゴザル。ミミックと同じように、否、ミミックを迎撃するために、先んじて空中へと跳んでいたのでゴザル!

 

 

そして学んだ忍び技で空中の岩や木、果ては小石や枝を足場に蹴り進み、一気に肉薄! 総員がかりの三次元戦闘で叩き潰――!

 

 

「でもそう簡単にはやられないわよ~!」

 

 

されたでゴザルか…! あれだけ居た忍犬も分身も、瞬きの間に薙ぎ払われてしまったでゴザル…! だが――それもまた……うぷっ……搦め手でゴザル……!

 

 

「まあ! いつの間に! 意趣返しね!」

 

 

忍び技のおかげで…間に合ったでゴザルぞ! 未だ宙を浮かぶミミックを包むのは……住宅街での戦闘時にやられた、箱の形を象るように展開する大量の光手裏剣! わざわざ忍犬や分身を突撃させたのは、その場に釘付けにさせ捕らえるためでゴザル!

 

 

しかもこれは、定食屋でやろうとしていた数ミリの隙間すらない密度の飽和攻撃でもあるでゴザル…! 外から見たからまさに宙に浮かぶ光る箱に閉じ込められているように見えるでゴザル…!

 

 

これならば逃げることは不可能……ぐっ…おかげで忍術の源が、もう……だが……さあ! あの時とあの時、ビビらされた仕返しをその身に食ら――!

 

 

「っとっとっと! これは、中々!」

 

 

わないでゴザルな…! 今しがた砂の一片をも打ち払ったミミックでゴザル……これぐらいやってのけるのは――想定内でゴザルッ!

 

 

「火遁ッ! 奥義『火の鳥(フェニックス)』ッッ!」

 

 

「わぉっ!?」

 

 

全ての手裏剣が払われる前に…その全てを呑み込むように…ミミック直下より襲い来るは……あの業炎の巨鳥! 分身の一人が地に残り、燃やし尽くさんと放った大技でゴザル! 

 

 

それがたとえ…うっ……紙一重で回避され…同時に投げつけられた手裏剣で……ぐっ……その分身がやられても――これこそは…有利な領域を作り出す布石でゴザルッ!

 

 

「――っ! そうきたか!」

 

 

今更気づいても……遅いでゴザル! 先の召喚時…忍犬一匹と分身一人を忍び技によって木陰に潜ませておいたのでゴザル…! そして…地爆大噴火から始まる一連の猛攻を隠れ蓑に木を登り…機を待っていたでゴザル……!

 

 

そしてこの瞬間…回避行動により……多少の身動きが取れなくなった…この刹那の機を狙い…! ……忍術の源が…枯渇……視界が……身体が……くっ! 分身達は、まるでミミックが仕掛ける手裏剣罠の如く放たれ、必殺の、波状攻撃を――ッッ!

 

 

「実に見事よ。その潜ませ方。そして……キミの潜み方も!」

 

 

がっ……あっ……! 空中且つ回避直後という…超絶不安定な状態からも…忍犬を捌き…分身を捌き――その背に隠れていた、トカゲドラゴン姿の拙者をも……っ!! この…この…『そんなまさか』を――……

 

 

 

「はぁ……本当キミ、見違…………えっ!?」

 

 

 

信じてくれて……感謝するでゴザルぞ、ミミックっ!! 今吹き飛ばしたトカゲドラゴンは…拙者であって拙者ではないゴザル! それは……更に潜ませていた、分身! 分身による……変化の術でゴザルッ!

 

 

「何処に…!?」

 

 

ッ……フ…フフ……今にも……忍術の源不足で…気を失いそうで…ゴザルが……。その……顔で……。

 

 

拙者の見たかった顔とは程遠いで……ゴザルが……ミミックのその顔で……僅かな焦りを含んだその顔で――。

 

 

耐え忍んで得たこの絶好の機に、満身創痍の身に塵ほど残った気力を注ぐことが出来たでゴザルッ! 変化、解除ッッ!

 

 

「――っ! 茸……!? キミ……!」

 

 

ようやくこっちに……頭上に気づいたでゴザルな! 最初から拙者は此処に居たでゴザル! 拙者の術によってミミックと共に巻き上がった数多の物。そのうちがひとつ、拙者の嫌いな()に変化して、ずっと宙に噴き飛んでいたのでゴザル!

 

 

本当に……本当に……忍び技を教えてくれた感謝するでゴザル! 忍び技を学んでいなければ、茸変化という今初めての試みが失敗に終わっていただけでなく……この発想すら生まれていなかったでゴザル!

 

 

気配を消し景色の一部に溶け込むように、まるで初めからそこにあったかのように振舞い――。自分の有利な領域に相手を誘導しミスリードで油断させ――。『そんなまさか』を 利用し――。相手のあらゆる行動を予測し――ここまで迫ったでゴザル!

 

 

そしてこれこそ、正真正銘最後の一撃でゴザル! 外れる装甲パーツをもぎ取って握り……その身に突き立ててやるで――!

 

 

「まずっ…やッ……くッ……!!!」

 

 

「ゴザルッッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ゴォオオオォオン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………試験終了の……始業の鐘が鳴ったでゴザルな……。そして、周囲に木や石や土がドサドサと落ちてくる音も聞こえてきたでゴザル……。さっきまでそんなの聞こえなかったのに……。

 

 

きっと、緊張の糸が切れたからでゴザルな……。それもそうでゴザル……。決着はついたのでゴザルから……。

 

 

拙者の体重を乗せた最後の一撃と、今や眼前に戻った地面。その間には――ミミックが挟まれているでゴザル。ただし彼女は……。

 

 

「っあっぶなぁ……!」

 

 

一撃をクナイで受け止めつつ、拙者が地面へ叩きつけられないよう支え守ってくれたのでゴザル……。フッ……流石ミミックでゴザル。やはり――。

 

 

「駄目だったで…ゴザル……な……」

 

 

彼女の上からごろりと転がり落ちるように、拙者は地面へと倒れるでゴザル……。指一本動かせないでゴザル……。もう忍術の源は完全に尽きたでゴザル……。なにせだからこそ、装甲パーツを武器代わりにしたんでゴザルもの……。

 

 

どんな時でも余力を残しておく――。それを失敗しなければ、手裏剣の一つでも作り出せれば……いや、持ってきていれば……もしかしたら……。いや、そんなのはもう良いでゴザル。過ぎたことは仕方ないでゴザルし、何より、嗚呼……。

 

 

空が……晴れやかでゴザルなぁ……。忍術の源不足で視界がぼやけて良くは見えないでゴザルが、それはわかるでゴザル……。だって拙者の心も……似ているでゴザルから……。体力を忍術を思考力を気力を…全てを出し尽くし、やりきった結果でゴザルから……。

 

 

ん……? ミミックが拙者を覗き込んできたでゴザルな……。 視界がぼやけすぎてどんな顔をしているかよくわからないでゴザルが……結局、一撃たりとも与えられなかったでゴザル。好きなだけ不合格の宣告をするがいいで……――。

 

 

「キャ……」

 

 

きゃ……?

 

 

「キャーッ♡♡♡ すごいすごい! 凄すぎるわキミ!! お姉さん、超超超感激っ!!!」

 

 

は……!? ちょっ……何を……!? 動けない拙者を抱き上げて、抱きしめて……!? や、やめ……!

 

 

「あ、まずはこれあげないとか! は~い召し上がれ~♡」

 

 

むぐっ……!? 口の中に何か入れられたでゴザル……! これは……忍力丸薬…? そして身体を引かれ……膝枕されてるでゴザルか……!?

 

 

「ゆっくりでいいから、しっかりと咀嚼してね。そうそう、それで良いわ」

 

 

それでなんで頭を撫で擦ってきてるでゴザル…!? 色々言いたいことはあるでゴザルが、今は言葉すらまともに出せないでゴザル。ただ口の中に入れられた忍力丸薬を噛んで飲み込むことしか……んぐ、ふぅ。

 

 

効いてきたようでゴザル。視界が定まってきたでゴザル。って、うわ…! ミミック、すっごいご満悦で興奮した様子の顔してるでゴザル!?

 

 

「な……何でゴザルかその顔は……!? 敗者への労いのつもりでゴザルか……!?」

 

 

疲れ果てた身体を無理やりに起こし、膝枕から離脱し向き直るでゴザ――ぶふっ!?

 

 

「キミすご~いっ!!! たった一晩であんなに動けるようになるなんて!!! ここまで成長してくれるなんて!!! お姉さんとってもびっくり!!! よく頑張ったわ!!!」

 

 

み、ミミックの豊満な胸にむぎゅッとむにゅんと抱きしめられたでゴザル!? や、柔……! み、密着して良い香りが……! は、放れ…させてくれないでゴザル!? 良い子良い子するなでゴザル!!?

 

 

「スパルタだったし、ちょっと苛め過ぎかなと思ってたけど……本当、良くついて来てくれたわ!」

 

「むぶ……ぷはっ! や、やっぱり拙者を苛めてたでゴザルか!?」

 

「うふふ☆ でもああでもしないとキミ、話すら聞いてくれなかったでしょう?」

 

 

うぐっ……それは……そうだったかもしれないでゴザルが……。って、ミミック、今度は背中も優しく撫でてきたでゴザル……!

 

 

「でもそんなだったキミが、教えたばっかりの忍び技をあんなに駆使して、ここまでお姉さんを追い詰めてくれるなんてねぇ~! 格好良かったわよ~冷や汗かいちゃったもの!」

 

「あ……あそこまでは忍び技を使うのは、強敵を相手どる時だけにするでゴザルからな…!」

 

「えぇ良いの良いの今はそれで! 言う事を聞いてくれて、有用性を理解してくれて、学んでくれて、実践してくれたんだもの! 見違えるほどの大大大大成長なんだから!!」

 

 

むぶふっ!? またぎゅうっと抱きしめられたでゴザル! は、早く解放するでゴザル!! 拙者も変な汗をかきだして……! 早く離れないとそれがバレてしまうでゴザル……!

 

 

なのにミミックは、まるで良い事をした子供を褒めて甘えさせるかの如く寧ろ抱擁を強めていくでゴザル…!? もう良いでゴザルからぁ……! これ以上拙者のプライドを崩すなでゴザル……放せで……ゴザルッ!

 

 

「あら、もっとギュッてしてたかったのに。忍び技使ってまで逃げなくとも良いじゃないの」

 

 

ミミックの胸の中から逃れると、彼女はちょっと不満そうにしたでゴザル……。が、すぐに顔を微笑ませたでゴザル。

 

 

「でも今のも見事ねぇ。これならキミも、いずれ凄腕ミミックになれちゃうかも!」

 

「いや拙者忍者でゴザルが!? 箱の中に入る気はないでゴザルぞ!」

 

「ふふっ、勿論冗談よ。でも、箱の中に隠れられる技は覚えといても損ないわよ。『そんなまさか』なんだから」

 

「いや無理でゴザル……。その箱にすら入れる気がしないでゴザル」

 

「あら、忍者なんだしコツ掴めば簡単簡単! おいで、教えたげる!」

 

 

はっちょっ!? 触手で捕らえられたでゴザル!? 引っぱられるでゴザル!? 抜け出せないでゴザル!!?

 

 

「ズボっと! ほらほら、暴れないの」

 

 

そしてあれよの間に羽交い締めにされ、そのまま箱の中に入れられたでゴザル!? っぁ…! 背、背に……! さっきまで拙者の顔を挟んでいたミミックの…豊満な胸が……背中にふにゅんと押し付けられて……。待っ…!

 

 

「ミミックじゃないから身体の柔軟性はこれぐらいかしら。ほらこうやって。お姉さんに沿ってみて」

 

 

ひぅぁっ…!? み、耳元で囁くなでゴザルぅ……! 息が……生暖かい息が……耳に……! 首筋にも……!

 

 

「違うわ、そっちじゃなくてこうよ、こう。もっと足を絡めてみて、ね? もっとよ、もっと巻きつくように…もっとぎゅっとよ……そう、良いわ。もっと激しく……♡」

 

 

ひ……ぁ……! せ、背中に…腕に…足に……ミミックの身体が密着して……擦りあって……! 拙者もミミックも揃ってぴっちりとしたボディースーツを着てるせいで……むにゅんと…ふにゅんと…ぺったりと…しっとりと……! も……も……もうダメでゴザル!

 

 

「あ、駄目よ逃げちゃ。もう少しなんだから」

 

 

なぁっ!? 触手で全身巻き取られたでゴザル!? しかもミミックの身体に縫い付けられたかのように……! ひぐっ…!? ミミックが拙者の位置を調整するたびに、その身体がしゅりしゅりと擦りつけられて……! 触手がにゅるんと這って、縄のように身へぐちりと食い込んで……! 

 

 

これマズいでゴザル……ヤバいでゴザルッ!!! 拙者、食べられ……っ……!

 

 

「――その辺で一旦止めてやってくれんかの?」

 

 

「あら!」

「里長様…!?」

 

 

 

 

 

あわや意識を持っていかれかけていたところに現れたのは、里長様でゴザル! 何故ここに!? うわっ! ミミックが身を乗り出したでゴザル! 

 

 

「里長様! この子とっ~っても立派になりましたよ! 忍び技も大分覚えてくれましたし、ちょっと丸くなりましたし! 最後仕掛けて来た時なんか、嫌いな茸に変化までしちゃって!」

 

 

「ふぁっふぁっふぁっ。見ておったとも。よく頑張ったの。そしてよく責務を果たしてくれた」

 

 

拙者とミミックを順に労う里長様。と、再度拙者に苦笑いじみた目を向け――。

 

 

「その分熾烈な修行で疲れておることだろう。箱隠れの指南は次の機会にでも、な」

 

「あ、それもそうですね。つい嬉しくなってしまいまして…!」

 

 

ミミックに指示を! よ、ようやく解放されたでゴザル……! はぁ……色んな意味で死ぬかと思ったでゴザル……。

 

 

「ところで里長様。何故こちらに?」

 

 

拙者が忍び技で動悸を抑えている間に、ミミックはそう問うでゴザル。すると、里長様は表情を苦しいものへと……?

 

 

「それがのぅ……。まあ……怒りが収まらない者がおっての……。少々、あおりを受けてしもうてな……」

 

 

「――もしや、校庭の一件ですか!? それとも見回りの…? いえ、忍具屋…? それとも今しがたの…!」

 

 

拙者の暴れた痕を挙げつつ、拙者の前に進み出るミミック…! しかし里長様は首を横に振ったでゴザル?

 

 

「いやいや。それら全ては某が容認しておった。それに見回りや忍具屋は、立つ鳥跡を濁さずで元通りにしてくれた。故に、何も問題はない――」

 

 

そこで何故か里長様は口ごもったでゴザル。しかし何かの圧に負けたように、渋々口を開いたでゴザル……。

 

 

「と言いたいところだったがの……いやまあ、某にも責任の一端はある訳でな……だから、あまり、な……?」

 

 

……誰に話しかけているでゴザル? ミミックや拙者ではないのは確かでゴザル。というより、ミミックも里長様も、それが何処にいるのかまでは掴めていない様子でゴザルが……。

 

 

「うむ…。もはや詮無し。――校庭についてでござる。あの破壊痕は某らが直したがの……。その端に、な…? もっと口を酸っぱく忠告しておくべきだったのぅ……」

 

 

なんだかすっごく回りくどいせいで、何が言いたいかよくわからないでゴザル……ん!?

 

 

「っあ!? やっ……やっちゃい……ましたか……?」

 

「うむ……」

 

 

ミミックは何かに気づいたようでゴザル……! その慄きは拙者が見たかった顔の何倍も恐怖に歪んでいるでゴザル……! 

 

 

あの彼女をそこまで竦みあがらせるとは何事でゴザルか…!? 校庭の端? 確かそこにあったのは――ッハ!?  ヒッ!?

 

 

な、何もなかった里長様の背後に……業炎の如き憤怒のオーラが、突然現れたでゴザル!? こ、これ……間違いないでゴザル!

 

 

校庭の端にあったのは……()()()()()っ! つまり……怒りが収まらない者とは――!

 

 

「アンタたちィイイ……!」

 

 

「「しょ、食堂の……おばちゃん!!!」」

 

 

 

 

「まあ要は……竜巻が食堂管理の菜園をも巻き込み、更地にしてしもうたという訳で、な……。だから、もっと強固な保護忍術をかけておかなかった某の責任でもあるがの……」

 

 

すすす……と横にずれ、食堂のおばちゃんに道を譲る里長様。そして――。

 

 

「……御免!」

 

 

あっ!? 消えたでゴザル! 逃げたでゴザルぞ里長様!? 卑怯でゴザル! 卑劣でゴザル! なんて――!

 

 

「アンタだねェ? うちらの菜園、滅茶苦茶にしてくれたのはァ…!」

 

 

ヒィッ!? 食堂のおばちゃん、もはや激昂した瞳だけが輝く、漆黒なシルエットにしか見えないでゴザル!? ガチ怒りでゴザル!! 

 

 

た、確かに拙者の極悪殲滅大大大大(だいだいだいおお)竜巻が無差別に壊した結果でゴザルが……いや拙者が百パーセント悪いでゴザルが! た、助け――!

 

 

「ここはお姉さんに任せて早く逃げなさい!」

 

 

……っ……あっ……! ミミックが……拙者を庇うように立ち……拙者を逃がすように背で押してきたでゴザル……! だ、だ、だけど……もう……身体が……。

 

 

「っ! その力もないのね……! なら…一緒に逃げるわよ!」

 

 

わっ……!? また箱の中に連れ込まれたでゴザル……! そして先程以上にギュウッと抱き留められて……! 蓋も閉じたでゴザ――!

 

 

 

「逃げようとするなら……許しまへんでェッッ!!」

 

 

「「いったぁああああああっ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――大体、まずは謝んなさい! 逃げようとするからこっちも拳骨出すのよッ!」

 

「「仰る通りです……。つい……」」

 

「全く……。明日以降、菜園直すの手伝って貰うからね。わかったら返事ィ!」

 

「「はい…っ!」」

 

 

正座した拙者達の返事を聞き、食堂のおばちゃんはプリプリしながら帰っていくでゴザル……。最後の最後でなんという……うむ……。

 

 

「いたた……。社長の言ってた通り、痛みだけ箱貫通してくるなんて……。私の修行不足……? いやそれもあるんだろうけど……あれ、そんな簡単なものじゃ……」

 

 

ふと横を見ると、ミミックがふらついているでゴザル。確かに蓋がしっかり閉じられたのに、拳骨を食らった痛みが頭に走ったでゴザル……。そして、拙者は一撃たりとも当てられなかった箱に攻撃を食らわせるなんて……食堂のおばちゃん、恐ろしいでゴザル……。

 

 

…………それと。

 

 

「その……庇ってくれて感謝するでゴザル……。拙者は……」

 

「ん~? もしかして野菜茸お残し常習犯として密告されるかと思ってた?」

 

「そ、そんなことする気だったでゴザルか!?」

 

「ふふふっ、冗談! それで、なぁに? 何か心に決めたような感じだったけど?」

 

「相変わらず拙者を弄ってくるでゴザルな……。まあ……良いでゴザル。――さっきああは言ったでゴザルが、今後も色々と忍び技は使っていくでゴザル」

 

「あら!」

 

「か、勘違いするなでゴザル! 忍び技の有用性及び大技の弊害に気づかされたのと、体得しなければ再試でまたしてやられるだけゴザルからな!」

 

「えぇ、それが良いわ! それでそれで?」

 

「ぐっ……この、見透かしたように……! まあだから……今後もその……指南を……」

 

「ふふふっ、喜んで! じゃあついでに、野菜と茸、克服できるように特訓する?」

 

「! そ、それは……」

 

「大丈夫よ、そっちはスパルタしないから。まずは食べやすい料理から、ね?」

 

「ぅ……わかったでゴザ――」

 

「じゃあ早速ね! お弁当取りに帰ってお店に行きましょう! おんぶしたげる♡」

 

 

「――ドロンでゴザルッ!」

 

 

「あ! もう、忍び技で逃げ足早くなっちゃったわねぇ。 ――ま、その疲弊した身でお姉さんから逃げられるとでも? 待て待て~☆」

 

 

「だぁあっッ!! こんな時まで手裏剣投げてくるなでゴザルゥッッッ!!!」

 

 

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